強迫性障害は遺伝なのか?強迫性障害の原因

アイコン 2016.4.29 強迫性障害

強迫性障害とは、 繰り返し湧き上がってくる「強迫観念」と、それを打ち消すために行う「強迫行為」を特徴とする病気です。

「手が汚れているのが気になり、何度も手を洗ってしまう」
「鍵をしめたか心配で、何度も鍵の確認をしてしまう」

といった生活上での「とらわれ」や「繰り返し行動」によって、生活に大きな支障のある病気です。本人もバカバカしいと頭では理解しているのにやめられないので、非常に苦しみの深い病気です。

このような強迫性障害は、どのような原因で生じるのでしょうか?強迫性障害は遺伝なのでしょうか?ここでは、強迫性障害の原因について考えていきたいと思います。

 

1.強迫性障害(強迫神経症)とは?

強迫観念にとらわれてしまい、繰り返しの強迫行為をしてしまう病気です。回避傾向によって社会生活に支障があるばかりか、家族が巻き込まれることもあります。

まずは強迫性障害がどのような病気なのかをみていきましょう。

強迫性障害は、生涯のうちで1~2%の方がかかる病気とと言われていて、決して少ない病気ではありません。かつては強迫神経症とも呼ばれていましたが、神経症という呼び方を国際的にしなくなり強迫性障害となりました。

強迫性障害の中核となる強迫症状としては、

の2つがあります。強迫観念とは、何らかの考えやイメージにとらわれてしまって、繰り返して頭の中で考えてしまうことです。強迫行為とは、その考えを打ち消すために行う行為になります。強迫観念と強迫行為には、様々なものがあります。

強迫観念として多いものとしては、汚染恐怖(自分が汚れてしまっているのではないか)・加害恐怖(自分が誰かを傷つけてしまったのではないか)などがあります。それに対する強迫行為として、洗浄行為・確認行為がよくみられます。

具体例をあげてみましょう。

「トイレで手が汚れてしまった(汚染恐怖)→手が赤くなるまで洗ってしまう(洗浄行為)」
「車で誰か轢いてしまったかもしれない(加害恐怖)→何もないか確認する(確認行為)」

といった形です。本人もバカバカしいと思っていても、強迫観念が浮かんできて不安になってしまいます。不安が高まってくると、それを打ち消すための強迫行為をしてしまって、安心するまで止められなくなってしまいます。

トイレの手洗い、外出時の施錠、車やバイクでの移動など日常生活の中で強迫行為が大きな支障があります。単純に時間がかかるというだけでなく、周りの目も気になってしまいます。

このようなことが続くと、患者さんは不安や恐怖に感じる状況を避けるようになってしまいます。仕事や学校にいけなくなってしまったり、自宅に引きこもってしまう方もいらっしゃいます。

確認行動に家族を巻き込んでしまい、家族の関係が悪くなってしまうこともあります。患者さん自身も極度の不安・緊張で疲労困憊となり、二次的に抑うつ状態となることもあります。強迫性障害は、非常に苦しみの大きな病気なのです。

 

2.強迫性障害の原因は遺伝なのか?

強迫性障害の関連遺伝子などは現時点で見つかっていませんが、遺伝の影響があることは示されています。とくに幼少期や思春期に発症するケースは、遺伝の影響が強いと考えられています。

それでは、強迫性障害の原因について考えていきましょう。強迫性障害の原因を大きく分けると、遺伝要因と環境要因になります。

強迫性障害の患者さんの家族歴をうかがうと、親族に強迫性障害の患者さんがいることが時々あります。強迫性障害が1~2%の病気と考えれば、遺伝の影響は考える必要があります。

強迫性障害の遺伝の影響としては、以下の2つが考えられます。

前者は遺伝そのものになりますが、後者は強迫性障害の親に育てられたことによる影響です。純粋な遺伝の影響を調べるために、一卵性双生児と二卵性双生児を比較した研究があります。双子は同じような環境で育っているので、環境要因をあまり考えなくて済みます。

2人とも強迫性障害になるかならないかをみてみると、一卵性双生児では一致率57%に対して、二卵性双生児では22%となりました。このことは、強迫性障害には純粋に遺伝が関係していることを意味しています。

しかしながら、関連遺伝子など具体的な遺伝のメカニズムに関しては未だに解明されていません。お薬の効果から推測して関連遺伝子の研究がすすめられていますが、一致した結果がみられていません。

