潜入 “違法ハウス” ~住宅弱者をどう支えるか~
潜入“違法ハウス” 驚がくの実態
東京・千代田区にある、この白い建物。
オフィスビルの事務所などとして、届けていました。
しかし、出入りしているのは会社員ではなく、高齢者や普段着の若者。
実は、違法ハウスです。
住民の許可を得て、建物に入ることができました。
人1人が、ぎりぎり通れる廊下。
数多くのドアが並んでいます。
女性が1人で住む、この部屋。
広さは、およそ3畳。
隣の部屋とは、ベニヤ板1枚で仕切られています。
女性
「爪切りひとつ切る音でも、紙をかさかさする音でも、全部聞こえますよ。」
窓は、ありますが…。
女性
「これ、全然開かない。
ただ貼ってあるみたいな。」
別の部屋に住む男性です。
職を転々としながら、家賃の安い違法ハウスにたどり着いたといいます。
「ここは何人部屋ですか?」
男性
「2人です。」
3畳ほどの部屋に、全く見ず知らずの人と同居しています。
家賃は、1人、2万8,000円です。
男性の寝る場所は、2段ベッドの上の部分。
天井までは、80センチ。
立つこともできません。
さらに、この部屋には窓がついていませんでした。
男性
「窓はない状態ですね。
表の様子がどうなっているのか、雨が降っているのかわからない。」
こうした部屋は、最低限必要な居住スペースを満たしておらず、窓もないため、消防法や建築基準法などに違反しています。
取材で分かった、この建物の構造です。
各階には、1人部屋と2人部屋が、網の目のように19部屋並んでいます。
部屋は、1人でも多くの人を入れるために、隣り合う2つの部屋でベッドを上下で分け合う、クランク状の作りになっていました。
運営会社は、あくまで貸しオフィスとしていますが、全部で100の部屋が作られ、およそ120人が暮らしていたのです。
あなたの隣にも… 増殖する“違法ハウス”
こうした違法ハウスは、いったいどのくらいあるのか。
先月(6月)から、都内で実態調査を始めたNPOです。
建築士から独自に情報を集め、都市部に潜む違法ハウスを調べています。
オフィスビルを装って、多くの人を住ませている形跡が次々と見つかりました。
NPO団体代表 坂庭國晴さん
「靴が散乱してるわけですよね。
80人が入ってる、最大ね。」
NPO団体代表 坂庭國晴さん
「違法性が非常に高い物件ですよね。」
これは、一戸建ての内部を改装し、15人が暮らしているとみられる物件です。
NPO団体代表 坂庭國晴さん
「普通の戸建ての住宅で15人。
“違法ハウス”としての典型ですね。」
調査の結果、少なくとも都内に100棟、2,000人が違法ハウスで暮らしていることが明らかになりました。
なぜ“違法ハウス” 行き場のない住宅弱者
なぜ、違法ハウスは拡大しているのか。
千代田区の違法ハウスに暮らす、丸井さんです。
山形で、メーカーの派遣社員だった丸井さん。
5年前、職を失い、仕事を求めて上京しました。
しかし、敷金、礼金が払えず、保証人もいない丸井さんは、住む場所さえ見つけることができませんでした。
仕事を得るには、どうしても住所が必要だった丸井さん。
たどり着いたのが、格安で、保証人のいらない違法ハウスだったのです。
丸井さん(仮名・55歳)
「他では入れてもらえないから、ここに来ている。
今のままだと、行くところがない。」
住所を得たことで、去年(2012年)ようやく仕事が見つかりました。
マンションの清掃です。
週4日、朝7時から正午過ぎまでの勤務です。
月収は、9万6,000円。
2万8,000円の家賃と生活費でほとんどなくなってしまう、ぎりぎりの暮らしです。
先月、違法ハウスで暮らす丸井さんたちに衝撃が走りました。
「この紙は?」
丸井さん(仮名・55歳)
「6月30日で閉館で、ここ終わっちゃうって貼られたんですよね。
本当、どうしようか困ってます。」
突然、閉鎖が決まった違法ハウス。
同じ会社が経営する別の建物が、消防法違反を指摘されたのが、きっかけでした。
住む場所を失うことになった丸井さん。
住宅を借りるための貯蓄もなく、保証人もいません。
なんとか職場の近くに住み続けることができないか。
千代田区に相談しました。
丸井さん(仮名・55歳)
「他に行けと言われても、行くところがなくて。」
担当者から告げられたのは、思いもしない提案でした。
担当者
「生活保護を申請して、収入、資産、援助、この調査を行って、該当すれば、生活保護になります。
そうしたら、今のところを出て、次に住むところは必ず確保します。」
仕事を辞め、生活保護を受けることで、施設などに入ることを勧める千代田区。
しかし、丸井さんはこの提案を断りました。
丸井さん(仮名・55歳)
「生活保護などは、そういう人もいるんだろうけど、普通は仕事をして、自分の食いぶちは自分で。」
ようやく見つけた清掃の仕事を続けたい。
生活保護を受けずに、自立した暮らしを守りたいと考えたのです。
6月末だった違法ハウスからの退去は、その後、9月まで期限が延びました。
退去まで、2か月。
まだ次の家は見つかっていません。
丸井さん(仮名・55歳)
「この状態が解決しなければ、未来は間違いなく、寝泊まりは野外というような感じになる。
仕事もなくなって、野たれ死にするのか。
全然、希望はないですね。」
なぜ広がる “違法ハウス”
●働いていても住宅の確保が難しい現実が広がっている?
