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昭和考古学とブログエッセイの旅へ

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

デジタルで復活!世界の「お茶」マップ

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先日書いた記事のコメント欄で、いつも見に来てくれるLurihaさんとのやり取りの中で

「世界のTEA/CHA マップ」

というものを過去に作ったことがある、ということを書きました。

parupuntenobu.hatenablog.jp

 

 

図書館で借りた世界のお茶の本に、世界各国の「茶」という言葉のリストがあったのですが、それをベースに学校の社会の授業で使う世界の白地図に手書きで色を塗り、「お茶マップ」なるものを作ったことがあります。

しかし、作ったのは相当昔のこと。もういつだったか忘れちゃったくらい過去の話です。


覚えているのは、大まかに分けるとだいたい

「TEA派」
「CHA派」

に分かれているということで、新しい発見もあってけっこう面白かった記憶があります。

しかし、何の目的があって作ったものでもないので、そのお茶の世界地図はいつか捨てられ、作った本人の記憶の中からも暫く消えておりました。

コメントのやり取りで思い出させてくれたのと、
「のぶさんが製作されたその地図、見てみたかった!」

と読者さんからのたっての希望(?)につき、プロジェクトを立ち上げました。

名付けて、

 

「世界【茶】マップ デジタル復活プロジェクト」

 

立ち上げ人は私、メンバーも私。紛れもなく自作自演プロジェクトです(笑)


以前作った時はネットなんてなかったけれど、今回はネットという大きな味方がいる。
前回・・・がどんなものかさえ忘れてしまいましたが、過去よりは情報が取れるにちがいない。


とその前に、大きな難関がプロジェクトの道を遮ります。

「ネット上に白地図なんてあったっけ?」

ググってみると、山ほど見つかりました。それはそれで問題なし。

いや、さらに大きな問題発生。

「その白地図、そもそも色塗れるの?」

今回のデジタルリマスター版(そんな大げさなものなのか?)は、ネット上で色分けしてきれいに表示できる、
というのが条件。白地図を印刷して手書きで色を塗るのは手間暇がかかりすぎる。

PCで色分けができる白地図を!と探していると、やはりありました。

 

mapchart.net


MapChartという白地図サイトです。英語ですが、やり方は比較的簡単です。

世界地図だけではなく、アジアやヨーロッパなど地域別の白地図もあるので、用途によって使い分けることが可能です。

この白地図の使い方は、後日別記事にして書いていきます。

  

お茶って世界で何と言うの?マップ


そして、世界各国の「茶」の単語を文明の利器で調べ直し、外国語好きのメンツと数時間の月日(?)をかけて完成致しました。

「世界【茶】言語マップ デジタルリマスター版」

 

 

 

それでは、グダグダ言わずご覧下さい。

 

 

世界のお茶マップ

(世界版)

 

世界のお茶マップ-ユーラシア大陸

ユーラシア大陸

 

world tea map 世界のお茶言語マップ-ヨーロッパ

(ヨーロッパ拡大)

 

緑:ミン南語の「テ」から派生した「TEA」群

オレンジ:北方(北京官話系)から派生した「CHA」群
紫色:どちらにも当てはまらないもの
色塗りなし:データがなく不明な国

 

※1:公用語として使われる言語を参照にしました。公用語がない場合は、その国の主要言語を参照。
※2:アフリカは、公用語が民族語でデータがない場合は、旧宗主国の言語(英語・仏語など)でカウントしました
※3:韓国、ベトナムは「CHA」型と「TEA」型の両方存在しますが、日常会話で使われる「CHA」型でカウントしました

 

 

 

世界のほとんどが、「TEA」「CHA」の両派で占められていることがわかります。

 

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1.TEA派

英語:tea(ティー)

仏語:thé(テ)

イタリア語:tè(テ)

スペイン語:té(テ)

オランダ語:thee(テー)

ドイツ語:Tee(ティー)

スウェーデン語:te(ティア)

ノルウェー語:te(ティェー)

ハンガリー語:tea(テェーア)

フィンランド語:tee(テー)

ヘブライ語:תֵה(テ)

インドネシア語・マレー語:teh(テ)

シンハラ語තේ(テー)(←スリランカの言葉)

 

 

ヨーロッパは、ロシアなど東欧やポルトガルを除くと、すべて「TEA」派で占められています。

 

意外だったのは、インドネシア・マレー語のが「TEA」群だったこと。

周囲のベトナム語タイ語などが「CHA」群なのに、何故「TEA」群なのか。

おそらく、マレーやインドネシアを数百年植民地にしてきた英国・オランダの影響があるかなと思います。

マレー半島インドネシアにはお茶がなかったのですが、イギリス人やオランダ人が東インド会社を通して、中国から「テ」なるものを運んでくる。

彼らはそれを「テ」とか「ティー」と呼んでいたので、自然と「テ」が広まったと推測しています。

 

