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ξ゚?゚)ξ幽霊裁判が開廷するようです- 1 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:47:56 ID:wFENlVu6O
- 投下は多分ゆっくりめ
- 2 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:48:59 ID:wFENlVu6O
-
『──さあ、満塁と相成ったシベリア高校、逆転なるか──』
罰が当たったのだ。
( ;ω;)「ごめんなさいお、ごめんなさい、ごめんなさい……」
勝手に1人で外に出たから。
だから、こんなに怖い目に遭った。
「……もう大丈夫」
( ;ω;)「お……?」
「怖いのは、私が追い返したから……」
知らない女性がいた。
辺りを見渡す。
彼女の言う通り、「怖いの」は、いなくなっていた。
- 3 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:51:10 ID:wFENlVu6O
-
「さあ、今の内に帰りなさい」
( ;ω;)「う、うん……」
頷き、立ち上がる。
帰ろうとしたが、慌てて女性に向き直った。
( ;ω;)「ぼ、僕がここに来たの、誰にも言わないでくださいお……。
怒られちゃう、から……」
女性は、くすりと笑う。
「勿論」
( ;ω;)「ゆびきり……」
「ん?」
( ;ω;)「指切り、してくださいお。……絶対絶対、誰にも言わないでほしいお」
言って、右手の小指を立てて女性へ向ける。
女性はまた笑いながら、こくりと頷いた。
- 4 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:52:25 ID:wFENlVu6O
-
彼女も右手を出そうとしたが、何故か、その手をぱっと背中の方へ回してしまった。
代わりに左手を伸ばし、小指を立てる。
右手の小指と左手の小指だから、歪な形の指切りになってしまった。
( ;ω;)「ゆーびきーりげーんまん……」
お決まりの歌を2人で歌い、小指を離す。
絶対に言わないで、と再び念押しして、その場を後にすることにした。
数歩進んで、振り返る。
( ;ω;)「……お姉さんのお名前は何ですかお?」
「私は──」
『──打った! 打球は──入った、ホームラン! ホームランです!』
女性が口を動かしたのは分かったけれど、その声は、
地面に転がっているラジオから響いた歓声に掻き消された。
- 5 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:53:49 ID:wFENlVu6O
-
「早く帰らないと、また、さっきの奴らが来ちゃうかも」
( ;ω;)「……はいお」
もう一度名前を訊いた方が良かったかもしれない。
けれど彼女の言葉が恐くて、そのまま駆け出した。
ラジオから流れ続けている歓声が、遠ざかっていく。
『──シベリア高校、逆転勝利!
5対3で、10年ぶりの甲子園優勝に輝きました!!──』
.
- 6 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:54:43 ID:wFENlVu6O
-
ξ゚?゚)ξ幽霊裁判が開廷するようです
プロローグ
.
- 7 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:56:15 ID:wFENlVu6O
-
(´<_` )「心霊スポット?」
( ・∀・)「そうそう」
(´<_` )「……馬鹿らしい。俺はそういう話が一番嫌いだ」
( ・∀・)「何だよービビってんのか?」
(´<_` )「お前じゃあるまいし」
(#・∀・)「あ?」
(;^ω^)「こら、喧嘩するなお」
昼休み。ヴィップ中学校2年1組の教室、その窓際。
内藤ホライゾンは、睨み合う友達2人を宥めるように手を振った。
2人は、きっ、と内藤に鋭い視線を送る。
- 8 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:57:19 ID:wFENlVu6O
-
(#・∀・)「だって、こいつが馬鹿にしてきたんだぞ! ブーンは俺の味方だよな?」
そう言う彼は、浦等モララー。
端整な顔立ちだが、よく意地の悪い表情を浮かべるので「台無し」と評されることが多い。
ちなみにブーンは内藤のあだ名だ。
(´<_` )「モララーが馬鹿な話をするからだろう。そうだよな、ブーン」
対する彼は流石弟者。
非常にしっかりした少年で、学校や近所でも評判がいい。
内藤の遠い親戚にあたり、内藤は、弟者の家に居候させてもらっている。
その辺りはいずれ説明しよう。
(;^ω^)「あう……」
(;-_-)「や、やめなよ、モララーも弟者も。ブーンが困ってるよ」
答えあぐねる内藤を見かねて小声で割り込んできたのは、小森ヒッキー。
内気な性格ゆえか、モララーの無茶な要求や誘いを断りきれないため、
妙な遊びに付き合わされている光景を多々目撃されている。
- 9 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:58:42 ID:wFENlVu6O
-
ヒッキーの言葉に、弟者とモララーは顔を見合わせた。
それから内藤を見遣る。
(;^ω^)「そうだお、2人とも落ち着いてくれお……。
弟者がオカルトに興味ないのも分かるけど、モララーの話を聞くぐらい、いいじゃないかお」
(´<_` )「……悪い」
( ・∀・)「おう」
仲直りをする2人に、内藤とヒッキーはほっと息をついた。
内藤は生まれつき温和な顔付きをしている。
そこに純朴で朗らかな振る舞いまで加わるのだから、
彼がいるだけで、周囲の人間は穏やかな気持ちになる。
( ^ω^)「それで、何の話だったかお」
( ・∀・)「ああそうだ、心霊スポットだよ心霊スポット」
思い出したように手を打ち、内藤と向かい合うように座っていたモララーは、
ずいと身を乗り出させた。
──町のとある場所に、廃工場があるのだという。
十数年前に経営者が首を吊ったとかで、
以来、無人の筈の工場から声がするという噂が流れるようになったそうだ。
工場にせよ病院にせよ、廃墟にはよくあることである。
- 10 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:59:46 ID:wFENlVu6O
-
(;^ω^)「そ、それは怖いお……」
(*・∀・)「だろ? だろ? でな、今夜お前らと一緒に肝試しにでも──」
(´<_` )「1人で行け」
(;-_-)「わあ、一刀両断だ」
(´<_` )「俺もブーンも、肝試しに行ったなんて姉者に知られたら大変なことになる」
(;^ω^)「ああ、たしかに」
( ・∀・)「ったくよう……。つまんねえ奴だな、弟者は。このシスコン!」
モララーが罵倒すると同時に、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
弟者に頭を叩かれ、モララーは弟者の耳を引っ張ってから自分の席へ逃げた。
ヒッキーと弟者も席に戻る。
教科書を出しながら、内藤はこっそり溜め息をついた。
*****
- 11 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:00:37 ID:7dJqCxwc0
- これ待ってた!支援!
- 12 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:01:07 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)(……で、どおーして、こうなるのかお……)
深夜1時。
内藤は舌打ちしたくなるのを堪え、歩みを進めた。
懐中電灯の光が照らす先には、墓地と林に挟まれた細い道が伸びている。
道の先は暗闇に溶けていて、向こうにあるという、件の廃工場はちっとも見えてこない。
(;・∀・)「おいヒッキー、腕掴むなよ気持ち悪い」
懐中電灯の持ち主であるモララーが、右隣を歩くヒッキーの手を振り払う。
ヒッキーの顔はすっかり青ざめており、下手をすれば失神するのではないかと思えた。
(;-_-)「や、やっぱりやめようよ、帰ろうよ……」
( ・∀・)「さっさと行ってさっさと帰ればいいだろ」
(;-_-)「そうは言ってもさあ……」
- 13 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:02:21 ID:sZGfpHvsO
-
──何だかんだで、肝試しは実行されていた。
ただし、弟者を除いた3人で。
( ・∀・)『弟者はどうせ来ないだろうから諦めるけど、
ヒッキーとブーンは来てくれるよな? な?』
しつこく誘われればヒッキーは断れない。
そうなると今度は、少しでも人数が多い方が安心出来るからか、
ヒッキーが半泣きで内藤に「ついてきて」と頼み込んでくるわけで。
この3人で肝試しをすることになるのは、半ば必然だったのかもしれない。
( ・∀・)「ヒッキーはビビりだなー。まだ何も出てない内から怖がってどうすんだよ。なあ?」
(;^ω^)「いやいや、僕も怖いお。モララーはよく平気だおね……すごいお」
(*・∀・)「はははー、そうか?」
(;^ω^)「頼りになるおー」
( ^ω^)(……モララーさん、ちょっと手が震えてらっしゃいますけど)
それは口に出さず、内藤は真ん中を歩くモララーから目を逸らした。
- 14 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:03:51 ID:CZZ6Z/M60
- 予告から待ってた
楽しんで読ませてもらうぜ
- 15 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:04:12 ID:m5YbrJZc0
- 待ってたぜ!しえーん!!
- 16 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:04:35 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)(馬ッ鹿馬鹿しい……。これで、とんでもない悪霊でも出たらどうする気だお)
声に出して言いたい。モララーを引っ叩いて帰りたい。
しかしそれは出来ない。
内藤は「穏やかで優しいキャラ」なのだから。
( ・∀・)「しっかし今んとこ、何も出てこねえなあ。せっかく墓地の前まで通ってんのに」
(;-_-)「出てこられても困るよう……」
(;^ω^)「変なこと言わないでくれおモララー」
( ^ω^)(何か出てきたら、きっとすぐ逃げるくせに)
──内藤には、2つ、秘密があった。
一つはこの本性。
普段は年相応の振る舞いを演じているが、実際は、性根からひん曲がったクソガキだ。
自分の性格が悪いのも、それを表に出すべきでないのも自覚している。
陽気で、表情豊かで、素直。そういう感じのキャラクター。
そんな演技をした方が人当たり良く見えるし、周囲との付き合いも円滑に進む。
内藤にとっても得になる。
昔からの付き合いがある弟者にはバレているが、モララーやヒッキーには未だ気付かれていない。
- 17 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:05:48 ID:sZGfpHvsO
-
14歳の子供が友人相手に演技だなんて、と嘆く者もいるだろう。
しかし彼がこんな風に捻くれてしまったのにも、大本の原因は存在している。
その原因こそが、もう一つの秘密。
('A`)「あれ? 内藤少年じゃねえか」
( ^ω^)
('A`)「お友達と仲良く肝試しかあ? いいねえ、やっぱ夏は怪談だよな」
( ^ω^)
('A`)「おいおい無視かよー。俺のこと見えてんだろーがよー」
( ^ω^)
(;・∀・)「……ん、何か声したか?」
( ^ω^)「気のせいだお、ここには僕ら3人しかいないんだから」
(;・∀・)「だ、だよな」
内藤には所謂、霊感がある。
それも結構なレベルの。
- 18 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:07:06 ID:sZGfpHvsO
-
小さな頃は大変だった。
周囲からは気味悪がられ、幼稚園や小学校では苛められ。
寄ってくるのは幽霊と変人のみ。
「彼らは自分にしか見えていない」と悟ったのが小学低学年ほどの頃。
それ以降は霊に関する発言はしないよう努めたが、苛めは続いた。
おかげで内藤はすっかり捩じ曲がってしまったのであった。
幸い、去年引っ越してきたこの町には
内藤の過去も霊感云々についても知る者がいないので、平穏に暮らせている。
( ^ω^)(……いや、いなくもないか)
厳密に言えば、内藤に霊感があることを知っている──というより
うっかり知られてしまった──人間が何人か程度いる。
1人は弟者。
その他の数人は、3週間前に会ったきり遭遇していない。
なるべく遭遇したくない。
- 19 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:08:19 ID:sZGfpHvsO
-
記憶を掘り起こしかけたところで、窶れた男の顔が内藤の視界いっぱいに広がった。
('A`)「おおい、少年ー」
( ^ω^)
('A`)「完全に無視だな。……そんな子にはー……」
( ^ω^)
('∀`)「おじさんが取り憑いちゃうz」
( ^ω^)≡⊃))A`)「ゾマホンッ!!」
(;・∀・)「おわっ!?」
(;-_-)「わっ!! な、何、どうしたの!?」
(;・∀・)「ブーンがいきなり空中殴った!」
( ^ω^)「急にシャドーボクシングがしたくなって」
(;-_-)「何それこわい」
しつこく付き纏っていた男の霊(実は以前にも会ったことがある)を一発殴ったら、
もう付いてこなくなった。
ついでに他の霊への牽制になったようで、先程まで大勢いた浮遊霊達が離れていく。
- 20 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:08:52 ID:sZGfpHvsO
-
( ・∀・)「お、そろそろ着くかな」
墓地の前を過ぎ去った頃、モララーが言った。
懐中電灯が古ぼけた立て看板を照らす。
文字は掠れて読めないが、恐らく、工場の名前や距離が書かれていたのだろう。
内藤は、こっそり祈る。
( ^ω^)(……何事も起こらず帰れますように)
*****
- 21 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:09:39 ID:sZGfpHvsO
-
しばらく歩くと、建物の前に出た。
( ・∀・)「ここだ」
落書きだらけのコンクリート。
表側に窓は無い。建物の中央よりやや左寄りに扉がある。
周囲には錆びたドラム缶や、用途の分からない機械などが放置されていた。
入口の上に看板のようなものがあるが、錆やら落書きやらで、よく見えない。
(;-_-)「帰ろうよ……」
( ・∀・)「ばあか。ここまで来たら、中も回るんだよ」
自然と小さくなる声で囁き合うモララーとヒッキー。
2人から少し下がった場所で、内藤は、きょろきょろと辺りを見渡した。
- 22 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:10:37 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)(心霊スポットの割に、見た限りじゃ霊はいないお)
(;-_-)「うう、何か寒い……」
( ・∀・)「──しっ」
不意に、モララーが口の前で人差し指を立てた。
全員が黙りこくる。
( ・∀・)「……何か、声がしないか?」
( ^ω^)「声?」
(;-_-)「冗談言って、からかうつもりじゃ」
( ・∀・)「違うって。工場から、ほら……」
3人が工場の入口を見遣る。
その瞬間──
──ばん、と、何かを叩くような音が響いた。
.
- 23 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:11:41 ID:sZGfpHvsO
-
「……っ、……」
「……!」
次いで、言い合うような声。
どちらも、確実に工場の中から聞こえている。
(;・∀・)「……うわ」
マジかよ、とモララーが言いかける。
しかしそれより遥かに大きな声が、その場に轟いた。
(;-_-)「──わあああああっ!!」
ヒッキーの悲鳴。
恐怖がピークに達したらしい。
彼は振り返ると、内藤を押し退けて走り出した。
- 24 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:12:49 ID:sZGfpHvsO
-
(;・∀・)「ヒッキー!」
モララーがヒッキーを追いかけ、もと来た道を駆ける。
一方で内藤は、
(; ω )「あうっ……」
ヒッキーに押された拍子に転び、ドラム缶に頭を打ちつけていた。
どさり、左半身に衝撃。
横になった視界の中で、2人の背中が遠くなる。
やがて視界が狭まっていき。
「……誰?」
意識が消える瞬間、ぎいぎいと軋む音と、女性の声が耳に届いた。
それが3週間前に聞いた声に酷似していて、内藤は、立て看板の前での祈りが儚く散ったのを知った。
プロローグ:終わり
- 25 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:13:34 ID:sZGfpHvsO
- ここまでプロローグ
ここから一話目
長め
- 26 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:15:20 ID:sZGfpHvsO
-
「──救急車呼びなさいよう」
「大丈夫よ多分。
そうだ、トソンさんちょっと取り憑いてみてよ。犯行の検証になるし……」
「え……」
「ふざけないでください」
「私は真面目に……。
……あ、じゃあ! 内藤君を病院に連れてくから、一旦閉廷──」
「裁判長、とっとと判決を」
「だーかーらあ、待ってってば、ほんと、一日だけ!
もしくはトソンさん、今の内に取り憑いて!
いいですよね裁判長、検証のためだもの!」
「本当に検証になるならな。危なければ俺が離させるし」
「やった、ほらほらトソンさん、ひゅっと入ってごらん、ひゅっと!」
幾人かの声がする。
聞き覚えのある声だ。
内藤は我慢せずに舌打ちし、瞼を持ち上げた。
- 27 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:15:57 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ「あ……くそっ、起きた」
( ^ω^)「気絶から目覚めた人間に対して、『くそっ』とは何ですかお、ツンさん」
.
- 28 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:16:46 ID:sZGfpHvsO
-
case1:憑依罪
.
- 29 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:17:26 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ「私、そんな非常識なこと言わないわよ」
( ^ω^)「どの口が……」
ξ゚З゚)ξ「この口ですー。この美しくも可愛らしい唇ですー」
女性が内藤の顔を覗き込んでいた。
20代ほどの若い女性。
綺麗な金髪がふんわりと緩やかにカールしている。
彼女の名前は知っている。
出連ツン、だった筈。
( ^ω^)「あと、さっき、取り憑くとか何とか不穏な話が聞こえましたが」
ξ゚З゚)ξ「気のせいですー。言ってないですー」
目がしょぼしょぼする。そういえば明るい。
ツンの頭の向こうに、蛍光灯のついた天井がある。
- 30 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:18:08 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)(……工場の中……?)
内藤は上半身を起こした。
痛む頭を摩りながら、周りを見回す。
一般的な、学校の体育館ほどの広さ。
役目を終えて久しいであろう、よく分からないぼろぼろの機械やら箱やらが積まれている。
ξ゚?゚)ξ「工場の前で倒れてたから、とりあえず中に運んだんだけど。平気?」
( ^ω^)「少し頭が……」
ξ゚?゚)ξ「悪い?」
( ^ω^)「痛い」
ξ゚?゚)ξ「たんこぶ出来てたしね。……大丈夫そうね」
ツンが後ろに振り返る。
数人の男女がいた。その内の1人が、口に手を当てて笑う。
- 31 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:20:25 ID:sZGfpHvsO
-
(,,゚Д゚)「ああら残念! 人工呼吸してあげようと思ったのに。ぶほほほほ!」
( ^ω^)「妖怪さん……いや、ギコさん、久しぶりですお」
似合わない女装をして似合わない化粧をした、ごつい男。
埴谷ギコ。一応、立派な生きている人間だ。
(*,゚Д゚)「妖艶? 妖艶って言った?」
ξ゚?゚)ξ「お勧めの耳掻きメーカー教えてあげるからちゃんと耳掃除しなさいオカマ」
屈み込んでいたツンが立ち上がる。
彼女が身に着けている、真っ黒なブラウスが内藤の意識を引き付けた。
現在7月上旬。
夜は多少涼しいが、昼ならばさぞかし暑いだろうなと、ぼんやり思う。
( ^ω^)「相変わらず全身真っ黒ですお」
ξ゚ー゚)ξ「ふふん。細く見えるでしょ」
( ^ω^)「ええ、胸もますます貧相になって」
ξ゚?゚)ξ「訴えるわよ」
襟には、細身の紐で出来た、白いリボンタイ。
肘の辺りまで捲られた袖から華奢な腕が伸びている。
下半身は、これまた真っ黒なスラックスに覆われていた。
黒いブラウスにスラックス。リボンタイがなければ、喪服だと思ったかもしれない。
以前、初対面のときにも同じ格好だった。
- 32 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:21:37 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ「内藤君、どうしてあそこで倒れてたの?
絶世の美女の匂いを辿ってきたの?」
( ^ω^)「ここのどこに絶世の美女がいるんですかお」
(*,゚Д゚)ノシ ξ*゚?゚)ξノシ
( ^ω^)「僕は友達の胆試しに付き合わされたんですお。
その友達は、声がしたのに驚いて逃げていきましたけど」
ξ゚?゚)ξ「無視すんな」
(,,゚Д゚)「あらあら、ごめんなさいね、その声あたし達だわ」
( ^ω^)「でしょうね。……また『裁判』ですかお」
ξ^?^)ξ「ええ」
にたり、ツンが不気味に笑う。
内藤は溜め息をつくと腰を上げた。
服についた砂や埃を払い、改めて、ツンとギコ以外の人物へ目を向ける。
- 33 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:23:34 ID:sZGfpHvsO
-
内藤の正面に、机のような台が左右に一つずつ。
2メートルほどの距離をあけて向かい合うように置かれている。
その左側の机には、背が高いのと低いのが2人。
高い方は先程の化け物、もといギコ。
(*゚ー゚)「胆試しなんかやらないに越したことはない。
子供が出歩く時間帯じゃないし、帰った方がいいよ」
ギコの隣に立つ、背の低い方──猫田しぃが言った。
内藤を子供と言うが、向こうだってまだまだ若い。
たしか高校生だと聞いた。
黒い詰め襟の学生服、所謂学ランを着ている。
服装こそ男物だが、性別は女だ。
声が高いし、顔も可愛らしいので、知らない者が見ても違和感を覚えるだろう。
- 34 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:24:32 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ「そうよねそうよね、私は内藤君を送っていくから、審理は中断しなきゃね」
(*゚ー゚)「しつこいですよ」
( ^ω^)「また劣勢なんですかお、ツンさん」
ξ#゚?゚)ξ「黙らっしゃい」
視線を滑らせる。
机と机の間──内藤から見て正面に、1人の女性が立っていた。
彼女が今回の「被告人」か。
内藤の目線の先に気付いたらしく、ツンは彼女を手で示した。
ξ゚?゚)ξ「この人、都村トソンさん。私の依頼人」
(゚、゚トソン「どうも……」
身に着けている服のあちこちに血痕らしき赤黒い汚れ。
髪の所々が血で固まっているし、顔にも、血の垂れた跡がいくつか。
確実に死んでいる。
都村トソンだと紹介された女の霊は、内藤に会釈した。
それから、ふと首を傾げる。
- 35 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:25:11 ID:sZGfpHvsO
-
(゚、゚トソン「……?」
( ^ω^)「?」
内藤の顔をまじまじと見つめるトソン。
対する内藤も、同じように首を捻った。
トソンを見たとき、違和感のようなものがあった。
何かが足りないような。
ξ゚?゚)ξ「あ」
そこへ、ツンが声をあげる。
内藤とトソンを眺め、ぽかんと口を開け放した。
ξ゚?゚)ξ「あら、あらあら……あらららら……あれまあ……」
- 36 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:26:12 ID:sZGfpHvsO
-
(,,゚Д゚)「何をお見合いしてんのよ、そこ3人は」
(*゚ー゚)「内藤君と都村トソンは知り合いなのかい?」
( ^ω^)「いや……」
「──くさい!」
一体何だろうという内藤の思考は、大変失礼な大声に掻き消された。
反射的に声の方向へ意識をやる。
都村トソンの、さらに向こう側。
2人の男女が並んで立って──いや、僅かに「浮かんで」いる。
その内の女性が、鼻をつまみながら内藤を睨んでいた。
川 ゚ 々゚)「ブーン、くさいから嫌い」
ワンピース姿。
外見で判断するならばツンと歳は変わらなさそうだが、
人間でも普通の幽霊でもないので実際の年齢は分からない。
( ^ω^)「くるうさん、多感な中学生にそういうこと言わないでくださいお」
ξ゚?゚)ξ「図太い神経しといて何が多感よ」
- 37 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:27:36 ID:sZGfpHvsO
-
川 > 々<)「んむむむ。くさいー。普段から嘘ついてる人間の臭いー」
言って、くるうという名の女が隣の男に縋る。
男はくるうを撫でてから内藤に顔を向けた。
【+ 】ゞ゚)「他人に対して演技なんかしてるから『嘘』の臭いが染みつくんだ。
子供は素直にしてればいいものを」
見た目は40代かそこらほど。
こちらは着物姿だ。
顔の右半面にお面をつけていて、ぱっと見、非常に胡散臭い。
しかしこれでもヴィップ町の真ん中にある神社の神様だというのだから、
いやはや、人間見掛けによらない。人間ではないけれども。
昔は「オサム様」と呼ばれて信仰も厚かったようだが、
今では神様の存在を信じる者もめっきり減っていて、
威厳も力も弱まっているらしい。
( ^ω^)「……演技は僕なりの自己防衛ですお」
【+ 】ゞ゚)「人間ってやつは面倒なもんだな」
ここにいる面々と内藤は、トソンを除き、2度目の出会いである。
初めて会ったのは3週間前かそこらだった。
もう会うまいと思っていたが──まさか、こんなところで「裁判」をしているとは。
- 38 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:29:45 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)「……さて、僕はお邪魔のようなので帰らせてもらいますお。
どうぞ頑張って──」
ξ^?^)ξ「待った」
嫌な笑顔で引き止められた。
内藤の両肩にツンの手が乗せられ、ぐっと顔が近付く。
ξ^?^)ξ「ここで会ったのも何かの縁だわ。お手伝いして?」
( ^ω^)「いやいや、僕、帰らないと家の人に怒られますので」
ξ^?^)ξ「大丈夫よ。ほんの6時間、トソンさんに憑依されてればいいんだから」
( ^ω^)「『ほんの』の意味を辞書で調べた方がいいと思いますお」
ξ^?^)ξ「いいからいいから。はい、トソンさんどうぞ」
( ^ω^)「どうぞじゃないお」
(*゚ー゚)「ツンさん、あなたが人間とはいえ、場合によっては憑依の教唆に当たりますよ」
ξ^?^)ξ チッ
一応諦めはしたようだが、ツンの手は内藤から離れなかった。
肩から滑り降りた手が腕を掴み、内藤を引っ張る。
- 39 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:30:32 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ「……とりあえず、ここにいてくれない? お願い」
( ^ω^)「何でですお」
ξ゚?゚)ξ「え? えーと私って左隣に人がいると本領を発揮出来るの」
( ^ω^)(,,゚Д゚)(*゚ー゚)(意味が分からない)
何だかんだ、内藤はツンと並ぶ形で、右側の机──
──「弁護人席」に立ってしまった。
( ^ω^)(……帰らなきゃいけないんだけどなあ)
結局、好奇心で留まってしまう自分に溜め息をつく。
仕方ない。
ただの裁判すら中学生の内藤には物珍しいのだ。
こんな特殊な裁判、興味が引かれるのも無理はないだろう。
ぐるりと周囲を見回す。
- 40 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:31:20 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ「さあて、始めますか」
弁護士、出連ツン。
(*゚ー゚)「急にやる気が出てきましたね」
(,,゚Д゚)「開き直ったんじゃなあい? ま、再開するに越したことはないけど」
検事の猫田しぃと、その助手、埴谷ギコ。
【+ 】ゞ゚)「そうだな。さっさと裁判終わらせて、くるうといちゃいちゃしたい」
川*゚ 々゚)「オサム……もう、そんなこと言われたら殺したくなっちゃう……」
【+ 】ゞ゚)「俺も殺したいほどくるうが好きだよ」
裁判長のオサム、監視官のくるう。
そして──
(゚、゚トソン「……」
被告人。
- 41 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:31:45 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「それでは、改めて」
オサムは右手を顔の横に上げた。
木槌が握られている。
その手を勢いよく振り下ろすと──何もない空間から、かあん、と甲高い音が鳴り響いた。
【+ 】ゞ゚)「開廷だ」
斯くして、内藤にとって2度目となる「幽霊裁判」が始まった。
*****
- 42 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:33:08 ID:sZGfpHvsO
-
世の中に「おばけ法」なるものがあると内藤が知ったのも、3週間前のことだった。
その名の通り、霊や妖怪が揉め事を起こさないようにするために制定された法律らしい。
まだ全国に普及しきってはいないようだが、
このヴィップ町は既におばけ法を導入しているのだという。
ξ゚?゚)ξ『法があれば、当然、裁判もあるわ』
3週間前の、ツンの言葉が脳裏を過ぎる。
ξ゚?゚)ξ『それが幽霊裁判。基本的には、私達生きてる人間の裁判と大差ないわ』
まず事件が起きる。
検察官は捜査を元に、犯人と思しき者を訴える。
訴えられた者、被告人は、弁護士に弁護を依頼する。
それから諸々の準備を整え、裁判が始まるのだ。
- 43 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:34:12 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ『基本的に、被告人は幽霊や妖怪ばかりよ。
ごくたまーに人間が訴えられることもあるらしいけど。
被害者の方も、幽霊だったり人間だったり……色々ね』
ξ゚?゚)ξ『検察官──検事って言えば分かるかしら?
検事や弁護人は、霊感のある人間がやることになってるの』
( ^ω^)『裁判官は?』
ξ゚?゚)ξ『ううんと……日本で言えば、一番多いのは
その土地で最も大きい神社の神様が裁判長になるパターンかしら。
場所によって、また違うんだけどね』
要するに。
そいつが犯人だ、こういう方法で犯行に及んだのだ──というしぃの主張に、
ツンは証拠やら何やらを用いて反論すればいいわけだ。
その審議の結果、オサムが、被告人が有罪なのか無罪なのかを判断することになる。
くるうは「監視官」という聞き慣れぬ役割を当てられているが、それについては追い追い。
- 44 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:35:37 ID:sZGfpHvsO
-
今回の被告人は都村トソン。
弁護人はツン、検事はしぃ。
被告人以外、前回のメンバーと同じだ。
(*゚ー゚)「──さて……開廷とはいっても、もう、判決出すしかやることありませんよ?
有罪って。ねえ?」
しぃが嫌味に笑う。
それはもう憎たらしいくらいに。
(*゚ー゚)「これ以上ツンさんの悪足掻きに付き合う気もありませんから」
ξ゚?゚)ξ「……悪足掻き?」
(*゚ー゚)「そもそも昨日の段階で有罪判決は確実だったんですよ?
それをあなたが『まだ証拠が揃いきってないから一日待って』って言うから、
こっちは仕方なく、仕方なく! 待ってやったんです」
(#゚ー゚)「……なのに何ですか、今日は開廷前から『もう一日ちょうだい』ですって!?
ただ時間稼ぎしてるだけじゃないですか!
これを悪足掻きと言わずして何と言いますか!?」
- 45 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:36:36 ID:sZGfpHvsO
-
ξ;゚?゚)ξ「うっ、ぐっ、う、……だっ、だだっ、だって! だって!
ほんとに時間が足りなかったんだもん! 見付からなかったんだもん!」
(#゚ー゚)「『もん』じゃありませんよ、『もん』じゃ!」
( ^ω^)(裁判っていうか、ただの口喧嘩……)
前回もこんな感じだった。
内藤は片耳を押さえる。
また木槌の音が響き、ツンとしぃが口を噤んだ。
【+ 】ゞ゚)「何にせよ、今日の内に新しい証言や証拠が出なけりゃそれまでだ」
言い終わるや否や、再び、木槌で手元を打つ。
それに合わせて、何もない空間から音が鳴る。
ツンいわく、裁判長になる者だけに与えられる特別な槌。とか何とか。
内藤はあまり詳しくは知らない。
- 46 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:38:05 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「……まあ、その様子じゃ、証拠も何も集められなかったみたいですけどね。
今度こそ終わりでしょうか」
ξ゚ー゚)ξ「それはどうかしら」
自信ありげに笑うツンに、しぃは怪訝そうな表情を浮かべる。
だが、虚勢と判断したのか、すぐにツンから机上の書類へと意識を移した。
(*゚ー゚)「──どこから始めましょうか」
(,,゚Д゚)「昨日はツンのせいで中途半端なとこで終わったものね」
ξ゚?゚)ξ「なら内藤君が参戦したことだし、事件の概要くらいは説明してあげてよ」
ツンが、内藤の肩をぽんぽん叩く。
参戦も何も、ただの傍聴人に過ぎないと思うのだが。
胡乱げな目をする内藤に、ツンは耳元で囁く。
ξ^?^)ξ「まあまあ、時間稼ぎに付き合ってちょうだいよ。
もう少しで何とかなりそうな気がするような感じが否めなくもないの」
( ^ω^)「それ何ともなってませんお。
ていうか時間稼ぎって認めた今この人」
しぃは呆れながら、手元の書類らしき束をめくった。
面倒だなあ、という呟きが耳に届く。
- 47 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:38:45 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「裁判長、よろしいですか?」
【+ 】ゞ゚)「うん。──じゃあ、どうせだから、整理も兼ねて初めからやろうか」
オサムは木槌で眼前の空間を叩き、咳払いをした。
ぎょろりとした目で都村トソンを睨む。
【+ 】ゞ゚)「──名前と生年月日は覚えてるな?」
(゚、゚トソン「都村トソンです。生まれたのは1976年──昭和51年の11月22日でした」
【+ 】ゞ゚)「死亡した年月日と、享年、死因は」
(゚、゚トソン「……平成10年2月15日で、21歳でした。死因は交通事故です」
【+ 】ゞ゚)「で、浮遊霊をやってる、と。
それじゃあ、検事……検察官? どっちだっけ」
(*゚ー゚)「呼び名は裁判長のお好きなように」
川#゚ 々゚) ギリギリギリ
オサムと女性ばかりが会話することに腹を立てているのか、くるうが物凄い形相で爪を噛んでいる。
全員、とりあえず無視した。
- 48 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:39:59 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「じゃあ検事で。
検事が起訴状を読み上げるから、よく聞くように」
(゚、゚トソン「はい……」
幽霊裁判は格式ばったものではない。
それらしく進行さえ出来ればいいのだという。
実にいい加減だ。
(*゚ー゚)「──公訴事実!」
起訴状──端的にいえば、検察側の主張。
しぃは内藤を一瞥すると、ゆっくり、何かを考えるようにしながら話し始めた。
内藤にも理解出来るよう、内容を分かりやすくまとめようとしているのだろう。
(*゚ー゚)「事件が起きたのは、7年前の平成17年8月20日。
被告人都村トソンは、ある目的を遂行するため
本件の被害者である三森ミセリに憑依することを決めた」
(*゚ー゚)「同女……三森ミセリはヴィップ町の不動産会社に事務として勤めており、
その日も会社に出勤していた。
……ここまでいいかな?」
( ^ω^)「大丈夫ですお」
- 49 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:41:27 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「その日の午前11時30分頃。三森ミセリが休憩に入ったのを見計らい、
被告人は会社の給湯室にて彼女に許可を得て、彼女の体に憑依した」
( ^ω^)(許可を得て……?)
取り憑いてもいいですか、いいですよ、なんてやり取りが行われたのだろうか。
だとしたら被害者は随分と懐の深い人らしい。
(*゚ー゚)「ここで交わされた契約は、
同日午前11時50分から12時10分までの20分間、
三森ミセリの体を都村トソンに貸す……という内容である」
(*゚ー゚)「しかし被告人がとった行動は、その契約内容に反するものだった」
(゚、゚トソン「……」
(*゚ー゚)「被告人は三森ミセリの姿のまま会社を出て、ヴィップ銀行に向かい、
そこに勤務している男性、伊予ぃょぅ氏と接触する。
彼と会話し、同氏と別れた時点で約束した時間を迎えていた。しかし……」
ここまでで登場人物は3人。
被告人のトソン、被害者の三森ミセリ、そして伊予ぃょぅ。
トソンは「20分だけ」という約束のもと、三森ミセリに取り憑いた。らしい。
そのまま、銀行員の伊予ぃょぅに会いに行き、何かを話して、別れた。
しぃの声色が変わる。ここからが問題だと言外に匂わせていた。
- 50 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:42:18 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「あろうことか、被告人は憑依を解かないまま町中を移動した。
通行人に因縁をつけて喧嘩を売る現場も何度か目撃されている。
……少なくとも午後6時まではその状態にあった」
(*゚ー゚)「その後、同日午後7時40分頃。ヴィップ中学校の裏手にて、
通りすがりの男性が、倒れている三森ミセリを発見する。
男性が呼んだ救急車で彼女は病院に搬送された」
(,,゚Д゚)「この時点では既に憑依が解けていたから、
被告人が被害者から離れたのは、午後6時から7時40分までの間ってことになるわねえ」
( ^ω^)「ミセリさんとかいう人はどうなったんだお?」
(*゚ー゚)「それこそが重要な点だよ内藤君」
しぃは一拍置いて勿体をつけ、トソンに目を向けた。
その瞳には、軽蔑するような色が混じっている。
(*゚ー゚)「──三森ミセリの意識は、未だに戻っていない。
いわば植物状態だ」
(-、-トソン
トソンが、そっと目を閉じる。
内藤にはトソンの感情は読めなかった。
- 51 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:43:44 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「……罪名及び罰条!
憑依の罪、おばけ法第61条の第2項!」
ちらりと、しぃは内藤に視線を送った。
彼女は何事か考えると、「ええと」、と声を漏らす。
(*゚ー゚)「おばけ法では、生者に許可をとり、その証拠──たとえば書類などを得た後の憑依なら
問題はないとされているんだ」
( ^ω^)「書類って、どんなのなんですかお?」
【+ 】ゞ゚)「細かい書式は決まってないな。
憑依する時間や、霊と憑依対象者の直筆の名前、印影があればいい……んだっけか」
ξ゚?゚)ξ「これが書類のコピー。被害者の筆跡と一致してる。
トソンさんが大事に保存してくれてて良かったわ」
( ^ω^)(幽霊が7年間も、書類をどこに保存してたんだろう……)
ツンは机上のファイルから一枚の紙を取り出した。
《本日午前11時50分から午後12時10分まで都村トソンに体を貸します。 H17/08/20 三森ミセリ》
女性らしい丸みのある字で書かれた文章。名前の横には捺印まで。
右下に美符不動産とプリントされているので、会社のメモ用紙に書いたのだろう。
- 52 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:44:45 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「そういった許可を得ないまま強引に憑依すれば、
それは憑依罪という違法行為に当たる。
……おばけ法の中でも最もメジャーなものだよ」
( ^ω^)「トソンさんは被害者に許可をとったんですおね?」
(*゚ー゚)「たしかに許可をとった事実は認められるけれども、
被告人は契約内容を無視し、約束の時間を過ぎても被害者から離れなかった。
これは憑依罪に当たるよ」
( ^ω^)「はあ」
(,,゚Д゚)「憑依罪は、これといった被害がなければ罪としては軽いけど
たとえば……そうね、対象に怪我を負わせたとか、
憑依した体を操って他人に危害を加えたとなると、罪が重くなるわねえ」
(*゚ー゚)「おばけ法の61条には、こう記されている。
『1.無断で生者に憑依し、生体を使用することを禁ずる
2.前項の場合において周囲に何らかの危害が及んだときは、重い刑により処断する』……」
- 53 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:45:27 ID:gKEK4XL6O
- これは嘘予告のあれか…?
支援
- 54 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:45:45 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「今回の場合は憑依の際に三森ミセリから生気を奪い、
その結果、彼女を昏睡状態に至らせたと思われる。
また、被害者の姿で通行人に喧嘩を売るなど、彼女の名誉を傷付ける行動にも出ていた。
これらは61条の第2項に触れる。……理解出来たかい?」
( ^ω^)「それなりに」
(*゚ー゚)「なら、起訴状朗読は以上です、裁判長」
かんかん、木槌の音。
全員の視線がオサムへ向かい、トソンは瞼を持ち上げる。
【+ 】ゞ゚)「被告人。検事の今の公訴事実に間違いはあるか?」
(゚、゚トソン「……ミセリに憑依したことは認めます」
しぃもギコも、何の反応も見せなかった。
ツンは腕を組み、しぃを睨んでいる。
(゚、゚トソン「でも、約束した通りにちゃんと体を返しました。
それ以降はミセリに近付いてもいません」
(*゚ー゚)「そうは言っても、昨日からそれを証明出来てないんですよねえ、ツンさんは」
今までの会話から察するに、この裁判は今日が初めてではないのだろう。
そして恐らく、ツンにはもう後がない。
- 55 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:46:44 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)「……ツンさんツンさん」
ξ゚?゚)ξ「何?」
( ^ω^)「12時10分以降の被害者に、
トソンさんが取り憑いてたっていう証拠はあるんですかお?」
ξ゚?゚)ξ「……ないわ。
あるのは、そこら辺の霊や人間から集めた目撃証言だけ。
その証言だって、ぼんやりとしたものばかりだった」
ξ゚?゚)ξ「だからこそ、事件発生からトソンさんへ容疑が掛けられるまでに
7年もかかったわけだしね」
( ^ω^)「なら、あの、証拠不十分? そういうやつは適用されないんですかお」
ξ-?-)ξ「されないわよ。
『疑わしきは罰せず』なんて精神、幽霊裁判には一切ないもの」
ξ゚?゚)ξ「裁判長に有罪と思わせられるか無罪と思わせられるか。それだけよ」
ツンがそこまで言ったところで、木槌の音が耳を打った。
オサムが、木槌の先をトソンに向ける。
- 56 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:47:38 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「被告人は何のために被害者に憑依したのか証言してくれ。
昨日話したのと同じ内容でいい」
トソンは声も無しに頷くと、一呼吸(霊が呼吸するかは知らないが)おいて、口を開いた。
彼女を見るしぃの瞳は、やはり冷たい。
(゚、゚トソン「……私は生前、ぃょぅさんやミセリと同じ大学に通っていて……。
そこの演劇サークルで、仲良くしていました」
(゚、゚トソン「ぃょぅさんは1年先輩で、優しくて面倒見がいい方で……
人見知りの私にも、とても良くしてくださって、それで、……その、
私は、ぃょぅさんが好きだったんです」
目を伏せるトソン。
血まみれでさえなければ、なかなか綺麗な人かもしれない。
血まみれでさえなければ。
(゚、゚トソン「結局、告白も何も出来ないまま私は事故で死んでしまいましたが……」
内藤は、トソンの頭から足元まで視線を滑らせた。
初めに彼女を見たときに抱いた違和感の正体を探る。
- 57 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:49:45 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)(……あ)
右手に目が止まる。
小指。第2関節の辺りから先がない。
死因が交通事故だということだから、恐らく、そのときに千切れたのだろう。
(゚、゚トソン「死んだ後も、町の中をぶらぶらしているときに
たまにぃょぅさんを見かけたりすると、やっぱり少し嬉しかったです」
(゚、゚トソン「それで……事件の日の数日前に、ぃょぅさんが結婚することを知りました」
【+ 】ゞ゚)「どうやって知った?」
(゚、゚トソン「夜だったと思うんですが、居酒屋の前を通りかかったときに
ぃょぅさんが……同僚の方々でしょうか、何人かと一緒にお店から出てきたんです。
そこで結婚の話をしてました」
- 58 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:50:36 ID:sZGfpHvsO
-
(゚、゚トソン「私、どうしても『おめでとう』って、言いたかったんです」
(*゚ー゚)「好きな人が自分以外の女と結婚するのに、『おめでとう』ですか。嫉妬はなかったんですか?」
(゚、゚トソン「好きとは言っても、私は幽霊ですし……それに、
生きてた頃のような、激しい恋心はもう落ち着いていましたから」
(*,゚Д゚)「『思い出の人』ってやつよねえ……。
分かるわ、あたしも初恋の人のことを未だに思い出すもの」
(*゚ー゚)「お前の話は聞いてない」
(*,゚Д゚)「あれは幼稚園の保母さんで……あたしだって昔はノーマルな恋をしたものよ」
(*゚ー゚)「お前の話は聞いてない」
【+ 】ゞ゚)「それで体を借りるために被害者に近付いたのか?」
(゚、゚トソン「はい……。ミセリとは高校からの付き合いだったのですが、
昔、霊感のようなものがあると話していたのを覚えてましたので……」
- 59 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:52:44 ID:sZGfpHvsO
-
#####
ミセ;゚ー゚)リ『──ああもう、びっくりした。こんなにはっきり幽霊見たの初めて。
……変わらないねトソン。若いまんまだ。血まみれだけど』
(゚、゚トソン『驚かせてすみません』
ミセ;゚ー゚)リ『それで、何? 契約書を書けって? 幽霊も面倒臭いね……』
(゚、゚トソン『……本当に貸してくれるんですか?』
ミセ*゚ー゚)リ『まあいいよ、正直ちょっと恐いけど、トソンなら信じる。
あ、ぃょぅ先輩の仕事先わかる? すぐそこの銀行だよ』
(゚、゚トソン『はい、ありがとうございます、ミセリ』
ミセ*゚ー゚)リ『はっはっは。頭が高ーい。
午後からお客さんが来るから、なるべく時間守ってくれよー』
#####
- 60 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:53:42 ID:sZGfpHvsO
-
(゚、゚トソン「彼女も、とてもいい人なんです。
私の話を信じて、快諾してくれました」
内藤ならば、たとえ知人であっても、霊に体など貸しはしない。
被害者は霊感のせいで苦労したという経験がなかったのか──それとも、
トソンを心から信用していたのか。
(゚、゚トソン「それから銀行に行って、ぃょぅさんに会って……」
#####
(=゚ω゚)ノ『──久しぶりだょぅ、ミセリ。どうしたょぅ?』
ミセ*゚ー゚)リ『あの、たまたま来たもので。
……ぃょぅさん……いえ、先輩、結婚するんですよね?』
(=゚ω゚)ノ『そうだょぅ。この間、招待状送ったょぅ?』
ミセ*゚ー゚)リ『……ぃょぅ先輩』
(=゚ω゚)ノ『ん?』
ミセ*゚ー゚)リ『──おめでとう……ございます』
#####
- 61 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:55:11 ID:sZGfpHvsO
-
(゚、゚トソン「……ぃょぅさん、笑って『ありがとう』って言いました。
その顔がすごく幸せそうで、私、満足しました」
(゚、゚トソン「時計を見たら約束の時間になっていたので、
ミセリの会社の前まで戻ってから、すぐにミセリから離れました。
だから……憑依を解いたのは、12時15分とか、それくらいだったかもしれません」
ξ゚?゚)ξ「5分程度のオーバーなら立件するほどじゃないわ。別に被害もないんだし」
(*゚ー゚)「5分程度なら、ね」
【+ 】ゞ゚)「そのとき、被害者と何か話したか?」
(゚、゚トソン「『ちゃんと言えた?』って訊かれたから、『うん』って──たしか、そのくらい。
あとはお礼を言って別れました。
……あ、ミセリが『早く成仏しなよ』って言ってくれたのも覚えてます」
【+ 】ゞ゚)「会話はそれだけか? 旧友なら、色々と話したいこともあったんじゃないか」
(゚、゚トソン「たしかにそうなんですが、でも、ミセリが幽霊の私と話してるのを他の霊に見られたら、
彼女が面倒事に巻き込まれるかもしれないから」
ξ゚?゚)ξ「下手に霊感持ちなのが知れると、厄介なのが寄ってきかねないものね」
昔の友人がずっと現世を彷徨い続けていたと知ったとき、三森ミセリは何を思ったろう。
内藤は、顔も知らない三森ミセリの感情を推し量る。
会えたことが嬉しくても、やはり、どこか悲しい気持ちになるのだろうか。
- 62 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:55:27 ID:VTo0JN5Q0
- なんとなくで読んでたのに気付いたら惹き込まれてた
支援支援
- 63 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:57:15 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「会社の前で別れたとのことだが、被害者が会社に入るところは見たか?」
(゚、゚トソン「いえ……。私がミセリに背を向けて、その場を離れました。
しばらく進んでから振り返ったときには、もうミセリはいませんでしたけれど」
【+ 】ゞ゚)「……まあ、昨日の証言との違いはないな。
適当に嘘をついたせいで破綻する奴がたまにいるんだが」
オサムが顎を擦る。
内藤はオサムからトソンへ視線を滑らせた。
(゚、゚トソン「あ……」
( ^ω^)「──?」
目が合う。
その瞬間、トソンは小さな声を落とした。
すぐに顔を俯け、右手を左手で握り込む。
いかにも妙な動作だった。
ξ゚?゚)ξ「……気付いたわね」
( ^ω^)「何がですお?」
ツンが、内藤にしか聞こえないほどの声で呟く。
内藤もまた小声で問うたが、ツンからの返答はなかった。
- 64 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:58:36 ID:sZGfpHvsO
-
(*,゚Д゚)「はあ、切ないわあ。
生前の思い人に、わざわざ旧友の体を借りてまで伝えたかったのは、
『おめでとうございます』のただ一言……」
内藤の向かいで、ギコが頬に手を当て、ほう、と息をついた。
くねくねと身を捩らせているのが目障りにも程があった。
(*,゚Д゚)「素敵……乙女のいじらしさってのは、これなのよねえ」
ξ゚?゚)ξ「オカマに乙女の何が分かる」
(#,゚Д゚)「あ゙あっ!?」
そっぽを向いたツンの一言。
どうやら、ギコには大変癪に障るものだったらしい。
(#,゚Д゚)「彼氏いない歴イコール年齢のあんたに比べりゃ、あたしの方がよっぽど乙女だわ!!」
ξ#゚?゚)ξ「なっ……! か、彼氏は作れないんじゃなくて作らないだけですうー!!
その気になれば余裕で2股3股4股5股……!」
川 ゚ 々゚)「あ、嘘の臭い」
(#,゚Д゚)「昔っからあんたに寄ってくるのは男じゃなくて霊ばっかだったじゃないの!
中学くらいになると生きてる女も寄ってこなくなってたけどね!!」
ξ#゚∀゚)ξ「おほほほほ言ってくれるじゃない!
昔は爽やかで男前キャラで人気者だったギーコーくーん!!」
- 65 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:00:06 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「……なんて醜い言い合いだろう……」
( ^ω^)(これも時間稼ぎなのかなあ……)
もしかしたら本気の喧嘩かもしれない。
ツンならば有り得る。
せめて裁判に関係のある議論をしろ。
内藤が心の中でつっこむのと、オサムの木槌が打ち鳴らされたのは同時だった。
【+ 】ゞ゚)「さて、ここからが問題だな。被告人」
(゚、゚トソン「はい」
【+ 】ゞ゚)「被害者と別れた後、どこで何をしていた?」
ξ゚?゚)ξ「……」
ギコとの口論をやめたツンは、机に突いた手を丸め、拳を作った。
先程まで浮かんでいた怒りの表情は消え、その顔色は困り果てたものに変わっている。
視線の先はトソン。
- 66 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:00:49 ID:sZGfpHvsO
-
(-、-トソン「……黙秘します」
ξ;゚?゚)ξ「トソンさん!」
【+ 】ゞ゚)「……昨夜から、ずっとこうだ。
肝心の、犯行時刻とされる時間帯の行動は話さない」
オサムは内藤に言ったらしい。
それに気付くのが遅れた内藤は、少し間をあけてから「はあ」と返した。
ξ;゚?゚)ξ「トソンさん、どうして話してくれないの!」
(*゚ー゚)「『話せない』んじゃないですか?
話せば、自分が犯人だと知られてしまうから……とか」
ξ#゚ -゚)ξ「いちいち癪に障る言い方するわね、あんたは……!」
(*゚ー゚)「ほら、何とかしてみてくださいよツンさん。
被告人が証言しないなら、弁護人のあなたが証明するしかないんですよ」
ξ#゚?゚)ξ「するわよ! するけど……まだ準備が整いきってないのよ!」
(*゚ー゚)「そればっかりですねえ。みっともないったら……」
(,,゚Д゚)「あんたって本当に嫌味な女よね、しぃ」
- 67 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:02:33 ID:sZGfpHvsO
-
ツンは、時間稼ぎに付き合えと内藤に言っていた。
時間さえあれば、本当に証明出来るのだろうか。
半信半疑ながらも、とりあえず、内藤はツンに協力してやることにした。
( ^ω^)「……問題の時間に被害者が会社にいなかった証拠はあるんですかお?」
(*゚ー゚)「勿論。
昼の12時45分に、被害者、三森ミセリは商店街に入っている。
これは商店街入口にある監視カメラに記録されていた」
( ^ω^)「カメラですかお」
(*゚ー゚)「これが監視カメラのテープ」
言って、しぃはビデオテープを持ち上げた。
(*゚ー゚)「何せ7年前のテープだから多少は劣化しているけど、映像確認には充分だ」
( ^ω^)「今、見ることは可能ですかお?」
ξ゚?゚)ξ「そうね内藤君にも見てもらいましょうかじっくりと、そうしましょうよたっぷり時間かけて」
(,,゚Д゚)「色々準備しなきゃいけないから面倒なのよね」
【+ 】ゞ゚)「映像に被害者の三森ミセリが映っていたのは間違いない。
俺達も何度も確認済みだ。それで信用してくれ」
ξ゚?゚)ξ チィッ
- 68 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:04:03 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)「ええと、言いづらいんですけど、その映像が偽造されたものの可能性は」
(#゚ー゚)「なっ……! 君は、僕が証拠品を捏造すると思ってるのか!?
僕がそんな卑しい真似をするわけがないだろう!!」
(,,゚Д゚)「まあまあ、ブーンちゃんが言ってるのは可能性の話よ、可能性」
オサムは、しぃからトソン、ツンへ視線を巡らせ、最後にくるうを見た。
退屈そうに沈黙していたくるうが、こくりと大きく頷く。
川 ゚ 々゚)「偽造はしてないよ。しぃは嘘ついてないもん。臭くない」
──くるうは、「嘘の臭い」を嗅ぐことが出来る。
誰かが嘘をつけば、くるうの鼻には不快な臭いが届く。
だから、もし仮にテープの内容がでっち上げだったなら、
しぃが偽造していないと言った時点で即座にくるうが否定していただろう。
これこそが、「監視官」くるうの仕事。
監視官とは、くるうのような能力を持った者、または人の心を読めるサトリなど、
真実を見極められる霊や妖怪に与えられる役割である。
弁護人や検事、証人等が嘘をついていないか監視するわけだ。
- 69 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:04:59 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「と、くるうもこう言っている」
( ^ω^)「……分かりましたお」
ならば裁判なんて面倒臭い手順を踏むことなく、
監視官が被告人と話すだけで有罪か無罪か分かるのではないか、と思うかもしれない。
だが、そう便利なものでもないのだ。
3週間前、内藤が同じような疑問をツンにぶつけたところ、彼女は首を横に振って答えた。
ξ゚?゚)ξ『ああいう妖怪の多くは、生きた人間に対してしか能力を使えないのよ。
とても力が強ければ同類に対しても可能かもしれないけど』
( ^ω^)『じゃあ、くるうさんは大して力が強くないと』
ξ-?-)ξ『そういうこと。だから被告人が幽霊なら、その人の話が真実か否かまでは見極められないの』
( ^ω^)『何か納得いきませんお……』
- 70 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:07:35 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ『そう?
たとえば怖い話なんかだと、幽霊の思考や感情が
自分の頭に流れ込んでくる……! みたいなの、よくあるじゃない?』
( ^ω^)『たしかによく見ますお。実際に経験もしたし』
ξ゚?゚)ξ『それと似たようなもんだと思えばいいわ。
人と人同士じゃ心は読めない、霊と霊同士も……もちろん例外はあるけど、まあ読めない。
人と霊なら出来る。そういうものよ』
( ^ω^)『それはそれは……中途半端に使えませんお』
ξ゚?゚)ξ『その発言、裁判長に聞かせないでね。殺されるわよ」
──ということらしいので、結論、
生きた人間が決定的な証言をしてくれるのが一番いいそうだ。
今回で言うなら、被害者が目を覚まして法廷に出てくれれば解決するのだろうが。
当人が目を覚ましていないため、それも叶わない。
( ^ω^)(あ、じゃあ、被害者が目覚めるまで裁判は一時中断すれば……)
なんて考えたが、こんな発想、ツンなら既に口にしている筈だ。
それでもこうして審理が続けられているということは、却下されたに違いない。
大方、その間に被告人が逃げたらどうする、だの
被害者が増えたら責任をとれるのか、だのとしぃに怒鳴られたのであろう。
- 71 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:09:39 ID:sZGfpHvsO
-
内藤が考え込んでいる内に、話は進んでいた。
しぃがトソンを追い詰めようとしている。
(*゚ー゚)「被告人は絶望したんじゃありませんか?
かつての思い人が、他の女との結婚を控えて幸せそうにしている。
自暴自棄になっても仕方ありません」
(゚、゚;トソン「私、そんな……」
(*゚ー゚)「そして八つ当たりで憂さを晴らそうとしたのでは?
あなたは被害者の体で、手当たり次第、通行人に喧嘩を売っていった……。
なるべく人の多いところに行こうと思えば、商店街に向かうのも当然のこと」
ξ#゚?゚)ξ「異議! 尋問でも何でもない憶測のみで話を続けないでくれるかしら!」
【+ 】ゞ゚)「おお、何か裁判っぽくなってきたなあ」
(,,゚Д゚)「これ初めっから裁判よオサムちゃん」
川#゚ 々゚)「くるう以外の女が、オサムのこと馴れ馴れしく呼ぶな!」
一応ギコも「女」の括りに入るらしい。
果てしなくどうでもいいが、ギコが嬉しそうなのが癪に障った。
- 72 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:12:10 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「……では質問に切り替えます。
被害者は、商店街にて『この野郎』とか『ぶっ殺してやる』とか、
ひどく乱暴な言葉を吐いていたそうですが……」
(*゚ー゚)「彼女は元々、怒ったときにはどのような言葉遣いをするような方でしたか?」
(゚、゚トソン「……滅多に怒らない人でした。
気に入らないことがあっても、怒鳴ったり、酷いことを言ったりというようなことは……」
(*゚ー゚)「なかった?」
(゚、゚トソン「なかったです」
(*゚ー゚)「たとえば、アルコールなどが入って気が高ぶるとか、そういうこともなかったですか?」
(゚、゚トソン「ないです……。
どちらかというと泣き上戸で、しばらく泣いた後は眠ってしまうような感じでした。
だから、普段からあまりお酒は飲まないようにしていたみたいですが……」
(*゚ー゚)「では、先程のような乱暴な発言を、被害者が本人の意思で口にしたと思いますか?」
(゚、゚トソン「……絶対に有り得ないとは言いませんが、私は信じられません」
しぃは、深々と頷いた。
芝居がかった声で「なるほどねえ」と呟いている。
- 73 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:14:42 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「やはり当時の被害者は、何者かに乗っ取られていた可能性が高いことになりますね」
ξ#゚?゚)ξ「それならそれで、トソンさんが憑依してた筈がないわ!
トソンさんは見ての通り物静かで、優しくて正直な人で……っ」
(*゚ー゚)「それはあなたの主観でしょう」
ξ#゚?゚)ξ「なら今のトソンさんの証言だって主観的じゃないの!
被害者が乱暴な言葉を吐くかどうかなんて──」
(*゚ー゚)「被告人には被害者と過ごした『時間』の長さ、それと親密さという信用に足る理由があります。
あなたの意見とは、信憑性がまるで違う」
多少の嘘くらいつけばいいのに、と内藤はトソンを見ながら思った。
どうせ、霊であるトソンの嘘なら、くるうには分からない。
バレるバレないの問題ではなく、そもそも嘘自体、裁判には良くないものだと分かってはいるが。
それにしたって、もう少し自己弁護になるような──言い方ってものがあるだろうに。
- 74 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:16:57 ID:sZGfpHvsO
-
ξ;゚?゚)ξ「ええいっ、内藤君! トソンさんに取り憑かれなさい! 6時間から7時間!
それでも君が元気なままでいられたら、トソンさんは無実だわ!」
( ^ω^)「嫌ですってば」
(*゚ー゚)「被害者と内藤君では年齢も体格も性別も違うから、検証になりませんよ。
第一、7年前は被告人が故意に必要以上の生気を消費させたのかもしれませんし」
ξ;゚?゚)ξ「あっ、ほら、被害者は大学時代、演劇サークルに入ってたのよね?
