【ソウル=鈴木壮太郎】韓国政府は30日、在韓米軍が地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の発射台4基を韓国に追加搬入していたと発表した。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は韓国国防省がその事実を大統領府に報告していなかったとして、真相究明を指示した。韓国でTHAAD配備を巡る混乱が長引けば、米軍のTHAAD運用構想にも影響する可能性がある。
大統領府によると、文氏は29日、鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長から報告を受け、「非常に衝撃的だ」と語った。文氏は韓民求(ハン・ミング)国防相に電話して、4基の追加搬入の事実を確認したという。
大統領府の関係者によると、4基が韓国に搬入されたのは文氏の大統領就任前だった。だが、国防省は新政権発足後、機会があったにもかかわらずその事実を大統領府に報告しなかったという。
文氏は米軍による追加搬入について、誰が国民に非公開とし、なぜ新政権に報告しなかったのかについて徹底した調査を指示した。国防省は「26日に安保室長に報告した」と弁明したが、大統領府は「その事実はない」と突っぱねた。
THAADは北朝鮮の核・ミサイルに対処するため、朴槿恵(パク・クネ)政権時代の昨年7月、米韓両軍が配備を決めた。米軍は今年3月から韓国に装備の搬入を始め、4月26日には配備先である南部の慶尚北道・星州(ソンジュ)の敷地に発射台2基とレーダーを運び込み、すでに運用が始まっている。発射台は6基で運用する体系で、4基が追加配備されればシステムが完成する。
中国はTHAADの高性能レーダーが自国の防衛能力を脅かす恐れがあるとして強く反発。配備先としてゴルフ場を米軍に提供した韓国ロッテグループは中国のスーパーの店舗が営業停止処分になるなど経済報復を受けた。発射台の追加配備でシステムが完成すれば、中国の反発がさらに強まる可能性がある。
新政権にとって、THAAD配備はデリケートな問題だ。安保を重視する保守層が賛成する一方、中国との関係悪化を懸念する革新層が反対するなど、世論も分かれている。文氏は大統領選の期間中「新政権が判断すること」と明確な立場表明を避け、大統領就任後も「米中との首脳会談の結果も考慮して、慎重に対応する」と語っていた。
文氏は運用が開始されたTHAADについて、敷地提供などに関する国会の同意が必要だとの立場をとってきた。文氏が米軍の追加搬入の経緯の真相究明を指示したことで、THAAD配備への反対論が勢いづきかねない情勢になっている。
折しも韓国ではトランプ米大統領がTHAAD配備の費用を「韓国が払うのが妥当だ」と発言したことを受け、国民の間ではTHAAD配備への不満も募っていた。THAAD反対の世論が強まれば、国会同意が遅れかねず、6月下旬に開催予定の米韓首脳会談に影響が出るとの指摘もある。