日本の女子高生はほとんどみんな痴漢の被害者だ!|中東メディアが深掘りしたその実態と原因とは?
From Aljazeera (Qatar) アルジャジーラ(カタール)
Text by Annette Ekin / Additional reporting by Shiori Ito
PHOTO: SHIORI ITO / AL JAZEERA
日本の、とくに電車内の痴漢の多さは、「女性専用車両」の登場などで海外でも有名になりつつあるようだ。なかでも女子高生など制服を着た少女が主に狙われることは、なおさら奇異に見えるらしい。2017年3月8日の国際女性デーに、中東アジア最大手メディア「アルジャジーラ」がこの問題について多角的に取材し、国際的に注目された記事をお送りする。
小川たまかが初めて痴漢に遭ったのは、10歳のときだ。その日は祝日だった。地下鉄に乗っていると、後ろにいた男がキュロットスカートのベルトに手をかけ、下着ごとキュロットをめくり上げられた。男は露わになったお尻を撫でると、おもむろに下腹部を押しつけてきた。
そのときの衝撃と吐き気はいまも覚えている。家に帰ると、トイレで何度もその部分を洗った。トイレから出てこないことを家族に怪しまれないよう気をつけながら。
次に痴漢に遭ったのは、高校に入学して最初の授業の日、家に帰る電車の中だった。その日以降、登下校中の痴漢は日常茶飯事になった。下着の中まで手を入れられることも多かった。そのたびにどうしていいかわからず、その場から逃げた。
「私は幼かったんだと思います。私に触って興奮する大人がいることが理解できませんでした」と彼女は当時を振り返る。大人に怒りをぶつけるのはいけないことだと思っていた。他人の目をひくのも嫌だった。親から痴漢について聞いたこともなかったし、どう対処していいかわからなかった。
15歳のときの出来事はいまも忘れられない。朝、電車で男が下着に手を入れてきた。その男は手荒だった。鋭い痛みが走った。次の駅で電車から降りるとその男も降りてきて、手をつかみ、「ついておいで」と言ったのだ。小川は逃げた。周りの乗客は男が痴漢だとわかっていたはずだが、誰も助けようとしなかった。
「私がそうされて喜んでいると相手の男は思ったようでした」と、現在36歳の小川は振り返る。男に協力してしまった気がして自分を恥じた。
「高校時代、痴漢に遭ったことがない子はほとんどいませんでした。みんな、どうしていいかわからなかった」
小川は現在、下北沢で「プレスラボ」という小さなデジタルコンテンツ制作会社を共同経営している。ジェンダーによる格差と性的暴力について発信するライターでもある。
小川たまか
PHOTO: SHIORI ITO / AL JAZEERA
小川が電車内の痴漢について書きはじめたのは2015年だ。日本では長年、痴漢は取るに足らない出来事とされ、多くの女子高生たちが被害を口にできないでいた。だが、小川が痴漢について発信しはじめた2年前から、痴漢を容認しない声が上がりはじめるようになった。
痴漢を抑止する
松永弥生(51)も声を上げはじめた一人だ。2017年1月下旬の朝、人波でごったがえす渋谷のとあるカフェで松永と会った。彼女がスーツケースから取り出したのは「痴漢抑止バッジ」だ。
女子高生が両足の間から怒った顔をのぞかせる「股のぞき」バッジや、黒いウサギが「痴漢は犯罪です」「やめてください」と怒るバッジなど、いずれも痴漢の気をくじくために考案されたデザインが目をひく。購入者には「自信を持って、背筋を伸ばそう! 後ろに人に見せるようにつけよう」などのアドバイスが書かれたリーフレットが付いてくる。
松永弥生
PHOTO: SHIORI ITO / AL JAZEERA
松永は友人の娘が電車でくりかえし痴漢に遭っていることを知り、2015年に「痴漢抑止活動センター」を大阪で立ち上げた。その友人の娘は、トノオカタカコという仮名でジャパン・タイムズの取材を受けている。母親に被害を打ち明けた娘とそれを受け止めた母親。親子の取り組みが始まった。
ひもを引っぱると「やめなさい」と話すぬいぐるみもそのひとつだ。警察や鉄道会社に相談もした。警察は加害者を特定できたら捕まえると言ったが、加害者は毎回違っていた。制服のスカートを短くするとかえって痴漢が減ることも発見した。
鉄道会社は勇気を出して声を出すことを女性に呼びかけた。タカコは自宅で「やめなさい」「いやです」と声を出す練習をした。しかし声を出しても、男に「触っていない」とすごまれればそれまでだった。助けに入る傍観者はいなかった。
親子は、「痴漢は犯罪です。私は泣き寝入りしません」と書いたシールを通学バッグに貼ることを思いついた。逮捕される犯人のイラスト付きだ。効果はあった。しかしやがて彼女は男子にからかわれるようになり、自意識過剰に追い込まれていった。
被害者の孤軍奮闘は間違っている、そう思った松永は痴漢抑止バッジのクラウドソーシングを決意する。「女子高生は可愛さにこだわるので、バッジのデザインも可愛くしないとね」と松永は言う。
2015年11月に企画したクラウドファンディングでは、334人のサポーターから212万円の寄付が集まった。松永はそれを元手にバッジのデザインコンテストを主催する。応募者は高校生、美大生、フリーランスのデザイナーなどで、大半がそれまで痴漢について考えたことがない人たちだった。
松永は441作品から5作品を選び、痴漢抑止活動センターとして500個のバッジを配布した。協力した3つの警察署が配布したバッジはそれを上回る。410円でオンライン販売もしている。2017年3月からは11のデパートがバッジを置いてくれた。目下の課題は駅周辺でバッジを配布する人の確保だ。
松永は、加害者がバッジを見て、世間が変わりはじめていること、被害者が泣き寝入りするとは限らないことに気づいてくれたらと言う。松永が学生たちに呼びかけるのは、この問題について早い年齢から話し合うきっかけになると思うからだ。
バッジは目をみはる効果をあげた。埼玉県の高校生70人に聞いたところ、2016年4月から12月までの期間でバッジを着けているとき一度も痴漢に遭わなかったと答えた生徒は、回答の61.4%を占めた。変化なしと答えた生徒は4.3%だった。
鉄道警察隊も高校と協力してセミナーを開催しはじめた。生徒たちがこの問題について気楽に話す機会になったと松永は言う。
小川は、バッジの良さは人々を「被害者」と「加害者」に分けないことだと言う。このことが議論を活発にさせると信じている。「デザインはかわいいけどメッセージは強烈です。バッジを着けて歩くことは覚悟が要ります」と小川は言う。
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