じゃあ、柄の悪い演技をして歩いてただけなのかも!」
(*゚ー゚)「何のために?」
ξ;>皿<)ξ「……知らないわよ馬鹿!!」
(,,゚Д゚)「いくら何でも苦しすぎるんじゃないの、ツン」
ξ;゚?゚)ξ「とにかく!!
事件当時の被害者にトソンさんは憑依してなかったし、
仮に被害者が何者かに取り憑かれてたとしても、それはトソンさんじゃないわ!」
(*゚ー゚)「じゃあ誰が取り憑いてたんですか?」
ξ;゚?゚)ξ「……そこまでは」
- 75 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:17:56 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「そういや弁護人は昨夜、被告人のアリバイがどうとか言ってたな」
ふと思い出したようにオサムが言う。
途端、ツンは口ごもった。
ξ;゚ -゚)ξ「アリバイ……うん……」
( ^ω^)「ツンさん、すごく頼りないんですけど」
ξ;゚?゚)ξ「あ、あるわよ。ある筈なのよアリバイ。
あるけど私じゃ証明出来ないのよ」
( ^ω^)「?」
(*゚ー゚)「……話になりませんね」
これ見よがしに溜め息をつくしぃ。
机に叩きつけるように書類を放り、オサムを横目で見た。
- 76 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:19:17 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「裁判長、時間の無駄です」
【+ 】ゞ゚)「……これ以上話しても、新情報は出てきそうにないな」
(*゚ー゚)「ええ」
ξ;゚?゚)ξ「待った!」
(*-ー-)「待ちません」
ξ;゚?゚)ξ「駄目よ、それじゃあ駄目なの!」
(゚、゚トソン「……ツンさん」
ξ;゚?゚)ξ「お願い、なら、一日ちょうだい! 本当に今度こそっ、」
(#゚ー゚)「……いい加減になさい!!」
ξ;゚ -゚)ξ「う」
(#゚ー゚)「自分の無能を『時間が足りない』で済ませるんじゃありません!
みっともないと思わないんですか!?」
- 77 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:20:28 ID:sZGfpHvsO
-
川 > 々<)「うー。こわいー」
【+ 】ゞ゚)「検事、少し落ち着け」
(,,゚Д゚)「はいはい深呼吸」
(#゚ー゚) フー、フー
( ^ω^)「……もう諦めたらどうですかお」
ξ;゚?゚)ξ「……馬鹿言わないでちょうだい。
チャンスが転がり込んできたのに、どうして諦められるの?」
チャンスも何も、今のツンには打つ手がないように見える。
強がりなのだろうか。
それとも本当に、彼女にしか分からない「チャンス」があるのか。
だとしたら、せめて、どれほどの時間があれば何が出来るようになるのか、具体的に言えばいいのに。
(*-ー-)「……なりふり構わないというか……。
恥ずかしくないんでしょうか」
(,,゚Д゚)「まあ昔から羞恥心とは無縁な女だったけど、今回はいつにも増して酷いわあ」
- 78 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:21:40 ID:m5YbrJZc0
- 面白いなぁ支援
- 79 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:21:52 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚−゚)「だから弁護士って嫌なんですよ僕は。
自分の名誉と金のために、犯罪者を無罪にしようってんですから──」
ξ゚ -゚)ξ「……自分の名誉と金のために、無実の人を有罪にするのはいいわけ?」
(,,゚Д゚)「あ、もう、やあねえ。その辺は揉める元だからやめなさいよ」
【+ 】ゞ゚)「犯罪者を無罪にしないために、そして無実の者を有罪にしないために、
弁護士と検事が争うんだ。無駄な喧嘩は控えろ。
どちらの心証も悪くなる」
川*゚ 々゚)「オサムかっこいい! 好き!」
本当にトソンが犯人だった場合、しぃが言うように、
ツンは真犯人を無罪にするために必死になっていることになる。
内藤の頭に、クエスチョンマークが浮かんだ。
3週間前のツンは、こんなに食い下がりはしなかった。
不利な状況にあっても、これほど慌てたりムキになったりしなかった。
それが何故、今回はここまでしているのだろう。
- 80 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:22:28 ID:sZGfpHvsO
-
ξ;゚?゚)ξ「……」
( ^ω^)(?)
ツンと目が合う。
彼女は、手を下ろした。
そのまま──左手を、内藤の右手に当てる。
机に隠れて、しぃ達には見えないであろう。
どうしたのかと内藤が問う前に、ツンは、書類へ目を落とした。
何かを考えるような顔。内藤には、それが演技に見えた。
( ^ω^)「ツンさ……」
内藤の右手の小指に、ツンの左手の小指が絡む。
不覚ながら、一瞬、どきりとしてしまった。
しかしいくら何でも、裁判中に、しかも自分の依頼人がピンチのときに
中学生に色目をつかうような真似はしないだろう。
- 81 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:23:51 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「弁護人」
ξ;゚?゚)ξ「はい」
【+ 】ゞ゚)「俺も検事も、充分な時間を与えていたと思う」
ξ;゚?゚)ξ「……はい」
そうして。
【+ 】ゞ゚)「それでも弁護人は被告人の無罪を立証することは出来なかった。
それは、そもそも証拠になるものが存在しないからではないかと俺は考えている」
ξ;゚ -゚)ξ「……は、い」
ツンは、内藤の指と己の指を絡ませたまま、ゆるりと揺らした。
- 82 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:24:36 ID:sZGfpHvsO
-
(*-ー-)「僕の勝ちですかね」
(゚、゚トソン「……」
それはまるで。
歪な指切りのようで。
( ^ω^)(……指切り)
──内藤の頭の奥、幼い頃の記憶が、這い上がった。
- 83 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:25:46 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「もう、判決を──」
( ^ω^)「待ってくださいお」
咄嗟に声をあげていた。
皆の目が内藤に向かい、ツンは手を離した。
(,,゚Д゚)「どうかした? ブーンちゃん」
(*゚ー゚)「君までツンさんのように時間稼ぎをするつもりじゃないだろうね」
( ^ω^)「あの、誰か、携帯持ってますかお?」
川 ゚ 々゚)「けいたい」
【+ 】ゞ゚)「携帯電話か?」
しぃがポケットから携帯電話を取り出した。
電話でも掛けるのかい、と問う彼女に、首を振る。
- 84 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:26:49 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚ー゚)ξ
俯くツンの口元は、緩やかに弧を描いている。
まさか。
まさか、ツンは──「あれ」を知っていたのか。
( ^ω^)「7年前の甲子園、決勝戦は何日でしたかお?」
(*゚ー゚)「甲子園?」
しぃが怪訝な顔をする。
甲子園と聞いて、トソンが僅かに肩を揺らしたのを内藤はたしかに見た。
ギコにつつかれ、しぃは携帯電話を操作した。
しばらく、しぃの指と携帯電話が触れ合う音だけが響いた。
- 85 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:28:13 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「8月20日、事件と同じ日だね。シベリア高校とニューソク商業高校」
( ^ω^)「勝ったのはシベリア高校ですおね。最後にホームランを打って」
(*゚ー゚)「……うん、そう書いてある。
それがどうしたのさ」
内藤は、机に両手をついた。
深呼吸をし、言葉を選び、そして、シンプルな一言を口にする。
( ^ω^)「僕はその日、トソンさんに会ってますお」
.
- 86 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:29:55 ID:sZGfpHvsO
-
すぐに口を開く者はいなかった。
しぃやギコは、ぽかんとした表情で内藤を見ている。
トソンは両手を胸元に置き、ツンだけはやはり笑みを浮かべていた。
( ^ω^)「7年前の8月20日、僕は母親と一緒に、この町にいる親戚の家に来ましたお」
(,,゚Д゚)「……ええと、姉者の家かしら? 7年前っていうと、ブーンちゃんはまだ居候じゃないわね」
( ^ω^)「当時、僕は別の県に住んでましたお。
あの日はたしか、お盆に祖父ちゃんの家に集まれなかった弟者達に
会うために連れてこられて……」
おぼろ気だった記憶が、話す内に鮮明になってくる。
今まで思い出さなかったのが不思議だ。
- 87 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:30:53 ID:sZGfpHvsO
-
(*゚ー゚)「……それで?」
( ^ω^)「それで……弟者は風邪を引いてて、兄者さんは溜まってた宿題をやってて……。
母は父者さん達と話してたし、
遊び相手がいなかったから、僕、こっそり家を抜け出したんですお」
ちょっとした探険気分だった。
慣れない土地を歩き回りたかった。
しばらく歩いたところで、人気のない場所に出る。
そこでは家具や家電など、たくさんの物が山を作っていた。
いま思えば、あれは空き地に不法投棄されたごみの山だったのだろう。
( ^ω^)「僕には、宝の山に見えましたお」
【+ 】ゞ゚)「あそこは『色々』いるぞ。汚れた場所には妙なものが集まる」
川 ゚ 々゚)「怖いのもいるよー」
( ^ω^)「……そうですお。
でも僕はそんなの気付かなかった」
- 88 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:33:17 ID:sZGfpHvsO
-
わくわくしながら、ごみを漁った。
広げた傘や鉄板の下に、ラジオがあった。
( ^ω^)「僕の家にあるラジオよりも大きくて、格好良くて、
興味が湧いたから──適当にスイッチを押して遊びましたお」
まだ壊れてはいなかったようで、チューナーを動かす内に甲子園の決勝戦の実況が流れた。
片方のシベリア高校は父の出身校らしく、以前から父がニュースをチェックしていたので
幼かった内藤も、ラジオを聴きながらその学校を応援した。
そのとき。
( ^ω^)「瓦礫の中から腕が伸びてきたんですお」
人間とは長さも形も違った。
体が震えて動けなかった。
這うようにして逃げれば、足を掴まれ引っ張られる。
そうする内、あちこちから人間とは思えない姿のものが現れて内藤に近付いてきた。
彼は泣きながら「ごめんなさい」と繰り返した。
殺されるという実感はなかったが、何か、とても恐ろしいことが起こる予感があって泣いた。
- 89 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:35:35 ID:VTo0JN5Q0
- 今すげえ鳥肌立ってる
続きはよはよ
- 90 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:36:19 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)「……そこに、女の人の声がしましたお。
もう大丈夫、って。怖いやつは追い返したって。
見てみたら、僕と女の人以外、何もいませんでしたお」
女の人、のところで、トソンを見た。
ツンは俯けていた顔を上げ、悠然と構えている。
一方しぃの顔は強張っており、少し恐い。
ξ゚?゚)ξ「その女の人は、どんな人だったの?」
( ^ω^)「……顔までは覚えてませんお。でも──トソンさんで、ほぼ間違いないと思いますお」
【+ 】ゞ゚)「何故だ?」
内藤の記憶にいる女性は、顔も髪型も服装も、そのどれもが靄で隠されたかのようにぼんやりとしている。
それでも一つ、明確に覚えていることがあった。
- 91 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:37:41 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)「僕、1人であんな場所に行ったことがバレたら、みんなに怒られると思ったから
『誰にも言わない』って、指切りしてもらったんですお。
僕はこう、右手の小指を出して」
( ^ω^)「……女の人は、右手を出そうとしてから左手に替えましたお。
あのときの僕には、意味が分からなかったけれど」
今は分かる。
幼い自分にトソンの右手を差し出されていたら、きっと自分はびっくりしたことだろう。
( ^ω^)「──右手じゃ、指切り出来なかったんですおね」
(゚、゚トソン「……はい」
胸元に添えられたトソンの両手。
その右手には、小指がない。
.
- 92 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:39:42 ID:sZGfpHvsO
-
(;*゚ー゚)「い……っ、異議!!」
しぃの動揺しきった声が響く。
内藤がしぃを見遣ると、やたら鋭い目付きで返された。
ξ゚?゚)ξ「検事。何に対する異議なのかしら」
(,,゚Д゚)「焦るのも分かるけど、一回落ち着きなさいな」
(;*゚ー゚)「やかましい!
……内藤君。君は、君はまさか、それが本当に被告人だったと主張する気じゃないだろうな」
( ^ω^)「その通りですけど」
(;*゚ー゚)「そんなわけあるか!!
それが被告人だったとして、他の特徴を覚えていない筈がない!
こんなに血まみれなんだぞ、君が子供だったならば、なおさら印象に残るに決まっている!!」
しぃはトソンを指差し、がなり立てた。
人を指差すなとギコが叱っているが、しぃは全く聞いていない。
くるうが耳を押さえたのを見たオサムが、宙を木槌で打った。
- 93 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:42:39 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「検事」
(;*゚ー゚)「……っ!」
ξ゚?゚)ξ「当時の彼は7歳かそこらの子供だったのよ。
私だって、何年も前に一度会ったきりの人間の顔なんか、そうそう覚えてないわ」
(;*゚ー゚)「彼女は簡単に忘れられるような見た目をしていなかったと言ってるんだ!」
( ^ω^)「検事さんには悪いけど、小さい頃の僕は、血まみれくらいなら
特におかしいものだとは思ってませんでしたお」
当時の内藤は小学1年生であり己の霊感も自覚しておらず、相手が人の形さえしていれば、
それが生きているか死んでいるかの区別も出来なかった。
血まみれの人間が動いて喋る姿を腐るほど見てきたし、
人が一定量の血を流せば死ぬことも知らなかったから
流血程度であれば、さして特別な印象を持つことはなかったのである。
今は流石に、血を見ようものなら痛そうとか何とか色々と思いもするが。
- 94 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:44:04 ID:sZGfpHvsO
-
(;*゚ー゚)「監視官!」
川 ゚ 々゚)「……ブーンは元々『嘘』の臭いがする子だけど、
でも今は、新しく嘘をついたような臭いはしなかったよ」
(;*゚ー゚)「……くそっ!!」
(,,゚Д゚)「汚い言葉を使うんじゃないの」
彼女の気持ちも、内藤は分からないでもない。
たまたま裁判に飛び入り参加した人間がいきなりこんな証言を始めたら、
そりゃあ動転するだろう。
(;*゚ー゚)「それが……それが何時頃のことだったか証明出来るのか?
被告人が犯行に及ぶよりも前のことだったかもしれないじゃないか!」
- 95 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:46:21 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)「……さっき訊いた甲子園の決勝戦。
あの試合が終わった時間は分かりますかお?」
(;*゚ー゚)「時間?」
( ^ω^)「僕は女性と指切りした直後に、その場を離れましたお。
そのときラジオからは、シベリア高校の選手が満塁ホームランを打って
逆転勝利したという実況が流れてましたお」
内藤の証言が始まってから、すっかり机の上に放置されていたしぃの携帯電話。
それを取り、ギコは画面を上から下まで眺めた。
──何者かに憑かれていた(と思われる)被害者ミセリが商店街に行ったのが、12時45分。
これはカメラに記録されていたそうだ。
ならば、野球の試合でホームランが打たれ、勝敗が決したときの時間と
ビデオの12時45分とに大きな隔たりがなければ、トソンは犯人ではない──可能性が高くなる。
- 96 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:48:31 ID:sZGfpHvsO
-
ギコが小さく息を吐き出すのを、ツンとしぃが食い入るように見つめている。
ツンの瞳には、既に、確固たる自信が浮かんでいた。
(,,゚Д゚)「試合開始は10時半。試合終了は──12時47分みたいよ?」
ξ*゚∀゚)ξ
たった2分差。
ツンの口元が吊り上がる。
反して、しぃはギコから携帯電話を奪い取ると、真っ赤な顔で画面を凝視して
泣きそうなのか怒っているのか分からない表情を浮かべた。
- 97 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:50:54 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「くるう」
川 ゚ 々゚)「臭くなーい」
【+ 】ゞ゚)「そうか。……被告人、改めて確認するが、12時15分以降は何をしていた?」
(゚、゚トソン「……」
( ^ω^)「トソンさん、話してくださいお」
(゚、゚トソン「……ミセリから離れて、適当に歩いていました。
そしたらごみ山で子供が妖怪に囲まれていたから……。
その内の一体に『オサム様を呼ぶぞ』と言うと、逃げていきました」
(゚、゚トソン「それからは、内藤さんの言う通りです。
内藤さんが帰った後は、その場でラジオを聴いていました」
しぃが手のひらで机を叩いた。
内藤には痛そうに見えたが、しぃは、それどころではないようだった。
- 98 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:53:34 ID:sZGfpHvsO
-
(#゚ー゚)「こんな馬鹿な話があるか!!
それならば何故被告人は今までこのことを黙っていた!?
僕は納得いかない!!」
(,,゚Д゚)「うーるーさーいーわねえ。
……でも、そうね、あたしも黙ってた理由が気になるわ」
オサムは木槌を打ち、ツンを一瞥した。
ツンが頷き、皆の疑問を口にする。
ξ゚?゚)ξ「トソンさん、どうして黙ってたの?」
トソンはツンを見、続いて内藤を見た。
優しい瞳をしている人だなと、内藤は心中で呟く。
(゚、゚トソン「……絶対に誰にも言わないって、約束しましたから」
内藤の中で、あまり馴染みのない感覚がじわりと滲んだ。
嬉しいとか感謝とか、それらを合わせた何かに似ていた。
危険な状況に追い込まれても約束を守った彼女の実直さに、
呆れながらも僅かに感激したのである。
彼が同じ立場であれば、そんな約束などすぐに破っていただろうから。
- 99 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:55:00 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ「──いかがですか、裁判長。
トソンさんは斯様に不器用で、優しい女性なんです」
そう言うツンの声は、先程までとは違い、真面目な響きを孕んでいた。
初めからその声で真剣に取り組んでいればいいものを。
ξ゚?゚)ξ「それをしぃ検事は、あたかも彼女が身勝手な犯罪者であるかのように扱い、
彼女を傷付けるような発言を繰り返した」
(;*゚ー゚)「ぐっ……」
ξ#゚?゚)ξ「事実は正反対ではありませんか!
トソンさんは被害者のもとを離れ、恐ろしい化け物から子供を救っていた!」
ξ゚?゚)ξ「……彼女は無実であると、改めて主張させていただきます」
オサムは頷いて、皆へ目をやった。
その表情はそれぞれ違う。
かん、かん。
木槌が響く。
- 100 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:55:41 ID:FxMMOAg6O
- トソンかっけえ…
- 101 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:56:06 ID:VTo0JN5Q0
- イイハナシダナー
- 102 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:56:41 ID:m5YbrJZc0
- トソンかっこよすぎだろ惚れた
- 103 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:57:07 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「これまで俺は、被告人は有罪ではないかと考えていた」
しぃの指が机の表面を引っ掻き、ギコは肩を竦める。
もはや、その反応が答えのようなものだった。
【+ 】ゞ゚)「だが新たな証言により、当時の被告人に犯行が可能だったかどうか、
非常に怪しいものだと判断出来る」
- 104 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:00:24 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「被告人、都村トソンを無罪とするつもりだが、異論はあるか?」
ツンが両手を上げる。
子供のように頬を染めて喜んでいた。
ξ*゚?゚)ξ「やった! 無罪だよトソンさん!!」
(゚、゚トソン「むざい……」
トソンがぽつりと言葉を落とす。
その響きはゆっくりと空気に溶けて、
それから──涙も落ちた。
- 105 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:03:11 ID:sZGfpHvsO
-
(;、;*トソン「……ありがとうございます、ツンさん、本当にありがとうございます……!」
ツンさんしか信じてくれなくて恐かった、とトソンが呟く。
ずっと堅い表情を浮かべていた彼女は、今、溢れる感情を隠しもせずに泣いた。
ツンが机から離れ、トソンのもとへ駆ける。
トソンを抱き締めて、ツンは、良かった良かったと何度も喜びの声をあげた。
川*゚ 々゚)「わー」
(#゚ー゚)「たったあれだけの証言で……!
証言の人物が本当に被告人だったかどうか、まだ分からないじゃないか!」
(,,゚Д゚)「ブーンちゃんが嘘ついてない以上、信用に足る証言よ。
ま、推定無罪ってとこかしら。今のとこはね」
- 106 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:04:11 ID:sZGfpHvsO
-
(#゚ー゚)「お前は僕の助手だろ、こんな結果で許せるのか!?」
(,,゚Д゚)「あのねえ。あたしは、そうやってすぐ怒るあんたを宥めるためにいるのよ。
ごめんなさいねオサムちゃん、この子まだまだ子供だから」
【+ 】ゞ゚)「怒るのも悲しむのもいいが、もう少し静かにするように躾けておけ」
m9ξ*゚∀゚)ξ9m「しぃ検事ザッマァアアアアアアアアアアアwwwwwwwwww」
(#゚ー゚)「このアマぁああああ!!」
【+ 】ゞ゚)「……言ってるそばから」
(,,゚Д゚)「ツンはもうどうしようもないわ」
( ^ω^)(本当にどうしようもない)
- 107 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:06:51 ID:sZGfpHvsO
-
ふと、トソンが内藤へ体ごと向き直った。
彼女が涙を拭っても流血の跡までは消えない。霊というやつは謎だらけである。
そうして、トソンは微笑んだ。
(゚ー゚*トソン
トソンの口が動く。
だが、ツンとしぃの罵り合いが喧しくて、声は聞こえなかった。
あの日と同じ。
彼女に名前を訊ねても、ラジオの音に邪魔されたときのことを思い出す。
けれども今回は違う。
内藤は彼女の口元をしっかりと見つめ、その唇の動きを捉えた。
「ありがとう」。
そう言っていた。
( ^ω^)「どういたしまして」
内藤は決まり文句で答える。
声が届いたかどうか定かではないが、トソンは笑みを深くさせた。
*****
- 108 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:10:48 ID:sZGfpHvsO
-
ξ゚?゚)ξ「じゃあの」
( ^ω^)「それ最近聞きませんお」
曲がり角の前でツンは内藤に手を振った。
この先に、内藤が居候している流石家がある。
時刻は4時少し前。
今ならまだ誰も起きていないだろうから、こっそり帰れば、肝試しに行ったこともバレずに済む。
とりあえず帰宅後一番には、枕元に置きっぱなしだった携帯電話で、
モララーとヒッキーに電話なりメールなりで無事を伝えなければ。
置き去りにしたことについて、ほんの少し恨み言も添えて。
- 109 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:12:34 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)「ツンさんはこれからどうするんですかお」
ξ゚?゚)ξ「工場に戻るわ。本当は早く家に帰って寝たいんだけどね」
──オサムやしぃ、トソン達は、未だ工場に残っている。
トソンへの疑いは一応晴れたが、そうなると今度は、
「ならば本当に事件は起こっていたのか」「犯人は別にいるのか」という問題が生じる。
なので、それらについて話し合わなければならないらしい。
内藤を送り届けるために来たツンも、またすぐ工場に戻るという。
トソンが無罪である完璧な証拠がないため、ここらでツンが頑張らねばならないそうだ。
( ^ω^)「事件が本当に起きたとしたら、犯人は誰なんでしょうかお」
ξ゚?゚)ξ「さあね。たちの悪い奴には違いないわ。
何にせよ、トソンさんは犯人じゃない。濡れ衣着せられて気の毒だったわね」
難しい顔──暗くてよく見えないが、多分そういった表情──をして、ツンが唸る。
そこで内藤は、気になっていたことを訊ねてみた。
- 110 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:15:04 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)「ツンさん、あれって、僕に『約束』のことを思い出させようとしたんですおね?」
ξ゚?゚)ξ「ん?」
( ^ω^)「法廷で、わざとらしく小指をくっつけてきたじゃないですかお。
……あれは何かおかしい気がするんですが」
トソンはずっと7年前のことを黙っていた。
彼女が約束を破ったとも考えにくい。
なら、ツンにも知り得る筈がないではないか。
もしも仮にトソンがツンにだけ話してしまったとしても、
それならそれで、ツンは法廷でそのことを言えばいいのに。
そうだ。考えれば考えるほどおかしい。
ξ゚?゚)ξ『あら、あらあら……あらららら……あれまあ……』──
ξ゚?゚)ξ『……気付いたわね』──
ツンは、トソンより先に気付いていたのだ。
だから内藤を法廷に留め、内藤が過去を思い出して証言するのを待った。
ここがおかしい。
トソンは、内藤の顔やら何やらで「7年前の子供」だと認識した。それは分かる。
しかし、あの現場にいなかった筈のツンがトソンより先に気付くのは、おかしくはないか。
- 111 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:18:54 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)「……ツンさん、全部知ってたんですかお。
僕とトソンさんが会ってたのも、トソンさんが絶対に犯人じゃないってことも」
ξ゚?゚)ξ「……」
( ^ω^)「だからあんなに必死になってトソンさんの無罪を主張したんじゃ──」
言いながらも、それは有り得ないだろうと思った。
だって──全てを見通すような力がなければ、そんなこと不可能だ。
しかし。もしも。もしも、不可能でなかったとしたら?
3週間前。彼女は言っていた。
人と人同士では心は読めない。
霊と霊同士も読めない。
人と霊なら。
- 112 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:20:28 ID:sZGfpHvsO
-
ツンは踵を返した。
内藤に背中を向け、ひらひら、右手を振る。
ξ゚?゚)ξ「君がまた幽霊裁判に関わるようなことがあれば、教えてあげる。かも、ね」
( ^ω^)「それは勘弁したいですお」
微かにツンの笑い声が聞こえた。
釈然としないまま内藤はツンが去っていくのを眺め、自身も彼女に背を向けた。
角を曲がる。
この町に越してから、幽霊に関わらないようにしようと決めたのではなかったか。
自分の頭を軽く叩き、街灯を睨む。
そこにしがみつく小さな化け物がこちらに気付く前に、目を逸らした。
- 113 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:21:41 ID:sZGfpHvsO
-
( ^ω^)(二度と裁判なんか参加しない。好奇心に負けない)
思考を切り替えようと思っても、内藤の脳裏には、前回の幽霊裁判のことが浮かんでいた。
その、彼にとって初めてとなった幽霊裁判については、次回話すとしよう。
case1:終わり
- 114 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:24:24 ID:pn.bAdpY0
- 追いついたらおわっちった
すんげー面白い
- 115 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:26:01 ID:sZGfpHvsO
- 今回は以上です
読んでいただきありがとうございました
NOミステリ
NO本格裁判
次回は、早ければ来週辺り
質問・指摘などあればお願いします
- 116 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:28:36 ID:VTo0JN5Q0
- 乙!!裁判パートから更新連打したわ面白いこれ
次回も楽しみにしてる
- 117 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:28:50 ID:m5YbrJZc0
- 嘘予告で見た時からわくわくしてて、すごく嬉しかったし面白かった
キャラの個性も強くて一目惚れした。乙
- 118 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:31:58 ID:pn.bAdpY0
- 改めて乙ー
面白いし続きたのしみだわ
- 119 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 03:10:20 ID:VIlYPcB60
- 乙!
相当面白かったしこれからも期待!
トソンええ子や……
- 120 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 03:25:41 ID:II41TV5o0
- これ面白いなあ、おつ
- 121 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 04:28:19 ID:zWcVLF3g0
- 凄い面白かった
乙でした!
- 122 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 09:35:27 ID:CpYhYIRoO
- 次回もwktk
乙
- 123 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 10:11:40 ID:ERU9zYiA0
- やべぇ、逆転裁判スキーな俺にドンピシャだわ
次話楽しみにしてます!!
- 124 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 10:19:34 ID:bTmlbpCs0
- 期待
乙
- 125 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 11:02:58 ID:JLYevasMO
- 面白かった
乙
- 126 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 11:06:07 ID:62EB1i1.O
- これは良いものだ
- 127 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 11:16:46 ID:7dJqCxwc0
- トソンの言葉にじわっときた
面白いよー!乙乙!
- 128 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 11:45:54 ID:JR/MmAOIO
- 嘘予告のやつか 面白い設定だと思ってた
乙乙
- 129 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 11:48:26 ID:JR/MmAOIO
- おっと嘘予告だと思ったら予告スレの方だった
見た時から時間が経ってるおかげで勘違いした
どうでもいいけど
- 130 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 16:57:11 ID:BkITLMHE0
- 乙面白かった
- 131 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 17:20:07 ID:Dk1eUNss0
- 学ラン娘とはよく分かってますね
- 132 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:01:56 ID:yHOTxaOs0
- 乙!
期待(´・ω・`)
- 133 :名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 23:56:36 ID:wtXtbeXQ0
- おつ
- 134 :名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 00:38:12 ID:MVkZMukAO
- ω・∩異議あり!(乙)
- 135 :名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 01:47:57 ID:MxYtBZioC
- どれが人間でどれが幽霊かイマイチ分かりづらいのでキャラ紹介あればお願いします
- 136 :名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 04:48:33 ID:nOW2JcTMO
- 相変わらずさすがだな、面白いわ
休憩無しで一気にに読んでしまった
- 137 :名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 08:28:02 ID:smdff48AO
- >>135
とりあえずメイン6人
ξ゚?゚)ξ 人間。弁護士。ギコを見てると釜飯が食べたくなる
( ^ω^) 人間。中学生。しぃを見てると鍋料理が食べたくなる
(*゚ー゚) 人間。検事。高校生。ツンを見てるとコロネパンが食べたくなる
(,,゚Д゚) 人間。しぃの助手。ブーンを見てると食べたくなる
【+ 】ゞ゚) 神様。裁判長。和食ばっかり供えられるのでたまには洋食やジャンクフードを食べたくなる
川 ゚ 々゚) おばけ。監視官。食事中のオサムを見てると食べ物に嫉妬する
- 138 :名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 10:05:48 ID:AE6WcBvg0
- ぎ、ギコ姐さん…
- 139 :名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 13:52:14 ID:3FChnuJ60
- タベタクなる・・・ゴクッ
- 140 :名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 22:17:31 ID:B9ce9iLQ0
- マジ乙
- 141 :名も無きAAのようです:2012/10/02(火) 23:17:51 ID:9jQde7Fk0
- 乙
予告から楽しみにしてた
読みながらわくわくしたよ
次も楽しみにしてる
- 142 :名も無きAAのようです:2012/10/03(水) 07:07:27 ID:vdsD3CWo0
- これは面白い
- 143 :名も無きAAのようです:2012/10/03(水) 13:09:01 ID:A0komE0A0
- 面白かった、
続き楽しみにしてる
- 144 :名も無きAAのようです:2012/10/06(土) 19:07:29 ID:VirdKr6EO
- 支援
ツンとしぃ
http://imepic.jp/20121006/685940
http://imepic.jp/20121006/686210
- 145 :名も無きAAのようです:2012/10/06(土) 19:26:53 ID:k6i4CS460
- かわいい!
- 146 :名も無きAAのようです:2012/10/07(日) 00:31:07 ID:.j/7id760
- おおこれは良作!続き楽しみにしてる
- 147 :名も無きAAのようです:2012/10/07(日) 11:12:47 ID:egzrPUc.O
- >>144
ありがとうございます!
2人とも可愛い
何がとは言いませんが、とても柔らかそうで素晴らしいと思いましtおっぱい
RESTさんがまとめてくださったようです
ありがとうございます
http://boonrest.web.fc2.com/genkou/yuurei/0.htm
明日か明後日くらいに二話目投下する。多分。恐らく
- 148 :名も無きAAのようです:2012/10/07(日) 11:56:36 ID:CPPXx/JwO
- やったあ!
- 149 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:05:12 ID:VyKq31NoO
-
時は遡って、内藤ホライゾンと出連ツンが出会うよりも前。
5月の終わりのこと。
(´<_` )「あーあー、泥まみれ」
早朝。
ヴィップ中学校のグラウンドに立ち、流石弟者は溜め息をついた。
昨夜降った雨により、グラウンドのあちこちに水溜まりが出来ていた。
(´<_` )「放課後は校内ランニングだな……」
弟者は陸上部に所属している。
今日は朝から練習がある日だった。
部室に移動し、ロッカーに鞄を置く。
部活の仲間達と談笑しながら学校の裏に出た。
グラウンドが使えない日は、学校の敷地の周り、アスファルトの道を走ることになっていた。
顧問と部長の指示を受けてストレッチをし、体をほぐす。
それからジョギングへ移った。
湿った空気の匂いを嗅ぎながら走るのが好きだ。
弟者は、シューズの底とアスファルトが擦れ合う音に意識をやりながら走った。
- 150 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:07:02 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )(……人だ……)
しばらく走った頃、道端に誰かが立ち尽くしているのに気が付いた。
年齢は分からない。ただ、そこに人──女がいる、という事実だけが思考の片隅に浮かんだ。
弟者の前を走る部員達は、その女を無視して駆けていく。
弟者は女性の前を通るときに、ぺこりと会釈した。
礼儀として。
視界の端で、女性が何らかの動きで反応を見せたのは認識出来たのだが、
「何をしたか」とか「どういう反応だったか」までは思考が至らなかった。
弟者の意識は、走りの方にばかり集中していた。
もう一周回り、同じ場所に差し掛かったときには、先程の女性はいなかった。
ただ、そこにバケツ一杯ほどの量の泥が撒かれていた。
- 151 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:09:59 ID:VyKq31NoO
-
case2:つきまといの罪/前編
.
- 152 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:10:48 ID:rUqB8Kso0
- 見てるよ支援
- 153 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:11:19 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「おはようございますお」
「流石」という表札の掛かった、2階建ての一軒家。
階段を下りてきた内藤ホライゾンは、欠伸をしながら居間へ入った。
( ´_ゝ`)「おう、おはようさん」
l从・∀・ノ!リ人「おはようなのじゃー」
居間の真ん中に置かれた大きめの卓袱台。
そこに青年と少女がいた。
少女の方は内藤に挨拶をしてからガラス戸を開け、隣接する台所へ駆けていった。
( ^ω^)「弟者と姉者さんは?」
( ´_ゝ`)「弟者は朝練。姉者はもう仕事行ったよ」
青年、流石兄者が答える。
彼は流石家の長男で、弟者と内藤より6つ上の大学2年生だ。
弟者が大人になればこうなるだろう、というような顔をしている。
しっかりしている弟者とは反対に、ちゃらんぽらんと評されることが多い。
- 154 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:12:26 ID:VyKq31NoO
-
l从・∀・*ノ!リ人「大盛りなのじゃ!」
内藤が兄者の隣に腰を下ろすと、台所から盆を持って戻ってきた少女が
内藤の前に茶碗と汁椀、箸を置いた。
( ^ω^)「ありがとうお、妹者ちゃん。いただきますお」
l从・∀・ノ!リ人「めしあがれー」
この少女は流石妹者。流石家の次女である。
内藤の記憶が正しければ小学3年生だ。
可愛らしい顔に可愛らしい振る舞い。誰が見ても美少女であろう。
兄者は、歳が離れていることもあってか妹者を溺愛している。
- 155 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:15:01 ID:VyKq31NoO
-
( ´_ゝ`)「妹者、のんびりしてて大丈夫なのか?」
l从・∀・ノ!リ人「今日はぼるじょあ君が迎えに来るからいいのじゃ」
(;´_ゝ`)「ぼ、ぼるじょあ? 誰だ?」
l从・∀・*ノ!リ人「お金持ちの子でのう、いつも高級車で送り迎えしてもらってる子なのじゃ!
でね、でね、今日は妹者も乗せてくれるって約束したのじゃ!
ちょっと色目を使ってやっただけなのに、男は単純じゃのう」
(;´_ゝ`)「サッカークラブのセントジョーンズ君はどうした?」
l从-∀-ノ!リ人「やっぱり男は運動出来るかどうかじゃなく、金なのじゃよ、兄者。
まあセントもキープはしておくが……」
少々、性格に難有り。
(;´_ゝ`)「……妹者、後でお兄ちゃんと話し合おう。男女の在り方について正しい道を話し合おう」
l从・∀・ノ!リ人「男女の在り方なんて、おっきい兄者は考えるだけ無駄ではないか。
あ、ブーン、こっちにお漬け物あるのじゃ」
( ^ω^)「ありがとうお」
( ;_ゝ;)「妹者ぁあああ! お兄ちゃんはお前をそんな風に育てた覚えはぁああああ!!」
焼き鮭をほぐしていた内藤に、妹者が小振りのタッパーを差し出す。
タッパーに入っていた沢庵を口に運んで、内藤は兄者の慟哭を聞き流した。
- 156 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:15:26 ID:q2hPnAgQ0
- こんな時間に…
もう寝るけど起きたら読む!
- 157 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:16:22 ID:VyKq31NoO
-
沢庵を飲み込み、今度は焼き鮭を口に入れる。
焼きたてであればふっくらしていただろう。
生憎冷めてしまっているが、それでも美味い。塩味が薄くて内藤好みである。
( ^ω^)「弟者、そろそろ記録会があるんだっけ」
l从・∀・ノ!リ人「そうらしいのう。ブーンは陸上部に入らないのじゃ? 足速いのに」
( ^ω^)「部活は面倒だお。他人に気を遣うことが今以上に多くなるし……」
l从・∀・ノ!リ人「ううむ……万年帰宅部で灰色の青春を送ってきたおっきい兄者を見ていると、
運動部で汗を流すということは学園生活において重要なことに思えるのじゃが」
卓袱台の上を、小さな人型の何かが這っている。
自分の鮭を狙っているのに気付き、内藤は、人型の何かを払い落とした。
訝しげな顔をする妹者に、蝿がいたのだと答えておく。
流石家の面々は、付き合いの長さ故、内藤の本性を知っている。
しかし霊感については知らない。
話す気もない。
- 158 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:16:56 ID:K/qI2K.w0
- わああああいきたあああああ!
- 159 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:17:42 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「帰宅部でも、他人との付き合いや振る舞いにさえ気を付けていれば
充実した日々を送れるもんだお」
l从・∀・ノ!リ人「ほう! なるほどなるほど。じゃあおっきい兄者は本人に問題があったのじゃな」
( ^ω^)「多分」
( ;_ゝ;)「うわああああ!! 死にてええええええええええ!!!!!」
味噌汁を啜る。
豆腐とワカメ。定番だ。
こういう、大衆のイメージと違わぬ朝食が、何となく好きだった。
昔から憧れていた。
内藤の親は朝食に時間を割くような人ではなかったので、
いつもシリアルやレトルトばかりで済ませていたから。
- 160 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:18:57 ID:VyKq31NoO
-
『──のアパートで、男性の死体が──』
内藤は顔を上げた。
テレビの中でニュースキャスターが口にしたのは、この町の名前だった。
どこぞのアパートの一室で住人が死んでいたという。
風呂場で溺死していたのだが、室内に泥が残っていたことから、
何者かが侵入して殺害したのでは──と警察は疑っているらしい。
( ぅ_ゝ`)「強盗でも入ったかね。……あ、金品は盗られてないってよ。
個人的な恨みか」
( ^ω^)「誰かの仕業だとしたら、この町に殺人犯がいるわけですおね」
l从・∀・ノ!リ人「それは恐いのう」
(;´_ゝ`)「妹者あっ! ぼるじょあ君に毎日送り迎えしてもらいなさい!!」
l从・ε・ノ!リ人「ぼるじょあ君が退屈な男でなければな」
.
- 161 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:20:47 ID:VyKq31NoO
-
内藤が食事を終えたとき、時計は7時半を回っていた。
立ち上がり、空の食器を持って台所へ入る。
台所では、先に食べ終わっていた兄者が食器を洗っていた。
今日は昼からの講義に出るだけだというので、内藤達ほど急ぐ必要はない。
( ^ω^)「兄者さん、悪いけど僕の食器も洗っておいてくれますかお」
( ´_ゝ`)「分かった分かった、早く準備しないと遅刻するぞー」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
それから身支度を整え、内藤は小走りで玄関へ向かった。
スニーカーを履き、玄関の引き戸を開ける。
( ´_ゝ`)「行ってらっしゃい!」l从・∀・*ノ!リ人
( ^ω^)「……行ってきますお」
この家に居候として加わってから、1年と数ヵ月。
なかなか、悪くはない。
*****
- 162 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:22:07 ID:VyKq31NoO
-
学校が近付くにつれ、同じ制服の生徒が視界に入る回数も増えてくる。
今日の数学で当てられるであろう範囲を考えながら歩いていた内藤は、
校門を見て、僅かに眉根を寄せた。
('A`)
痩せぎすの男が校門の上に座っている。
通り掛かる生徒の顔を眺めて何か言っているのだが、
誰も気付いていないようだ。
あの男、生きていない。
内藤は目を逸らそうとした。
だが、遅かった。
('A`)
( ^ω^)(あ)
目が合う。
すぐに視線を下に滑らせたが、どうせ気付かれただろう。
- 163 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:24:24 ID:VyKq31NoO
-
校門の前を通る。
真横に、男が降り立った。
('A`)「へいへい、そこ行く少年よ」
( ^ω^)(ああああー。面倒くせえええー)
無視して歩く内藤に、男が付いてくる。
('A`)「目が合ったよな? 俺のこと見えてるよな?
お前、内藤ほら……? ほら……ええと、下の名前を何つったか忘れたが、内藤か?」
内藤の目が男を見遣る。
名前を知られていることに反応してしまった。
男の口元が笑みを形作る。
('∀`)「やっぱり! 何で知ってんだって顔だな。
お前、俺らの間じゃ結構有名だぜ? 霊感持ちのガキがいるってよ」
基本的に霊は無視するよう心掛けているが、しつこく絡まれれば何らかの反応をしてしまう。
そういったことで、内藤の情報が霊から霊へと伝わっていったのだろう。
- 164 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:28:04 ID:VyKq31NoO
-
('∀`)「そのガキがヴィップ中に通ってるって聞いたからよお、
今朝早くからずっと待ってたんだぜ。だから、な、話ぐらい聞いてくれよ」
( ^ω^)
('∀`)「なあに、ちょっくら体を貸してくれるだけでいい」
昇降口に入り、自分のクラスの下駄箱の前で靴を脱いだ。
上履きを手に取る。
(;'A`)「おい、とことん無視する気だな……。
……頼むよー。やんなきゃいけないことがあんだよ」
( ^ω^)
(;'A`)「悪いことはしない! 本当だって! 体もすぐ返す!」
( ^ω^)
(;'A`)
( ^ω^)
('A`)「……いい加減、温厚な俺も怒るぜ少年……」
( ・∀・)「ブーン、はよーっす!」
我慢の限界を迎えた内藤が男を蹴っ飛ばそうとしたとき、
友人の浦等モララーが声をかけてきた。
- 165 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:29:33 ID:VyKq31NoO
-
内藤はモララーへ振り返る。
顔には満面の笑みを張り付けて。
( ^ω^)「おはようお!」
( ・∀・)「今日は弟者は一緒じゃねえのか」
(-_-)「朝練じゃない? おはよう、ブーン」
( ^ω^)「ヒッキーもおはようおー。弟者はヒッキーの言う通り朝練だお」
モララーの隣には小森ヒッキーがいた。
彼らは家が近いそうで、よく登校する際に一緒になるらしい。
2人が靴を履き替えている間に、内藤は男に振り返った。
笑みは深めたまま。
(*'A`)「おっ、何だ、体を貸してくれる気に──」
パチィイイン
( ^ω^)☆))'A`)
⊂彡
.
- 166 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:31:17 ID:VyKq31NoO
-
( ・∀・)「ブーンさあ、地理のプリントやった?」
( ^ω^)「やったおー」
(*・∀・)「マジ!? 俺すっかり忘れててさ、プリント見せてほしいなー、なんて」
( ^ω^)「給食のメニューひとつと交換ならいいお?」
(;・∀・)「何だと!? 今日俺の好物ばっかなのに!」
(-_-)「プリントやってこないモララーが悪いよ」
(;・∀・)「お前だって忘れてたじゃんかよ!」
(-_-)「僕は休み時間の内に自力でやるしー」
(#)A`) チュウガクセイ コワイ
いきなり引っ叩けば勢いをなくす。
それは、おおよその人間も幽霊も変わらない。
頬を押さえながら恨めしげに内藤を見つめる男を置いて、
内藤はモララー達と共に教室へ向かった。
その日は、特に何事もなく終わった。
*****
- 167 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:32:25 ID:VyKq31NoO
-
時を進めて4日後。
6月4日。
( ^ω^)「おー……」
(´<_` )「どうしたんだ、これは」
この日は朝から小雨が降っていた。
登校してきたばかりの内藤と弟者は、自分のクラスの下駄箱の前に
人だかりが出来ているのを見て、顔を見合わせた。
傘を閉じ、集団に近付く。
( ^ω^)「靴、履き替えたいんだけど……」
(´<_` )「それどころじゃなさそうだな」
近くにいるクラスメートに声をかけてみようと口を開いたとき、
馴染みのある声が内藤の耳を打った。
- 168 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:34:02 ID:VyKq31NoO
-
(*・∀・)「あ、ブーン、弟者!」
(-_-)「おはよう2人共」
モララーとヒッキーだ。
モララーの顔には好奇心の色が滲んでいる。
内藤は、この場に最も適している表情を作った。
困惑しているような顔が丁度いい。
(;^ω^)「おはようお。……何があったんだお?」
(*・∀・)「下駄箱に泥が塗ったくられてんだよ」
(;^ω^)「泥?」
(;-_-)「うちのクラスだけみたいだよ」
(*・∀・)「誰の仕業だろうな!」
ちょっとした事件に、モララーを始めとする大半の生徒はわくわくしているようだった。
そこへ教師が何人かやって来た。
生徒達が道を開け、ようやく下駄箱の全体が見える。
- 169 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:35:22 ID:VyKq31NoO
-
(´<_`;)「うお……」
想像以上に泥まみれだった。
場所によっては、上履きにまで被害が及んでいる。
(´<_`;)「全滅っぽいな」
(;-_-)「何で僕らのクラスだけ……」
泥は乾いているようには見えない。
あまり時間が経っていないのだろう。
教師の1人が大量のスリッパを抱えているのに気付いた。
今日一日はスリッパで過ごさねばならないらしい。
( ・∀・)「午後の体育、どうすんだろな?」
( ^ω^)「スリッパじゃ動きづらいおね……」
受け取ったスリッパに履き替え、脱いだ靴は
昇降口の隅にまとめて置くことになった。
- 170 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:36:20 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「──?」
視線を感じた。
そちらに顔を向ける。
('A`)ノ
校門の上に、4日前に見た霊がいた。
内藤と目が合うと、片手を挙げてどこかへ消えた。
.
- 171 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:38:22 ID:VyKq31NoO
-
(#・∀・)「──誰だよ犯人はよお! 最低野郎め!!」
事件だ事件だとはしゃいでいたモララーだったが、
昼休みには、彼の感情はすっかり怒りに塗り替えられていた。
理由は簡単。
つい先程、担任から「各自で自分の上履きと下駄箱を洗うように」とのお達しがあったのである。
(#・∀・)「犯人取っ捕まえて、そいつに洗わせようぜ!」
(;^ω^)「どうやって捕まえるんだお……」
(;-_-)「落ち着きなよモララー」
階段を下り、昇降口へ。
下駄箱の前に立って、上履きを取る。
モララーや内藤の上履きには大して泥が付着しておらず、少し洗えば綺麗になりそうだった。
- 172 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:39:30 ID:VyKq31NoO
-
(;^ω^)「ヒッキーの靴、どろどろだお」
(;-_-)「うええ」
( ・∀・)「持ち帰って洗った方がいいんじゃねえの」
(;-_-)「そうする……」
ヒッキーの上履きは、広範囲に渡って汚れていた。
「汚れが酷ければ家に持ち帰れ」と教室で配られていたビニール袋に、ヒッキーが上履きを入れる。
既に乾いている泥が剥がれ、ぱらぱらと落ちた。
見た限り、持ち帰る必要があるほど汚れているのは4、5人程度。
だが、自分で洗うのが面倒だという理由で大半の生徒は持って帰るだろう。
モララーもそのつもりらしかった。
( ^ω^)「弟者はどうするんだお?」
(´<_` )「今日の部活は屋内でやるだろうから、洗いたいところなんだけどな……」
下駄箱の前で唸る弟者。
覗き込んでみると、彼の上履きは特に酷かった。
全体を泥に覆われている。
- 173 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:40:36 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「部室に予備の靴とかないのかお?」
(´<_` )「ああ、あったかも。じゃあ今日はそれ使うか」
ビニール袋を広げ、弟者は上履きに手を伸ばした。
瞬間、顔を顰める。
( ^ω^)「どうしたお?」
(´<_`;)「重い」
言って、上履きを引っ張り出す弟者。
彼の手元を見たモララーが、目を丸くさせた。
(;・∀・)「何だよそれ!」
上履きの中いっぱいに泥が詰められていた。
左右どちらも、みっしりと。
- 174 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:42:26 ID:VyKq31NoO
-
モララーが他の生徒の上履きを見てみたが、
弟者ほどの被害を受けたものは無かった。
(;-_-)「……弟者だけ? どうしてだろ」
(´<_`;)「俺が知るか」
弟者は近くにあったゴミ箱の上で、両手に持った上履きを打ち合わせた。
半端に固まっている泥がぼろぼろと崩れてゴミ箱に落ちる。
( ・∀・)「誰かから恨み買ったんじゃねえだろうな」
(;^ω^)「弟者は人に恨まれるような奴じゃないお」
( ^ω^)(……まあ、そんなの分かんないけど)
内藤は辺りを見渡し、おかしなことに気付いた。
他の生徒と比べると、弟者が使用している区画だけが特に汚れている。
よく見ないと分からない程度ではあるが。
私怨よりは、揶揄を目的としているように感じられた。
*****
- 175 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:44:46 ID:VyKq31NoO
-
( ´_ゝ`)「泥ねえ。そりゃまた、迷惑な話だな」
夜。流石家の居間。
内藤と弟者から話を聞き終えた兄者は、
5人分のグラスに麦茶を注ぎながら唸った。
2人の上履きは、居間の隅に吊るされている。
何とか気にならない程度には綺麗になった。
下駄箱を汚した犯人は未だ分かっていない。
l从-∀-ノ!リ人「もしかしたら、ちっちゃい兄者に泣かされた女子が腹いせに……」
( ^ω^)「僕らの上履きまで汚されるのは困るおー」
(´<_`;)「そもそも女子を泣かせた覚えがないぞ」
そこへ、がらがらという音を立てて、台所と居間を仕切るガラス戸が開けられた。
話を中断させる。
- 176 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:45:29 ID:VyKq31NoO
-
∬´_ゝ`)「妹者、みんなにお味噌汁よそってー」
l从・∀・ノ!リ人「はーい」
現れたのは、盆を持った女性だった。
盆には人数分の茶碗と汁椀が重なっている。
彼女は流石姉者という。
20代半ば、流石家の長女。
妹者が通う小学校に勤めている教師だ。
姉者が妹者の隣に腰を下ろし、2人の間に盆を置く。
妹者は汁椀を取ると、卓袱台の上の鍋にお玉を突っ込み、味噌汁をよそった。
先に、弟者へ味噌汁が渡された。
姉者は傍らの炊飯器の蓋を開け、ご飯を茶碗へ盛りつける。
∬´_ゝ`)「どれくらい食べる?」
「大盛り」と男3人が同時に答えると、姉者はくすくす笑った。
全員にご飯と味噌汁が行き渡り、5人はそれぞれ両手を合わせる。
- 177 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:47:52 ID:VyKq31NoO
-
∬´_ゝ`)「それじゃ、いただきます」
( ^ω^)(*´_ゝ`)「いただきまーす」(´<_`*)l从・∀・*ノ!リ人
──内藤が小学生のときに周囲から苛められていたのは、前回話した通り。
苛めは年々激しくなり、6年生の後半にはほとんど学校にも行かなくなった。
そんな内藤を見て、両親は、
この調子だと中学校に上がっても不登校のままなのではないかと危惧する。
ならば苛めっ子のいない土地へ移ればいいとは考えたものの、
内藤の両親は共働きで、どちらも簡単に引っ越せるような職ではなかった。
そこで、他県に住む流石家へ内藤を預けることにしたのである。
流石家は母方の親戚に当たり、昔から交流があったので
しばらく内藤の面倒を見てほしいという親の頼みにも、すんなり頷いてくれた。
内藤も両親も、離れて暮らすことに抵抗はなかった。
リアリストな両親は内藤を少々気味悪く思っていたし、内藤も、そんな両親に甘えるのが苦手だった。
別に、互いに愛情がないわけではない。ただほんの少し距離があっただけだ。
そんな流れの末に今がある──とは言え。
弟者達の両親も諸事情により、今年の初めに遠方へ行ってしまったため、
現在、この家には若者と子供しかいないのだが。
- 178 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:49:15 ID:VyKq31NoO
-
∬´_ゝ`)「口に合うかしら」
( ^ω^)「美味しいですお」
コロッケを口に運ぶ内藤に、姉者は微笑んだ。
内藤が頷くと、弟者がそれに続く。
(´<_` )「姉者が作るご飯は何でも美味い」
∬*´_ゝ`)「やあね、もう。──兄者、ご飯こぼしたわよ」
( ´_ゝ`)「おっとっと」
最年長であり社会人である姉者は、皆の母親代わりとも言える。
それを意識してか、姉者には「誰よりも大人であろう」としている節がちょくちょく見られた。
l从・∀・*ノ!リ人「あー、姉者姉者、これ食べたいのじゃ」
妹者がテレビを指差した。
スナック菓子のコマーシャルが流れている。
- 179 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:50:26 ID:VyKq31NoO
-
∬´_ゝ`)「新しい味出たのねえ」
(*´_ゝ`)「よしよし、俺が明日帰ってくるときに買ってきてやろう」
l从・∀・*ノ!リ人「おっきい兄者大好きー」
(*´_ゝ`)「俺もこういうときだけデレる妹者が大好きだぞー」
何とはなしに、皆の視線がテレビに向かう。
コマーシャルが終わり、番組が始まった。
(´<_` )「……あ」
おどろおどろしいBGM。
薄暗い映像。
エレベーターの監視カメラに映った霊がどうこう、というナレーション。
心霊番組だ。
- 180 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:51:37 ID:VyKq31NoO
-
途端、兄者達が焦り出す。
l从・∀・;ノ!リ人「り、リモコン、リモコンどこじゃ!?」
(;´_ゝ`)「さっきブーンが使ってなかったか!?」
( ^ω^)「あ、ここに」
(´<_`;)「早くチャンネル変えろ!」
急かされるままにチャンネルを切り替える。
だが、その寸前。
エレベーターに霊が現れる瞬間が、ばっちり画面に映ってしまった。
∬;´_ゝ`)「いっ……──」
内藤は箸とリモコンを置き、空いた手で両耳を塞ごうとした。
しかし、たった一秒遅かった。
- 181 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:52:19 ID:VyKq31NoO
-
∬;´_ゝ`)「──いやあああああああああ!!!!!」
食卓に轟いた姉者の悲鳴が、皆の耳へと直撃する。
誰よりも大人であろうと頑張っている姉者だが、
残念なことに、彼女は誰よりも怖がりなのであった。
.
- 182 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:53:35 ID:K/qI2K.w0
- 姉者かわいいよw
支援だ
- 183 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:54:30 ID:VyKq31NoO
-
∬;_ゝ;)「あばばばばばば」
(;´_ゝ`)「おっ、おお、落ち着け姉者、
おばけなんてなーいさっ! はいっ!」
∬;_ゝ;)「お、お、お、おばっ、おばけなんてなーいさ! おばけなんてうっそさ!」
( ^ω^)「いい歳してそれは……」
(´<_`;)「しっ」
l从・∀・;ノ!リ人「姉者ー、テレビ見るのじゃ、可愛いわんこが映ってるのじゃ」
妹者に抱き着き、涙声で童謡を歌う姉者。
昔からこうだ。
怖い話など聞こうものなら、トイレも風呂も1人で行けなくなる。
心霊映像など見ようものなら、人から離れられなくなる。
いっそ面白いくらいなのだが、本人にとっては笑い事ではないだろう。
- 184 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:56:25 ID:VyKq31NoO
-
(´<_`;)「姉者、幽霊なんていないから。
ああいう映像は作り物なんだから、怖がる必要ないって」
オカルト完全否定派の弟者が何度言い聞かせても、
姉者の怖がりは治らない。
ほくほくのコロッケを食べつつ、内藤は「怖がると霊が寄ってきますよ」と忠告するべきか否か悩み、
言ったら余計怯えさせることになりそうだと結論を出した。
*****
- 185 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:58:48 ID:VyKq31NoO
-
翌朝。
内藤は話し声で目覚めた。
( ^ω^)「……?」
布団から這い出る。
声は、階下から聞こえていた。
まだ7時前だ。
窓の外を見る。しとしとと雨が降り、空は雲に覆われ薄暗い。
目を擦りながら立ち上がり、スウェットのまま部屋を出た。
流石家の2階、一番奥が内藤の部屋である。
( ^ω^)(姉者さん達かお)
わざと音を立てるようにして階段を下りる。
話し声は玄関の方向から。
∬;´_ゝ`)「──あ……ブーン君、起こしちゃった?」
玄関に立っている姉者が、おろおろした様子で内藤に声をかけた。
続いて、姉者の傍にいた弟者が「おはよう」と言う。
弟者はジャージを着ている。足元に鞄が置いてあるので、朝練に行くところだったのだろう。
2人に挨拶を返してから、内藤は首を傾げた。
- 186 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:00:44 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「どうかしたのかお」
(´<_`;)「ああ……」
弟者は、中途半端に開いた玄関の引き戸を指差した。
引き戸の一部に磨りガラスが入っているのだが、
そのガラスの向こう側に、何かが飛び散っているのが見えた。
嫌な予感。
内藤は外に出て、引き戸を確認した。
( ^ω^)「……泥」
(´<_`;)「だよな」
放射線状に広がっているのは、間違いなく泥だった。
まるで引き戸の真ん中に巨大な泥団子を叩きつけたかのようだ。
触れてみると、指にべったりと付着した。
まだ少しも乾いていない。
- 187 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:03:12 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「昨日のと同じ犯人かお、これ」
(´<_`;)「分からん……」
玄関の中に戻る。
警察を呼ぶのかと問うと、弟者は首を振った。
また何かあれば通報するつもりだが、今の段階では、その気はないそうだ。
( ^ω^)「いま通報した方がいいんじゃないかお?」
∬;´_ゝ`)「私もそうしようって言ってるんだけど……」
弟者は頑として頷かなかった。
慎重なところのある弟者であれば、すぐにでも警察に相談しそうなものだが。
そこに言い様のない違和感があった。
洗い落とすと言って弟者が道具を取りに行っている間に、
内藤は部屋から携帯電話を持ってくると、カメラ機能で引き戸を撮影した。
このまま泥を落とすより、せめて画像としてでもこの状況を残しておいた方が、
いざ警察を呼ぶ事態になったときに役立つのではないかと考えたのである。
*****
- 188 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:04:39 ID:VyKq31NoO
-
内藤や弟者は警戒していたが、予想に反し、
新たな事件が起こることはなかった。
下駄箱の件も犯人不明のまま進展はなく、生徒達の話題から消えていった。
──そうして、一週間が経った。
.
