はじめに
「アーサー王」「円卓の騎士」「エクスカリバー」「聖杯」「アヴァロン」・・.。
マンガやアニメ、ゲームなどによく出てくるこの言葉。
一度はどこかで聞いたことがあるかと思います。
これらはどれも『アーサー王物語』に登場するものです。
でも、「よく聞くけど、どんな話かはわからないなあ」「物語そのものは読んだことがないな」という人も多いのでは?
また「いろんな本が出ているけど、どれを読むといいの?」という人もいるでしょう。
そこで、ここでは『アーサー王物語』を読んでみたい人へのお手伝いとして、
簡単な説明と、いくつかオススメの本の紹介をしたいと思います。
元ネタを知るともっとアニメやマンガが楽しくなる・・かも?
『アーサー王物語』 って何?
そもそも『アーサー王物語』って何?
『アーサー王物語』は、「伝説の王アーサーと、騎士たちの物語」です。
架空の王(※1)アーサーの一生を中心に、さまざまな騎士達の冒険が展開します。
「はじめに」で出てきた言葉を使って簡単にあらすじを紹介しましょう。
(※ネタバレとなります!)
①アーサーの即位と国の統一
不思議な縁で生まれた「アーサー」は石(かなどこ)に刺さった剣を抜いて、王に選ばれます。
反対派の内乱を鎮め、敵対する民族や国を倒し、平和な国を築きます。
この戦いの最中、湖の貴婦人(妖精)から譲られたのが名剣「エクスカリバー」です。(※2)
②騎士達の冒険
「アーサー王」のもとには優秀な騎士が集まってきました。選ばれた騎士は円卓という丸いテーブルの特別な席を与えられ「円卓の騎士」と呼ばれました。
「円卓の騎士」や「アーサー」にゆかりのある騎士は様々な冒険をしました。
『アーサー王物語』の大半、多くの物語がこの騎士たちの冒険譚です。
③聖杯探究
ある日「アーサー」の宮廷に出現した「聖杯」。
キリストの処刑の際、その血を受けたとされる「聖杯」を目撃した騎士たちは皆これを探す旅に出ます。しかし多くが失敗し、成功したのはわずか3人でした。
④騎士団とアーサーの最期
「円卓の騎士」の中でも特に優れていた騎士・ランスロット(ラーンスロット)は「アーサー」の妃と不倫関係にありました。これを騎士・モルドレッドやその仲間が告発したことで、騎士団の崩壊がはじまります。
国外に去ったランスロットを追った「アーサー」。その留守を狙い、モルドレッドは反乱を起こします。急いで国に帰った「アーサー」はモルドレッドを倒しますが、自身も重傷を負ってしまいます。「エクスカリバー」は妖精に返され、「アーサー」は「アヴァロン」という島へと去っていきます。
『アーサー王物語』というけれど?
- 『アーサー王物語』といってもアーサーが必ず主人公というわけではありません。
物語の大半が各騎士の冒険なので、主人公は章や物語によって異なります。
乱暴になりますが、「アーサー王がなんかの形で出てくる、関わってくるお話」ともいえます。 - 登場する有名な騎士
- ランスロット ガウェイン トリスタン パーシヴァル ガラハット モルドレッド ボールス ライオネル ジェイレント ケイ ガレス などなど・・・。
- この名前もアニメやマンガで聞いたことがあるかもしれませんね。
- 「円卓の騎士」の人数はキリスト教の使徒にあわせた12人、25人、300人(!)など諸説あり、メンバーも一定ではありません。
- 一例・ 「ウィンチェスター城の円卓に書かれた『円卓の騎士』」
- こちらの円卓ではメンバーは25人となっています。
※1「アーサー王は実在した?」
- アーサー王には実在したモデルがいた、ともいわれています。
