星空文庫
ヴァル 迷子のドラゴン Chapter 1-3
せっか 作
1
はじめて会った頃、ヴァルはうんと小さかった。冬の嵐があばれた晩に西の山から飛ばされてきたらしいんだ。枯れた草むらに何か黒いものが落ちているのを見つけたとき、僕はネコだと思った。それからハネが見えたので、大きなコウモリかなと思った。だけどそいつが僕の足音を聞きつけて長い首をひょいともち上げたので、見たこともない変な生き物だってわかった――頭はシカに似ていた。でもツメやうずくまったかたちはネコみたいで、しかも毛皮じゃなくて黒炭みたいなウロコにおおわれていた。それで、もっと近くで見ようとしたら、ワニのような黄いろの目でキッと僕をにらんで、そいつが一言、
「さわるな!」
って、しゃべった。トカゲみたいに長いしっぽを体にぴったりまきつけて、黒いかぎづめで地面をカリカリ引っかいて、
「それ以上近づくと、このツメでズタズタのギタギタの、八つ裂きにしてやるぞ」
って、キンキンひびく声でおどかすみたいに言った。
――こわいんだ。って、僕は思った。
八歳の人間の子をこわがるくらい、ヴァルはまだ小さくて、弱かったんだ。
2
変な生き物は、威勢はいいけど、つかれて困っているみたいに見えた。だから僕は、
「怒らないで」
と言って、そこにしゃがんだ。背を低くしたほうがいいと思ってね。
「僕はハンス。きみはなんていうの?」
しゃべるんだから、名前もあるのかな、と思った。でもそいつは、まだ警戒するみたいに僕をじっとにらんで、こうきき返してきた。
「ハンス、なんていうんだ、それだけじゃねぇだろ」
「ハンス・ザルツマン」
「それだけか?」
「うん、それだけ」
僕が首をすくめると、そいつは
「フン、つまらねぇ名前だな」
って、ケチをつけた。僕の名前はおじいさんの名前だからムカッときたけど、そいつはそれでちょっと僕に気をゆるしたみたいだった。肝心の自分の名前は言いそうにないから、僕は別のことをきいてみた。
「ねえ、おなかすいてるの? 何かもらってこようか」
「ドラゴンは人間の食い物なんか食わねぇ。だが、俺様に供物をささげるつもりがあるなら、火をもってこい」
僕は辺りをぐるりと見回した。おじさんもおばさんも、まだ遠くのほうで畑のせわをしていた。前の晩の嵐で飛んできた木の枝やなんかをかたづけていたんだ。
「ここでたき火はできないよ。うちなら暖炉があるけど、来る?」
そいつは少し迷って、ああ、と答えた。立ち上がってツバサを広げようとしたけど、ギクッとよろめいてすぐに座り込んでしまった。
よく見るとそいつには前足が二対あって、上の対がコウモリみたいなツバサに変形していた。そのすけるほどうすい膜のはった腕はかんたんに折れそうな小枝みたいに細くて、もっと細い四本の指もまだ子どもの手みたいに短かった。だから、飛ばされてくる間かここへ落ちたときにケガしたんだと思う。結局、僕が抱えて帰った。
「そぅっとだぞ」
って言うから、そぅっと抱きあげて、ネコみたいに抱えて帰った。変な生き物は意外と軽くて、じんわりと温かかった。
おじさんたちの目をぬすんでこっそりうちにもどると、暖炉の火はちゃんと燃えていた。寒いから火がほしいっていうのかと思ったら、そいつが僕の腕からぱっと飛びだして火の中に首を突っ込もうとするもんで僕はびっくりして、思わずしっぽをつかまえたら、そいつは怒ってふりほどいて、そのしっぽでムチみたいに僕の手をビシッとたたいた。
「やめろ」
とそいつが言うのと、
「だめだよ」
って僕が言うのが、かさなった。僕はびっくりして、そいつはカッとなって、言葉が出るのがおくれたんだ。たたかれたところは赤くなってジンジンしたけど、それより僕は、そいつが熱がりもしないで暖炉の赤い炎にかみついているのをぼうぜんと見ていた。