- 189 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:08:43 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「ブーン!」
放課後。
帰ろうとしていた内藤は、昇降口で弟者に呼び止められた。
( ^ω^)「何だお?」
(´<_` )「悪いんだが、帰りにトイレットペーパーを買ってってくれないか?
姉者から、切らしてるのを忘れてたってメールが来てたんだ。
俺は部活があるし、兄者は帰るの夜になるだろうから、ブーンに頼んだ方がいいと思う」
( ^ω^)「ああ、分かったお。……いつものやつ?」
(´<_` )「いつもので。安売りしてるのがあれば、それでもいい」
( ^ω^)「了解だお。じゃあ、部活頑張れおー」
(´<_` )「気を付けて帰れよ」
弟者と別れた後、財布の中身を確認しながら学校を出た。
月末に親から仕送りをもらったばかりなので、出費は気にならない。
ふと。校門の辺りで、周りが静かになったのを感じて顔を上げた。
生徒達が一点を見つめ、ひそひそと話している。
- 190 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:10:00 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚?゚)ξ
校門に寄り掛かるようにして、女性が立っていた。
金色の髪。
黒いブラウスとスラックス、襟に白いリボン。
やけに目立つ姿だった。
不意に、女性が内藤を見る。
2人の視線が絡んだ。
- 191 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:11:18 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚?゚)ξ「……あ、内藤君?」
( ^ω^)「……は」
ξ゚?゚)ξ「内藤ホライゾン君かしら、あなた」
彼女は内藤の名を呼んだ。
内藤は眉を顰めて、しかし堅すぎない表情を保って首を傾げた。
(;^ω^)「そうですけど……」
( ^ω^)(……誰だお、この人)
女性は、にこりと笑んだ。
なかなか綺麗な人だ。
ξ゚ー゚)ξ「そう。ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかしら」
良くない。
どう考えても関わらない方がいい。
皆の反応を見れば分かる。
すみません、買い物に行かないといけないので。
そう返し、内藤はそそくさと彼女の横を通りすぎた。
早足でスーパーへの道を歩く。
- 192 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:12:19 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚?゚)ξ「──君自身に用があるわけじゃないんだけどさ」
( ^ω^)「……」
ついてきた。
内藤の数歩後ろを歩きながら、話しかけてくる女性。
厄介な類の人かもしれない。どうしよう。
ξ゚?゚)ξ「あの、流石さんのところに居候してるのよね?」
( ^ω^)「……」
ξ゚?゚)ξ「流石弟者君とは仲いい?」
( ^ω^)「……」
ξ゚?゚)ξ「私、彼に用があるのよね。
でも、あの子、ちょっと私のこと警戒してるみたいで。
なかなか迂闊に話しかけられないの」
( ^ω^)「……」
ξ゚?゚)ξ「だから君に手伝ってほしくて……」
- 193 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:13:23 ID:VyKq31NoO
-
人気のない場所に差し掛かったとき、腕を掴まれた。
後ろを向かされる。
至近距離に女性の顔があって、息を呑んだ。
ξ゚?゚)ξ「急に現れて何の話だ、って思うでしょうけど……。
お願い、もう時間がないのよ。
どうにか、私と弟者君が話を出来るように計らってくれない?」
無視しても無駄か。
内藤は、いかにも弱々しい声を出した。
(;^ω^)「あ、あの、あの、僕……」
俯き、言い淀む──ふりをする。
女性は内藤から手を離すと、顔を覗き込み、「どうしたの」と優しく問い掛けた。
(;^ω^)「僕、あの……お、弟者、くん、に、き……嫌われてて……」
泣きそうな表情と声。
もちろん演技である。
- 194 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:15:15 ID:VyKq31NoO
-
(;^ω^)「だから……、……お姉さんのお手伝い、出来ないかもしれない……」
ξ゚?゚)ξ「昨日、2人仲良く登下校してたのは何だったのかしら」
沈黙。
見つめ合う。
内藤はとびきりの笑顔を見せた。
女性はにたりと笑う。
ξ^?^)ξ「お手伝いよろしくね?」
( ^ω^)「お断りしますお」
背を向けて歩き出す。
こつこつ、女性のパンプスの音が響く。
ξ^?^)ξ「素直で優しくていい子だって評判のくせに、
随分とまあ、『しっかり』した子じゃないの」
しっかり、の部分に力が篭っていて、嫌味であることは容易に理解出来た。
- 195 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:15:56 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「お褒めにあずかり光栄ですお」
ξ^?^)ξ「演技はもうしないの?」
( ^ω^)「しても無駄じゃありませんかお」
ξ^?^)ξ「それもそうね。
で、どうしたら協力してくれるのかしら」
( ^ω^)「断るって言いましたけど」
ξ゚?゚)ξ「幽霊が見えること、バラしちゃってもいいの?」
足が止まる。
パンプスの音も止まる。
- 196 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:17:41 ID:wwCrE7ls0
- きてたー!
しえん
- 197 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:17:48 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「……何のことですかお」
ξ゚?゚)ξ「一部の幽霊の間で噂になってるのよね。
内藤ホライゾンには霊感があるって。
話しかけたら殴られた、って霊が2、3人はいたわ」
以前、校門で会った男の霊と似たような台詞だ。
内藤が振り返ると、彼女は余裕たっぷりの顔つきで小首を傾げてみせた。
身構える。
ξ゚?゚)ξ「あ、私は人間よ。生きてるから安心して。
私、あなたと同じなの。
幽霊が見える。幽霊と話せる。幽霊に触れる」
女性が右側を指差す。
そちらに目を向けると、大木の上に座る少女がいた。
少女は右半身がぐずぐずに崩れている。
内藤が慌てて視線を外すと、女性は、またにやにや笑い出した。
- 198 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:18:59 ID:VyKq31NoO
-
ξ^?^)ξ「ほら見えてる。右半分が崩れてる女の子でしょ」
( ^ω^)「……」
ξ^?^)ξ「あのね内藤君、私、あなたをからかいたいわけじゃないのよ。
あなたは別にどうでもいいの。
ただ、弟者君と話す切っ掛けになってくれればいいの」
( ^ω^)「……弟者と何を話すんですかお」
ξ^?^)ξ「交渉」
( ^ω^)「交渉?」
彼女は笑みを消した。
真剣な表情をされると、やはり、改めて綺麗な顔だと思う。
ξ゚?゚)ξ「──彼に、証人として出廷してほしいのよ」
しゅってい、という言葉の意味をはかりかねた。
その前の「証人」という単語を反芻して、ようやく「出廷」のことだと理解し、
そして、彼女が裁判に関わる発言をしたのだと思い至った。
- 199 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:20:09 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「お姉さん、何やってる人なんですかお」
ξ゚?゚)ξ「そういえば自己紹介してなかったわね、ごめんなさい。
私、出連ツンっていうの」
女性は名刺を出すと、それを内藤に手渡した。
名刺に記されているのは、出連ツンという名前と、住所、電話番号。
名前の右上には「弁護士」と書かれていた。
( ^ω^)「弁護士さん」
ξ゚?゚)ξ「そうよ」
弁護士だと分かっただけで、賢そうな人に見えるのだから不思議──
.
- 200 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:20:32 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚ー゚)ξ「弁護士っていっても、幽霊専門のね」
急に。
言葉が通じるような気がしなくなったので。
内藤は、全力で走って逃げた。
*****
- 201 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:21:34 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「変人ってことで有名だよ。
働いてないし就活もしてないのに、
真っ黒なスーツ着て毎日あちこちうろちょろしててさ」
夜。流石家の居間。
カレーライスに福神漬けを乗せながら、弟者は言った。
──あの後、出連ツンが追いかけてくることもなく。
無事にスーパーでトイレットペーパーを買って帰ることが出来た。
彼女は関わるべき人ではないと思う。
しかし気にはなったので、夕食時に「出連ツン」を知っているかと訊ねると
弟者は上記のように答えた。
大体は予想通り。
- 202 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:23:09 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「昔は、幽霊がーとか何とかしょっちゅう言ってたらしい。
危ない人だ。近付かないようにしろよ。
福神漬けいるか?」
( ^ω^)「あ、いるお」
(´<_` )「はいよ」
恐らく、彼女に霊感があるのは間違いない。
誰も信じなかったようだが。
(´<_` )「そういやブーンは出連さんのこと知らなかったんだな……。
それにしても急にどうしたんだ? まさか会ったのか」
( ^ω^)「いや、ちょっと」
(´<_` )「絡まれたら、相手にしないで逃げとけ」
(*´_ゝ`)「でも、変人とはいえ結構綺麗だよなあ、あの人」
兄者が惚けた声で言う。
たしかにツンは美人だった。
振る舞いが全てを台無しにしているけれども。
- 203 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:24:28 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「兄者、ああいうのが好みだったっけか。年下好きだと思ってたけど」
( ´_ゝ`)「んー、まあ、あれで10歳くらい若ければストライクかな」
(´<_` )「10歳ねえ……あの人、姉者の同級生だろう」
( ^ω^)「え、そうなのかお」
(´<_` )「そうそう。
姉者の前では出連さんの名前出すなよ? 怖がるから」
::∬;´_ゝ`)::
( ^ω^)「……手遅れだお弟者」
(´<_` )「え?」
(;´_ゝ`)「げえっ姉者!!」
弟者の真後ろに、姉者が副菜を持って立っていた。
青ざめて震える姉者の手から兄者が皿を奪い取る。
もう少し遅れていたら、皿の中身が全て床に落ちていただろう。
- 204 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:25:32 ID:VyKq31NoO
-
::∬;´_ゝ`)::「つっ、つ、つつつ、つ、」
(´<_`;)「気のせいだ姉者、何でもない、何でもないから!!」
l从・∀・*ノ!リ人「姉者ー、ご飯はどれくらい盛るのじゃー?」
ほんわかした声が割り込んできて、姉者の恐怖は爆発せずに済んだ。
胸元を押さえながら台所の妹者に振り返り、少なめにして、と答えている。
l从・∀・*ノ!リ人「はーい」
∬;´_ゝ`)「ふう……」
(´<_`;)「……小学校から高校まで一緒で、ずっと出連さんに怯えてたんだ」
( ^ω^)「なるほど」
弟者が耳元で囁いた。
人一倍怖がりの姉者からしたら、霊感を持つ人間など脅威以外の何物でもない。
- 205 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:26:51 ID:VyKq31NoO
-
妹者が姉者の分のカレーライスを運んできて、卓袱台に全員分のメニューが並んだ。
手を合わせ、「いただきます」と同時に言う。
カレースプーンを手に取りながら、内藤は姉者と弟者を見比べた。
ξ゚?゚)ξ『幽霊が見えること、バラしちゃってもいいの?』
堪ったものではない。
姉者は怖がりだし、弟者は霊に関しては否定派だ。
ろくな結果にならないのが目に見えている。
しかも、あの女は姉者の知り合いだという。
その気になれば姉者と接触するのは容易いことだろう。
もし、明日以降も絡んできたら。
そして同じ手口で脅してきたら──
( ^ω^)(……どうすりゃいいかお)
*****
- 206 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:28:19 ID:VyKq31NoO
-
どうか二度と会いませんように。
内藤のそんな願いは、翌日、早々に打ち砕かれる。
放課後。
机の中身を鞄に入れながら、内藤は雨が降っているのを窓際の席から確認した。
そのまま、目を下に向ける。
( ^ω^)「うわ」
ξ^?^)ξノシ
校門の前に立っていたツンが、内藤を見上げて、傘を持っていない方の手を振った。
.
- 207 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:29:53 ID:kK9CRD9Q0
- 支援
とても面白い
- 208 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:29:56 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚?゚)ξ「今はねえ、幽霊も裁判やる時代なのよね。
幽霊になったら女湯覗いちゃうぞー、とか言う人も多いけど、
今の時代にそんなことして見付かったら、お縄にかかって当然だわ」
ξ゚?゚)ξ「事実、そういう罪で捕まった霊の弁護も何度かしたしね」
駄菓子屋。
軒下に設置されたベンチに、内藤とツンは並んで座っていた。
雨は小降りになっている。
内藤は相槌も打たずにツンから視線を外した。
奢ってもらったラムネの瓶を、口元で傾ける。
( ^ω^)(幽霊が裁判って)
──不幸な内藤少年は、学校から出た瞬間、ツンに捕まったのであった。
しばらく校門前で話す話さないの言い合いをしていたが、
周囲からの視線に耐えかねた内藤が折れてしまった。
別の場所で話しましょう、と。
そして連れてこられた先が、この駄菓子屋だ。
場所は移ったとはいえ、もろに屋外。通行人に見られることには変わりない。
- 209 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:30:57 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚?゚)ξ「──昨日さ」
( ^ω^)「はあ」
ξ゚?゚)ξ「よくもまあ逃げてくれたわね。ちょっと傷付いたわ」
( ^ω^)「僕、静かに暮らしたい派なので」
ツンは、口をへの字に曲げた。
ξ゚ぺ)ξ「せめて、ちゃんと話を聞くぐらいはしてほしかったわ」
( ^ω^)「頭おかしい人の話は聞かないようにしてるんですお。
金髪で黒ずくめで20代の無職の話は特に」
ξ;゚?゚)ξ「……あなた、結構言い方きついわね……。
初めて見たときはもっと優しい感じの子かと思ってたけど」
( ^ω^)「幽霊達は、僕に殴られたって言ってたんじゃありませんでしたっけ」
ξ;゚?゚)ξ「話を誇張してるのかと思ったのよ。
ていうか何よ、誰が無職ですって? 弁護士だっつってるでしょ」
( ^ω^)「幽霊専門ですおね。
幽霊と裁判ごっこして遊ぶのは自由ですけど、それを職業だと言い張るのはいかがなものかと」
ξ;゚?゚)ξ「もう! いいわ、とりあえず話聞いてよ!!」
- 210 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:32:25 ID:VyKq31NoO
-
ツンは、膝に乗せた鞄に手を突っ込んだ。
どさり。鞄から取り出された分厚い本が、重たい音と共にベンチへ乗せられる。
内藤は、黒い表紙の上部にある銀色の文字を指でなぞった。
( ^ω^)「……おばけ法」
ξ゚?゚)ξ「間抜けな響きだけど、その名の通り、幽霊や妖怪のために作られた法律のことよ」
( ^ω^)「霊に法律なんてあるんですかお?」
ξ゚?゚)ξ「時代が流れるにつれ幽霊は増える、それに伴って様々な問題も増える。
それらを律するために作られたの」
ξ゚?゚)ξ「とは言っても、公布されたのはほんの20年とか30年前だからね。
大々的に公表出来るものじゃないし、まだまだ浸透しきってないのも事実よ」
内藤はすっかり呆れ果てた様子で手元の瓶を揺らした。
からから、ビー玉が甲高い声をあげる。
- 211 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:33:09 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「こんな分厚い本を作るほど暇なんですね……」
ξ#゚?゚)ξ「妄想と決めつけたくて仕方ないみたいね」
( ^ω^)「だって僕は小さい頃から幽霊やら何やらを見てきましたけど、
奴らがそんなの気にしたところなんか一度も見たことありませんお」
いつだって、内藤が「見える」人間だと知れば、彼らは内藤に付きまとい、
憑依しようとしたり祟ったりしようとしてきた。
本当に法律なんてものがあるなら、内藤はもっと生きやすかった筈だ。
ξ゚?゚)ξ「君は、去年この町に越してきたのよね?」
( ^ω^)「去年の春に」
ξ゚?゚)ξ「君が前に住んでたところって、大きな神社かお寺がなかった?」
( ^ω^)「……ありましたけど」
内藤は、真っ赤な鳥居の神社を思い浮かべた。
広大な敷地を所有する立派な神社だった。
内藤にとっては、あまり、いい雰囲気の場所ではなかったけれど。
- 212 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:35:00 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚?゚)ξ「そういうところでは、その土地の神様の力が強いからね。
独裁政治ってわけ。おばけ法なんか導入してないのよ」
腕を組み、ツンは首を横に振った。
困ったもんだわ、と一言。
ξ゚ぺ)ξ「おばけ法の制定には霊だけじゃなく、霊能力を持った人間も大きく関わってるの。
だから、それを良く思わない神様は聞く耳持ってくれないのよねえ。
ちゃんと話を聞けば、生者にも死者にも損が少ない内容だって分かってくれる筈なのに」
( ^ω^)「へえ」
由々しき問題だ、と言わんばかりの口振りをするツンだったが、
内藤は会話を広げることを避けた。
彼の興味は、おばけ法から「裁判」の方へと移っている。
( ^ω^)「ともかく、ここらはおばけ法が適用されてる地域なわけですおね」
ξ*゚?゚)ξ「あっ、信じてくれるの?」
( ^ω^)「とりあえず聞くだけ聞いてみようかと思っただけで、まだ信じる気にはなってませんお」
ξ*゚?゚)ξ「まあ聞かずに逃げられるよりマシね。
──法があれば、当然、裁判もあるわ」
ツンが咳払いする。
信憑性を持たせるためか、真面目な顔つきになった。
- 213 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:36:25 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚?゚)ξ「それが幽霊裁判。基本的には、私達生きてる人間の裁判と大差ないわ」
ξ゚?゚)ξ「事件が起きたら、犯人と思しき霊を捕まえて、裁判にかける。
有罪か無罪か判じて、有罪なら罰を与える。終わり」
( ^ω^)「すごくふんわりしてるんですけど」
ξ゚?゚)ξ「えっとね、基本的に、被告人は幽霊や妖怪ばかりよ。
ごくたまーに人間が訴えられることもあるらしいけど。
被害者の方も、幽霊だったり人間だったり……色々ね」
ξ゚?゚)ξ「検察官──検事って言えば分かるかしら?
検事や弁護人は、霊感のある人間がやることになってるの」
私みたいに、とツンは自分自身を指差した。
人間の方が色々と都合がいいそうだ。
内藤は、以前ニュース番組で見た法廷画の記憶を掘り出した。
被告人、弁護人、検事。
裁判といえば、あと──
- 214 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:36:57 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「裁判官は?」
ξ゚?゚)ξ「ううんと……日本で言えば、一番多いのは
その土地で最も大きい神社の神様が裁判長になるパターンかしら。
場所によって、また違うんだけどね」
ξ゚?゚)ξ「……他に訊きたいことはある?」
( ^ω^)「特には」
気になることはまだまだあった。
だが、そろそろお腹いっぱいだ。
それに、次々と興味が湧いてくるのがよろしくない。
ツンの話が本当か嘘かはともかく、彼女に霊感があるのは信じる。
このまま首を突っ込めば、また毎日幽霊に悩まされるようになるかもしれない。
ξ*゚?゚)ξ「じゃあ本題なんだけど!」
ツンが、ぐっと身を乗り出させる。
どうやってこの場を逃れようか。
内藤が思考に集中しようとした──そのとき。
- 215 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:38:19 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「おい、ブーン」
( ^ω^)「あ」
声をかけられる。
傍に、Tシャツとジャージを身に着けた弟者が立っていた。
雨が止んでいることに気付く。
弟者はじろりとツンを睨むと、内藤の腕を掴んだ。
むりやり腰を上げさせられる。
( ^ω^)「部活は?」
(´<_` )「ブーンが出連さんに拐われたって聞いて、
嫌な予感がしたから探しに来た」
まず間違いなく「拐われた」と表現した者はいないだろう。
弟者の、ツンに対する当て擦りのようなものだ。
(´<_` )「行くぞ」
ξ゚?゚)ξ「あー、待った待った、待って」
弟者は胡乱げにツンを見た。
随分とツンを嫌っているようだ。
そんなにオカルトが嫌いか。
- 216 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:39:13 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚?゚)ξ「せっかく会えたんだから、もう直接言うわ。時間もないし。
弟者君、後でちょっと付き合ってくれないかしら」
(´<_` )「……付き合うって何に?」
ξ゚З゚)ξ「今は内緒」
(´<_` )「後でって、いつ」
ξ゚?゚)ξ「5時半くらいかな」
もう2時間後だ。
弟者が顔を顰める。
(´<_` )「遠慮しときます」
ξ゚?゚)ξ「……じゃあ、君のお姉さんの方に交渉しようかしら?
弟者君を少しだけ貸してくださいって。
きちんと保護者に話を通さないといけないしね?」
(´<_` )「……」
内藤の腕を掴んでいる弟者の手に、力が篭った。
痛い。
- 217 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:40:47 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「姉者があんたを恐がってるのは知ってるだろ」
ξ^?^)ξ「そりゃ勿論。面白いくらいよね、あの怯えっぷり」
(´<_` )「分かってるなら近付くな」
( ^ω^)(出たシスコン)
兄者は歳の離れた妹者を一番可愛がる。
逆に弟者は、歳の離れた姉者に一番懐いている。
弟者がオカルトを否定するのは、恐らく、姉者が怖がりだからだ。
彼女を怯えさせるようなものが嫌いなのだろう。と、内藤は考えている。
だから──こうしてツンを嫌うのも、何となく分かる。
ξ^?^)ξ「でも、ねえ? 君が私のお願いを聞いてくれないんだもの。
なら、お姉さんから説得してくれーって頼みたくなるじゃない」
(´<_`#)「……くそっ」
空気がぎすぎすしている。
居た堪れない。腕が痛い。
オカルト女とシスコンの勝負、今回はシスコンの負けのようだ。
- 218 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:42:08 ID:VyKq31NoO
-
(´<_`#)「どこで合流すればいい」
ξ゚?゚)ξ「どこでも」
(´<_`#)「じゃあ5時半に中学校の前で待ってろ! 小学校や俺の家には近寄るなよ!!」
ξ*゚ v゚)ξ「おっけー」
(´<_`#)「言っとくが、場合によっちゃあ通報するからな!!」
ξ*゚ v゚)ξ「おっけー」
(´<_`#)「事前に人に連絡しとくから、遅くまで帰さなかった場合も通報されるんだからな!!」
ξ*゚ v゚)ξ「おっけー」
(´<_`#)「『こいつちょろい』みたいな顔すんな! 行くぞブーン!!」
( ^ω^)「おー……」
- 219 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:44:30 ID:VyKq31NoO
-
内藤は瓶を持った手を挙げて、ツンに軽く頭を下げた。
( ^ω^)「ラムネ、ごちそうさまでしたお」
ξ゚?゚)ξ「内藤君も同じ時間に同じ場所でよろしくねー。その子1人じゃ不安だわ」
(´<_`#)「はあ!? うちの居候まで巻き込む気か!?」
ξ゚?゚)ξ「嫌なの?」
(´<_`#)「……っ、……っ!!」
ξ*゚ v゚)ξ
それ以上は何も言わなかった。
弟者の中での優先順位は、内藤より姉者の方が上であった。
当たり前といえば当たり前だが、一番仲のいい友人として、そこそこ悲しい。
*****
- 220 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:46:39 ID:VyKq31NoO
-
放置するわけにもいかず。
一旦家に帰って私服に着替え、内藤は5時半ぴったりにヴィップ中学校前へ到着した。
既に弟者とツンは待機していて(物凄く険悪な雰囲気だった)、
内藤が着くなり、空気が若干──本当に若干──和らぐ。
ツンが「ついてこい」と言って歩き出し、内藤と弟者は顔を見交わしてから、
ツンに続く形で一歩踏み出した。
──ツンの言葉が正しければ、今から赴くのは法廷だ。
それも、幽霊を裁くための。
( ^ω^)(……本当に、幽霊裁判なんかやるつもりかお)
それが事実だとしたら、一体、どんな事件について裁くのだろう。
被告人は誰なのだろう。
なぜ弟者が証人になるのだろう。
好奇心が胸を満たしているのに気付き、内藤は首を振った。
.
- 221 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:47:29 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚?゚)ξ「──着いたわ」
歩いている間、会話はなかった。
ツンが立ち止まり、ようやく沈黙を破る。
目の前には建物があった。
薄汚れた外壁。
割れた窓。
( ^ω^)「……廃ビル」
3階建てのビルだった。
看板には何も記されていない。
人の気配など皆無だ。
夜が近付いていることもあって、もう、悲しくなるほど「廃墟」然としていた。
- 222 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:49:10 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「帰ろう」
ξ;゚?゚)ξ「大丈夫! 大丈夫だから! 何も怪しくないから!!」
( ^ω^)「怪しいとこしかありませんお。
中に入ったら危ない人が待ち構えてそうなんですけど。
というわけでさようなら」
ξ;゚?゚)ξ「お願い待ってぇええええ!!」
踵を返した内藤と弟者に、ツンが必死に取り縋る。
先程の好奇心は消え失せ、もはや警戒以外の選択肢がなかった。
「──ツン、あんた何してんの」
声がして、内藤と弟者の動きが止まる。
低い、男の声だった。
同時に後ろへ振り向く。
「それ」を視界に収め、内藤は後悔した。
- 223 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:51:54 ID:VyKq31NoO
-
(,,゚Д゚)「遅刻じゃないかって、しぃが怒ってるわよ」
ビルの入口に化け物がいる。
ばっちりメイクをし、女の服を着た、紛うことなき化け物がいる。
子供なら確実に泣く。
(*,゚Д゚)「あら! なあに、男の子2人も連れてきたの!? ヴィップ中の子?」
( ^ω^)「ツンさん、あれ何の妖怪ですかお」
ξ゚?゚)ξ「人間よ。一応」
(´<_`;)「……ギコさん!?」
真剣に問答する内藤とツンを他所に、弟者が頓狂な声をあげた。
化け物の方も、「弟者君じゃないの」と目を丸くさせる。
- 224 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:53:25 ID:VyKq31NoO
-
(´<_`;)「ギコさ……え……ギコさん……ですよね……?」
(*,゚Д゚)「そうよお、この格好で会うのは初めてかしら。やっだ、気恥ずかしいわあー!」
( ^ω^)「……知り合いなのかお?」
(´<_`;)「姉者の同級生で……警察の人だ」
内藤に去来した驚きは2つ。
これが警察関係者であることが一つ。
姉者は同級生に恵まれなかったのだなということが一つ。
( ^ω^)「それはまた……日本の未来と姉者さんの過去が心配だお」
(´<_`;)「その服装に関しては特に意外性はなかったけど、というかっ、
何でギコさんがここにいるんですか!?」
(,,゚Д゚)「何でって裁判のためだけど」
(´<_`;)「裁判!?」
(,,゚Д゚)「? 証人か何かで出廷しに来たんじゃないの?」
弟者はあんぐりと口を開き、ツンと化け物を見た。
混乱が極限に達したようだ。
- 225 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:53:33 ID:6cc3ftFU0
- ギコさんwwwww
- 226 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:56:28 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚∀゚)ξ「勝機!」
ツンは呆然とする弟者の手を引き、建物の中へ駆けていった。
化け物はツンの背中を見送ってから、内藤に視線を移す。
(,,゚Д゚)「あんたも証人?」
( ^ω^)「何か、付き添いとして連れてこられただけみたいですお。
……幽霊裁判ってやつ、本当にやってるんですかお?」
演技をするのも忘れ、普段のトーンで問い掛けていた。
内藤も多少は混乱していたのである。
(,,゚Д゚)「やってるっていうか、これから始まるのよ。名前は何ていうの?」
( ^ω^)「……内藤ホライゾンですお」
(,,゚Д゚)「ああ、姉者のとこの居候? じゃあ、幽霊が見えるって子ね!
よろしくね、あたしは埴谷ギコよ」
埴谷ギコというらしい化け物は、にこりと笑って内藤に手招きした。
弟者は、彼──彼女と言うべきなのだろうか──に対しては敵意を持っていなかった。
警察の人間だという話だし、ツンよりは、まだ社会的に信頼される立場にある。
内藤は迷ってから彼へ近寄り、2人でビルに入った。
外は辛うじて薄明かりがあったが、内部は暗い。
- 227 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:57:05 ID:kRRCvTAQ0
- こんなに顔芸のウザいツンをみたのは初めてだ
- 228 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:58:55 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「裁判って、こういう場所でやるもんなんですかお?」
(,,゚Д゚)「人が滅多に来ないような場所なら、どこでもね」
手摺りに掴まりながら階段を上る。
2階へ上がりきったところにドアがあった。
3階から声が聞こえるのだが、裁判に使うのは2階だという。
ギコがドアを開けると、隙間から光が漏れた。
電気が通っているのかと問うと、裁判の間だけ明かりを使えるよう、
警察の方で手配したのだと返答があった。
ドアが開ききる。
途端、弟者の怒鳴り声が聞こえた。
(´<_`;)「幽霊? 裁判? 何の話だよ、聞いてないぞ!!」
ξ゚З゚)ξ「だって話してないし」
(*゚ー゚)「……あのねえ、何も説明しないまま連れてくる人がどこにいるんです」
だだっ広い室内。
窓の辺りに黒いビニールが貼られている。
何となく荒れ果てた光景を想像していたが、事前に片付けたのか、意外と綺麗だった。
- 229 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:01:52 ID:VyKq31NoO
-
距離をあけ、向かい合う形で置かれた机が2つ。
右側の机では弟者がツンに詰め寄り、
左側の机では見知らぬ人物が溜め息をついていた。
(,,゚Д゚)「しぃー、もう1人いるわよー」
(*゚ー゚)「……どうせ、そっちにも碌な説明はされてないんだろうね」
ギコが内藤の肩を叩きながら、左の机の人物に紹介する。
学生服姿の──これは、どっちだろう。
内藤には少女に見える。声も高い。だが服装は男だ。
よくよく目を凝らし、胸元に僅かな膨らみが確認出来た。
ギコが、学ランの少女のもとへ歩いていく。
内藤は一旦後ろを見てからドアを閉め、ツン達に近付いた。
- 230 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:04:11 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「こっちが弁護人の席ですかお」
ξ゚?゚)ξ「そうそう。あっちが検事」
(´<_`;)「ブーン、帰ろう! こいつ幽霊の裁判するなんて馬鹿なこと言ってるぞ!!」
(*゚ー゚)「……ツンさん、どうにかしてくれませんかね。うるさいです」
ξ゚?゚)ξ「そうねえ。……まあ、とにかく見てもらうしかないか」
ツンが頭上を仰いだ。
天井には真新しい蛍光灯と、下卑た落書きがある。
ξ゚?゚)ξ「ドクオさーん、入廷して」
数秒間、何も起こらなかった。
弟者が視線を下ろそうとする。
それと同時に──天井から、足が飛び出した。
- 231 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:06:48 ID:VyKq31NoO
-
そのまま、一気に男が下りてくる。
机と机の間に立った男は、ギコ達を睨んでから、こちらも睨みつけてきた。
男の険しい顔は、すぐさま驚きに変わる。
(;'A`)「……あっ、お前!!」
( ^ω^)「うわ。こんばんは」
奇遇というか、何というか。
以前、内藤に声をかけてきた男だった。
男は浮遊し、一気に内藤との距離を詰める。
(;'A`)「何でいるんだよ!! おまえ弁護士だったのか!?」
( ^ω^)「いや、この人に連れてこられて」
ξ゚?゚)ξ「なに、知ってるの?」
( ^ω^)「この間──うぶ」
取り憑かれそうになった、と説明しようとしたのに、
男の手が内藤の口を押さえた。
額がぶつかる程の距離で、男は声を潜める。
- 232 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:08:27 ID:VyKq31NoO
-
(;'A`)「余計なこと言うなよ、憑依未遂罪に問われたらどうしてくれんだよ……。
心証悪くして有罪まっしぐらじゃねえか……」
( ^ω^)「……」
よく分からないが、黙っていた方が賢明か。
内藤が小さく頷き、男は離れた。
(*゚ー゚)「被告人。何をしているんです?」
('A`)「……へいへい、すーいーまーせーん」
男は、ふよふよと浮かんだまま中央に戻った。
ツンは内藤と男を見遣って、首を傾げる。
- 233 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:10:26 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)(……あ)
はたと思い至り、内藤は弟者へ意識を向けた。
霊感がない、ひいては件の男が見えない弟者からすれば、
今の一連の流れは意味が分からないものでは──
(゚<_゚;)
( ^ω^)「……弟者?」
弟者は、瞠目していた。
視線の先にはあの男。
- 234 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:11:56 ID:VyKq31NoO
-
(゚<_゚;)「な、い、今の、今、天井から出、え、浮いて、え、」
( ^ω^)「……ツンさん」
ξ゚?゚)ξ「法廷の中だと、霊感のない人でも幽霊が見えるようになるわ。
見えなきゃ意味ないからね」
( ^ω^)「そりゃあ便利なもんですお」
(゚<_゚;)「ゆ……え……あれ……ゆう……」
ξ゚?゚)ξ「そうね、幽霊よ」
そうして、弟者がただ口を開閉させるだけの物体と成り下がった頃。
突然、かあん、と何かを叩く音が響いた。
空気が変わる。
- 235 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:14:53 ID:VyKq31NoO
-
ツン達が顔を上げた。
それで予想はついた。案の定、天井から足が出てくる。
裸足だ。
【+ 】ゞ゚)
下りてきたのは、中年の男。
変なお面に着物姿。
ギコや学ランの少女も──性別との食い違いから──変わった格好と言えるが、
その男は、さらに奇妙な出で立ちであった。
右手に木槌を持っている。
そのことから、ほぼ反射的に、内藤はこの男が「裁判官」なのだと考えた。
被告人(らしい)痩せぎすの男と向かい合う場所に降り立つ。
内藤の脳裏に浮かぶのは法廷画。
立ち位置から考えれば、やはり、お面の男が裁判官だ。
- 236 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:16:05 ID:kK9CRD9Q0
- 支援
こういう出会いだったんだな
- 237 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:16:22 ID:VyKq31NoO
-
【+ 】ゞ゚)「準備はいいか」
ぎょろりとした瞳が、全員を見渡す。
彼は内藤と弟者に目を留めた。
誰だ、とごくごく短い質問が落ちる。
ツンは、隣に立つ弟者を手で示した。
(゚<_゚;)
ξ゚?゚)ξ「こちら、弁護側の証人で──」
その手が、僅かに弟者の肩に触れる。
瞬間。
- 238 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:17:42 ID:VyKq31NoO
-
( <_ ;) フッ
( ^ω^)ξ゚?゚)ξ「あっ」(゚Д゚,,)(゚ー゚*)
弟者は、崩れるように倒れた。
生きているのかと問いたくなるほど、真っ青になって。
屈み込んで弟者に触れた内藤は、彼が震えているのに気付いた。
- 239 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:19:11 ID:VyKq31NoO
-
(;*゚ー゚)「ちょっ……大丈夫ですか!?」
(;,゚Д゚)「あらららら」
(;'A`)「何だ? どうしたんだよ、そいつ」
【+ 】ゞ゚)「?」
──昨日と今日で内藤が新たに得た知識は、色々あった。
出連ツンという存在。
彼女が姉者や弟者の知人であること。
幽霊裁判というものがあること。
それと。
- 240 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:20:51 ID:VyKq31NoO
-
ξ;゚?゚)ξ「……あの姉にして、この弟ありね」
( ^ω^)「そうみたいですね」
( <_ ;) ウゥ…オバケ…コワイ…
弟者が、姉者と同類だったということだ。
case2:続く
- 241 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:26:49 ID:VyKq31NoO
- 今回は以上です
昨日の内に投下出来なくてごめんなさい
読んでくれた方々、こんな時間に支援してくれた方々、ありがとうございました
まとめてくれたRESTさんも本当にありがとうございます
次回は、早ければ、早ければ来週
case2前編 >>149
- 242 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:29:50 ID:6cc3ftFU0
- こんな時間まで超乙!!
弟者がんばれ超がんばれwww
楽しく読んでるよ、がんばれー!
- 243 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:35:47 ID:kK9CRD9Q0
- 乙乙!
流石家良いキャラしてるなー
次も楽しみにしてるぞ!
- 244 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:57:49 ID:OrntkYFw0
- 乙乙
- 245 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 08:52:58 ID:yk9J4WPI0
- おつ!
続きが気になるな
- 246 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 10:50:27 ID:ITES9Zaw0
- 来てたのか!
乙!!
- 247 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 13:24:01 ID:HBAH8Yrg0
- 面白いなぁ。乙!
- 248 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 13:26:59 ID:K/qI2K.w0
- 面白いなー!乙!
流石家和むわ姉者かわいいわw
- 249 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 18:59:12 ID:J3r4nQYcC
- 乙
- 250 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 21:11:16 ID:GxBO8vcc0
- オツオツン
- 251 :名も無きAAのようです:2012/10/16(火) 22:35:26 ID:Z9NOeuag0
- まだかなー きになるなー
- 252 :名も無きAAのようです:2012/10/18(木) 19:41:38 ID:nNft0ZOQ0
- 面白い乙!
- 253 :名も無きAAのようです:2012/10/19(金) 18:01:21 ID:CFcop9XsO
- 乙
- 254 :名も無きAAのようです:2012/10/22(月) 04:32:43 ID:r2uF2s9g0
- 次の投下楽しみにしてるぜー
- 255 :名も無きAAのようです:2012/10/28(日) 21:57:15 ID:XIUce9MM0
- 楽しみにしているぞよ
- 256 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 20:07:41 ID:APT7Nq1E0
- つづき楽しみだわー
- 257 :名も無きAAのようです:2012/11/01(木) 22:37:12 ID:TA4pOX.kO
- まだかなー
- 258 :名も無きAAのようです:2012/11/07(水) 00:50:45 ID:7Bl9jW0cO
- 来週といいつつ時期に一月か
- 259 :名も無きAAのようです:2012/11/07(水) 09:06:17 ID:MqoVDhrMO
- 早ければ来週 遅ければ何時になるのか
- 260 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:01:30 ID:t.nu3oIEO
- うひい、一ヶ月や……
展開は大体決まってるんですが、書き溜めが進みません
息抜きにラノベ祭の作品書いてみようとしたら、そっちも進みません
携帯へし折りそうです
とにかく、今月中には投下するつもりです。すみませんでした
このまま全く投下せずに一ヶ月迎えるのも申し訳ないので、
とりあえず急拵えで書いたオマケみたいなのだけ投下させてください
本編とはあんまり関係ありません
- 261 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:02:13 ID:KmE/YdgU0
- おおお
- 262 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:02:47 ID:t.nu3oIEO
-
ξ゚?゚)ξツンちゃんと(,,゚Д゚)ギコ君と∬;_ゝ;)姉者ちゃん
・中学時代
ξ゚?゚)ξ「ギ子ちゃーん、さっきの数学のノート見っせてっ」
(,,゚Д゚)「ギ子ちゃんって」
「この間、自室の鏡の前で女の子の服着てたって浮遊霊が言っtあぐう」ξ゚?((⊂(゚Д゚,,)
(,,゚Д゚)「ツンさん、お力になれず残念なんですが昨夜の夜更かしが祟って俺もノートとれてません」
ξ゚З゚)ξ ブーブー
(,,゚Д゚)「友達に見せてもらえば?」
ξ゚?゚)ξ「友達いないし」
(,,゚Д゚)「ごめん」
ξ;∀;)ξ
(,,゚Д゚)「じゃあ……あ」
(,,゚Д゚)ノ「姉者ー!」
∬´_ゝ`)「はい?」
- 263 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:03:06 ID:fu1agBro0
- 期待
- 264 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:03:50 ID:t.nu3oIEO
-
(,,゚Д゚)「ツンに数学のノート貸してやって」
∬;´_ゝ`)「ツ……ひゃあっ! 出た!!」
ξ゚?゚)ξ「人を幽霊みたいに……」
(,,゚Д゚)「駄目?」
∬;´_ゝ`)「い、いいけど、ちょっと見にくいかも……はい」
(,,゚Д゚)「サンキュー。……おお、先生の解説までメモしてある。
ほらツン、お礼言えよ」
ξ゚?゚)ξ「うん、お礼にいいこと教えてあげるわ、
あんた乳おばけに祟られてるからこのままだと胸がどんどん膨れてって最終的に破裂するわよ」
∬;_ゝ;)「ひぃいいいいいい!!!!!」タユンタユン
(;,゚Д゚)「何その醜い嫉妬に彩られた嘘! あと信じるなよ姉者!!」
∬;_ゝ;)「乳おばけがぁああ! おっぱいが、私のおっぱいがおっぱいが!!」
(;,゚Д゚)「女子中学生がそんなこと叫ぶんじゃないの!! お黙り!!」
ξ゚?゚)ξ「ギ子ちゃん……」
*****
(´<_`;)「姉者なんで泣いてるの? ツンちゃんに意地悪されたの?」
∬;_ゝ;)「私のおっぱい破裂するって言われた……どうしよう……」シクシク
(;´_ゝ`)「女の子の胸って破裂すんの!? やべえ! こええ!」
- 265 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:04:33 ID:t.nu3oIEO
-
・高校時代
(,,゚Д゚)「女子の制服着たいわー」モグモグ
ξ゚?゚)ξ「あんたそれ教室でも同じこと言えんの?」ムシャムシャ
(,,゚Д゚)「あ、その玉子焼きちょうだい」
ξ゚?゚)ξ「じゃあそのジャムパンと牛乳一口ちょうだい」
(*,゚Д゚) ウマー
ξ*゚?゚)ξ ウマー
∬;´_ゝ`)「あ」
ξ゚?゚)ξ「ん」
(,,゚Д゚)「あら姉者。どうしたの?」
∬;´_ゝ`)「図書室に本返しに行こうと思って……」
(,,゚Д゚)「ああ、ごめんなさいね、道塞いじゃって。ここの階段あんまり人が通らないから。
ツンどきなさいよ」
ξ゚?゚)ξ「ギ子ちゃん、口調」
(,,゚Д゚)「姉者はもう知ってるからいいの」
- 266 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:05:46 ID:t.nu3oIEO
-
∬;´_ゝ`)「ごめん、ちょっと横通るね……──きゃあっ!」ズルッ
ドサァッ
≡≡∬;´_ゝ`));゚?゚)ξ「ふぐおっ」
∬;´_ゝ`)「ひぃいいいいいい!! ごめんなさい! ごめんなさい! 呪わないで!!」
(;,゚Д゚)「あんたツンを何だと思ってんのよ……。ま、まあ、階段落ちなかっただけいいわよね……大丈夫?」
∬;´_ゝ`)「私は大丈夫だけど、つ、ツンちゃん怪我とかしてない?」
ξ;゚?゚)ξ(なに今の感触……マシュマロ……胸? え? 胸?)
(;,゚Д゚)「ツン?」
ξ;?;)ξ ブワッ
(;,゚Д゚)「!?」
ξ;д;)ξ「言っとくけど図書室なんか悪霊の巣窟だからね! 乳おばけとか200体ぐらい居るからね!
一番奥の本棚の前に脳髄はみ出た女いるからね! 女子生徒が近付くと纏わりついてくるからね!!」
∬;_ゝ;)「ぴぎゃああああああああ!!!!!」
(;,゚Д゚)「急に何それ!?
いい加減にしなさいよ、あんたのせいで姉者の校内での行動範囲どんどん狭まってんのよ!!」
*****
- 267 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:08:14 ID:t.nu3oIEO
-
(´<_` )「何、またアレに変なこと言われたの?」
∬;_ゝ;)「脳髄はみ出た女の人こわい……」
(;´_ゝ`)「女の人って脳髄はみ出るの!? やべえ! こええ!」
l从・∀・*ノ!リ人 アウー
*****
(,,゚Д゚)(……しかし乳おばけは嘘としても、女の霊はマジで居たわよね……)
(*゚ー゚)「ぎこー、さんすー教えてー」
(,,゚Д゚)「はいはい」
(*゚ー゚)「……ぎこ何でワンピース着てるの?」
(,,゚Д゚)「似合うからよ」
(*゚ー゚)(にあわねえよ……)
おわり
- 268 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:08:42 ID:cX5aihj20
- 姉者かわええw
- 269 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:09:13 ID:t.nu3oIEO
- はい。これだけです
書き溜め頑張ります
- 270 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:11:44 ID:tdoBNY6gO
- 兄者が程よいバカでワロタ
乙
- 271 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:13:29 ID:VoDFNaIU0
- 姉者かわいい!
乙
- 272 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 23:20:20 ID:KmE/YdgU0
- ギ子しぃめっちゃ好きだわwww
- 273 :名も無きAAのようです:2012/11/09(金) 01:56:31 ID:7x6/YLfw0
- ツンそのうち痛い目みろwww俺が一生まな板になるよう願かけてやるわwwと思ったw
- 274 :名も無きAAのようです:2012/11/09(金) 13:33:20 ID:zGc1stiQ0
- 姉者www
- 275 :名も無きAAのようです:2012/11/09(金) 18:01:39 ID:wLAyVmsg0
- 姉者がかわいい作品久しぶりに見たwwwwww
- 276 :名も無きAAのようです:2012/11/09(金) 20:57:31 ID:BqEgdvjs0
- 姉者自体出てる作品が…
- 277 :名も無きAAのようです:2012/11/10(土) 01:42:38 ID:0A28X7I.0
- 兄者が程よいバカ言い得て妙すぎでふいた
ギ子ちゃんの裏表いいな
こっちもラノベも楽しみにしてるよ
- 278 :名も無きAAのようです:2012/11/11(日) 22:43:49 ID:eFxE4j7kO
- 書き溜め頑張って下さい!!
ツン
http://imepic.jp/20121111/807920
ブーン
http://imepic.jp/20121111/812920
しぃ
http://imepic.jp/20121111/808440
ギ子
http://imepic.jp/20121111/812200
- 279 :名も無きAAのようです:2012/11/11(日) 23:29:25 ID:ZkXLL4KIO
- >>278
4枚も! ありがとうございます! 頑張ります!
うはうはしながら画像開いて保存してたら4枚目で吹いた
- 280 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:58:37 ID://Rqd5DwO
- すごく曖昧な投下予告
明日の昼ぐらいに投下する予定ですが、
そのときにもし投下が出来なければ、諸々の事情により来月の投下になります
そうなってしまった場合は、アクロバティックビンタしてくださいお願いします
- 281 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:33:24 ID:KvxOiXI.0
- wktk
- 282 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:55:30 ID:7o/6dq7Q0
- 投下楽しみにしてる!
- 283 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 13:34:26 ID:k05pAEDs0
- 楽しみにしてるぜー
- 284 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 14:50:44 ID:qhRfP9qoO
- ξ゚?゚)ξ前回のあらすじ(゚Д゚,,)
(下駄箱*゚Д゚)「ふえぇ……全身どろどろにされちゃったよぅ……」
ξ弟者゚?゚)ξ「な、なにぃー!! 俺の靴にだけ泥が詰められている! 助けてお姉ちゃーん!
さらに家の玄関にまで!? どうしようお姉ちゃーん!」
(ブーン,,゚Д゚)「学校帰りに変な女に話しかけられた! 裁判? 幽霊? 何だこいつ頭おかしい!」
ξ゚?゚)ξ+「ふふふ……このグラマーなお姉さんに付いておいで、少年達。
そしてこの綺麗で可愛くてグラマーなお姉さんのために、証人になってちょうだい」
(ブーン,,゚Д゚)「何だこいつ頭おかしい!」
(ブーン,,゚Д゚)「でも付いていこう! なになに、この廃ビルが法廷かあ。
むむっ!? この前ぼくに絡んできた男の幽霊がいるぞ!」
ξ弟者;?;)ξ「わーん! 幽霊だー! 怖いよお姉ちゃーんwwwww」
( ^ω^)「全然伝わってこないんですけど」
(´<_` )(殺そう)
というわけで投下します
- 285 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 14:51:52 ID:ZR6y30xE0
- ギ子さんwwwwwwツンwwww
待ってたぞ支援!!ww
- 286 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 14:52:59 ID:qhRfP9qoO
-
弟者は怖いものが嫌いだ。
何故ならば怖いから。至極単純な話だ。
それを人に知られるのは、もっと嫌だった。
自分が怖がりだと知られたら、姉者を安心させられないし。
何より恥ずかしい。
だから霊など信じていないと言い張ってきた。
周囲も、弟者はリアリストなのだなと納得してくれている。
だが──そんなもの、結局は無意味な張りぼてだった。
だって、霊の存在を信じているからこそ「怖がり」なのだ。
.
- 287 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 14:55:07 ID:qhRfP9qoO
-
(´<_`;)「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」ブツブツ
ξ;゚?゚)ξ「大丈夫、大丈夫よ。別に、悪い人じゃないから……」
( ^ω^)「たしかに悪い『人』じゃなさそうですけど」
(;<_; )「あああああああ悪霊退散んんんんん!!!!!」
ξ#゚皿゚)ξ「余計なこと言わないでよ内藤君!」
【+ 】ゞ゚)「……悪霊呼ばわりをされたのは初めてだな」
(;'∀`)「ええ、ええ、失礼にも程がありますよねオサム様! オサム様ほど善良な神様もいないってのに!
よっ、日本一! いや世界一!」
(,,゚Д゚)「言っとくけど裁判長にゴマすってりゃ無罪判決になるってもんじゃないわよ」
(;*-ー-)「……先が思いやられる」
故に、弟者は「幽霊裁判」というものをあっさり受け入れることが出来た。
- 288 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 14:56:04 ID:qhRfP9qoO
-
case2:つきまといの罪/後編
.
- 289 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 14:57:04 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^) ハァ
内藤は溜め息をついた。
原因などいくらでもある。
これから本気で裁判が行われそうだし、
どうにもマトモな人間や霊がいなさそうだし、
それに、
(´<_`;)「ううううっうう……帰ろう……帰ろうブーン……」
しっかりした人だと思っていた親友が、極度の怖がりであることが判明したし。
(´<_`;)「ていうか何でお前そんなに落ち着いてるんだよ……」
ξ゚?゚)ξ「内藤君、霊感持ちだから幽霊には慣れてるもの」
(゚<_゚;)「えええええええええええええええ!!?」
( ^ω^)「おい」
しかもバラされたし。
- 290 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 14:58:08 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚З゚)ξ「いいじゃない、ここまで来たなら。逆に隠し続ける方が大変よ」
( ^ω^)(すっっっごく殴りたい)
(´<_`;)「もうやだもうやだ帰りたいぃいい……」
内藤の後ろに隠れるようにして──弟者の方が背が高いので、隠れきれていないのだが──、
震えながら涙声で囁く彼の姿は、あまりにも惨めだ。
──ほんの数分間の気絶から目覚めて以来、弟者はずっとこんな調子だった。
気を抜くと再び失神してしまいそうに見える。
(*゚ー゚)「別に帰ってもいいんじゃないんですか?
それで使い物になるかどうか怪しいもんだ」
弁護席の向かい、検事席に立つ学ランの少女が、腕を組んで言った。
猫田しぃ。弟者が落ち着く(静かになる)のを待っている間に聞いた、彼女の名前。
高校生で、内藤達とは然程歳が変わらないそうだ。
- 291 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 14:59:41 ID:qhRfP9qoO
-
ツンいわく、
ξ゚?゚)ξ『私達ほど霊感持ってる人間なんて、そう多くはないからねえ。
それなりに霊感と知識があって、おばけ法の試験さえパス出来れば
高校生だろうと、弁護士や検事になれるわ』
( ^ω^)『試験?』
ξ゚?゚)ξ『司法試験みたいな。難しいのよ』
( ^ω^)『そんなんあるんですかお』
ξ゚?゚)ξ『ある』
ということらしい。
- 292 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:01:43 ID:qhRfP9qoO
-
【+ 】ゞ゚)
(´<_`;)「ひ」
お面の男がしぃから弟者へ視線を移すと、弟者は更に縮こまった。
彼は「オサム様」。裁判長。
町の端、ある神社に祀られている神様だという。
正直、神様と呼ぶには、「らしい」姿ではないように思う。
しかし一応、ここら一帯では最も強い神様なのだとか。
だからなのか何なのか、彼は内藤や弟者のことを知っていた(名前や顔ぐらいしか知らないようだが)。
【+ 】ゞ゚)「流石弟者。本来の開廷時間より20分ほどの遅れが出ている。
これより先、お前の都合で停滞することは避けたい。
よって今は……あー……『お前に構ってる暇はない』ってことだ。黙っていろ」
顔の右半分は隠れているが、左目だけでも威圧感は伝わってくる。
弟者も、ほぼ反射的に頷いたようだった。
- 293 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:02:57 ID:qhRfP9qoO
-
('∀`)「いよっ、オサム様! 人間風情にも逐一お声を掛けなさる優しさ!」
(#゚ー゚)「やかましい」
被告人である痩せぎすの男は、先程からオサムを持ち上げるのに忙しい。
その様子に苛々しているようで、しぃが舌打ちした。
男の格好をしているとはいえ、年頃の少女がするべき形相ではない。
(,,゚Д゚)「オサムちゃん、もう始めちゃいましょうよう」
そんなしぃの背中を叩きつつギコが言う。
オサムは頷きかけて、顔を上向けた。
【+ 】ゞ゚)「くるう。どうした? 下りてこないのか」
知らない名前が出た。
まだ増えるのか。
内藤の肩を掴んでいる弟者が、ぐすっと鼻を啜る音がした。いっそ哀れだ。
【+ 】ゞ゚)「くるう」
オサムが名前を呼ぶ。
瞬間、天井からにょっきり首が生えた。
- 294 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:04:16 ID:qhRfP9qoO
-
川 ゚ 々゚)
髪の長い女だ。
髪をだらりと垂らし、生気のない目で内藤を睨んでいる。
光景だけで言えば、どこのホラーかと問いたくなるものだった。
後ろの弟者は死にそうだが、敢えて無視する。
川 ゚ 々゚)「……くっさい」
天井から生えている首が、ぼそりと呟いた。
【+ 】ゞ゚)「くさい? 何がだ?」
川 ゚ 々゚)「嘘の臭いがぷんぷんする……」
全員の目が内藤と弟者に向けられた。
口を開いたのは、顔を顰めているしぃ。
(*゚ー゚)「虚言癖のある子はいるかな?」
( ^ω^)「……?」
ξ;゚?゚)ξ「あっ」
失礼な問いに内藤が眉根を寄せ、ツンが声をあげた。
ツンの顔色が、焦りから憔悴へ変わる。
彼女は額に手を当てて嘆息した。
- 295 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:04:40 ID:lCwinHKM0
- きてた
支援
- 296 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:05:56 ID:qhRfP9qoO
-
ξ;-д-)ξ「あーん……もー、面倒臭い……。
ビビりに嘘つきって、最悪の組み合わせだわ」
そのポーズのまま5杪ほど沈黙してから、ツンは溜め息をつき、内藤の頭に左手を乗せた。
ξ;゚?゚)ξ「裁判長! この子、ぶりっ子なんです。
普段は他人に対して『いい子』な演技をしてるんです。
臭いがするのは、そのせいかと」
( ^ω^)「ぶりっ子って」
('A`)ノ「友達には朗らかに接するくせに、いたいけな幽霊はぶん殴るような奴でしたー」
オサムは無言で女を見上げる。
女は首を振った。ばらばら、髪の毛が揺れる。
川 ゚ 々゚)「ツンは嘘ついてない……と思う……鼻が痺れてよく分かんないけど」
ξ;゚?゚)ξ「今は素の状態ですし、証人として証言するのは弟者君の方です。
内藤君は傍聴するだけですから、どうか、ここに残させてあげてください。
彼がいなくなったら弟者君が完全に使い物にならなくなります」
( ^ω^)「いや、邪魔なら帰りますけど」
(´<_`;)「えっ、ちょっと待てブーン帰らないで! 俺を1人にしないで!!」
- 297 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:07:35 ID:qhRfP9qoO
-
川 ゚ 々゚)「ぶーん」
弟者が口にした内藤のあだ名を、女は繰り返した。
響きが気に入ったのか、ぶーん、ぶーんと何度も呟いては、くすくす笑っている。
多少は機嫌を直してくれたようだ。
川*^ 々^)「ぶーん」
(*゚ー゚)「あだ名かい? 変わってるね」
(*,゚Д゚)「ブーンちゃんって呼ーぼうっと」
( ^ω^) イラッ
【+ 】ゞ゚)「くるう、おいで」
女──くるうは、頭から落下するようにして、両手を広げたオサムのもとへと下りていった。
彼女が身につけているワンピースの裾が、ふわりと広がる。
そうしてオサムがくるうを受け止める様は、ちょっとした映画のワンシーンのようだった。
川*゚ 々゚)「んふふ」
すっかり機嫌を良くした様子で、くるうはオサムを抱き締めた。
ふんふんと犬のように鼻を鳴らし、オサムの首筋の匂いを嗅いでいる。
- 298 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:08:40 ID:qhRfP9qoO
-
川*´々`)「オサムはいい匂いがするから好きー」
【+ 】ゞ゚)「くっつくのは後でな」
ξ゚?゚)ξ「……バカップルうぜえ……」
( ^ω^)「今の呟きはチクってもいいやつですかお」
ξ゚?゚)ξ「よくないやつだから黙っててちょうだい」
オサムはくるうを隣に立たせて──とは言っても2人は床から数センチほど浮いている──、
一つ咳払いをした。
そして、右手の木槌で空中を打つ。
何もないのに、やたら硬い音が響いた。
(´<_`;)「なん、な、なん、何なん、何なんだよ、何だよあれ」
ξ゚?゚)ξ「幽霊裁判で裁判官をやる者にのみ渡される、特別な槌よ。
どこを叩いても音が鳴るわ。空気でもね」
幽霊が裁判などをやる時点で、もう何でも有りだ。
槌よりも、内藤はくるうの方が気になった。
- 299 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:15:09 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^)「『くさい』って何なんですかお? それに嘘とか演技とか」
ξ゚?゚)ξ「くるうさんは、人間がつく嘘の臭いが分かるの。
幽霊なのか妖怪なのか知らないけど、そういう体質の人」
くるうは「監視官」という役職についているそうだ。
この辺りについては、以前説明した通りなので省略。
再び木槌が鳴った。今度は2回。
呼応するように、しぃとツンが互いを睨み合う。
【+ 】ゞ゚)「とにかく始めようか。25分遅れだ。
──これより、被告人……ドクオの裁判を始める」
オサムの声で空気が引き締まる。
男の霊は顔を背け、がしがしと頭を掻いた。
('A`)「……くそっ」
.
- 300 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:16:57 ID:qhRfP9qoO
-
【+ 】ゞ゚)「──それでは被告人。名前と生年月日を」
('A`)「……ドクオっす。生まれた年も日も、もう覚えてません。秋生まれだった気はするけど。
名前だってうろ覚え、苗字なんかは完全に忘れました」
ドクオ。
そういう名前らしい霊は、へらりと笑って首を竦めた。
日々をぼんやり過ごしているような幽霊は、生前の記憶を忘れがちになる──そうだ。
ツンが内藤の耳元で説明してくれた。
【+ 】ゞ゚)「死亡した日付と享年はどうだ? 死因も」
('A`)「あ、それも全然。享年はー……まあ30歳前後じゃないっすかねえ。見ため的に」
【+ 】ゞ゚)「死後100年経っていれば強制浄霊の対象になるが……」
(;'A`)「いやいやいやっ、さすがに100年は経ってない!
