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かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

分数のわり算(等分除・包含除)を数直線で

 はじめに,作成した図をお見せします。
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 作成の背景ですが,Twitter経由で以下のページを知りました。

 質問文の誤記は,本人が訂正していますが,ベストアンサーのはじめにも,誤記があります。等分除はいいとして,「等含除(とうがんじょ)」は「包含除(ほうがんじょ)」のことです。
 中身について,ベストアンサーの「分数の割り算は、等含除ではないと説明できません」というのは適切ではなく,1にあたる量を求める等分除でも,考えることができるし,長方形の面積と縦の長さから,横の長さを求めることも,可能なはずです。
 分数のわり算というと,ジブリの映画で出現したと,記憶があります。検索すると,「おもひでぽろぽろ」でした。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47340や,https://www.slideshare.net/ita3jp/ss-20478485で取り上げられています。映画から離れて,分数のわり算に対する,学校教育への批判を含んだ図解の例を,http://m-ac.jp/me/instruction/subjects/nq/rational_num/product_quotient/book/doc/product_quotient.pdfや,https://twitter.com/LimgTW/status/869994959255908353から始まる一連のツイートを通じて,読むこともできます。
 さて,「分数のわり算は,なぜ,わる数をひっくり返してかけるのか」について,等分除や包含除を根拠にするのは,筋が悪いように感じています。等分除や包含除は,分数のわり算の式を考える際の対象です。言い換えると,わり算の等分除や包含除は,分数の場合にもあり得るよね,となります。
 『算数教育指導用語辞典』に目を通すと,p.113では,分数の除法を数直線を用いて解説してました*1
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 2つの数直線が連動しています(比例数直線,二重数直線などと呼ばれます)。その関係をもとに,\frac25÷\frac34という分数どうしのわり算を,\frac25÷3×4として「分数÷整数」と「分数×整数」に置き換えれば,計算できるのです。
 ですがこれでは,「わる数をひっくり返してかける」こと,言い換えると\frac43が陽に現れません。少し検討したところ,もう1本,数直線を取り入れることで,「×\frac43」を得ることができたのでした。
 その結果,冒頭の画像を作ったのですが,また別の前提をいくつか書いておきます。この数直線について,かけ算・わり算の関係式を,以下のように表すことができます。
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 「a」や「b」は,右(または下)の数を左(または上)の数でわって求められます。また△▲□■のいずれかが「1」であれば,その記号と関連する「×a」や「×b」は,わり算を行う必要もありません。たとえば,△=1なら,a=□であり,△×□=■となります。
 またこの図は,Vergnaud (1983, 1988)の関係表を背景にしています。実際,数直線のかわりに表で△▲□■を配置し,互いに何倍になるかを示すこともできます。二重数直線を使うのは,上のとおり『算数教育指導用語辞典』の図がきっかけとなったのに加え,当ブログ(移転・改称の前)とメインブログで,二重数直線を用いた小数のかけ算・わり算の図解を試みてきたからです(http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140116/1389822669が起点となります)。「1の左か右に□があったら,割合の第1用法(包含除)」「1と□が“はすかい”になっていれば,割合の第2用法(かけ算)」「1の上に□があったら,割合の第3用法(等分除)」を,あとで使います。
 わる数が「単位分数(分子=1)」「真分数(分子<分母)」「仮分数(分子>分母)*2」により,図は異なってきます。単位分数の場合,「×分母」のかけ算だけになります。本日の記事では,真分数を用いています。仮分数の場合は,いくつかの数値の左右の位置が変わりますが,演算については変更ありません。
 といったところで,冒頭の図を再掲します。
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 問題文は「\frac25㎡のかべを\frac34dLでぬれるペンキがあります.1dLでは何㎡ぬれますか。」です。これは上記の書籍にはなく,分数の除法|算数用語集の文章題をもとに値を変更しました。
 数直線は3つになりました(だから三重数直線です)。上の2本は,『算数教育指導用語辞典』の図と同じです。1の上に□があるので,「1にあたる量を求める等分除」と分かります。
 ところで,上から2番目の数直線には,\frac14を最小単位として,目盛りが振られています。4はわる数の分子と同じです。\frac14のところから右に数えていくと,3番目の目盛りは,\frac14×3で\frac34で,わる数と一致します。4番目は\frac14×4=1です。
 そこで3番目の数直線として,目盛りの位置は2番目と同じとし,最小単位を\frac13に変更します。一般には,わる数の分子の逆数を割り当てます。その数直線において,3番目の目盛りが\frac13×3=1となり,4番目は\frac13×4=\frac43なのですが,わる数\frac34の逆数となっています。
 1番目と3番目の数直線のうち,「\frac25」「□」「1」「\frac43」に着目すると,□はかけ算で求めることができ,\frac25×\frac43=□です。「わる数をひっくり返してかける」ことで求められるのが分かりました。念のため,この計算の結果は\frac{8}{15}で,答えは\frac{8}{15}㎡です。
 次に,包含除の分数のわり算を検討します。問題文は「\frac25mは\frac34mの何倍ですか。」としました。何倍にあたる量を求めるので,包含除です。
 図を再掲します。
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 上の2本の数直線で,「\frac25」「\frac34」「□」「1」のところが,問題部を表した関係です。1の左に□があるので,包含除なのが確認できます。
 ここではさらに右に,列そして目盛りを設けます。わる数の\frac34を4倍して,「3」すなわち分子だけにします。3行目の数直線として,3mを1とします。その数直線の,\frac25に対応する数は,未知数なので,とりあえず△とおきます。
 すると,「\frac25」「3」「△」「1」の4つの数で,乗除算の関係をつくることができます。文章題にするなら,「\frac25mは3mの何倍ですか。」の答えが,△倍となります。
 △は,\frac25÷3です。もちろん計算して\frac{2}{15}とできますが,そのまま数直線上に書いておきます。
 それから,「□」「1」「\frac25÷3」「\frac14」の4つの数で,乗除算の関係を見ます。「1」と「\frac14」は,下から上に矢印を作り,「\frac14を4倍したら1」と解釈できます。左端の列にも適用すると,「\frac25÷3を4倍したら□」であり,□=\frac25÷3×4です。
 あとは計算により,\frac{8}{15}を得ることができ,答えは\frac{8}{15}倍です。
 答えが出たものの,すっきりしません。というのも,この包含除の検討で,わる数の逆数にあたる\frac43が出現しないからです。
 右上に「3」と書き,\frac34に対して「×4」としましたが,かわりに右上を「1」とすると,どうでしょうか。
 \frac34を1にするには,何倍すればいいのかというと,\frac34の逆数,すなわち\frac43倍です。そして,2行目の対応するところ(上の図では空欄)にも,\frac43が書かれます。
 そうすると,1行目と2行目の「\frac25」「1」「□」「\frac43」について,かけ算により□=\frac43×\frac25\frac25×\frac43となり*3,「わる数をひっくり返してかける」を導き出せます。3行目の数直線も,使わなくて済みます。

*1:同書のp.278では,長方形の面積と横の長さから,縦の長さを求める例を通じて,(分数)÷(分数)が解説されています。

*2:仮分数の定義では分子=分母を含むので,もう一言,加えると,分数のわり算を考える際のわる数では,分母は分子の約数ではないとします。約数だったら,整数のわり算になるからです。\frac86のような,既約でない分数は,差し支えありません。

*3:1にあたる量が\frac43で,それに\frac25をかける,という演算になります。左右をひっくり返すのは,分数の乗法における交換法則を用います。数直線を縦に見る場合のかけ算でも,暗黙のうちに交換法則を使用しています。