誰もが「正しいフォーム」を習得できる「スポーツ特化のモーション解析デバイス」が登場【ライフハッカーJOB】
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BIZREACHが運営するウェブメディア「BIZREACH FRONTIER」では、FinTech、VR/AR、人工知能など、最先端の分野にチャレンジし、いま、ではなく未来、「次の時代の当たり前」になるサービスや技術を作らんとする日本の企業を紹介しています。 ライフハッカー[日本版]では、毎週その中から1本の記事をセレクト。前人未踏の領域へとチャレンジする日本企業をご紹介していきます。
人の動きを可視化する次世代ウェアラブルデバイス
世界最高峰の自転車レースとして、日本でも良く知られるツール・ド・フランス。この最高峰のステージに出場するようなトップアスリートやそのコーチに向けた新しいコンセプトのウェアラブルデバイスが日本・米国・台湾で共同開発されている。そのデバイスは、アスリートの動きを可視化し、今までとはまったく異なる科学的なトレーニングを可能にする。大企業でもなかなか取り組めない難題に果敢に取り組んでいるのは、スポーツに特化したIoTデバイスを開発するLEOMO, Inc.だ。
ファウンダー兼CEOの加地邦彦は語る。
「身体を自分がイメージしている通りに動かすことは、実は非常に難しいのです。しかし、体を思い通りに動かすことができたなら、どんなスポーツもできるようになります。美しい所作も難なくでき、筋肉の付き方も変わります。われわれは“動き”に特化し、思い通りの動きができるよう手助けするデバイスを開発しています」
LEOMOが2017年3月に米国で発表した「TYPE-R」はウェアラブル技術を使った新しいデバイスだ。「モーション解析」を使い、特にアスリートとコーチ向けに、パフォーマンスが最大限発揮できるように設計されている。大型のタッチスクリーンを搭載し、自転車に取り付けて使用する。また、このデバイスの最大の特徴は、体に付ける5つものLEOMOモーションセンサー(Bluetooth接続)を標準で付属していることだ。
LEOMOモーションセンサーは、x, y, zの3軸の加速度センサーと、同じく、3軸の角速度を測定するジャイロスコープを搭載しており、センサーを付けたアスリートの動きを正確に計測する。例えば、最初にターゲットとしている自転車競技であれば、LEOMOモーションセンサーは、左右の膝の上部と靴、腰(仙骨)の5箇所に装着し、今まで測定できなかった動きを測定することができる。
これまでアスリートの動きを測るものとして、モーションキャプチャーが有名だが、国のスポーツ科学研究センターや大学の研究室など、専用の閉じた世界で計測するものであった。だが、このTYPE-Rは測定場所を限定せず、普段トレーニングをしている自然な状態のままの動きを詳細にとらえ、「モーション解析」することができる次世代の製品なのだ。
自転車競技からさまざまなスポーツへ
なぜ、数あるスポーツの中でも自転車競技からのスタートなのか。自転車チームのオーナーであり自身もプロ並みに走り込む上級サイクリストである加地氏は「自分たちの豊富な知見とコネクションを生かせるスポーツとして、自転車競技からのスタートとなりました。それに自転車はセンシングをしながら走る、ということが昔から行われてきたスポーツです」と話す。
ランニングで心拍や速度・距離を計測するデバイスを身に着け、マネージメントしながら走ることは一般的となりつつあるが、自転車はあらゆるスポーツの中でも抜きん出てデータとパフォーマンスの相関関係を研究・分析し、確かな成果をあげてきた。
例えば、自転車のプロライダーには不可欠とされる「パワーメーター」と呼ばれる機器がある。自分がどのくらいの力でペダルを踏んでいるかを計測するパワーメーターが開発されたのは1986年、約30年前だ。今でこそウェアラブルデバイスが台頭し、さまざまな行動を数値化するようになっているが、それをはるか昔から行なってきたのが自転車というスポーツだと言える。
その後も自転車は独自の進化を遂げ、さまざまなデータが数値化され、分析されてきた。現在はサイクルコンピューターと呼ばれる手のひらサイズのGPSデバイスをハンドルバー上に設置して、自分のデータを見ながら自転車を楽しむライトユーザーも珍しくない。これがプロになると、コーチも同時にデータを確認し、選手の状態を把握する。そして選手に無線で指示を出しながらレースに挑むのが、現在の「常識」となっている。
