らい菌による感染症、ハンセン病とは?

更新日:2016/12/09 公開日:2016/11/17

ハンセン病の基礎知識

らい菌が原因となって発症するハンセン病は、治療法が確立されていることから、早期発見、適切な治療により完治する感染症です。ハンセン病の原因や症状、治療方法などについて、ドクター監修のもと解説します。

紀元前から存在したハンセン病

今から約4,000年前の紀元前2,000年頃に書かれたエジプトや中国、インドに伝わる文献に、ハンセン病について書かれたものがあることから、この病気は古くから存在していることがわかっています。日本では、日本書紀や今昔物語に、この病気に関する記述があり、日本書紀には、100年前(7世紀前半)のできごととしてハンセン病に関する記述があります。

ハンセン病の原因とは

ハンセン病は、らい菌という結核菌などと同じ抗酸菌に感染することで起こる、慢性の細菌性感染症です。感染しても発病させる力自体は弱い菌なので、十分な栄養・食事をとることができ、衛生的な環境の中では、あまり発症することのない病気です。身体の免疫力が低下しているときなどは発病しやすくなるとされています。

大きく分けて2種類あるハンセン病

らい菌に感染すると主に末梢神経と皮膚が冒され、手足の麻痺や知覚低下、皮膚症状が現れます。皮膚症状は赤い斑紋(はんもん)や環状に皮膚が盛り上がるなど患者によってさまざまで、一見しただけでは判断することは難しいとされています。さらに、運動障害などを引き起こしたり、治療が遅れると後遺症として主に顔、指、手、足が変形したりすることもあります。手足の麻痺、知覚低下、皮膚症状などの現れ方は、患者のらい菌に対する細胞性免疫力の違いによって、少菌型と多菌型の2種に大きく分けることができます。

症状が局所に現れる小菌型

細胞性免疫の強い人は保持する菌が少ないことから少菌型となり、症状の現れ方が局所に限定されます。

症状が全身に広がる多菌型

細胞性免疫の弱い患者は、保持する菌が多くなることから多菌型とされ、症状が全身に広がります。細胞性免疫力は、バランスのよい食生活をして適度な運動を行うなど、生活習慣を見直すことで高められるとされています。理想的な生活習慣の詳細は、『風邪をひかない体に!免疫力を高める生活・運動習慣』をご覧ください。

ハンセン病は遺伝するのか

ハンセン病は遺伝はすることはなく、免疫力の弱い乳幼児期に口や鼻から多量に何度もらい菌を吸い込むことで感染します。詳しくは、『ハンセン病はどのように感染する?感染経路と世界の現状』をご覧ください。

ハンセン病の治療方法

抗生物質を内服します。らい菌が多い多菌型の患者は1年から数年、らい菌が少ない少菌型の患者は約6か月間、抗生物質を内服することで治癒します。詳しくは、『ハンセン病はどのように感染する?感染経路と世界の現状』をご覧ください。

日本でらい菌に感染・発症することはあるのか

ハンセン病の感染源はすべて解明されているわけではありませんが、未治療の患者のらい菌が原因となって乳幼児期に感染し、成人後、さまざまな病気などにかかり、免疫力が低下するとが、主な原因と考えられています。しかし、日本のように栄養状態がよい食品が揃い、衛生的な環境であれば、らい菌に感染してもほとんど発症することはありません。また、現在の日本には感染源となる患者はほとんどいません。詳しくは『感染するとどうなる?ハンセン病が原因で起こる症状』をご覧ください。

ハンセン病患者への差別と偏見

現代社会において、ハンセン病は完治する病ですが、古くは後遺症で顔や手、足が変形することから、患者との接触を恐れる人々によって、天刑、業病、呪いと結びつけて考えられていました。その結果、患者たちは療養所などに隔離され、人権を侵害されてきました。日本では明治時代に「らい予防に関する件」「らい予防法」という政策によって隔離政策が取られていました。治療法が確立され、完治する病であることが認められたことで、この政策は1996年に廃止されましたが、療養所の入所者の高齢化と、今なお残る偏見によって、入所者の社会復帰は進んでいないという大きな課題が残っています。