それでは、強迫性障害では度の程度の遺伝の影響があるのでしょうか?それを調べた家族研究をご紹介します。

強迫性障害の患者さんとそうでない患者さんで、第一親族(親・子供・兄弟姉妹)に強迫性障害の患者さんがいるかどうかを比較すると、その確率は2倍になります。これが幼少期や思春期の患者さんで比較すると、約10倍にもなります。

このことから、低年齢で発症する患者さんは遺伝の影響が大きいといえます。

 

3.強迫性障害の環境面での原因

はっきりとした環境要因が分かっているわけではありませんが、強迫性障害の中にはチック障害や発達障害と関係が深いものがあることがわかってきています。

強迫性障害は、遺伝の影響だけではありません。遺伝による強迫性障害のなりやすさはありますが、そこに環境要因が加わって発症すると考えられています。

しかしながら遺伝と同様、強迫性障害の環境的な原因もはっきりとは分かっていません。そもそも強迫性障害自体がまだまだ分かっていないことが多く、最近になってようやく不安障害とは異なる病気だと判明してきました。

強迫性障害の環境要因としてはどのようなことが考えられるのでしょうか?現時点で分かっていることをご紹介していきます。

①性格

強迫性障害になりやすい性格というものはあるのでしょうか?世間一般では、几帳面で細かくて、神経質な方が強迫性障害になりやすいと考えられています。

これに加えて柔軟性に乏しく、こだわりの強い性格傾向のことを強迫性人格といいます。不安障害の中でも遺伝的な傾向が強いと考えられています。

確かにこのような方が強迫性障害に発展することも少なくありません。おそらく強迫性障害と診断されるほどではなくても、その傾向を持っている方もいるでしょう。そのような方も、症状の程度がひどくなると強迫性障害と診断されることがあります。

ここで注意が必要なことは、このような方がみな強迫性障害になるとは限らないことです。そもそも几帳面さや細かさは、社会に求められている長所でもあるのです。神経質という部分も、ミスが減ったり気配りができたりと良い面に発揮されれることもあります。

その他に強迫性障害と関係する性格傾向としては、以下の2つもあげられています。

現実を過剰に脅威と感じやすくなってしまい、回避することで悪循環となってしまいます。

②ストレス

子供の頃の身体的な虐待や性的な虐待は、強迫性障害のリスクファクターであることがわかっています。このような心的外傷体験ともいうべき過剰なストレスはもちろんのこと、日々の様々なストレスが原因となります。

仕事や家庭といった日々のストレスの積み重ねの中で、強迫症状が発展していくことがあります。何かの考えやイメージにとらわれることは、目の前の他のストレスから逃れられることになる場合があります。

ストレスを外に出すことができずに自己世界に向かってしまう方は、このように強迫症状という形でストレスが内在化されていきます。

③発達障害

強迫性障害の患者さんの中で、発達障害の患者さんは3~7%にものぼると報告されています。これは一般人口での発達障害の割合に比べると、10倍近くになります。実際に診察していても、強迫性障害と発達障害の合併は多いです。

発達障害の患者さんは、他人とうまく調和がとれないことが多いです。成長していく中でうまく社会と適応できないと、もともとのこだわりの強さなども相まって強迫性障害が二次的に認められます。そのせいでさらに社会適応が悪くなるという悪循環に陥ってしまうことがあります。

④チック障害

チック障害と強迫性障害は密接に関係していることが分かっています。

チック障害とは、突発的に瞬きをしたり顔をしかめたり、声を出したりといったことをしてしまう病気です。チック障害の患者さんの中には、何だかしっくりこない感覚につられて症状が生じることがあります。

この「まさにぴったり(just right)」とした感覚というのは、強迫性障害の患者さんでもよくみられる強迫観念のひとつになります。

対称性や正確性にとらわれていて、例えばスリッパを並べるにしても「まさにぴったり」という感覚が得られるまで整理をやめられなくなります。強迫観念や不安が発展して強迫行為を引き起こすのではなく、自分の中のルールのようなものから強迫行為が生じてきます。

行為の結果として強迫観念としての「まさにぴったりではない感覚」が生じて、強迫行為に発展していきます。

さらにはこのチック障害による強迫性障害では、遺伝の影響も大きいと言われています。家族にチック障害の患者さんがいる場合も、強迫性障害の確率が高くなることが報告されています。

