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【社説】

生活保護と進学 貧困の連鎖を断ち切れ

 「誰もが希望すれば、高校にも大学にも進学できる環境を整えなければならない」。安倍晋三首相は言い切る。ならば生活保護家庭に育つ子どもの大学などへの進学の障壁を取り除くことも必要だ。

 「生活保護世帯から大学進学できる子というのはごくまれで、運がよい。ぜひ、普通の子が普通に進学できるようにしてほしい」

 東京大三年の島田了輔さんは訴える。高知市の母子家庭に育ち、中一の頃から生活保護を受けた。母親は非正規で働いていたが、年収は多くて百数十万円。修学旅行にも行けず、周囲から「勉強するために修学旅行をサボった変なやつ」とみられ、孤立した。

 県内の公立では一番の進学校に進み、次の目標として東大合格を掲げた。だが、保護家庭の子どもは大学に進学できないということを知る。利用できる資産や能力は活用する、という生活保護制度の趣旨から、保護家庭の子どもが大学などに進学することを国は認めていないからだ。大学進学のためには親と生計を分離する「世帯分離」が必要となり、世帯が受け取る保護費も減らされる。「『君は大学に行っちゃ駄目だ』と言われていると感じた」という。親に無理を言って受験費用を出してもらい、東大一本に絞った。「落ちたら死ぬ」との覚悟で挑んだ。

 大学では一定以上の成績を修め学費は免除されているが、生活費は奨学金とアルバイトで賄う。将来、数学の研究者になるのが夢だ。しかし、良い成績をとることとバイトで忙しく、やりたい数学を勉強する時間がない。夢をかなえるのは簡単ではないと感じている。

 世帯分離をすると保護費は月四万〜六万円程度減る。親の生活が苦しくなるという理由で進学をあきらめる子どももいる。また、進学した学生は、奨学金とバイト代で自分の学費と生活費をすべて賄わなければならない。生活が大変で中退せざるを得ないケースも少なくないという。

 保護世帯の子どもの大学や専修学校などへの進学率は三割超。一般世帯の八割の半分にも満たない。学歴は生涯賃金や、その次の世代の生活にも大きく影響する。超党派議連は保護家庭の子どもの大学等進学率を上げるための支援策を早急に講じるべきだとする要望を政府に提出した。

 「貧困の連鎖」を断ち切るためには、まず世帯分離を廃止し、その上で、学業にできるだけ専念できるよう給付型奨学金や授業料免除制度の拡充を検討すべきだ。

 

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