僕の母は認知症で、月曜日から土曜日、つまり日曜日以外はデイ・サービスに行っている。
デイ・サービスには送迎のサービスがあるので、朝は家でお迎えのクルマを待っていればいいのだが、母は、お迎え前に自分で、”じゃ、行ってきます。”みたいなことを言って出ていこうとする。
母がひとりで家を出ても、デイ・サービスへの道順もわからないので、絶対に到着できないわけであるし、道路で転倒してケガをすることがあるかもしれないなど、むしろ危険なので、父は母が勝手に出ていくのを止めようとするのだが、母はそれが気に入らないようで、父に食ってかかるなどして険悪な雰囲気になったりして、父も困り果てているようだった。
そこで、僕の妻がほぼ毎朝、母がデイ・サービスのお迎えがくるまでの時間、父をフォローするために僕の実家に行ってくれてとても助かっているのであるが、僕もたまにではあるが、会社の介護休暇を取得し、その朝の時間、実家に行くことがある。
その日は僕が実家に行き、母が勝手に出ていこうとするのを適当な会話などをして引き留めていた。
母は、デイ・サービスのお迎えがくるまでの時間、お饅頭などを食べて待っていることがよくあるのだが、その日もお饅頭を食べていた。
母が僕に、”食べる?”と聞きながら、まだ口をつけていない新しいお饅頭を僕に差し出してきたので、僕は、”あとで食べるよ。”と断ると、今度は父に、”食べる?”と聞きながらお饅頭を差し出した。
すると父が、”今、ダイエットしてるからいらない。”と言ったので、僕はビックリしてしまった。
僕はなぜ驚いたのか。
父は、11年前に大腸がんがみつかり、大腸の一部を切除している。
そして2年前には胃がんがみつかり、胃の全摘出をしているのである。
全摘出してからしばらくは、食事が思うようにできないことに対して、くよくよと文句を言うなどしていたのであるが、僕は、”それは胃がないのだからしょうがない。1食の量を少なくして回数を増やすなどしていくように食事のスタイルを変えていくしかない。”みたいなことを言っていたのであるが、父はどうもそういう意見に納得がいかないようであった。
僕たち家族は、時々僕の実家に食事に行ったりするのだが、だんだんと父の食事が普通になってきているのを感じていた。
お酒も普通に飲めるようになっているようだったし、食事の量などは、なんなら僕よりも多く食べてるんじゃね?と感じることもあったのである。
先日も、僕が父に、”普通に食事できるようになったみたいだね?”と聞くと、父は、”おかげさまで。”などと答えていたので、ほんとに普通に食事ができるようになったようなのである。
そして今回、まさかのダイエット宣言である。ほんとに驚いた。
そういわれて父のお腹まわりを見てみると、贅肉がしっかり付いており、ズボンのウエスト部分に乗っかっている。
”新しい胃ができたんじゃね?”と僕は心の中でtweetし、それと同時に、父が元気になったのは喜ばしいことである、とも感じたのである。
胃を全摘出しても普通に食事ができるようになり、ダイエットをしなくてはならないほど元気になる、という事実に僕はほんとに驚いたのだった。