「1977年にポラールというメーカーが指先で計測できる心拍計を開発しました。計測できるのは、当時は皆、心拍と速度だけ。これが自転車における第一世代のデバイスです。その後、パワーメーターが登場し、アメリカ人コーチのハンター・アレンがパワートレーニングという理論を打ち立てました。これが第二世代。僕らはそこに“動き”という新しい概念を持ち込んだのです。今までのデバイスは、自転車の速度、位置、ペダルに加わったパワーなど、自転車に表れる「結果」を表示するものでした。ですが、TYPE-Rは、「結果」を表示するだけではなく、“動き”の解析によって、その「結果」を生み出す「原因」まで分かるのです。数十年ぶりにフェーズが変わる、つまり第三の世代に来たのです」
LEOMOは前述したハンター・アレンを含む世界の名立たるコーチたちと、“動き”のデータをどう活用するかという研究を重ねているという。すでに「結果」の分析が進んでいた自転車競技に最初に挑戦したのは、LEOMOの高い見識が示されている。
ゴールは「100年健康に生きられる社会」を実現すること
では、動きに特化し、動きのデータが取れるようになると、何がわかり、何が変わるのか。
「動きって言語化するのが難しいんですよね。有名なところでは長嶋茂雄さんでしょうか。名選手として活躍した後、監督としても手腕をふるったわけですが、選手を指導する際に『ビューン』とか『バーン』とか、擬音を多用し、感覚的に表現することで有名です。『このタイミングで右肘を3ミリ高く上げろ』というような具体的な指示ではありません。しかし、実は動きというものはそういうふうに感覚でしか語れないものなんです」
例えば、自転車で『ペダルは(時計の針で言う)12時から踏め』とコーチに言われる。自分でそうやっているつもりでも、コーチからは「踏み込みが遅い。できていない」と指導されることが多い、と加地氏も自身の体験から語る。
「どれだけ意識してもダメなので、それなら12時の位置よりも早い10時の位置から踏んでみようかな、と思ってやってみるとコーチが『いいね!』と褒めてくれるんです(笑)。ただ、翌日になって同じことをしようとすると、やはり感覚的なものなので、今日、僕は10時から踏めばよいのか、それとも12時から踏めばよいのかと混乱する。僕たちが提供するデバイスは、そういったことを客観的にデータで見られ、理解できるようになるものです。現状、自転車のペダリングの違いは確実に可視化できるようになっています」
例えば研究開発協力者に日本人選手としては数少ない、ヨーロッパのプロツアーを走った経験を持つ宮澤崇史氏がいる。彼にローラー台と呼ばれる室内用自転車トレーナーに乗ってもらい、データを計測しながら同時にハイスピードカメラで撮影するということを数回行った。その映像をコーチに見てもらい、コメントを求めると、「3回目がよくなかった」と指摘。素人目には目を皿のようにしてもまったく変化を感じなかった映像だが、コーチは映像を1回見ただけで、その違いを指摘した。実際、宮澤氏本人も走りながら同じように感じていたと言う。そこでデータを検証してみると、3回目だけにわずかな乱れがあった。LEOMOは、このほんのわずかな違いを客観的にデータで見せようとしているのだ。
「それは本当にわずかな乱れなんです。けれど、その動きを何千回、何万回と繰り返すことで、体に支障が出ることもあります。例えば、右手の指で左手の同じ箇所を1回なでただけではなんともないですが、その同じ動きを何十時間と続けたら、皮膚が破け血が出てくるはず。ちょっとした間違いでも積み重ねていくと、大きな問題になっていきます。それは歩く、立つ、座る、というような日常の動きでも同じです。正しいフォームでその動きができるようになれば、健康にもきっと役立ちます。現在はデータの解析がメインですが、ここからデバイス単体でコーチングまで行えるようにできるはずです。
まず自転車というプロスポーツからスタートしたのは『問題を解決する』ためにお金を払う土壌があるからです。病院にだって、何か体に問題がなければ基本的には行きませんよね。最初は自転車競技を対象としていますが、ランニングにも応用ができると考えています。その後、ヨガ、ゴルフなどのスポーツに広げていき、“動き”の計測で蓄積されたビッグデータを使って、最終的には医療の世界にまで応用できるのではないかと思っています。実際、協力いただいている医師の1人が、24時間の追跡データがあれば、病気にいたる「原因」を見抜くことができるようになるかもしれないと言っています。 平均寿命の伸びが確実視されるなか、私たちのデバイスは人々の健康寿命を伸ばし、100年間健康に生きられる世界を作る一助になるはず。LEOMOは、ウェアラブルの新たな可能性を示していく、その第一人者になれればと考えています」
(メディアジーン メディアコマース)