デザイナードラフトReport第3記事目は、リブセンスでUXデザイナーとして活躍中の金子さんに「UXとは」を聞いてきました。本質を突くお話、ぜひご一読ください!
金子 剛(かねこ つよし)
父の仕事の影響で幼少期からphotoshopを遊び道具に。小学生時代は、お絵描き掲示板をフラフラしているうちに、自身のサイトを持ちたくなり、ポートフォリオサイトを開設。サイト素材などを配布することで、人生初のバズを体験。
各種MMOでギルドマスターを経験しチームの大切さを学ぶ。ヤフー株式会社や株式会社サイバーエージェントを経て、現在は株式会社リブセンスにて、新しいサービスを開発し価値を届ける仕事に奮闘中。
ユーザー体験を考えることは目新しいことでもなんでもない
ー こんにちは!今日は取材をお受けいただきありがとうございます。まずは転職ドラフトビールをどうぞ。
金子: お!どうもどうも(笑)
ー ではさっそく!リブセンスのUXデザイナーである金子さんに、まずお聞きしたいことがあります。UXというと、巷ではいろいろ言われていますが、金子さん的にずばりUXとは何ですか?
金子: 個人的には「偉い人に企画が通りやすくなる魔法の言葉」くらいにとらえていますね(笑)
ー 強力な魔法ですね!でも、そんなこと言っていいんですか(笑)
金子: 怒られますかね(笑) もちろんUser Experience=ユーザー体験はすごく重要です。ただ「UX」って言っちゃうと、バズワード化しちゃっていると言うか、言葉だけが先走り、本質的なことがあまり理解されていないのではないかと感じていますね。
ー 本質的なことというと?
金子: サービスのユーザー体験を考えるにあたり大事なのは、「どういうサービスにするのか」「どういう風にユーザーさんに使ってほしいか」だと思うんです。でもそれって、「UXデザイナー」という職種ができたから考え始めたことではなくて、今まで、ディレクターやエンジニアも設計するときに考えてたことなんですよね。だから別に、「ユーザー体験を考えること」自体は新しいことでも何でもない。
ー 確かに。これまでのサービスがユーザーのことを考えてなかったわけでも、UXデザイナー以外がUXを考えてないわけでもないですもんね。
金子: そう。でも一方で、「UX」って言葉にして流行らせたことで、ディレクターやエンジニアじゃない職種の人もこの分野に入りやすくなったと思います。そして、ユーザー体験の重要性が偉い人たちにも理解してもらいやすくなりました。それが「UX」のいいところかなと僕は思います。
ー なるほど。「UXデザイナー」という職種は、グラフィックを担当するようないわゆるデザイナーがなるもの、というものなんですかね?
金子: いや、全然そんなことはないと思いますよ。例えば都市計画の分野などは古くから進んでいて、UXという言葉がwebで流行る前からずっと人々の体験について考えていて。街を活性化させるために、どこにどういうビルを建てて、どこに駅を置くかのようなシナリオを設計していました。これを最近web業界がやり始めたように感じます。だからデザイナーに近いというようなそんな狭い世界の話ではなく、誰でも目指せるものじゃないかと思います。
ー でも金子さんはもともとはwebデザイナーですよね?
金子: そうです。ただ僕はwebデザイナーになりたかったわけではないんですよ。サービスをつくる人になりたかったんです。そこに「UX」という言葉が出てきて、職種を超えて「いいモノを作ろうよ」って言いやすくなったので、「UXデザイナー」と自称することにしました(笑)
ー 流行りをうまく利用したわけですね(笑) 金子さんはどうやってUXを学んだんですか?
金子: 僕は「UX」の勉強はあまりした覚えはないですね。昔から一貫して「いいサービスを作るためには何ができたらいいかな」と考えて勉強してきただけです。
最初は動くモノを作れないと何もできないなと感じて、Photoshopやフロントのコーディングを学びました。その後実際にサービス設計に携われるようになり、上手く設計するにはユーザーの心を知らないとダメだと知ったので、ユーザーインサイトやユーザーヒアリングの方法を学びました。すると今度は、その学んだことをチームにどう伝えたらいいか、という壁にあたったので、チームビルディングの本を読んで…という感じで、順番に学んできましたね。
ー たしかに「UX」と思って勉強してきたわけではないけれど、UXに役立つ知識が身についた、という流れですね。実際UXデザイナーになり始めてどうですか?
金子: 社内で今まで「ちょっとデザイナーっぽくないことをやってるデザイナー」みたいな立ち位置になりがちだったのが、「UXデザイナー」と自称したことで、確立した役割として認められて、仕事をしやすくなりましたね。デザイナーの評価軸じゃない軸でも見てもらえて、評価もされやすくなったと感じます。
ー なるほど。社内的立ち位置が確保されたんですね。自称はそれが狙いだったんですか?
金子: はい、でもそれだけではないですね。リブセンスは「あたりまえを、発明しよう。」というコーポレートビジョンを掲げています。でも以前、現場で実際にあたりまえを作れているか、というと、そんなことはないなと感じていました。
ー というのは?
金子: リブセンスは昔、個々人の能力に任せ、がっちり事業管理などをせずにサービスを作っていた時期がありました。その後、会社としてKPIの重要性を学び、KPIドリブンに変化しました。
KPIはUXと対立する存在じゃなく、UXの「一部」だと僕は思っています。良い指標は良いものですしね。だから、KPI重視は良いことだと思いましたし、KPI重視の人たちはしっかり育ってよかったと思っています。が、今度はKPIドリブンに少し傾きすぎてしまったような感覚がありました。
ー つまり、定性的なことが重要視されにくくなったと?
