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第100話 女吸血鬼と復興(70%)
第6章最終話です。無事、本編100ピッタリで終わりました。
累計150話おめでとうコメントよりも、本編100話でコメントが欲しいです(図々しい)。
「さて、邪魔者はいなくなったことだし、話の続きをしようじゃないか」
気絶した『町のゴロツキA』が野次馬たちに連行されていくのを横目に、ラティナが再び俺達に話しかけてきた。
「私達が勝った時のメリットは、お金と貴方の身体と言う話ですね?身体の方は要相談ですけど……」
「そうだ。それでも足りないか?なら、現金以外の私の全財産も付けよう。旅の中で色々と手に入れているからな。それなりの値打ちの物もあるはずだ」
「……わかりました。この私、マリアがその決闘の相手になります」
打ち合わせ通り、マリアが決闘を受ける旨を伝えた。
しかし、ラティナは怪訝な顔をしてマリアを値踏みする。
「君が相手だと? ……それは何の冗談だ。先程の戦いを見ていなかったのか?」
「見ていましたが、貴女程度ならばご主人様が相手をするまでもありません。私にも勝てないような人には、ご主人様と戦う資格などありませんので」
「主人……。つまり奴隷と言う事か……」
マリアが俺の奴隷であると判断したラティナは、俺の方を咎めるような目で見てくる。
「貴殿は恥ずかしくないのか!?この幼い少女に決闘の代理人のような真似をさせて!」
凄いマトモなセリフだと思う。
ただ、残念なことにその発言をした者が、直前に金と自身の貞操を賭けて決闘を申し込んできているせいか、全く心に響かないのだ。
そして、俺のことを糾弾したラティナに対し、マリアの怒りのボルテージが上がる。
「いや、全然……。文句があるなら、戦わなくても構わないぞ」
「くっ、強情な……。ならばこの少女を倒したら、次は貴殿が戦うのだな……?」
それでもラティナに「戦わない」という選択肢は無いようだ。
なお、基本的に俺は自身が戦う事を優先させるので、今回のように俺の代わりにマリアが戦うというのはかなりのレアケースである。いつもなら相手してあげるんだけどね。
そして、自身を無視して俺へと敵意を向けるラティナに対し、マリアの怒りのボルテージが上がる。
「ああ、いいぞ。マリアを倒せたらその次は俺が相手になろう」
「その言葉、忘れるなよ……。出来るだけ、傷つけずに下すしかないか……」
そんなラティナと俺のやりとりを見て、ミオが「知らないって、幸せよね……」と呟いたのが、やけに印象的だった。
流石に市場で戦う訳にもいかないので、俺達はラティナを引き連れてアキンドの町を出る。街道沿いにしばらく歩き、川の近くの草原へと向かう。
市場で一連の騒ぎを見ていた野次馬がついてきそうだったので、軽く威圧したら蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「さて、この辺りなら問題はないだろう。それでラティナ、決闘のルールは?」
「ルールも何も、1対1と言うこと以外には何もないな。魔法有り、武器も有りだ。尤も、私はそのどちらも使えないのだがな」
態々魔法と武器が使えないことを言っちゃうんだね。
こんなあっさり言われると、罠か何かを疑いたくなるのだが、武器スキルも魔法スキルも無いのは事実である。そして輝く<格闘術>スキル。
「そして、勝敗は気絶、死亡、降参のどれかで決まる。もしも、決闘で私が死んだ時は、金や荷物は勝手に持って行ってくれ。アイテムボックスに入れてあるから。ただ、その場合は私の身体は諦めてもらう他ないな」
そう言って持っていたアイテムボックスを近くの木の根元に向けて投げる。
これから命がけの戦いをするというのに、全く気負った様子がない。戦い、強くなることが目的で、それの道中でなら死んでも構わないとすら思っているようだった。
ただ、「死んだ時は」と言うのは俺を見て言った言葉であり、マリア自体は敵だと思っていないようだ。
「マリア、それでいいか?」
「はい、構いません」
もちろん、マリアの方も気負った様子などどこにもないのだが……。