心臓に悪いこと言わないでくださいよ! もう心臓動いてないけど!」
- 301 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:18:24 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「彼は、ここら周辺の生まれではないようなので
出身や命日などを調べるのには少々手間が掛かります」
オサムはゆったりと頭を揺らした。
そこはどうでもいいのだろう。
【+ 】ゞ゚)「それでは検事。起訴状朗読」
(*゚ー゚)「はい」
( ^ω^)「きそじょう?」
ξ゚?゚)ξ「ドクオさんにどういう疑いがかけられてるかってのを、しぃ検事が説明するの」
(*゚ー゚)「──公訴事実」
しぃは右手に持った書類を見下ろし、口を開いた。
ひやりとするような声だった。
- 302 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:20:16 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「今年、平成24年5月29日の深夜。
被告人は、ヴィップ市ラウンジ××丁目のアパート102号室に居住する被害者、
榊原マリントンを死亡させた……」
聞き覚えのある名前だった。
はて、どこで聞いたのだか。
内藤が考え込むと同時に、焦りを一杯に詰め込んだような怒鳴り声が響いた。
(;'A`)「だから、やってねえっつってんだろ! そんな奴も知らねえって!!」
【+ 】ゞ゚)「被告人」
喚くドクオを、オサムの声と木槌が咎める。
ドクオは一旦は口を閉じたものの、ぎろりとツンを睨んだ。
初めにこの場所に現れたときもそうだった。
(;'A`)「……この裁判、未だに納得いかねえ。
冤罪吹っ掛けられたのも、この無能弁護士を宛がわれたのも!」
ξ゚ー゚)ξ「ご安心を。私、有能ですので」
(;'A`)「今んとこ5連敗中らしいじゃねえかよ!」
ξ゚ー゚)ξ「6連敗ですよ」
ツンは朗らかに笑う。
それに対し、ドクオは顔を引き攣らせていた。怒りか不安か、両方か。
- 303 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:23:42 ID:qhRfP9qoO
-
(´<_`;)「6連敗……」
(,,゚Д゚)「幽霊裁判って、地域によって人手が足りる足りないの違いがあるのよ。
ここら辺は足りてないから、弁護士も自由に選ぶのは難しいの。我慢してちょうだいな」
ギコが宥めるように言った。
まあたしかに、霊感があって、なおかつ試験に受かるような人間はそうそういないだろう。
だから、しぃのような年齢でも参加出来るのだとツンも言っていたし。
('A`)「……余計な真似はすんなよ。
弁護士がするべきことだけしてりゃいい」
ξ゚ー゚)ξ「ええ」
そろそろオサムが割り込みそうだったが、ドクオはそれだけ告げると沈黙した。
まだ納得しきっていない顔ではあるが。
(*゚ー゚)「……そろそろ続きよろしいですかね?」
【+ 】ゞ゚)「ああ、頼む。
──被告人。今は黙っていろ」
ドクオは頭を僅かに下へ揺らした。
頷きと取ったか、オサムはしぃに視線で指示を出した。
- 304 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:30:33 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「事件の一週間以上前に、被告人は何らかの理由を以て
人知れず被害者を付け狙うようになったものである。
そしてついに5月29日、被害者宅にて、被害者の前に姿を現した」
(*゚ー゚)「被害者の遺体は湯船の中にあり、死因も溺死であるとされている。
後頭部に打撲傷、浴室の壁に何かがぶつかった跡があることから、
壁に頭を打ち付け、その結果気絶し、湯船に倒れ込み溺死したものと考えられる」
(,,゚Д゚)「被害者は、仰向けの体勢で上半身がお湯に浸かっていて
足は湯船の外に、だらんと投げ出されていたそうよ。発見者いわく、ね」
(*゚ー゚)「争ったような跡や、その他に怪我がないことから、『事故』の可能性が高い」
想像すると──少し、間抜けな姿だ。
被害者からすれば、おかしくも何ともないだろうが。
しぃが一旦口を閉じ、俯くドクオを一瞥した。
(*゚ー゚)「つまり。普段より被害者に付きまとっていた被告人は、事件当日、被害者の家に入り込んだ。
被害者は目の前に現れた被告人に驚き、
逃げようとしたものの足を滑らせ……」
(,,゚Д゚)「壁に頭を打ち付け、湯船に──ってとこね。
殺意があったかどうかは確認出来てないわ」
ドクオが拳を握る。
彼が犯人だとしても違うとしても、こんな状況、生きた心地がしないだろう。
本当に生きてはいないわけだが。そういうことでなく。
- 305 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:33:43 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「──罪名及び罰条!
つきまといの罪、おばけ法第88条」
(*-ー-)「……以上の事実について、審理を願います」
少しの間をあけてからオサムが動いた。
木槌をくるりと回して、ドクオへ視線を送る。
【+ 】ゞ゚)「異論は?」
(#'A`)「異論しかねえよ!!」
怒鳴ってから、ドクオは我に返ったように表情を変えた。
無理に口元を引き上げたような笑顔。
(;'∀`)「……っあ、い、異論あります、へへ。
あのう、そもそも榊原なんて男知らないし、付きまとった覚えも……」
【+ 】ゞ゚)「つまりは全面否定だな」
川#゚ 々゚)「オサムに乱暴な口きいた!」
(;'∀`)「いやいや、そりゃ気のせいです! 聞き間違い!
俺がそんな、オサム様に下品な口のきき方するわけない!」
- 306 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:35:46 ID:qhRfP9qoO
-
(´<_`;)「……つきまといの罪って?」
弟者がツンに訊ねる。
多少は慣れてきたのかと思ったが、内藤の肩に乗せた手が未だに震えているので、
特に慣れたというわけでもなさそうだ。
ξ゚?゚)ξ「人間で言うところの、ストーカー規制法みたいなものね。
『霊が、特定の生者・霊に対して、付き纏い等の迷惑行為をすることを禁ずる』……。
簡単に言えばこういう感じ」
( ^ω^)「なるほど、ストーカー」
ξ゚?゚)ξ「つきまといの罪とは別に、ストーカーの罪もあるんだけどね。
今回は、つきまといの方で立件したようだわ」
(´<_`;)「つきまとい……幽霊がつきまとい……」
勝手に想像して勝手に怯えている弟者は放置することにして、
内藤はツンから前方へと目を向け直した。
【+ 】ゞ゚)「そもそも、被告人が被害者に行っていた、具体的な『付きまとい』の内容は?」
(*゚ー゚)「それは今から説明いたします」
しぃが別の書類を手に取る。
それを眺めながら、くるうが隣のオサムに凭れ掛かった。
オサムがくるうの頭を撫でてやる。皆、見て見ぬふりをした。
- 307 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:38:18 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「……ええと、まずは、付きまといの事実があったことから証明しましょう。
事件が起きる一週間ほど前。被害者は同僚に、ある話をしていました。
──『身の回りのものを泥で汚される』と」
泥。
内藤は弟者に振り返った。
弟者も思うところがあったらしく、驚いた顔をしている。
何となく、弟者が証人として呼ばれた理由が分かった。
(*゚ー゚)「以下は同僚の証言……」
──内容をまとめる。
被害者の榊原マリントンは同僚に、こう話したそうだ。
「この間、自分のロッカーの内側に泥が付着していた」。
「それ以来、鞄や靴も泥で汚されるようになった」。
明らかに人為的で、榊原だけを狙っているようにしか思えなかったという。
同僚が警察に相談するよう勧めたが、榊原は
「こんなことで警察が動くと思えない」と言って聞かなかった。
- 308 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:42:39 ID:qhRfP9qoO
-
それから一週間後の5月30日。
榊原は出社してこなかった。電話にも出ない。
嫌がらせの件を覚えていた同僚は、その旨を上司に話す。
その日の夜、上司と同僚は榊原の住むアパートを訪れ、
部屋の電気がついているのにチャイムを鳴らしても反応がないことを不審に思い
ドアの鍵を開けてみてもらえないかと、アパートの管理人に交渉した。
(*゚ー゚)「管理人により部屋の鍵が開けられ、上司、同僚、管理人の3名は室内へと入り──」
無人の部屋。
窓辺から浴室まで、泥が点々と落ちていた。
3人は浴室に行き、榊原を発見する。
湯船から榊原を出すも、すぐに息絶えており、警察を呼んだ。
以上が、しぃ達が同僚から聞いた証言。
(*゚ー゚)「発見されたのが5月30日、死亡していたのは前日……29日の夜だとのことです。
被告人、身に覚えは?」
(;'A`)「一つもねえよ!」
- 309 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:45:33 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^)(──ああ、そっか)
思い出した。
この事件は、以前、兄者達と朝食をとっているときにニュースで見たのだった。
あの時点では、人間による犯行だとして捜査を進めていたようだが。
ξ゚?゚)ξ「その同僚は証人として来てないの?」
(*゚ー゚)「誰彼なしに連れてこれる場でもありませんしね」
【+ 】ゞ゚)「その事件が霊の仕業だと気付いたのはいつだったんだ?」
(*゚ー゚)「先の同僚から、とあるデータを渡されたときでした。
ギコ」
(,,゚Д゚)「はいな」
ギコは、机の下から何やら機械を引っ張り出してきた。
モニターと──DVDプレイヤーか何か。
プレイヤーとモニターを繋ぎ、ディスクを入れる。
- 310 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:47:00 ID:qhRfP9qoO
-
川*゚ 々゚)「でぃーぶいでぃー!」
オサムとくるうは、興味津々に機械類を見つめていた。
物珍しいのだろう。
数秒経過。ディスクの内容がモニターに映し出された。
どこかのオフィスらしかった。斜め上からの角度。
壁際に並んだロッカーをカメラの中心に据えていて、時折、映像の端に社員らしき人々が映り込む。
雨が降っていたのだろう、窓に幾筋もの水が垂れていく。
(*゚ー゚)「社内のロッカーに泥が付いていることが多かったため、
被害者と同僚はここにカメラを設置しました。
社員の犯行であると考えたのでしょう」
ギコが映像を早送りで進めていく。
たまに社員がロッカーに物を取りに来る以外に、変わったものはない。
しかしギコが早送りを止め、右下の時間表示が「16:21」を示したとき、異変は起きた。
- 311 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:49:35 ID:qhRfP9qoO
-
ロッカーの周りが無人になる。
すると、あるロッカーが突然開かれた。
(´<_`;)「ひっ……」
( ^ω^)「おー」
扉は薄く開いているだけで、その中までは見えない。
しばらくして、扉は再び独りでに閉じた。
(*゚ー゚)「このように、奇妙な映像が撮れていました。
ただ今のロッカーは被害者のものです。
帰社の時間になりロッカーを開けると、やはり泥があったそうで……」
(*゚ー゚)「気味が悪くなり、彼はますます警察に話すのを躊躇うようになりました。
自分のいたずらだと思われかねない、と」
(,,゚Д゚)「警察に話していれば、あたし達おばけ課の方に話が回ってきてただろうに……。
おばけ課の存在を世間に発表する必要性を実感させられるわ」
映像を止め、溜め息をつくギコ。
また聞き馴染みのない言葉が。
機器を机の下に戻すギコを横目で見ながら、内藤はツンに「おばけ課」なるものについて質問した。
- 312 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:52:19 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚?゚)ξ「おばけ法を導入している地域の警察には、オカルト事件を捜査する、
通称『おばけ課』ってのがあるの。
公表されてないし、同じ署に勤めててもおばけ課の存在を知らない警官もたくさんいるけど」
(´<_`;)「……ギコさん……刑事課の人だったんじゃ」
(,,゚Д゚)「表向きはそうなんだけどね、おばけ課なんて言ったら姉者気絶しちゃうじゃないのよう」
ξ゚?゚)ξ「言い触らされても困るしね」
「人に喋っちゃ駄目よ」。
唇の前で人差し指を立て、ツンが微笑む。
「喋ったところで誰が信じるんだ」。弟者の呟きは尤もだった。
(,,゚Д゚)「ま、ともかく。この映像を手に入れてから、
『こっち』の管轄だってことになったわけよ」
(*゚ー゚)「そうしてギコが調べていったところ、近所をうろついていた霊の証言により
被告人が被害者の周りによく出没していたことが判明しましたので
6月4日の夜、つきまといの容疑で逮捕に至りました」
6月4日。
内藤のクラスの下駄箱が、泥で汚されていた日だ。
すっかり存在感をなくしていたドクオが気色ばむ。
- 313 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:53:32 ID:qhRfP9qoO
-
(#'A`)「だから! そりゃあ、たまたまそこに居ただけだっつうに!」
(*゚ー゚)「『たまたま』ねえ……」
しぃの方は、端から信用する気もなさそうな顔だ。
学生服の襟に指先を引っ掛け、侮蔑しきった瞳でドクオを見る。
(*゚ー゚)「被害者が亡くなる数日前から、現場をうろちょろしてたのも『たまたま』?」
(;'A`)「ぐ」
(*゚ー゚)「先程の映像が撮られた日。
その日に、被害者の勤める会社の周囲に
あなたが居たところも目撃されていますが、それも『たまたま』ですか?」
ドクオの顔が歪む。
焦りと怒りを内包したような表情。
(#'A`)「……ああ! たまたまだよ!! 信じちゃくれねえみたいだがよ!!
お前ら、みんなそうだ!
ちょっとでも疑わしい奴が相手だと『偶然』や『たまたま』を認めようとしねえ!」
(,,゚Д゚)「その偶然が重なる確率がねえ……」
(#'A`)「確率が低けりゃ絶対に起こらないのかよ。
降水確率低けりゃ雨は降らねえのかよ!?」
- 314 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:54:31 ID:qhRfP9qoO
-
ξ;゚?゚)ξ「ドクオさん落ち着いて。そんな風にあんまり騒ぐと印象が良くないわ」
(*゚−゚)「ああ、何て恐ろしいんでしょう……」
しぃが自身を抱き締めるようにして呟く。
わざとらしい。
(#'A`)「このっ……!」
ξ;゚?゚)ξ「ドクオさん! 反論は私がするから!」
川;゚ 々゚)「あうう」
【+ 】ゞ゚)「大丈夫か? うるさいよな、ごめんなくるう」
川;゚ 々゚)「オサムの声しか聞きたくない……」
【+ 】ゞ゚)「裁判が終わったら、2人だけでたくさん話そうな」
ξ#゚?゚)ξ チィッ!! ('A`#)(゚ー゚#)
(´<_`;)「……裁判って騒がしいもんだな」
弟者の呟きには、うーん、と唸り声で返した。
裁判が、というよりは、ここに揃っているメンバーに問題があるような。
- 315 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:56:16 ID:qhRfP9qoO
-
ドクオが静まり、オサムが木槌を鳴らす。
しぃは咳払いを一つして、ギコとの距離をあけた。
(*゚ー゚)「それではそろそろ、こちらの証人をお呼びいたしましょう」
指を鳴らす。
気障な演出だとツンが吐き捨てるように言った瞬間──
検事席、しぃとギコの間に、着物の女が現れた。
(゚<_゚;)「ぎゃばっ!!」
(,,゚Д゚)「なかなか慣れないわねえ弟者君」
( ^ω^)「多分一生無理そうですお」
从 ゚∀从「……」
乱れ髪の女は腕を組み、内藤達をゆるりと眺めてからそっぽを向いた。
胸元がはだけていて、随分と豊かな胸の谷間が確認出来る。
男子中学生には刺激が強い。
( <_ ;) アワワワワ
弟者には別の方向で刺激が強かったようだが。
- 316 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 15:58:16 ID:qhRfP9qoO
-
ξ;゚∀゚)ξ「ああら証人さん……前に会ったときも、
着物の前はきっちり閉めた方が見栄えがいいってお教えした筈だけど……」
从 ゚∀从「私の勝手だろ。長年この姿で過ごしてるし」
ξ;゚∀゚)ξ「だからってそんな──」
瞬間。
内藤の肩から手の感触が消え。
どさりという音が背後から響いた。
内藤とツンは、同時に振り返る。
( <_ ;) フエタ…オバケ…フエタ…
──弟者が、何とも既視感に溢れた状態で倒れていた。
- 317 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:00:48 ID:qhRfP9qoO
-
ξ;゚?゚)ξ「……えっ、あっ、弟者君!? 弟者君!!」
( ^ω^)「幽霊が増えて、また恐怖が振り切れたんでしょうかお。
寧ろ、くるうさんが出たときに気絶しなかっただけ、頑張った方じゃありませんかお」
ξ;゚?゚)ξ「怖がりすぎでしょ!! 姉より酷いんじゃないのこれ!
弟者くーん!? ……起きねえ!!」
(;'A`)「霊でも引くわ」
从;゚∀从「あーあー……」
(*゚ー゚)「……とりあえず進めませんか?
正直なところ、彼が証言するときに起きてくれさえすれば、それでいいわけですし」
ギコやオサムもその意見に賛同した。
裁判長にまで賛成されれば、言われる通りにするしかあるまい。
内藤は足元に放置されていた弟者の鞄を開けると、
タオルを出して頭の下に敷いてやった。
ツンと共に、元の位置に戻る。
- 318 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:06:19 ID:qhRfP9qoO
-
ξ;゚ -゚)ξ「ちょっとやばいわ……計算外……」
( ^ω^)「?」
苦々しげな顔で、ぶつぶつ呟くツン。
どうしたのだろう。
【+ 】ゞ゚)「証人、名前を」
从 ゚∀从「ハインリッヒ。浮遊霊やってる」
【+ 】ゞ゚)「享年や死因は覚えてるか?」
从 ゚∀从「さあね。かれこれ何十年か幽霊やってるから、ろくに覚えてないや」
ハインリッヒはぶっきらぼうに答えた。
標準語ではあるが、合間のイントネーションに馴染みのない響きが混じる。
どちらかというと西の方の。
ξ゚?゚)ξ「……この間お会いしたときは、もっと方言が出てらしたけど」
从 ゚∀从「検事が、こがい喋り方じゃ伝わらん言うけん」
にやりと笑って彼女は言った。
どうやら、方言で話されては分からないから標準語で話せ、としぃに指示されたようだ。
ドクオがハインリッヒを睨む。
検察側の証人ということは、有り体に言ってしまえば、ドクオにとっては敵だ。
- 319 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:09:28 ID:qhRfP9qoO
-
从 ゚∀从「ま、ここしばらく全国をぶらぶらしてたからね。
標準語もそれなりに話せるよ。面倒だけどさ」
【+ 】ゞ゚)「出身は?」
从 ゚∀从「愛媛」
(,,゚Д゚)「愛媛! 結構遠いところから来たのねえ」
川 ゚ 々゚)「えひめ?」
【+ 】ゞ゚)「四国だよ、くるう」
川*゚ 々゚)「! いよかん!」
(*゚ー゚)「今は証人の出自はどうでもよろしい。
……証言の方をお願いします」
从 ゚∀从「はいはい」
(*'A`)「ふぉわっ!」
ハインリッヒが腕を組み替える。
そうするとますます胸が強調されるものだから、
咄嗟に、内藤とドクオ、オサムの目がそちらに向いた。
ツンやしぃは白い目で内藤達を見、くるうは表情を消す。
- 320 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:10:17 ID:lCwinHKM0
- オサム死んだwwwww
- 321 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:11:30 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「汚らわしい……」
(*,゚Д゚)「あたしのおっぱいでも見せてあげようかしら」
('A`)「大胸筋は引っ込め」
川#; 々;)「うわああああオサムの馬鹿あ!! 馬鹿!! くるうだって結構大きいのに!!」
【+ 】ゞ゚)「俺はくるうにしか興味ないよ」
川#; 々;)「うそつき!!」
【+ 】ゞ゚)「くるう。大きいとな、好きとか嫌いとかに関わらず目が行くものなんだ」
ξ゚?゚)ξ「もうやだこの神様」
( ^ω^)(ていうか神様も、そういうの興味あるのかお)
なかなか話が進まない。
ハインリッヒが困惑と呆れを浮かべ、しぃに問う。
- 322 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:14:14 ID:qhRfP9qoO
-
从 ゚∀从「話していいかな」
(*゚ー゚)「どうぞ」
川#; 々;)「殺す!!」
从;゚∀从
(*゚ー゚)「お気になさらず」
从;゚∀从「お、おう。……私、ここら辺に来て間もなくてさ。
物珍しいから、色んなとこ見て回ってたんだよ」
从 ゚∀从「そしたら──先月の中頃か。
被告人って表現でいいんだっけ? ああそう。
被告人に声かけられた」
('A`)「ああ? んなもん覚えてねえぞ」
从 ゚∀从「会話らしい会話なんてしてないからな。ただ一言、あんたが『初めて見る顔だな』って。
そんで私のことをじろじろ見て去ってったよ。
気味悪かったから覚えてる」
(#'A`)「気味悪いって言い方はちょっと失礼じゃねえか?」
从 ゚∀从「胸見てる時間が長かったし」
('A`)「その節はすみませんでした」
- 323 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:18:34 ID:qhRfP9qoO
-
以下、ハインリッヒの話。
例の榊原のアパート近くには大きな樹がある。
ある日、その上に座って、眼下の光景を眺めていたときのこと。
夜になり、ドクオがアパートの前に現れた。
きょろきょろと辺りを見渡して、向かって右の壁からアパートの中に入っていく。
不審に思ったハインリッヒは、そこでアパートを見張ることにした。
それから数時間。
朝になり、ドクオが壁から出てくるのを確認。
直後、出社のためか、榊原がアパートを後にした。
从 ゚∀从「2人で同じ方向に行くからさ、あの男に取り憑いてんのかと思ったんだ」
そのまま待って。
昼になり、夕方になり、夜になり。
被害者が帰宅した頃に、再びドクオがやって来て、昨夜のようにアパートに入っていった。
とはいえ他人事。
その頃にはすっかり興味をなくし、ハインリッヒは樹の上を離れた。
( ^ω^)「ずいぶん長い時間、樹の上に居たもんですお」
从 ゚∀从「長いこと幽霊やってると、1日2日の暇くらい、何てことないさ」
- 324 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:21:59 ID:qhRfP9qoO
-
それから間もなく、2日後。
駅前をぶらついていたハインリッヒは、そこでまたもやドクオを見かけた。
昼時で人が多く、すぐに見失ってしまったのだが。
(*゚ー゚)「被害者の会社はヴィップ駅の近くにあります」
(#'A`)「だから……!」
ξ゚?゚)ξ「『たまたま』です。ですよね、ドクオさん」
(#'A`)「……ああ」
从 ゚∀从「おっと、私を睨むなよ。
あんたが無罪か有罪かは知らないよ。
ただ私は見たままを話してるだけで」
その数日後、もう一度アパートに寄ってみたところで
捜査中のギコに遭遇し、事件を知った──らしい。
【+ 】ゞ゚)「ふむ」
話を聞き終え、オサムは顎を擦った。
ハインリッヒが話している間に一体何をしたのか、くるうはすっかり落ち着いていた。
ドクオは証言の内容自体は否定していない。
ならばハインリッヒは嘘は言っていないのだろう。
- 325 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:24:27 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「このように、被告人はアパートに出入りまでしていた。
これだけでも充分だとは思うんですがねえ」
【+ 】ゞ゚)「そうだなあ……」
ξ゚?゚)ξ「……異議。それではあまりにも、証拠として説得力が足りないものと考えます」
( ^ω^)(ううむ)
ツンの反論は、少々弱く感じられる。
明確な証拠があるわけではないが、それでもドクオは怪しい。
向かいで、ギコが首を捻る。
(,,゚Д゚)「犯人じゃないってんなら、何でアパートを出入りしてたのかって話になるしねえ」
(;'A`)「うっ……!」
ドクオが、痛いところを突かれたと言わんばかりに狼狽えた。
怪しさを増す一方だ。
- 326 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:26:17 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「ありがとうございます、証人」
从 ゚∀从「あんなんで役立ったかね」
(*゚ー゚)「充分に。あなたのおかげで、被告人も言い逃れ出来なくなったようで。
……さて。後は、弁護側の証人ですね」
ξ゚?゚)ξ「ええ、そうね」
(*゚ー゚)「あなた、昨日、仰いましたよね。
『証拠は無いが証言で無罪を勝ち取る』と。
まだ起きてくれないようですが……何を証言させるつもりだったんです?」
ずいぶん思い切ったことを言ったものだ。
ツンは表情こそ平静を装ってはいるが額に汗が浮かんでいた。
弟者は依然気絶したままである。
- 327 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:29:10 ID:qhRfP9qoO
-
ξ;゚?゚)ξ「えっと……犯人は、『泥』を用いて嫌がらせを行っていたじゃない?」
(*゚ー゚)「はい」
ξ;゚?゚)ξ「実は6月4日の朝に、
ヴィップ中学校の下駄箱が泥まみれにされるという事件がありまして」
(*゚ー゚)「……ヴィップ中で? 聞いてませんが」
ξ;゚?゚)ξ「あの、どうやら学校側は下らないイタズラだと判断して、
警察に届けることはなかったようなのよね」
(,,゚Д゚)「それをどうしてあんたが知ってんのよ」
ξ;゚?゚)ξ「ツンちゃんは何でも知ってるの。
……で……そのことについて弟者君に証言してもらいたかったんだけど……」
- 328 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:31:29 ID:qhRfP9qoO
-
( <_ ) チーン
ξ;゚?゚)ξ「この有り様で」
川 ゚ 々゚)「軟弱」
【+ 】ゞ゚)「言ってやるな」
下駄箱のことを弟者が証言して、何があると言うのだろう。
内藤が疑問を込めてツンを見遣ると、ツンは目を逸らした。
何なのだ一体。
そこへ、焦れた様子のしぃの声が飛ぶ。
(*゚ー゚)「なら、内藤君でもよろしいのでは?
彼と内藤君は同じ学校に通っているんでしょう?」
ξ;゚?゚)ξ「……そうだけどさ」
( ^ω^)「僕ですかお?」
既に負け戦。
別に、ちょろっと話すぐらいなら構わないが。
ツンは弟者と内藤を見比べ、長々と溜め息をついた。
沈黙。
やがて観念したか、内藤と視線を交わす。
- 329 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:33:16 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚?゚)ξ「じゃあ、よろしく。
……なるべく時間稼ぎお願いね」
最後の一言は恐らく、内藤にしか聞こえなかった。
時間稼ぎ。弟者が起きるまでだろうか。
まるで、弟者が起きさえすれば、それで済むのだと言わんばかりの。
面倒だと思わないでもない。
だが、ここまで来て何もせずに終わったら、「来た意味」が全くもって皆無。
それは癪だ。
内藤は咳払いをしてから、口を開いた。
( ^ω^)「……その日の朝、学校に行ったら、僕らのクラスの下駄箱に泥がぶち撒けられてましたお。
特に弟者の所が酷くて」
(,,゚Д゚)「ブーンちゃんのクラスだけ?」
( ^ω^)「はいお。で、」
時間を稼げとツンは言った。
なら──そうしてやろうではないか。
「爆弾」をぶち込んでやれば、話を長引かせることは出来るだろう。
- 330 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:34:48 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^)σ「そのとき、僕、この人見ましたお」
この人。
内藤は、ドクオを指差した。
ξ゚?゚)ξ
(*゚ー゚)
(,,゚Д゚)
('A`)
- 331 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:37:06 ID:qhRfP9qoO
-
嵐の前の静けさとは、このこと。
数秒経って、ドクオが爆発した。
(;゚A゚)「このタイミングでぇええええええ!!?」
( ^ω^)「校門の上に立って、僕に手を振って、消えましたお」
ξ;゚?゚)ξ「……それ本当?」
( ^ω^)「本当ですお」
ξ;-?-)ξ「つくづく間の悪い人ね……」
(;'A`)「おい待てよ、さっき言うなっつったろうが!!」
( ^ω^)「その3、4日前には『お前霊感あるんだろ、体貸せよ』ってしつこく迫られたし」
(;'A`)「黙れ! ちょっと黙ってくれ!!」
ドクオが内藤に飛び掛かり、口を塞ぐ。
そういえば、開廷前にも同じようなことをされた。
オサムが木槌を3度、連続で叩いた。ドクオを真っ直ぐ睨んでいる。
睨まれたドクオは、泣きそうな顔で笑って内藤から離れた。
- 332 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:39:39 ID:qhRfP9qoO
-
从;゚∀从「あちゃー」
(;*゚ー゚)「……何という」
( ^ω^)「ああ、あと、泥といえば、うちの玄関にも泥がぶつけられたような跡が」
(∩A∩)
【+ 】ゞ゚)「くるう」
川 ゚ 々゚)「嘘の臭いしない」
(,,゚Д゚)「あらやだ、急展開」
ξ;゚?゚)ξ「……時間を稼げとは言ったけどね、君……」
ツンに小突かれる。
内藤も自分で言っていて、やっぱりドクオが犯人なのではないかと改めて思った。
だが存外、ツンは慌てることはなかった。
「面倒事が増えた」程度にしか捉えていなさそうな。
- 333 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:47:20 ID:qhRfP9qoO
-
一方で、しぃが冷静に言葉を落とす。
(*゚ー゚)「……読めましたよ。
ありがとうございますツンさん。彼のおかげで、有罪判決を勝ち取れる」
ξ゚ -゚)ξ「……」
嫌味な笑顔。
優位に立ち、相手を見下す者の笑みだ。
(*゚ー゚)「被害者は霊感を持つ人間だった。
それを知った被告人は、体を貸せと頼んだものの断られてしまう。
被告人は被害者に対して怒りを覚え、執拗に嫌がらせを繰り返した!」
(*゚ー゚)「そうして次は内藤君を標的に──」
(;'A`)「違う! ……そこのガキに憑依させろっつったのは本当だ。
でも、泥だとか榊原だとかは本当に知らねえよ!」
(;'A`)「アパートに行ったのだって、ガキの情報を集めたかったからだ!
2階の右端の部屋は、夜には霊の溜まり場になる。そこで情報収集してたんだよ!
必要なら、そこで話した霊共の名前教えるから確認してこいよ!」
(,,゚Д゚)「ああ、何年か前に自殺があった部屋ね。
溜まり場……悪さしてないか、一回見に行かないとねえ」
- 334 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:49:51 ID:qhRfP9qoO
-
【+ 】ゞ゚)「何故それを話さなかった?」
(;'A`)「言えるかよ! ガキに憑依しようとしてたなんて、それこそ心証悪くなるだろうが!」
オサムにへこへこする余裕もなくなったらしい。
ツンが制止しかけて、やめた。
「時間稼ぎ」を優先させたようだ。
【+ 】ゞ゚)「6月4日に校門の上に立っていたのは?」
(;'A`)「憑依させろって交渉しに行っただけだ!
何か面倒なことになってたみたいだから、すぐ帰ったよ!!」
从;゚∀从「おうおう、白熱してなさる……」
(*-ー-)「無駄な足掻きですねえ。気が済むまで喚かせてあげましょうか」
川;゚ 々゚) ビクビク
( ^ω^)(……あれ?)
言い合いの中、内藤は携帯電話を開いていた。
あまり堂々と見るのも何なので、携帯電話が机に隠れるようにして。
そうしたとき、おかしなことに気付いた。
視線の先は、とあるデータの日付。
- 335 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:52:30 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^)「ツンさん」
応酬の、一瞬の切れ間。
そこに1人落ち着いた声で発言したことで、皆の意識は内藤へ向かった。
ξ;゚?゚)ξ「なあに?」
( ^ω^)「被告人が捕まったのって、今月の4日でしたっけ」
ξ;゚?゚)ξ「そうだけど」
(*゚ー゚)「6月4日の夜11時頃だね。商店街の中を歩いているところをギコが見付けた」
( ^ω^)「それから今まで監視とかはされてましたかお?」
(,,゚Д゚)「ええ。取り調べをした後は、被告人の隔離場所に置いといたわよう。逃げられたら困るもの」
( ^ω^)「……じゃあ、やっぱり変ですお」
ツンに携帯電話の画面を見せる。
そこに映っているのは、泥で汚された玄関の写真。
- 336 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:53:42 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^)「玄関に泥が付けられてたの、5日の朝だったんですお」
僅かな間をおいて。
ツンが目を見開き、しぃは眉根を寄せ、ドクオはぽかんと口を開け放し──
从;゚∀从
ハインリッヒが、顔を強張らせた。
- 337 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:57:25 ID:qhRfP9qoO
-
ξ;゚?゚)ξ「5日……」
川 ゚ 々゚)「……逮捕された後?」
【+ 】ゞ゚)「そういうことになるな」
(;*゚ー゚)「き、気のせいということは!?」
( ^ω^)「ないですお。撮った日付も残ってるし」
(;*゚ー゚)「じゃあ泥は前日の夜の内に!」
( ^ω^)「朝だと思いますお。写真撮ったの7時前だけど、全然乾いてなかったので」
(,,゚Д゚)「あらら」
しぃの瞳が、手元の書類、ドクオ、内藤へと忙しなく動く。
完全に動揺していた。
徐々に、ドクオの口元が吊り上がる。
- 338 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:59:23 ID:qhRfP9qoO
-
(;'∀`)「内藤少年!! お前最高だ!!」
( ^ω^)「ありがとうございますお、幽霊に褒められても全然嬉しくないけれど」
ξ*゚?゚)ξ「……時間稼ぎどころじゃない働きよ内藤君」
突如、後ろから呻くような声が聞こえた。
弟者の声だ。
(´<_`;)「……う……」
ξ゚?゚)ξ「! 弟者君、起きた!?」
( ^ω^)「大丈夫かお、弟者」
(´<_`;)「……うう、やっぱり夢じゃなかったのかよ……帰りたい……」
ξ゚?゚)ξ「ともかく立って!!」
最高のタイミングだわ。
ツンのその呟きを、内藤は聞き逃さなかった。
立ち上がらせた弟者の背に手を添えて、ツンが顔を覗き込む。
- 339 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:00:55 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚?゚)ξ「弟者君。6月4日のこと、覚えてるわよね」
(´<_`;)「4日?」
ξ゚?゚)ξ「あなたのクラスの下駄箱に泥が付いてた事件。
その──泥について、何か思い出すことはない?」
弟者は頭を押さえ、きょとんとした顔でツンを見返した。
ツンの真剣な眼差しに射抜かれ、たじろぐ。
(´<_`;)「……泥」
ξ゚?゚)ξ「何でもいいのよ」
泥、泥。
うわ言のように繰り返し、はたと、弟者は顔を上げた。
頭を押さえていた手を下ろす。
(´<_`;)「5月の、たしか、31日に。
部活の朝練中に、女の人を見た……気がする」
(;*゚ー゚)「女?」
- 340 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:05:13 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚?゚)ξ「その人の顔は?」
(´<_`;)「ぼうっとしてたから、顔は見てないけど……。
その後、女の人が立ってた場所に泥が落ちてた」
ξ゚?゚)ξ「たしかに女の人だった?」
(´<_`;)「うん」
从;゚∀从「……ま、待てよ!
ぼうっとしてたんだろ!? それで走ってる最中なら、
そんな、すれ違っただけの相手の性別なんて正確に分かるわけっ……!!」
木槌の音。
ハインリッヒは肩を跳ねさせ、口を噤んだ。
ξ゚ー゚)ξ「落ち着いて、詳しくゆっくり話して」
(´<_`;)「ええと……」
──5月31日の早朝。
弟者は陸上部の練習に行ったのだが、夜に降った雨のせいでグラウンドが使えなかったという。
そのため、学校の周りを走ることになった。
途中、道端に女が立っていたそうだ。
すれ違いざま、弟者は会釈をして通り過ぎた。
一周して同じところに戻ってくると──
- 341 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:08:23 ID:qhRfP9qoO
-
(´<_`;)「女の人はいなくて、泥が撒かれてあった」
(,,゚Д゚)「……泥がねえ」
【+ 】ゞ゚)「その4日後に今度は下駄箱に泥、か」
( ^ω^)「じゃあ弟者の靴の汚れが一番酷かったのって、やっぱり……」
ξ゚?゚)ξ「……きっと、その女が真犯人なんだわ。被害者の次は弟者君に狙いを定めた。
泥を使った嫌がらせなんて、そうそう別々の人がやるもんじゃないもの」
(;'∀`)「そう! そうだ! 絶対そうだ!」
ツンの推理にドクオが何度も頷く。
彼には不可能な犯行時刻。女。泥。
俄然、ドクオへの疑惑が揺らぎだした。。
- 342 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:11:40 ID:qhRfP9qoO
-
それに反論するのは、当然、しぃ。
(;*゚ー゚)「だとしたら、その女の目的は何だって言うんです!?
被害者の榊原と弟者君に何の共通点があるんだ!」
( ^ω^)「あの、共通点かどうかは分からないですけど……。
被害者って、嫌がらせを警察に相談しようとしなかったんですおね。
弟者も、僕や姉者さんが『通報した方がいい』って言っても聞きませんでしたお」
(#゚ー゚)「そんなもん個人の考え方の問題だろうが!」
(,,゚Д゚)「あら、でも弟者君が通報しないのはちょっと不思議よお。
少なくとも、あたしに相談ぐらいはする筈だもの」
そうよね、とギコが声をかけると、弟者は頷いた。
(´<_`;)「言われてみれば、たしかに……」
何も、弟者の慎重さだけの問題ではない。
家の玄関にまで被害があったとなれば、
弟者なら、姉者や妹者が巻き込まれる可能性にまで思い至る筈だ。
それなのに何の対処もしなかったのは──やはりおかしい。
- 343 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:13:00 ID:dQC8HDUQ0
- 更新連打が止まらん気になる
- 344 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:13:05 ID:qhRfP9qoO
-
【+ 】ゞ゚)「……何かに取り憑かれていれば、普段とは違う行動に出ることもあるな」
(;*゚ー゚)「ぐっ……」
ξ゚?゚)ξ「──検事」
顎に手をやり沈黙していたツンが、しぃを呼んだ。
机の端にまとめていた書類の下から、一冊の本を持ち上げる。
ぱらぱらと捲られていくページ。
時折、不気味な挿絵が目に入る。弟者が小さく悲鳴をあげ、また内藤の背後に逃げた。
(;*゚ー゚)「……何ですか」
ξ゚?゚)ξ「『濡れ女子』って妖怪はご存知?」
川 ゚ 々゚)「ぬれおなご?」
(;*゚ー゚)「……濡れ女や磯女ならば知っていますが」
ξ゚?゚)ξ「うん、まあ、似たようなものね。同じものではないだろうけど。
……ああ、このページ」
あるページでツンの手が止まった。内藤が覗き込む。
挿絵はないが、今ツンが言った「濡れ女子」の字が書かれている。
- 345 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:15:07 ID:qhRfP9qoO
-
(,,゚Д゚)「濡れ女子、漫画でなら見たことあるわ」
【+ 】ゞ゚)「俺は知らないな」
川*゚ 々゚)「くるうもー。オサムとお揃いー」
ξ゚?゚)ξ「濡れ女子は、雨が降っているとき、あるいは雨が降った後に現れる女の妖怪です。
男が通りかかると笑いかけてきて、それに笑い返すと、
一生つきまとうようになると言われています」
ξ゚?゚)ξ「先程の証言を思い出してください。弟者君はぼうっとしていた。相手の顔も見ていない。
恐らく、笑いかけるか挨拶をしたか、とにかく女は弟者君に何かしらのアクションを起こしていた。
弟者君はそれに気付かず会釈をし──」
(,,゚Д゚)「なるほどねえ。動作が何であれ、妖怪とコンタクトをとっちゃったわけ。
それで取り憑かれた」
- 346 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:17:12 ID:li9pRSuI0
- きてた
- 347 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:17:51 ID:qhRfP9qoO
-
(;*゚ー゚)「……弟者君の見た女が、濡れ女子であると確信している言い方ですね?」
ξ゚?゚)ξ「ええ。
弟者君が彼女を見たのは雨が上がって間もないときだった。
それと下駄箱に泥が付いていた6月4日の朝は、たしか雨が降ってたわね」
(´<_`;)「……そういえば」
( ^ω^)「6月5日も朝から雨が降ってましたお」
ξ゚?゚)ξ「被害者……榊原さんが話していた『嫌がらせ』も、
きっと雨が降った日に起こっていた筈よ」
ロッカーの映像。
あれに映っていた窓は、雨で濡れていた。
ξ゚?゚)ξ「……ところで、この濡れ女子。
四国の愛媛に出る、と言われることが多いです。
さて──」
- 348 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:18:30 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚ー゚)ξ「ハインさん。どちらのご出身でしたっけ?」
从;゚∀从
ハインリッヒは、青ざめていた。
ツンでもなく、ドクオでもなく、弟者でもなく、
どことも知れぬ場所を見て、固まっていた。
川 ゚ 々゚)「……いよかん」
愛媛。
彼女自身が、そこの出身だと言った筈だ。
- 349 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:18:48 ID:tlzk0/6E0
- 写真の矛盾!逆転!王道だね
- 350 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:22:13 ID:qhRfP9qoO
-
我に返ったハインリッヒが拳を握り、机を叩いた。
从;゚∀从「……私がその女だってか!? 証拠はどこにあるんだよ!
本当に濡れ女子って妖怪の仕業だったとして──
私が、その弟者ってガキの家の玄関や靴に泥を付けたって、どこに証拠が!!」
(#'A`)「ここまで来たら認めろよ! 人に罪なすりつけやがってこのアマ!」
从#゚∀从「それはこっちの台詞だ! てめえがさっさと認めないから私が疑われてんだぞ!」
呆然としていたしぃ。
不意に、その目に力が篭った。
- 351 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:24:01 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「──証人」
从#゚∀从「ああ!?」
(*゚ー゚)「今、玄関と言いました?」
从#゚∀从「言ったよ、それがどうした? さっきそっちのにやけ面の奴が話してたじゃないか!」
しぃが表情を歪める。
先程までの焦りとは違った。
その顔は寧ろ──呆れたようで。
見れば、ギコまでもが同じ表情を浮かべている。
内藤が疑問に感じると同時に、しぃの心中をツンが代わりに口にした。
ξ゚?゚)ξ「──どうして、内藤君と弟者君が同じ家に住んでることを知ってるの?」
.
- 352 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:26:41 ID:qhRfP9qoO
-
从;゚∀从「えっ……」
ξ゚?゚)ξ「内藤君は、『うちの玄関に』としか言ってないわ。
内藤君も弟者君も私達も、この法廷内では、彼らが同居していることは話していない」
ξ゚?゚)ξ「なのに、どうして内藤君の『うち』が弟者君の家だと分かったのかしら。
まるで行ったことがあるみたい」
( ^ω^)「あ」
ξ゚ー゚)ξ「あとね、あなた、実はもう一個ミスがあるわ。
弟者君の証言のとき『ぼうっとしながら走ってる最中に
すれ違った相手の性別なんか分からない』……というようなことを仰ったわね」
ξ゚ー゚)ξ「……おかしいわ。あの時点では、弟者君が朝練中に『走っていた』ことも、
『すれ違った』ことも、本人以外は知らなかったのにね」
- 353 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:29:25 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚∀゚)ξ「さらにさらに! 『すれ違った相手の性別なんて分からない』!?
果たしてどうかしらねえ!
たしかに弟者君は当時ぼんやりしてたし顔も見てなかったみたいだけど、」
ツンはハインリッヒを指差し──叫んだ。
ξ#゚∀゚)ξ「そぉおおんな風に御自慢の巨乳様をさらけ出してれば、
女だってことぐらい、いやでも分かるんじゃありませんこと!?」
( ^ω^)(……ちょっと格好いいかと思ったけどそうでもなかった)
- 354 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:31:38 ID:qhRfP9qoO
-
最後のは、私怨が混じりすぎていたような気もするが。
ツンの指摘も尤もといえば尤もだ。
ハインリッヒが口を押さえる。
先のドクオのように全て「偶然」だと言い張れば、
この中の数人は、それ以上何も言えなかっただろう。
しかし彼女はそうしなかった。
从;゚∀从「っ……!!」
(#゚ー゚)「どこに行くんです!」
从;゚∀从「触るな!!」
(;'A`)「あっ、こいつっ!!」
逃げようとしたハインリッヒの腕をしぃが掴み、
ハインリッヒがしぃを突き飛ばし、
(#,゚Д゚)「待てゴルァ!!」
ギコが、後ろからハインリッヒにタックルをかました。
吹っ飛んだ机が、耳障りな音を立てる。
俯せの状態で床に倒れ込むハインリッヒ。
彼女の背にギコが乗っかり、動きを封じた。
- 355 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:34:16 ID:qhRfP9qoO
-
一連の流れは、ほんの数秒間のことだった。
言い逃れを続けようとしたのなら、まだ何とかなったかもしれない。
しかしハインリッヒは逃げようとした。
その行動は、もはや「答え」だ。
(#,゚Д゚)「オサムちゃん!」
【+ 】ゞ゚)「ああ」
オサムがハインリッヒの前に移動した。
左手で彼女の前髪を掴み上げる。
そうして露になった額に、右手の木槌を叩き込んだ。
从; ∀从「──っ」
力が入っているようには見えなかったのだが、その瞬間、ハインリッヒは気を失った。
オサムが手を離す。
支えがなくなって、ハインリッヒの頭は勢いをつけて床に落ちた。
痛そう、と顔を顰めながら、ギコが彼女の上から退く。
- 356 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:35:33 ID:qhRfP9qoO
-
(;,゚Д゚)「あらっ」
直後、ハインリッヒの髪や着物が、雨に濡れたかのように水気を含んだ。
髪の先から水が滴っていく。
今し方の一瞬の騒ぎも収まり、場には静寂が満ちていく。
そこに弟者とツンが、ぽつりと一言。
(´<_`;)「……濡れ女子」
ξ゚?゚)ξ「やっぱり、浮遊霊じゃなくて妖怪だったのね」
*****
- 357 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:37:31 ID:qhRfP9qoO
-
ドクオには無罪の判決が出された。
その後、ギコとしぃが慌ただしくハインリッヒを連行していき、
オサムも「そっちの裁判はまた後で」とだけ言って、くるうと共に消えた。
何とまあ、あっけない終わりだ。
('A`)「……」
ξ゚ー゚)ξ「おめでとう、ドクオさん」
ビルの前。
壊れかけた街灯の頼りない光の下で、ツンは言った。
ドクオはぶすっとした顔でそっぽを向いている。
('A`)「疑ってごめんなさい、ぐらい言ってくれてもいいんじゃねえか、あの検事共」
ξ;゚ー゚)ξ「まあ、ハインさんの裁判で呼ばれるだろうから、そのときに期待したら?」
苦笑し、ツンは内藤と弟者に振り返った。
- 358 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:40:21 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚ー゚)ξ「2人共、お疲れ様。ありがとうね。
君達のおかげで、ドクオさんの無実を証明出来たわ」
('∀`)「おお、そうだそうだ、ナイス証言だったぜお前ら!! ありがとな!
何だかんだで、お前に取り憑こうたした辺りも有耶無耶になって万々歳だ!」
( ^ω^)「はあ、どういたしまして」
(´<_`;)「俺は最初から最後まで、何が何だかよく分からんままなんだが……。
……ブーン、本当に幽霊見えるんだな」
法廷を出てから、弟者にはドクオが見えなくなったようだった。
内藤の肩を掴みつつ、不安げにあちこち見回している。
- 359 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:42:16 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚?゚)ξ「変な裁判に参加させられて疲れたでしょ。お家に帰ったらゆっくり休んでね。
あ、このことは内密に」
(´<_`;)「だから、言ったところで誰が信じるんだよ……。
なあブーン、もう帰ろう。俺ここに居たくない」
( ^ω^)「そうするかお」
ξ゚ー゚)ξ「途中まで送るわ」
('A`)「俺も帰らせてもらうぞ。くたくただ」
ξ゚ー゚)ξ「ええ、さようなら。
さっきも言った通り、今度は証人として呼ばれることになるだろうから
明日にでも、私と一緒に裁判長のところに行くわよ」
(;'A`)「……そうかい。面倒くせえな」
ふわり、ドクオが浮かぶ。
そのままツンを見下ろし──ばつが悪そうに口を開いた。
- 360 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:43:49 ID:qhRfP9qoO
-
('A`)「……あんたのことは信用してないし、今回は証人のおかげで助かったに過ぎないが、
まあ一応、礼は言っとく。
ありがとうよ。それと7連敗を阻止出来て良かったな。おめでとう無能弁護士」
ツンは答えず、笑みを深めると片手を振った。
ふん、と鼻を鳴らし、彼はさらに浮上する。
('A`)「じゃあな内藤少年。今度会ったら体貸してくれ」
( ^ω^)「絶対に嫌だお」
('A`)「ちょっとぐらいはいいだろ」
けち。
その言葉を残して、ドクオは消えた。
一拍おいて、ツンが踵を返す。
ξ゚?゚)ξ「さ、帰るわよ」
( ^ω^)「はいお」
(´<_` )「……おう」
今日は色々ありすぎた。
早く帰って、一息つきたい。
- 361 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:49:38 ID:qhRfP9qoO
-
──しばらく、無言のまま歩いた。
内藤と弟者の前をツンが進んでいく。
その背に、内藤は問い掛けた。
( ^ω^)「ギコさんにドクオさんを逮捕させるために、ハインさんはああいう証言をしたんですおね」
ξ゚?゚)ξ「そうね。たまたま被害者の周りで見ることが多かったから、利用することにしたんでしょ」
( ^ω^)「なのにドクオさんが逮捕された後に、うちの玄関に泥を付けましたお。
何ででしょうかお」
ξ゚ -゚)ξ「ううん……多分だけど、あんなに早くドクオさんが捕まるとは思ってなかったんでしょうね。
本当は、ドクオさんが捕まる前に弟者君を『仕留める』つもりだったのかも。
あわよくばその罪もドクオさんに被せる予定だったり」
(´<_`;)「しっ、仕留める!?」
ξ゚?゚)ξ「殺すつもりだったのか、ただ精神を衰弱させるつもりだったのかは分からないけどね。
……で、多分、玄関に泥やっちゃった後で、ドクオさんが逮捕されたことを知ったんじゃないかしら」
( ^ω^)「間抜けな人ですお」
(´<_`;)「……仕留める……」
会話が途切れた。
再び無言に。
- 362 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:52:49 ID:qhRfP9qoO
-
内藤は横目に弟者を見て、ツンの背中を見て、また弟者を見た。
このまま家に着いたら、もう、弟者に「この話」をする勇気が出ないかもしれない。
呼吸を3回。
そして、ようやく弟者へ声をかけた。
( ^ω^)「……弟者」
(´<_`;)「え? 何だ?」
( ^ω^)「僕の──その、霊感のことだけど」
本当は何事もなかったかのようにやり過ごしたかったが、そうもいかない。
でもやはり、話を振るのも恐かった。
昔の同級生のように、大人達のように。気味悪がられたら。
どうしよう。
(´<_` )「……誰にも言わないよ」
続きの言葉が出てこない内藤に、弟者は答えた。
内藤の肩から力が抜ける。
- 363 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:54:28 ID:qhRfP9qoO
-
(´<_` )「姉者が知ったら、どれだけ怯えるか分からないし。
兄者や妹者には面白がられるだろうし、そんなの面倒だろ、お前も」
( ^ω^)「……うん」
(´<_` )「なら、黙っとく」
(´<_`;)「……だからっ、お前も変なもの見ても俺に報告とかするなよ!?
あと、みんなに言い触らすなよな! 俺が幽霊とかそういうの苦手だって!」
焦ったような声で弟者は続けた。
内藤は反芻し、吹き出す。
──内藤は、幽霊が見えることを知られたくない。
弟者は、幽霊が苦手なことを知られたくない。
同じだ。どちらも互いの弱み。
頷き、弟者の背を叩いた。
( ^ω^)「分かってるお。……ありがとう」
くすくす、前を歩きながらツンが笑う。
その笑い声は穏やかで、少し、優しくも感じられた。
.
- 364 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 17:59:52 ID:qhRfP9qoO
-
この数日後。
道端で会った際、ドクオからハインリッヒの裁判について聞いた。
何でも、ハインリッヒは全国を移動している折に、梅雨の時期になっては
ちょくちょくその辺の男を捕まえて、弟者達に行ったような「いたずら」をしていたのだという。
「いたずら」の内容は泥に限らず、色々あったようだ。
そうして弱らせた相手の精気を吸い取ったり、
時に命を奪っては喰らったりして、自身のエネルギーにしていた。
根っからの悪意による犯行だったわけでもない。
「そういう妖怪」なのだから仕方がなかった。
とはいえ、相手を生かしたまま精気を吸収することも可能なのに、何人かの命を奪っていた件。
榊原マリントンに対して殺意はなかったものの、運悪く亡くなった彼の魂を、その機に乗じて喰らった件。
さらに、反省するでもなく、すぐさま標的を弟者に切り替えた件。
極めつけは、ドクオに罪をなすりつけるために検察側の証人になった件。
これら諸々の理由から、実刑は免れなかったという。
刑とはどんなものだろうと気にはなったが、
ドクオが性懲りもなく「体を貸せ」と言って
無理矢理憑こうとしてきたので、ぶん殴って放置しておいた。
- 365 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:01:38 ID:qhRfP9qoO
-
これが、内藤が幽霊裁判に初めて参加した事件の顛末である。
*****
- 366 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:03:03 ID:qhRfP9qoO
-
時を戻して7月。土曜日。
( ^ω^)
目を覚ます。
時計を見ると、昼を過ぎていた。
布団の中でぼうっとしたまま、昨夜の都村トソンの裁判を思い返す。
ツンは全てを知っているような振る舞いをしていた。
今にして思えば、ドクオの裁判でもそうだ。
弟者を証人として呼んでいた。下駄箱に関する証言なら、弟者でなくても良かったのに。
わざわざ、ハインリッヒと接触したことのある弟者を。
- 367 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:04:20 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^)「……」
不意に、視界の隅にちらつく光に気付いた。
携帯電話。不在着信を知らせるランプ。
( ^ω^)(……あ)
しまった。
モララー達に連絡するのを忘れていた。
そして気付いたことがもう一つ。
階下が騒がしい。
嫌な予感。
内藤は部屋を出て、そろそろと階段を下りた。
声は居間から聞こえる。
音を立てぬように近付き、覗き込んだ。
- 368 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:05:16 ID:qhRfP9qoO
-
( ;∀;)「おっ、俺とヒッキーがっ、ブーンのこと置いてって……!!
すぐに気付いたけど、戻るの恐くてえっ!!」
(;_;)「電話かけてもブーン出ないし、
あ、明るくなってから工場見に行ったけど、もう誰もいなくてっ」
( ^ω^)
モララーとヒッキーが号泣していた。
2人の話を、兄者と弟者が真剣な顔で聞いている。
弟者の方はジャージ姿。部活に行っていたところを呼び戻されたのであろう。
- 369 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:07:49 ID:qhRfP9qoO
-
( ;∀;)「もっ、もしかしたら、危ない奴らがいたのかもしれない!!
ブーン、そいつらに誘拐されたんじゃっ……うわあああああ!!」
(;_;)「ごめんなさい! ごめんなさい!」
(´<_`;)「落ち着け2人共。お前らは悪くない」
l从・∀・;ノ!リ人「いま姉者に電話したのじゃ! 今からこっちに来るって!」
(;´_ゝ`)「くそっ……朝飯のときに呼んでも下りてこなかったのはそのせいか!
部屋を見に行けば良かった! そしたらすぐに気付けたのに!」
(´<_`;)「兄者、警察に電話してくれ! 俺はブーンの部屋を見てくる!」
( ^ω^)
( ^ω^)(やべえ)
心配してくれるのはありがたい。
本当にありがたいのだが。
まず玄関に内藤の靴があることを、しっかり確認してほしかった。
そこまで大騒ぎする前に、部屋を見に来てほしかった。
切実に。
- 370 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:08:20 ID:lCwinHKM0
- wwwwww
- 371 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:10:05 ID:qhRfP9qoO
-
恐らく数分後には、モララー達と並んで正座させられ、
鬼の形相をした弟者に叱られているであろう自分の姿が、容易に想像出来た。
case2:終わり
- 372 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:15:14 ID:lCwinHKM0
- 乙
- 373 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:16:35 ID:ZR6y30xE0
- 乙!ツンかっこよかったわ
- 374 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:16:42 ID:lWxT3Otk0
- 乙
- 375 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:18:36 ID:qhRfP9qoO
- 今回の投下終わりです
途中のハインの方言(宇和島弁イメージ)、間違ってたらごめんなさい愛媛の人
読んでいただきありがとうございました!
RESTさんもありがとうございます、お世話になってます!
次回がいつになるかはまだ分からないです
ちょっとの間はスレもあまり覗けないかもしれません
ではでは
case2/前編 >>149 後編 >>286
- 376 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:26:12 ID:DQkkkurE0
- 乙
- 377 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:36:45 ID:vLVlqXg.0
- 超乙
- 378 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 18:47:08 ID:M91XpJlMO
- ついさっき投下してたのか
乙乙
- 379 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 19:17:12 ID:VrG5xFEo0
- 面白かったぜ、乙
- 380 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 19:23:56 ID:7Mqlq5Xw0
- グレネード乙
- 381 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 19:32:47 ID:aMV6YmnUO
- すげー面白かったです。
- 382 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 20:02:15 ID:7K6RtDDk0
- この話やっぱ大好きだわ
続きいいつまでも待ってる
- 383 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:40:07 ID:K23/nMYY0
- おつ
ツンさんの逆転勝ちが痛快でたまらん
- 384 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:36:28 ID:yuJAv62.0
- おお、綺麗にまとまったなあ
乙乙
- 385 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:46:39 ID:qy0dsVcc0
- おつ
続き待ってるぜ
- 386 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:08:01 ID:KvxOiXI.0
- 乙!
次も楽しみにしてる
- 387 :名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 00:26:32 ID:0xwmdaao0
- 超乙!
大好き
- 388 :名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 20:30:08 ID:FkLfJXWsO
- めっちゃ面白かったです!!乙!!
ハイン
http://imepic.jp/20121126/732240
弟者
http://imepic.jp/20121126/732820
http://imepic.jp/20121126/733420
- 389 :名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 20:21:03 ID:vQKH5HzI0
- ドクオが体を借りてやりたかったこととは……
>>388いいなブーンのこのなんともいえない表\情
- 390 :名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 20:25:47 ID:0SHCpdf20
- 乙です!
- 391 :名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 22:15:22 ID:WN17dz.o0
- 弟者のギャップが素晴らしい
- 392 :名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 23:09:58 ID:sh7slROE0
- 乙ー!
