「日本で売っているもののほうが効くって言われているの。特に胃薬が良いからたくさんお土産に頼まれている。中国はニセ薬が多いしね」(河北省の30代女性)
「日本の薬がよく効くという噂は中国では誰でも知っています。日本の薬剤に関する規制は中国より厳しく、品質もいい。中国では薬の規制や法律が緩く、安全性に不安がある」(四川省の30代男性)
彼らは異口同音に「中国ではニセ薬が多い」と言うが、本物の中医薬でも品質には疑問符が付く。
2011年8月には香港の衛生署が、3種の中医薬について基準値を大幅に上回るヒ素や水銀が含まれているとして販売を禁止。同様のケースは多数ある。
重金属だけでなく、毒性の植物が混入するケースもある。実際に健康被害も起きていて、海外では輸入された中医薬の使用で肝臓や腎臓に障害が起きたケースが多数報告され、なかには死亡した例もある。
一方で、日本の漢方薬メーカーは、中国産原料を使用する際でも、厳重に品質検査を行い、植物という天然の素材を使いながら一定の品質を保つ技術を持っている。それが中国人にも支持されている理由といえそうだ。ただ、世界の市場においては、決して日本の漢方薬が優位に立っているわけではない。前出の渡辺教授はこう言う。
「今は世界的な伝統医学ブームで、中国は原料の生薬を握っている上に国家戦略として中医学の海外進出を推進しているので、世界におけるシェアは圧倒的です。原料生薬のうち、よく使われる甘草と麻黄は中国の輸出規制品であり、将来的に日本への輸出が止まる可能性もあります。日本の農業技術でつくれない生薬はないのですが、コストの問題がある。このピンチをチャンスに変えるために、安心安全な国産生薬を使った日本の漢方薬をブランド化して、世界に打って出るべきです」
漢方薬を輸出産品にできれば、農業の復興と地域創生にもつながる。そのためには、まずは日本人自身が「日本の漢方薬」の価値を正しく認識する必要がある。
【PROFILE】しみず・のりゆき/1966年愛知県生まれ。大阪大学工学部造船学科卒業。1991年よりフリーランス。著書に『「脱・石油社会」日本は逆襲する』(光文社)がある。
※SAPIO2017年6月号