共謀罪、政府与党の主張を徹底検証!

衆議院にて、与野党の激しい攻防が繰り返された共謀罪法案。自民公両党と日本維新の会は、予定していた審議時間30時間に達したとして、今月23日、強行的に採決を敢行しました。疑問が残る政府説明。法案をめぐる議論は舞台を参議院に移し、引き続き与野党の対立が見込まれます。今回は、専門家と共に政府与党の主張を解析しました。2017年5月16日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「共謀罪、政府与党の主張を徹底検証!」より抄録。(構成/増田穂)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

共謀罪はTOC条約締結のために不可欠?

 

荻上 本日のゲストをご紹介します。京都大学法科大学院教授の高山佳奈子さんです。よろしくお願いします。

 

高山 よろしくお願いします。

 

荻上 高山さんは先月参考人質疑で法務委員会に参加されていますが、ご自分の意見が参考にされたという実感はありますか。

 

高山 国会の場では大きく4点の問題を指摘しましたが、実質的に国会で取り上げていただいたのはそのうちのごくごく一部ですね。

 

荻上 4つの問題点の1つとして、高山さんは「東京五輪開催を控えたテロ対策として、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結は必須であり、その国内担保法として共謀罪が不可欠」という政府の主張に異議を唱えていらっしゃいますが、そもそもこのTOC条約とはどういったものなのでしょうか。

 

高山 TOC条約は2000年にマフィア対策の条約としてできたもので、国際法上はテロ対策の諸条約とは全く無関係なものです。マフィアが典型的なターゲットなことからもわかるように、利益を得ることを目的とした組織的な犯罪集団が取り締まりの対象でした。テロのような宗教的、政治的な目的の犯罪行為の取り締まりとはそもそも中身が違うんです。政府側はTOC条約に加盟していないと五輪を招致できないといったことを言っていますが、そもそも招致できているのですから、政府の主張は論理的に間違っています。

 

荻上 TOC条約の締結自体はどのような重要性があるのでしょうか。

 

高山 私もTOC条約の加盟自体には賛成です。とりわけ日本の場合には国際的に人身売買対策が求められています。性的なサービスに不法に従事するために女性などが途上国から買われ、その最終終着地が日本の場合もあるということで国際的な批判があるんです。対策強化のために国際協力を推進することはいいことだと思っています。

 

荻上 政府はTOC条約締結のためには共謀罪を成立させなければならないと主張していますが、この点はいかがでしょうか。

 

高山 国際条約への国内法的な対応は、条約全体の目的や趣旨に照らし合わせて対応することが必要です。TOC条約に関しては、確かに共謀罪に似た対応を選択肢の1つとして求められています。しかし日本の場合は、従来からある共犯の処罰範囲と、未遂の前の段階で処罰する予備罪、また危険犯と呼ばれる犯罪類型を組み合わせることで十分対応できると考えています。

 

高山氏

高山氏

 

荻上 専門家の中には既存の枠組みでは不十分とする人もいますが、そうした意見の相違はどういった解釈の違いから起こるのですか。

 

高山 TOC条約の条文をそのまま読むと、長期4年以上の自由刑のある犯罪については全て共謀罪を作らなければならないような書き方をしているんです。条文を文字通りに解釈すると、現行の法体制では足りないという意見になるのかもしれません。

 

しかし、4年以上の自由刑を法定刑の中に含んでいる罪について全て共謀罪立法しなければならないと解釈すると、過失犯、つまり事故の共謀を処罰するというようなことになるんです。事故ですから意図がない。意図はないのに共謀があったと捉えるという矛盾が生じます。TOC条約は実は英米法によくみられる典型的な共謀罪を義務付けているわけではなく、未遂よりも前の段階で処罰できればいい。日本の場合危険が発生した段階で処罰する犯罪類型が諸外国よりたくさんありますので、そうした日本の現行法で対応が可能でしょう。

 

荻上 殺人に関しては予備罪がありますし、爆発物などは所持や製造の段階で取り締まりの対象になりますよね。

 

高山 ええ、最近だとドローンの取り扱いにも法規制が敷かれています。危ないものが出てきたときは、その都度立法して犯罪として扱うようにしていますので、テロなどの手段はこうした法律で取り締まれる。新たに共謀罪を作る必要はないんです。

 

荻上 TOC条約はテロ対策法ではないとのことですが、逆にテロ対策のための条約はあるのでしょうか。

 

高山 主要な国際条約だけでも13本存在し、これに加えて国連の安保理決議などで対応を求められています。日本はすでにそれらの全てを国内法化して対応を完備しています。こうした枠組みで、テロ対策に関しては諸外国との連携が可能です。

 

荻上 TOC条約の批准はマフィア関連の情報共有にはつながるけれど、テロの情報共有にはつながらないということですか。

 

高山 その通りです。

 

荻上 逆にテロ対策の情報は共有できるけれど、マフィア関連の情報が共有できずに困るということはないのでしょうか。

 

高山 考えられえないことはありませんが、日本はもともと現行法の処罰範囲がとても広いので、国際基準に達するレベルで取り締まれない、もしくは危険を察知したときに情報を提供できないといったことが起こる可能性は低いです。

 

荻上 現在のTOC条約に関する政府の説明だと、共謀罪を立法して、TOC条約を批准しないと日本だけ危険情報をもらえないといった話になっていますが、この認識は正しいのでしょうか。

 

高山 TOC条約には現行法でも十分に締結が可能です。国会で参考人として発言された元外交官の方は、諸外国の外交官から、なぜ日本はこれだけの法制度を持ちながらTOC条約を締結しないのか理解できないと言われると発言しています。諸外国からみたら、現行法でも十分にTOCに対応できると認識されているということだと思います。

 

荻上 実際、朝日新聞が、TOC条約の解説作成に携わった方のインタビューを掲載しています。そこでは、これはテロ対策ではないと明言されていました。

 

高山 国連の公式立法ガイドを担当されていたパッサス教授ですね。「組織犯罪の対策」の対象はテロ集団ではなくマフィアであると明確に発言されています。

 

そもそもTOC条約ヘの対応は締約国の義務ですが、入ってからの対応でも問題ないんです。確かに条約は締結したら立法義務が生じますが、作ってからでないと入れないということではない。日本の例で言いますと、海賊対策が定められている国連海洋法条約を締結する際は国内立法としては対応せず、10年以上経ってから海賊処罰の新法を制定したということもあります。これも国際法上は問題ありません。

 

荻上 にも関わらず、政府はTOC条約の締結には共謀罪の法律が必要だと説明しています。その理由を考えた時に、法案を通すために外圧を利用しているとも取れなくないですが、そのあたりはいかがでしょうか。

 

高山 そう思われても仕方のない状況ですね。「テロ等準備罪」と言われていますが、今回の法案の内容はTOC条約にこそ関係があるかもしれないけれど、テロ対策に関する条文は一つも含まれていないんです。その点では「テロ等準備罪」という呼び名自体が的を射ていない。テロ対策と銘打ちながらTOC条約と結びつけるのは国民をだますような議論の運び方だと思っています。

 

荻上 今回の法案は「替え玉立法」、つまり法案が通りやすい別の名前を付けて、実際には内容的に異なるものを通そうとしているように見えます。テロに対しては多くの人が危機感を抱いているので、「テロ対策」というと容認されやすくなるという思惑はありそうですね。【次ページにつづく】

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