- 393 :名も無きAAのようです:2012/11/30(金) 00:38:03 ID:DhE7vZfA0
- >>389
オナニーじゃね
- 394 :名も無きAAのようです:2012/12/02(日) 12:41:21 ID:99K6Qt3o0
- 待ち続ける
- 395 :名も無きAAのようです:2012/12/08(土) 00:09:32 ID:ahpCr0i.0
- 乙
- 396 :名も無きAAのようです:2012/12/25(火) 20:51:29 ID:RzCe2EuE0
- 今年はもう無理かなー
- 397 :名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 14:34:58 ID:wvWIIUrQ0
- >>388
レス遅れてすみません! ありがとうございます!
ハインの胸元に視線を持っていかれるやら3枚目の弟者の情けなさに笑ってしまうやら
ちょっと体調とか諸々の問題で(別にそんなに重いものでもないんですが)、もうしばらくは投下できる環境になれなさそうです
本当にごめんなさい。順調にいけば再来月までには来れるかもしれません
復活するまで何話か書き溜めておけるように頑張ります
- 398 :名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 16:01:03 ID:NNJ4cVO20
- 期間空いても待つし来たら支援するから無理すんなー
- 399 :名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 17:46:49 ID:XogEGVIE0
- いつでもいいぞーお大事にー
- 400 :名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:12:26 ID:evd0B5Jk0
- いつまでも待ってます!
- 401 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 23:57:45 ID:mJfDqIlA0
- http://i.imgur.com/SJA0V.jpg
頑張ってください!
- 402 :名も無きAAのようです:2013/01/11(金) 13:09:22 ID:rwjcZOMI0
- >>401
ありがとうございます!
ツンが可愛くてにやける
嬉しいです。頑張ります
- 403 :名も無きAAのようです:2013/02/01(金) 22:14:20 ID:IagsyB5AO
- 再来月来ちゃったか……
- 404 :名も無きAAのようです:2013/02/04(月) 22:56:12 ID:SQr2MX7EO
- 再来月来ちゃったね……
たぶん明日投下する。そうでなければ明後日に。
シベリアで感想とか絵とか書いてくれた方々、ありがとうございました
あと今更だけどミスを発見した
>>292
> 町の端、ある神社に祀られている神様だという。
↓
町の真ん中、ある神社に祀られている神様だという。
- 405 :名も無きAAのようです:2013/02/04(月) 23:19:41 ID:ocvwmkF20
- あと50分で明日だな
- 406 :名も無きAAのようです:2013/02/04(月) 23:52:14 ID:/LEoTy6c0
- 10分切りましたおーばー
- 407 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 01:21:06 ID:DF7YRXZI0
- 明日キタ────∩(`ω´)∩────ッ!!
待ってます
- 408 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 20:56:44 ID:jIsGywL2O
- 投下します
ちょっと疲労が溜まってるので、今日は1/3くらい投下して
残りは明日投下します
- 409 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 20:57:56 ID:jIsGywL2O
-
('( ∀ ∩「……ぁ」
ほんの数秒後、体中を駆け巡っていた痛みは消えた。
真っ暗になっていた視界に明るさが戻る。
手足が動く。顔や胸を撫でても、全く痛まない。腕にも軋みはない。
周囲に人だかりが出来ている。
皆、好奇と一抹の怯えを浮かべながら、僕を眺めている。
右手を振ってみせるが、誰も反応を返さない。
それどころか、手の動きを目で追うこともしない。
('(゚∀゚∩(……ああ)
そうか。
僕は死んだのか。
('(゚∀゚∩「……ヒート……」
ノパ?゚)
愛しい人の名を呼ぶ。
彼女は僕のすぐ傍に浮かび、こちらを見下ろしていた。
健康的に日焼けした彼女の手に、自分の手を伸ばす。
- 410 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 20:59:59 ID:jIsGywL2O
-
ノパー゚)
しかし彼女は微笑んだだけで、応えてくれなかった。
しばらくして救急車のサイレンが近付き、人だかりがバラけた。
幾人かの男が担架を持って駆け寄ってくる。
そして──僕は、救急隊員に運ばれていく「僕」を見送った。
どうせ無駄だ。だって、運ばれていったのは肉体だけ。もはや抜け殻でしかない。
魂は、僕という存在は、ここにいる。
ノパー゚)
('(゚∀゚;∩「! ヒート!」
彼女が背を向け、人々の間をすり抜けていく。
追いかけなければ。
死んだばかりなせいか、動きにくい。
僕は何とか起き上がって彼女を追った。
どんどん距離が開いていき、彼女が視界から消え──かけた。
ノハ;゚?゚)「あっ……」
彼女の動きが止まる。
どうやら、何者かに腕を掴まれたようだ。
- 411 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:02:13 ID:jIsGywL2O
-
(,,゚Д゚)
彼女の腕を掴んだまま、じろりと睨みつけた男。
大柄で、精悍な顔つきをしている。
ワイシャツにネクタイ、スラックス。いかにも仕事の途中といった出で立ちだ。
彼はこちらを見遣り、憐憫を瞳に浮かべた。
(,,゚Д゚)「……助けられなくて、ごめんなさいね」
彼はスラックスのポケットから細長い紙を取り出した。
表側にはミミズがのた打ったような文字。
そして、その紙で彼女の両手首をまとめて縛った。
彼女は困惑した顔で男を見上げている。
('(゚∀゚;∩「なっ……何してるんだよ!?」
思わず、彼の腕を掴もうとした。
けれど触れない。
そうか、僕はもう幽霊なのだ。
- 412 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:03:16 ID:jIsGywL2O
-
(,,゚Д゚)「現行犯逮捕よ。あたし、たまたま全部見てたもの」
('(゚∀゚;∩「現行犯? ヒートが?」
彼が女口調であることには、この際、構わないことにした。
それより、彼女が犯罪者であるような物言いをされたことの方が重要だった。
彼女は優しい人だ。犯罪に手を染めるような人間ではない。
そう言おうとして──目が眩んだ。
ちかちか、既視感を伴った光景が脳裏に浮かんでは消えていく。
──僕は、SSビルに来ていて。
最上階の展望台フロアに入って。
('( ∀ ;∩「……っ!」
そうだ。
彼女が。
彼女が僕の体を操って、窓から──
.
- 413 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:03:51 ID:jIsGywL2O
-
case3:復讐罪
.
- 414 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:04:55 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)『……ツンさん、全部知ってたんですかお。
僕とトソンさんが会ってたのも、トソンさんが絶対に犯人じゃないってことも』
ξ゚?゚)ξ『……』
( ^ω^)『だからあんなに必死になってトソンさんの無罪を主張したんじゃ──』
夜道の中、2人は言葉を交わす。
少年──内藤ホライゾンは、出連ツンの顔を見つめ、その真意までをも暴こうとしている。
しかしツンは背を向けてしまった。
ξ゚?゚)ξ『君がまた幽霊裁判に関わるようなことがあれば、教えてあげる。かも、ね』
絶対に関わるものか。内藤は思う。
しかし知りたいのは確かだ。とも、思う。
遠ざかる背に手を伸ばそうとして──視界が閉ざされた。
.
- 415 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:06:00 ID:jIsGywL2O
-
( ‐ω‐)
( ‐ω^)
起き上がる。
内藤は、時計が午前7時を示しているのを見て、欠伸をしながら布団を出た。
カーテンを開けて朝日を浴びる。
手早く制服に着替えると、鞄の中身を確認してから1階に下りた。
洗面所に入る。
顔を洗い、歯を磨き、身だしなみを整えて。
鏡に向かって、様々な表情を浮かべてみせる。──大丈夫だ。今日も猫被りに支障はない。
( ^ω^)「……」
ふと、先程まで見ていた夢が頭に甦った。
あれは夢というより、記憶の反芻に近い。
一週間ほど前、都村トソンの裁判の後、出連ツンと交わした会話。
彼女の発言は、いかにも意味ありげな口振りだった。
- 416 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:06:45 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)(……あの人は、真実を知ってた)
問題は、なぜ知っていたか、ということ。
──何となく、答えめいたものには気付いている。
内藤とツンは同じだから。同じ──霊感といったものを持っているから。
とある可能性を、内藤は知っている。
だが、「それ」が正解だとすれば、また一つ、気になることが出てくる。
( ^ω^)(……めんどくっせ)
内藤は眉を顰め、冷水で再び顔を洗った。
こんなことを考える必要はない。気にする必要もない。
あれは──幽霊裁判なんてものは「非日常」だ。平凡な日常を送るにあたって、邪魔となるものだ。
水を止める。タオルで顔を拭いながら、鏡に目をやった。
('A`)
内藤の真後ろに、痩せぎすの男が立っていた。
今まさに内藤の肩を掴まんとする体勢で。
- 417 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:07:43 ID:jIsGywL2O
-
('∀`)ノシ
( ^ω^)「何してんだお」
鏡越しに男を睨みながら、問いかける。
ドクオ。ここ最近、内藤の周りをうろついている浮遊霊である。
('∀`)「いやねえ、内藤少年に朝の挨拶……ついでにちょっと取り憑──」
内藤が滅多に見せない鬼の形相を浮かべると、ドクオは口を噤んで消えた。
*****
- 418 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:08:45 ID:jIsGywL2O
-
(-_-)「──あのさ、この前、駅前のビルで飛び降りがあったでしょ」
昼休み。
ヴィップ中学校、2年1組。
内藤の席の横、窓際に寄り掛かっていた小森ヒッキーが
不意にそんな話題を出した。
( ^ω^)「飛び降りって──ああ、SSビルの?」
(-_-)「そう。……その飛び降りた人ってさ、僕も知ってる人だったんだよね」
(;^ω^)「そうなのかお? それは……何て言ったらいいか」
覚えがある。数日前にニュースで見た。
駅前の高層ビル、SSビル。
そこで、男が飛び降り自殺を図ったという事件が起きたのだ。
内藤は驚きと哀悼を混ぜ合わせたような表情を「作って」、ヒッキーに答えた。
そこへ別の声が割り込む。
- 419 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:10:00 ID:jIsGywL2O
-
( ・∀・)「あれか! 展望台に来てた客がいきなり窓開けて──」
(´<_` )「で、飛び降りたってやつだな」
内藤と向かい合うように座っていた浦等モララーと、その隣でしゃがみ込んでいる流石弟者の声だった。
モララーの手にはトランプが2枚、弟者の手には1枚。
4人でババ抜きをしていたのだが、内藤とヒッキーが早々に上がってしまったため、
残る2人の一騎討ちとなっていた。
( ・∀・)「ふらっと1人で来て、ふらっと飛び降りたらしいからなあ。
初めからそれが目的で来てたんじゃないかって言われてる。
──弟者君やい、本当に右でいいのかな? 左の方がいいかもよ? いや、やっぱ右かな?」
( ^ω^)「でも、そういうところの窓って簡単に開かないようになってるんじゃないかお?」
( ・∀・)「一ヶ所だけ、窓の鍵が壊れちまってたんだと。
だから業者が来るまでの間、その窓の周りだけ立ち入り禁止にしてたんだけど──
おっと、右か!? 右を引くのか弟者!?」
(´<_` )「その窓から飛び降りたわけか」
(;・∀・)「そうそう──あああっ! くそ! 左引けよ馬鹿!!」
(´<_` )「上がり。モララーおめでとう、3連続ビリだ」
スペードの2とダイヤの2が、弟者の手から机の上へと落ちる。
モララーはジョーカーを叩きつけるように放り、ぐったりと机に突っ伏した。
- 420 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:13:07 ID:jIsGywL2O
-
(;・∀・)「ちっくしょー……もう一回! もう一回やろう!」
(;^ω^)「モララー、3人分×3回で、ジュース9本奢ることになってるんだお?
もうやめた方がいいお」
(´<_` )「次もビリになったら計12本の奢りだな」
(;-_-)「あんまりお金残ってないんでしょ。ここら辺にしときなよモララー」
(;・∀・)「いいや、やる! 俺はやる! 一回でも勝たないと男が廃る!」
( ^ω^)(こいつの将来が心配だなあ)
その言葉は飲み込み、内藤はトランプを集めて整え、シャッフルした。
それから順番に配りながらヒッキーを横目で見る。
( ^ω^)「ヒッキーの話が途中だおね」
( ・∀・)「あ、そういやそうだった。飛び降りの話だっけ」
(´<_` )「ヒッキーとはどういう関係の人だったんだ?」
(-_-)「関係っていってもね、僕がよく行ってた病院の先生ってだけだよ。
お世話になったのは数える程度だし。
でもすごく優しい人だったのは覚えてるなあ」
- 421 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:15:11 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)「何で自殺なんかしたのかお……」
(-_-)「それが、僕も詳しくは分からないんだけど、
一年くらい前にその先生の恋人が自殺してたらしくて──」
( ・∀・)「おお、後追い!?」
(-_-)「さあ……。そう噂する人も多いみたい」
それぞれの手札から、数字の揃っているカードが机に捨てられていった。
1分と経たずに、全員、手札の準備が完了する。
ジョーカーは内藤の手札の中。
( ・∀・)「その展望台ってもう入れんのかな? ちょっと見に行きたいよな」
(´<_` )「ビルの前、まだ血痕が残ってたらしいぞ。兄者が言ってた」
(;-_-)「うえー。しばらくあそこ通るのやめようかな」
順にカードを引いていく。
内藤のジョーカーは早速モララーの元へ旅立っていった。
- 422 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:16:39 ID:jIsGywL2O
-
2巡目。
内藤はヒッキーの手からカードを取り、自分の手札と見比べた。
('A`)「ハートの8とクラブの8」
( ^ω^)「あ、本当──」
内藤の手が止まる。
そっと右側へ顔を向けると、今朝会ったばかりの男と目が合った。
v('A`)「よう内藤少年」
覗き込むように前屈みになったドクオが、右手でVサインを作る。
内藤は正面へ顔を向け直し、8のカードを2枚、机へやった。
( ・∀・)「何かあった?」
(´<_`;)" ビクッ
( ^ω^)「いや、何でもないおー」
最近は、内藤が何もない場所を見ると弟者が怯えるようになった。
たぶん彼は犬猫を飼えないであろう。
それはともかく。さて、このまま無視するか、隙を見て蹴り飛ばすか。
ドクオへの処遇を思案する内藤だったが、続けてドクオが口にした言葉に意識を引かれてしまった。
- 423 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:18:09 ID:jIsGywL2O
-
('A`)「今度は取り憑きに来たんじゃねえぞ。
裁判の話だ」
裁判。
わざわざドクオが内藤に話しに来たということは、「普通の」裁判ではなく。
幽霊裁判。
(´<_`*)「あ、残り1枚」
(;・∀・)「早っ! 弟者ずりい!」
(-_-)「モララーの手札が一番多いね……」
当然ながら、他の者にはドクオの姿は見えていないし、声も聞こえていない。
('A`)「弁護士がぶっ倒れた。お前に助けてほしいっつってるぞ」
──弁護士、は、確実に。
出連ツンのことだ。
内藤は頭を掻き、手札を机に置いた。
立ち上がる。
- 424 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:20:09 ID:jIsGywL2O
-
(;^ω^)「ごめんお! 先生に呼ばれてたの思い出したお……」
( ・∀・)「えー。どんぐらいで戻ってくる?」
(;^ω^)「ちょっと面倒な書類とかの話らしいから、結構かかるかもしれないお。
だから申し訳ないけど、この勝負は終わりってことで……」
(´<_` )「そっか、分かった」
(-_-)ノシ「行ってらっしゃーい」
(*・∀・)「あっ、じゃあ、じゃあっ、試合放棄ってことでブーンの負けだからな!
俺らにジュース1本ずつ奢りな!」
(;-_-)「うわ、ここぞとばかりに」
(;^ω^)「それでいいおー。本当ごめんお!」
両手を合わせて謝り、内藤は慌てた様子で教室を出た。
階段を上り、屋上前の踊り場に立つ。
周りに誰もいないのを確認して、後ろへ振り返った。
相変わらず顔には笑みを湛えているが、目は冷たい。
- 425 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:22:05 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)「つきまといの罪で訴えてやってもいいんですお」
(;'A`)「清々しいほどキャラが違うな、少年」
ふわふわと浮かびながら、ドクオが溜め息をついた。
こういった場所は浮遊霊や妖怪が集まりやすいので好きではないのだが、
ドクオと会話するには、人のいないところに来るしかない。
( ^ω^)「言っておくけど、あの人が倒れようが僕には関係ないことだお」
('A`)「じゃあ何でわざわざこんな場所まで移動したんだ?
詳しく話聞こうと思ったんじゃねえのかよ?」
( ^ω^)「……」
答えられず、目を逸らす。
黙考した内藤は、観念してドクオに視線を向け直した。
- 426 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:23:55 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)「倒れたって、いつどこで倒れたんですかお」
('A`)「さっき。20分くらい前?
場所は神社な。オサム様の家」
( ^ω^)「何で、あんたがそれを僕に伝えに来たんだお」
('A`)「俺も神社にいたんだ。
先月の裁判で俺、冤罪吹っ掛けられたろ。
それのアフターケアだか詫びだか知らんが、たまに呼ばれる」
嫌な予感が、じわじわと。
( ^ω^)「……『助けてほしい』っていうのは、介抱しろとか救急車呼べとかいう意味──」
('A`)「あ、違う違う。
俺最初に言っただろ。裁判の話だって」
( ^ω^)「……じゃあ、それ、あれかお。要するに『手助けしろ』って」
('A`)「そういうこと。だから、放課後に神社に来いってよ。
カンオケ神社。場所分かるか?」
内藤は踵を返した。
階段を下りようとしたが、「待て待て」とドクオに手を引っ張られる。
- 427 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:25:03 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)「何と言われようと、助ける気はありませんお」
('A`)「それならそれでいいさ。強制じゃないっつってたし。
ただ、これ」
('A`)つ\(^o^)/ スッ
言って、ドクオは一つのぬいぐるみを掲げてみせた。
一体どこに隠し持っていたのだろう。
球体に棒状の腕を付けたような単純な作り。お手上げ、というようなポーズだ。
その割に顔は笑っているが。
何故だか、不穏な気配を感じる。
( ^ω^)「……何それ」
('A`)「オワタくん人形。
少年が非協力的なようなら、渡しといてくれって弁護士から頼まれた」
ドクオは内藤の手にぬいぐるみを乗せた。
くれるのだろうか。物凄くいらない。
- 428 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:25:46 ID:jIsGywL2O
-
('A`)「世を儚んで絶望し、全てを投げ出さんとしているキャラクター、オワタくん。
十何年か前、少しだけ流行ったんだとよ」
( ^ω^)「そんな鬱々としたキャラクターが何故人気に……」
('A`)「俺が訊きたいわ」
( ^ω^)「ああもう、これ不吉極まりないお」
瞬間、ぞくりと悪寒が走った。
反射的にオワタくん人形を取り落とす。
オワタくんがころころと階段を転げ落ちていく様は、なかなか物悲しかった。
首を傾げつつ、内藤はドクオを一瞥すると顔を背け、足早に下りていった。
*****
- 429 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:26:56 ID:jIsGywL2O
-
さて、それから一時間後。
, , ,( ^ω^) トボトボ…
内藤は教室ではなく外にいた。
鞄を肩に提げ、重い足取りで進んでいく。
体中に倦怠感。
動きたくない。
それ以上に辛いのは、沈み込んでいくばかりの気持ちだった。
果てない海の真ん中に放り込まれたような絶望、諦念。
何となく、
( ^ω^)(死にたい……)
漠然とした鬱屈。
黒い靄が内藤の右手に巻きついている。
その靄の発生源は、同じく右手に抱えられた、オワタくん人形であった。
.
- 430 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:28:07 ID:jIsGywL2O
-
ドクオと別れて教室に戻ったとき、階段で落とした筈のオワタくん人形が
内藤の机の中から出てきた時点で、碌なことにならないという予見は出来ていた。
出来ていたのに、すぐに午後の授業が始まったせいで人形を便所に流すことも叶わず、
気付けば、内藤の右手は靄に包まれていた。
さらに突発的に沸き上がった「死にたい」という感情。
それらは時間が経つごとに、濃厚さを増していった。
そこへ教師が「顔色が酷いぞ」と声をかけてきたので──
内藤は早退を申し出ると、荷物を抱えて学校を後にしたのだった。
そして今に繋がる。
.
- 431 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:29:48 ID:jIsGywL2O
-
もちろん悔しい。
これはツンによる罠なのだ。内藤を誘き寄せるための。
しかし放ってもいられない。放っているのは何より危険な気がする。
( ^ω^)(……カンオケ神社……)
その神社の名を、聞いたことはあった。
行ったことはない。
正月に弟者達から初詣に誘われたが、体調を崩していて、断ったのだった。
('∀`)「あーあ。かーわいそ、かーわいそ♪ 呪われちゃって、かーわいそ♪
早く何とかしないと、マジで死んじまうんじゃねえの?
俺が取り憑いてやろうか? そんな人形の呪い程度なら跳ね返せるかもー♪」
( ^ω^)「黙れお」
前を行くドクオを睨みつける。
校門で待ち構えていた彼が神社への道案内を申し出たのは、正直助かった。
申し出たというか、そうするようにとツンに命令されていたらしいが。
それにしても、実に楽しそうだ。
殴りたい。が、その行動すら億劫。
内藤はドクオを睨んだまま、ふと湧いた疑問を口にした。
- 432 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:30:37 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)「何でそんなに取り憑きたがるんですかお」
('A`)「あ?」
( ^ω^)「体貸せ体貸せって言うけど、いざ取り憑いたとして、何がしたいんですかお?」
ドクオの笑みが消える。一瞬だけ悲しそうな目をした──ように、内藤には見えた。
以降、彼は黙ったので、答えづらい質問だったのだろう。
てっきり下らない返答が来るものだと思っていたので、少し意外だった。
深追いするのは失礼な気がして、内藤も口を噤む。
('A`)「……あ、着くぞ」
しばらく歩いて、鳥居が見えてきた頃、ドクオは口を開いた。
森林の片端に置かれた鳥居。
その脇に、「カンオケ神社」と社名が彫られた石柱が置かれている。
鳥居の向こうを覗けば、参道や社殿、右手に手水舎などが見えた。
古びた雰囲気がある。
手水舎の傍には袴姿の男が1人。
箒を持って、ぼうっとしている。
- 433 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:31:24 ID:jIsGywL2O
-
('A`)「ほら、こっち来い」
ドクオが鳥居をくぐる。
内藤も続いた。
参道には石畳が敷かれていた。
真ん中は神様が歩く道だと聞いたことがあるので、端の方を歩く。
ふと、袴の男が内藤に顔を向けた。
(´・ω・`)
('A`)「よう、青ネギ」
( ^ω^)(青ネギ?)
どことなくしょぼついた顔の、30代を過ぎるか過ぎないかの男だ。
彼は内藤とオワタくん人形、そしてドクオを見遣って、にっこり笑った。
(´・ω・`)「ツンさんに呼ばれた子ですね。内藤君だっけ。こんにちは」
( ^ω^)「……こんにちは」
内藤も笑みを深めようとしたが、上手く出来なかった。
表情を作るのすら面倒臭い。
そもそもツンの知り合いなら、内藤の本性を知っているかもしれない。
- 434 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:32:46 ID:jIsGywL2O
-
(´・ω・`)「よろしくお願いします。僕はここの禰宜のショボンです」
( ^ω^)「ねぎ……」
(´・ω・`)「宮司さんの補佐ですよ」
ショボンと名乗った禰宜は、にこにこと笑みを浮かべている。
穏やかな印象。
とりあえず、ドクオが「青ネギ」と呼んだ理由が分かった。
背が高い──というか、ひょろりと細長く、肌が生白い。
('A`)「弁護士は?」
(´・ω・`)「ツンさんなら、まだ寝てますよ」
ショボンとドクオが言葉を交わす。
見えるんですか、と内藤は訊ねた。
(´・ω・`)「神社の中限定ですけどね。
あ、内藤君、手を洗って」
手水舎の前で作法を教わりながら手を洗う。
それが済むと、ショボンは社殿の方へ歩いていった。
内藤はハンカチで手を拭いつつドクオと共についていく。
- 435 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:33:36 ID:jIsGywL2O
-
(´・ω・`)「捕まった『おばけ』は、ここの拝殿にて拘束されます。
弁護士さん達は主に、拝殿の中で彼らの話を聞くんですよ」
歩きながら、ショボンは優しい声で説明してくれた。
幽霊裁判については彼も把握しているようだ。
('A`)「俺も、先月はそこにぶち込まれてたなあ」
( ^ω^)「ずっと入ってれば良かったのに」ボソッ
('A`)「あ、なーんか聞こえた。なーんか腹立つこと聞こえた今」
賽銭箱の向こう、3段程度の階段を上がる。
ショボンが格子戸を開け、中を見て──
(;*´゚ω゚`)「ほあぁああっ!!」
叫び、後ろに仰け反った。
- 436 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:35:59 ID:jIsGywL2O
-
顔を真っ赤にし、目を覆うショボン。
そんなショボンをドクオが呆れた表情で眺めている。
何事だ。
内藤は、そっと拝殿を覗き込んだ。
拝殿の中は、思ったより広かった。
床は板敷きで、祭壇らしきものや神具が置かれている。
何となく薄暗い室内を想像していたのだが、実際は随分と明るい。
【+ 】ゞ゚)「お。来たな」
祭壇の前にオサムが胡座をかいて座っていた。
その足の上に、くるうがちょこんと乗っかっている。
- 437 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:37:29 ID:jIsGywL2O
-
川 ゚ 々゚)「ブーンだー」
( ^ω^)「あ、どうも」
(;*´・ω・`)「おさ、おさっ、オサム様! ここは神聖な場所ですよ!
そんな、は、破廉恥な、あなた、そんなっ!!」
( ^ω^)「え?」
【+ 】ゞ゚)「ううむ……くるう、下りるか」
川#゚ 々゚)「やだ!」
くるうがオサムにしがみつく。
ショボンは、またも奇声を上げた。
- 438 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:39:26 ID:jIsGywL2O
-
(;*´゚ω゚`)「うわあっ、いやらしいいやらしい! 何て恥ずかしい神様なんだ!」
( ^ω^)「……」
('A`)「青ネギ、いいから少年を上げてやれ」
(*´・ω・`)「あっ、そっ、そうですね、どうぞ内藤君、靴を脱いで上がって……」
オサムから目を逸らして草履を脱いで、ショボンが拝殿に上がった。
内藤も靴を脱いで中に入り、ドクオはわざわざ格子戸を摺り抜けていく。
左手の奥に、黒いブラウスの女が横たわっていた。
扇風機の風が金髪を揺らしている。
ショボンと内藤は彼女のもとへ行き、その横に膝をついた。
ξ- -)ξ
(´・ω・`)「ツンさん、ツンさん」
出連ツン。
ほんのり、いびきが混じった寝息を立てている。
よだれまで垂らして、一向に目を覚まさない。寝汚い。
- 439 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:41:41 ID:jIsGywL2O
-
(´・ω・`)「内藤君来ましたよー」
ξ- -)ξ
(;*´゚ω゚`)「ツ、──ぎゃあああああっ!!」
また叫んだ。
ショボンの視線は、ツンの胸元に向いている。
リボンタイが解かれ、ボタンが2つほど外されていた。
(;*´゚ω゚`)「ひええええ……! ひええええ……!!」
('A`)「耐性なさすぎだろ」
( ^ω^)「ええと……。……ユニークな人ですね」
(;*´゚ω゚`)「違っ、僕は別に! 別に興奮はしてません!
寝ている女性をはだけさせて、ぎりぎり起こさないラインを見極めつつ色々まさぐりたいとか、
そんな願望は決して!!」
( ^ω^)(あ、ただのドスケベで気持ち悪い人だ)
【+ 】ゞ゚)「お前はいつか裁判沙汰になるんじゃないか。人間の方の裁判の」
川 ゚ 々゚) ?
くるうの耳を塞ぎつつ、オサムが呟く。
そうこうしている内にショボンが鼻血まで吹き出し始めた。
駄目だ。駄目な人だ。
- 440 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:43:05 ID:jIsGywL2O
-
('A`)「こいつの貧乳にまでむらむらするような男、滅多にいねえよなあ……」
ξ゚?゚)ξ カッ
突然ツンの目が見開かれた。
むくりと上半身を起こし、ぎろぎろ、あちこちに視線を飛ばす。
ξ゚?゚)ξ「いま誰かクソ失礼なこと言わなかった?」
( ^ω^)「ドクオさんが、ツンさんは色気がなさすぎるからいっそ性転換した方がいいって」
(;'A`)「そこまで言ってねえだろうがよ!!?」
ξ゚?゚)ξ「……あら、内藤君」
内藤に気付いたツンが、へらりと笑った。
顔が青白い。
本当に具合が悪そうだ。
(;*´"ω"`)「あの、あの、僕は仕事に戻ります、何かあったら呼んでください」
目を白黒させたショボンが、鼻を押さえながら退散する。
出来れば、何かあっても呼びたくないタイプの人種だと思う。
内藤は格子戸が閉められるのを確認し、ツンに顔を向け直した。
- 441 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:45:00 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)「……これ」
挨拶もなしに右手を差し出す。
拝殿に入ってからは弱まったが、それでも依然としてオワタくんの靄が絡みついている。
ξ゚?゚)ξ「ん……うん……」
胸元のボタンを止め、リボンタイを結び、ツンは頷いた。
元気がない。
のろのろと内藤の右腕を持ち上げたツンは、オワタくんを彼女の目の高さに固定した。
そうして、オワタくんに顔を寄せる。
彼女は人形に向かって何か囁いた。内藤にも聞こえないほどの小声で。
途端、靄が消えた。
内藤の気分もすっきりして、生気が戻ってくるのを感じる。
ξ゚?゚)ξ「はい、もう大丈夫よ」
(*^ω^)「ありがとうございますおツンさん。大好き」
満面の笑顔を作って、内藤は全力で人形を叩きつけた。勿論ツンに。
それだけでは足りないので、さらに何か投げてやろうかと鞄を探る。
しかしツンが大人しくしているのを見て、やめた。
- 442 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:46:36 ID:jIsGywL2O
-
ξ゚?゚)ξ「……このオワタくん人形は、不吉な人形ってことで有名になったのよ」
人形を見下ろし、ツンは言う。
たしかに縁起が良さそうには見えない。
そもそも、「世を儚んで絶望したキャラクター」なのだから、
元からネガティブな存在だろう。
ξ゚?゚)ξ「そのキャラクター故か、
持ち主を不幸にするっていう噂が流れてね。
まあ噂は噂だったんだけど……」
ξ゚?゚)ξ「噂が広まれば、それだけ人の念も大きくなるわけで。
その念をたっぷり吸い込んだおかげで、このオワタくんは噂通りの代物になっちゃったのよ。
色々あって、今はここの神社に預けられてるけど」
内藤はオサムを見た。どちらかといえば睨んだ。
オサムは表情を変えずに首を傾げる。
- 443 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:49:11 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)「つまり裁判長の持ち物ってことですかお」
【+ 】ゞ゚)「正確には、元の持ち主が『お祓いしてくれ』って宮司に押し付けたから、
仕方なく俺がじっくり浄化してただけなんだが……」
( ^ω^)「じゃあ人形に関する責任は裁判長にあるわけですおね。
裁判長は人形が危険なのを知ってて、ドクオさんが持ち出すのを許したわけですおね」
【+ 】ゞ゚)「……内藤ホライゾンを呼ぶために貸してほしいって言われたから」
( ^ω^)「だからって素直に貸したら駄目でしょうがお。
おかげで僕、下手したら首でも吊って死んでたんですお。
分かりますおね?」
ξ;゚?゚)ξ「内藤君やめて、大人が子供に叱られてるとこ見たくない。切ない」
川#゚ 々゚)「オサム悪くないもん!!」
くるうがオサムを抱き締める。
オサムの方はといえば、分かっているんだか分かっていないんだか、相変わらず無表情である。
('A`)「あ、俺はただ伝言と配達と案内頼まれただけだしー。無関係ですからー」
ξ;゚?゚)ξ「もう私が悪いから。お願いした私が悪いから。謝るから」
ぺこりと頭を下げるツン。
その拍子に目眩でもしたのか、床に手をつき、辛そうに息を吐き出した。
- 444 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:50:23 ID:jIsGywL2O
-
( ^ω^)「……どうしたんですかお、ツンさん。夏バテですかお」
ξ;-?-)ξ「……ん、ちょっと、仕事がねえ」
過労ということだろうか。
内藤は、先程から見て見ぬふりをしていた一角に視線をやった。
('(゚∀゚;∩「──どうして事実を話してくれないの!?
そんな……そんな態度でいたら、君は凶悪犯にされちゃうんだよ!」
ノパ -゚)「……」
拝殿の隅で向かい合う男女。
男は30代、女は20代ほどか。
男の方が必死で話し掛けているにも関わらず、
女は唇を噛み締めるようにして、答えようとしない。
男が振り回した手が神具を摺り抜けたところを見るに、幽霊なのは間違いなさそうだ。
- 445 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:50:40 ID:wbaMyk2A0
- 投下来てた!!
- 446 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:51:41 ID:jIsGywL2O
-
('A`)「あれが今回の事件の被害者と加害者だとさ。
男が被害者で、女が加害者」
オサムへの捧げ物らしい饅頭を食べながら、ドクオが言った。
物理的に減りはしないのだが、ドクオが食べる動作をする度に
饅頭のふっくらとした色艶が失せていく。
内藤は「へえ」と返し、改めて男女を観察した。
ノパ -゚)
犯人だという女は、手錠などの類をつけていない。
その上、オサムやツンからは少し離れた場所にいる。
( ^ω^)「あれって、その気になれば逃げられるんじゃないですかお」
('A`)「あ、無理無理。ああやって姿こそ現しちゃいるが、
実際は何かしらの『物』に魂が固定されてっから。
あと結界も張られてるし」
体験者はかく語りき。
何でも、札だったり人形だったり、とにかく物体に被告人を閉じ込めて、ここで管理するのだそうだ。
弁護士や検事が彼らから話を聞きたいときには、
物体から一時的に外に出さなければならない。
- 447 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:52:09 ID:nxZYs/qQ0
- 読むのに夢中で忘れてた!支援!!
- 448 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:53:46 ID:jIsGywL2O
-
壁沿いの棚に並べられた札や人形を眺め、内藤はなるほどと頷いた。
これらが全て、何らかの事件の被告人だとするなら、
ツンが過労で倒れてもおかしくない。
ξ゚?゚)ξ「……なおるよさん、大きな声を出してたら、ヒートさんが萎縮してしまいますよ」
('(゚∀゚;∩「でも!」
ξ゚?゚)ξ「ヒートさん、休んでいいですよ」
ノパ -゚)" コクン
女が煙のように消える。
そこには、一枚の紙──お札だけが残された。
オサムがどこからか取り出した木槌で宙を打つと、札はオサムのもとへ飛んでいった。
棚の中、他の札達の隣に並べられる。
('(゚∀゚;∩「あ……」
- 449 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:56:59 ID:jIsGywL2O
-
【+ 】ゞ゚)「弁護士。体はもういいのか」
ξ゚?゚)ξ「はい。……今から事件の話をしますので、申し訳ありませんが
席を外していただけますか?」
【+ 】ゞ゚)「分かった。なら、俺とくるうは本殿に戻る。
……お前はどうするんだ? もっと酒飲むか」
後半はドクオに向けられた言葉だった。
ドクオがオサムと内藤、ツンを順番に見て、肩を竦める。
('A`)「帰りますわ。ごちそうさんでした」
ξ゚?゚)ξ「パシリご苦労様でした」
(#'A`) イラッ
【+ 】ゞ゚)「またな。悪さするなよ。行くぞくるう」
川*゚ 々゚)「はーい」
オサムとくるうが拝殿を出ていき、次いでドクオが格子戸を摺り抜けていった。
残ったのは、ツンと内藤、1人の男。
- 450 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 21:58:23 ID:jIsGywL2O
-
('(゚∀゚;∩「……ヒート……」
ξ゚?゚)ξ「……なおるよさん。お待たせしてすみませんでした。
改めて、詳しく話を聞かせてもらえますか」
──もう、何が何だか。
いきなり呼び出されて、来てみれば来てみたで、放置されて。
内藤は眉根を寄せた。
なおるよ、とかいう男も、先程の札を眺めたまま困惑しきりの様子だし。
( ^ω^)「ツンさん」
ξ゚?゚)ξ「……なあに?」
( ^ω^)「どうして僕を呼んだんですかお」
少し非難の色を込めて訊ねた。
あんな方法で来させたくせに置いておかれるのは、いい気はしない。
ツンは折れていた襟を直して、小さく溜め息をついた。
- 451 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:01:43 ID:jIsGywL2O
-
ξ゚?゚)ξ「ヒートさん──あ、さっきの女の人ね。
彼女の裁判、今夜に迫ってるのよ」
ξ゚ -゚)ξ「……私の体調、ご覧の通り、万全とは言えないでしょ。
だから君にも手伝ってほしいの」
( ^ω^)「手伝うって何を?」
ξ^?^)ξ「まあ、それはそのときに」
絶望的に厄介な話である。
もしかして、また追い詰められたときに「時間稼ぎをしろ」とでも言う気ではなかろうか。
( ^ω^)「そんなに辛いなら、裁判延期してもらえばいいじゃないですかお。
裁判長だってツンさんが倒れるとこ見てるんだし」
ξ;゚?゚)ξ「それは駄目!」
唐突に、ツンは怒鳴った。
内藤が肩を跳ねさせ、なおるよは札からツンへ視線を移す。
一瞬、間があった。
ツンは目を伏せて、ごめんなさいと呟く。
- 452 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:03:54 ID:jIsGywL2O
-
ξ;-?-)ξ「……この裁判は、延期させない方がいいと思うの。
そもそも大して延ばせないだろうし」
( ^ω^)「何でですかお?」
ξ;゚?゚)ξ「現行犯逮捕なのよ。ヒートさん。
犯行現場に、ギコの奴がたまたま居合わせててね……」
ξ;゚?゚)ξ「最悪の場合、開廷から10分で実刑判決の可能性すらあるわ。
しかも私が反証する隙すらなく、ね」
( ^ω^)「……そんなん、あるんですかお」
ξ;゚?゚)ξ「あるわ」
その理由を、ツンは手短に説明した。
それは内藤にも納得出来る話で──
同時に、「ならば何故ツンは裁判をしたがっているのだろう」と首を傾げたくなる話でもあった。
( ^ω^)「それはまた妙な……」
('(゚∀゚∩「……僕は、何かの間違いだと思う……」
- 453 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:05:37 ID:jIsGywL2O
-
なおるよが囁く。内藤とツンは、そちらへ顔を向けた。
彼は膝に乗せた手を握り締め、項垂れている。
('(゚∀゚∩「ヒートは僕の、生前からの恋人なんだよ。
……とても優しくて、──素敵な人で」
愛おしげな声。
口を閉じ、黙り込む。
数秒後、なおるよは顔を上げた。
('(゚∀゚;∩「弁護士さん。ヒートが僕を殺したことは事実でも……
理由はある筈なんだよ。
彼女が主張するのとは、もっと別の……」
- 454 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:06:42 ID:jIsGywL2O
-
──だって、彼女が復讐なんてするわけがないんだ。
なおるよの最後の一言に、ツンは再び目を伏せた。
*****
- 455 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:07:05 ID:wbaMyk2A0
- しえ
- 456 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:10:59 ID:jIsGywL2O
-
とりあえずここまで。半端ですみません
残りは明日に
支援ありがとうございました!!
case2/前編 >>149 後編 >>286
case3 >>409
- 457 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:15:32 ID:Qf7hAbL20
- 乙だ
- 458 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:19:34 ID:aL9eLhxAO
- おつおつ
待ってたよー
- 459 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:20:08 ID:wbaMyk2A0
- 乙!
おお、ここまでか。
ギコが男の姿をしていることに正直動揺がとまらなかったw
明日も楽しみに待ってるよー
- 460 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:23:34 ID:mHcOZyAE0
- 乙
ショボンがすごいキャラしてんなww
- 461 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:25:11 ID:/lZTujIk0
- 乙!
少しでも読めて嬉しかったよ
青ネギしょぼんが予想外の変態で笑ったわw
- 462 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 22:43:20 ID:aL9eLhxAO
- おつ!
相変わらず切りどころがいいなあ
- 463 :名も無きAAのようです:2013/02/05(火) 23:52:52 ID:2yx6s15U0
- おつ
アルファベット読んだ直後にこれ読んだせいでショボンにびびった
- 464 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 00:02:45 ID:WazNAjT60
- おつ!
ショボンが新しいwww
- 465 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 01:02:53 ID:uO4YSOw.0
- おつ!
続きが楽しみだ
- 466 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 07:29:48 ID:7RXTm5/60
- 乙
これはいいショボンw
- 467 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 18:53:22 ID:qgnrL7UgO
- 続き投下します
- 468 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 18:54:12 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「──君も暇な子だね。どちらかといえば賢い方かと思ってたけど、そうでもないのかな」
( ^ω^)「……ほんと、馬鹿だと思いますお」
まだ外が薄明るい午後6時。
今回の法廷は、ドクオのときと同じビルだった。
検察席に立つ猫田しぃに、呆れ果てた様子で声をかけられる。
いやはや、否定も出来ない。
だが仕方ない。
過労で倒れた人間に「助けて」と言われて無下にするというのも、僅かな良心が痛む。
さらに言えば、オワタくん人形以上に凶悪なブツで脅されかねないし。
自分自身に溜め息をつきつつ、内藤は携帯電話を閉じた。
今し方、弟者に「ちょっと帰るの遅れる」とメールを送っておいた。
早退したくせにどこをほっつき歩いているのかと叱られるだろうが、これも仕方ない。
(,,゚Д゚)「ツン。あんた大丈夫なの? 倒れたって聞いたけど」
しぃの隣には例によって埴谷ギコの姿。
今日の衣装はレースまみれのワンピース。目に痛い。痛すぎる。
ツンは動じることなく腕を組み、ギコの問いに答えた。
- 469 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 18:55:39 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「こうして法廷に立てるくらいには大丈夫だわ」
(*゚ー゚)「一日くらいは延期を認めてあげようと思ったんですがねえ」
ξ*゚?゚)ξ「えー何ー? しぃたん心配してくれたのー?」
(#゚ー゚)「あなたのせいで審理に支障が生じるのが嫌なだけです」
(,,゚Д゚)「またまた。ツンの容態をオサムちゃんに訊きまくってたくせにィ。
病院に行かなくていいのかなとか言ってたくせにィ」
(;*゚д゚)「馬鹿ギコ!!」
ξ^?^)ξ
(;*゚ー゚)「何だその顔! ……そっ、そもそもあなたは体調管理がなっていない!
前にも風邪だの何だの言って──」
ξ^?^)ξ アリガトウ
(;*゚ー゚)「裏声で礼を言うな!」
- 470 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 18:57:38 ID:qgnrL7UgO
-
【+ 】ゞ゚)「静粛にー」
川 ゚ 々゚)「に!」
ゆるく木槌が鳴った。
今回もまた、のっけから騒がしい。
メンバーは揃っている。
裁判長オサムと監視官くるう、検察席のしぃとギコ、弁護人席のツンと内藤。
ノパ?゚)
被告人の砂尾ヒートに──
('(゚∀゚∩「……」
被害者の設楽なおるよ。
なおるよが立っているのは弁護人席。
内藤となおるよでツンを挟むような形だ。
- 471 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 18:58:54 ID:qgnrL7UgO
-
【+ 】ゞ゚)「弁護人の体調もあるし、手早く始めようか。
はい開廷」
( ^ω^)(適当すぎる)
内藤はヒートの横顔を見遣った。
昼にツンから聞いた、「裁判を長引かせるのが難しい理由」を思い出す。
理由は主に2つ。
うち一つは、現行犯逮捕であったこと。
もう一つは、
ノパ?゚)「……だから、私が復讐したくてなおるよを殺したんだってば。
もう満足した。さっさと判決出してくれよ」
──彼女自身が、こう主張していること。
- 472 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:00:56 ID:qgnrL7UgO
-
【+ 】ゞ゚)「……と言っているが」
ξ;-?-)ξ「却下してください。
まだ明らかになっていない事実があります」
ツンの表情には、既に疲労の色が浮かんでいる。
一応、ツンが弁護人である以上ヒートが依頼人ということになるのだが、
そもそもヒートは弁護などいらないと言い張っているという。
ツンが体調不良を押してまで裁判を強行する必要性が、よく分からない。
(*゚ー゚)「でも本人が認めてるんですから。
彼女も正しい判決と実刑を望んでるんですよ? 弁護人は依頼人の意思を尊重すべきでは……」
('(゚∀゚#∩「ヒートは復讐なんかで人を殺すような、自分勝手な人間じゃない!!
もっと何か──深い理由があった筈だ!!」
まあ、たとえツンにやる気がなかったとしても、このなおるよが許さなかっただろうが。
(*-ー-)「呆れた。恋人とはいえ自分を殺した人間を、よくもまあ庇えますね」
(,,゚Д゚)「よっぽど信頼してたのねえ」
- 473 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:02:19 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「……とにかく、弁護側も殺人の事実は認めるわ。
今回の争点は、その動機よ。
このままじゃ被害者であるなおるよさんが納得出来ないでしょ」
しぃは、やれやれと首を振った。
机の上から書類を取り、ヒートに会釈する。
(*゚ー゚)「ということですので、少々お付き合い願います。
被害者も来ている以上、彼の意思は尊重しなければなりません」
ノパ -゚)「……うん」
ヒートの瞳がなおるよへ向けられた。
一瞬のことで、すぐに逸らされてしまう。
その目からは、彼女の感情は読み取れなかった。
- 474 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:04:34 ID:qgnrL7UgO
-
【+ 】ゞ゚)「それじゃあ……被告人、まずは名前と生年月日」
ノパ?゚)「砂尾ヒート。昭和62年の7月26日だ」
【+ 】ゞ゚)「死亡した年月日と享年、それと、あー……死因は?」
ノパ?゚)「……去年、平成23年の9月3日。24歳だった。
死因は覚えてない」
何だか、わざとぶっきらぼうに答えているように聞こえる。
よっぽど早く終わらせたいのだろうか。
オサムはお面に覆われていない方の頬を掻き、しぃに目配せした。
しぃが書類をめくる。
- 475 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:06:09 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「それでは、公訴事実。
──5日前の7月8日、午後2時過ぎ。被害者である設楽なおるよ氏は
駅前の高層ビル『SSビル』の最上階、無料展望台を訪れた」
内藤も、事件の概要は事前に聞いた。
昼休みにヒッキー達と話した飛び降りの件と全く同じ内容で、驚いたものだ。
まさか飛び降りた男がなおるよだったとは。
「一年前に自殺した恋人」はヒートであろう。
事実を知ってみると、見方が随分と変わる。
たとえばモララーの予想では「なおるよがヒートの後を追った」ことになるが、
実際は「追わされた」と言えることとか。
(*゚ー゚)「当日は、一部の窓の鍵が壊れており、誰でも開けることが可能であった。
安全面を考慮し、その窓の周囲は立ち入り禁止のテープが張られていたが……」
──彼は、いきなりそのテープを跨ぐと、窓を開けたのだという。
そこからはもう、他の客が止める間もなかった。
なおるよは宙へと身を躍らせ、地面へ真っ逆さま。
- 476 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:07:26 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「……救急車が到着したときには、亡くなっていたとのことです。
端から見れば突発的な自殺でしょうが、実際は違った」
(*゚ー゚)「同時刻、このギコが展望台にいました。
そこで彼は見たのです」
(,,゚Д゚)「彼女」
(*゚ー゚)「……彼女は見たのです!
被告人が、設楽氏に取り憑くところを!」
しぃがギコの肩に手を添える。
ギコはどことなく哀愁を感じる目付きで、なおるよを見つめた。
舌打ちしたくなる眼差しだと内藤は思った。もちろん口にはしない。舌打ちもしない。
(,,゚Д゚)「いやあ、珍しい人もいるもんだと思って、気になって見てたのよう。
そしたら、そこの幽霊さんが設楽さんに憑依するなり窓を開けて……。
……ごめんなさいね、止めようとしたんだけど、間に合わなかったわ。本当に不甲斐ない……」
【+ 】ゞ゚)「急なことだったんだ。刑事は悪くない」
川*゚ 々゚)「オサムかっこいい……」
対して、くるうがオサムへ向ける眼差しの、何と眩しいことか。
それはそれで鬱陶しい。やはりこれも口にはしない。
ツンが咳払いをする。
右手を挙げ、彼女は口を開いた。
- 477 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:09:49 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「ちょっと、2つほど質問していい?」
(*゚ー゚)「起訴状はまだ途中なんですがね」
ξ゚З゚)ξ「いいでしょうよー。少しくらいー」
(*゚ー゚)「……手短にお願いします」
ありがとう大好き! と可愛こぶった声でツンが礼を言う。
くるうが鼻をひくひくさせたので、たぶん嘘だろう。
というか、オワタくんの呪いが解かれたときの内藤に似た返答で、無意味に癪に障った。
ξ゚?゚)ξ「まず一つね。えー……と、ギコ。あんたはどうして展望台にいたのよ」
(,,゚Д゚)「ヴィップ総合病院に行った帰りだったのよう。
気分が晴れなくて、ちょっと寄りたくなっただけよ」
- 478 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:11:41 ID:qgnrL7UgO
-
( ^ω^)「病院ですかお?」
(,,゚Д゚)「ええ。……先週、都村トソンの裁判があったでしょう。
あれの、被害者の様子を見に行ってきたの。
真犯人の手掛かりが欲しくて。……何も見付けられなかったけどね」
トソンの事件の被害者といえば──今は植物状態になっているのだったか。
事件そのものは7年前だ。手掛かりが残っているか、甚だ怪しい。
ツンがくるうを見て、ギコを指差す。
川 ゚ 々゚)「嘘じゃないよ」
(,,゚Д゚)「やあねえ、こんなことで嘘つかないっての」
ξ゚З゚)ξ「念のためですうー。……じゃあ2つ目。
『珍しい人もいるもんだと思って』、なおるよさんを見てたのよね?
そう思った理由は何なの?」
- 479 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:12:46 ID:qgnrL7UgO
-
(,,゚Д゚)「そりゃ簡単よ。
設楽さんがねえ、被告人に小声で話し掛けてたの。楽しそうにね」
( ^ω^)「──え」
間抜けな声が漏れた。
展望台にいた時点では、なおるよはまだ生きていた筈だ。
そしてヒートは既に幽霊だった。
ということは──
( ^ω^)「……なおるよさん、幽霊見える人だったんですかお」
('(゚∀゚∩「うん、そうだよ」
あっさり答えられた。
ここ最近になって、やたら霊感持ちの人間と関わりを持つようになったものだ。
内藤が思っているより、案外そこら中に居るのかもしれない。
ツンは知っていたのか、特に驚きもせず、
先程のギコの返答に納得していた。
- 480 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:14:16 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚∩「でも、いつも見えるわけじゃなかったよ。
見えたとしても少しぼんやりしてたし。
声も聞こえないし触れもしなかったなあ」
今は僕も幽霊だから、はっきり見えるし声も聞こえるけど。
なおるよが微笑みを深めてそう言った。
( ^ω^)「じゃあ展望台でヒートさんに話し掛けてたって……
それもしかしてデートじゃありませんかお」
('(゚∀゚*∩「ま、まあ、そうなるよ」
たしかに、それは珍しい。
ギコが気になったというのも頷ける。
('(゚∀゚*∩「ヒートが、幽霊になっても僕の傍にいてくれるのが嬉しくて……
時間があるときには、2人で色んなところに行ったよ。
他の人からは、僕が1人でうろうろしてるように見えただろうけど……」
(*-ー-)「傍にいてくれた、ですか。
殺す隙を窺っていたという見方もありますが」
('(゚∀゚#∩「なっ……!」
(;,゚Д゚)「あんたねえ、もっとロマンスに生きなさいよ」
【+ 】ゞ゚)川 ゚ 々゚)(ろまんすって何だろう)
- 481 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:15:50 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「ところで弁護人、質問はもうよろしいですか」
ξ゚?゚)ξ「ええ。ひとまずは」
(*゚ー゚)「では話を戻します。
……以上のことから、被告人が設楽氏を殺したのは紛れもない事実。
ならば、動機は何か?」
(*゚ー゚)「生前、設楽氏はヴィップ総合病院の小児科に勤めていた。
今さっきギコが話していた病院と同じですね」
ぺらりと、しぃの手元で書類がめくれる音がする。
しぃは、ヒートと書類を見比べた。
(*゚ー゚)「そして──被告人は昨年の夏まで、看護師として勤務していましたね」
ノパ?゚)" コク
ヒートは頭を小さく縦に振った。
医者と看護師のカップルだったわけか。
ドラマなどではよく見るが、実際に見るのは初めてだ。
- 482 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:17:37 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「彼らは3年ほど前から交際を開始した。
公にはしていなかったものの、仲のいい同僚にだけは話していた。
同僚いわく、非常に仲が良く、上手くいっていたとのこと」
ノパ?゚)「……本当は、職場内の恋愛は禁止されてたから。
信用出来る人にしか話さなかった」
【+ 】ゞ゚)「それはあれか、ろまんすってやつか」
(,,゚Д゚)「やだオサムちゃん、覚えたての言葉使いたがる小学生みたい」
川*゚ 々゚) ホー
オサムを無視して、しぃは話を続けた。
内藤はたまにオサムが神様であることを忘れそうになる。
(*゚ー゚)「しかし交際から一年──今から2年前ですね。
2人の前に、障害が立ちはだかる」
Σ川 ゚ 々゚)
(*゚ー゚)「設楽氏の父は別の病院で医者をやっていて、
ヴィップ総合病院の院長とは旧知の仲だった」
- 483 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:18:42 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「設楽さん。
あなたは父から、ある女性を紹介されましたね。
……ヴィップ総合病院の院長の娘さん」
('(゚∀゚∩「……はい」
なおるよの声は、だいぶ抑えられていた。
一方でヒートは、眉一つ動かさずに正面を見据えている。
(*゚ー゚)「設楽氏の両親は、その女性との交際を勧めた。
結婚にまで至れば、やがて設楽氏が院長の座につくことが充分に有り得たからだ」
('(゚∀゚;∩「で、でも、僕は断ったんだよ!」
(*-ー-)「ええ。あなたは被告人を両親に紹介して、
娘さんとの縁談は受けられないとはっきり断りました。
……そのせいで、両親は激怒しましたね」
川;゚ 々゚) ドキドキ
ξ゚?゚)ξ「……昼ドラっぽいわあ」
( ^ω^)「同感ですお」
- 484 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:19:27 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「設楽氏と両親は、何度も衝突を繰り返した。
もともと院長の娘が設楽氏に気があったこともあり、
設楽氏と被告人は常に不利な立場にいた」
(゚々 ゚;≡;゚ 々゚) ハラハラ
(*゚ー゚)「そして去年。
総合病院の中で、ある噂が流れ始めた。
──設楽なおるよと砂緒ヒートは恋仲であると」
Σ川;゚ 々゚) !
(*-ー-)「先程被告人自身が言った通り、職員同士の恋愛は禁止されている。
さらに噂には『砂緒ヒートの方が執拗につきまとい、無理に付き合っていた』
『設楽なおるよは迷惑していた』という尾ひれまで付いていた」
川;゚ 々゚) ア…ア…
(*゚ー゚)「……こうなれば、後の流れは決まったようなもの。
砂緒ヒート1人だけが責任を問われ、解雇処分となった。
誰が噂を流した張本人かは、大体察しがつきますね」
川 ; 々;)
- 485 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:20:43 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「なお、このとき設楽氏は被告人を庇うことはしなかった──と同僚が証言している」
Σ川 ; 々;) !?
('(-∀-;∩「……」
(*゚ー゚)「それから間もなく、被告人は行方不明になり……
2ヶ月後、隣町の山奥で白骨死体となって見付かった。
歯形等で身元の確認が出来たので、その骨が被告人本人であることは間違いない」
(*゚ー゚)「死体の近くから、汚れた刃物や遺書も発見されている。
遺書には『何が起こったか』という詳細は伏せられていたものの、
設楽氏に対する怒りと悲しみが記されていた」
::川 ; 々;)::
(*゚ー゚)「自殺の件は院長の娘の耳にも入り、
責任を感じた彼女は、自ら縁談を破棄した……」
しぃはそこで黙った。
ギコが机の下の鞄からペットボトルを取り出し、しぃに手渡す。
CMでよく見かける緑茶のパッケージ。
その中身を一口飲み、しぃは朗読を再開させた。
- 486 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:23:16 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「その後しばらくして、霊となった被告人は設楽氏のもとに現れるようになる。
愛しい男に会うためではなく、殺す機会を窺うために」
('(゚∀゚;∩「こっ……」
(*-ー-)「……そうして今年7月8日、設楽氏の体を操り、飛び降りることで、
殺害へと至った」
(*゚ー゚)「──設楽氏が被告人を守らなかったことが怨恨に繋がったのは明確である。
また、件の噂が設楽氏の両親や院長によって作られたものだと被告人は信じており、
それさえも設楽氏への恨みに転換させたと証言している」
しぃがまたお茶を口にする。
一気に半分ほど飲むと、ペットボトルを叩きつけるかのような勢いで机に置いた。
- 487 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:24:28 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「罪名及び罰条!
復讐罪、おばけ法第68条!」
(*-ー-)「……以上の事実について、審理を願います」
復讐罪。
復讐目的で、他者に危害を加えることを禁ずる──というものらしい。大雑把に言えば。
復讐に至った経緯によって、量刑が変わるとツンは言っていた。
( ^ω^)(この場合だと、重いのか軽いのか……)
川 ; 々;)「無罪! 無罪! 可哀想だよお、許してあげようよお」
【+ 】ゞ゚)「くるうは優しいな。いい子だ」
川*´々`)
(*゚ー゚)「たしかに被告人は辛い思いをしました。
しかし──人殺しが許されるほどのものだったかは、甚だ疑問です。
職や信頼を失ったとはいえ、彼女にはまだ、何事もやり直す余地があった筈だ」
- 488 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:26:29 ID:qgnrL7UgO
-
( ^ω^)「でもやっぱ、恋人に庇ってもらえなかったのはキツかったんじゃないですかお」
(*゚ー゚)「恋人だからこそ、設楽氏の立場を理解するべきだったと思うね。
設楽氏は院内でも評判の医師で、彼が噂を否定して院長を糾弾するようなことがあれば、
院内はますます混乱しただろう」
(,,゚Д゚)「ま、そのせいで業務に支障が出るのも困るしねえ、患者からすれば。
それ考えると、なかなか行動出来ないかもね」
('(゚∀゚;∩「……検事さんの言う通りだよ。
でも今は、馬鹿なことをしたと思ってるよ。
あのとき、僕がちゃんと説明すれば良かった……」
(*゚ー゚)「ほら、このように設楽氏は反省しています。
それに被告人が幽霊となって現れた以降も、
彼は生前と変わらぬ態度で愛情を注いでいたそうじゃないですか。
果たして彼に、命まで奪われる謂れはあったでしょうか?」
('(゚∀゚;∩「──でっ、でも! だから! そもそも!
