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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた 作者:坂東太郎

『第十三章 エルフ護送隊長ユージは引き続きエルフ護送隊を率いる』

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第十五話 ユージ、アリスとシャルルの今後について貴族と話をする

「おお、そうじゃ! アリスはすごいのう」

「えへへー、ほんと? あのね、おじーちゃんが貸してくれたこの指輪するとね、ばばばーんってやりやすいの!」

「うむうむ、火紅玉の指輪は火魔法を補助してくれるからの、さもありなん」

 バスチアンの館、その庭園。
 アリスは祖父であるバスチアンに魔法を教わっていたようだ。
 指輪を借りてご機嫌な様子である。

「シャルル、どうじゃな?」

「まだよくわからないです……こう、体の中でぐるぐる動いてるみたいなんですけど……」

「ふむ、魔素は感じ取れて、しかも動かせるのか。となると魔法は使えるはずじゃが……あとはきっかけかのう」

 一緒に教わっていたのは、アリスの兄のシャルルだった。
 いまだに魔法は使えないため、今日も瞑想を行っていたようだ。
 あぐらをかいて地に座るシャルルの横では、春の陽射しを浴びてコタローが丸くなっていた。護衛のつもりなのか、あるいは瞑想でもしているのか。謎多き女である。犬だが。

「まあ焦らずともよい。気長にの」

 バスチアンは、微笑みを浮かべてシャルルの頭を撫でていた。そこに貴族の雰囲気はなく、ただの好々爺である。

「あ! おじーちゃん、シャルル兄! ドニおじさんとエンゾさんだ! おーい!」

 使用人に案内され、三人と一匹がいる庭園のあずまやに向かってくるドニとエンゾ。
 どうやらドニは取り調べから解放されたようだ。

 ユージたちが執事から稀人の話を聞き、アリスたちがバスチアンから魔法を教わっていた春の日の午後。
 エルフ護送隊のメンバーは、ふたたび全員顔を揃えるのだった。
 エンゾは、懐に二通の手紙を携えて。


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


「ドニさん、おかえりなさい。それで、その、どうなりました?」

「ああ、けっきょく鞭打ちを受けて終わりだ。犯罪奴隷にもならねえで、あとは自由にだとよ」

 どこか投げやりな口調で自らの刑罰を報告するドニ。

 ユージたちに提供された客室には、王都まで旅をしてきた一行が揃っていた。
 バスチアンや執事の姿はない。
 孫との時間を優先してきたが、ついに先送りしてきた仕事に捕まったようだ。
 惜しい表情をありありと浮かべて、執務室の扉の向こうに消えていったのである。

「ドニ、よかった……じゃあ、じゃあもう自由なんだね」

 気まずそうに顔を歪めたドニに近づき、しがみつくシャルル。
 目に涙を浮かべて喜んでいる。
 アリスはニコニコと笑顔を浮かべ、ドニの手を取ってぶんぶんと前後に動かしていた。アリスなりの喜びの表現のようだ。


