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 大空を舞う気高きハンターであり、捕食の頂点に立つ猛禽類のワシ。

 卓越した狩猟能力とその雄々しさゆえに、人間は畏敬の念を抱く。ここでは彼らに関してのちょっとした雑学を見ていくことにしよう。
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10. ハーストイーグル


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 現生するイヌワシは52kgf/cm2というライオンの咬力を凌駕する握力でヤギを崖から突き落とすことができる。しかしそんなイヌワシをもってしても、かつてニュージーランドに生息していたハーストイーグルの前では霞んでしまうのだ。
 
 マオリ族が辿り着く以前、ニュージーランドには3種のコウモリしかいなかった。競争相手がいない環境で鳥は繁栄し、どんどんと大きくなった。

 体長3.6メートルの飛ばない鳥モアが登場するが、その彼らは史上最大最強のワシの格好の餌となった。

 翼長3メートルのハーストイーグルはニュージーランド生態系の頂点であった。

 時速80キロ、70kgf/cm2という力でダイブしたこのワシは人も殺したとマオリ族の伝承で伝わっている。しかし乱獲によってモアが絶滅すると、ハーストイーグルもまた絶滅した。

 1871年、地質学者のユリウス・フォン・ハーストがこのワシの話を聞いたとき、「まさか!」と一笑に付したという。だが、その骨を見た瞬間黙り込んでしまったほどだ。


9. 鷲匠


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 マオリ族を食い殺したとされるハーストイーグルだが、イヌワシは人間のために狩りを行った。

 獲物に応じた数々の狩りの技術を身につけているイヌワシは、中世ヨーロッパでは鷲狩りで利用するために保護されていた。そうした伝統は今でも続いており、特にモンゴルのものが有名だ。

 ワシはヒナの頃に巣で捕獲され、育てられる。主人となるのはただ1人のみであり、両者は強い絆で結ばれる。

 10年ほど家族として過ごしたのち野生に還され、そこで次代を産む。ユーラシアの草原では、鷲匠が馬に乗って、狼、狐、野ウサギといった獲物を追跡し、ワシに襲撃させる。


8. 警察ワシ vs 犯罪者のドローン


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 人間が開発した機械、ドローンの天敵はワシである。

 扱いやすく小回りがきくドローンは様々なシーンで活躍しているが、盗難の標的の事前調査や爆発物を投下するなど、ときに悪用されることもある。報告書によれば、ドローンに麻薬をくくりつけ、刑務所内に運び込んだという事例もあるそうだ。

 オランダ警察では、こうした最新マシンを悪用した犯罪に対抗するためにワシを利用している。ワシはドローンが縄張りに侵入すると自然の鳥であるのと同じように反応する。しかも訓練を受けたワシならプロペラを避けて襲撃することもできる。

 オランダ警察の成功を受けて、イギリスの警察やフランス空軍もワシの導入に関心を示しているそうだ。


7. 殺虫剤DDTの危険の嘘


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 ワシは政治にも利用されてきた。DDT禁止のキャンペーンである。殺虫剤のDDTは強い毒性を持ち、野生動物も殺してしまうと喧伝された。特に言及されたのが魚を食べて生体濃縮が進むとされたハクトウワシである。大人のハクトウワシすら死に至らしめ、卵のカラも薄くなるとされた。

 しかし、これに科学的な根拠はない。当時ハクトウワシは確かに減少していたが、それは狩猟や生息域の減少が原因である。ハクトウワシ保護法が施行されると、DDTの使用量がピークだったというのに、速やかに数が増加した。

 米魚類野生生物局では、112日間ハクトウワシに大量のDDTを食べさせるという実験を行なったが副作用は確認されず、さらに1961〜1977年に発見された数百羽のハクトウワシの遺体でDDTあるいはその残留物が死因だったものも一切見つかっていないという。


6. ハクトウワシは死肉を漁る臆病者


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 高名な野生動物の専門家によると、ハクトウワシはハンターではなく、スカベンジャーで泥棒なのだそうだ。