直後、マリアから念話が来た。折角なので全員で相談タイムだ。
《仁様、結局如何いたしますか?私としては気に食わない部分もありますが、特に人間に対する悪意などは感じられませんでした》
《ご主人様の言う「真面目な戦闘狂」って感じよね》
《まじめー》
《そうだな。あれくらいなら殺さなくてもいいと思う》
《わかりました。殺さないように<手加減>を有効にしておきます》
『町のゴロツキA』ですら態々殺さないように手加減していたからな。
ただ、本気の決闘となるとどうかはわからない。多分、少なくない人数を手に掛けていると思う。
《ご主人様はテイムするつもりはないんですわよね?》
《少なくとも、ミラを人間に戻すまでは吸血鬼をテイムするつもりはないな》
《確かに、ミラさんも良い気はしないと思います……。無関係とわかっていても、吸血鬼と言うだけで……》
実は無関係ではないとなったら尚更だな。
《そうですわね。ある程度吹っ切れてはいるみたいですけど、吸血鬼が近くにいたら複雑な心境になるのは間違いないですわ》
《だから、今回は様子見かな。ミラの件が片付いたらテイムしたい気持ちもなくはない》
いずれはミラも人間に戻してやるつもりだし、そうなると配下の中に吸血鬼がいなくなってしまう。次の吸血鬼枠にキープしておきたい。
その発想もどうかと思うが……。
《仁様、他に何か気を付けることはありますか?》
《そうだな。いずれテイムするかもしれないから、心を折るなり何なりして、俺達の事を忘れられないようにしてくれ》
《わかりました》
そこまで話したところで念話を切る。
決闘の準備が出来たので、マリアとラティナを残して離れた所で決闘の行方を伺う。
2人は20mほど離れて向かい合っている。
「本当にやるのか?私は弱い者いじめは好きではないのだが……」
「くどいです。私に勝つ自信がないと言うのなら、素直に降参しても構わないですよ」
「……そこまで言われては、こちらも引く訳にはいくまい。手加減はしてやるが、痛い目に遭うのは覚悟してもらうぞ」
ラティナは半身になって拳を構える。
半身になることで正面からの攻撃範囲を狭めるという、武術の基礎にして極意のようなものだ。
前に構えた拳は、牽制にも防御にも使えるように軽く握られている。
構えを見ただけで実力者であることがわかる。重心が安定しており、これを崩すのは並の武道家では不可能だろう。
「好きにかかってくると良い。せめてもの情けだ。先の一手はそちらに譲ってやろう」
「では、遠慮なく」
-ドス!-
「ぐっぴいっ!!!」
次の瞬間には、<縮地法>と<身体強化>された脚力を併用して一瞬で距離を詰めたマリアが、ラティナにいい感じの腹パンを決めた。
くしくも、先程『町のゴロツキA』に対してラティナが決めたことの焼き直しとなってしまった。いや、理解した上でマリアはそれを選択したのかもしれないな。
残念ながら、マリアは並の武道家ではない。人並み外れた勇者なのだ。武術の極意など、圧倒的なステータスと戦闘センスで簡単に覆ってしまう。
しかし、驚くべきことにラティナは崩れ落ちてはいなかった。
腹を押さえて美人らしからぬ苦悶の表情をしているし、内股になってガクガク生まれたての子鹿のように震えているが、それでも崩れ落ちてはいなかった。
「ぐおっ……。ぐえっ……」
ラティナは嗚咽を堪えながら何か言おうとしているが、全く言葉になっていない。
しばらく様子を見ていると、ラティナのドレスの股間部分に濡れたようなシミが広がる。どうやら、色々と駄目だったようだ。
「もうお終いですか。あまりにも手応えがなかったのですけど……」
「ぐぎゅっ……。うえっぷ……。ま、まだだ……。うげっ……。まだ、わ、私は負けていない……」
その言葉に嘘はないようで、ラティナの目からは闘志が消えていなかった。
「こ、今度はこちらから行かせてもらうぞ……!はあっ!」
何とか気力を振り絞って構え直したラティナが、マリアに向けて<縮地法>で接近して正拳突きを繰り出す。
<縮地法>のことを熟知しているマリアは、ラティナの出現地点を予測していたようで、簡単にその拳を避ける。
「遅いです」
「ならばこれでどうだ!」
