(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年5月26日付)

「怒りを込めて振り返るな」 追悼集会でオアシス合唱 英爆破事件

英中部マンチェスターの聖アン広場で、爆破事件の犠牲者を追悼する1分間の黙とうに集まった人々(2017年5月25日撮影)。(c)AFP/Ben STANSALL〔AFPBB News

 リヤドでの出来事とマンチェスターでの出来事との間に直接的な関係はなかった。米国のドナルド・トランプ大統領がアラブ諸国の首脳に向けてサウジアラビアの首都で行ったスピーチと、イングランド北部のポピュラー音楽のコンサート会場で実行された邪悪なテロとの間に、明らかなつながりはなかった。

 それでも、この2つが同じ時間に行われたことについて、我々は穏やかではいられないはずだ。マンチェスターであったような壮絶な爆破テロでは、実行犯だけがその責めを負う。「もし」や「しかし」、あるいはまやかしの道徳的等価性の議論などを差し挟む余地はない。イスラム主義の過激派は西側諸国の政策に関心がないなどと偽ることも、やはり間違いだろう。

 欧州の都市はかなり以前から無差別攻撃を受けており、最も基本的な点において言うなら、今回のテロで改めて思い出されたのは、外の世界との間に壁を築くことはできないということだ。

 今回の実行犯は英国のパスポートを保持していたが、このようなテロを実行しようという着想の根源は、中東で行われている宗派間の武力紛争にある。ゆがめられたイデオロギーに若者が染まったり、殺人のノウハウがデジタル形式で伝授されたりするのを阻止できるほど高い壁を作ることはできない。

 トランプ大統領は、アラブ諸国の君主たちに向けて行った演説の中で、この点をことさらに強調した。大統領が「イスラム教徒は我々を憎んでいる」と決めつけ、イスラム圏数カ国からの入国を禁じる大統領令に署名したのはそれほど昔の話ではない。それが今では、サウジアラビアとペルシャ湾岸諸国は身近なところで起こるテロとの戦いを強化すべきだというメッセージを送っている。

 そして、お馴染みの偽善の出番だ――もっとも、大統領のアドバイザーたちは、これを外交政策のリアリズムだと呼びたがると見て間違いあるまい。

 考えてみよう。トランプ氏がスピーチしたのはサウジアラビア、つまり多くのジハード主義者に神学的支柱を提供している過激なワッハーブ派(イスラム教スンニ派の一派)を広めている国だ。2001年にニューヨークとワシントンを襲った同時多発テロに参加した殺人犯のほとんどは、サウジアラビア国籍だった。