 その体の大きさは魚の狩りが得意なミサゴから餌を横取りするために使う。実はハクトウワシは本当に純粋なワシではなく、アフリカのコンドルに連なるウミワシなのである。ウミワシの仲間は基本的に狩りをせず、するとしても渡りで疲れて死にかけているサケを獲るくらいだ。


5. ハクトウワシ・オジロワシの愛の営み


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 それでもハクトウワシの美しさは紛れもないもので、とりわけ死の螺旋を描くその姿は雄壮そのものである。2羽のワシは爪を握り合い、地面すれすれまで空を滑るように落下する。

 ハクトウワシやオジロワシにとってこれは究極の求愛行動で、自らの健康さを誇示する行動だ。彼らは正真正銘の一雄一雌の繁殖行動を持ち、他の鳥類と違い浮気をすることもない。また巨大な巣を数世代に渡って使う。巣は通常木々の中に作られるが、アイスランドで発見されたあるオジロワシの巣は150年も存在した。


4. メスの兄弟殺し


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 生涯の伴侶が見つかると、巣を作り(あるいは改装)1〜5個の卵を産む。卵は常にどちらかの親によって守られており、外敵は容易には近づけない。

 だが真の危険は身内の中にある。先に生まれたヒナ、特に体の大きなメスが兄弟を殺してしまうのである。強い者しか生きられない自然界の掟をここでも見ることができる。

 だがなぜ、ワシの仲間はメスの方が大きくなったのだろうか?

 確かなことは不明であるが、有名な説によれば、営巣、抱卵、保護、オスからの無用な求愛を避けるといった母性本能に関連した行動を取る上で体が大きい方が有利だったからなのだという。他方、オスは狩りで有利になるように軽く俊敏な体を進化させたそうだ。


3. 神話のモチーフ


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 ワシはいくつもの神話のモチーフとなってきた。雷を操るというサンダーバードの伝説は、嵐の風に乗るワシがモデルであると言われている。

 有名な「船乗りシンドバッドの冒険」に登場する怪鳥ロック鳥は、絶滅したマダガスカル・カンムリワシとモアの近縁のエピオルニスがモデルであるようだ。体長3メートルもあり、巨大な卵を産むエピオルニスの姿が誇張されたのであろう。


2. ワシの光と影


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 ワシは世界各地でシンボルとして用いられている。18種が国の鳥に指定され、国家機関の紋章としてワシをモチーフにするものは25種存在する。しかし産業革命によってその地位が危うくなったこともある。

 家畜を守るために銃が使用されるようになると、ワシは害獣として駆除された。例えば、1917〜1953年ではハクトウワシがサケ漁を荒らすという誤解が広まり、アラスカで10万羽以上が殺された。

 幸いにもワシを保護する法律が各地で成立している。アメリカではハクトウワシやイヌワシを殺した場合、最高2,500万円相当の罰金が科され、羽を所有するだけでも逮捕の対象となる。

 またフィリピンでは、絶滅危惧種のフィリピンワシを傷つけたり、殺したりした場合、最大12年の懲役や200万円以上の罰金を科される。


1. ワシの目


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 ワシを語るなら、その卓越した視力に触れないわけにはいかない。

 人間の4倍の距離を見通すことができ、視力5.0で暗闇なら暗視装置の100倍という性能を誇る。紫外線を見ることも可能で、獲物の尿に反射する紫外線を検出するという芸当もやってのける。

 上空から獲物を探し、ターゲットを見つけると一気に急降下して仕留める――精密機械のような動物なのである。しかも恐れ知らずだ。

 ほとんどの鳥は獲物に襲いかかる直前、肩越しに振り返る。狩りとは要するに諸刃の剣なのだ。タカの場合、小さいチョウゲンボウから大型のアカケアシノスリまで、どの仲間でもこの習性がある。しかし、このような躊躇を見せるワシはいない。

via:Top 10 Fascinating Facts About Eagles/ translated hiroching / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 20:35
  • ID:JFQo6DFb0 #