そうですね。
住宅というのは、生活の拠点でもありますし、また住所がなければ、仕事を探すこともできませんし、また住民票がなければ、投票用紙も送られてきません。
ですので、社会保険に加入するにしても、住民票がなければいけないと。
ですので、ある意味では、政治的、社会的な権利は、住所があることによって発生するということがあろうかと思います。
また住居は、単にあるだけではなく、その人が人間らしい生活をする基本になりますので、そういう環境があるかどうかということが、あろうかと思います。
いわば住居というのは、社会のパスポートというふうに考えていただければいいんではないかなというふうに思います。
●“違法ハウス” 潜在的なニーズや広がりは、どれほどあるか?
労働環境が変容しまして、非正規労働者の数が非常に増えてきているわけです。
例えば、20代が2人に1人、稼働年齢層全体にしても、3人に1人が非正規労働者なわけです。
その比率が非常に増えてきていると。
また、その人たちが、200万円以下の年収で暮らす人というのが、1,000万人以上いるわけですね。
ですので、なかなか住宅を借りるにしても、敷金、礼金の初期費用であるとか、保証人を得るということが、なかなか難しいということが現実的にあるかと思います。
ですので、日本の住宅問題の最も象徴的な表れ方が、その非正規労働者の住宅問題に表れているんではないかなと考えております。
●所得の低い人向けの公的な住宅 十分にあるか?
これは公が用意する公営住宅、あるいは民間の賃貸住宅がありますけれども、それぞれ、やはり初期費用である敷金、礼金、保証人が必要です。
とりわけ、例えば公営住宅に関しては、申し込みにあたっては大体50倍から100倍、申し込みがありますし、また、そこで決定されたとしても、半年から1年は、空きができるまで待たなければいけないという、そういう実態にあろうかと思います。
(全然足りないと?)
足りないですね。
(全く足りないということになるわけですね。)
そうですね。
●生活保護という選択肢しかないのか?
生活保護か、生活保護以外のものというふうになりますと、低所得者に対する住宅政策というのは、極めてないかと思いますね。
不十分だと思います。
ですから、生活保護でなければ、それ以外の施策が用意できているかというと、極めて離職者に対してはありますけれど、仕事をしながら、かつ、なかなか十分な初期費用を得られない、保証人が得られないという人に対しては、その手当てがされていないというのが現状ではないかなというふうに思います。
●自立して生活をしたい人にとっては、つらい選択ですね
そうですね、生活保護かそうでないかと、そうでないという場合については、十分な用意がされていないというのが、今の日本の現状ではないかなというふうに考えます。
どう支える住宅弱者 打開へ動く自治体
住む家が見つからない。
家賃が払えない。
住宅弱者からの相談が、年1,500件を超える豊島区です。
40代 シングルマザー
「生活費が無理なので、できれば(家賃)5万円。」
担当者
「5万円ですと、豊島区ですと、とても厳しいんですね。
貯蓄はありますか?」
40代 シングルマザー
「いえ、ないです。」
担当者
「まったくないですか?」
シングルマザーや、高齢者、低所得者など、抱えている事情はさまざまです。
2年前から対策に乗り出した、住宅課の三沢智法さんです。
三沢さんが注目したのは、このところ増加している空き家でした。
豊島区 三沢智法住宅課長
「全部で何軒見つかったの、空き家は?」
「551軒。」
豊島区 三沢智法住宅課長
「すごい数あるね。
思っていた以上にあるね。」
空き家を改装すれば、安い料金で貸し出せるのではないか。
職員は早速、協力してもいいという大家を訪ね、状態を確認しました。
豊島区 三沢智法住宅課長
「部屋の中だけ見ると、修繕とか手をいれれば、まだ十分使える感じですね。」
しかし、空き家の活用は簡単ではないことが分かってきました。
豊島区 三沢智法住宅課長
「建物自体は、築何年ぐらいのものなんですか?」
大家
「昭和28年なんですよ。」
60年前に建てられた、この家。
耐震性が、今の建築基準法を満たしていない恐れがありました。
