中国の伝統医学は1500年前に日本に伝来してきた。その本場をも覆す現象が、爆買い中国人観光客を通して巻き起こっている。PM2.5に効く、と日本の漢方薬が彼らからブームになっているのだ。フリーライターの清水典之氏がレポートする。
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“漢方”といえば、中国が本家本元と考えられているが、なぜこのような逆転現象が起きているのか。
中国の薬、「中医薬」と日本の「漢方薬」は別物と捉えるべきなのだという。漢方が専門の慶應大学環境情報学部の渡辺賢治教授はこう言う。
「中国の伝統医学は5〜6世紀ごろに日本に伝わりましたが、徐々に日本化が進み、江戸時代には完全に枝分かれしました。中国では効くメカニズムを考える方向に進み、観念的になっていったのに対し、日本ではそれよりも効果を重視して、より実学的、実践的な方向に進みました。さらに現代の医療制度の中で西洋医学の医師が処方するのも日本の漢方の特長です。現在147種類のエキス剤が処方可能なほか、煎じ薬も保険適用があり、研究も進んでいます」
中国の伝統医学は、自然科学が発達していない時代に五行説などの抽象的な自然哲学を取り入れ、中医薬も目の前の症状への分析よりも「肺は五行の金だから〜」と哲学体系に症状を当てはめる方向に進んでしまった側面がある。
日本の漢方はそんな実践を捨てた中国の伝統医学を否定することに始まり、データから効率的に治療効果を上げようとして発展した。その実学的成果が漢方薬である。漢方薬と中医薬が別物であることを中国人観光客が知っているかは定かではないが、日本で売られているものの効果や品質の違いは十分に認識している。