英語の" tea"が入ってきたのは、17世紀前半あたりと言われています。

信頼できる英語の語源辞典によると、" tea"は" tey "や" thea"とも綴られ1650年代に文字として出てきたとのこと。17世紀、日本では江戸時代初期の頃、は英語が現代英語に脱皮する過渡期と言えるもので、スペリング(綴り)がだんだんと現代英語に近づいてきた時代でもありました。よって、綴りが数種類あるのは珍しいことではありません。" tea"が" tea"として定着したのは18世紀の頃でした。

 

しかし、ここで面白いことが。

17世紀以前はお茶をどう表現していたのかというと、実は" cha "だったと。

1580年代の書物には" chaa"として文書に残っており、" tcha" , " cha"などの表記もあったそうです。ポルトガル語からの外来語という説が有力です。

それが消え" tea"となったのですが、なぜ" tea"になったのかは諸説ありとしつつも、17世紀頃にお茶貿易を独占していたオランダ人が、アモイ方言の「テ」を輸入した説が有力だとか。

 

ちなみに、英語には” chai"という、「お茶」を意味する別の単語が存在します。

しかし、これは" tea"以前の" cha"の生き残りではなく、20世紀に「香辛料入り紅茶」がインドから入ってきたことから。意味も「シナモンなどスパイス入りお茶」「インドのチャイ」という意味になります。

まあ、こんなの受験英語にもTOEICにも出てこないので、覚える必要がないのが玉に瑕です(笑

 

 

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2.CHA派

日本語:ちゃ(茶)
韓国語:차(チャ)

ベトナム語:trà(チャー)

チベット語:  (チャ)

タイ語: ชา (チャー)
ロシア語:чай(チャイ)

チェコ語:čaj(チャイ)

セルビア語:чај(チャイ)

ギリシャ語:τσάι (ツァイ)

ヒンディー語:चाय(チャイ)

トルコ語:Çay(チャイ)

ペルシャ語چای (チャーイ)

アラビア語شاي (シャーィ)

 

ヨーロッパの言語系統は、大きく分けると
★ゲルマン語派(英語・ドイツ語・北欧諸語など)
ロマンス語派(仏語・イタリア語・スペイン語ポルトガル語など
★スラブ語派(ロシア語・ポーランド語・チェコ語セルビア語など)
★その他(「ケルト語派」のスコットランド語・「アルバニア語派」のアルバニア語など)
★系統不明(バスク語
に分かれます。

 

ここで面白いことがわかります。
スラブ語派は基本すべて「CHA」群ということ。スラブ語族といっても、「東スラブ語」「西スラブ語」「南スラブ語」に分かれるのですが、すべて「CHA」群ということは共通しています。

 

ロマンス語族はほとんどが「TEA」派ですが、2つだけ例外があります。

一つはルーマニア語ルーマニアで話されるルーマニア語は、フランス語やイタリア語などと兄弟言語です。私のMade in NHKスペイン語講座スペイン語だけで、単語なんて一つも知らないルーマニア語のニュースが、なんとなぁ~~く理解できるほど似ています。

しかし、ルーマニア語は周囲をスラブ語族に囲まれているため、スラブ語の影響をけっこう受けています。ロシア語の「バンザイ!」にあたる「ウラー!」も同じです。

なので、「お茶」に関してはロシア語などの影響を受けてしまい、「CHA」群になったのでしょう。

 

ポルトガル語も、緑が蹂躙している欧州の中で、陸の孤島のように「CHA」群です。

ポルトガル語で「お茶」は”chá”です。
南米も、スペイン語圏がみんな「TEA」なのに、ポルトガル語を使うブラジルだけ「CHA」。
欧州でも南米でもポルトガル語だけ四面楚歌という色分けになり、判官びいきの私はついポルトガル語を応援したくなります(笑)

 

しかし、こんな陸の孤島状態になったのは何故?
私の勝手な推測ですが、お茶の積込地の影響ではないかなと。

お茶が英語などではTEAとなるのは、主要積み出し港だった福建省アモイ(厦門)では、「茶」を「テ」と呼んでいたからという説が有力です。


対してポルトガルの中国での本拠地は、マカオを拠点にした広東省です。
彼らの本拠地広東省の方言、広東語で「お茶」何というか。
「チャー」または「ツァー」です。
そう、同じ中国でも、「TEA」派福建省のお隣広東省は「CHA」派なのです。ここが中国言語事情のややこしいところ。