協力を申し出てくれた空き家のほとんどが、行政としては勧められないものでした。
豊島区 三沢智法住宅課長
「空き家があるから使っていいかというと、そんなに実は単純ではない。
正直、厳しいところがありますね。」
どう支える住宅弱者 相次ぐ“難題”
建築基準法を守りながら、住宅弱者の住まいをどう確保すればいいのか。
三沢さんは、不動産会社を訪ねました。
不動産会社 浅原賢一社長
「(収入が)安定しない方に対しては、やはりオーナーさんも不安が大きい。
何かあった時に、責任者の方が明確になることが重要だと思います。」
法律を満たす物件はありましたが、保証人がいないと、リスクが高く、貸せないというのです。
どんな仕組みがあれば、住宅弱者を支えることができるのか。
豊島区は、不動産業者や社会福祉法人などと連携し、居住支援協議会を設置。
アイデアを出し合いました。
そこで考えたのが、地域のNPOを活用する仕組みでした。
住宅弱者が家を借りられないのは、大家が家賃の滞納などを心配し、契約を断るからです。
そこでまず、NPOが住宅弱者に代わって、物件を借り受けます。
そして就労や日常生活の支援など、自立に向けたサポートを行いながら、住宅弱者に貸し出そうと考えたのです。
しかしその後、三沢さんのもとに思わぬ報告が届きました。
住宅を借りようとしたNPOが、大家から契約を断られる事例が相次いでいるというのです。
NPO法人 としまNPO推進協議会 柳田好史代表理事
「大家さんによっては、NPOって何だと。
町会なら知ってるぞと、商店会なら知ってるぞと。
俺わからないけど、NPOじゃ、ちょっとな。
NPO自身が社会的認知度が薄いことは、非常に残念なこともありますけど。」
NPOが間に立つだけでは、大家の不安は解消できませんでした。
豊島区 三沢智法住宅課長
「今、八方塞がりの状態なんですよね。
現状のセーフティネットを補完する新たな仕組みを作らない限り、こういった新しい住宅困窮者に対する抜本的な解決がなかなか難しい。」
どう支える 住宅弱者
●豊島区の取り組みを見て
まず、豊島区の地域への働きかけでは、極めて積極的に評価できると思いますね。
と言いますのは、行政は民事不介入であるとか、民業圧迫ということで、なかなか、こういう問題については手をこまねいているということ。
しかしながら、積極的に協議会を作りまして、その人たちの問題というのを取り組んでいると。
しかしながら、やはり、なかなか壁もあるということがあったかと思います。
ですから、直接、契約ということを行うということは行政はできませんので、第三者にお願いをして、それがNPOであるとか、社会福祉法人になろうかと思いますが、それを介して保証人であるとか、初期費用の問題というのを解決しようとして、そういう非常に積極的な試みであるというふうに私は考えます。
●具体的な成果というのが、まだまだ出にくい状況?
そうですね。
ですから、こういう問題について、例えば、極めて社会的な信用のある社会福祉法人ですね、例えば、島根県の社会福祉協議会では、この保証人の制度を協議会で作って行なうと。
これについては、やはり行政が信用がありますし、資金提供するということも始めておりますので、そういう1つのモデル的なものもあろうかと思います。
また、民間に関しては、逆に空き家があって、かつニーズもあると。
しかし、それをうまくマッチングするという形になると、やはりこれは、やっぱり不動産業者の協会が、積極的に、例えば初期費用を下げるとか、あるいは保証人の問題を、できるかぎりクリアするようなことを行うということが必要なんではないかと。
これはある意味では、企業の社会的な貢献、社会的な信用度というのも高まりますので、ぜひ積極的にそういうことに取り組んでいただければというふうに考えております。
●労働者が生き生きと働く社会を目指すにあたり、何が問われている?
ですから、これからの時代というのは、非正規雇用者の人が非常に増える時代なわけですね。
しかしながら、制度がその実態に追いついていないということがありますので、非正規雇用の人たちの住宅のネットを早急に作る必要があろうかというふうに思います。
そのためには、やはり、地域と企業と行政が、手を携える必要があろうかと思います。