ドイツでは、「プロテスタント教会デー」という大集会が2年に一度開かれる。今年は5月24日から28日までの5日間で、開催地はベルリンとヴィッテンベルク。ヴィッテンベルクというのは、マーティン・ルターゆかりの地だ。
プロテスタントの歴史は、いうまでもなく、ルターが聖堂の扉に張り出した「95ヵ条の論題」から始まる。この聖堂は、ルターが教鞭をとっていたヴィッテンベルク大学の中にある。今年は、ルターの「95ヵ条の論題」が貼り付けられてからちょうど500年目。プロテスタント教会にとっては記念すべき年だ。
教会デーの目的を一言で言うなら、キリストの教えの下、世界を良いものにしていこうする人たちが一同に集い、その思いを確認し合うことだ。野外の礼拝、講演会、多種多様なコンサート、セミナー、聖書の勉強会、シンポジウム、ピクニックなど、幾つもの会場で、朝から晩まで盛りだくさんのイベントが組まれており、お金さえ払えば誰でも参加できる。
5日間のどのイベントにも参加できるチケット(大人112ユーロ・約1万4000円)が、前売りで10万枚売れたという。今年のテーマカラーはオレンジだったので、参加者は皆、お揃いのオレンジのスカーフをつけていた。
教会デーの特徴は、全員が高揚し、幸せそうなことだ。皆が善良な思いを胸に抱き、平和を願っている。
昔の教会とは違って、達成すべき大きな目標として「民主主義の実現」というのが加わったが、何千もの人々がともに祈り、歌っている様子を見ていると、人間というのは皆で同じ所作をすると次第に陶酔し、熱狂して行く習性があるのだと感じる。
また、自分たちが良いことをしていると信じたとき、一番幸せになるのはその本人であることもわかる。おそらくこの心理は、民主主義ともキリスト教とも直接の関係はなく、どこの世界のどの時代でも、同じなのだろう。
その幸せな人々の集いに、トップクラスの政治家たちがオレンジのスカーフを手ぬぐいのように首にかけて参加し、それぞれ講演や対談をした。これを見ていると、ドイツで政教分離は機能していないし、機能させるつもりもなさそうだ。
それどころか、ここでの講演やセミナーのテーマは、経済成長の終焉、食料と農業、難民・移民、老後の生き方からフェミニズムと、教会がどっぷりと政治に踏み込んでいることがわかる。
ゲストの一番の目玉はオバマ前大統領。25日に、ベルリンのブランデンブルク門の前に作られた舞台で、メルケル首相と対談した。
ドイツでのオバマ人気はいまだに爆発的だ。2008年、まだ彼がただの大統領候補だったとき、ベルリンの野外スピーチで10万人を熱狂させたことはすでに伝説だが、アメリカで人気が落ち込んでいる今でさえ、ドイツでは破格の人気。「オバマとドイツ人、ラブストーリーは続く」と『ディ・ツァイト』紙は書いた。
そのオバマ氏、翌26日はバーデン・バーデンで、今年のドイツ・メディア賞を受賞。この賞は、メディアと旅行業界を仕切る経済人が授与しているもので、ちなみに昨年の受賞者は、前国連事務総長の潘基文氏。授賞式は毎年、600人もの政界、産業界、文化人、スポーツ界の大物を招いて華々しく行われる。オバマ氏は受賞スピーチで、ナショナリズムの台頭に警鐘を鳴らした。