田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 文部科学省の前川喜平前事務次官の「加計(かけ)学園問題」をめぐる記者会見が波紋を呼んでいる。特に前川氏の会見から、マスコミ、識者、そしてネットなど世論を中心に主にふたつの話題がある。
記者会見の途中、弁護士と話す文科省の前川喜平前事務次官(左)=5月25日午後、東京・霞が関
記者会見の途中、弁護士と話す文科省の前川喜平前事務次官(左)=5月25日午後、東京・霞が関
 ひとつは学校法人「加計学園」(岡山市)が獣医学部を愛媛県今治市に新設することに関する「怪文書」の内容についてである。この「怪文書」の出所が前川氏であることが判明した。ただし、政府はこの文書に該当する公式文書は存在しないと現時点では明言している。

 この「怪文書」については、前回書いたとおり、安倍晋三首相に違法性や道義上の責任を生じさせるものではない。例えば、官僚たちが首相の暗黙の政治的圧力を「忖度(そんたく)」して認可のスピードを速めたというが、このような他人に「忖度させた罪」「忖度させた道義的責任」などは合理的な論点にはなりえない。他人が内心でどう思っているかの責任を「忖度させた」の一言で取らせることは、ただの魔女狩りである。マスコミの多くがこの「忖度させた罪」というものがあるかのように安易に報道していることは極めて危険だ。

 もうひとつは、いわゆる「出会い系バー」に前川氏が出入りし、それを「貧困調査」のためだと説明した事例である。この問題については、正直、筆者はそもそも「出会い系バー」という存在の詳細を知らない。この論点については、テレビで取材したと述べたジャーナリストの須田慎一郎氏ら適切な方々が論評していくことだろう。

 筆者は主に最初の論点を考える。といっても怪文書の出所が前川氏であることを除いては、前回の論説に付け加えるものはない。このような安易な「疑惑」作りは、民主主義を本当の意味で危機にさらすことだろう。

 今回は、この「加計学園問題」をより経済学的な視点から再考してみる。獣医学部の新設については、日本獣医師会やその関係する政治家たち、また文科省自体も長年にわたって反対してきた。52年間もの間、獣医学部の新設が認められてこなかったまさに「岩盤規制」であった。