⑤年齢や性別

強迫性障害では、その発症に男女差はほとんどないと考えられています。強迫性障害の平均発症年齢は20歳前後と報告されていますが、男性の方が若くして発症し、女性の方が成人になってから発症することが多いです。

また男性ではチック障害を合併していることが多く、チック障害の患者さんは強迫性障害を若くして発症してしまうリスクがあることになります。強迫観念の内容にも男女差があり、男性では加害恐怖や「ぴったり感」の追求が多く、女性は汚染恐怖が多いです。

 

4.強迫性障害の生物学的な原因

強迫性障害はひとつの経路の異常ではなく、いくつかの原因のある疾患の可能性があります。脳の機能異常としては、セロトニンの欠乏やドパミン過剰が考えられています。最近では、グルタミン酸の関与が注目されています。

強迫性障害の患者さんの脳では、どのような変化が起こっているのでしょうか。最近では脳の様々な画像検査や機能検査ができるようになってきています。まだまだ十分に解明されたとは言えませんが、少しずつ分かってきていることもあります。

これまで強迫性障害の原因として、CSTC回路(皮質-線条体-視床-皮質)の異常が注目されてきました。これらの部位を脳梗塞や外傷で損傷してしまった患者さんで強迫性障害が認められたことや、動物実験でこの回路を破壊した動物で強迫性障害に近い症状が認められたためです。

しかしながら様々な脳機能の異常が認められ、それを含めて説明する理論モデルとしてOCDループ仮説が提唱されました。社会的に適切な行動を見つけ出す眼窩前頭皮質(OFC)を中心とした前頭葉皮質が過剰に活性化すると、情報をうけとって調節する尾状核のバランスがくずれて、視床の抑制が弱まってしまうと考えたのです。

視床は感覚をフィルターにかけて、大脳皮質に伝える働きがあります。その視床のフィルターが弱くなってしまうことが強迫症状を引き起こすと考えられています。しかしながらその過程には様々な仮説があるのです。

これまで強迫性障害についてみてきましたが、少なくとも2つのタイプが出てきたかと思います。それ以外にも、症状の特徴によって脳の機能を調べると、それぞれ異なる機能異常が認められています。このことから強迫性障害はひとつの経路の異常ではなく、いくつかの原因のある疾患なのかもしれません。

 

神経伝達物質としての機能的な面については、セロトニンが大きく関わっています。強迫性障害の治療薬としては、セロトニンを増加させるSSRIをはじめとした抗うつ剤が最も効果が期待できます。ですから、何らかのセロトニン機能異常が関係していることは確実です。

しかしながら強迫性障害では、うつ病に比べて効果に時間がかかり、さらに高用量を必要とします。このことは、うつ病と強迫性障害が異なるメカニズムであることを示唆しています。

セロトニン以外にも、ドパミンとグルタミン酸の関係が考えられています。抗うつ剤だけでは効果が不十分な時に、ドパミンの働きをブロックする抗精神病薬が効果を示します。ドパミン系の機能亢進が強迫性障害に関係している可能性があります。

近年注目されているのがグルタミン酸機能異常です。強迫性障害の患者さんでは、グルタミン酸が過剰なことがわかってきています。その一方でNMDA型グルタミン酸受容体が刺激されると、学習や記憶が促進されることがわかってきています。

グルタミン酸は非常に複雑で、過剰なグルタミン酸は強迫性障害の原因のひとつかもしれませんが、恐怖を消去して新しい学習をしていくにはグルタミン酸が必要になるのです。

 

まとめ

強迫観念にとらわれてしまい、繰り返しの強迫行為をしてしまう病気です。回避傾向によって社会生活に支障があるばかりか、家族が巻き込まれることもあります。

強迫性障害の関連遺伝子などは現時点で見つかっていませんが、遺伝の影響があることは示されています。とくに幼少期や思春期に発症するケースは、遺伝の影響が強いと考えられています。

はっきりとした環境要因が分かっているわけではありませんが、強迫性障害の中にはチック障害や発達障害と関係が深いものがあることがわかってきています。

強迫性障害はひとつの経路の異常ではなく、いくつかの原因のある疾患の可能性があります。脳の機能異常としては、セロトニンの欠乏やドパミン過剰が考えられています。最近では、グルタミン酸の関与が注目されています。


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