- ただ実在したといわれる時代(5世紀頃)のはっきりとした記録はほとんどなく、ちゃんとした証拠もみつかっていません。
- モデルとなった人物にも幾つも説があり、またケルト神話などの神様がモデルである、何人かのモデルを組み合わせたのだ、という説もあります。
「アーサー王は実在した??」 - ※2「石に刺さった剣=エクスカリバー??」
- アーサーが抜いた石(かなどこ)に刺さった剣。この剣をエクスカリバーと思っている人も多いかと思います。しかし、実はエクスカリバーと名のつく剣は2本出てくるのです。
- 「石に刺さった剣と湖の貴婦人からもらった剣」
『アーサー王物語』には「唯一の原作本」がない。
「『アーサー王物語』には原作本がない」。
こう言われると、
「じゃあ、あのあらすじは何?」「たくさん出ている本は一体なんなの??」「作者はダレ???」
・・・と思われるかもしれません。
実は『アーサー王物語(伝説)』は、長い歴史の中、ヨーロッパ各地で、物語や詩、民間伝承や偽物の歴史書(偽史)など、いろんな形で語られたり、描かれてきた、一つの「ジャンル」なのです。
イギリス、フランス、ドイツなどで、「かつて存在したといわれる伝説の王アーサーと彼の騎士たち」の物語が作られました。
その内容も、ケルト神話や地方の騎士の伝説、キリスト教、政治的理由などさまざまな要素の影響を受け、発展していきました。
ですから、実は様々な時代、いろんな国の、たくさんの「アーサー王と円卓の騎士」の物語があります。
1冊の『アーサー王物語』という原作本があるわけではないのです。
有名な『アーサー王物語(伝説)』
◆アネイリン『ア・ゴズィン』(600年頃)-「アーサー」が出る最古の文献
◆ジェフリー・オブ・モンマス『ブリタニア列王史』(1138年)
-政治的な意図によって書かれた物語。プランタジネット朝の正当性を主張する為に利用された。
◆クレチアン・ド・トロワ『ランスロまたは荷馬車の騎士』『聖杯の騎士ペルスヴァル』など(1170-1191年頃)
◆作者不明「流布本物語群」(散文ランスロ)(1215‐1235年頃)
やがてこういった幾つもの物語をまとめ、バラバラなエピソードをひとつのストーリーに立てた、集大成となる本が書かれました。
これがトマス・マロリーの「アーサー王の死」(1470年)です。
上のあらすじのような今「メジャー」「王道」となっているストーリーは、このマロリーの物語が元となっています。
このように様々な物語が作られたため、物語ごとに登場人物の設定が違っていたり、ストーリーが異なっていたりすることも多くあります。
現在の『アーサー王物語』も、どの話を載せたか、作者がどの設定を使ったかで、変わってくることが少なくありません。
こういった「事情」をしらないとちょっと混乱してしまいますが・・そういった「違い」を読むのも楽しみのひとつです。
まとめ
- ●『アーサー王物語』はアーサー王と騎士たちの物語。
- 大半が騎士たちの冒険となっている。
- ●一つの本ではなく、物語や詩、歴史書などで多く語られた「ジャンル」。
- ●集大成・王道といわれるのが、これらをまとめた、
- トマス・マロリー『アーサー王の死』。
- ●物語によって、設定やストーリーが異なる場合もある。
ちょっと長くなってしまいましたね。
では、『アーサー王物語』の本を見ていきましょう。
『アーサー王物語』を読もう
注意
- ※なるべく入手しやすい本を挙げましたが、
- 絶版になっている本もありますので、図書館、古書店なども活用してください。
児童書で読もう!