ヒートは復讐なんかで人を殺すような人じゃないんだよ!!」
突然食って掛かってきたなおるよに、しぃは目を丸くさせた。
まだ言うか、とうんざりしたような呟きがしぃの唇から零れる。
- 489 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:28:57 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚;∩「ヒートは優しくて、すごく真っ直ぐで、心の熱い人で……。
何があっても受け止められる強さを持った人なんだよ!
どんなに理不尽な目に遭っても、それを乗り越えて生きてた!」
('(゚∀゚;∩「贔屓目でも何でもなく、僕は、ヒートのそういうところが好きだったんだよ……。
だから、ヒートが復讐のために……自分だけのために人を殺すなんて有り得ない!!」
ギコが頬を押さえ、何やら、きゃっきゃと盛り上がっている。
この中で一番の乙女心を持つ彼には、なおるよの主張は琴線に触れるものだったのだろう。
('(゚∀゚;∩「きっと、別の理由があった!
彼女なりの考えがあって、その理由を話さないだけだよ!!」
ノパ -゚)
ヒートがなおるよを見つめる。
きゅっと唇を噛み締め、何も言わずに顔を逸らした。
顎が僅かに震えている。言葉か──あるいは涙を堪えるような仕草だった。
しかし、何だろうか。
内藤は、得も言われぬ引っ掛かりを覚えていた。
- 490 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:31:38 ID:qgnrL7UgO
-
かこん。
オサムの木槌が、ひどく軽い音を立てた。
【+ 】ゞ゚)「設楽なおるよ。その調子で……いや、調子は少し落として、
事件当日のことを話してくれ」
一呼吸おいて、なおるよが、はい、と返事をする。
興奮してすみません、とも付け加えて。
('(゚∀゚∩「……あの日は、SSビルの中にある雑貨屋に、ぬいぐるみを買いに行ってたよ。
小児科の診察室や病室には、子供達を安心させるためにぬいぐるみを置くようにしてたから……」
('(゚∀゚∩「その後、展望台に上ったよ。ヒートのお気に入りの場所だった。
窓の鍵が壊れてるって注意書きがあって、気になったから見に行ったよ。
そしたら──隣にいたヒートが急に近付いてきて、体に入る感じがして、そのまま……」
オサムがしぃを一瞥する。
しぃはオサムの求める答えを察したようで、資料を確認しながら言った。
- 491 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:32:16 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「被告人の証言との食い違いはありませんね。
それと、取り調べの際、被告人は『今なら殺せると思ってやった』と言っていました。
計画的な犯行ではなかったようです」
川 ゚ 々゚)「今んとこ、しぃは一回も嘘ついてないよー」
【+ 】ゞ゚)「分かった、ありがとう。
で……普段から被告人と行動していたそうだが、
いつもどういうところに行ってたんだ」
('(゚∀゚∩「色々……思い出の場所とか、近くの公園とか。
なるべく人の少ないところや広いところにしてたよ」
【+ 】ゞ゚)「被告人はどういう反応だった?」
('(゚∀゚∩「会話出来ないし触ることも出来なかったけど、
話し掛けると、首を振って返事してくれたよ。
僕は、彼女も楽しんでくれてるように感じてた」
- 492 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:33:16 ID:qgnrL7UgO
-
そこで内藤は、いつもより静かなことに気付いた。
原因を探るまでもない。
ツンが、途中からずっと黙りこくっているのだ。
ξ;゚?゚)ξ「……」
机に手をつき、深呼吸をするツン。
時おり呼吸のリズムが乱れる。
青白い顔の額に、うっすらと汗が滲んでいる。
見るからに危険な状態だった。
( ^ω^)「ツンさん」
(*゚ー゚)「……何ですか、やっぱり具合悪いじゃないですか。
だから延期しろって言ったんですよ」
ξ; ? )ξ「ぐ……」
(;*゚ー゚)「──って、あっ、ツンさん!?」
ずるずると、ツンが床にへたり込んだ。
右手で机の縁を掴んでいるから何とか支えられているが、
もう少しで前のめりに倒れてしまいそうだ。
- 493 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:34:35 ID:qgnrL7UgO
-
(;,゚Д゚)「あーもー、何なのあんた。生理?」
ξ; ? )ξ「セクハラで訴えるぞオカマ……」
内藤はツンの横にしゃがみ、背中に手を当てた。
効果があるかは分からないのだけれど、とりあえず背中を摩る。
('(゚∀゚;∩「どこか痛むところとかある?
この顔色はちょっと、裁判どころじゃないよ……」
【+ 】ゞ゚)「医者が言うなら、無理させるわけにはいかないな」
はっとしたように、ツンが急いで立ち上がろうとする。
しかし、すぐに足から力が抜けた。
今度は体が後ろに傾く。
内藤が背中に手をやっていたおかげで、倒れることはなかった。
【+ 】ゞ゚)「弁護人。その体たらくじゃ、弁護どころじゃないだろう。
今回は閉廷して──」
ξ; ?゚)ξ「やります……!」
絞り出すような声。
脂汗を浮かべながらも、ツンの眼光は鋭い。
- 494 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:35:54 ID:qgnrL7UgO
-
ξ;゚?゚)ξ「……まだ、やります」
(;,゚Д゚)「んなこと言ったってあんた……」
その瞬間、大声が響いた。
ノハ;゚?゚)「──もういいよ!!」
声の主はヒート。
オサムへ向けて、彼女は怒鳴るように言葉をぶつけた。
- 495 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:36:59 ID:qgnrL7UgO
-
ノハ;゚?゚)「もう判決出してくれよ!
私が勝手になおるよを恨んで、勝手に殺したんだ!
悪いのは私だけだ! だから早く、こんなの終わらせろ!!」
('(゚∀゚;∩「だっ……駄目だよヒート!!
どうして嘘をつくの!? このまま判決が出たら──ろくな結果にならないよ!!」
川;゚ 々゚) オロオロ
ξ; ? )ξ「……なおるよさん、正論ね……」
ツンが、囁くように言った。
内藤以外には聞こえなかったようだ。
ξ; ? )ξ「このままじゃ、まともな結果にならないわ……」
- 496 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:38:20 ID:qgnrL7UgO
-
( ^ω^)「……」
ツンの背中へ回した内藤の腕に、震えが伝わってくる。
こんなの、まともな状態ではない。
とてもじゃないが、他人を気にしている場合だとは思えなかった。
ここまでして──どうして。
ツンは裁判の日取りの延期を望まない。
ヒートは、そもそも裁判自体がこれ以上続くのを望まない。
何をそんなに急ぐことがある?
さっさと有罪判決が出て、刑が執行されて──ヒートに何の得がある?
答えとなる発言はなかっただろうか。
覚えている限りのヒートの言葉を思い出す。
しかし考えてみれば、彼女はそもそも大して喋っていない。
彼女が元になった情報など、ろくに──
( ^ω^)(……あ)
──はたと気付く。
そうだ。
ヒートから得た情報が、極端に少ない。
ほとんどが、しぃとなおるよの口から出た話である。
- 497 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:39:07 ID:qgnrL7UgO
-
内藤は頭を振った。
ヒート以外の人間の発言を隅に追いやり、
ぽつんと残ったヒートの言葉だけに注目する。
そうして一つだけ、引っ掛かるものがあった。
.
- 498 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:40:16 ID:qgnrL7UgO
-
ξ; ? )ξ「……内藤君、ごめん、……君の出番来ちゃったみたい……」
ツンが内藤の左手を握った。
指先が、ひどく冷たい。
ξ;゚?゚)ξ「何でもいいから……ちょっとだけ、助けて……」
至近距離で覗く彼女の瞳は、不安に揺れていた。
助けてと言われても──どうするべきか、内藤には分からない。
分からないから、出来ることをするしかない。
内藤は体勢をそのままに、頭に浮かんだ言葉を口にした。
( ^ω^)「──質問がありますお」
.
- 499 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:41:50 ID:qgnrL7UgO
-
(;*゚ー゚)「……今?」
( ^ω^)「あの、ヒートさん。
裁判長に死因を訊かれたときに『覚えてない』って言ったけど、
本当にそうなんですかお?」
ノハ;゚?゚)「は? な、何だよ、急に。……覚えてないよ」
( ^ω^)「自分が自殺したこと、丸ごとですかお?」
ノハ;゚?゚)「……、……そうだよ」
( ^ω^)「でも──他のことは、ちゃんと覚えてたじゃないですかお」
( ^ω^)「生年月日も、職場のことも……死んだ日付まではっきり覚えてるのに。
死因だけ覚えてないのって、変な感じがしますお」
机が壁になり、しゃがみ込んでいる内藤にはヒートの顔は見えない。
それでも動揺は伝わった。
- 500 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:43:28 ID:qgnrL7UgO
-
ノハ;゚?゚)「そ、れは、……」
( ^ω^)「第一、たとえ覚えてなくても、取り調べのときにしぃさん達から聞かされたと思うんですけど。
なのに裁判長に訊かれたときは『忘れた』って答えるの、納得いきませんお」
今の反応からして、本気で忘れていたということはないだろう。
彼女は隠している。
何をかは分からないが、まだ、明かしていないものがある。
(,,゚Д゚)「……そうね、たしかに不自然なくらい、そこだけ抜け落ちてる……」
訝しげに、ギコが呟いた。
ツンの、ほっと息をつく声が微かに聞こえた。
(,,゚Д゚)「ブーンちゃんの言う通りだわ。
これ、おかしいわよ。特に今回は自殺なんだから」
川 ゚ 々゚)「? なんで?」
- 501 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:45:16 ID:qgnrL7UgO
-
(,,゚Д゚)「たとえば死因が事故死だったとしたら……しかも即死なら、
死の瞬間を覚えてない=死因が分からない──ってのも有り得るけど」
(,,゚Д゚)「わざわざ隣町の山の奥に入ってって、遺書まで用意して……
覚悟決めてそこまでやっておきながら、全然覚えてないって変よねえ。
他のことは覚えてるのに」
(*゚ー゚)「……かといって、さっき言ったような事故死は有り得ない、か。
遺書があったわけだから」
(,,゚Д゚)「そう。こうなると、残る可能性は大まかに言って3つよね……。
1・自殺したことは覚えているけど、隠したかった。
2・極めて確率は低いけど、本当に覚えてない。
3・死因は別物で、遺書は偽造されたものだった」
川;゚ 々゚) ?????
【+ 】ゞ゚)「くるう、無理に理解しようとしなくていいよ」
内藤とツンを置いて、どんどん話が進んでいく。
もしかしてもしかすると、内藤の質問は「当たり」だったのではなかろうか。
ツンが、震える手をこっそり上げて、親指を立てている。
- 502 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:47:40 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚−゚)「1は無いね。既に隠せてないし、遺書も刃物も見付かってるから誤魔化しも効かない」
(,,゚Д゚)「2は有り得ないとは言い切れないけど、やっぱ変よね。理由はさっきの通り。
……そうなると残るのは、」
(*゚−゚)「3……。でも遺書を偽造するってことは、何者かが関与しているわけだよな」
(,,゚Д゚)「他殺の線が濃厚になってくるわよねえ……。
いきなり刺されて死んだ、とかなら、死因が分からないのも有り得る……かしら」
ツンが、内藤の肩に手を置いた。
それを支えに体勢を変え、今度は机に手を乗せる。
内藤が手伝ってやると、机に凭れながらではあるが、ツンが何とか立ち上がった。
それに合わせて内藤も起き上がる。
ばさばさと、しぃが慌ただしくファイルを引っくり返した。
(*゚ー゚)「この遺書の文面で得するのは誰だ?」
- 503 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:49:11 ID:qgnrL7UgO
-
(,,゚Д゚)「んー……内容は、設楽さんを非難するものよね」
(*゚ー゚)「なら、彼の評判を落としたい人間の仕業か?」
(,,゚Д゚)「あるいは──」
ギコとしぃの瞳が、同時になおるよへ向けられた。
なおるよはぎょっとした様子で開口した。
('(゚∀゚;∩「何なんだよ」
(*゚ー゚)「すみませんね。あくまでも可能性の話です。
ただ、もし──あなたが、本心では院長の娘さんとの結婚を望んでたのだとしたら……。
被告人は邪魔者になっただろうと思いまして」
('(゚∀゚#∩「っ……!!」
- 504 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:50:12 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「それに、遺書に自分の非を敢えて記すことで、
彼女の『自殺』に一層の現実味を与えたという考え方も出来ますし。
これなら──」
('(゚∀゚#∩「ふざけるな!!」
川;゚ 々゚) ビクッ
ノハ;゚?゚)「っ、」
腹の底から出したような大声。
しぃの「お喋り」が途切れ、くるうはオサムにしがみつく。
俯いていたヒートの肩が、びくりと揺れた。
- 505 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:51:28 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚#∩「僕はヒートしかいらない!!
ヒートと一緒にいられるならそれでいいって、それしか思ってなかった!!
なのに何でヒート以外の女のためにそんなことしなくちゃいけないんだ!?」
(;,゚Д゚)「やーもうごめんなさいね本当……そんなに怒っちゃ嫌よう。
しぃ、あんたもほいほい喋るんじゃないの、そんなこと」
オサムが木槌を3度ほど鳴らした。
なおるよは、検察席を睨みながらも沈黙する。
激怒と言える表情だ。よほど腹が立ったのだろう。
( ^ω^)(この人、結構恐いもんだお)
何だか、審理が思わぬ方向に進んできた。
ここにきてヒートの死そのものが問題になってくるとは。
しぃがなおるよからヒートの方へと向き直り、色々と質問を浴びせていく。
だが、ヒートの口はますます堅くなったようだった。
もはや、誰の目にも明らかだ。
ヒートは「そこ」に触れようとしない。
しかし「そこ」には、何か重要なものが潜んでいる。
- 506 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:54:13 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚ー゚)「……裁判長。
このままではどうにも、話が進みません」
【+ 】ゞ゚)「そうだなあ」
(*゚ー゚)「改めて調べなければいけない問題も出てきましたし──
やはり今日のところは、閉廷ということにしませんか」
ノハ;゚?゚)「!」
ヒートの顔に、はっきりと焦りが浮かんだ。
首を横に振っているが、言葉までは出てこない。
そこへ──随分と久し振りに聞いたような気さえする声が落とされた。
ξ゚?゚)ξ「……異議」
ようやく参戦し直したツンの一言目は、たったの二文字だった。
しぃの提案に頷きかけたオサムの動きが止まる。
ツンの顔色は、先程よりはマシになっていた。
それでもまだまだ「悪い」部類に入るが。
- 507 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:56:07 ID:qgnrL7UgO
-
(,,゚Д゚)「ちょっとは回復した?
良かったわね。ブーンちゃんがいなかったら、とっくに終わってたかもしれないわよ」
ξ゚?゚)ξ「もう超元気よ。まだまだやれるわ。
あと内藤君のあれは、私がああいう内容で質問しろと事細かに指示したものよ」
( ^ω^)「え、何で手柄横取りしたの今」
(*゚ー゚)「……で、異議って何ですか? 今日はもう、何しても無駄だと思いますけど」
(,,゚Д゚)「独り身で家に帰るのが寂しいからって、他人との交流求めて審理長引かせるのやめてよね」
ξ#゚?゚)ξ「寂しくないわボケ!!」
川 ゚ 々゚)(嘘の臭い)
ツンはギコに向かって中指を立ててから、横にいるなおるよに視線をやった。
なおるよの顔には、まだ怒りの名残が居座っている。
- 508 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:58:15 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「なおるよさん、質問いいですか?」
('(゚∀゚∩「……弁護士さんまで、僕を馬鹿にするの」
ξ゚?゚)ξ「いえ、本当、ちょっとした疑問なんです。
先程の発言なんですけど。
──ヒートさん以外の女性のために、ヒートさんを殺すわけない……というような」
('(゚∀゚∩「嘘なんかついてないよ」
ξ゚?゚)ξ「ええ、嘘かどうかはいいんです、別に。
ただ、ちょっと変だなあって」
('(゚∀゚∩「……変?」
ツンが腕を組む。
首を捻ると、それに合わせて金髪が揺れた。
ξ゚ -゚)ξ「そもそも普通は、人を殺すこと自体避けるべきものじゃありません?
でもなおるよさんの言い方だと、何だか、『特定の誰かのためなら
殺すのも有り得る』って意味がある気がして」
- 509 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 19:59:43 ID:qgnrL7UgO
-
(*゚−゚)「……? どういうことです?」
ξ゚?゚)ξ「特定の誰か、っていうか。
……ヒートさんのためならやりかねないって、そう感じたんです。
これ、私の勘違いでしょうか?」
しぃが眉を顰めた。隣のギコは、「たしかに」と頷いている。
彼らの反応を一通り眺め、内藤はなおるよの表情を確認した。
また怒るのではないかと危惧しつつ。
しかし。
そこにあったのは、内藤の脳裏に浮かんだどの予想とも違うものだった。
('(゚∀゚∩「……それ、何かおかしいの?」
きょとんとした表情。
心底不思議そうに、なおるよは首を傾げた。
- 510 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:01:04 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚∩「僕、ヒートのためなら何でもするよ。
好きな人にはそういうものじゃないの?」
ノハ;゚?゚)
(;*゚ー゚)「いや、今は──ヒートさんのためにヒートさんを殺せるかって、そういう話なんですよ?」
('(゚∀゚∩「分かってるよ」
なおるよが奇妙なものを見る目でしぃに答える。
しぃもまた、同じような目をしていた。
──かちり。
内藤の頭の奥で、何かが噛み合う音がする。
「得も言われぬ引っ掛かり」。
なおるよがヒートを庇うような発言をした際、内藤が感じたそれ。
今になって、具体性を帯びてきた。
( ^ω^)「なおるよさんって」
反射的に口を開いていた。
このタイミングで言わなければいけないような、そんな直感。
- 511 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:05:08 ID:qgnrL7UgO
-
( ^ω^)「ずっとヒートさんのことばっかり口にしてますお。
5日前にヒートさんに殺されたっていうのに、
自分が死んだのより、彼女のことしか気にしてませんおね」
なおるよが怒ったとき、内藤は「恐い」と思った。
彼の怒りぶりもたしかに恐かったが、それ以上に、
ヒートへの執着が恐ろしかった。
考えてみれば、彼はどこかズレている。
生前、自分が守らなかったせいでヒートの名誉が一方的に傷付けられ
退職にまで追い込まれたことは自覚していながら、
「ヒートが復讐する筈がない」の一点張り。
その根拠は全て、彼の主観に依るものだ。
信頼と言うにはあまりに盲目的すぎる。
('(゚∀゚;∩「だって──ヒートが悪者にされそうになってるんだよ?
僕のこと考えてる暇ないよ!」
(;*゚ー゚)「は? え? いや、あなた、ただ死んだってだけじゃないですよ? 殺されたんですよ?」
- 512 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:06:04 ID:ZT11b4Wk0
- やった、きてた!
- 513 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:06:37 ID:qgnrL7UgO
-
【+ 】ゞ゚)「……俺はどうにも、人間の恋慕だとか、
そういうものの『普通』は分からん」
続いて言葉を発したのはオサム。
手持ち無沙汰に木槌を弄びながら、溜め息を吐き出した。
【+ 】ゞ゚)「だから弁護人、おかしいところがあるならとことん追及してくれ」
川 ゚ 々゚)「……くるうは、なおるよの言ってること、分かるけどなあ……」
ツンが、背筋を伸ばす。
また「波」が来たのか、彼女の手は震えていた。
それでも瞳は真っ直ぐで。
ξ゚?゚)ξ「──なおるよさん。
あなたは頑なにヒートさんの高潔さを信じ、彼女をまるで聖人のように扱っています」
('(゚∀゚;∩「?」
.
- 514 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:07:49 ID:qgnrL7UgO
-
#####
('(゚∀゚∩『……また、娘さんの話で喧嘩になったよ』
ノパ?゚)『なかなかしつこいなあ。院長もなおるよのこと気に入ってるもんな……。
……別れてなんかやらないからな!』
('(゚∀゚*∩『僕だってヒートと別れるつもりないよ』
ノハ*゚ー゚)『当たり前だろ』
笑って、ヒートは僕の手を握った。
愛おしい。
やっぱり、僕には彼女しかいない。
誰にも邪魔などさせるものか。
#####
- 515 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:09:15 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「私にはそれが、……あなた自身に言い聞かせているような気がしてなりません」
ξ゚?゚)ξ「復讐なんてする筈がないって──
『自分が彼女に恨まれる筈がない』って」
それだ。
それがしっくり来る。
彼は今に至るまで、自分自身を庇いこそしなかったが──
つまるところ、「ヒートが自分を憎んでいる」とは、「嫌っている」とは言わなかった。
恐らくは、ツンが触れなければ、誰も「それ」には見向きもしなかっただろう。
わざわざ気にかけるものではなかった。
今まで皆の注意は、ヒートにばかり向かっていたのだから。
- 516 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:09:20 ID:ZT11b4Wk0
- しえん
- 517 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:10:56 ID:qgnrL7UgO
-
(;*゚ー゚)
しぃが戸惑いを浮かべ、ギコの服の袖を掴んでいる。
徐々に広がっていく違和感。
急に、「よく分からないもの」が目の前に放り込まれたような。
辺りには、不気味な空気が漂い始めていた。
ξ゚?゚)ξ「死んだ恋人が化けて出てきて、ずっと付きまとってきて、
最終的には体を乗っ取られて殺されたのに。
それでもあなたは、彼女に憎まれていなかったと思いますか」
('(゚∀゚;∩「へ……」
ξ゚?゚)ξ「会話も触れることも出来なかったのに、
彼女があなたとの生活を楽しんでいたとどうして言い切れるんです。
彼女は笑いましたか? あなたに対してポジティブな表情を見せましたか?」
.
- 518 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:12:19 ID:qgnrL7UgO
-
#####
ノハ;゚?゚)『あ……なおるよ、大丈夫だった?
──ほっぺた腫れてるぞ!? 殴られたのか!?』
('(゚∀゚メ∩『今日は特に父さんの機嫌が悪かったみたいだよ。
大丈夫、そんなに痛くないから』
ノハ;゚?゚)『……ごめん。私がなおるよの車に乗ったから……』
('(゚∀゚メ∩『ヒートは悪くないよ』
- 519 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:13:08 ID:qgnrL7UgO
-
僕とヒートが一緒にいるところを見ると、両親は怒る。
早く別れろ、誰と結婚するべきかぐらい分かるだろう──
そう言って僕を責める。
誰と結婚するべきかなんて、そんなの、好きな人とするべきに決まっているじゃないか。
僕はヒートがいい。
ヒートと一緒になりたい。
#####
- 520 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:13:29 ID:uDWHTZ3E0
- 支援
- 521 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:13:54 ID:qgnrL7UgO
-
ξ;゚?-)ξ「……っく、」
ツンがよろける。
斜め後ろに立っていた内藤が慌てて手を伸ばしたが、
ツンは何とか踏みとどまった。
なおるよは、しぃ以上に戸惑っている。
困惑を笑みに貼りつけ、ツンに反論した。
('(゚∀゚;∩「な、何で? どうして? だってヒート、昔、僕に言ったんだよ。生きてたとき。
『ずっと傍にいたい』って。
だから僕のところに来てくれたんだよ? そうだよね、ヒート!!」
ノハ; ? )
.
- 522 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:16:31 ID:qgnrL7UgO
-
#####
('(゚∀゚∩『……ごめんね、ヒート』
ノパ?゚)『いいよ。しょうがなかったんだろ。
下手に私を庇えば、ますます拗れてただろうし』
ノパー゚)『ま、人の噂も七十五日って言うしな!
どうせしばらくしたら、みんな忘れるよ』
彼女は気丈に笑った。
僕は、そういうところが何より好きなのだ。
ノパ?゚)『……なあ、なおるよ。私、別の場所で──』
('(゚∀゚∩『ヒート』
- 523 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:17:03 ID:qgnrL7UgO
-
どんなに言おうと、両親はきっとヒートのことを認めてくれないだろう。
このままだと、さらに酷い方法でヒートを傷付けかねない。
でも僕は彼女が傍にいてくれないと嫌だ。彼女だってそう思っている。きっと。
だったら。
.
- 524 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:18:30 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚∩『今度、食事に行こうよ。誰にも見られないように、違う町で』
だったら、彼女が僕にしか見えないものになればいいんだ。
#####
- 525 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:19:05 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚;∩「──僕の言うこと聞いてくれたんだ!!
幽霊になって僕の前に出てきてって、
僕が何回も言い聞かせたから!! 素直に言う通りにしてくれたんだ!!」
.
- 526 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:20:45 ID:qgnrL7UgO
-
しぃやギコが、息を呑んだ。
ツンが内藤に手を伸ばす。
距離を詰めると、ツンは内藤の肩に寄り掛かった。
(;,゚Д゚)「言い聞かせたって……」
【+ 】ゞ゚)
川;゚ 々゚)「? なに? 何なの? 今、どうなってるの? オサムぅ……」
こん。
オサムが手を揺らし、木槌は無意味に空間を叩く。
その音は小さく、それでいて、いやに重かった。
しぃが乾いた唇を舐める。
呼吸を2回。
ペットボトルを持ち上げ、一秒間ほどの逡巡。結局、ペットボトルはそのまま下ろされた。
(;*゚−゚)「──あなたが被告人を殺したんですか」
その答えは、いやにゆっくりと返ってきた。
なおるよが一瞬表情を消し、辺りを見渡す。
数秒。
視点を検察席へと固定し、頷いた。
('(゚∀゚∩「僕はヒートと一緒にいたかっただけだよ」
- 527 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:22:35 ID:qgnrL7UgO
-
ヒートが俯く。
同時に、ツンが呻いた。
(;^ω^)
内藤は何も言えない。動けもしない。
中学2年生がどうこう出来る状態ではなかった。
('(゚∀゚∩「だったら、ヒートが幽霊になればいいって、……分かるでしょ。みんなだって納得するでしょ。
他の人は気付かない。僕だけがヒートを見ることが出来るんだから」
(;*゚−゚)「だからって──殺人ですよ!? 立派な犯罪行為だ!!」
('(゚∀゚#∩「……それがおかしいんじゃないか!!」
空気が揺れた。
語気を荒げ、なおるよはしぃを睨みつける。
('(゚∀゚#∩「どんな理由にしろ、人を殺せば捕まるなんて常識だ、分かってたよ!!
だから、こそこそやるしかなかった!! 本当は──堂々とやりたかったんだ!!
誤魔化すためとはいえ、ヒートの自殺に見せかけるのだって嫌だった!!」
- 528 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:24:25 ID:ZT11b4Wk0
- ゾクゾクしてきた
- 529 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:24:27 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚#∩「あれは僕とヒートのための儀式だ!!
犯罪で括れるもんじゃない、何より尊重すべき行いだった!!」
とんでもない理屈に、頭の中が痺れそうだった。
なおるよの声の余韻がいつまでも消えないような、そんな錯覚。
聞いていると足元が不安定になる。理解出来ない。
なおるよが項垂れ、長々と息を吐いた。
そうして顔を上げた彼の表情は、元の通りに。
- 530 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:26:54 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚∩「……いっぱい苦しんだ方が幽霊になりやすいって、知ってた。
病院で見る霊のほとんどが、苦しい思いをして死んだ患者さんだったから」
('(゚∀゚∩「可哀想だけど、でも、ヒートを幽霊にするために僕がんばったよ。
そしたら──」
('(゚∀゚*∩「そしたら本当にヒートが僕の前に現れてくれた!
僕は正しかったんだよ!」
内藤にも明確に分かること。
彼は「まとも」ではない。
しぃは絶句し、ギコとオサムは真剣な表情でなおるよを見据え、くるうは怯えている。
くるうの怯えは、なおるよではなく、場の雰囲気に向けられているようだった。
ξ; ? )ξ「……くそったれ……」
ツンの囁きは、ひどくか細い。
内藤の耳元に落ちて、そっと消えていく。
('(゚∀゚*∩「ヒート、もう回りくどいのはやめようよ!
僕と話せなかったのが嫌だったんでしょ? 僕に触れなかったのが悲しかったんでしょ?
だから僕のことを殺したんだ!」
- 531 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:28:05 ID:ZT11b4Wk0
- なおるよ怖い・・・・・・
- 532 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:28:16 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚*∩「みんなに説明してあげてよ!
君に罪なんかないんだ、僕と同じで、正当な儀式だったんだから!!
ごめんねヒート、初めから心中してれば、こんな面倒なことにならなかったのに」
どこまでも晴れやかな顔。
罪悪感など欠片もない。
それはそうだ、彼にとっては、全てにおいて正しかったのだから。
ヒートは首を擡げ、なおるよを見た。
この数分で、すっかり窶れたような顔付き。
そして──彼女の顔が、くしゃりと歪んだ。
.
- 533 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:30:06 ID:qgnrL7UgO
-
ノハ;?;)「お願いだから……もう放っといてくれよ……」
('(゚∀゚;∩「……え?」
さぞかし予想とかけ離れた返答だったのだろう。
なおるよは、ぽかんと口を開け、ヒートを凝視した。
- 534 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:33:23 ID:qgnrL7UgO
-
ヒートの顔が一層歪む。憎悪が塗り込められた表情は、内藤に更なる寒気を与えるほどの。
ノハ#;?;)「病院を辞めさせられたときには、もう、お前と別れるつもりだったよ。
遠い場所で、何もかも新しくやり直すつもりだったんだ。
なのに……」
ノハ#;?;)「……何で私があんな思いしなきゃいけなかったんだよ! 痛かった! 苦しかった!!
早く一思いに殺してって、何回も、何回も、何回も何回も言った!!」
ノハ#;?;)「やっと死ねたと思ったら、勝手にお前のところに引っ張られて、
離れたいのに全然離れられなくて、憎くて憎くて殺したくて
お前のこと殺しても成仏出来なくて──」
ずるり、ヒートの顔の右半分が落ちた。
いや、落ちた「ように」見えただけだ。
実際には、皮膚が捲れて垂れ下がっていた。
.
- 535 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:34:34 ID:lV502QQQ0
- うっわぁ…想像してしまった
- 536 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:34:36 ID:ZT11b4Wk0
- ヒート・・・・・・
- 537 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:35:00 ID:qgnrL7UgO
-
ノハ#::"?;)「──まだ痛いよ、まだ苦しいよ、苦しい……」
ばらばらと爪が地面に散らばり、身体中から吹き出た血液が床を汚す。
見ていられないとばかりに、しぃは目を背けた。
ツンが内藤の目元に手を当ててきたが、指の隙間から見えてしまう。
ヒートは尚も何かを訴えている。
しかし彼女の言葉は、喉の奥でごぽごぽ泡立つ音に邪魔され、少しも聞き取れない。
('(゚∀゚;∩「ひ、ヒート……?
嘘だよ、ヒート、何で? 嬉しくなかったの?
一緒にいられるなら──あんなの、どうってことないでしょ?」
ついにヒートが膝から崩れ落ちる。
血まみれの顔を血まみれの手で多い、血を吐きながら彼女は泣き叫んだ。
その泣き声はあまりに悲痛で。
内藤の耳と胸が、びりびりと震えた。
- 538 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:37:25 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚;∩「どうして泣くの?
ねえ、ヒート……、……ヒート!」
ふらふら、なおるよが机をすり抜け、ヒートのもとへ向かう。
ツンが内藤から離れて手を伸ばしたが、一歩遅く、なおるよには届かなかった。
ヒートは、引き攣った悲鳴をあげて身をよじった。
('(゚∀゚;∩「そりゃ……たしかに苦しかっただろうけど……でも、分かってくれた筈だよ!
僕は君の顔や体じゃなくて、君の心が何より好きなんだって、
君の魂そのものが愛しいんだって証明したん、」
声が途切れる。
なおるよの後ろに立ったギコが、服の襟を掴んでいた。
彼を見るギコの瞳は、いつもより鋭い。
(,,゚Д゚)「……あんたの証言はもうお腹いっぱいだわ。
いい加減、口閉じなさいよ」
('(゚∀゚#∩「離してくれよ! いま僕はヒートと──」
音が響いた。
木槌の音。今までで一番大きくて、身の内に威圧感が広がるような。
- 539 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:38:59 ID:BGWhW4poO
- 生前の罪はおばけ法じゃ裁けないのでは…
- 540 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:39:07 ID:zHF/STDgO
- 狂ってる
- 541 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:39:16 ID:ZT11b4Wk0
- ギコかっこいい
- 542 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:39:55 ID:qgnrL7UgO
-
【+ 】ゞ゚)「被告人」
ノハ#::"?;)「う……あ……」
オサムが再び木槌を振り下ろす。
すると、ヒートの姿が綺麗な状態へと戻った。
床に広がっていた血も消える。
【+ 】ゞ゚)「今まで事実を黙っていた理由は何だ?」
ヒートはがたがたと震え、自身を抱き締めるような体勢をとった。
血の代わりに、涙が床へと落ちていく。
ノハ;?;)「……話せば、新しい捜査や事情聴取で裁判が長引くと思った。
それに……生前の事件じゃあ、なおるよが罰せられることもないだろうって思って……」
【+ 】ゞ゚)「被告人は、おばけ法のことはよく知らないんだったか」
ノハ;?;)" コクリ
- 543 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:41:34 ID:qgnrL7UgO
-
【+ 】ゞ゚)「……ならば安心するといい」
弱々しく頷くヒートに、
オサムは毅然とした態度で返した。
木槌を握り直し、彼が口にするのは、ヒートへの──救済にも似た答え。
【+ 】ゞ゚)「生前裁かれなかった大罪は、
幽霊裁判において断罪される」
【+ 】ゞ゚)「それも今回は本人自ら罪を認め、全てを証言済みだ。
延期するまでもない。この場で裁いてやろう」
(*゚ー゚)「……ギコ」
青ざめてはいるが、いつもの調子を取り戻した(らしき)しぃが
ギコに向かって木製の小箱を投げた。
片手で受け止め、ギコは中から細長い紙──恐らくお札──を抜き出した。
そこでまたもや木槌が鳴る。
- 544 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:45:13 ID:qgnrL7UgO
-
【+ 】ゞ゚)「設楽なおるよ。
お前の犯行は実に身勝手で独り善がりに終始し、その内容も悪質だ。
砂尾ヒートの魂を自分のもとに引き寄せるほどの執着心も、害悪そのもの」
【+ 】ゞ゚)「色々言ってはいたが、結局、自分の罪を隠していたのは保身でしかなく
今に至っても反省の色一つない」
声には何の感情も見られない。
しかし、なおるよを睨む瞳の、何と恐ろしいことか。
【+ 】ゞ゚)「これより一年間。
霊界にあるSSビルの展望台から、飛び降り自殺を繰り返せ。
飛び降りるごとに苦痛を感じるから嫌気が差すだろうが、なに、一年経てば浄霊してやる」
.
- 545 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:47:32 ID:ZT11b4Wk0
- オサム様の本領発揮ktkr
- 546 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:48:28 ID:qgnrL7UgO
-
('(゚∀゚;∩「……は?」
(*゚ー゚)「詳しくは後で説明します」
('(゚∀゚;∩「な……何だよそれ!? 僕は悪いことをしたわけじゃない!!」
【+ 】ゞ゚)「刑事。耳障りだ」
(,,゚Д゚)「かしこまりましたあ」
一瞬、なおるよが身を竦ませた。
かと思えば瞼を下ろし、前方へ倒れていく。
ヒートにぶつかる、と思った瞬間、なおるよは消えた。
(,,゚Д゚)「……とんだ困ったちゃんねえ」
ギコが左手に持った札を揺らす。
なおるよはそこに入った──のだろうか。
ヒートはぽかんとしながら一連の出来事を眺めていた。
- 547 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:50:25 ID:qgnrL7UgO
-
ふらふらなところ申し訳ないとは思いつつ、内藤は机に寄りかかっているツンに訊ねた。
( ^ω^)「今の何ですかお。霊界とか」
ξ゚?゚)ξ「……霊界は、馴染みのある言葉で言うと『あの世』ってことね。
正確には、あの世の一部」
意外にも、ツンの声はしっかりしていた。
内藤だけでなく、ヒートにも聞かせようとしているのかもしれない。
そこまで言って咳き込んだツンに代わり、しぃが続きを引き継ぐ。
(*゚ー゚)「建物も自然物も、そっくりそのまま、この世と同じように存在しているけど……
生き物は全くいない。いるのはおばけだけ。
まあ簡単に説明するなら処刑場ってことだよ。
有罪かつ悪質と見なされたおばけは、そこで刑が執行される」
(*゚−゚)「これから彼が受ける刑は、さっき裁判長が言った通り。
結構厳しい方だね」
( ^ω^)「おー……説明ありがとうございますお」
- 548 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:51:33 ID:qgnrL7UgO
-
(,,゚Д゚)「しぃ、お札持っといて」
(*゚ー゚)「はいはい。……とんでもない奴だったな」
呟きつつ、しぃは鞄から取り出した台紙に札を貼りつけた。
妙な緊張感に包まれていた空気が、僅かに弛緩する。
ずっと硬直して人形のようになっていたくるうが、やっと動いた。
川;´々`) フー
(,,゚Д゚)「くるうちゃん大丈夫ー?」
川;゚ 々゚)「うん……こわかった」
ξ゚?゚)ξ「私の心配は? ねえ具合悪くしてる私の心配は?」
(,,゚Д゚)「もう飽きたわ」
ξ;゚?゚)ξ「飽きたとかねえだろこういうの!!」
( ^ω^)「元気じゃないですかお」
僅かに、というのは違った。
完全に弛緩した。
- 549 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:53:32 ID:ZT11b4Wk0
- くるうかわいい
- 550 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:54:15 ID:qgnrL7UgO
-
オサムはくるうの頭を撫でると、定位置から離れた。
ヒートの前へ行き、屈み込む。
【+ 】ゞ゚)「被告人。……砂尾ヒート」
ノハ;?;)「は、はい」
【+ 】ゞ゚)「誰が相手だろうと、お前が復讐のために殺人を行ったのは事実だし、それは罪だ。
しかし原因となった件……そのときにお前が得た苦痛と絶望は、察するに余りある」
【+ 】ゞ゚)「有罪であることに変わりはないが、刑は非常に軽いものに出来るぞ。
……どうしたい?」
- 551 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:56:08 ID:qgnrL7UgO
-
ノハ;?;)
ヒートの答えは、ただ一言。
ノハ;?;)「……全部忘れて、消えたい……」
【+ 】ゞ゚)「……分かった」
オサムが目を閉じる。
彼の手がヒートの頭上に翳されると、足元からほんのりと光が溢れた。
光はヒートの体を包んでいく。
美しいとさえ思える光景だった。
徐々に消えていきながら、ヒートがツンを見た。それから内藤を。
小さく口を開く。
- 552 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:56:37 ID:qgnrL7UgO
-
ノハ;?;)「ぁ、り、がと」
*****
- 553 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:57:50 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「──追体験っていうの? そういう感じ」
家路の途中。
「送る」と言い出し、内藤と並んで歩いていたツンは、突然そう言った。
( ^ω^)「何がですかお」
夏は日が長い。
夜と言える時間にはなっているが、まだ辺りを視認出来るほどに、闇は浅い。
ツンの足取りは、法廷とは全く違った。
先程、タクシーで帰れとギコ達に言われた際、これ見よがしにスキップを始めたくらいには
もうすっかり回復しているようだ。
ξ゚?゚)ξ「何がって、ほら、前に約束したでしょ。
『内藤君がまた幽霊裁判に関わったら、私の秘密を教えてあげる』って」
内藤は無言で歩を進めた。
それに構わず、ツンは話を続ける。
- 554 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:59:52 ID:ZT11b4Wk0
- ツン元気になってよかった
- 555 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:00:04 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「昔からよくあったのよ。
幽霊や妖怪と向かい合って話すとね、そいつの──過去の記憶の一部とかが、
私の頭の中で繰り広げられて……まるで私自身が体験してるみたいになる」
( ^ω^)「……」
何となく、予想はついていた。
内藤にも似たような経験がある。
浮遊霊が、いかに無念なのかをアピールするために記憶を見せてきたり、脳内に感情を流し込んできたり。そういう。
ただツンの場合は、口振りからするに
「相手が見せてくる」のではなく「勝手に見えてしまう」のが正しそうだが。
ξ゚?゚)ξ「体験っつったって、100%じゃないのよ。
映像だけで音声が聞こえなかったり、逆に音声だけが聞こえたり……。
触感や臭いまで感じたり、感じなかったり」
ξ゚?゚)ξ「あと、いつでも見れるわけじゃなくてね。
相手が油断してたり私に心を許してたりするときだけなのよね」
- 556 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:00:34 ID:lV502QQQ0
- ツンそういうことか…エグい
- 557 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:03:53 ID:qgnrL7UgO
-
( ^ω^)「……とりあえず、トソンさんやドクオさんのときに
焦ってたり余裕ぶってたりした理由が分かりましたお」
トソンの裁判でツンが焦っていたのは、内藤が「ごみ山」での出来事を思い出せるか分からなかったから。
ドクオの裁判でそこそこ悠然としていたのは、弟者さえ目覚めれば
数日前の記憶くらい、すぐに思い出してくれるだろうと踏んでいたから。
概ねこんな感じだろう。
ξ-?-)ξ「ドクオさんはねえ、私をばりばり警戒してたから分かんなかったわー。
まあハインさんがめちゃくちゃ油断してくれたおかげで、裁判前に真犯人わかって助かったけど。
あ、あと、くるうさんとか裁判長も全然分かんない」
あのバカップルは色々と謎よね。
両手を広げ、ツンが言った。
近くの民家から煮物の匂いが漂ってくる。
香りが鼻を抜け、内藤の腹を刺激した。
- 558 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:05:20 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「今回はヒートさんもなおるよさんも、今日になるまで分からなかったのよ。
でも今日の昼、ヒートさんと話してるときに……彼女も疲れてたんでしょうね。
ようやく記憶を辿れたわ」
ξ;-?-)ξ「ただ、追体験した箇所が悪かった……。
ヒートさんがなおるよさんに拷問じみた方法で惨殺されるシーンでね……。
よほど強い記憶だったのか、感触も臭いも音も、何もかも体験しちゃって」
( ^ω^)「あー……それで倒れたんですかお」
ξ;゚?゚)ξ「しかも、たちが悪いことに、ちょっとシンクロしちゃったみたいで……。
ヒートさんが動揺したり怯えたりすると、その記憶が繰り返し再生されるようになってさ。
こりゃあ私1人じゃ無理だわってことで、内藤君を呼んだの」
- 559 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:08:32 ID:qgnrL7UgO
-
ξ;-?-)ξ「まあ流石に、ヒートさんが実際に経験した苦痛の半分にも満たなかったでしょうけど。
それでもキツすぎたわ。参った」
道理で、審理中に度々調子がおかしくなっていたわけだ。
さぞ大変だったろう。
ξ゚ -゚)ξ「……で、加えて、ヒートさんの感情も流れ込んでくるのよね。
『やっと復讐出来たのに、まだなおるよが目の前にいる。
早くこいつのいない場所に行きたい。丸ごと消えてしまいたい』っていう感じの」
ξ゚?゚)ξ「……なおるよさんをもっともっと苦しめたい、
でももう傍にいたくない……──とかね」
( ^ω^)「……なるほどですお」
だからこそ、ツンは裁判の日付とヒートの「動機」に拘ったのだろう。
今日の内にヒートとなおるよを永遠に引き離し、
さらになおるよに厳罰を与える。
それらを実現したかったのだ。
ヒートも、早く全てを終わらせたいと思うと同時に、
心の底ではなおるよの罪を暴いてほしかったのではないか。
「死因」の件が、その表れだったのかもしれない。
- 560 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:09:49 ID:ZT11b4Wk0
- きついなぁ・・・・・・
- 561 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:10:03 ID:qgnrL7UgO
-
ξ*゚?゚)ξ「内藤君がいてくれて良かった! ありがとうね、あれはナイスな質問だったわよ。
お礼にちゅーしてあげる」
( ^ω^)「やめてください腐る」
ξ゚?゚)ξ「噛みちぎってやろうか」
( ^ω^)「……にしても、なら、どうして誰にも話さないんですかお」
ξ゚?゚)ξ「んー?」
( ^ω^)「今回に限らず、ツンさんの『追体験』をみんなに話せば裁判なんか開かずに済むだろうに。
……ほら、ツンさんが、容疑者が本当に罪を犯したかどうかを説明して、
くるうさんに嘘をついてるかどうか確認してもらえば……」
その方が、よっぽど楽だと思う。
回りくどい真似をしなくていいわけだし。
しかし、ツンはそうは思わないようだった。
- 562 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:11:11 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚ー゚)ξ「……そう出来れば簡単なんだけどねえ」
( ^ω^)「出来ないんですかお?」
ξ゚ー゚)ξ「結局は、言い方と考え方が問題なのよね」
言い方。と、考え方。
内藤には分からない。首を捻る。
ξ゚?゚)ξ「たとえば私が、誰かに内藤君を紹介するとして……。
『猫を被って他人を欺いているクソガキです』って言ったら、相手はどう思うかしら?」
( ^ω^)「第一印象最悪ですお」
ξ゚?゚)ξ「うん、そうよね。でも、
『場を和ませるために周りに合わせることが出来る、空気の読める子です』って言ったら?」
( ^ω^)「……」
ξ゚?゚)ξ「きっとほとんどの人が、内藤君は優しくて楽しい子なんだと感じるわ。
くるうさんだって、嘘の臭いなんか感じないはず」
- 563 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:12:10 ID:ZT11b4Wk0
- 内藤の紹介ひでぇww
- 564 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:13:36 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「……これは恐いことよ。
みんなが、私の言うことが全て真実なんだと信じるようになってしまったら……。
絶対に良くないことが起きる」
ξ゚?゚)ξ「もしも、私が個人的な感情で容疑者を嫌っていたら?
……その人は大した罪を犯していないのに、
私が極悪人のような扱いをしたら──」
その先は続かなかった。
けれど、言わんとすることは理解出来る。
そして「意外に思慮深い人だな」とも感じた。
失礼極まりない。
- 565 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:15:45 ID:qgnrL7UgO
-
ξ゚?゚)ξ「……だから私は、このことは黙っておくことにしてるの。
依頼人が事件にどう関わってるかが分かったら、
あとは自力で証拠や証言を集めて、それを証明するだけ」
ξ゚?゚)ξ「たとえ依頼人が無実でも、私の実力が足りなくて
しぃ検事が一枚上手だったら、有罪にされてしまう──
それくらいの『隙』を残しておいた方が丁度いいのよ。きっとね」
( ^ω^)「今日さっそく僕に助け求めてたじゃありませんかお」
ξ゚З゚)ξ「そういう、人のツテも実力の内なの!」
.
- 566 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:18:01 ID:qgnrL7UgO
-
l从・∀・*ノ!リ人「あっ、ブーン!」
( ^ω^)「お」
気付けば流石家の近くにいた。
玄関の前には流石妹者と弟者の2人。
妹者がブーンのもとへ駆けてきて、一方の弟者はツンを見て顔を顰めた。
ξ゚∀゚)ξ「チャオー」
(´<_`#)「ブーン。どういうことだ」
( ^ω^)「まあそれなりに深いわけが……2人共どうしたんだお」
- 567 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:20:44 ID:qgnrL7UgO
-
l从・∀・*ノ!リ人「姉者が晩ご飯の準備しててね、材料足りなかったみたいで、おつかい頼まれたのじゃー。
ツンさん、こんばんは! じゃ!」
(´<_`#)「妹者、そんな変質者に挨拶するな!」
ξ゚?゚)ξ「このシスコンは酷いわねー、妹者ちゃん」
l从・∀・ノ!リ人「ツンさん、目の前にいるのが妹者で良かったのう。
妹者じゃなくて姉者だったら、今頃ツンさんはちっちゃい兄者にフルボッコだったのじゃ」
ξ゚?゚)ξ「ええ、ほんと良かったわ……。
弟者君のシスコンぶりがまだ『やだやだ姉者と一緒じゃなきゃ
買い物行かないー』レベルにまで進行してなくて……」
l从・∀・ノ!リ人「実は最初はおっきい兄者がおつかい頼まれたんじゃがな、
おっきい兄者が『妹者と一緒に行きたーい』って騒いでキモ鬱陶しかったから
妹者とちっちゃい兄者で行くことにしたんじゃ……」
ξ゚?゚)ξ「変な兄弟に囲まれて苦労するわね……」
(´<_`;)「俺らの悪口で妹と盛り上がるな! 中2の繊細さナメんなよ!!」
ツンと弟者が言い合いを開始する。
無視して家に入ろうかと内藤が思案していると、
ツンの鞄に目をやった妹者が、明るく声をあげた。
- 568 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:22:41 ID:ZT11b4Wk0
- 楽しそうだなぁここの一家は
- 569 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:23:44 ID:qgnrL7UgO
-
l从・∀・ノ!リ人「あっ」
\(^o^)/
ぱっと妹者の瞳が輝く。
視線の先には──鞄の口からはみ出た、オワタくん人形。
持ってきていたのか、それとも勝手についてきたのか。
内藤がどうでもいいことを気にしている間に、妹者の手が人形に触れていた。
\(^o^)/⊂l从・∀・*ノ!リ人「これ何なのじゃ?」
(;^ω^)「あっ、それ……」
ξ゚∀゚)ξ「ん?」
弟者の罵声を笑って聞いていたツンが、妹者へ振り返る。
焦る内藤とは対照的に、ツンは鞄の口を大きく広げ、妹者が取りやすいようにした。
気味の悪い気配ごと、人形が妹者の手に渡る。
- 570 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:24:47 ID:qgnrL7UgO
-
妹者は人形を見下ろし、言った。
l从・∀・*ノ!リ人「万歳してて可愛いのじゃ!」
瞬間。
オワタくん人形が纏っていた嫌な気配が、消えた。
内藤の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
それと共に目から鱗が落ちた。
万歳。
たしかに、そうも見える。
内藤が真っ先に抱いた「お手上げ」という感想とは正反対だ。
- 571 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:28:37 ID:qgnrL7UgO
-
(´<_` )「何か妙にめでたそうな人形だな。
笑顔で万歳って」
l从・∀・*ノ!リ人「のじゃ!」
人形を掲げ、妹者がくるりと回る。
黒い靄は出なかった。
それどころか一瞬、白い光の筋のようなものが妹者の顔をくすぐって、消えた。
人形を抱き締めてから、妹者は名残惜しそうにツンのもとへ戻した。
ツンは小声で内藤に囁く。
ξ゚ー゚)ξ「……ね。言い方と考え方で、ずいぶん変わるもんでしょ」
( ^ω^)「……ですお」
ξ゚?゚)ξ「さあて、帰るわ。
じゃあね、ごきげんよう皆さん。
──妹者ちゃん、近々いいことあるかもよ」
ツンは人形を鞄に突っ込むと、流石家の前から去っていった。
ますます暗くなっていく住宅街の中、彼女の後ろ姿がより濃い黒を残していた。
.
- 572 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:29:35 ID:qgnrL7UgO
-
その後、内藤は弟者達と一緒にスーパーへ行った。
スーパーの福引きで妹者が2等の米5キロを当てたのは、まあ、余談である。
*****
- 573 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:32:29 ID:qgnrL7UgO
-
(゚、゚トソン
ヴィップ総合病院。
廊下を歩く──ゆっくり滑っていく──血まみれの女が1人。
都村トソン。
彼女は、友人、三森ミセリの病室へ向かっていた。
頻繁というわけではないが、たまに見舞いに来ている。
(゚、゚トソン(……誰が、ミセリに憑依したんだろう……)
ミセリに取り憑き、彼女を植物人間にまでした「真犯人」。
ツンと内藤のおかげでトソンの疑いは晴れたが、真犯人は未だ分かっていない。
いっそ──真実は明らかにならなくたっていい。
ただ、ミセリに目を覚ましてほしかった。
- 574 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:32:55 ID:ZT11b4Wk0
- ここでトソンか
- 575 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:35:59 ID:qgnrL7UgO
-
(゚、゚トソン(おっと)
「三森ミセリ」。
プレートが掲げられた病室の前で、トソンは立ち止まった。
本来なら限られた人物しか入れないが、霊には関係ない。
壁を摺り抜け、トソンは室内に侵入した。
(゚、゚トソン「ミセ──」
ベッドの傍らに男が立っていた。
少々太り気味のシルエット。
トソンに背を向ける形で立っており、顔までは分からない。
- 576 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:36:54 ID:qgnrL7UgO
-
(゚、゚;トソン「なっ……!」
男が振り返る。
その拍子に、彼の右手がミセリの首へと伸ばされているのが見えた。
( Фω)
ちらりと確認出来た猫目は、明確にトソンへの敵意を振り撒いている。
その威圧感に、トソンの行動が遅れた。
(゚、゚;トソン「あっ……待ちなさい!」
男が逃げる。
窓を通り抜けた。生きている人間ではない。
トソンが追ったが、彼女が窓を出たときにはもう、男はどこにもいなかった。
(゚、゚;トソン「……」
今のは、何者だ。
ミセリに何をしようとしていた?
彼はまさか──
(゚、゚;トソン「……『真犯人』……?」
*****
- 577 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:38:55 ID:qgnrL7UgO
-
(;・∀・)「……なあ、ジュース奢るのさ、分割でいい……?」
( ^ω^)(-_-)(´<_` )「一括で」
(´<_` )「あ、俺500mlのスポーツドリンク」
(;・∀・)「何で他のより高いやつ買わせようとしてんだよ死ね!!」
case3:終わり
- 578 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:40:57 ID:ZT11b4Wk0
- 乙!
裁判が予想外の展開でゾクゾクしながら読んだわ
本編が重かった分、エピローグがほのぼのとしていて和んだ
トソンのほうの続きが気になる・・・・・・
- 579 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:41:05 ID:OZKXUbWA0
- おつ
安定して面白いな
- 580 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:42:03 ID:qgnrL7UgO
- 今回の投下終わり
読んでいただきありがとうございました!
いま気付いたけど一話目でブーン気絶してるし二話目で弟者気絶してるし今回ツン気絶しかけてるし
何だこの失神裁判
case2/前編 >>149 後編 >>286
case3 >>409
- 581 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:49:59 ID:/t5J.7m.0
- おつおつ!
真相知ってから前編読みなおすと怖えええええ!!
- 582 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 21:50:09 ID:7RXTm5/60
- 乙
オサムとくるう可愛かった
- 583 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:00:59 ID:lV502QQQ0
- すごかったわ…色々忙しそうなのによくこんなん作れるな
読み返すのが楽しみ乙
- 584 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:02:44 ID:GRqzmY5k0
- ツンの言葉じゃないけど、ほんとに見方次第で話がぜんぜん変わってくるなー
乙!
- 585 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:34:31 ID:zHF/STDgO
- 乙
ちゃんと救いがあって本当によかった…
- 586 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 22:42:05 ID:mHtNVR7s0
- おつ面白かったよ!!
- 587 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 00:59:42 ID:ZmFVmD9gO
- 読みながらドキドキしまくったよ〜!
くるう可愛かった
- 588 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 21:56:33 ID:plH6jmpoO
- 乙でした!!
http://imepic.jp/20130207/767350
http://imepic.jp/20130207/767990
- 589 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 22:42:17 ID:9gG9xIAc0
- >>588
ちょwwwふいたじゃないかwww
- 590 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 22:54:35 ID:2.LOioTw0
- 1枚目と2枚目のギャップがwww
- 591 :名も無きAAのようです:2013/02/08(金) 03:58:31 ID:osyAY5Z2O
- >>588
昼の顔と夜の顔! ありがとうございます!
ギコwwwwwポーズうぜえwwwレースすげえwww
あれ……でも何故だろう、鎖骨や脇腹のラインに色気を感じてしまった気がする……あれ……
Boon Romanさんがまとめてくださったようです
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/gh_judge.html
Romanさんありがとうございます!!
- 592 :名も無きAAのようです:2013/02/09(土) 13:24:56 ID:qvrsq7KA0
- 乙
- 593 :名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 01:59:18 ID:XM1ur9960
- 失神裁判ワロタww
次の話も期待してます
- 594 :名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 17:49:34 ID:hmESNwfIO
- おつです!
- 595 :名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 01:16:04 ID:XOCFaZ5.0
- 乙
一気に読んだら面白かった
やかましいだのアマだの言うしぃかわいい
ttp://imepic.jp/20130212/042970 ※擬人化
- 596 :名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 18:02:22 ID:yzGsbv6AO
- >>595
( Д ) ゚ ゚
すげえ……ポスターか何かみたいだ。なんてこった、ギコが艶めかしい。オサムかっこいい
ツンとしぃの不敵というか悪そうな顔が好きです。ありがとうございます!
- 597 :名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 22:00:35 ID:J87IlKBoO
- >>595
うめぇぇぇー!
すごくタイプの絵だ
- 598 :名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 22:16:18 ID:o7BMYuyYO
- >>595
アニメのOPにありそうなシーンだな、かっちょいい
- 599 :名も無きAAのようです:2013/02/13(水) 09:03:29 ID:GZsHF8620
- >>595
しぃが良い意味でギコが悪い意味で両性的なのがベネ
- 600 :名も無きAAのようです:2013/02/22(金) 21:49:00 ID:TkzMhAP20
- >>595
アニメ放送いつですか?
- 601 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:08:03 ID:VvLJ6h4.O
- 投下する
区切れるところが見付からなかったので、前後編に分けずに一気に投下する
だから長い
途中で投下止まったら寝落ちだと思ってください
- 602 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:09:42 ID:VvLJ6h4.O
-
ずるい子だと思う。
(*・3・)「妹者ちゃん、これ……」
l从・∀・*ノ!リ人「あ! ソーサク堂のキャンディギフト!
くれるのじゃ? けっこう高いんじゃろう?」
(*・3・)「た、大したことないYO。パパの友達がソーサク堂の社長で、その人からもらっただけだC……」
l从・∀・*ノ!リ人「CMで見て、ずっと欲しかったのじゃ!
はあ……綺麗じゃのう、飴がきらきらしてるのじゃ」
(* ^^ )「あのっ、妹者ちゃん、これも」
l从・∀・*ノ!リ人「おおっ、お菓子の形した消しゴム!
