概念 小児三大固形悪性腫瘍(他に神経芽腫と肝芽腫があります)のひとつです.小児の腎臓に発生する代表的な悪性腫瘍で,小児の腎腫瘍の90%はウィルムス腫瘍 です.発生学的には中胚葉の後腎芽組織(後腎腎芽細胞metanephrogenic blastemaという組織)に由来する腫瘍です.幼児に多く,様々な奇形を伴い,多くの 症候群 に出現することが多いという特徴があります.最近の遺伝子研究から,WT1(11p13領域),WT2(11p15領域)と呼ばれる癌抑制遺伝子の領域に遺伝子異常が見つかっています.
発生と頻度 胎生5週頃に出現する後腎芽組織(腎が発生してくるもとの組織の一部)から発生した悪性腫瘍です.発生に左右差はなく,両側性も約5 %みられます.まれに腎臓以外の部位から発生することもあります.我が国では,年間80~100例が発生していると思われ,頻度は出生数1.2~1.5万 に1人といわれています.発症年齢は1歳未満20 %,1歳30 %で半数は2歳前に発症しており,5歳までに90 %が発症しています.発生率の男女差は,同等かやや女児に多い傾向があります.
遺伝子異常,合併奇形,関連症候群 必尿生殖器系(尿管異常,停留精巣,尿道下裂,水腎症など),筋・骨格系(片側肥大,四肢変形など),皮膚,循環呼吸器系など合併奇形が多いことがこの腫 瘍の特徴です.原因遺伝子として,11番染色体上の癌抑制遺伝子 WT-1 の変異が認められていますが,このWT-1の異常がない腫瘍も多く存在します.
病理 腎動脈や大動脈周囲のリンパ節や肺に転移をきたしやすいのが特徴です.また,時に腫瘍が腎静脈から下大静脈内 腫瘍血栓 を形成することもあります.米国ウィルムス腫瘍スタディーグループ(NWTS)の病理組織研究の結果,退形成腎芽腫(anaplasia)と腎明細胞肉腫 (CCSK),腎横紋筋肉腫(RTK)はなおりにくい腫瘍であることがわかっており,予後不良組織群(全体の約10%)(治りにくい組織型をもった腫瘍 群)と呼ばれています.
症状 腹部腫瘤と腹部膨隆が最も多い症状です.そのほか腹痛,嘔吐,発熱,血尿,不機嫌などがみられることもあります.
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