ラティナは同じく<縮地法>を使い、先ほど以上に接近して回し蹴りを繰り出す。
距離的に避けるのは難しいと判断したマリアは、左腕で回し蹴りをガードした。
どうでもいいことだが、ラティナはパンツまで赤だった。
「弱いです」
「まだまだ!」
今度は手刀で顔を狙う。しかし、それはフェイントで、本命は足払いのようだ。上半身に意識が集中していると引っかかってしまうだろう。
しかし、マリアは戦闘中に視界の一点を凝視しないような訓練をしている。当然のように手刀を払い除け、足払いも半歩引くことで避けた。
「拙いです」
「おのれ!」
ラティナは攻撃が通じないことに焦りを覚え、身体の軸を崩した雑な突きを放つ。
当然、マリアがその隙を見逃すはずもなく、放たれた突きに対して、正面から突きをぶつけることで迎撃する。
崩れかけた突きと、最初から迎撃するつもりで放つ突きのどちらが勝つかなど明白だ。
「ぐああああああっ!!!」
「脆いです」
それからもラティナの攻撃は、躱され、防がれ、崩され続けた。そして、崩れてしまったら迎撃により攻撃の意思を挫く。
全ての攻撃が無効化され、打つ手の無くなったラティナは痛む腕を押さえてブルブルと震えている。心が折れかかっているようだ。いいぞ、もっとやれ。
「まだだ……!まだ負けていない……!まだ私には打つ手がある……!大丈夫だ、戦える……!こんな、こんな何にも出来ないなんてことがある訳が無い……!」
ラティナはまだ諦めていないようだった。
しかし、どちらかと言うと、必死に自分に言い聞かせるような印象を受けるな。
「これが効かなかったら……、いや、そんなことはない。私ならば出来る……」
俯きながら辛そうに何とかそれだけ絞り出すと、ラティナは顔を大きく上げた。
「うおおおおおおおおおおおおお!<竜血覚」
「駄目です」
-ドス!-
「かぴばらっ!」
<竜血覚醒>を使おうと叫び声を上げたラティナに、マリアの容赦ない腹パンが決まる。
今度こそ堪え切れずにラティナが崩れ落ちる。
股間のシミはさらなる広がりを見せ、痛みが一周回ってしまったのか、気持ち良さそうな顔をしながらビクンビクン痙攣している。
目は開いているが何も見てはおらず、だらしなく開いた口からは涎が垂れていた。元が美人なだけに、完全に壊れてしまった顔も凄惨だった。
なんとなく、刀を見た時のトオルとカオルに反応が似ている気がする。
「仁様、終わりました」
厳密に言えば気絶をした訳ではないが、どう考えても戦闘不能なので、マリア達の元へ向かった俺達に対して放ったマリアのセリフである。
「確かに、色々と終った感じはあるよな……」
少なくとも、あれだけの醜態を見せ、女性として色々終わったのは間違いがない。
結局、ラティナはそのまま気絶し、起き上がってくるまでには4時間を要した。
起きるのを待つのも面倒なので、タモさんを残して俺達は市場でサーカスを見たり、骨董品のオークションを眺めたりしていた。残念ながら掘り出し物はなかった。
4時間後、タモさんからそろそろ起きそうという連絡を受けて、先程の草原まで戻る。
起き上がったラティナはマリアの前まで歩き、土下座の体勢になった。
「完全に私の負けだ。実力も測れずに勝手なことを言って、誠に申し訳ない」
「わかっていただけたようで何よりです。それでは約束通り、アイテムボックスに入った所持金や持ち物を貰いますよ」
「ああ。約束は守る。私の所持品は好きにしてくれて構わない」
所持品を全て奪われたというのに、特に悔しそうな表情を見せない。
戦闘狂故に、物にはそれほど執着が無いのだろうか。
《はいこれー!》
「ドーラちゃん、ありがとうございます」
ドーラがラティナのアイテムボックスを拾って来た。それをマリアに手渡す。
「……それで、私の身体を好きにするというのはどうするのだ?」
何故かラティナ自身がもう1つの約束の話題を出してきた。
わざわざ自分に不利な話題を出さなくてもいいものを……。
「何故、期待するような顔をしているのですか……?」
「いや、そんな、ことは、ないぞ……」
よく見ると、ラティナの目には仄かな期待が混じっていた。
マリアが若干引きながら聞くと、ラティナは急にモジモジとし始める。
