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【書評】

現代子ども文化考 山中恒 著

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◆戦時と重ね、鋭い警告

[評者]野上暁=児童文化評論家

 いまだ真相が分からない森友学園問題で期せずして話題になった教育勅語を、なんと教材としての使用を容認する閣議決定をしたというから驚く。教育勅語は国体原理主義の中核的聖典だったと著者がいう本書は、「出版ニュース」誌に連載した時々の子ども文化の話題を取り上げて書いた文章をまとめたものだ。

 とはいえ、さすが戦時下の少国民文化研究をライフワークとしてきた著者である。今日的な話題を切り口に、教育勅語と国体原理主義を背景にして皇国民錬成と戦意高揚に寄与した戦中子ども文化の実態を抉(えぐ)り出してみせ、日本の現況への鋭い警告ともなっている。

 四月新学期から、「教科書は『天皇陛下のお諭し』の文書であるから、粗略に扱ってはならない」と常に注意されたことを著者は思い出し、修身教科書初等科二年用に掲載された「日本良い国、清い国、世界に一つの神の国」などという文言をよみがえらせる。現政権での日本賛美に重なり、不気味だ。

 II章に収録された「健全の基準とは」は、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」が俗悪マンガ追放を名目に、いかに巧妙に言論出版表現の自由を損なうものかを戦時中の例をもとに解説する。III章「課題図書の存立構造」は、青少年読書感想文全国コンクールの弊害を詳説し、極めて示唆的である。

 (辺境社発行、勁草書房発売・2376円)

<やまなか・ひさし> 1931年生まれ。児童読み物作家。著書『戦時児童文学論』。

◆もう1冊 

 野上暁著『子ども文化の現代史』(大月書店)。戦後昭和から平成までの子ども文化をメディア史と関連づけて解説。

 

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