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【社説】

独軍内の密謀 警戒すべき右傾の空気

 軍の中で前大統領らの暗殺を企てたというから穏やかではない。極右らがドイツ軍内部にもネットワークを広げていた。ナチスを繰り返さないことを国是としているだけに衝撃は大きい。

 “巣”となっていたのは、ドイツ軍とフランス軍が一緒に駐屯する仏東部の部隊。ドイツ兵中尉二人(二十八歳と二十七歳)と、共犯の大学生(24)が逮捕された。容疑者らが持っていた暗殺の標的リストには、ガウク前大統領やマース法相らの名前があった。寛容な難民政策への反発が動機だったという。部隊から持ち去ったとみられる約一千発の実弾や爆弾製造教本なども見つかった。事件は広がりを見せている。

 中尉はシリア人に成り済まし、難民申請して登録が認められていた。難民によるテロを偽装し、国内の反難民感情をあおる狙いだったとみられている。

 戦後、東西に分かれたドイツは冷戦の最前線となり、旧西ドイツは再軍備を進めた。ナチスからの決別を明確にするため、呼称も第二次大戦時の「国防軍」から「連邦軍」に変え、古い体質を一掃したはずだった。しかし、これまでにも、兵士によるいじめ、性的虐待などの人権侵害、人種差別的な言動は後を絶たなかった。

 ドイツでは、旧国防軍の伝統をナチスとは切り離し、懐かしむ風潮が今も残る。容疑者らはエリート校で学び、知的な印象だったという。ヒトラー暗殺を企てた将校らが英雄視されるように、暴政への抵抗も軍エリートの使命との考えも根強い。今回の事件が同様の発想だったとすれば、時代錯誤もはなはだしい。

 二〇一一年に徴兵制を停止したことが、軍が透明性を欠く一因となったとの指摘もある。

 難民に成り済ました中尉が過去に人種差別的論文を書いていたことも明らかになり、メルケル首相の信頼が厚い女性閣僚、フォンデアライエン国防相らの責任を問う声も高まっている。

 北大西洋条約機構(NATO)の多国間枠組みの中でアフガニスタン派兵など軍事力行使の範囲を拡大させ、軍が存在感を強めてきた中での事件だった。

 事件後、独国防省は軍紀や教育の徹底を指示し、兵舎に旧国防軍時代の記録がないか調査を進めている。軍の暴走を防ぐには、透明性を高め、古い体質への郷愁や親近感など右傾化への芽を摘み取っていくことが欠かせない。ドイツに限らない課題である。

 

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