「ふむ、これは……エンゾさん、ありがとうございます。苦労をかけましたね」

「まあ領地に出入りする商人に聞きゃ一発よ、ってゲガスさんが協力してくれたしな。俺はたいして動いてないぜ」

 ソファに座り、元3級冒険者の斥候・エンゾが持ってきた二通の手紙、いや、一通の手紙と一つの報告書に目を通したケビン。
 読み終えたケビンがユージに目を向ける。

「ユージさん。いい報告と、それほどよくない報告があります。どうなるかはわかりませんが……どちらから聞きたいですか?」

「え? じゃあ、いい報告からお願いします!」

 ユージが迷ったのは一瞬だった。

「では。ユージさん、リーゼちゃん、お待たせしました。こちらは王都の冒険者ギルド、グランドマスターからの手紙です。エルフの冒険者が王都に帰ってきました」

「おお、やっとか! よかったねリーゼ!」

『もう、ホントにどこをふらふらしてたんだか』

「やったねリーゼちゃん! もうすぐおうちに帰れるんだね!」

 ユージたちが王都に来た目的。
 リーゼを王都にいるエルフに会わせ、里に帰す。
 拠点の王都から離れていたエルフの冒険者が、ようやく帰ってきたようだ。

 その一報を聞いて沸き立つユージ、リーゼ、アリス。
 コタローもリーゼのまわりをぐるぐると駆けまわっている。よかったわね、りーぜ、と言わんばかりだ。

「あ、ちょっと待ってみんな。喜ぶのはよくない報告を聞いてからにしよう」

 ユージ、意外と冷静である。

「大丈夫です、この件とは関係ありませんよ。では。……こちらは、エンゾさんに調べてもらったことなんですが……」

「そ、そんな溜めないでくださいよケビンさん。よくないだけで、悪い報告じゃないんですよね? き、緊張しちゃうなあ。どんなことでしょうか?」

 歯切れが悪いケビン。
 不安をごまかすように言葉を紡ぐユージ。

「ユージさん。バスチアン・ドゥ・ゴルティエ侯爵に、直系の跡継ぎはいないそうです」

「え? え?」

 ケビンの言葉を受けて、ユージが二人の子供に目を向ける。
 アリスと、シャルル。
 バスチアンと同じ赤い髪を持つ、バスチアンの()()()()に。

「いまはバスチアン様の弟の息子、甥ですね。その方が継ぐと目されています」

「えっと、その、普通、こう、順番というか継承権というか、そういうのはどうなってるんですか? 王様は、王族の中で土魔法が得意な者って言ってましたし」

「貴族は直系男子優先です。もちろん不在の場合や男子がおらず婿を取る場合、直系の子が魔法が使えない場合など、なんらかの事情で直系でない者が継ぐこともありますが……」

「え、そんな、それじゃ……」

「ユージさん、まだどうなるかわかりません。二人は貴族の教育も受けていないわけですし」

「でも、その」

 可能性を提示されたユージは動揺を隠せない。
 ユージとて考えなかったわけではない。

 開拓団長で村長とはいえ、僻地の開拓村での生活。他人で、しかも別の世界から来た稀人である自分。
 一方で、貴族の館での生活。祖父で、この世界の有力者のバスチアン。

 アリスにとって、シャルルにとって。
 ユージとて考えていなかったわけではないのだ。

 動揺するユージの足にコタローがまとわりつく。わふっと吠えるコタロー。おちつきなさいゆーじ、ほんにんたちのいけんをきかなきゃ、と言いたいようだ。

「ユージさん、動揺されるのはわかります。ですからまずは、バスチアン様の考えを聞きに行きましょう。私が見る限り……いえ、憶測はやめておきます。行きましょうユージさん。みなさんはこちらで待っていてください」

 ソファから立ち上がるケビン。
 たしたしと前脚でコタローに叩かれ、腰を上げるユージ。

「ユージ兄! アリス、ユージ兄と一緒がいい!」

 扉に向けて歩くユージは、腰にタックルを受ける。
 アリスである。

「うん、ありがとうアリス。大丈夫、勝手に決めないよ。まずはバスチアン様の考えを聞いてくるだけだからさ」

 すっとアリスの頭を撫でるユージ。
 いつもの、何度も繰り返してきた動作である。

「だからアリス、ちょっと待っててね」

 そう言い残し、ユージとケビンはバスチアンの下へ向かうのだった。
 不安を瞳に映すアリスと、考え込むシャルルを置いて。


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


「入れ。む、ユージ殿とケビン殿か。どうされたのじゃ?」

「バスチアン様、執務中に申し訳ありません。お聞きしたいことがございまして……」

「うむ、では茶でも淹れさせよう。ちょうど休憩しようと思っていたところじゃ」

 カリカリと動かしていた羽ペンを休め、立ち上がって一角にあるソファに向かうバスチアン。
 ケビンとユージの表情から何かを察したようだ。

 テーブルの上に人数分のお茶を配り、執事・フェルナンが退室する。
 クイッと顎を動かしたバスチアンの指示に従ったようだ。できる男である。

「さて、薄々はわかっておるが……聞きたいこととはなんじゃ?」

「ユージさん」

「はい。バスチアン様、アリスとシャルルの話です。……どうするつもりでしょうか? その、引き取るとか、このままとか……」

「やはりその話か。アリスとシャルルを見つけた当初は、引き取ろうと思っておった。アメリーの忘れ形見じゃからの」

「当初は、ということはいまは違うのですか?」

 ユージをフォローするようにケビンが尋ねる。

「うむ……ちょっと爺の昔話に付き合ってもらってもよいかの?」

「え、あ、はい。俺でよければ」

「うむ、まあそれほど長い話ではないからの。昔、領地が流行病に襲われたことがあったのじゃ。その時に、儂は妻と息子を亡くしてのう……」

 ポツリポツリと話しはじめるバスチアン。
 そこにいたのは貴族ではなく、ただの老人だった。

「その時に誓ったものよ。残されたアメリーを幸せにすると。天真爛漫なアメリーは、貴族社会には向かなかった。それを補えるいい縁談を見つけてきたつもりじゃったが……いまになって思えば、それがあの子を苦しめたのじゃな」