「説得力がありませんよ。……それで仁様、如何ないさいますか?」
「あー、そうだな。別に……」
「待て、何故貴殿が答えるのだ?」
『別にどうでもいい』と答えようとすると、何故かラティナが困ったような顔をして遮って来た。
「何故、とは?貴女の身体に関する件は、私の主人である仁様が決めることでしょう?」
「いや、違う。私に勝ったのはマリア殿、貴女なのだから、貴女にその権利があるのだ。貴女になら、私の初めてを捧げてもいい。むしろ捧げたい」
「うわぁ……」
「えぇ……」
どうやら、ラティナはマリアに心を折られ、どこかのネジが外れてしまったようだ。
頬を赤くしながらぶっ飛んだ発言をするラティナにミオが引いている。さくらも引いている。当然、俺も引いている。
「私にそんな趣味はありません。その権利は放棄、いえ、まずは仁様に譲渡ですね」
「俺も別にいらんよ」
「では、放棄ですね」
グッバイ、エロい権利。
「待ってくれ!それでは私のこの熱い思いはどうすればいいのだ!」
「そんなものは知りません」
ラティナはマリアに対して並々ならぬ劣情を抱いている模様。
コテンパンに負けたことが理由だろうか?恐怖が裏返ったとか?
「ならばせめて貴女について行かせてくれ!奴隷でも何でも構わないから!」
「……少なくとも、今貴女を従えるつもりはありません。それに、貴女は吸血鬼なのですから、奴隷にすることは出来ませんよね?」
吸血鬼は魔物扱いなので、奴隷にすることは出来ない。
代わりに<魔物調教>でテイムすることは出来るのだが……。
「な、何故私が吸血鬼だと……。いや、そんなことはどうでもいい!それよりも『今は』と言っていたが、いつならばいいのだ!?」
「それはわかりません。少々厄介な問題があり、それが片付いた後になります」
ミラの吸血鬼化の件だな。
「その問題について聞いても?」
「いいえ、それは出来ません」
この場で配下にするつもりがない以上、何処で漏れるかわからないから、余計な事を言うつもりはない。
吸血鬼に話を聞いたからと言って、ミラの吸血鬼化を治せるとは思えないからな。
マリアの様子を見て、意思が固そうだと判断したラティナはため息をつく。
「わかった。ならば今は諦めよう。だが、いつか必ずマリア殿の僕になってみせるぞ!」
「ねえ、1つ聞きたいんだけどいい?」
ラティナが意気込んでいるところにミオが質問をする。
「ああ、構わないぞ。……ええと、君の名前は?」
「ミオよ。それで質問なんだけど、貴女どうやってマリアちゃんの僕になるの?」
「どう、とは?」
ミオの質問の意図が理解できないラティナが首を傾げる。
「私達、ずっと旅を続けているのよ。だから、こちらの問題が片付いたことをどうやって知るつもりなの?」
「何だと?貴殿らはこの国、この町を中心に活動しているのではないのか?」
ミオの言葉を聞き、ラティナが驚いたような声を上げる。
どうやら、この町が俺達の拠点だと勘違いをしていたようだ。
「残念ながら違うな。この町には観光に来たんだ。それも日帰りだから、もうしばらくしたら出て行くつもりだ」
「それは……困ったな。追いかけて行くと言う訳にもいかないだろうし……」
「それは無理ですね」
マリアが素気無く断る。
これは意地悪とかではなく、『ポータル』による移動なのだから、追いかけてくるのはまず無理という、物理的な問題である。
「もし、貴女が本当に私の配下になることを望むのでしたら、カスタール女王国に向かってください」
どうやらマリアは着け舟を出すつもりのようだ。
「カスタール女王国、聞いたことがあるな……。マリア殿、そこに何があるのだ?私はどうすればいいのだ?」
「アドバンス商会と言う商会があります。そこは私達と関連があるので、そこを尋ねれば貴女の居場所が私達に伝わるようになります。加えて、カスタールには私達の拠点があるので、その店舗に行けば私達の問題が片付き次第連絡することが出来るようになります」
「おお、それは助かる!是非、カスタール女王国へと向かわせてもらおう」
こうして、俺達はSランク相当の魔物をカスタール女王国に送り込むことに成功した。
これもある意味モンスター引き回しなのだろうか?