児童書の良い点は、読みやすい文で、主要な話を押さえていること。
まずどんな話か読んでみたいならカンタンに読めるこちらがオススメ。
◆『アーサー王物語』
ジェイムズ・ノウルズ/著 金原瑞人/訳 偕成社文庫
メジャーなあらすじの『アーサー王物語』です。
アーサーの誕生、即位、内乱、ローマとの戦い、悲劇の兄弟・バリンとバラン、騎士ランスロット、ガレスの冒険、聖杯探究、アーサーの最期が読めます。
まずはざっと全体を読んでみたいのでしたら、こちら。
「かっこいい」を意識した金原先生の訳文で「かっこいい!」『アーサー王物語』になっています。
◆『アーサー王物語』
G・L・グリーン/著 厨川文夫/訳 岩波少年文庫
マロリーの話を中心にイギリスやドイツ、フランスなどの物語、詩、民間伝承など、いろいろな話を組み合わせたものです。
イギリスの古い詩を元にした「ガウェインと緑の騎士」、『マビノギオン』(とクレチアン)が元の「ジェレイントとイーニッド姫」、上の本でははぶかれた「トリスタンと美女イズー」などが収録されています。
「いろんな『アーサー王物語』」を手軽に楽しむならコチラがオススメです。
上の偕成社文庫版と読み比べると面白いですよ。
◆『アーサー王物語(痛快 世界の文学)』
阿刀田高/著 加藤直之/絵 講談社
日本人作家さんによる物語。活き活きとした表現で、手に汗握る物語です。
オリジナルな描写、日本人好みな展開など、海外作品には見られない点も少なくないですが、面白さはバツグン。
巻末では物語の背景となるイギリスの地図や簡単な歴史、用語を解説しています。
(なぜかトリスタンつながりの「竪琴」の解説が妙に多いんですが・・?)
「古典・翻訳ってちょっと苦手・・」という人はこちらから。
一般書で読もう!
もっと詳しく読みたい!しっかりと読んでみたい!ならこちら。
「王道」の『アーサー王の死』にも挑戦してみましょう。
◆『中世騎士物語』
ブルフィンチ/著 野上弥生子/訳 岩波文庫
物語本編の他、アーサー以前の「歴史」、騎士の基礎知識、ケルト神話『マビノジョン』(マビノギオン)なども収録したお得な本。
物語を読むのに役立つ知識もあり、これ1冊で深く読むことができます。
ただ、初版が戦前なので、訳文の言葉づかいが古いのが難点。
『アーサー王物語』だけを抜き出した新訳版もあるので、古い文章は苦手かも・・という方はこちらで。↓
◇『新訳アーサー王物語』 大久保博/訳 角川文庫
◆『アーサー王の死』 トマス・マロリー/著
『アーサー王物語』 筑摩書房(井村君江/訳 オーブリー・ビアズリー/絵)
『アーサー王の死-中世文学集』 ちくま文庫(厨川文夫・厨川圭子/訳)
「王道」の『アーサー王物語』です。
筑摩書房版は全5巻の完訳版。
ちくま文庫版はダイジェスト版です。
ちくま文庫版は③聖杯探究を含む、あらすじ②にあたる騎士たちの物語の多くがはぶかれてしまっています。
ただその分、アーサー、重要人物であるランスロットにスポットがあたった物語としてまとめられています。
省略された物語が多いですが、やはり長く読まれた「王道」です。読み応えはあり。
他の本でおおまかな流れを押さえたら、文庫版で一度挑戦してみましょう。
◆『図説アーサー王物語』
アンドレア・ホプキンズ/著 山本史郎/訳 原書房
マロリーの作品の他、『ブリュ物語』『メルラン続編』「流布本物語群」などさまざまな『アーサー王物語』を引用して、一つの物語にした本。
岩波少年文庫版のように、いろんな『アーサー王物語』を読むことができます。
日本語訳が出ていない物語の引用が読めるのもうれしいところ。
ただ、肝心の引用部分がどの話からの引用かがはっきりしないのが難点ですが・・。
またコラムも充実。「聖杯ってそもそも何?」「マロリーってどんな人?」「カメロットでどこ?」など、ある程度読んだ人でも面白い内容です。
古い写本やビアズリーの挿絵、絵画や写真なども多く載っています。
騎士達の物語を読もう!
『アーサー王物語』の歴史を知る
【おまけ】 ちょっと変わった『アーサー王物語』
『アーサー王物語』とケルト神話
- 『アーサー王物語』や一部のキリスト教物語にはケルト神話の影響を大きく受けているものがあります。騎士や修道士が迷い込む「異界」はそのひとつです。
- 「異界」を中心に、ケルト神話からこれらの物語を解説した本もあります。
- ◆『ケルト神話と中世騎士物語-「他界」への旅と冒険』
- 田中仁彦/著 中公新書
- 最後あたり、ちょっと心理学の内容が中心になってしまっていますが、ケルト神話との関係を知る手助けになります。