「――きみ、炎を食べるの?」
どう見ても、そうだった。うえた獣がようやく獲物にありついたみたいに、「食事」をしていた。それで僕はいよいよ、こいつはただの変な生き物じゃなくて、ふつうの生き物じゃないんだってことに、気づいた。
魔法の生き物。
「ねえ、ケガがよくなるまで、ここにいるのはどう?」
ようやく暖炉からはなれたそいつに、僕は言ってみた。
「いてやるのも悪くない。ただし、おまえが俺様のシモベとしてマジメに仕えるなら、だが」
僕はしゃがんだまま、ぴょん、とはねた。そいつのそういうえらそうなしゃべり方が、いつのまにか好きになっていた。
「きみのことなんて呼べばいい?」
「ドラゴンはそうかんたんに名を名のらない」
そいつはゴニョゴニョいって、僕が決めていいことになった。
「じゃあ、ヴァルはどう? 今、ぱっと思いついたよ」
「うん、それでもいいけど、ヴァルならヴァルドーのほうが強そうでカッコイイんじゃないか」
「じゃあ、ヴァルドーが正式で、愛称がヴァルだ」
「ああ、なら、俺様のことはヴァルドー様と呼べ」
ヴァルは言いながら、首をのばして僕の後ろを見た。知らないうちにおじさんの犬のベルントが勝手口から入ってきて、ヴァルのことを不審そうに見ていた。ベルントは中型の雑犬で、それほど獰猛じゃないかわりに頭がいい。そばに来たから、僕の友だちだよって安心させようとしたら、ヴァルが先に、
「なんだ、こいつ」
って言っちゃった。顔が引きつっていて、僕は、ヴァルのほうがベルントをこわがってるって気づいた。自分より大きいし、たくましくて、いろも黒に近い茶だからね。だけどベルントはベルントで、あやしいやつがしゃべったものだから驚いたんだろう、僕がとめるよりも早く、鼻づらを近づけてにおいをかごうとした。
――ワッて言ったのが、どっちだったのか、わからない。
僕が見たのは、ヴァルがとがったキバのびっしり生えた口をカッと開いて、ベルントの鼻にかみつこうとした、ってことだけ。ベルントはサッと飛びのいてヴァルをジロリとひとにらみすると何もせずに出て行った。
おじさんたちを呼んでくるかもしれないと思って、僕はヴァルを僕が使っている屋根裏へ運んだ。
「おまえんち、ボロだな」
お腹がいっぱいになったせいか、ヴァルはねむたそうに言った。
「僕んちじゃないんだ」
僕は正直にうちあけた。
「何だと?」
「僕のうちは都会のほうにあって、ここはおじさんのうちなんだ」
「外にいたやつら、おまえの親じゃないのか」
「あの人たちは、おじさんとおばさんだよ」
「おまえの親はどうした」
「都会の僕のうちにいるよ。お父さんと、お母さんと、兄さんのイマヌエルと、小さいゲルダ」
「おまえだけこんなとこへ飛ばされてきたのか」
首をもち上げて、ヴァルはちょっぴりするどい声で言った。
「うん、まあ、そんなところなんだ」
僕は肩をすぼめてみせた。
「そうか。なら、俺と一緒だな」
ヴァルは言って、もうねむりそうな目で僕を見つめた。
「おまえを俺の子分にしてやるよ、ハンス」
3
僕が家族と離れて暮らすようになったわけは、言いにくいけれど、しばらくおばさんにあずかってもらおうというのは、お母さんの考えだった。
「ここの生活はハンスには合わないのよ」
って、僕のいないところでお父さんに話していたのを、僕は聞いた。
「このことについてだけは、イマヌエルが特別だってことを私たち二人とも忘れてしまっていたのね。田舎でのびのび遊べば、きっと明るい子になるわ」
お父さんはそのときすごく怒っていたから、何も言わなかった。
それから半月もしないうちに、僕は生まれてはじめての汽車に乗ってお母さんのふるさとへ連れられてきた。夕方の駅にはおばさんが腕組みをして一人で立っていた。