ポルトガルはお茶にはあまり興味を示さなかったようですが、お茶という単語は広東語から拝借したのかもしれません。

 

3.その他

 地図を見てもわかるように、世界の99.9%が「TEA」群と「CHA」群の二大勢力となっていますが、その中にも我が道をゆく「例外派」が存在します。

 

リトアニア語:arbata(アルバタ)

ポーランド語:herbata(ヘルバタ)

 

 

ポーランド語で" teapot "は" czajniczek "(チャイニチェック)と書くそうですが、語頭の" czaj "(チャイ)が「CHA」系列です。

同じ" teapot "でもリトアニア語では" arbatinukas "(アルバティノカ)となり、原形の(?)" arbata "の形が残っています。

 

この" arbata "と" herbata"という、「TEA」や「CHA」とは似ても似つかない言葉の正体は何なのか。

 

調べてみると、ローマ帝国公用語だったラテン語が起源のようでした。

ラテン語で「お茶」は" herba thea "(ヘルバ テア)と言うのですが、" herba "とは「(薬)草」という意味で英語の「ハーブ」の語源となっている単語です。

" thea "は「お茶」という意味らしいので、直訳すると「お茶の草(≒葉)」ということになりますね。

ラテン語は、英語と違って形容詞が名詞の後に来ます)

なので、ポーランド語とリトアニア語は「TEA」群ではないかという見方もありますが、ここはその他に分類しておきます。

 

しかし、周囲の言語がほとんど「TEA」と「CHA」となっている中、頑なにラテン語の形を残し、いまだに使っているのは何故でしょう。

ポーランド語とリトアニア語は、それぞれ「スラブ語派」「バルト語派」という語族に属しております。この二つの語派がややこしく、「兄弟」とみなしている人もいれば、「ほぼ他人の遠縁」と言語学者によって解釈が違います。今回は、そういう難しい話は置いといて、「他人」として記します。

ポーランド語はロシア語、リトアニア語はお隣ラトビア語が、兄弟的な近い関係です。

 

なぜ違う語派が同じ(ような)単語を使っているのか。詳しいことはわかりませんが、推測を立てることはできます。

語族が違う言語どうしが語彙(単語)を共有しているということは、

1.何か同じ価値観を共有している

2.歴史文化的にかかわりが深かった

(例えば、日本と中国が漢字を共有しているようなもの)

と考察することができます。

 

1.の理由で思いつくのが、どちらもカトリックということ。

リトアニアは国民の8割、ポーランドは9割以上がカトリック教徒で、世界でも熱心かつ敬虔なカトリック教徒が多い国として有名です。

それも、宗教を否定していた社会主義国の中でも、頑としてカトリック信仰を貫いた意志を持っています。

同じガチのカトリック国として、関係が強いのです。

 

もう一つ、2.の理由は、歴史的にポーランドリトアニア」だった時代があったということ。

中世のここあたりは、リトアニアポーランドが覇権を争い、力関係でリトアニアだったりポーランドだったり。一時は連邦(同君国家)として「ポーランドリトアニア」だったことがありました。

第一次世界大戦後に両方が独立した時は、リトアニアの首都ビリニュスの領有権争いでポーランドリトアニアが戦争をし、ポーランドビリニュスを占領していた時期がありました。「命のビザ」で有名な杉原千畝氏がリトアニアに赴任した頃がその時期で、だからビリニュスではなく、カウナスに公館を置いていたのです。

ここあたりは歴史的に複雑に絡んでいるようですが、リトアニアポーランドはお互い刺激しあいながら歩んできたと言っていいでしょう。言葉も影響し合っていてもおかしくありません。

 

 

ミャンマー語:လက်ဖက်ရည်

Google翻訳で出しただけなので、何が書いてあるのか、どう読むのか、さっぱりわかりません。

どんな言語でもわかるんじゃないのって?無茶言いなはんな(笑

 

いろんな手段で調べてみたところ、やっとこさどう読むのかわかりました。

 

どうやら「ラペィエ」と発音するそうですが、「CHA」でも「TEA」でもない、明らかにその他に分類されるものと認定します。

 

総論

こうやって分類してゆくと、今まで漠然としかわからなかった、なんかそれ聞いたことあるよね~程度の知識が、頭の中でどんどんつながってゆき、知識が見識に変わってゆきます。

今回は、自分の記憶を数十年ぶり(?)にデジタル技術で蘇らせたのですが(そんな大げさなw)、これはなかなか面白いものだなと、自分で作って自分で感心してしまいました(笑

 

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