子どもがいない 公園は誰のもの?

子どもがいない 公園は誰のもの?
「当児童公園内での球技禁止」
こうした禁止事項を記した看板が多数掲げられた公園を紹介する動画が今月、SNSで話題となりました。児童公園と名付けられているのに、子どもの姿はありません。私自身が子どものころは、ボール遊びが楽しめる公園はかなりあったように思います。今、公園は誰のものなのでしょうか。(ネット報道部・梅本一成)
「禁止事項があまりにも多い結果、いつ行っても人っ子一人いない公園の末路です」

この文章とともに、禁止事項を記した看板が多数掲げられた公園を紹介する動画が今月、ツイッターに投稿され、広く拡散しました。

いったい、どのような公園なのか、投稿された動画などをもとに調べてみると、東京・板橋区にあることがわかり、実際に訪ねてみました。

公園は、東京の交通の大動脈、環状七号線に面したところにありました。

誰もいない“禁止づくし”の公園

「禁止事項があまりにも多い結果、いつ行っても人っ子一人いない公園の末路です」

この文章とともに、禁止事項を記した看板が多数掲げられた公園を紹介する動画が今月、ツイッターに投稿され、広く拡散しました。

いったい、どのような公園なのか、投稿された動画などをもとに調べてみると、東京・板橋区にあることがわかり、実際に訪ねてみました。

公園は、東京の交通の大動脈、環状七号線に面したところにありました。
広さは、バスケットボールのコートと同じくらい。都営団地の公園のようです。

「当児童公園内での野球、サッカー等の球技禁止」、「壁にボールを当てるのはやめましょう!」などと、看板は確かに8つも掲げられていました。

看板には、東京都住宅供給公社と町内会の名前。

公園を管理している東京都住宅供給公社によりますと、公園の規模が小さいため原則ボール遊びは禁止にしていて、地元の要望もあるということでした。
私は2日間にわたって、時間を変えて何度も、この公園を訪ねましたが、この公園で遊ぶ子どもに出会うことはできませんでした。

この広さでも、キャッチボールやフットサルなどはできるような気はしましたが、ボールがベランダに飛び込んだり、道路に飛び出したり、などを考えると、そもそもこの場所が子どもが遊ぶのに適した公園なのか、そんな疑問も抱きました。

東京23区は約8割の区が規制の対象に

ボール遊びが規制されている公園は全国にどのくらいあるのか、正確な数字はわかりませんでしたが、全国の自治体のうち、どの程度が公園のボール遊びを規制の対象にしているかを示すデータがありました。

日本公園緑地協会が去年6月から7月にかけて調査したものです。

回答のあった613の自治体のうち、ボール遊びを規制の対象としていると答えた自治体は、およそ3割の178でした。

ところが、人口30万人以上の都市に限ると、東京23区では79%、政令指定都市では69%、中核市では53%が規制の対象になっていて、特に都市部の公園では規制が厳しくなっていることがうかがえます。

少子高齢化 子どものためだけでなく・・

私(記者・38歳)が子どものころは、もっと自由に遊べたような記憶がありますが、いつごろから規制は厳しくなったのでしょうか。

公園や子どもの遊びに詳しい、千葉大学大学院園芸学研究科の木下勇教授によりますと、公園でのボール遊びが規制されるようになったのは意外に古く、昭和30年代ではないかということでした。

ベビーブームと野球人気が重なり、公園でボール遊びする子どもが増えたためです。

そして、大きな転機になったのが、少子高齢化が一段と進んだ、1993年、都市公園法の施工令改正です。

この改正で、それまでの「児童公園」は「街区公園」と名前を変えました。

子どものための公園が、その役割を変えたのです。

これに伴って、ブランコや滑り台、砂場といった遊具の設置の義務づけも廃止。

これをきっかけに、公園は、「お年寄りなども含めたすべての世代のものだという」名目が、次第に広まっていったのです。

さらに近年は周辺の住民から行政に寄せられる苦情も増え、これに対応する形で看板の設置も増えています。

前述の板橋区の公園も、制度上、「児童公園」ではなく、“すべての世代のための”「街区公園」でした。しかし、植え込みやベンチはありましたが、遊具などは一切なく、高齢者の憩いの場としても使われているようには思えませんでした。いったい誰のための公園のなのか、疑問が残りました。

ボール遊び解禁の動きも

一方で、最近になってボール遊びを解禁する公園を作ろうという動きも出てきています。

人口63万人の千葉県船橋市。

3年前、地元の中学生から上がった「ボール遊びができる公園がほしい」という声が実現しました。

市内には500を超える公園がありますが、周辺住民の苦情などからほとんどの公園でボール遊びを禁止していました。

しかし、去年から、日時を限って、安全対策を取ったうえで、5つの公園でボール遊びを試験的に解禁する取り組みを始めました。

“解禁”の公園では

5つの公園の1つ、「西船みどり公園」を訪ねました。

郊外の住宅地の一角、広さは、およそ2200平方メートル、25m×50mの競泳用プール2面分ほどです。

去年から時期を区切って、金曜日の午後3時半から5時半までの2時間だけボール遊びが解禁されています。

私が訪れたときは、雨上がりでグラウンドがぬかるんでいたせいか、4~5人の子どもがサッカーを楽しむ程度でしたが、聞いてみると、多いときは20人がボール遊びを楽しんでいるということです。

目についたのが、子どもやボールの飛び出しを防ぐ高さ2メートルほどのネットフェンス。

そして、ボール遊びのエリアは、カラーコーンで区切られていました。

フェンスやコーンは、地元の福祉事業団から派遣された2人の高齢者が行っていました。

高齢者たちは、子どもたちが、危険なく自由に遊べるか見守りの役割も担っていて、この日も、転んだ子どもたちに駆け寄って声をかけていました。

公園の近くに住むという小学生の男の子は「以前は遠くの大きな公園でないとボール遊びができなかったので、家の近くで遊べるようになったのはうれしいです。この公園で、もっとボールで遊べるようになったらいいと思います」と話していました。

船橋市では今後、ボール遊びができる公園を増やしていきたいとしています。

今後の公園 目指すべき姿は

見守り役を配置したり、ボールの飛び出しを防ぐフェンスを設置して、ボール遊びを解禁するこうした取り組みはほかにも、東京・千代田区や大阪市、それに愛媛県松山市など、全国各地に広がりを見せています。

今後、公園が目指すべき姿とはどのようなものか、最後に木下教授に聞きました。

「そもそも日本は広い公園が少ないのが問題で、1人当たりの公園面積は、東京23区はニューヨークやロンドンと比べても10分の1程度しかありません。まずは、公園の整備に予算を十分に充てるべきです。そのうえで、公園を使う人の声をどれだけ反映することができるか。特に子どもたちの声が反映される仕組みが必要です。使う人が愛着を持ち、問題があれば、その解決に向けて、地元の住民や行政を巻き込みながら改善し、自律した運営をしていくのが、望ましい公園の姿だと思います」