「姉さん、この子がハンスよ」
お母さんは僕を前に出して言った。
「どうぞよろしくね」
「もらうわけじゃないのよ」
おばさんは一言そう返して、僕を頭のてっぺんから爪先まで見下ろした。僕はすばやく下を向いて、この人がお母さんの姉さんだなんて信じられないな、と思った。
「元気でね、ハンス。大丈夫よ、ここには堅苦しいことなんか何もないの。好きなだけお外で遊びなさい」
お母さんは僕にそう言ったけれど、おばさんはちがう考えみたいだった。
「あなたのお母さんは十五で都会へ出てしまったから忘れたようだけど」
と、駅で別れて馬車をとめてあるところまで行くあいだに、つまりはじめに、おばさんは僕に言った。
「ここは都会みたいに自由ではないわよ。あなたがネコを一匹ひろったって、たちまち村じゅうに知れわたりますからね」
おばさんが言ったとおりで、僕はヴァルのことをなるべく秘密にしておきたかったんだけど、おじさんたちにはその日のうちにばれちゃったし、三日もしないうちにうわさは村じゅうに広がった。実をいうと、おとなたちは村にドラゴンの子どもが迷い込んだことをよく思わなかった。悪いことの起きる前ぶれじゃないかと不安がる人もいたし、僕が悪い子だから引きよせたんじゃないかと言う人もいた。だから、おじさんたちもヴァルを追い出さないだけで一緒にいていいとは言わなかったし、村の子どもたちも、みんな珍しくって見ているけど、うんと遠くからで、近づいたり、僕にヴァルのことをきいたりすることはなかった。まるでドラゴンに興味をもつなんていけないことみたいだった。
それでも僕は、ヴァルが来てうれしかったんだ。みんなが僕のことをひそひそとうわさするのも、学校や教会で一緒に座りたがらないのもここへ来てからずっとのことでなれっこだったから、そういうのは問題にならなかった。僕は毎朝なるべくおそくに学校へ行って、お昼に授業が終わるといちもくさんにうちへ帰った。ヴァルも待ちかまえていて、僕がパンとチーズを食べるのをじれったそうに
「そんなまずそうなメシ、はやく終わらせろ」
って急がせた。僕がお昼ごはんをのどにつまらせたりしながらようやく胃ぶくろへ押し込むと、僕たちはすぐに外へ飛び出してゆく。おばさんが
「宿題をしてからになさい」
なんて言おうものなら、
「うるせぇ、ババァ」
って、ヴァルが言った。
ヴァルは本当に口が悪くて、行進ごっこをしてる子たちを見て
「あいつらは何が楽しくて、あんなバカみたいに声はりあげて歌なんか歌いながら歩いてるんだ?」
って僕にきいたりした。
「兵隊ごっこだよ。砦に向かって行進してるんだ」
ヴァルのキンキン声はよくとおるから、僕は(本当は僕もみんなの歌はヘタクソだと思ってたけど)子どもたちに聞こえないか心配になりながら教えてあげた。ヴァルはいつも鼻でわらって言った。
「くだらねぇな。俺たちはもっとおもしろい遊びをしよう」
悪の大魔王の手先ヴァルドー・ドラゴンは勇者にうばわれた財宝を取りもどすために百億のイナゴの軍勢を引きつれて奇襲をかけにやって来る。勇者はお育ちがよすぎて虫が大変嫌いなので、見習い魔法使いのハンゼル(僕)をかわりに行かせる。
「なんだかネズミみたいな野郎が出てきたな。俺様が手をくだすまでもない、イナゴども、ひ弱な魔法使いをやっちまえ!」
「させないぞ! 僕の魔法で、えーと、イナゴを金貨に変えてやる!」
僕が魔法の杖をかまえるふりをすると、ヴァルはすかさず、
「ところがハンゼルの魔法は失敗! 百億のイナゴはオタマジャクシの雨となってハドリアヌスの長城に降りそそぐ!」
「うえぇー」
僕は城壁が黒光りするオタマジャクシに埋めつくされているのを想像した。百億のオタマジャクシがびちびちはねて、そこいらじゅうがぬるぬると黒く波打っている……。
