日本を訪れる外国人旅行客が増える一方で、ヨーロッパの人になかなか理解されないのが、日本人がタコを好んで食べることだ。旅行先の大阪で初めて「たこ焼き」を体験して、おいしさにハマる人が続出中だというが、正体を知れば「デビル・フィッシュ(悪魔の魚)」と呼んで忌み嫌われる生物タコ。その理由が理解できる調査結果が海洋哺乳類学誌『Marine Mammal Science』に発表された。
西オーストラリア州マードック大学のナヒード・スティーブンス教授は、2015年に死んだミナミハンドウイルカを解剖した結果、マオリタコの触手が気道に張り付いて窒息したのが死因だと発表した。
イルカは、地元サーファーが「ギリガン」と呼んでいた人気者のオスで、2015年8月に同国西南端のバンバリー港近くの砂浜に打ち上げられた際に、口の端からタコの触手がはみ出していた。
マオリタコは、豪州周辺に生息する世界で3番目に大きな種類のタコで、ギリガンが食べようとしたのは重さ2.1キロもあったという。通常、豪州のイルカがタコを狩るときは、口で触手をくわえて空中でブンブンと振り回し、海面に叩きつける動作を繰り返して、吸盤の吸着力を弱める方法をとることがこれまでの研究で明らかにされている。
しかし、ギリガンはよっぽど腹をすかせていたのか、準備体操を怠って、パックンと飲み込んだため、8本の触手の吸盤がすべて気道に張り付いて、呼吸できなくなっていたという。
世界では毎年のように、イルカやアシカがタコの被害に遭っており、2012年にはギリシャで生殖器を握り締められて犠牲になったイルカも報告されているという。
「タコの危険性が知られているにもかかわらず、イルカが狩りをやめないのは、タコの高いタンパク質と味の良さです。特に、繁殖活動を終えた後のタコは、疲れやすく、魚よりも簡単に捕食できるので、格好の餌食となるのです」とスティーブンス教授。
葛飾北斎が描くところのタコと交わる海女の浮世絵を彷彿とさせる研究結果だ。