「ただ、私に従うというのなら、不用意に人を気付付けるようなことはしないでください。人に害をなす魔物を従えるつもりはありませんので。一応、先の市場みたいなケースでは、殺しさえしなければ良しとしますが……」
「わかった。可能な限り人は殺さないようにする」
『邪悪な魔物』には用が無いので、マリアが当然の要求をする。
ここまで言えば、元々無駄な殺生をしていなかった(仮定)ラティナならば大丈夫だろう。
一通りの話が終わると、ラティナは早速カスタール女王国に向けて旅立って行った。
「ではマリア殿、またいずれお会いしよう」
「約束は忘れないでくださいね」
「無論だ。私はマリア殿の命ならば、どんな事でもこなしてみせよう」
しかし、ラティナの奴がここまで心酔するとはな。
一体、どんな壊れ方をしてしまったのやら……。
ラティナと別れた俺達は、一旦エンドに戻ることにした。
アキンドの夜は明るく、あちこちで夜の催しが開かれている。
しかし、俺達は明日エルディアと戦争をすることになる。遅くまで観光をしていたら明日に差し障るかもしれない。今日は余裕をもって休もうと考えている。
そう言う訳でエンドへと『ポータル』で転移し、復興中の町を見て驚く。
「なあ、明らかに俺達が町を出る前よりも復興進んでね?」
「あの……、城がほとんど完成してませんか……?私の見間違いでしょうか……?」
「下町もかなりの数の長屋が出来ているわね」
俺、さくら、ミオの順に口にしたように、エンドは俺達が出る前と比べて明らかに復興が進んでいた。いや、もはや別物と言ってもいいだろう。
エンド城は外観の8割が最初に来た時のモノを取り戻していた。
町の方も居住区に関してはほぼ完成。現在は商業区画の復興に取り掛かり始めているのが窺える。
どう考えても1つの町が壊滅しかけた後の復興スピードではない。
「おお、仁殿。戻ってきたのだぞ?」
「トオルか」
復興している町の様子を見ながら、アドバンス商会の店舗に向かったところで、丁度店から出てくるトオルと鉢合わせた。
もちろん、いつものようにSP達も一緒だ。奴隷化して行動を縛ってあるので、俺が気安くトオルに接しても文句は言わない。言えない。
「丁度いま戻ってきたところだ。アキンドはなかなか楽しかったぞ」
「それは良かったのだぞ」
途中、吸血鬼がやってくると言うイベントはあったが、それを含めても楽しい観光だったと言えるだろう。
「それより、随分と復興が進んだな。城なんてもうほとんど完成しているじゃないか」
「うむ。アドバンス商会、いや、メイドの力なのだぞ。まあ、仁殿のところのメイドならばこのくらいは出来て当然なのだぞ」
「そ、そうか……」
思っていた通り、この復興スピードはメイド達主導によるもののようだ。
そして、トオルの中でメイド達は万能の存在として確定したようだ。
「ところで、トオルはどうして商店に来たんだ?」
「うむ。復興に関する商談のようなものなのだぞ」
「それ、王族がすることなの?」
「仕方ないのだぞ。今、アドバンス商会とマトモな縁があるのは余だけなのだぞ」
ミオの質問にトオルが頭をかきながら答える。
「下手を打って商会を敵に回せば、今度こそエンドは終わると父上も考えているのだぞ。多少なりとも縁があって、商談が出来る余に仕事を振るのは、仕方のない事なのだぞ」
「同じ仁様の配下ですから、トオルさんが相手ならばメイド達も配慮はしたのでしょう?」