妹者、こういう文房具集めるの大好きなのじゃ。
2人共、ありがとうなのじゃ!」
──この間、聞こえよがしに飴や消しゴムの話をしていたくせに。
遠回しに催促していたくせに。
わざとらしい。
- 603 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:10:54 ID:VvLJ6h4.O
-
⌒*リ´・-・リ「……」
(-@∀@)「──オジョーサン。ありゃあ、羨ましい限りでございますネェ。
あの子、もてもてですよう。プレゼントまでもらっちゃって、まあ」
⌒*リ´・-・リ「……転んじゃえばいいのに」
l从・∀・;ノ!リ人「──のじゃっ!?」
(;・3・)「わっ」
(; ^^ )「だ、大丈夫ですか?」
l从・∀・;ノ!リ人「大丈夫じゃ、転びかけただけ……。
何じゃろ、今、足に何か引っ掛かった気が……」
(;・3・)「何もないYO?」
l从・∀・;ノ!リ人「うーむ?」
(-@∀@)「あれま残念、転びはしませんでしたねえ」
⌒*リ´・-・リ「……ふん」
.
- 604 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:11:17 ID:VvLJ6h4.O
-
case4:呪詛罪
.
- 605 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:12:55 ID:hVS4FU/MO
- (*<●><●>)うっひょー来たー!
- 606 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:13:51 ID:VvLJ6h4.O
-
夏休みに入ってから数日が過ぎた、7月31日。
大多数の学生が真夏の訪れに様々な思いを抱き、
何かがありそうな予感に期待と不安を膨らませる、そんな日。
内藤ホライゾンは思考を放棄していた。
ξ#゚?゚)ξ「この──馬鹿眼鏡!! よれよれ白衣野郎!!」
怒鳴る出連ツンに、
(*゚ー゚)「……仲のよろしいことで」
(,,゚Д゚)「あれで仲いいことになるなら、あんただってツンと仲良しってことになるわよ?」
呆れ顔の猫田しぃと埴谷ギコ、
川;> 々<)「んん〜、うーるーさーいー」
【+ 】ゞ゚)「よしよし、耳ふさいでやるからな」
川*゚ 々゚)「あ……ちゅーするときみたい……」
戯れ合うオサムとくるう。
( <_ ;) カエリタイカエリタイカエリタイカエリタイカエリタイ
ついでに内藤の後ろで震える流石弟者。
- 607 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:15:08 ID:VvLJ6h4.O
-
( ^ω^)
この既視感溢れる状況に慣れてきた自分に絶望し、
内藤は、考えるのをやめたのであった。
本当に、いつぞやと同じ状況だ。
大きく違うとすれば──
(*゚ー゚)「あの人は毎回ながら、大人げない人だね。ねえ、内藤君」
( ^ω^)「……え? ああ、はい。そうですおね。話聞いてませんけど」
内藤と弟者が、「検察席」に立っていること。
左隣に立つしぃは、例によって学ラン姿。
右隣のギコはキャミソールにミニスカートだった。
左を向けば暑苦しい。右を向けば見苦しい。
- 608 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:17:36 ID:VvLJ6h4.O
-
──暑苦しいといえば。
頭を再起動させた内藤は、被告人の方を見遣った。
ξ#゚?゚)ξ「分かってる? あんた、被告人なのよ? 訴えられてんの!
で、私があんたの弁護しなきゃいけないの!
仕事の邪魔しないでくれる!?」
(-@∀@)「──邪魔だなンて、そんな」
黒いタートルネックにくたびれた白衣。薄汚れたジーンズ、革のブーツ。
夏場に合わなすぎる格好をした男は、へらりと笑って眼鏡の位置を直した。
(-@∀@)「僕は、センセイと会えるのが楽しくって、チョットはしゃいじゃっただけでございますよう。
あんまり酷いこと言わないでくださいな」
妙な調子の声で言って、自身の頬を両手で押さえる。
自分の立場を理解しているのかどうか──何と言うか、非常にマイペースだ。
ξ#゚?゚)ξ「……『ちょっと』はしゃいで……
弁護してくれる人間を呪うっていうの……?」
(-@∀@)「あっは。怒るセンセイかーわいい」
男の一言に、ツンの額辺りから何かの切れる音がした。
- 609 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:18:46 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ#゚д゚)ξ「有罪!! 有罪じゃ!!
貴様なんか今すぐ霊界ぶち込まれろ!!!!!」
(*゚ー゚)「僕の仕事取らないでくれます?」
審理の必要もないのではないか。
そう言ってやろうか迷いつつ、内藤は、3日前のことを思い返した。
.
- 610 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:20:03 ID:VvLJ6h4.O
-
#####
その日、内藤と弟者は、友人の小森ヒッキー宅で遊んだついでに夕飯をご馳走になった。
流石家に帰宅したのは午後8時頃。
玄関に見知らぬ靴があったため、珍しく客人が来ているのかと思えば──
(*゚ー゚)『やあ』
(,,゚Д゚)『お邪魔してまあす』
これだ。
食卓の前に座っている2人を指差し、
弟者は顔を青ざめさせた。
(´<_`;)『ギコさん……と、あんた、裁判の……!』
∬´_ゝ`)『裁判?』
(´<_`;)『いや、さ、さいば……菜箸、菜箸買いに行ったときに会ったことあって、あの、』
l从・∀・ノ!リ人『随分と不自然な気がするが……』
- 611 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:21:23 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)『その節はどうも。……内藤君もね』
( ^ω^)『はあ』
しぃ達の向かいには、流石姉者と流石妹者。
弟者の苦しすぎる言い分に妹者は怪訝な顔をしたが、姉者の方は「あらそう」とすっかり騙されていた。
まさか、しぃと裁判で会ったなどと──しかもそれが幽霊裁判だとは、姉者にだけは言えない。
そんなことを話せば、彼女が失神する。
∬´_ゝ`)『えっとね、この子、ギコ君の親戚の子でね。
学校の調べものがあって、うちに来たの』
(*゚ー゚)『「家庭の在り方について」という夏休みの課題が出されて……。
ご両親が不在の家庭が、どのような生活を送っているのか調べていたら、
ギコがこちらを紹介してくださって』
∬*´_ゝ`)『いきなりギコ君から電話があって、ちょっとびっくりしたわあ』
(*,゚Д゚)『前に連絡したときは、兄者君がコンパで酔い潰れてたの保護したときだものねえ』
手を取り合い、きゃっきゃと親しげに笑う姉者とギコ。
これでギコ以外の男が相手だったなら、弟者が怒っていたかもしれない。
- 612 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:22:24 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人『いっぱい答えたのじゃー』
(*゚ー゚)『協力してくれてありがとうね。後で何かお礼を持ってくるよ』
l从・∀・*ノ!リ人『んふふー』
(*´_ゝ`)『……ブーン、おいブーン』
( ^ω^)『はい?』
少し離れたところで漫画を読んでいた流石兄者が、小声で内藤を呼ぶ。
内藤は兄者の傍にしゃがんだ。
( ^ω^)『何ですかお』
(*´_ゝ`)『お前のこと「内藤君」って呼んだってことは、知り合いなのか?
仲いいのか? あの可愛い子と?』
兄者の指が、しぃをさす。
内藤は冷めた目で兄者を見てから、しぃの方へ顔を向けた。
- 613 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:24:41 ID:VvLJ6h4.O
-
──彼女は、セーラー服を着ていた。
半袖から伸びる細い腕。正座の形に折り曲げられた、滑らかで張りのある足。
こうして見ると、やはり「女の子」だ。
詰襟の学生服姿を見慣れている内藤には、どうしても違和感があった。
対し、ギコはワイシャツにスラックス。化粧もしていない。
端正かどうかは分からないが、それなりに異性から好まれそうな顔つきだし、
がっしりした体つきだし。「男」だ。仕草と発言以外は。
(*´_ゝ`)『ギコさんいいなあ……あんな子と親戚だなんて。
なあブーン、あの子の連絡先とか知らない?』
( ^ω^)『……さあ、知りませんお。連絡先どころか、ほとんど何も。
でも多分、性格良くないんじゃないですかお』
(*´_ゝ`)『あんなに礼儀正しいのに?』
( ^ω^)『結構ヒステリックな方だと思いますお。
まあ、全然知らないけど』
(;´_ゝ`)『なん、お前、なんでそんな知らない人のこと下げていくの!?
可愛い女の子に嫌な思い出でもあんの!?』
- 614 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:26:14 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)『──内藤君!』
唐突に、しぃからお呼びが掛かった。
しぃに見とれる兄者を置いて、そちらへ移動する。
(*゚ー゚)『君の部屋、少しお邪魔していいかな』
( ^ω^)『は』
(*゚ー゚)『君と弟者君にも話を聞きたいんだけど……。
……ほら、君達くらいの年齢じゃ、家族の前で素直に答えるの、何かと気恥ずかしいだろう?
だから、内藤君の部屋でゆっくり話したいんだ』
──端から、「学校の課題」なんて信じていない。
しぃとギコが揃っている時点で、目的など一つしかないであろう。
そもそも。
半ば、内藤が呼んだようなものなのだ。きっと。
呼んだというか、こうなる「きっかけ」を作ったというか。
- 615 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:27:14 ID:VvLJ6h4.O
-
内藤は答えあぐねる。それに焦れたか、弟者が口を開いた。
が。
∬*´_ゝ`)『協力してあげて? ね?
お茶とお菓子持ってくから、先にお部屋行っといて』
にっこりと笑いながら姉者に頼まれてしまえば、
弟者は、何も言えなくなってしまうのだ。
.
- 616 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:28:24 ID:VvLJ6h4.O
-
そうして内藤の部屋へ行き。
部屋の真ん中に座って、開口一番、しぃは言った。
(*゚ー゚)『裁判に証人として来てもらえるかな』
案の定。
内藤は溜め息をついた。
予想通りすぎる。
(´<_`;)『裁判って……』
(*゚ー゚)『幽霊裁判だよ、勿論』
弟者が、目にもとまらぬ速さでしぃとの距離をとった。
壁に引っ付き、ぶんぶんと首を横に振っている。
(´<_`;)『行くわけないだろ!』
(*゚ー゚)『僕も、君に来られると面倒なことになりそうだと思っているんだけどね……。
でもやはり、証言を書類にまとめるだけより、証人に来てもらった方がこちらとしても有利だし。
君は幽霊裁判に参加したことがあるから、呼びやすいし』
- 617 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:29:14 ID:VvLJ6h4.O
-
(´<_`;)『ブーンだけ連れてけよ!』
(*゚ー゚)『内藤君は法廷に呼ぶ必要はないかな。事情聴取だけでいい』
( ^ω^)『あ、やった』
(´<_`;)『え? 何? 俺だけ連れてく気?』
(,,゚Д゚)『そうなるかしら……』
(゚<_゚;)『いやあああああああ!! 行かない! 絶対行かない!!!!!』
そこへ、盆を持った姉者がやって来た。
弟者は即座に壁から離れ、ぴしりと正座を決めた。何事もなかったかのように。
いっそ感心する。
∬´_ゝ`)『お茶どうぞ。和菓子しかなくてごめんね』
(,,゚Д゚)『いいのよー、黒糖まんじゅう好きよ。ありがとね』
(*゚ー゚)『ありがとうございます』
- 618 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:31:25 ID:VvLJ6h4.O
-
∬´_ゝ`)『おかわり欲しくなったら呼んでね』
(´<_` )『いいよ、俺がやるから姉者は下でゆっくり休んでな。
まだ足痛むんじゃないのか』
∬´_ゝ`)『もう大丈夫よ』
微笑み、姉者が右足を前へ出す。
その足首には湿布が貼られている。
ごゆっくり、と言って姉者は階下へ戻っていった。
その後はしばらく誰も口をきかず、飲み食いする音だけがそこにあった。
沈黙に飽きた内藤が、もっちりしたまんじゅうを齧りながらしぃに話しかける。
( ^ω^)『今日は女子の制服なんですね』
(*゚ー゚)『学校からここまで真っ直ぐ来たからね。……今日は夏期講習があったんだ』
(,,゚Д゚)『あたしも一応仕事中だからこんな格好なの。ごめんねー、こんなもの見せて』
( ^ω^)『いや、寧ろ心安らぎましたお』
- 619 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:35:38 ID:VvLJ6h4.O
-
かさこそ。
まんじゅうを包むポリシートを剥がす音が響く。
お茶を一気に飲み干した弟者が、首筋を掻きながら訊ねた。
(´<_`;)『……裁判で扱う事件ってもしかして、「あれ」なのか。……なんですか』
(*゚ー゚)『恐らく、君の想像通りだよ。
だから本当は、呼ぶべきなのは──君の妹さんとか、お姉さんなんだよね』
(´<_`;)『……妹者と姉者?』
ぴくりと弟者の肩が揺れる。
見事に弱点を突かれた。特に姉者。
(*゚ー゚)『そう。被告人の非道ぶりを証明するのに丁度いい。
……君が来てくれないなら、彼女らを証人として呼ぶしかないかな。
とはいえ妹さんはまだ小さいから、お姉さんを1人で連れてくべきか』
そう言って、しぃはわざとらしく襖を一瞥する。
「その脅し方ツンさんみたいですよ」と言ってやると、あの人と一緒にするなと怒られた。
- 620 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:37:16 ID:VvLJ6h4.O
-
さて、こうなれば、弟者はしぃの言うことを聞かざるを得ない。
しかし1人で幽霊裁判に参加するなど、怖がりな彼には無理だ。
( ^ω^)(……結局かお)
半ば諦めたように、内藤が溜め息を吐き出した。
今回は検察側の証人ということになる。
いわばツンの敵。
彼女は──今回も、被告人の記憶を「追体験」したのだろうか。
下されるべき判決を、既に知っているのだろうか。
どんな裁判になるのか興味を持ち始めている自分に気付き、内藤は項垂れた。
#####
- 621 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:39:07 ID:VvLJ6h4.O
-
そんな経緯で、また幽霊裁判に来てしまった。
今回は何より場所が悪い。
妹者の通う小学校の隣、旧校舎。その中の教室が法廷に使われている。
ただ今、夜の9時前。
裁判の間だけ電気が通されているとはいえ、
「雰囲気」は過剰なくらいにたっぷりあった。
( <_ ;) オウチカエルカエルカエルカエラセテクダサイ
おかげで弟者はずっとこんな調子だ。
- 622 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:42:49 ID:VvLJ6h4.O
-
(-@∀@)「センセイ、ブレイクブレイク」
ξ#゚?゚)ξ「お前が余計なことするからじゃろがい!!」
ツンも、開廷する前から怒りっぱなしだし。
どうも被告人の男──アサピーが原因のようだが、いまいち分からない。
また内藤が思考を停止させようとしたところへ、オサムが木槌を打ち鳴らした。
【+ 】ゞ゚)「弁護人」
ξ#゚ -゚)ξ「……」
【+ 】ゞ゚)「開廷してもいいか」
ξ#゚?゚)ξ「……はい」
(-@∀@)「センセイ頑張ってー」
ξ#゚皿゚)ξ
ツンがアサピーを睨みつける瞳の鋭さたるや。
ビームでも出そうなそれが、今度は内藤へと照準を合わせてきた。
- 623 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:44:50 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「……内藤君、今日はそっち側なのね。何かちょっと裏切られた気分だわ」
( ^ω^)「正確には僕じゃなくて弟者が呼ばれたんですけど」
そろそろまた気絶するのではないか、という勢いで怯えている弟者を指差す。
途端にツンの表情が哀れみへ変わった。
ξ゚?゚)ξ「よりによって、その子を選んだのね」
(*゚ー゚)「彼が適任でしたので」
(,,゚Д゚)「妹者ちゃんは小さいし、兄者君はあんまり役に立ちそうにないし、
……姉者は弟者君以上に無理があるからねえ」
(-@∀@)「弟者クン弟者クン!」
(´<_`;) ビクッ
(;;゚"∀,,。)「いないいないばぁあああああああああっああああ」
(゚<_゚;)「ぎゃひぃいいいいいいいいあああああ!!!!!」
一瞬にしてゾンビのように顔が崩れたアサピーに、弟者の口から凄まじい悲鳴が飛び出た。
内藤の背後で、弟者がゆっくりと倒れる気配。
ギコが背中を支えたおかげで、何とか弟者の足は地を踏んだまま耐えた。
- 624 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:47:23 ID:VvLJ6h4.O
-
(;,゚Д゚)「弟者君しっかり! ほら、姉者と妹者ちゃんのツーショット写真よ! これで意識を保って!
ご希望とあらば兄者君の写真も!」
(´<_`;)「あ……姉者、妹者……兄者はいらない……」
(*゚ー゚)「何なんだ君は」
( ^ω^)「まずギコさんは何でそんな写真持ってんですかお」
ギコの持つ写真を眺めた後、弟者は再び内藤の肩に手を置いた。
内藤は、流石家で一番まともなのは弟者だと思っていたのだが。
そろそろその認識を改めねばならないだろう。
(-@∀@)「アッハッハッハ。面白いですねえセンセイ」
ξ#゚?゚)ξ「余計な! まね! すんな阿呆!!」
川*゚ 々゚)「もっかいやってー」
(-@∀@)「イイですよーう」
ξ#゚?゚)ξ「やるな!!」
元の顔に戻り、けらけら笑うアサピー。
随分と癖のある男のようだ。
アサピーは白衣の裾を翻しながらくるりと回って、また笑った。
- 625 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:50:43 ID:VvLJ6h4.O
-
オサムが木槌を鳴らす。
面に覆われていない目が、呆れたような視線をツンに送っていた。
【+ 】ゞ゚)「開廷の前に、弁護人、何があったのか話せ。
何でそんなに怒ってるんだ」
ξ゚З゚)ξ 〜♪
【+ 】ゞ゚)「それで誤魔化すのは至難の業だぞ」
ξ;゚?゚)ξ チィッ
(*゚ー゚)「さっき、『呪う』とか何とか言ってませんでした?
被告人に呪いでもかけられましたか?」
ξ;゚ v゚)ξ「え? え? 何? 何の話? ツンちゃんに分かんない話やめてくれる?
呪いとか知らないんですけどやだ怖い」
(,,゚Д゚)「図星なのね」
( ^ω^)「図星ですかお」
川 ゚ 々゚)「嘘のにおい」
(-@∀@)「センセイの頭悪いとこカワイイと思いますヨー僕」
ξ; ? )ξ「何でお前は他人事のスタンスなんだよ……! 何でお前は他人事のスタンスなんだよ……!」
頭を抱え、ツンは長机に突っ伏した。
どちらかというとしぃや内藤を振り回すことの多いツン。
彼女がこうも振り回されているのは、見ていて、なかなか気分がいい。
- 626 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:53:19 ID:VvLJ6h4.O
-
【+ 】ゞ゚)「どんな呪いだ?」
(-@∀@)「しょうもないもんですよ? 僕とキスしないと3日で死ぬやつ」
【+ 】ゞ゚)「……死ぬやつはしょうもなくないぞ」
(-@∀@)「でも、ちゅっと一発やりゃ解除出来るンだから簡単でしょう?」
(*,゚Д゚)「キスしたの?」
川*゚ 々゚)「したの?」
ξ#゚?゚)ξ「するか! 昼に呪い解かせたわ!!」
(-@∀@)「ザンネンでしたねえー。ザンネン。アハハ」
(´<_`;)「ていうか、何だその呪い……」
オサムが顎に手をやった。
アサピーとツンを交互に見る。
漂う空気や瞳の冷たさからして、被告人に対して好意的ではない。
【+ 】ゞ゚)「自分の弁護人をいたずらに呪っておいて、反省の色無しか」
ξ;゚?゚)ξ「いや裁判長、でもね、実害ないし、彼だって本気じゃなかったですし──」
(*゚ー゚)「……だとしても、相当たちの悪い冗談だと思いますよ?」
嘆くようなしぃの声色。
そこに滲むのは嫌悪感、はたまた侮蔑。
- 627 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:53:56 ID:VvLJ6h4.O
-
(*-ー-)「『呪詛罪』で起訴されてるのを知りながら、そういうことするっていうのはね」
(-@∀@)「……アッハ」
*****
- 628 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:55:32 ID:VvLJ6h4.O
-
(-@∀@)「アサピーと申します」
開廷の宣言は手早く済まされ。
オサムが被告人に行ういつもの質問に、
アサピーは眼鏡をずり上げつつ答えた。
(-@∀@)「50年ぐらい前にひょいと生まれた、しがないおばけでございます。
多分、町に渦巻く人間様の恨み辛みや妬み嫉みが『種』になって生まれたんでございましょうねえ」
(-@∀@)「そんな出生なんで、とりあえず──」
アサピーが両手を白衣のポケットに突っ込んだ。
ごそごそと怪しく蠢くポケット。
間もなく引き出された手には、藁人形やお札や正体不明の金属片が、ずらりと。
(-@∀@)「──呪術なんかの研究して、日々を過ごしてるンですよう」
- 629 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:56:57 ID:VvLJ6h4.O
-
( ^ω^)「研究って何ですかお?」
(-@∀@)「んふ」
答えはなく、不気味な笑いだけが返された。
呪具がポケットに戻る。
(*゚ー゚)「彼は人間のふりをして書店で専門書を買ったり、
時には実行して、呪術の知識と技能を蓄えていったんだ」
(´<_`;)「じ、実行?」
(,,゚Д゚)「人を呪って、怪我させたり事故を起こしたり……。
それらの件で、一昨年起訴されて有罪喰らってるわね」
(-@∀@)「ちゃんと刑は受けて、一月ほど前に霊界から出てきましたよ?」
( ^ω^)「……それって」
【+ 】ゞ゚)「有り体に言えば、『前科者』だな。
犯行は多かったが被害自体が小さかったから刑は軽かった」
ξ;-?-)ξ ハァ
ツンが溜め息をついている。
前科があるというのは、人間の裁判においても被告人にとって不利な条件だ。
そこにアサピーのこの態度が加わるのだから、心証は初めから良くないだろう。
- 630 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:58:56 ID:VvLJ6h4.O
-
【+ 】ゞ゚)「というわけで、検事。起訴状」
(*゚ー゚)「かしこまりました」
しぃが書類を持ち上げる。
間近で見るのは初めてだ。
ワープロで打たれた細かい字が並んでいる。
(*゚ー゚)「公訴事実」
しぃの唇から、力強い声が零れていく。
紡がれる言葉を聞きながら、内藤は、2週間前の記憶を巡らせた。
(*゚ー゚)「被告人アサピーは、2週間前の7月17日から24日に至るまで、
ある人物に対し『呪い』を仕掛け続けた──」
.
- 631 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 19:59:53 ID:VvLJ6h4.O
-
#####
最初の被害者は、姉者だった。
∬´_ゝ`)『おかえりなさい』
7月17日、午後4時前。
珍しく、姉者が内藤よりも先に帰宅していた。
小学校の教員をやっている姉者。
帰宅する時間はまちまちだが、平日のこんな時間に家にいるのは初めて見た気がする。
どうしたのかと訊ねると、
∬´_ゝ`)『ちょっと怪我しちゃって』
照れ臭そうに答え、右足を指した。
包帯が巻かれた足首に、氷水の入った袋を当てている。
( ^ω^)『大丈夫ですかお』
∬´_ゝ`)『うん。捻挫だって』
どうして捻挫なんか。
そう問い掛けた瞬間、台所から明るい声がした。
- 632 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:00:45 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・*ノ!リ人『姉者、麦茶冷えたのじゃ!』
妹者が、麦茶のポットとグラスを持って居間に飛び込んできた。
帰ってきたばかりだったのだろう、胸元に学校の名札が付いたままだ。
グラスを受け取り、姉者が妹者の頭を撫でる。
∬´_ゝ`)『ありがと』
l从・∀・*ノ!リ人『むふふー。あ、ブーンおかえり! 麦茶飲むのじゃ?』
( ^ω^)『ただいま。僕にも一杯くれお』
ぱたぱたと台所に行き、氷を入れたグラスを持って妹者が戻ってきた。
うっすらとオレンジがかったガラス製のポットを傾け、グラスに麦茶が注がれる。
l从・∀・ノ!リ人『そうじゃ、ブーン。聞いてほしいのじゃ』
( ^ω^)『何だお?』
- 633 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:01:45 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人『あのね、今日の3時間目ね、姉者のクラスがプールの授業やってたのじゃ。
でね、妹者のクラスは算数だったけど、先生が「外に出よう」って言ったから、
グラウンドでバドミントンとかサッカーとかやったのじゃ』
妹者は3年生。
姉者が担当しているのは、たしか2年生だ。
∬*´_ゝ`)『妹者のところの先生、スポーツマンだものねえ』
l从・∀・ノ!リ人『……グラウンドはプールの隣にあるから、
ほぼ確実に姉者の水着姿が目的だったんだと思うんじゃが、
このことはちっちゃい兄者には内密に頼むのじゃ』
( ^ω^)『そりゃ弟者には言えんお』
∬*´_ゝ`)『?』
内藤と妹者の視線が姉者の胸に向かい、すぐに逸らされた。
話の続きを促す。
恐らく、ここから姉者の右足に関わる展開になるのだろう。
- 634 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:02:58 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人『それで、先生と男子がサッカーやってて、女子の半分くらいはバドミントンやってたのじゃ。
妹者もバドミントンに参加したが、なかなか難しいのう……』
( ^ω^)『女子のもう半分は?』
l从・∀・ノ!リ人『サッカーの応援してたのじゃ。
どの男子が格好いいとか何とか言ってたけど、
まあ、名前が挙がったほとんどの男子は妹者の虜じゃったな』
ふん、と妹者が鼻で笑う。
たまに、彼女が小学生に見えなくなるときがある。末恐ろしい。
l从・∀・ノ!リ人『それはともかく。……そしたらのう、
先生が蹴ったサッカーボールがな、プールの方に飛んでったんじゃ!』
広げた左手をプール、右手の拳をボールに見立て、妹者が身ぶり手振りで説明する。
右手の勢いからして、結構なスピードで飛んだらしい。
- 635 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:03:49 ID:VvLJ6h4.O
-
( ^ω^)『それが姉者さんにぶつかったのかお?』
∬´_ゝ`)『ううん。プールの入口の前に転がったの。
でも私、ちょうど生徒に声かけられてて、ボールが飛んだ瞬間は見てなかったのね』
∬´_ゝ`)『で、その直後、倉庫に道具を取りに行くためにプールを出て……』
( ^ω^)『……ボールに躓きましたかお』
∬;*´_ゝ`)『うん……。でも転んではないのよ。
転びそうになって、踏ん張った拍子に変な曲がり方しただけで』
l从・∀・ノ!リ人『うちの先生が姉者のこと保健室に運んでったのじゃ』
∬´_ゝ`)『そしたら思ったより腫れちゃって、病院行った方がいいかもって言われて』
( ^ω^)『そのまま早引け、と』
- 636 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:04:54 ID:VvLJ6h4.O
-
∬´_ゝ`)『結局、大したことなかったし……ちょっと早く帰れて、得したかしら。
妹者より先に帰ってきたの、初めてだわ』
くすくす。
楽しそうに、そして少しだけ申し訳なさそうに姉者が笑う。
特別美人というわけではないが、彼女の雰囲気と振る舞いには、時々どきりとさせられる。
恋人がいないのが不思議なくらいだ。
( ^ω^)(……あ、弟者が邪魔するのか)
姉者の怪我を知ったら、ほとんどの家事を引き受けるであろう友人の顔を思い浮かべ、
内藤は麦茶に口をつけた。
.
- 637 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:06:31 ID:VvLJ6h4.O
-
7月18日。
姉者が足を痛めた翌日のこと。
(´<_`;)『熱っ……!』
(;-_-)『あっ!』
(;・∀・)『うわあっ! ごめん弟者! 大丈夫か!?』
ヴィップ中学校、給食の時間。
当番の1人だった浦等モララーが、スープの器を差し出した際に、
弟者の上半身へスープをぶちまけてしまった。
慌てて、担任が弟者を保健室へ連れていく。
それを見送るモララーは、すっかり青ざめていた。
(;・∀・)『な、鍋にぶつかっちゃって、咄嗟にそれ支えたら器引っくり返しちゃって……
どっ、どうしよう、やばいかな……』
(;^ω^)『大丈夫だお、煮えたぎったお湯じゃないんだし……』
(;-_-)『そうだよ。わざとでもないんだから』
- 638 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:07:55 ID:VvLJ6h4.O
-
しょげ返るモララーを慰め、内藤は1人、保健室へ様子を見に行った。
幸い、弟者は胸元に軽い火傷を負うだけで済んだようだった。
(*^ω^)『大したことなくて良かったお』
ほっと息をつき、にこにこしながら告げる。
本音ではあるのだが、教師がいる手前、演技をせずにはいられない。
手当てを受ける弟者を眺めながらモララーのことを話すと、
弟者は小さく吹き出した。
(´<_` )『モララーの奴、人に迷惑かけるの好きなくせに、こういうのは気に病むタイプだよな』
( ^ω^)『だおね。あ、着替えいるかと思ってジャージの上着持ってきたお』
(´<_` )『おお、サンキュー』
処置も済み、先に教室に戻っていろと指示を受けた弟者は
ジャージを羽織って、保健教諭と担任に礼を言って保健室を出た。
- 639 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:09:56 ID:VvLJ6h4.O
-
(´<_` )『姉者が怪我したかと思えば、今度は俺か』
( ^ω^)『次は兄者さんかお』
(´<_` )『はは、かもな』
内藤の言葉は、あながち冗談でもなかった。
──先程、モララーは「鍋を支えたせいで器を落とした」と言っていた。
それは内藤も見ているし、真実である。
しかし。
( ^ω^)(……あれは)
内藤はもう一つ、別のものも目撃していた。
半透明の、黒い手のようなものが鍋を押したのだ。
先日の──オワタくん人形が発していた黒い靄に似た禍々しさがあった。
ただの浮遊霊とは違う。
弟者がスープをかぶった直後、まるで目的を果たしたかのように、すぐに消えていた。
( ^ω^)(弟者を狙ったみたいな……。……姉者さんの怪我も、別に原因があった……?)
.
- 640 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:11:01 ID:VvLJ6h4.O
-
その日の夕方。流石家の居間にて。
(;´_ゝ`)『あれ……?』
大学から帰ってくるなり、財布を開いた兄者の顔が青ざめた。
胸や腹をぱたぱたと叩く。
背負っていた紺色のリュックサックを下ろし、金具を外して中身をぶちまけた。
出てきたのはノートとペンケース、それと漫画。
今度はズボンを脱ぐと、それを逆さにしてばさばさ揺らした。
携帯電話と鍵が落ちる。
兄者はそのまま床に倒れ込んだ。頭を抱えて唸る。
l从・∀・ノ!リ人『兄者、妹者の目が汚れるのじゃ』
( ^ω^)『何事ですかお』
(;´_ゝ`)『……金盗られた……』
内藤と妹者が顔を見合わせる。
いつもの奇行かと思いきや、なかなか深刻な事態だった。
- 641 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:12:36 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人『どこで?』
(;´_ゝ`)『学食で昼飯食った後、財布をテーブルに忘れたまま講義に出て……
帰りに思い出して取りに戻ったから──その間か』
( ^ω^)『いくら盗られたんですかお?』
(;´_ゝ`)『5000円』
( ^ω^)『……はあ。ごせんえん』
それはまた。
決して安くはないが、かといって、高額かと言われると何とも言えない。
( ;_ゝ;)『俺の全財産だったんだぞ!!
あんまりだ! カード類までは盗られなかったけどさあ、でもさあ!』
l从・∀・ノ!リ人『可哀想じゃが兄者の自業自得ではあるのじゃ』
( ^ω^)『まあ財布出しっぱなしで忘れてったのは兄者さんだし』
( ;_ゝ;)『わあああん妹者ー』
l从・∀・ノ!リ人『よしよし、泣かない泣かない。あとズボン穿くのじゃ』
正座する妹者の膝に頭を乗せ、兄者が妹者を抱き締める。
いつもの妹者であれば華麗に躱していただろうが、さすがに今は慰めてやることにしたようだ。
- 642 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:13:31 ID:VvLJ6h4.O
-
( ^ω^)(……まさか……)
内藤は床に放り出された兄者の財布を拾い上げた。
不審なところは見当たらない。
──姉者と弟者の怪我。兄者の財布。
不幸が続いている。
考えすぎだろうか。
しかし昼間の、あの黒い手は?
.
- 643 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:14:58 ID:VvLJ6h4.O
-
さらに次の日。
内藤達が夕飯を食べ終えた頃、姉者が帰宅した。
顎の辺りや肘に絆創膏を貼った彼女に、
ぎょっとした弟者が、何があったのかと問う。
∬;´_ゝ`)『学校の階段で落ちちゃって……』
放課後、階段を下りている途中で躓いたらしい。
そのときに顎と肘を擦りむき、腰を打ったのだという。
たまたま目の前に別の教師がいて、奇しくもクッションの役割を担ってくれたそうだ。
∬;´_ゝ`)『もう、血の気引いたわ……。相手の先生は背中ちょっと打っただけで済んだみたい』
( ^ω^)『……良かったですお』
──良くはない。
やはり、不自然なほど災難が起こっている。
- 644 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:16:41 ID:VvLJ6h4.O
-
(;´_ゝ`)『俺ら祟られてんのか?』
ぽつりと、兄者の口から漏れた一言。
それは内藤の頭の中にあった考えと、ほとんど同じだった。
l从・∀・ノ!リ人『たたりなのじゃ?』
(;´_ゝ`)『ここ3日で色々ありすぎじゃないか。なあ姉者──』
::∬; _ゝ )::
(;´_ゝ`)『あ』
::∬; _ゝ )::『た、たた……り……?』
(;´_ゝ`)『あ。あ。あ。いや。すまん。違う。待て。待って』
::∬; _ゝ )::『たた、たたたたた、』
(;´_ゝ`)『何でもない! ただの偶然だ! な!』
兄者の手が、姉者の肩に触れる。
触れてしまった。
- 645 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:18:05 ID:VvLJ6h4.O
-
∬;_ゝ;)『ひゃあああああああああああ!!』
絶叫し、姉者は内藤にタックルしてきた。
しがみついてきたつもりだろうが、タックルにしか感じられなかった。
その勢いで2人揃って倒れ込み、内藤は床に頭を打ちつける。
∬;_ゝ;)『私なんにもしてませんんん!! 悪いことしてませんいい子にしてましたぁああ!!』
( ^ω^)『サンタに来てほしい子供ですかお』
(;´_ゝ`)『うーん、どっちかと言うと、なまはげに来られた子供じゃないか』
(´<_`#)『分析してる場合か! 兄者のせいだぞ!? 何が祟りだ馬鹿らしい!!』
(;´_ゝ`)『あっやだごめんなさい! 本当ただ口が滑っただけなんです!』
怒鳴る弟者の手が僅かに震えていたが、指摘してやらない程度の優しさは内藤も持っている。
それより姉者をどかしてほしい。
ひときわ柔らかい一部分を押しつけられると、何だか、色々と困る。
- 646 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:19:07 ID:vSpmSllM0
- やった初遭遇
支援
- 647 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:20:07 ID:VvLJ6h4.O
-
( ^ω^)『姉者さん、心当たりがないんなら、それでいいじゃないですかお。
悪いことしてないなら祟られるわけないし』
──実際は、悪いことをしたつもりなどなくても祟られるときは祟られる。
が、そこまで言う必要は、今は無い。
l从・∀・ノ!リ人『姉者、美味しい飴あげるから泣かないのじゃ。
今日ぼるじょあ君がくれた飴でのう』
(;´_ゝ`)『ぼるじょあ!? 前に言ってた金持ちの息子か!? ついに貢いできたのか!』
l从・∀・ノ!リ人『間接的にねだったらくれたのじゃ。ちょろい』
(;´_ゝ`)『俺の妹がこんなに悪女なわけがないけど可愛い』
いざ祟られたり呪われたりするとすれば、姉者達より妹者の方が確率は高いと思う。
姉者の腕の力が弱まった隙に、内藤は彼女の下から抜け出た。
代わりに妹者が姉者の横に座り、頭を撫でてやっていた。
- 648 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:21:20 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人『よーしよし。おばけなんてなーいさ、おばけなんてうーそさ。たたりもないのじゃ』
∬;_ゝ;)『あううう』
( ´_ゝ`)『いいなー姉者いいなー』
(´<_` )『……ブーン』
( ^ω^)『お』
居間の出入り口に立った弟者が、内藤を手招きした。
2人で廊下に出る。
腕組みをして、弟者は苦虫を噛み潰したような顔を内藤に向けた。
(´<_` )『あの女、変なことやってないだろうな』
( ^ω^)『あの女?』
(´<_` )『……出連ツン』
( ^ω^)『ああ』
言われて気付いた。
ツンなら、特定の人物を呪うような──そんな知識も持っていそうだ。
内藤だって一度呪われたし(あれはツンに、と言うよりオワタくんに、と言った方が正しいだろうが)。
- 649 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:22:21 ID:VvLJ6h4.O
-
( ^ω^)『さすがに、ろくに会わないような人間に、いきなりそんなことしないんじゃないかお』
(´<_` )『頻繁に会う人間には何かやらかす、って言い方だな』
( ^ω^)『それは否定出来ないお』
内藤は顎に手をやった。
ツンの顔と共に、様々な言動が脳裏に浮かぶ。
それから芋づる式に、オサムやくるう、しぃの顔が浮かび──
( ^ω^)『──……弟者』
(´<_` )『何だ?』
( ^ω^)『ギコさんの連絡先、分かるかお?』
これがたとえば、大して親しくもない人間の周囲で起きていることだったなら、
内藤は無視していたかもしれない。
しかし、それが弟者達となると、放置するわけにもいかなかった。
- 650 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:23:29 ID:VvLJ6h4.O
-
内藤はギコに電話をかけ、姉者達の身に起きたことと、黒い手について相談した。
調べてみる、との答えを頂く。
以前もらったツンの名刺が手元にあるものの、そちらに連絡するのは癪だった。
それから数日間。
姉者や弟者は軽い怪我を負うような事故に遭い続け、兄者は失せ物などの不幸に見舞われた。
酷いときには、同じ日に3人とも災難に巻き込まれたことも。
全てが収まったのは、初めに姉者が負傷した日から1週間ほど経過した頃であった。
#####
- 651 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:26:52 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「──そして先週火曜日、7月24日。
ギコがヴィップ小学校付近を調査していたところ……
終業式を終えて下校する1人の女児の後ろを、ぴったりついていく被告人を発見した」
(*゚ー゚)「以前幽霊裁判にかけられた男であることに気付いたギコが、
被告人と、その女児に取り調べを行ったことで
今回の件が発覚したものである」
起訴状には、姉者の事故の状況等が細かく記されていた。
内藤と弟者に出廷を頼みに来た日、あのとき既に、姉者達から詳しく話を聞き出していたのだろう。
(*゚ー゚)「罪名及び罰条!
呪詛の罪、おばけ法第75条」
(*゚ー゚)「以上の事実について、審理を願います」
お馴染みの締めくくり。オサムが頷く。
アサピーは合間合間に笑い声や唸り声を挟んでいた。
彼の心情が読めない。
- 652 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:28:16 ID:VvLJ6h4.O
-
【+ 】ゞ゚)「被告人は……一応、罪を認めていないんだっけか」
(,,゚Д゚)「たしかに認めてないわよ。認めてないけど……」
(-@∀@)「皆様が僕を犯人だと言うならそうなの、カモ、ねえ。
そうじゃないのカモ?」
川 ゚ 々゚)「ちんぷんかんぷん」
(;,゚Д゚)「この調子で」
ξ;-?-)ξ「……弁護側は、一応、無罪の方向で進めるつもりです……」
(*゚ー゚)「彼は常に、我々を翻弄して楽しもうとしています。
そういった性格と言動は好ましくありませんね」
【+ 】ゞ゚)「前の裁判のときと変わらんな」
オサムが口元に手をやり、親指で左の頬を擦る。
僅かだが、声に不快そうな響きが滲んだ。
- 653 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:31:24 ID:VvLJ6h4.O
-
(´<_`;)「あの……。……じゅその罪、って?」
弟者が消え入りそうな声でギコに訊ねた。
実のところ、内藤も弟者も細かいところを知らされないまま、ここに来ている。
アサピーがヴィップ小学校──妹者の通う学校──で発見されたことすら初耳だし、
罪状も明確には教わっていなかった。
何か考えがあってのことだろうが、その考えにまで予想が至らない。
(,,゚Д゚)「呪詛罪は読んで字のごとく、誰かを呪うことを禁止する法律。
呪いって言っても様々だから、程度や物によっては別の罪になることもあるけど、
今回は呪詛罪ってことで起訴したのよ」
なるほど、と弟者と内藤が頷いた直後、しぃが口を開いた。
- 654 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:34:00 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「先程、起訴状で出た『女児』について、話をさせてもらいます」
【+ 】ゞ゚)「ああ。頼む」
(*゚ー゚)「女児は、ヴィップ小学校の3年3組に所属する凛々島リリという生徒です」
(´<_`;)「3年3組?」
思わずといった様子で、弟者が声をあげた。
内藤以外の全員の目を向けられ、弟者の体が揺れる。
(*゚ー゚)「何かご存じのようで」
(´<_`;)「……妹者のクラスだ」
(*゚ー゚)「そう! 凛々島リリは、この流石弟者君の妹のクラスメートなんです」
やや大きな写真が掲げられた。
そこには1人の少女が写っている。
【⌒*リ´・-・リ】
正面を向いているが、視線は下方へと逸らされていた。
快活な印象はない。
固く結ばれた口元は、拗ねているようにも見えた。
- 655 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:35:27 ID:VvLJ6h4.O
-
まじまじと見つめるオサムの腕にくるうが縋ったところで、しぃは写真を下ろした。
子供にまで嫉妬しなくていいだろうに。
川#゚ 々゚) フーッ
(*゚ー゚)「今回の事件において、この少女は重要な鍵であります」
ξ゚?゚)ξ「……」
ツンが口を開き、少し固まって、閉じた。
割り込むほどの言葉が思いつかなかったのだろうか。
- 656 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:36:48 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「彼女への取り調べは僕とギコが行いましたが、幽霊裁判については説明しておりません。
僕達はカンオケ神社の関係者であるいうことにして、
『悪い霊を祓ってやる』と言って話を詳しく聞きました。
方便とはいえ嘘をついたこと、それと勝手に名前を借りたこと、今お詫びします」
【+ 】ゞ゚)「それは構わん」
(*゚ー゚)「ありがとうございます。
──聞くところによると。
凛々島リリは、流石妹者のことを良く思っていなかったようです。敵意すらあった」
(´<_`;)「て、敵意……」
( ^ω^)「好きな男の子を妹者ちゃんに取られでもしましたかお」
(*゚ー゚)「そういうわけではないけれど──
男女、特に男子生徒から人気のある流石妹者を妬んでいたみたいだね」
(,,゚Д゚)「小学生とはいえ、女としてそういう嫉妬はするものなのね……」
- 657 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:38:37 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「が、直接危害を加えるようなことはなかったそうだ。
というより、そんなことをする勇気を持っていなかった」
(-@∀@)「……気が弱いオジョーサンでございましたからねえ」
(*゚ー゚)「だから手助けしたんでしょう?」
(-@∀@)「ええ、まあ」
しぃが仕掛けてきた一言に、アサピーはあっけらかんと答える。
彼は肩を竦め、頭を揺らして笑った。
ξ゚?゚)ξ「……異議」
(*-ー-)「申し訳ございませんね。核心に触れすぎましたか?」
毎度のことだが、何とも底意地の悪い言い方をするものだ。
ツンがしぃを睨み、しぃはツンに嘲笑を送った。
額に青筋を立て、ツンが口の両端を吊り上げる。
- 658 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:39:56 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ#゚∀゚)ξ「しぃ検事……ここ3件ほど私に負け続けてるくせに、
まーだ自信が有り余っておられるのねえ……?」
(;*゚ー゚)「まっ、負けって──この前のは有罪判決だったんだから僕の勝ちだろう!?」
ξ#゚?゚)ξ「情状酌量に持ち込めたんだから私の勝ちでしょうよ!」
(#゚ー゚)「あれはほとんど被害者の自爆と被告人の告白によるものだ!
あなたは具合を悪くしてふらふらしてただけじゃないか!!」
ξ#゚?゚)ξ「またふらふらして心配かけさせてやろうか!!」
(#゚ー゚)「誰が心配なんぞするか!!」
川;゚ 々゚)「うー……」
【+ 】ゞ゚)「静粛に静粛に。今それは関係ないだろう」
木槌の音に、ツンとしぃは同時に顔を背けて舌打ちした。
アサピーはくすくすと可笑しそうにしている。
- 659 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:41:22 ID:VvLJ6h4.O
-
【+ 】ゞ゚)「検事。続き」
(*゚ー゚)「……はい。
凛々島リリいわく。ある日──正確に覚えていないようでしたが、7月17日の前頃でしょう。
被告人が突然、目の前に現れたそうです」
(*゚ー゚)「そして言われた。『嫌いな人でもいるのか』と。
……明らかに人間ではない被告人に対して恐怖を覚えたものの、
妙な話し方のため、すぐに怖くなくなったようですね」
【+ 】ゞ゚)「凛々島リリは霊感があるのか?」
(*゚ー゚)「いいえ。
恐らく、被告人が彼女にだけ姿を見せたのでしょう」
(*゚ー゚)「被告人は凛々島リリに対し、誰が嫌いなのか、どんな風に憎いのかを執拗に訊ねました。
初めは相手にしませんでしたが──」
しぃがファイルを開く。
日付と数行の短文が書かれた表が見えた。
- 660 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:42:42 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「7月17日。グラウンドにてサッカーに興じる男子生徒達を応援していたところ、
1人の生徒がゴールを決めました。
歓声があがる中、その生徒は、バドミントンをする流石妹者の方を頻りに気にしていた」
(*,゚Д゚)「見ててほしかったんでしょうねえ。妹者ちゃんたら罪な子なんだから」
(*゚ー゚)「ええ、微笑ましいことです。
しかし凛々島リリには、妬ましい光景だったのでしょう」
(*゚ー゚)「いつの間にか傍にいた被告人が『どんな気分だ』と質問してきて、彼女は、
『妹者ちゃんなんか大怪我すればいい』と答えてしまったそうです」
( ^ω^)「──『妹者ちゃんなんか』?」
(*゚ー゚)「そう。
それを聞いた被告人が何やら手を動かした途端、男性教諭の蹴ったサッカーボールが、
プールの方へと飛んでいってしまった」
(,,゚Д゚)「そのボールのせいで姉者が──大怪我ではないけど、捻挫しちゃったわけ」
(´<_`;)「その子は妹者のこと言ったのに、何で姉者が……」
内藤は後ろの弟者に振り返り、首を傾げた。
弟者も不思議そうにしている。
- 661 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:45:20 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「続いて翌日の7月18日。
給食の時間、男子生徒が余っていたデザートのゼリーを流石妹者に譲りました。
他に欲しがる人がいただろうに、なぜ無条件で……と凛々島リリは不服に感じた」
(*-ー-)「そしてまたもや傍にいた被告人に、
『鍋を倒して妹者ちゃんが火傷しちゃえばいいのに』と囁きました」
(´<_`;)「ゼリーもらったから、って……そんな理由で……?」
弟者の声が低くなる。
内藤の肩に置かれた手に、熱が篭った。
(*゚ー゚)「被告人は前日のように手を動かします。
しかし何も起こらなかった。
そのときの被告人の言葉は『失敗しちゃいましたね』、だったとか」
( ^ω^)「実際は、弟者の方が火傷してたわけですが」
(,,゚Д゚)「そうねえ。ブーンちゃんが見たっていう黒い手、被告人のだったのかしらね」
ξ゚?゚)ξ「まあギコちゃんったら勝手なこと言ってくれるわね。証明してくれるの?」
(*-ー-)「証明するまでもありませんよ」
しぃが、資料の表面を指先でなぞった。
表の上から3つ目の欄で指を止める。
- 662 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:48:43 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「同日、午後。授業の一環として『自分の宝物』の発表会が行われた際、
兄や姉から買ってもらったという文房具、小物、おもちゃを自慢する流石妹者に苛立ちを覚え、
『そんなもの全部壊れてしまえ』と言い──その頃、流石兄者が現金を盗まれました」
( ^ω^)(ん?)
違和感。
怪我をしろ、と言って姉者が捻挫し、火傷しろ、と言って弟者が負傷した。
なのに兄者の被害は物の破損ではなく盗難である。
金額だけで言えば、妹者の宝物の価値には全く届かないし。
規則性がよく分からない。
首を捻る内藤に気付いたのか、しぃではなくアサピーが答えた。
(-@∀@)「ドロボーされたのも、間違いなく呪いが原因ですよお」
ξ゚?゚)ξ「……いちいち言わなくていいの」
(*-ー-)「お墨付きを頂けたようで。
──7月19日。男子生徒からプレゼントをもらった流石妹者を見て
『転べばいい』と呟いたところ、流石姉者が階段で躓き転倒……」
そのまましぃは、24日までの凛々島リリの発言と、流石家の3人に起きた不幸をつらつらと述べた。
リリの身勝手な呟きが出てくる度、背後の弟者から苛立ちが伝わってくる。
- 663 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:50:53 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「──と、このように、凛々島リリが恨み言を口にし、
被告人が不可解な仕草をする度に呪いが行われていたことが分かります」
【+ 】ゞ゚)「話を聞く限りだと、そうなるな」
川 ゚ 々゚)" コクコク
ξ;゚?゚)ξ「あっ、ちょっ、異議!」
ツンが右手を挙げた。
右手はそのままに、左手でファイルを開いて「ええと」と声を漏らす。
ξ;゚?゚)ξ「流石姉者の件についてなんですが──」
(-@∀@)「センセイ、またそんな無意味なもの見て!!」
ツンの反論は、アサピーによって阻まれた。
思わぬ大声に、ツンが一瞬硬直する。
(-@∀@)「それ、あれでござンしょ? 僕にも事件にも無関係な証拠でしょう?
出すだけ無駄ですよ、無駄!
そんなもんより、もっと意味のあるものを出してくださいな」
ツンの眉間に皺が寄る。
睨み合い。それから間もなくして、ツンはファイルを閉じた。
- 664 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:52:34 ID:VvLJ6h4.O
-
【+ 】ゞ゚)「いいのか?」
ξ゚?゚)ξ「本人が無駄だと仰るのなら」
(*-ー-)「審理中に依頼人から命令される弁護士とはね」
ξ;゚?゚)ξ「う、うるさいわね!」
(*゚ー゚)「それで、もう言いたいことは無しですか?」
ξ;゚?゚)ξ「んなわけないでしょうが。……えっと、……。
……そうだ、まだアサピー……さんの仕業とは決まってないのに、
確定したかのような言い方するのはやめてくれる?」
(´<_`;)「さっきから、本人が認めるようなこと言ってると思うんだが」
(-@∀@)「そうですようセンセイ」
ξ;゚?゚)ξ「『僕は無実です』って私に言ってきたのあんたでしょう!?
検事、いい? こいつは適当なことばっか言う奴なのよ、こいつの証言に信憑性は無いわ!」
(*゚ー゚)「苦し紛れにそう仰ると思ってました。
では、さらにいいことを教えてあげましょう」
資料のページが捲られる。
ずらりと並ぶ文字。リリの名前が散見された。
- 665 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:54:11 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「凛々島リリは以前から流石妹者を気に入っていませんでしたが、憎むほどではなかった。
それなのに被告人と会ってから、急速に嫉妬心が膨れ上がっていったとのことです」
(*゚ー゚)「自分の発言によって他人が怪我をするのも、被告人が現れるようになってから。
逆に被告人が逮捕されてからは、
流石妹者の家族の周りで、ぱったりと不幸が起こらなくなりましたよね」
ξ;゚?゚)ξ「……それは、だって──」
(-@∀@)「僕がいないと、あのオジョーサン、何も出来ませんからネ」
(*゚ー゚)「凛々島リリは利用されていたのです!
彼女の中のささやかな感情を無理矢理に増幅させられ、呪いのエネルギーに換えられていた!」
(-@∀@)「いよっ、その通り!」
ξ;゚?゚)ξ「……。なら、呪いの矛先が流石妹者ではなくその家族に向けられるのはおかしいでしょう?
アサピーさんは呪術のプロなんだから……」
(*゚ー゚)「彼は、ついこの前まで霊界に行っていたんですよ。
いくらプロといえど、ブランクがあれば腕も鈍りましょう。
狙いが定まらず、血縁者の方へ引き寄せられてしまったのではありませんか?」
(-@∀@)「鋭いですねえー、検事サンは。
センセイと大違い」
ツンが押し黙る。
アサピーの振る舞いは、ほぼ自白に等しい。
それでもツンは食い下がろうとしている。
- 666 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:55:00 ID:VvLJ6h4.O
-
彼女の目的は何だろう。
「追体験」をしたのかどうかで、彼女の行為の意味は大きく違ってくる。
たとえば真実を知っているとして──
現状は、ドクオのときのように、ツンの作戦の内なのだろうか?
はたまた、都村トソンのときのように、全てを暴くための準備が整っていないのか?
それともアサピーがツンに心を許していないのだろうか。
だとすれば彼女には真偽を確かめる術がないわけだから、
ごくごく普通にしぃに追い込まれていることになる。
( ^ω^)(……僕には分からんお)
何となく、ツンに任せていればどうにかなるような気がしていたが、そうもいかないようだ。
そもそも彼女自信が言っていたことである。
しぃの方が一枚上手であれば、そしてツンに不手際があれば、真実とは違った結果になり得る。
内藤が端から見ていて判断出来るものではない。
ξ;゚?゚)ξ「……あ……」
ツンが声を発した。
目が泳ぎまくっている。
- 667 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:56:00 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ;゚?゚)ξ「アサピーさんは、そんな、人を利用するような酷い奴じゃないし……」
川 ゚ 々゚)「くさい」
ξ;゚?゚)ξ「とっても優しいし!」
川 ゚ 々゚)「くさい」
ξ;゚?゚)ξ「根は真面目で誠実で!」
川 ゚ 々゚)「くさい」
(,,゚Д゚)「ツン……あんたって女は……」
(*゚ー゚)「ならば、なぜ被告人は凛々島リリの周囲をうろちょろしていたんでしょうか」
ξ;゚?゚)ξ「ロリコンだからよ!!」
川 ゚ 々゚)「くさくない」
(-@∀@)「センセイ、僕をそんな風に思ってたんですか」
【+ 】ゞ゚)(ろりこん……?)
- 668 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:58:02 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ;゚?゚)ξ「私だって小学生の頃、こいつに絡まれることが多々あったわ!
でも下らないことでからかわれてただけで、呪われたり手伝わされたりしたことはありません!」
川 ゚ 々゚)「ちょっとくさい」
ξ;゚?゚)ξ「……ちょっとだけ、しょぼい呪いかけられて遊ばれたことはあります……」
ツンと彼に、以前から面識があったであろうことは察していたが、
てっきり、アサピーの「前科」に関わる裁判が2人の出会いなのだと思っていた。
しかしどうやら、ツンが幼い頃からの知り合いらしい。
(-@∀@)「僕は女の子が好きなんじゃなくッて、センセイみたいに面白い子が好きなだけですよう。
心外だナァ」
(*゚ー゚)「凛々島リリは面白い子だったんですか?」
(-@∀@)「いいえー。そこら辺によくいる感じの子でした」
(*゚ー゚)「では、幼少のツンさんに構っていたときとは事情が違うわけですね。
よって、弁護側の主張は無意味であることが判明しました」
ξ;゚ -゚)ξ「……この眼鏡白衣野郎……」
( ^ω^)(何だか、被告人すらツンさんの敵みたいに思えるお)
- 669 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 20:59:31 ID:VvLJ6h4.O
- 10分くらい休憩します
これで投下半分くらい済みました
- 670 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:12:05 ID:VvLJ6h4.O
-
(´<_` )「──……なあ」
不意に、後ろから弟者の声。
その声から恐怖は失せている。
代わりに、怒りのようなものが感じられた。
【+ 】ゞ゚)「どうした、流石弟者」
(´<_` )「その──凛々島リリって子は、来てないのか?」
(,,゚Д゚)「来てないわよー」
(*゚ー゚)「9歳の子を幽霊裁判に連れてくるわけにもいかないだろう?」
内藤は首を捩り、弟者の顔を見上げた。
実に不機嫌そうだ。
(´<_` )「その子が妹者に下らない嫉妬してたのが原因ってことだろ?
被告人がそれを利用したとはいえ──
妹者の不幸を望んで、実際に言葉にしてたのは事実なんだろ?」
(,,゚Д゚)「まあ……ねえ」
- 671 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:14:30 ID:VvLJ6h4.O
-
(´<_`#)「じゃあ、ここに連れてきて、一言でも謝らせるべきじゃないのか!?
姉者も兄者も俺も、そいつのせいで被害を受けたんだぞ!」
くるうが泣きそうな表情を浮かべてオサムの後ろに隠れた。
どうも彼女は、人の大声というか、怒鳴り声が苦手なようだ。
得意な者などいないだろうけども。
オサムが顔を顰めて木槌を握り直す。
注意される前に、と、内藤は未だ肩に乗っている弟者の右手を叩いた。
( ^ω^)「弟者、ちょっと抑えた方がいいお」
(*゚ー゚)「……いいや! 弟者君、きみは今こそ主張すべきだ!」
しかし、内藤の制止は、すぐさましぃに遮られる。
しぃは目を細めて両手を広げた。
舞台役者のような、大仰な動き。
- 672 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:15:37 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「裁判長、監視官! これは被害者である彼の、真っ当な『証言』です!