「その、気づかなかったんですか? 館で働く庭師だったと言ってましたけど……」

「ふふ、直接的な物言いは稀人ゆえかの」

「あ、すいません」

「よいよい。……気づいておったよ。いかに花が好きとはいえ、あれほど長い時間、庭におればの、気づかぬわけがない。アメリーが幸せであれば、婿を取っても続ければいいと思っておったのじゃ。子をなした後は、そうしておたがい愛人を作って楽しむ貴族もおるらしいからの」

 どうやらこの世界の貴族は、それなりに(ただ)れているようだ。
 いや、役割と恋愛を分けているだけかもしれないが。

「じゃが、アメリーは割り切れなかったようじゃな……あの子らしいといえばあの子らしい。気づいた時には遅かったわい」

 寂しそうに首を振るバスチアン。
 いまだに後悔しているのだろう。

「じゃが……ケビン殿、ドニ殿。それに、アリスとシャルルから開拓村でのアメリーの話を聞くとの。幸せそうでなあ」

「はい。いつも笑顔がたえない一家でした」

 アリスたちが暮らしていたアンフォレ村。
 行商で通っていたケビンが、バスチアンの言葉を肯定する。

「盗賊はいまも許せん。ヤツらのせいでもたらされた最期もじゃ。じゃが、貴族として心を殺して生きていくのと、どちらが幸せじゃったか……儂は貴族としてこの歳まで生きて、いまさらそんなことを考えるとは思いもせんかった」

「それは……」

「よいよい、もはや答えはわからぬのじゃ。じゃがそうなるとの、ユージ殿に聞かれた話に戻る。アリスとシャルルじゃ」

 いよいよ本題である。
 バスチアンの言葉に、ゴクリと唾を飲み込むユージ。

「アリスはアメリーに生き写しじゃ。天真爛漫で、分け隔てなく人と接する。気づけば周りが笑顔になっておるのよ。シャルルものう、よく見ると二人に似ておるよ。素直で……返す返すも盗賊が憎いがの」

 在りし日を思い出すように遠い目で語るバスチアン。
 ユージとケビンは、言葉を挟むことなく聞いていた。

「じゃからの……二人の決断に任せようと思っておる。貴族として生きるのであれば、儂が教えよう。じゃがそれは、心を殺し、表情を読ませず、感情を表さないで生きていくことも必要なのじゃ。領民を守る責任もあり、時には苦さを呑み込まねばならぬ。ひょっとしたら、そこに二人の幸せはないかもしれん」

 貴族であるはずのバスチアンは、悲し気な表情を(あらわ)にしていた。

「じゃあ……」

「うむ、儂からは無理は言わぬ。アリスとシャルルがそれぞれ選べばよい。なに、心配するでない。貴族を選ばずとも、儂が後ろ盾になるのは変わらんよ」

 すでに腹をくくったのだろう。
 バスチアンはユージに笑顔を見せる。

「ありがとうございます。二人に聞いてみます」

「バスチアン様、待っていたエルフが到着したようで、明日は外出いたします。アリスちゃんとシャルルくんの答えは、王都を発つまでにお話すればよろしいでしょうか?」

「うむ、それでよい。まあ後から貴族になりたいと言っても、儂が生きているうちなら歓迎するがの。遅ければ遅いほど大変になるのは間違いないのじゃが」

 これで話は終わりだと示したかったのだろう。
 バスチアンは大きく伸びをして、さて、では明日は仕事に励むかの、と言って立ち上がる。
 会談の終了を見て取ったケビンもユージを立たせ、執務室を後にする。


 強引に事を進めるつもりはなく、アリスとシャルルの決断次第。
 ひとまず胸を撫で下ろしたユージは、割り当てられた客室へと戻るのだった。
 わずかな不安を胸に抱いて。

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