マリアが言うには、メイド達は仲間意識が強く、俺の配下と言う共通項を持っているトオル相手ならば、無茶な要求まではされないという話だ。
「うむ。流石に借金の減額は引き出せなかったけれど、利子は最低額にしてくれたし、期限もかなりの猶予を持ってくれたのだぞ。とても助かるのだぞ」
そこまで言うと、トオルは少し深いため息をつく。
「アドバンス商会の件を置いても、今回の件でエンドはしばらく財政難になるのだぞ。城と共に様々な資料が紛失したし、裏切ったとはいえ忠臣だった三重鎮も失ったのだぞ。これでメイド達がいなかったら、どうなっていたか……」
人的被害(死者)こそ最小限で済んだが、今回の件でエンドが受けた被害は重いようだ。
そこで、ふと思いついたことを尋ねてみる。
「そう言えば、三重鎮の親族はどうするんだ?実行犯以外の面々だ」
「それはもちろん、縁座で一族郎党皆殺しなのだぞ。今はまだ状況が状況なので捕らえているだけで、明日には処罰するつもりなのだぞ。それがどうかしたのだぞ?」
「やっぱりか……」
江戸時代風の習慣と言う事もあり、その辺りが疑問だったのだが、思っていた通り反逆者の一族は皆殺しになるようだ。
正直、あまりいい気分ではない。
「それ、考え直してもらっても構わないか?」
「? 理由を聞いてもいいのだぞ?」
「俺、無暗な連帯責任って嫌いなんだよ。知っていて止めなかったとかならともかく、全く何も知らないのに、急に親族の責任で死罪になるなんて、堪ったものじゃないだろう?」
「でも、復讐に走られても面倒なのだぞ。処分は必要なのだぞ」
もちろん、トオルの言い分もわかる。
不用意に縁者を残していると、後始末が面倒なのだ。
処分するのならまとめて全員と言うのが、一番後腐れが少ない。当然、完全になくなりはしないが……。
「そうだな。だから、こちらからも手を貸す。相手が嘘をついているかわかるスキルを手に入れているからな。反逆について知っているか、復讐や恨む気持ちがあるかないかを確認して、安全な奴だけは殺さないで欲しいんだ」
全員を助けろなんてことは言わない。
助けるのは本当に無関係で、復讐の意思のない者のみだ。
相手の嘘を見抜くのは、元々は祝福だった<真実の眼>があれば問題ないはずだ。
このスキルを貸し出すので、皆殺しは回避するようにトオルに頼む。
「仁殿がそこまで言うのならば、父上にも相談してみるのだぞ。でも、それで仁殿にはどんな利点があるのだぞ?と言うか、利点はあるのだぞ?」
「勿論あるさ。王家の家臣をやっていて、そこそこ有能な奴隷が大量に手に入るチャンスだよ。国としては、死刑は回避できてもお咎めなしと言う訳にはいかないんだろ?」
「……ああ、納得なのだぞ」
トオルは自身の背中にある奴隷紋(隠蔽)を触りながら、少し諦めたような顔で頷いた。
使える奴隷が手に入るチャンスなら、それを逃す俺ではない。良い大義名分が出来たともいう。
「と言う訳で、殺さない代わりに奴隷化することになったら、俺の方に斡旋してくれ。費用が必要なら、例の借金から引いてもらっても構わないぞ」
「わかったのだぞ。そうさせてもらうのだぞ」
使える奴隷が手に入るというのなら、アドバンス商会としても文句は出ないだろう。
あ、俺が口に出した時点で、文句なんて出るはずがなかったわ……。
余談。後日、アドバンス商会に数10名の奴隷が届いたことは言うまでもない。
当然、反逆を知っていた者もいたし、復讐のところで引っかかったものもいたので、全員が全員助かった訳ではないのだが……。