猛禽類凄いよね
この前カラスが交錯した一瞬でまっさかさまに地面に落下して即死してた

2

2. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 20:38
  • ID:JPpzO1mL0 #

ハゲワシの項目はハクトウワシの間違いじゃないですか?
リンクの元記事はBald eagleってなってますし

3

3. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 20:41
  • ID:A.tPcx.C0 #

卓越した視力に老眼とかはないのかな

それにしてもかっこいい
神様が丹誠込めて作った傑作のひとつだね

4

4. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 20:49
  • ID:GIJPzUBV0 #

タカやワシも凄いですが、
同じ猛禽のフクロウもヤバいのです。
集音マイクで拾えない羽ばたきは
特に脅威なのです。

我々は賢いので。

5

5. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 20:51
  • ID:lu2MbDNy0 #

目くれよ!!(視力0.01のホモサピ)

6

6. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 20:55
  • ID:SRLOVac90 #

6の言ってることが分からなくて元記事見たけどbald eagleはハゲワシじゃなくてハクトウワシじゃない?

7

7. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 21:09
  • ID:VJokusYE0 #

もしかして;
ハゲワシ⇒白頭ワシ
の翻訳エラーじゃないかしら…

8

8. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 21:13
  • ID:NUYuRc490 #

ワシ(53)

9

9. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 21:22
  • ID:rvxzp5QQ0 #

その11.正面から見ると意外と可愛い顔をしてるw

10

10. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 21:24
  • ID:4vpHA5KT0 #

9の写真がまるでシュトヘルの世界

11

11. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 21:50
  • ID:MBCw1MIV0 #

やったぜ

12

12. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 21:50
  • ID:R704SsvB0 #

ワシの目をヒトに移植できた場合は同じような能力を得るのかな?それとも脳の処理が追いつかない?

13

13. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 21:57
  • ID:VeF2U2vD0 #

8. 警察ワシ vs 犯罪者のドローン
はワシがいつか傷つく気がして止めて欲しい。

だって生まれ変わって鳥だったら猛禽類が良いなと思ってるし

14

14. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 21:57
  • ID:y1mDQsWE0 #

6に「死肉」があるけどこれハゲワシだと思って訳した時の名残?
本文の内容と食い違ってない?

15

15. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 22:07
  • ID:PO9xp8zC0 #

ゆったり舞ってるイメージのトビも実際近くで見ると凄く大きくて、これは敵わないと思わせる何かを感じるほど。

16

16. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 22:10
  • ID:ucqxQTMU0 #

DDTの毒性に対する一連のキャンペーンは、世界史においても稀な集団ヒステリーだとしか思えないね。
多くの国で土着マラリアを根絶する事が出来たのは、間違いなくDDTのお陰だし、もし世界的にずーっと散布を続けていたら、今頃マラリアや、他の多くの原虫性の感染症は根絶出来てたかもしれない。
現時点では「人に対する発がん性があるかもしれない物質」に格下げされているけど、一時期は途轍もなく危険な薬剤だとして世界的に禁止されて、結果的にマラリア患者などの激増で戦争並みに多くの人が命を落とした。
スリランカに至っては、DDT散布前のマラリア発生数は年間250万人前後→DDTが散布されて、そして禁止される直前の発生数、実に年間31人!→DDT禁止されて僅か5年で、再び250万人に逆戻り…。
WHOは、全く根拠のない間違った決断で一体どれほどの人を殺したのやら。

…という事は知っていたけど、ワシの人もその証人だったのね。

17

17.

  • 2017年06月01日 22:16
  • ID:4WyEjN3O0 #
18

18. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 22:28
  • ID:R8X.sLqp0 #

ワシをおかずにしようというツワモノはおらぬかあ!
ワシをおかずにしようというツワモノはおらぬかあ!

19

19. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 22:40
  • ID:r8ekGVJu0 #

猛禽類はふつうメスの方が大きいけれど、ワシの場合はその差が大きいんだよね
ゲド戦記でゲドがハイタカと呼ばれていて、これはこの種類のメスの呼称でオスは
コノリだけど、もうゲドはハイタカっていうのが自分の中に染み付いてる
(今はハイタカにオスもメスも名前が統一されてるみたいだけど

20

20. 匿名処理班

  • 2017年06月01日 23:04
  • ID:vmICiKAA0 #

流石はラプターの名を冠するだけはあるな、空中戦じゃ負け無しか

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