「ヴァルドーとハンゼルの一騎打ち!」
僕はふと思いついて反撃した。
「すると、魔法でさっきのオタマジャクシがカエルになって大合唱!」
今度はヴァルが
「ぎゃーやめろー、耳がつんざける!」
とさけびながら地面に落ちた。のたうちながら笑っていた。
「百億のカエルの合唱だって? きっと千の雷鳴がとどろくようなものだぞ」
「ねえ、勇者にうばわれた財宝って何なの?」
ぐふぐふ笑ってるヴァルのそばにしゃがんで、僕はたずねた。
「ずっと俺たちのものだったのに、このごろおまえら人間が使い道を見つけてどんどんとるようになったものさ」
ヴァルは真顔になって答えた。
「それって何のこと?」
「おかげでドラゴンは急速に減ってる。おまえら人間は俺たちから何でもうばう。熱も知恵も、力はぜんぶ俺たちのものだったんだ」
ヴァルはあおむけに寝ころんだまま、はいいろの雲が流れてゆくのをながめていた。その目を見ていたら、僕はいつかもといた町の道ばたで見たネコを思い出した。それはぺしゃんこにやせた黒ネコで、もう動けなくなって横道の暗がりによこたわっていた。僕がそばにしゃがむと、そいつは緑の目でじっと僕を見返した。その目はすべてわかっていて、しずかに死を待っていた。
「それじゃ、本当は人間をうらんでいるの?」
「ドラゴンは人間が嫌いだ」
ヴァルの声はするどかった。
「だけど、僕はヴァルが好きなんだよ」
「ハンスはやさしいから好きだ」
僕はほっとして、うらみのことをそれ以上ふかくは考えなかった。だって空がかげってきたからヴァルがトイトブルクごっこをしようと言いだして僕たちはすぐに森へ出かけてしまったし、僕を好きだと言ってくれた友だちだからってことで、ひどいことなんて考えたくなかった。
山のふもとまで広がっている畑の中に木がしげって小さな森になっているところがあって、僕とヴァルはよく冒険に出かけた。ヴァルは雨がふりそうなときには森でウァルスの三個軍団をうちやぶるトイトブルクごっこをするのが好きで、僕はゲルマニアの守護神ヴァルドーが指揮するゲリラの戦士になって見えない敵に奇襲をかけた。
僕はヴァルが来てくれてうれしかった。
ヴァルと遊んでいると、ときどき、もしイマヌエルがふつうの兄さんだったらこんなふうに遊べたのかな、と思うことがあった。僕と遊ぶイマヌエルを想像するのは、疲弊したローマ兵を想像するよりもずっと難しかったけれど。
***
僕が家を出たのはヴァルと会うひと月前の、クリスマスの翌朝のことだった。
お父さんはお手伝いのカミラさんに僕を送ってもらえばいいと言ったけれど、お母さんは何年も会っていない自分の姉さんにあずけるのだから、ゲルダと兄さんをカミラさんにお願いすると言い張った。僕は、それでお父さんの機嫌がよけいに悪くなったので、お母さんが一緒に来てくれるのはうれしいはずなのに胃がヒリヒリした。
出発の朝、ゆりかごのゲルダにさよならをすると言ったら、お母さんはイマヌエルが近くにいないことに気づいてしまった。お母さんが
「こんなときに、あの子は」
なんてつぶやきながら兄さんをさがしに行こうとするのを見て、僕はあわてて、
「さっき、部屋で見たよ。もう、あいさつしたよ」
って、後ろの半分はうそをついた。それでわかってほしかったのに、お母さんが兄さんに見送りをさせようと決めこんでしまって止まらないから、お父さんがイライラして
「いい、あの子のじゃまになる」
って言うのを、聞かなきゃならなかった。
僕は兄さんのじゃまになる。イマヌエルのじゃまをしたらいけない。