トオルと別れた後、商店内から『ポータル』でカスタールの屋敷へと戻る。
屋敷ではサクヤが丁度夕飯を食べている最中だった。
「あ、お兄ちゃん、お帰り。イズモ和国は楽しかった?」
「ああ、ただいま。楽しかったぞ。一応、お土産も買ってきた」
「わーい。……エンド煎餅?何これ?」
本日、観光をしたのはイズモ和国第2の町アキンド。
そして、イズモ和国第1の町にして首都はエンド(半壊中)である。
そう、アキンドでエンド煎餅を買ってエンドから帰ってくるという意味の分からないことをしてみたのだ。
例えるなら、関東在中の人間が、北海道旅行で沖縄フェアからお土産を選ぶが如く。
それはお土産の選び方ではないと、ミオとさくらが呆れていた。
「食べ物だよ。お米を使った菓子だ。リビングに置いておくから、食いたい奴は食ってくれ」
「ふーん。1つ貰うね」
そう言ってサクヤは煎餅をパクリ。もといパキン。
「うん、硬いけど香ばしくて、結構おいしいわね。お米が原料なら、カスタールでも作れるかしら?」
一応、米の生産に自信のあるお国のトップが呟く。
「作り方なら私が知っているから、教えることも出来るわよ?」
「本当!?ならミオちゃんにお願いしようかな?」
「任せて任せて」
これが後にカスタール銘菓、カスタール煎餅の始まりの物語だった事は、今はまだ誰も知る由もなかった。嘘だ。
「ところでサクヤ。明日はエルディアとの全面戦争なのに、こんなところにいていいのか?」
「あ、うんうん。それはダイジョブ。準備は全部終わっているから。ついでだからお兄ちゃんに行っておくと、作戦は明日の正午開始予定だから。都合が悪ければ調整は効くけど、どうする?」
「それで問題はないな。まあ、作戦と言っても俺達がエルディア王都に乗り込んで、一暴れして制圧するっていうだけのシンプルなものだけどな」
少数で本陣に乗り込んで制圧。
これは最もシンプルで、最も被害が少なく、最も有効な戦術の1つである。
もちろん、それが出来るだけの個人戦闘能力が要求されるのが難点だが。
「お願いだから『一暴れ』をやり過ぎないでよね?絶対、後始末が大変になるから」
「善処する」
善処はする。
「さくらちゃん、ミオちゃん、お兄ちゃんを止めてね!」
友人でもあるさくらとミオに懇願するサクヤ。
「いやー、それはちょっと荷が重いかな。やれるだけはやるけど」
「一応、頑張りますね……」
「ホントのホントにお願いだからね!?」
涙目になっているサクヤを見て、俺の信頼度が不安になった。
ちょっと、善処を頑張ろうと思う。
飯を食って、軽い戦闘訓練で汗を流し、風呂に入って部屋に戻る。
本日はドーラの抱き枕当番ではないので、部屋にはブルーとエルしかいない。
前まではマリアも俺の部屋にいた(護衛)のだが、最近では俺が1人ではなくなったので自室に戻ることも多い。
マリア、俺を1人にすることを極端に嫌がるから……。
昨日に引き続き、精霊に魔力を与えてみる。
そうだ。寝ている時に精霊に引っ付いていたら、魔力は回復するのだろうか?
A:回復します。睡眠状態の方がMP回復量は多いので、より効率的に精霊を回復させることが出来ます。
なるほど、ならば精霊をドーラの代わりに抱き枕にしてみようか。
魔力をあげていたら、いつの間にかサッカーボールくらいのサイズになっていたし……。これなら抱いて寝ても大丈夫だろう。潰さないよね?