金子: そうです。「どういう体験、どういう価値をユーザーに届けたいか」という観点でサービスを作らなくなったなと感じたんです。新しいあたりまえを発明する、という初心から遠ざかってしまったと。だから僕はUXデザイナーを自称し、もっとユーザーへの価値を考えいよう、新しいあたりまえを作ることを考えよう、と言い始めようと思ったんです。
ー 会社に対して働きかけをしたんですね。
金子: はい。正直KPIドリブンって、短期的な数字を良くする施策に傾きがちだと思うんですよ。イメージするなら、器に水を注ぐような施策。でも僕は、その器自体を大きくするような施策がしたいんです。もっと本質的な部分に力を入れたたいと。それがUXを重視した施策だと思います。
ー なるほど。中長期に活きるイメージですね。
UXデザイナーとは何者か
ー 金子さんは、UXデザイナーって何をする人だと思いますか?
金子: 巷でUXとして語られているものって、なんとか法とか、なんとかヒアリング、みたいな手法ばかりだと思ったことありませんか?
ー それ!すごく思います。
金子: あれは全部、ただのフレームワークなんですよ。フレームワークを知っているだけで何かが成し遂げられるわけではないですよね。フレームワークを使って「何をするか」が本質です。
ー たしかに。
金子: そこにあるサービスや問題に対して、フレームワークを知った上で、それを上手く当てはめる。そして問題を解決し、良いサービスを作っていく。それがUXデザイナーかなと思いますね。他の職種の人は、UXデザイナー自体をツールだと思ってくれればいいかなと僕は思います。
ー 人がツール、というのは面白いですね。金子さんは実務としてどんなことをやっていらっしゃるのですか?
金子: 基本は、ユーザーの動きを知るためにリサーチをして、その結果をビジュアルに落としてチームに共有する。そして、プロダクト開発のメンバーと一緒にプロダクト改善をして、サービスをユーザーに届けて、もう一度観察する。そんなことを繰り返していますね。
ー その時の「コツ」みたいなものはありますか?
金子: チーム内で議論が白熱するけれど「ユーザーが求めているものはどっちなんだろう」という状態に陥ることってよくありますよね。そういったとき、僕は基本的に外に出ますね。答えは外にあるから。
ー 外、というのは?
金子: ユーザーを集めて声を聞いたりをしたり、その結果を分析したり、ですね。そこで、UXのフレームワークとしての、ヒアリング手法や行動分析学が活きます。
ー なるほど。仕事はその繰り返しだけですか?
金子: もちろんそれだけではないです(笑)これはプロダクト開発の話、つまりチーム外に関しての話ですが、チーム内に対しても同じようにやっています。
ー というと?
金子: チームの触媒みたいな動きですね。例えばビジネス側の人たちと、開発側の人たちって放っておくと違う方を向き始めちゃったりするじゃないですか(笑) その人たちの間に入って、ビジネスモデルを分解して、適切な抽象度で抽象化し、その後具体化して提案する、そんな仕事をしています。
ー もう少し具体的に実務を教えてもらえますか?
金子: ちょうど転職会議の中長期戦略を整えたところなのでその話をしましょうか。僕が所属する「転職会議」はわりと大きな事業部で、役割にあわせた小さなチームが複数ある状態なんです。小チーム化すると、全体が見えづらくなって、本質的なビジョンと遠い立場で仕事をするようになってしまいます。
ー ありがちな話ですよね。
金子: それぞれが同じ方向を向けば大きな力を発揮できるはずなのに、バラバラに向いてしまっている、そんな状態でした。まずはひとりひとりと話す時間を作って、サービスとして目指したいものを話し合いました。
ー なかなか大変ですね…!
金子: そうですね、丸一週間かかりましたね(笑)でもかなり大きな収穫がありました。みんなが口にしている具体的な内容は違うけれど、転職会議で叶えたい根本は、みんな同じことを思っていたんです。そこで僕はそれを、フレームワークを駆使してわかりやすくまとめ、全体に共有しました。これはサービスを作る上でのUXではないですが、これも広義ではUXだと思っています。
ー 深いですね。UXデザイナーの役割は思った以上に多岐に渡るんですね。
UXデザイナーになりたい人への言葉
ー UXデザイナーとして現在すでに活躍されている金子さんが、これから勉強したいと思っていることは何ですか?
金子: まだ僕は、自分の手と耳と目が届く範囲しか見られていないなと感じているんです。対面できる相手にとって良いサービスを作ることはできるようになってきた気がするけれど、対面できない、数万人にとって良いサービスを作るにはまだ力がたりないと。だから、もっと広い世界を見られるようになりたいと思っています。
ー では、UXデザイナーになりたいと思っている人に向けてアドバイスするとしたら何ですか?
金子: そうですね、まず本を読むより、サービスを使っている人に会いに行って欲しいと思いますね。ツールを学ぶためには動機が必要です。だから、動機を先に見つけて欲しい。そして、何をやりたいからこれを学ぼう、という姿勢で取り組めばより吸収して成長できるんじゃないかと思います。
ー なるほど。とても参考になります!本日はありがとうございました!
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