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大阪万博から数十年経った今でも尚多くの人に愛されている「太陽の塔」

そんな「太陽の塔」に魅せられた女性が、森見氏デビュー作の「太陽の塔」に登場する。
今回はそんな「太陽の塔」に魅せられた女性とその女性を研究する男の物語を見てみようと思う。


目次

  1. 森見氏の過去記事はこちら
  2. 「太陽の塔」を読む
  3. 森見リンク・小ネタ
  4. オススメ度

森見氏の過去記事はこちら

夜は短し歩けよ乙女
2006年に刊行され、今年アニメ映画化もした「夜は短し歩けよ乙女」怪しげな人物や団体に翻弄される二人の運命や如何に?

ぐるぐる問答
森見氏初の対談集。様々な人物との対談を収録。モリミスト必見・必携。

「太陽の塔」を読む

「太陽の塔」は森見氏のデビュー作。2003年の「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞し、その後山本周五郎賞を受賞、直木賞ノミネートに至った。

さてこの「太陽の塔」だが、後の森見氏の行く末を決定付けているかのようである。この太陽の塔の時点ですでに後につづく「腐れ大学生物」が出来上っている。デビュー作ながら「森見節」満載なのだ。

そんな太陽の塔なのだが、実はこの小説はヤケクソで書いたものだったらしい。それまではいたって普通の小説を書いて応募したいたのだが中々結果が出ない。そこで自身が大学時代サークルのノートに書いていたような小説をダメ元で送ったそうである。その結果「太陽の塔」でデビューするのだから何が役に立つか分からないものである。それが小説を書く上での面白い事なのかもしれない。

「森見節」満載のこの小説。もちろん主人公は「私」こと「腐れ大学生」である。しかも「休学中の五回生」ときた(桃色のキャンパスライフを夢見て日々奔走する新大学生は多いと思うが、意外にも五回生は多い。シビアな所だと卒論提出1分遅れて留年というところもある。五回生になるとどうなるか。それは呼び名が「長」とか「ボス」になる。あまり嬉しくはない)
この休学中の五回生というだけでなんだか「私」からは胡散臭さがにじみ出ているようである。しかも登場人物は「私」と同等かそれ以上に個性的な人物ばかりなのだ。そんな人物達が様々な騒動を巻き起こしていく。

そんな「私」が大学を休学してまでしていることは何か。それは自分を振った女性「水尾さん」を研究することである。その内容はというと、『研究内容は多岐に渡り、そのどれもが緻密な観察奔放な思索、および華麗な文章で記されており、文学的価値も高い』のだ、とのこと。しかも四百字詰め原稿用紙に換算して240枚。およそ9万6000字である。これを見ても分かる通り「私」がしていることは完全に研究という名のストーカー行為なのである。
しかしこれだけでは森見氏にここまで多くの女性ファンは出来なかったであろう。これで終わったら出来の悪いミステリーか気持ちの悪い男の話になってしまう。が、そうならなかったのはおそらくこの文体と、もう一人のストーカー「遠藤」との不毛な戦いがあるからだろう。

また「私」は「水尾さん」の研究をしていると言いながらも我々に前にはほとんど水尾さんは姿を現さない。情報が少なすぎるため実在するのかも怪しい「水尾さん」。植村嬢は登場場面が少ないながらもその存在感をしっかり発揮しているのに対して「水尾さん」は実在感が乏しく、透明のようである。その分なんだか浮いて見えるとともにミステリアスにも見えてくる。

さらにこの小説の登場人物はほとんどが男だ。しかもどこか哀しい雰囲気をそれぞれが纏っている。森見氏は我々読者にこれでもかとそんな哀しげな男達を投げつけてくるが、そんな男たちはどこか可愛らしく、憎むことができない。ここも女性に人気の秘密だろうか?

登場人物がハチャメチャなことをしながらもしっかりと青春小説となっているところもまた面白い。いや、ハチャメチャなことができるのは青春時代だけなのかもしれない。

そしてやはり「文字遊び」が面白い。「京大と絶縁状態」とか「右の拳をやや固めに握った」とか。この「やや固め」というところに「私」の特徴というかその人らしさが垣間見えている気がするのだ。圧巻は最後の「ええじゃないか騒動」だ。怒涛の「ええじゃないか」が登場人物と読者を襲う。「ええじゃないか」に押しつぶされそうになりながらも、やはりページをめくる手は止まらない。

この森見氏デビュー作の「太陽の塔」。これは森見氏全部詰という感じがするのは私だけだろうか。書きたいことはここに全部書いた。あとはここから少しづつ取り出して、それをまた妄想により拡大し小説として書いているのではないだろうか。とにかく森見ファンには贅沢な本である。

森見リンク・小ネタ

森見氏の作品に登場する人物や団体は他の小説にも登場することが多い。
・高藪智尚→「宵山万華鏡」に登場。

・ゴキブリキューブ→アニメ版「四畳半神話体系」に登場。麻薬的な輝きを放ち表面は常にざわついている。

・まなみ号→主人公の愛車まなみ号。名前の由来はもちろん「本上まなみ」さん。対談を行っているが緊張しすぎてほとんど話せなかったそう。

・猫ラーメン→四畳半神話体系にも登場。じつはこの屋台、モデルが存在しているようだ。時折出町柳に現れるらしく味は絶品とのこと。

・「砂漠の俺作戦」について
これはおそらく関西で有名な都市伝説の一つを元ネタにした小話と思われる。
その元ネタは梅田のHEPの観覧車に乗ると二人は別れるというもの。これは結構有名らしく、私も数人の知人から話を聞いたことがある。小説内では飾磨がHEPの観覧車がきっかけで彼女と別れている。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
森見氏入門には持って来いの本書。「夜行」や「狸」から入った人も遡って読んでみてはいかがだろうか?
太陽の塔 (新潮文庫)

森見 登美彦 新潮社 2006-06-01
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