階段をおりる前に見たとき、イマヌエルはいつものように自分の部屋のなかをぐるぐる回りながら考えごとをしていた。ときどき指先をすばやく空中に走らせるのは、お父さんにも難しい数式を書きとめているらしい。六つ年上の兄さんは背が高くて、彫刻みたいにととのった顔をしている。僕はこういうときに声をかけても兄さんの耳に入らないのを知っていた。近づいても目に入らないし、歩いてくるところへ立ちふさがってみても、家具をよけるみたいによけられるだけだろう。イマヌエルは神秘的で、何かしてほしい用事のあるときでないと人の姿が見えないみたいだった。もしかすると僕の顔を知らないんじゃないかとさえ思う。兄弟でふざけたことも、おしゃべりしたこともない。あんまりはやく記号の洗礼を受けてしまうと、ただの子どもやただのおしゃべりになんか興味をもてなくなるのかもしれない。
僕が小学校へあがるので苦労しておぼえた時計を、イマヌエルはまだ二歳のときにある日とつぜんよめるようになった。それからというもの彼は記号のとりこで、小学生になる前に小学生の算数はぜんぶわかってしまったので、学校へは行かずに、えらい大学の先生とその学生さんたちに来てもらって、十歳から大学に出入りしている。
そんなイマヌエルをお父さんは「神に愛された子」だといって、イエス様をさずかったみたいに大事にしていた。特に小さい頃はものすごく体が弱くて病気ばかりして何度も死にかかったそうだから、よけい大事に思うのかもしれない。僕が生まれることがわかったときも、ちょうど兄さんが最後の大きな病気をどうにか乗りこえたところで、お父さんはお母さんを怒鳴りつけたらしい。いらないことにきみが力をそがれて、イマヌエルのことがおろそかになるじゃないかって。
僕はお父さんにとって「いらない子」なんだ。
***
「ハンス、これを見ろ」
ローマ軍をおいつめているうちに雨がふってきて、ぬれて帰って服をかわかしているとヴァルがどこからか巻紙をもってきて僕の前に広げた。
「地図だ。宝の地図を手に入れた」
「それ、僕のだよ」
「日曜日に冒険に出よう」
パチパチはぜる暖炉の火みたいな金いろの目が僕を見つめる。
「どこまで行くの?」
「東の果ての黄金の国だ」
そのとき空がさけるような音がして、大きな雷が近くに落ちた。
僕は急にてのひらがあたたかくなったような気がして、あることを思い出した。雷が鳴るとイマヌエルが叫ぶ。叫び声が近くなってきて、通りがかって僕を見つけると、まっすぐに来て、何も言わずに僕の両手を取って、僕のてのひらで耳をふさぐ。最初に見つけるのがお母さんならお母さんの手で、カミラさんならカミラさんの手で、イマヌエルは耳をふさいだ。いろが白くて彫刻みたいに冷たそうなのに、兄さんの頭は熱かった。
「こわいのか?」
声がしてわれにかえると、ヴァルが僕を見てにやにやしていた。
「ちがうよ」
「こわいんだな。こわいんだ」
ちがうと言えば言うほどヴァルは有頂天になってからかう。しつこいんで
「ほら、ヴァル、きみもまだぬれてるよ」
って僕が使ってたタオルでつかまえてめちゃくちゃにこすってやったら、口では
「やめろー」
って言いながらくすぐったがってのどを鳴らして笑った。
その頃が一番楽しかった。ヴァルがまだ小さくて、僕とだけ遊んでくれたから。
つづく
『ヴァル 迷子のドラゴン Chapter 1-3』 せっか 作
冬の嵐が暴れた晩、西の山から飛ばされてきた。ヴァルは偉そうで、偉そうで、乱暴で、怖がりな、たったひとりの、僕の友だち。 ■どこにいてもさびしくて、叫びたくなるほどやるせなくて、何をしでかすかわからない自分が怖かった。全年齢対象の児童文学。
| 更新日 | |
|---|---|
| 登録日 | 2017-06-02 |
Copyrighted
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