結論。……………………失敗。
精霊、光っている。電気、消す。精霊、眩しい。
仕方がないので、精霊を毛布で包み、その隙間から手を入れて魔力を供給する。
鬼神に魔力を奪われ、瓶に入れられ、毛布で包まれる精霊が少し憐れに感じた。
*************************************************************
ステータス
進堂仁
LV159
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV10><格闘術LV10><飛剣術LV10><竜闘術LV10>
魔法系
<魔法LV5><呪術LV4><憑依術LV4><奴隷術LV10 up><無属性魔法LV10><並行詠唱LV10><竜術LV10><始祖竜術LV10><固有魔法>
技能系
<技能LV3><魔物調教LV10><獣調教LV5><鍵開けLV3><泥棒LV5><恐喝LV4><統率LV10><鼓舞LV10><拷問LV3>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><縮地法LV10><気配察知LV6><索敵LV6><飛行LV10><竜体LV10><鬼神体LV10 new><完全耐性LV->
その他
<幸運LV1><迷宮支配LV10><超越LV10><加速LV-><真実の眼LV-><天駆LV-><鬼神の咆哮LV- new>
異能:<生殺与奪LV8><千里眼LV-><無限収納LV-><契約の絆LV-><多重存在LV5><???><???>
装備:英霊刀・未完、不死者の翼
木ノ下さくら
LV143
スキル:
武術系
<武術LV5><棒術LV10>
魔法系
<魔法LV5><火魔法LV10><水魔法LV10><風魔法LV10><土魔法LV10><雷魔法LV10><氷魔法LV10><闇魔法LV10><回復魔法LV10><魔道LV1><発動待機LV1><無詠唱LV10><並行詠唱LV10><固有魔法>
技能系
<技能LV3><速読LV1>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><完全耐性LV- new>
その他
<幸運LV1>
異能:<魔法創造LV->
装備:星杖・スターダスト
ドーラ
LV144
スキル:
武術系
<武術LV5><棒術LV10><盾術LV10>
魔法系
<魔法LV5><竜魔法LV7><固有魔法>
技能系
<技能LV3><調剤LV6>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><突進LV10><咆哮LV10><飛行LV10><噛みつきLV10>
その他
<幸運LV1><竜撃LV10><竜滅LV10><竜鱗LV10>
装備:支配者の杖・レプリカ、正義の盾
ミオ
LV142
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV6><弓術LV10><投擲術LV10>
魔法系
<魔法LV5><固有魔法>
技能系
<技能LV3><魔物調教LV3><料理LV7><家事LV4>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10>
その他
<幸運LV1>
装備:星弓・ミーティア、聖剣・タリスマン、聖剣・タリスマンの指輪
マリア
LV155
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV10><暗殺術LV5><飛剣術LV10><魔法剣LV4><神聖剣LV4>
魔法系
<魔法LV5><光魔法LV6><結界術LV3><固有魔法>
技能系
<技能LV3><執事LV6><忠誠LV6>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><縮地法LV10><HP自動回復LV10>
その他
<勇者LV6><幸運LV1>
統合された元のスキルポイントを全て所持。
装備:太陽神剣・ソルブレイズ、月光神剣・ルナライト
セラ
LV141
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV10><槍術LV10><盾術LV10><飛剣術LV10>
魔法系
<魔法LV5><固有魔法>
技能系
<技能LV3><作法LV5>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><HP自動回復LV10><跳躍LV10>
その他
<幸運LV1><英雄の証LV5><敵性魔法無効LV->
装備:守護者の大剣、守護者の大楯
いつも通り登場人物紹介と外伝を挟み、再来週から第7章「ホントにエルディア戦争編」が始まります。
先に言っておくと戦争自体は長引きません。理由は言う必要があるだろうか?
戦争は終わった後の方が大変ってばっちゃが言ってた。
+注意+
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