日本では東芝の消滅が現実味を帯び始めている。生き残りに必要な半導体部門の売却もまだ先が見えない状況が続いている。それ以前に、東芝破綻の原因となったウエスティングハウスの運命すら決まっていない。
3月末にニューヨーク州の破産裁判所に出された同社の破産法第11条の申請は、現在、審理が行われている。まだ破産手続きは完了していないが、同社の帰趨によってアメリカと世界の原子力産業の業界図は大きく変わると予想される。また、トランプ政権は安全保障上の観点から同社の動向に強い関心を示している。
日本ではあまり報道されていないが、実はこれらの要因が東芝・ウエスティングハウス問題を複雑に、そして深刻にしている主因なのである。つまり、いち企業の経営問題をはるかに超えた利害の絡まりで、ウエスティング関連で東芝が背負わなければならない損失や負担がまだ確定していないのである。ここではアメリカ側の視点からウエスティングハウス問題を分析してみる。
一般に知られていないが、4月19日にアメリカ連邦議会調査局(CRS)は『ウエスティングハウスの破産法申請はアメリカの新核プロジェクトを危機にさらす』と題する詳細なレポートを発表している。この報告はウエスティングハウスの危機と今後の問題についての分析だが、問題の全容を見るために、その内容を紹介してみよう。
ここでは、ウエスティングハウスは、アメリカ国内で現在稼働中の99の原子炉のほぼ半分を建設した実績を持ち、「同社の破産法申請はアメリカの原子力発電産業の将来に基本的な問題を提起している」と、事態の深刻さを指摘している。
ウエスティングハウスの経営破綻は、2008年に“固定価格”でジョージア州のヴォグトル発電所内に2基の原子炉、サウス・カロライナ州のV.C.サマー発電所内に2基の原子炉を建設する契約を締結したことが発端である。契約を締結後、資材価格の上昇があり、さらに工期の遅れも予想されるようになった。契約では、その費用の増加分はウエスティングハウスと東芝が負担することになっている。
焦点は、この4基の新原子炉の建設が完了するかどうかなのである。ジョージア州の2基の原子炉建設計画は、エネルギー省が83億ドルの融資保証を与えている。この保証はオバマ政権が与えたもので、融資は連邦金融銀行(Federal Financing Bank)が行っている。直近で、融資保証のうち実施に移された額は53億ドルに達している。同原子炉の建設が完了しない場合、それは連邦政府の債務として残る可能性がある。
当初、この4基の原子炉の建設は2016年から18年に竣工する予定になっていた。その費用は、ヴォグトル発電所の2基の原子炉はそれぞれ48億ドル(金利分は除く)、サマー発電所の2基の原子炉はそれぞれ57億ドルである。15年に結審した費用増加分の負担を巡る係争では、発電会社が費用増加分の一部を肩代わりする代わりに、将来の工期の遅れや費用増加分は、ウエスティングハウスと東芝が負担することで決着した。
その後、東芝は、2017年2月14日に、15年以降の4基の原子炉建設費用が61億ドル増えるという推計を発表。その費用を負担するのは難しいとの判断から、東芝はその6週間後にウエスティングハウスの破産法第11条申請を決めたという経緯がある。ウエスティングハウスが破産裁判所に申請した書類では、同社が負担しなければならない額は98億ドルとされている。
破産法申請後もウエスティングハウスは4基の原子炉の建設を継続している。サマー発電所の2基は2016年の段階で約61%完成している。裁判所に提出した書類には、「当初の評価期間中は原子炉の建設を続ける」と書かれており、計画では、ヴォグトル発電所の2基の原子炉は19年、サマー発電所の2基は20年に完成することになっている。
だが、評価期間終了後の事業計画として「新規の原子炉建設を除く“中核事業”を継続する」とも書かれている。これは、同社が”新規の原子炉建設事業”から撤退するということを意味する。
さらに、このことは、既存の原子炉建設事業からの撤退の可能性という憶測を呼んでいる。もし現在進んでいる原子炉建設から撤退すれば、発電会社2社は新たな建設会社を見つけなければならず、その場合、工期はさらに遅れ、費用も増大する可能性がある。竣工が2020年を超えれば、電力会社は原子力発電減税措置(nuclear production tax credit)を受けられなくなる可能性もでてくる。
ここで東芝にとって問題なのは、もしウエスティングハウスが工事から撤退したとしても、工費の増加分を負担することを保証していることだ。CRSの報告書は「サマー発電所とヴォグトル発電所で原子炉の建設を続けることができるかどうかは、東芝が費用の増加分を保証するか、破産裁判所がウエスティングハウスにも支払いを命じるかにかかっている」と指摘している。ウエスティングハウスを法的に整理したからといって、追加損失が止まるとは限らないのである。
もし発注元である電力会社が原子炉建設を止めた場合、電力会社は連邦政府から借りている融資全額を5年以内に返済しなければならない。ウエスティングハウスも、東芝も、電力会社も、連邦政府も、いずれも厳しい選択を迫られる状況となっている。
破産法第11条の破産計画成立には、再建を前提に債権者ら関係者が損失負担に合意する必要がある。しかし、誰もが損失の発生や損失増は受け入れ難い。このように東芝にしてみれば、将来の負担額が簡単に確定する状況にないのである。
さらにトランプ政権の原子力政策にも大きな影響を与えそうである。エネルギー省のスポークスマンは「ウエスティングハウスの破産申請の審議の動向に大きな関心を抱いている」と語っている。