我々が法廷で最も尊重し、耳を傾けるべきは、哀れな被害者の意思だ!」
( ^ω^)(……ああ、そういう……)
しぃが弟者を法廷に呼んだ理由がやっと分かった。
彼女が何より欲しかったのは、「被害者の怒り」なのだ。
だから、この場に来るまで、内藤にも弟者にも事件の詳細を話さなかった。
新鮮で──最も大きな怒りを引き出すために。
(*゚ー゚)「しかし……弟者君。きみが真に憎むべきは凛々島リリではないよ。
嫉妬なんて、誰しも持ち得る感情だ。
それを彼女は被告人によって無理矢理、増幅させられていた」
「無理矢理」で力を込め、殊更ゆっくりと語りかける。
そして弟者の腕を引っ張り、内藤の隣に並ばせた。
真っ直ぐ伸ばされたしぃの手が、アサピーを示す。
それを目で追って、弟者は眼光を鋭くさせた。
- 673 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:18:15 ID:VvLJ6h4.O
-
(-@∀@)「……そんな恐い顔しないでくださあいよう」
(*゚ー゚)「君の大切な妹さんを呪ったのは彼だ。
とばっちりとはいえ、お姉さんやお兄さん、そして君を襲った不幸の原因は彼にあるんだよ」
ξ#゚?゚)ξ「異議!!」
(*゚ー゚)「さあ、君の気持ちを、今ここで吐き出すといい」
ξ#゚?゚)ξ「裁判長! 異議っつってんでしょうが!!」
オサムは、左手の平をツンへ向けた。
ツンが歯噛みし、唇を震わせる。
(´<_`#)「……妹者は……」
初めの一言は、小さかった。
机の上に乗せられた両手が拳を作る。
大きな声で、としぃが言った。
言葉を選んでいるのか、少しの間をあけつつ、弟者は自身の考えをまとめていった。
(´<_`#)「妹者はたしかに、要領が良くて、人から好かれるのが得意で……性格も、いい方じゃない。
そういうのを嫌う人間からは、白い目で見られるかもしれない」
(´<_`#)「でも、だからって、それが呪われていい理由にはならないと思う」
しぃが首を縦に振っている。
その向かいのツンは、弟者ではなくアサピーを見ていた。
- 674 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:20:19 ID:VvLJ6h4.O
-
(´<_`#)「姉者が怪我したとき、心配で堪らなかった。
今だって、また転んだりして足を痛めてやしないか気になってる。
……その、姉者まで巻き込まれたってことが、一番嫌だ」
(*゚ー゚)「現在、彼らの両親は、仕事と親類の手伝いのため別の土地に行っています。
それ故、今の流石家を守っているのは流石姉者なんです。
もし彼女の被害が捻挫や擦り傷で済んでいなかったら──……恐ろしい話です」
(,,゚Д゚)「姉者じゃなくて弟者君が足を痛めてたら、それこそ大変だったでしょうねえ。
陸上部は足が命よ。8月は大会もあるんでしょ?」
川 ゚ 々゚)「りくじょうぶ」
【+ 】ゞ゚)「知ってるぞ、走ったり投げたり跳んだりして競うやつだな」
川*゚ 々゚)(飛ぶ……鳥さん……)
( ^ω^)(あんまり伝わってないだろうなあ)
- 675 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:23:52 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚ー゚)「弟者君。今きみは、被告人に対しどんな感情を抱いている?」
(´<_`#)「……腹が立つ」
(*゚ー゚)「被告人にどう償ってほしい?」
(´<_`#)「刑とか……そういうのはよく分かんないけど。
心の底から反省してほしい」
しぃが笑みを深め、首を傾ける。
もしもこのまま有罪だと言われれば。
アサピーはどんな刑を科せられるだろう。
一度は刑を執行されたわけだから、今度はさらに重くなる筈だ。
なのに、
(-@∀@)
アサピーは、へらへら笑っている。
内藤には、それが余裕から来るものには思えなかった。
そうやってにやつくことが、きっと、彼にとっては「素」の状態なのではないか。
(*゚ー゚)「彼らの受けた身体的・精神的な被害は、決して軽くありません。
そもそも彼らには、呪われて然るべき理由などなかった」
そんなアサピーを、しぃは軽蔑を孕んだ目で睨む。
彼女からすれば、彼の笑みは不謹慎極まりないのであろう。
- 676 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:26:24 ID:VvLJ6h4.O
-
(#゚ー゚)「いたいけな少女を利用し、また別の少女を呪い、
その周囲までをも巻き込んだ被告人の所業は冷酷と言わざるを得ません」
(#゚ー゚)「注目すべきは、この事件は被告人が霊界を出て間もなく引き起こされたものである点。
さらに本法廷において、彼は我々──どころか自身の弁護人さえ揶揄し、馬鹿にする発言を繰り返している。
一切、反省の色を見せていないのです!」
ヒートアップしてきたのか、はたまた演出か、しぃが机を叩いた。
いくつかの資料が床に落ちる。
オサムの肩越しに顔を覗かせていたくるうが、また引っ込んだ。
- 677 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:29:16 ID:AeW02U5g0
- きてたー!支援!
- 678 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:29:19 ID:VvLJ6h4.O
-
(#゚ー゚)「弟者君は『反省してほしい』と言ったが、この被告人にそれは期待出来ない!
検察側は、強制浄霊──否!
被告人の『消滅処分』を要求する!!」
突然。
アサピーの表情が崩れた。
ずれてもいない眼鏡を押し上げ、その奥の目が見開かれる。
元から良くない血色が、一層失せた。
【+ 】ゞ゚)「……うむ、検事に概ね同意だな」
(;-@∀@)「ちょっと──お待ちくださいよ!
消滅処分って、それ、それって、僕が消えちゃうってことじゃァないですか!!」
【+ 】ゞ゚)「お前は人間の魂ではないし、浄霊は少し難しい。
再犯の可能性を考えると、ただの懲罰では意味がない。
消滅処分が妥当だろう」
- 679 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:33:30 ID:VvLJ6h4.O
-
(;-@∀@)「罰ならいくらでも受けますけどね、消えるのは嫌だ!!
人間が勝手に僕を生み出しといて、その人間の安全のために僕を殺すっつうんですか!?
僕は──僕は無実だ!!」
(,,゚Д゚)「あんた、さっきから自分が犯人みたいな振る舞いしてたじゃないの」
(;-@∀@)「だって僕は、僕、は、……僕は。
……センセイ……」
縋る声。
しかしツンは口を閉ざしたままだ。
すっかり置いていかれた弟者と内藤は、顔を見合わせた。
(*゚ー゚)「浄霊は、死者の魂を浄化して『上』へ送ること。
消滅処分ってのは、存在そのものを完全に消すことだ。強い苦痛を伴う。
だから被告人は消滅処分を嫌がっている」
(´<_`;)「そりゃ、……こわいな」
しぃが、小声で解説してくれた。
弟者が若干引いている。
つまり消滅処分は幽霊やおばけにとって、完全な「死」で──
アサピーの叫びは、崖っぷちでの命乞い。
彼の恐怖が、内藤にも伝わってきそうだった。
- 680 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:35:05 ID:VvLJ6h4.O
-
木槌が鳴った。
アサピーの顔に絶望が塗り込められる。
【+ 】ゞ゚)「弁護人、何か反論は」
ξ゚ -゚)ξ「……」
(,,゚Д゚)「返事くらいしなさいよう」
ツンが俯く。
それからしばしオサムが待っていたが、彼女は沈黙を通した。
やがて、オサムの口から溜め息。
【+ 】ゞ゚)「……反論もないということで。
そろそろ、判決を言い渡そうか」
しぃが、ほっと息をつくのが聞こえた。
傍にいた内藤達しか気付けないほど、ささやかな。
ちらりと顔を覗いてみると、安堵が見て取れた。
ここ最近──といっても、内藤は3件の裁判しか知らないが──ツンに足をすくわれっぱなしだったので、
不安を抱いていたのかもしれない。
内藤の視線に気付いたしぃは咳払いをして取り繕うと、
いつもの自信たっぷりな表情を浮かべて、腕組みをした。
- 681 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:38:01 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ ? )ξ
そうして、木槌を振り上げたオサムの手は──
ξ ? )ξ「ほんと……昔っからクソ面倒臭い眼鏡ブーツ白衣野郎だわ……」
独り言により、止められた。
- 682 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:40:07 ID:VvLJ6h4.O
-
次いで、笑い声。
ξ ∀ )ξ「……ふふふ……うっふっふ……うふふふふ!!」
ツンだ。
ついに頭がおかしくなったか──と内藤が突っ込みかけて、
元からマトモな頭ではないことを思い出した。
ξ#゚∀゚)ξ「こぉおおおおおんの大馬鹿!!!!!
あんたが望むなら、って思って黙っててやったのに!
いざ判決出されるときになって泣きつくぐらいなら、初めっから邪魔とかしないでよね呪詛マニア!!」
(;*゚ー゚)「……な」
(;-@∀@)「センセイ」
唖然とするしぃとアサピーに高笑いを送り、ふんぞり返る。
笑いながら怒る人だわ、とギコが呟いた。
そして、ツンは高々と右手を挙げた。
- 683 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:42:49 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ#゚∀゚)ξ「はい! はいはいはい! 異議! 異議あーり!!
反証とか色々やりまーす!!!!!」
(;*゚ー゚)「なっ、……にを、言ってるんだあんたは!! また負け惜しみか!?」
川 ゚ 々゚)「……嘘じゃないよ。くさくないもん」
ツンの表情が、大口あけた笑顔から、不敵な微笑みへ変わる。
その変化にしぃがたじろいだ。
きっと彼女の中で、嫌な予感というものが溢れ返っていることだろう。
弟者とオサムは、ぽかんとしている。
中途半端な位置に留まっていた木槌が、ゆっくりと下ろされた。
ξ゚ー゚)ξ「裁判長。弁護側、証人の準備が出来ております。
入廷の許可を」
(;*゚ー゚)「しょ──証人!?」
【+ 】ゞ゚)「……ああ。許可する」
ξ゚ー゚)ξ「ありがとうございます。
……さあ! おいで、2人とも!」
言って──ツンは、教室の入口を振り返った。
- 684 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:45:56 ID:VvLJ6h4.O
-
沈黙。
張り詰めた空気の中、ついに、引き戸がゆっくりと開かれた。
l从・∀・ノ!リ人「失礼します、なのじゃ」
⌒*リ;´・-・リ
現れたのは、2人の少女。
その見知った顔に、弟者が驚愕した。
内藤も驚いたが、驚きのあまり、口をひくつかせるだけに終わった。
(´<_`;)「妹者!?」
(;,゚Д゚)「凛々島リリちゃんまで……」
(;-@∀@)「……センセイったら。ホント、やらかしちゃうンだから」
妹者は物珍しげに室内を見渡し、凛々島リリの手を引いて、ツンの隣に立った。
弟者が妹者に駆け寄ろうとしたが、
内藤が手を引っ張って止めた。
いま弟者が向こうに行くと、ますます面倒なことになりかねない。
- 685 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:49:26 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人「ゆーれーさいばん……。
遊びなら、ちっちゃい兄者やブーンが付き合う筈ないし……これ、本当なんじゃなあ」
ξ゚?゚)ξ「ええ。分かってると思うけど、他言無用よ」
l从・∀・*ノ!リ人「のじゃ。……ツンさんが幽霊見えるっていうのも本当だったんじゃな!」
妹者に動じる様子はない。
もしかすると、流石家で母親の次に胆が据わっているのではなかろうか。
──というか。
( ^ω^)「何してくれてんですかお」
ξ゚?゚)ξ「いいじゃないの今更。内藤君の霊感を知る人が一人二人増えたって」
( ^ω^)「ギコさん、刑事なら拳銃持ってるでしょう。あのひと撃ってくださいお」
(,,゚Д゚)「残念ながら今は手元にないわ」
( ^ω^)「じゃあアサピーさん、とびきりキッツい呪い掛けてやってくださいお」
(;-@∀@)「エ……ああ、そうですネェ……。僕と子作りしないと3日で死ぬ呪いにしましょうか。
高いですけどお」
ξ;゚?゚)ξ「んな呪い掛けられたら大人しく死を選ぶわ!!」
(´<_`;)「妹者達の前で子作りとか言うのやめろ!!」
【+ 】ゞ゚)「くるうの前でもやめてくれ」
川*゚ 々゚) キャー
- 686 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:52:01 ID:VvLJ6h4.O
-
てんやわんやの法廷。
呆然としていたしぃが我に返り、机を叩いた。
(;*゚−゚)「ばっ、──馬鹿かあんた!!
何考えてるんだ!? 小学生を幽霊裁判に連れてくる奴があるか!!」
ξ゚?゚)ξ「あら、証人に年齢制限はなかった筈だけど」
(;*゚ー゚)「そういう問題じゃない!!
情報の漏洩とか──精神的な悪影響とか──その──い、色々と、何だ、問題が」
ξ゚?゚)ξ「妹者ちゃんはこんなこと誰にも話さないわよ。
賢いし、それに、とーっても怖がりなお姉さんがいるものねえ?」
l从・∀・ノ!リ人「まず他人に話したら、妹者が馬鹿だと思われるのじゃ」
(´<_`;)「そりゃそうだろうけど」
(;*゚ー゚)「……待て! まず、彼女達はいつから廊下にいたんだ!?」
ξ゚?゚)ξ「初めから。ね、妹者ちゃん」
l从・∀・ノ!リ人「うむ。夜の旧校舎でじっとしてるってのは怖かったけど、
裁判聞いてるの楽しかったのじゃ」
法廷に入ったのは、しぃと内藤達、オサムとくるう、アサピー、遅刻したツン、という順番だった。
ツンがやって来たときに、妹者とリリを廊下に待機させたのだろう。
なら──リリが妹者をどう思っているのかも、妹者は聞いてしまった筈だ。
それでも彼女はリリの手を握って離さなかった。
- 687 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:53:18 ID:VvLJ6h4.O
-
(;*゚ー゚)「……裁判長! あなたなら、彼女達がいるのに気付いていたんでしょう!?
どうして放っておいたんです!」
【+ 】ゞ゚)「弁護人が連れてきたようだったし、何か考えがあるんだと思って」
しぃは頭を押さえ、よろけた。
この状況、目眩だってしよう。
ξ゚?゚)ξ「それじゃ……まずは証人尋問といきましょうか。
証人は、凛々島リリ」
ツンがファイルを開き、のんびりと言い放つ。
リリはびくりと震え、ツンやアサピーを見回してから、俯いた。
彼女の表情は、恐怖だろうか。罪悪感だろうか。
ξ゚?゚)ξ「リリちゃん。あなたは、妹者ちゃんに対して嫉妬──やきもちを焼いていたそうね。
羨ましかったの?」
⌒*リ;´・-・リ
こくり。小さく首を縦に振る。
ツンはしゃがみ込み、リリと視線を合わせた。
- 688 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:54:23 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「どうして羨ましかったの?」
答えはない。
ツンはじっとリリを見つめ、辛抱強く返事を待った。
やがて、小さな口が動く。
⌒*リ;´・-・リ「……妹者ちゃんばっかり優しくされて……みんなから贔屓されてたから。
ずるいって思った……」
l从・∀・ノ!リ人「……」
(´<_`;)「妹者……」
リリが腕を揺らす。
妹者の手が離れ、リリは服の裾を握り締めた。
ξ゚?゚)ξ「いつから?」
⌒*リ;´・-・リ「……3年生になって、同じクラスになってから……」
- 689 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:55:59 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「妹者ちゃんに、怪我や失敗をしてほしいと思うようになったのは、いつ?」
⌒*リ;´・-・リ「……」
(;*゚ー゚)「ですからそれは被告人と会ってから──」
ξ゚?゚)ξ「検事はちょっと黙ってちょうだい」
リリの目がくるうに向けられる。
体が震えていた。
宥めるように、ツンはリリの頭を一度撫でた。
ξ゚?゚)ξ「あの女の人は、嘘をつくとすぐにそれが分かるわ。
だから嘘をつかずに、素直に答えて」
⌒*リ;´・-・リ
ξ゚?゚)ξ「……もう一度訊くわね。
いつから、妹者ちゃんなんか怪我しちゃえって思い始めたの?」
また、答えはすぐには返ってこない。
リリが、ぎゅっと目を閉じ、手に力を込めた。
そうして、10秒。
- 690 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 21:57:02 ID:VvLJ6h4.O
-
⌒*リ;´・-・リ「……わかんない……」
小さな、けれど皆に聞こえるほどの一言。
くるうは黙っている。
嘘のにおいはしないようだ。
それを受け、しぃが目を見開いた。
何で、と、か細い囁き。
ツンが再びリリの頭を撫で、立ち上がった。
(;*゚−゚)「ぼ、僕のときと、言ってることが違、」
ξ゚?゚)ξ「検事。あなたのミスだわ」
(,,゚Д゚)「……だから、中途半端な騙し方するのやめなさいって言ったのよう」
ギコが顔を背けて溜め息をつく。
オサムとくるうは、同時に首を傾げた。
- 691 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:00:17 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「あなた、カンオケ神社の職員を装って……
『悪霊を祓うため』って言って、彼女から話を聞いたんでしょう?」
咎める瞳。
射るような、という表現がよく似合う。
しぃが一歩、後退りをした。
ξ゚?゚)ξ「そんな風に言われたら、誰だって、全部『悪霊』のせいにしたがるわよ。
それに、どうせあなたのことだわ。
何もかもアサピーが悪いってスタンスで誘導したんじゃないの?」
(;*゚−゚)「──、……、……っ」
反論も出来ない様子だった。
自分の足元を見据え、しぃは言葉を失う。
ツンは少しだけ表情を緩めて、別のファイルを手に取った。
先程、一度開いたときにアサピーに邪魔され、諦めて閉じていたものだ。
その中からA4サイズの紙を引っ張り出す。
- 692 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:02:25 ID:VvLJ6h4.O
-
広げて掲げられたそれは、簡略化された見取り図。
上部に、大きな横長の四角形。「校舎」と書き込まれている。
左下の小さな長方形に「プール」、その上の更に小さい正方形には「倉庫」。
そして空いたスペースには「グラウンド」という文字があった。
プールの周辺に、いくつかの円。
ξ゚?゚)ξ「7月17日」
右手に紙を持ち、左手で赤いペンを構える。
ツンは「グラウンド」にペン先を置いた。
ξ゚?゚)ξ「男性教諭の蹴ったサッカーボールが──
検察側の主張で言えば、『呪い』によって、プールの方角へ飛んでいきました」
そのままペンを滑らせる。
言葉通りに、赤い線が伸びていく。
- 693 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:04:30 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「……ここからは妹者ちゃんとリリちゃんの証言」
ξ゚?゚)ξ「プールの近くには何本かの樹が植えられています。
サッカーボールは真っ直ぐ飛んでいき──ひとつの樹にぶつかり、
跳ね返って、プールの入口の前へと転がりました」
赤い線は小さな円に行き着くと、そこで元の方向へ引き返し、「プール」の前で止まった。
【+ 】ゞ゚)「それに躓いて、流石姉者は怪我をしたんだよな。
……弁護人の話に間違いはないな?」
l从・∀・ノ!リ人「ないのじゃ」
⌒*リ;´・-・リ" コクン
オサムの問いに、妹者は臆することなく答えた。
くるうからの指摘がないので、嘘はついていない。
ξ゚?゚)ξ「流石姉者は踏ん張ったときに負傷しただけで、決して転んでいないこと。
この周りには石がごろごろしていたことを、先に言っておきます」
- 694 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:06:38 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「さて。ボールが飛んできた瞬間、流石姉者は、生徒に声をかけられたために
ボールに気付くことが出来なかった……のよね、内藤君?」
( ^ω^)「……姉者さんはそう言ってましたお」
ξ゚?゚)ξ「では──もし。
『声をかけられていなかったら』、どうなってたかしら?」
(,,゚Д゚)「どう、って……」
ギコはツンの持つ紙へ人差し指を向け、するりと動かした。
ボールの軌道をなぞっているようだ。
そして、「あ」と声をあげた。
ξ゚?゚)ξ「そう。ボールは一度、プールの前を通過している。
このとき、流石姉者が誰にも呼び止められず、当初の予定通りに倉庫へ向かっていたら──
まあ断言は出来ないけど、飛んできたボールが直接ぶつかっていたかもね?」
l从・∀・;ノ!リ人「あのボールの勢いでぶつかったら相当痛いのじゃ……」
ξ゚?゚)ξ「水着だったから無防備だしね。
当たる場所によっては、転びもしたでしょう。
もし転んで、地面の石に頭を打ちつけようものなら、最悪の場合──」
口を閉じる。
その先を想像したのだろう、弟者が青ざめた。
内藤がアサピーを見ると、彼は何故か、ばつが悪そうに頬を掻いていた。
いつもなら真っ先に何かしらの反応を見せるしぃは、まだ沈黙している。
- 695 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:08:37 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「7月18日」
紙とペンは机へと置かれた。
オサムの背後から定位置へ戻ったくるうが、興味津々といった様子で話を聞いている。
ξ゚?゚)ξ「これは単純な話ね。
鍋が倒れそうになった、それを支えたがために器をひっくり返した、そのせいで弟者君が火傷した。
内藤君、そのとき、鍋の中身はどれくらいあったの?」
( ^ω^)「ええと、盛りつけ始めてすぐだったから、いっぱいありましたお」
【+ 】ゞ゚)「……鍋の方が倒れていたら、大惨事になってたな」
(;,゚Д゚)「やだ、恐いわあ、それ」
(´<_`;)「たしかに……」
ξ゚?゚)ξ「そして同日午後。これは兄者君すら現場の詳しい状況を知らないわけだから、ちょっと分からないわね。
でも、財布そのものを盗まれなかったり、カードは無事だったり──被害は軽い方だわ」
ξ゚?゚)ξ「7月19日。流石姉者が階段で転んだ際、たまたま居合わせた教師を巻き込んだおかげで、軽傷で済んだ。
この教師がいなかったら、彼女の被害は如何ばかりか……」
川*゚ 々゚)(イカばかり……するめ……)
- 696 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:11:10 ID:VvLJ6h4.O
-
(;*゚ー゚)「……っ……」
ξ゚?゚)ξ「あのね、検事。アサピーはたしかに先日まで霊界にいたわ。
でも、少しのブランクで──呪術のプロが、そう何度も失敗すると思う?」
(;*゚ー゚)「しかし、……」
ξ゚?゚)ξ「7月17日から24日までの間、ずっとリハビリしてたようなもんなのに、
一回も成功しないってどうなの? おかしくない?」
ξ゚?゚)ξ「それも狙ったように──被害の度合いは、姉者、弟者君、兄者君の順に小さくなってるわ。
ねえ?」
やっとしぃが声を発したかと思えば、また黙り込む。
気の毒と言うほかない。
ツンは、アサピーに「そうでしょう」と問い掛けた。
アサピーは目を逸らしたが、少し経って観念したのか、ツンへと顔を向け直した。
- 697 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:12:42 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「あんたがどれだけ呪術に長けてるか、昔からよく知ってるわ。
どれだけ詳しいか、もね」
(-@∀@)「……僕もセンセイがどれだけ単純で複雑で間抜けで賢いか、昔からよーく知ってますよ」
ξ゚?゚)ξ「なら、分かるでしょ。
今ここでの『黙秘』は私が認めないわ。
喋りなさい」
室内が、静まり返る。
全員の意識がアサピーに注がれる。
(-@∀@)「……呪いってのはー、血縁者が身代わりになることがよくあるんですネェ」
ようやく。
アサピーは、答えを口にした。
- 698 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:14:30 ID:VvLJ6h4.O
-
(-@∀@)「特に、そこの妹者サンは、御兄弟から大層可愛がられてる御様子で。
意識せずとも、御兄弟が守ろうとするんでございましょうナァ」
【+ 】ゞ゚)「兄弟が呪いを引き受けようとするのか」
(-@∀@)「ええ、ええ、その通り。
とはいえ、呪われた対象と血縁者の『近さ』によって、そのレベルは変わってきます」
l从・∀・ノ!リ人「……近さ?」
(´<_`;)「距離の話か?」
(-@∀@)「イイエ。マァそれもありますけど。
姉者サンは妹者サンと同じ性別、かつ、小学校という同じ敷地内にいた。
だから呪いの効果も一番大きい」
(-@∀@)「弟者クンは妹者サンとは性別が違うが、最も歳が近くて、中学校と小学校もそこそこ近い。
だから呪いの効果が程々に」
(-@∀@)「兄者クンは、性別も違えば歳も離れてるし通っている大学も──どこにあるかは知りませんが、
まあ小学校の近くには見当たらなかったし、遠くにあるんでしょう」
- 699 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:15:32 ID:VvLJ6h4.O
-
(´<_`;)「……だから、兄者が一番軽い被害で済んでたのか」
(-@∀@)「そうなりますな」
川*゚ 々゚) ヘー
(,,゚Д゚)「仲いいものねえ、弟者君の家」
理屈は通っている。と、思う。
理屈が通じるものではないけれど。
内藤はとりあえず納得した。
姉者も兄者も弟者も、妹者には甘い。
呪いなど、無意識だろうと意識的だろうと、代わってやろうとするだろう。
- 700 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:18:59 ID:VvLJ6h4.O
-
──と。
そこに、弱々しい声が落ちた。
⌒*リ;´・-・リ「……じゃあ」
リリ。
彼女が自発的に話し出したことに、少し、驚いた。
- 701 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:20:06 ID:VvLJ6h4.O
-
⌒*リ;´・-・リ「じゃあ、妹者ちゃん、ずっと守ってもらってたの……?
姉者先生にも、お兄さんにも……」
両手を胸の前で動かしている。
左手で右手を覆ったり、指を組んだり、ぎゅっと握ったり。
襟より下の部分を掴み、ようやく止まった。
⌒*リ;´ - リ「何で……」
そして。
- 702 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:22:30 ID:VvLJ6h4.O
-
⌒*リ´;-;リ「──何で妹者ちゃんばっかり!!」
溢れた叫びは、悲鳴じみていた。
- 703 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:24:48 ID:VvLJ6h4.O
-
⌒*リ´;-;リ「妹者ちゃんばっかりみんなに人気あって、家族から可愛がられて、
──ずるい、ずるい、ずるい!!」
⌒*リ´;-;リ「私はみんなと上手く話せないのに! 私はお菓子もおもちゃも買ってもらえないのに!!」
こんなに大きな声を出せるとは思わなかった。
皆が、泣き喚くリリをただ眺めている。
すると、リリの足元が、ぐいと盛り上がった。
影──いや。
真っ黒い煙。靄。
オワタくん人形から生じていたものに似ているが、
リリの周りを覆う「それ」は、それより遥かに巨大だ。
ツンが瞠目し、後退りをした。
リリへ手を伸ばした妹者を、ツンは慌てて引き寄せる。
- 704 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:28:44 ID:VvLJ6h4.O
-
⌒*リ´;-;リ「妹者ちゃんなんか、」
僅かに生じた、間。
うねうねと蠢いていた靄は急に動きを止め、てっぺんを鋭く尖らせた。
⌒*リ´;-;リ「妹者ちゃんなんか私の前からいなくなればいい!!」
それが合図だった。
切っ先が弟者の方へ折れ曲がる。
反応する間もない速度で、槍にも見える黒は伸びていった。
内藤に出来たのは、身を強張らせることだけ。
- 705 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:30:31 ID:VvLJ6h4.O
-
その中で唯一、行動した者がいた。
(-@∀@)
アサピーが左手を差し出し、何かを払うような仕草をする。
途端、弟者目掛けて移動していた黒い靄が崩れ、
全体の3分の2ほどがアサピーへ吸い寄せられた。
そのままアサピーの指先へと潜り込む。
それ以外の靄は弟者の額へぶつかり、通り抜け、窓の外へ消えていった。
全てがたった3秒間の内に起こり、終わっていた。
- 706 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:34:22 ID:VvLJ6h4.O
-
リリがへたれ込む。
空気が乱れ、固まっていた──ように感じただけだが──オサム達が動いた。
【+ 】ゞ゚)「今のは……」
川;゚ 々゚)「さっきの何?」
(;,゚Д゚)「ちょっと、弟者君大丈夫!?」
(´<_`;)「はい? 何が──うわ!!」
突然、弟者が転んだ。
ひっくり返り、尻餅をつく。
未だ混乱しつつも内藤が助け起こすと、弟者は眉を顰めて呻いた。
- 707 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:38:10 ID:VvLJ6h4.O
-
(´<_`;)「いったたた……くそ、急に足滑った……」
(;^ω^)「弟者、頭は何ともないのかお?」
(´<_`;)「頭? いや、別に頭は打ってないけど」
(;^ω^)「そうじゃなくて……」
(´<_`;)「?」
今しがた見たものを説明する。
弟者は首を捻るばかりだった。弁護席にいる妹者も同じく。
元々霊感のない者には見えなかったのかもしれない。
張本人のリリはといえば、さめざめと泣いている。
それを尻目にアサピーは、溜め息と共に非難めいた愚痴を漏らした。
- 708 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:41:16 ID:VvLJ6h4.O
-
(-@∀@)「もー、センセイ、何でよりによって妹者サンと2人で連れてくるんです……」
ξ;゚?゚)ξ「その方が都合が良さそうだったからだけど……ちょっと今のは予想外だわ」
l从・∀・;ノ!リ人「何が何だかさっぱりなのじゃ」
咳払いをし、ツンが妹者を離す。
左手を髪の先に、右手を腰に当て、彼女は微笑を浮かべた。
腹立たしいくらい、得意気な顔。
ξ゚ー゚)ξ「まあ、これで最後の謎が解けたわね。
──本当に呪いを行っていたのが、誰なのか」
「ほら早く言いなさいよ」。
命令されたアサピーは、エエー、と頓狂な声を返した。
(-@∀@)「それ、僕に言わせる気です?」
ξ゚?゚)ξ「他の誰が、きちんと説明出来るっていうの」
(-@∀@)「……そうでしょうけどお」
急かすように、オサムが木槌で宙を打つ。
アサピーは一瞬だけ口をひん曲げ、
首を振りながら、心底嫌そうに「説明」を始めた。
- 709 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:45:06 ID:VvLJ6h4.O
-
(-@∀@)「呪いは誰でも簡単に出来るんですよう。
その中でも特に無意識にやっちゃう人が多いのが──『言霊』を使ったやつなんですね」
( ^ω^)「ことだま……」
(-@∀@)「『こうなったらいいなあ』って何気なく口にした言葉通りのことが起きるとかね。
よく、噂されるとくしゃみする、なんて迷信聞きますが、
それだって言霊による呪いみたいなもんでしょう」
(-@∀@)「……マァ、これは一旦置いといて。
呪いを行うために必要なエネルギーは、案外、子供から生まれやすい。体も心も不安定ですからね。
感情を上手く放出できなくて、どんどん溜まってって、ついには悪い念に変わってしまう」
アサピーの指が、未だ泣いているリリをさした。
ここまで来れば、内藤にも大体の予想はつく。
(-@∀@)「オジョーサンは、それが特に顕著だった。
普通は自分自身への呪いとか戒めに変化して消化されちゃうもんなんですが……。
彼女の場合、あと少しで、周囲の人間を無差別に巻き込むことになりかねませんでした」
【+ 】ゞ゚)「それを阻止してたのか?」
平たく言えばね、とアサピーが肯定する。
ひどく顔を歪めている。
何故、そんなに話すのが辛そうなのだろう。
- 710 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:48:08 ID:VvLJ6h4.O
-
(-@∀@)「とりあえず正しい方向……妹者サンに向けさせて、言霊で形を整えて放出させて、
出来得る限り僕が呪いを──何と言いましょうかね、ええと、食べてました。
オジョーサンは『怪我すりゃいい』程度のこと言ってましたが、
呪力自体は、そんなもんじゃ済まないレベルでしたよ」
(-@∀@)「だから食いきれなかった分は諦めてましたが──
うまーいこと妹者サンの御兄弟が吸収したおかげで、威力もますます弱まってくれて。
良かったですねえ、ホント」
l从・∀・;ノ!リ人「う、ううむ」
(-@∀@)「あ、ついでにさっきの。
今までで一番でかかったです。
弟者クン1人じゃどうにも出来ませんでしたので、姉者サンと兄者クンの方にも行かせました」
(´<_`;)「え」
今頃2人して転んでるかも。
付け足された一言は、わざとらしさを覚えるくらいに小さい。
- 711 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:51:36 ID:VvLJ6h4.O
-
(-@∀@)「まあ命にゃ関わりません」
(;,゚Д゚)「……何よ、あんた、意外といい奴じゃないの」
( ^ω^)「ですお」
(;-@∀@)「アーッ!! 言いましたね!
それ言われるの嫌だったから黙ってたんですよ僕ァ!!」
アサピーが服越しに腕を掻きむしる。
過剰なくらいに喚き、今度は頭を抱えて身をくねらせた。
消滅処分を聞いたときよりもリアクションが大きいように思えるのだが、気のせいか。
(;-@∀@)「僕は人間様の恨み辛み妬み嫉みから生まれた存在なんですよ!
そんなこと言われたら立場なくなっちゃうじゃありませんかあ!!」
川 ゚ 々゚)「でも、妹者のこと助けてたんでしょ?」
(;-@∀@)「ボランティアでやってるとお思いで?
美味しそうな匂いに釣られて、オジョーサンを見付けたってだけなんでございますよ?
人間様の呪力は僕にとって素敵な養分でございますから」
(-@∀@)「……ま、そのオジョーサンも、さっきのでようやく使い果たしてくれたみたいですけれどもねえ」
弟者は最早、アサピーをどんな目で見ればいいのか分からないようだった。
非常に複雑な面持ちで「へえ」と呟いている。
- 712 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:54:19 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「──しぃ検事は、『アサピーが逮捕されてからは呪いが収まった』って言ったけど……
そりゃそうでしょうよ」
l从・∀・ノ!リ人「あ。妹者の学校、25日から夏休みだったのじゃ」
ξ゚?゚)ξ「夏休みで妹者ちゃんに会うこともないし、
嫉妬を煽るアサピーもいないし、ね」
それが、完全なトドメだった。
だが──やはり、しぃは黙るだけだ。
そろそろ心配になってきた。
(* − )
( ^ω^)「……しぃさん」
(,,゚Д゚)「いいのよ、そのままにしときなさい」
( ^ω^)「でも」
どうすべきか内藤が悩んでいると──
- 713 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:56:24 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人「……とにかく、妹者、理解しきれてないんじゃが……」
妹者が、ツンの顔を見上げて言った。
リリと弟者を指差す。
l从・∀・ノ!リ人「さっきのは、またリリちゃんが妹者を呪って、
そのせいでちっちゃい兄者が転んだってことでいいのじゃ?
姉者とおっきい兄者も?」
ξ゚?゚)ξ「ええ、そうね」
l从・∀・ノ!リ人「……そうか」
声のトーンが落ちる。
妹者は唇に手を当て、俯いた。
- 714 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:58:41 ID:VvLJ6h4.O
-
l从 ∀ ノ!リ人「……妹者のために……」
ξ゚?゚)ξ「……妹者ちゃん。あなたのせいじゃないわ。
自分を責めちゃ駄目よ」
そうよ、とギコが援護する。
オサムも、無言ではあるが首肯するように一度だけ頭を揺らした。
ツンがしゃがみ込む。
彼女に肩を叩かれ──妹者は、けろりとしながら顔を上げた。
l从・∀・ノ!リ人「そりゃ妹者のせいじゃなかろう。
何で妹者が責任感じなきゃいけないのじゃ」
ξ;゚?゚)ξ「へ」
妹者の顔は不満で溢れていた。
そういう子だ。内藤と弟者が苦笑する。
- 715 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:00:10 ID:VvLJ6h4.O
-
ツンから離れ、妹者はリリの腕を引っ張った。
立ち上がらせ、向かい合う。
じっと瞳を覗き込む妹者に、リリは、恐々と視線を合わせた。
l从・∀・ノ!リ人「リリちゃん。妹者はのう、たしかに可愛い。たしかに人気者じゃ」
⌒*リ´;-;リ「……う、うん……?」
l从・∀・ノ!リ人「そしてもちろん性格悪いのじゃ。最悪じゃ。
世の馬鹿な男共は妹者に利用されても仕方ないと思ってるし、
姉者や兄者達が妹者を可愛がって守ってくれるのも当然だと思っておる」
なかなか、初っ端からかましてくる。
リリは戸惑いながらも聞いていた。
というより、聞くしかなかった。
l从・∀・ノ!リ人「何より、こんな性格だから、
妹者のことを大ッッッ嫌いな人もいて当然なのじゃ」
- 716 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:04:11 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人「妹者は人に嫌われても、悪口を言われても構わん。
だって妹者は今の自分が好きじゃ。今の生き方が好きじゃ。
全部承知の上で、こうしてるんじゃ」
l从・∀・ノ!リ人「だからリリちゃんは思う存分妹者を嫌って馬鹿にすればいい。
『大きくなったら劣化する』『上手くいってるのも今の内だけ』、好きなように言えばいいのじゃ。
妹者だって否定は出来ん」
ツンが机に手をつき、腰を上げた。
妹者を指差して内藤達に目で訴えかけてくる。
「ここまで酷いの?」と問われている気がしたので、
弟者と一緒に頷いた。
l从・∀・ノ!リ人「たとえばお金持ちのぼるじょあ君なんかは、きっと、成長するにつれて色んな女に言い寄られる。
そうして気付くのじゃ、『妹者っていうクラスメートもこいつらと同じだったんだ』と」
l从・∀・ノ!リ人「同窓会なんかでは、男達が言う筈じゃ。『妹者は悪女だったな』って。『俺ら馬鹿だったな』って。
妹者がまた言い寄ったって、今度は、余程の馬鹿しか引っ掛からなくなるのじゃ」
妹者の手が、リリの手を掴む。
リリはびくりと震えた。
唇を噛み、俯き、それから妹者を見る。
- 717 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:06:23 ID:VvLJ6h4.O
-
⌒*リ´;-;リ「……そしたら、どうするの……」
l从・∀・ノ!リ人「そうなったらのう、妹者、賢い人に言い寄るのじゃ。
妹者なんかに騙されないような賢い人。真面目で優しい人。
妹者みたいな女が嫌いな人」
l从・∀・ノ!リ人「そういう人をオトして結婚するのが妹者の目標なのじゃ。
それが出来たら、妹者はもう、その人にしか色目は使わん。
その人だけ愛して愛されるのじゃ。それが妹者の野望じゃ。随分と都合がいいじゃろう」
あれ、何の話だったっけ。
呟いて、妹者は空中を見遣った。
l从・∀・ノ!リ人「……ああ、そうそう、それでな。
そんな野望を持つ素敵な妹者じゃが、絶対に『やらないこと』を決めておる」
⌒*リ´;-;リ「やらないこと……」
- 718 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:10:43 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人「誰かの人生に、おっきい傷をつけること。
体とか心とか、お金とか。
そういうのを、必要以上に傷付けること」
l从・∀・ノ!リ人「優しい人だろうと、妹者みたいに悪い奴だろうと──
誰であろうと、それはやっちゃいけないことじゃ」
⌒*リ´;-;リ「い、妹者ちゃん、ぼるじょあ君から高い物もらってたじゃん」
l从・ε・ノ!リ人「あれは、『キャンディセットもらったけど飴は好きじゃない』って話してたの聞いたから、
じゃあ妹者がもらってやろうと思って遠回しに手助けしただけじゃ!
山崎君の消しゴムは50円で買えるものだし!
山崎君のお小遣いの半分の半分の半分の半分の……多分もう半分くらいじゃ!」
妹者が頬を膨らませ、そっぽを向いた。
しかし、すぐに笑う。
握った手を、優しく揺らす。
- 719 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:13:54 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人「リリちゃんに嫌われたのは妹者じゃ。
でも、嫌いだからって、呪って怪我させてやろうとしたことは──リリちゃんが悪い」
l从・∀・ノ!リ人「だから一回、一回だけ、謝ってほしいのじゃ。
そしたらのう、明日、リリちゃんさえ良ければ妹者と一緒に遊ぶのじゃ」
l从・∀・ノ!リ人「妹者は性格は悪いが、可愛いし賢いし気を遣えるし、そこそこユーモアもあるから、
仲良くなりさえすれば、きっと妹者のことを好きになってくれるのじゃ」
「ね?」。
リリの両手を胸の前まで上げ、離す。
その手に妹者の両手をぴったり合わせて、指を絡ませた。
- 720 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:16:18 ID:VvLJ6h4.O
-
リリの涙は、一層溢れる。
しゃくり上げながら、彼女は言った。
⌒*リ´;-;リ「ごめ……な、さい……」
返事代わりの妹者の笑顔は、今までにないほど綺麗だった。
(;,゚Д゚)「……たくましい子だわー」
【+ 】ゞ゚)「弁護人が証人を連れてきた判断は、正しかったな」
川*゚ 々゚)「めでたしめでたし?」
- 721 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:17:53 ID:VvLJ6h4.O
-
──ごつり。
しぃの拳がゆっくりと机にぶつかり、小さな音をたてた。
(* − )
この場に不釣り合いな、いっそ不気味にすら思える無表情。
内藤は声をかけようとして、やめた。
触れるのが恐ろしかったのだ。
*****
- 722 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:19:19 ID:VvLJ6h4.O
-
(-@∀@)「マァ、何と言いますか。ありがとうございました?
善人扱いされたのが気に食わなかったですけど、
そこそこ楽しかったです」
旧校舎の前。
アサピーは宙へ浮かび、ツンに手を振った。
彼に下された判決は無罪。
当然の結果ではある。
(-@∀@)「それではね。バレないように呪術の勉強続けます。
機会があったらまた遊びましょ、センセイ」
眼鏡の奥でウインクをかまして、アサピーは消えた。
ツンは舌を出して中指を立てて応えたが、果たしてアサピーが見ていたかどうか。
- 723 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:20:12 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人「眼鏡の人、まだいるのじゃ?」
ξ゚?゚)ξ「もう消えたわ」
旧校舎を出てから、やはり妹者と弟者にはアサピーもオサム達も見えなくなっていた。
見えたら見えたで怖いが、見えないとそれはそれで怖いのだろう、弟者が忙しなく辺りを見渡している。
リリは、ギコとしぃが送っていった。
彼女の家は母子家庭らしく、母親は遅くまで仕事に出ているとのことだった。
「お菓子もおもちゃも買ってもらえないのに」──リリの妹者に対する妬みは、
家庭環境が大きく関わっていたのかもしれない。
しかし、まあ。
宣言通り、リリと遊ぶ約束を取り付けた妹者の豪胆ぶり──
呆れればいいのか、感心すればいいのか。
- 724 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:25:30 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「妹者ちゃん。
何度も言うようだけど、幽霊裁判のことは内緒にしてね」
l从・∀・ノ!リ人「分かってるのじゃ」
ちらりと、妹者が内藤を一瞥する。
内藤はわざと目線を外した。
l从・∀・ノ!リ人「ブーンも、知られたくないことがあるんじゃろう。
せん、せん……せんたく……?」
ξ゚?゚)ξ「詮索?」
l从・∀・ノ!リ人「それじゃ。せんさくはしないのじゃ」
( ^ω^)「……ありがとうお。こんなに信頼出来る小3、なかなかいないお」
l从・∀・ノ!リ人「まあ──」
本当に、末恐ろしい。
物分かりの良さは、そんじょそこらの子供の比ではない。
妹者の大きな目が、今度は弟者を収めた。
いたずらっぽい笑みを浮かべる。
- 725 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:26:44 ID:VvLJ6h4.O
-
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者が、おばけ相手に悲鳴あげてたのは非常に気になるが」
(´<_`;)「だっ、誰にも言うなよ!! 特に姉者に! あと兄者は言い触らすから一番駄目だ!!」
l从・∀・ノ!リ人
(´<_`;)
(´<_`;)「……妹者好みの文房具買ってやる……」
l从・∀・*ノ!リ人「おっと、ちっちゃい兄者に関する秘密を知った気がするがもう忘れたのじゃ!
あのね、この前、すっごく可愛いペンケースとノート見付けたのじゃ。
もしあれが手に入ったら、きっと夏休み明けにみんなに自慢したくなっちゃうのじゃ!」
(´<_`;)「うん……今度買いに行こうな……」
l从・∀・*ノ!リ人「わーい!
……それじゃツンさん、妹者もう眠いし、帰るのじゃ」
ξ゚ー゚)ξ「うん。ついて来てくれてありがとう。
送らなくて大丈夫?」
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者もいるし、ブーンもいるから、
まあ何とかなるのじゃ」
- 726 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:27:52 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚ー゚)ξ「そう。じゃあ、ばいばい」
l从・∀・*ノ!リ人「ばいばーい。ブーンも行くのじゃー」
( ^ω^)「おー」
弟者は妹者と手をつなぐと、一度、じろりとツンを睨んだ。
何も言わず顔を背け、歩き出す。
内藤が続こうとしたところで、ツンに手を引かれた。
( ^ω^)「……何ですかお」
ξ゚?゚)ξ「トソンさんのことなんだけど」
( ^ω^)「トソンさん?」
都村トソンの顔が脳裏を過ぎる。
どうして、このタイミングで彼女の名が。
ツンは辺りを見渡し、小声で続けた。
- 727 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:29:17 ID:VvLJ6h4.O
-
ξ゚?゚)ξ「彼女の、昏睡状態に陥っているお友達……ミセリさんいるでしょ。
その人の病室でね、変な男を見たんですって。
トソンさんに気付くと、すぐ逃げたそうよ」
( ^ω^)「……はあ」
ξ゚?゚)ξ「私は単なる浮遊霊か何かだろうとは思うんだけど……。
トソンさんは、それが『真犯人』じゃないかって言ってる」
( ^ω^)「ツンさんは何で浮遊霊だと思ったんですかお?」
ξ゚?゚)ξ「だって、事件が起きたのは7年前よ。
その男が真犯人だとしたら、何で今更ミセリさんのもとに現れたんだか……って話になるでしょ」
それもそうだ。
納得する内藤に、ツンが顔を寄せる。
ξ゚?゚)ξ「とりあえず、ギコと一緒に色々調べてみるわ。
続報があったら教えるわね」
( ^ω^)「……気が向いたら、聞きますお」
返し、ふと、気になっていたことを思い出した。
「追体験」のことだ。
- 728 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:30:58 ID:VvLJ6h4.O
-
( ^ω^)「今回はアサピーさんが無実だってこと知ってたんですかお?」
ξ;-?-)ξ「あいつが、私に心さらけ出してくれると思う?」
( ^ω^)「……うーん」
ξ゚?゚)ξ「……まあ。あいつ、本当に悪いことって滅多にしないのよ。
それに本人が『僕はやってません』っつうから、
普通に弁護士としての職務を全うしただけ。結構冷や冷やしたわ」
手が離された。
同時に、数メートル先で弟者と妹者が内藤を呼んだ。
それに返事をし、ツンに会釈する。
( ^ω^)「さようならツンさん」
ξ゚?゚)ξ「気を付けて帰るのよ」
( ^ω^)「ツンさんも」
ξ゚ー゚)ξ「あらありがとう」
弟者達のもとへ駆け寄り、3人並んで校門を出た。
敢えて幽霊裁判のことは話題に出さずに、帰路につく。
遠回りにはなるが、明るい道を行くことで3人の意見は合致した。
.
- 729 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:36:11 ID:VvLJ6h4.O
-
──家が近付いてきた頃。
( ^ω^)(……)
ふと、視線を感じた。
後ろを見る。
( Ф Ф)
曲がり角の向こうからこちらを覗く男がいた。
顔のほとんどが闇に覆われているのに、瞳だけがくっきり確認出来る。
気味が悪い。顔を顰める。
目が合うと、男は、一瞬で消えた。
( ^ω^)(……霊かお)
そこら中にありふれている霊の1人だろう。
そう思い、内藤は今の男を早速忘れることにした。
*****
- 730 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:37:14 ID:VvLJ6h4.O
-
(*゚−゚)「ギコ」
(,,゚Д゚)「……はいはい、なあに?」
リリを送り届けた後。
隣を歩くしぃに名前を呼ばれ、ギコはなるべく明るい声で答えた。
(*゚−゚)「僕は……僕は、あんな人に負けてていいのか」
(,,゚Д゚)「検事としては、まあ、弁護士に負けるのは良くないことかもね」
(*゚−゚)「検事弁護士ってだけじゃない。あんな……あんなふざけた女に、この僕が……」
しぃが唇を噛み締める。
ギコはやめさせようとして、下手に注意するのも良くないだろうと考え直した。
ひとまず喋らせておけば、唇を離す筈だ。
- 731 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:38:54 ID:VvLJ6h4.O
-
(,,゚Д゚)「たしかに、あのふざけ倒した女に負けるのは屈辱よねえ……」
(*゚−゚)「こんなんじゃ、父さんに顔向け出来ない……」
ぶつぶつ呟き続けるしぃ。
彼女から垂れ流される空気は、誰でも関わるのを躊躇うほどに淀んでいる。
何を言えばいいのか、ギコはすっかり困り果ててしまった。
とりあえず頭に手を乗せ、ぽんぽんと叩く。
すぐに振り払われたが、ほんの少しだけ空気が和らいだ気がした。
*****
- 732 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:42:13 ID:VvLJ6h4.O
-
( ;_ゝ;)「俺のFMVが壊れた……」
∬;_ゝ;)「今度は左足が……」
(´<_`;)「……あー……」
l从・∀・;ノ!リ人「えーっと……」
( ^ω^)「確証はないけど、もう安心していいと思いますお。確証はないけど。確証は」
∬;_ゝ;)「ていうか3人共、いつの間に出掛けてたの……」
(´<_`;)「いや、それは……いや、うん、あの……ゴメンナサイ」
case4:終わり
- 733 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:43:38 ID:U5.DAXYMO
- 乙!
面白かった!
- 734 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:46:02 ID:A74aHWu6O
- 乙!アサピーかっけぇな
くるうもいちいち可愛い…
しぃが不安だなあ
- 735 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:46:03 ID:z5b/xqr60
- 乙
妹者は心がつよい幼女だ
今後の展開が気になる終わり方だ
次も待ってる
- 736 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:48:40 ID:zaeqwGI.0
- 乙
検察側が心配だ…
- 737 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:51:51 ID:csY5MMOA0
- 乙!やっぱり面白いなぁ!
流石家みんな好きだ。妹者素敵だ
- 738 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:55:04 ID:VvLJ6h4.O
- 以上です
妹者がクラスメートのお友達に将来の夢をお話しするほのぼの回でした
読んでいただきありがとうございました!
Romanさんまとめてくださりありがとうございます!
RESTさん気長に復活待ってます!
後半は眠気で朦朧としてたので、何かミスがあるかもしんない
case2/前編 >>149 後編 >>286
case3 >>409
case4 >>602
ラノベ祭の完結させてないやつ書き溜めたり、こっち書き溜めたりと、
あっちこっちふらふらしてて進行遅いので、のんびり待っていただけるとありがたいです。毎度すみません
- 739 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 23:59:49 ID:Gs.QqfhwO
- 乙
- 740 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 00:13:30 ID:6N/IngBs0
- 乙
- 741 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 00:14:23 ID:XOgj1v/gO
- そうだそうだ、時計の国も待ってるよ
- 742 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 00:20:45 ID:Bf0as35A0
- 乙。相変わらず面白い
- 743 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 01:01:59 ID:xrZhV7wEO
- おつ いい性格してるわ妹者
ラノベの方も待ってる
- 744 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 12:09:54 ID:raHp5NlAO
- 来てたのか
面白かった乙
しぃが報われるエピソードもそろそろ見たいな
- 745 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 14:56:03 ID:OpM/ben.0
- じゃあ紆余曲折の末俺と結婚するルートを書いてもらう方向で
- 746 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 15:31:20 ID:vqEVOIJM0
- それはつまり俺の弟になるというこだな
- 747 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 15:31:28 ID:D44LITbU0
- それ報われないから
- 748 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 16:06:35 ID:0ZvwojNs0
- 最悪の結末だなそれ
- 749 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 18:48:27 ID:G4DNgl7s0
- 暇潰しにモッテコイで民度の低い集団や個人の特徴まとめた合理主義を極め√世の中こう見え√U義務教育では教えないデジタル哲学(´∵)っ感情自己責任論with体罰絶対不要論&死刑廃止論
- 750 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 19:50:59 ID:N/UIJFzsO
- あーしまった
>>640-641で妹者が「兄者」って言ってる
「おっきい兄者」で脳内補足お願いします
- 751 :名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 20:53:01 ID:bGmyQxXM0
- 久しぶりに面白いものに出会えた
- 752 :名も無きAAのようです:2013/03/12(火) 00:14:04 ID:qy7QgHpw0
- 乙
- 753 :名も無きAAのようです:2013/03/12(火) 20:01:38 ID:wQkzUZwY0
- しぃがダークサイド堕ちそうで怖いな
乙
- 754 :名も無きAAのようです:2013/03/12(火) 21:52:27 ID:3dXkZkCI0
- 乙乙
しぃのがきになる
- 755 :名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:40:41 ID:/3Y87Qwc0
- はー妹者たまらん、いい女だなあ
アサピーもすごくいいキャラしてた
乙でした!
- 756 :名も無きAAのようです:2013/03/16(土) 00:00:09 ID:wU9RgQQYO
- 妹者はブスだったという作品もあるんだよ
- 757 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 13:42:09 ID:EyTt7V7s0
- しぃは勝った負けたの前に冤罪だった場合考えてないところがおっとろしい
アサピー罪確定してたら哀れってもんじゃねえ
- 758 :名も無きAAのようです:2013/03/26(火) 14:17:52 ID:c0DTChlg0
- おっおっおっ
- 759 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 10:57:53 ID:BT3H1jtAO
- 書き溜めおっっっそくて申し訳ないんで、イベントに乗じて生存報告
http://imepic.jp/20130401/378340
http://imepic.jp/20130401/378630
http://imepic.jp/20130401/378810
今日の内に他のネタ思い浮かんだらまた何か描くかもしれない
こんなもん描いてないで本編書き溜めろやという真っ当な指摘は勘弁してください許してください
- 760 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 11:48:32 ID:37fIf1FM0
- 絵上手いなwww
- 761 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 13:44:24 ID:cA9KInqgO
- 字も上手いなwww
- 762 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 13:53:40 ID:qJLyqHvQO
- 話も上手いなww
- 763 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 14:20:51 ID:iOfmFgrY0
- なんでしぃを孕ませなかったんだよ!
- 764 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 15:21:19 ID:Z.AaBBY60
- かわいいなwww
他のネタwktk
- 765 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 17:07:33 ID:Kf9n2tukO
- 書けて描けるだと…
- 766 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 17:10:12 ID:Wes3XOq60
- 姉者かわいくてもだえた
- 767 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 17:58:10 ID:adMSR.8Q0
- あれっこの絵柄どこかで
姉者が可愛いなぁあああ
- 768 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 18:08:38 ID:VNRaKUAA0
- 二人ともかわいすぎる!
ツンを手玉に取るブーンの感じ好きだw
- 769 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 21:45:09 ID:BT3H1jtAO
- 追加
http://imepic.jp/20130401/780130
http://imepic.jp/20130401/780310
日付変わる前に他のネタ描き終われるか否か
- 770 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 21:49:23 ID:ecbdNR960
- ギコさんこっわwww
- 771 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 22:40:34 ID:9m67ra/U0
- 3枚目ツンの後ろが
ヤ ケ ク ン
に見えてなんか笑った
- 772 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 22:51:24 ID:4JmvGQiM0
- ギコお前…
- 773 :名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:58:29 ID:BT3H1jtAO
- 滑り込み
http://imepic.jp/20130401/861230
http://imepic.jp/20130401/861370
http://imepic.jp/20130401/861510
これで最後
書き溜め作業に戻ります
- 774 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 00:13:22 ID:RuOQtDpI0
- 乙!
漫画いっぱい見えてたのしかった
姉者かわええ
- 775 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 00:15:00 ID:ia9q3ujc0
- だれうまワロタ
これやりたかっただけだろ
- 776 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 00:15:52 ID:9Ik5.MCE0
- 最後うまいww
- 777 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 00:16:20 ID:6VC77Hbk0
- 一体何が姉者を駆り立てるんだ・・・
- 778 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 00:22:02 ID:xkFnAhyg0
- 姉者美人すぎる
- 779 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 00:46:59 ID:oCcZyKCc0
- ホライゾン誰うまww
- 780 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 00:56:28 ID:9VTGmO/AO
- これからは絵と話と両方楽しみになってきたな…
- 781 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 03:13:53 ID:Tu29d1pc0
- ブーンまるっこくてきゃわわ
- 782 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 06:08:30 ID:42Qqahho0
- おつ
- 783 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 07:06:04 ID:xh..rAAk0
- 乙ー
絵もそうだけどそれ以上に字の綺麗さに脱帽
- 784 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 10:48:34 ID:LqppvgxgO
- 絵も字も話も上手いとか>>1の無双っぷりに嫉妬
- 785 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 19:13:33 ID:3WkBLUHQO
- 面白かった
乙です
- 786 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 23:34:54 ID:LKp8laqU0
- ホラ依存はまったwww
- 787 :名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 09:32:13 ID:pPVlkQGQO
- ホラ依存wwだれうまwww
あと姉者が可愛すぎる!
- 788 :名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 20:03:11 ID:7gIMCUCE0
- 上手いなあ
話も面白いし
>>767
俺も何か見た事あるような感じがするんだよな
- 789 :名も無きAAのようです:2013/04/06(土) 16:45:52 ID:n1NjsPwQ0
- うまいなぁwこれ見れただけでもよかったw
- 790 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 17:11:20 ID:QHFVyQXg0
- 作者ー、生きてるー?
- 791 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 20:07:35 ID:17MGB96UO
- はい生きてます
五話目の前編書き終わりました
後編も終盤に差し掛かってるので、それが完成したら投下するつもり
長いこと放置しててすみませんでした
- 792 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 20:27:22 ID:4FLkouvcO
- >>791
生きててよかった、期待してる
それと質問、( ^ω^)暗い夜道を歩いたようですって書いてたよね
.
- 793 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:04:50 ID:17MGB96UO
- >>792
たしかに自分の作品です
シベリア図書館で書いたやつだったと思います
- 794 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 23:27:01 ID:nr/.TF1Q0
- 奇妙な夜道、じゃなかったっけ記憶違いならごめん
過去の作品とか作者特定はしないほうが良いのかな
既になんとなくわかってる人多いだろうけど
- 795 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 23:32:59 ID:UGM8QxfMO
- しつこくならない程度になら聞いてもいいんじゃね
バレしたくない作者はスルーなり適当にしらばっくれるなりすりゃいいだけだし
次回もwktk
- 796 :名も無きAAのようです:2013/05/13(月) 00:42:11 ID:lkT4ogPwO
- >>794
ああ、それですそれです
すいません、奇妙な夜道だった
もし>>792が言ってるのが違う作品のことだったのならごめんなさい
- 797 :792:2013/05/13(月) 01:15:46 ID:dBUeKqhEO
- >>796
「暗い」ではなく「奇妙な」の間違い
総合でタイトルが挙がってたので、過去に書いた作品リストにあった記憶があり
自分の記憶の確認のため質問させてもらった
.
- 798 :名も無きAAのようです:2013/05/14(火) 04:00:21 ID:KxlH1csUO
- あな本の人かと思ってた!
- 799 :名も無きAAのようです:2013/05/14(火) 08:51:31 ID:qt2vaP5YO
- >>798
そうだよ、あな本の人だよ
.
- 800 :名も無きAAのようです:2013/05/15(水) 19:09:46 ID:/YpwnI2E0
- 面白すぎて一気読みしたったw
楽しみに待ってるよ!
- 801 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:27:38 ID:RLrLNr6AO
- 恐らく、来月末(場合によっては再来月)くらいまで投下出来なくなると思います
既に2ヶ月くらい投下してないけど
いつも放ったらかしですみません
気分転換に書いてたオマケ的な何かでお茶を濁しますごめんなさい
- 802 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:28:39 ID:RLrLNr6AO
-
ξ゚?゚)ξツンちゃんと(,,゚Д゚)ギコ君と∬;_ゝ;)( ^ω^)(´<_` )(*゚ー゚)(-@∀@)色々
【中学時代】
ξ゚ー゚)ξ「おっはよーんギコ。ゴールデンウィークどうだった?」
(,,゚Д゚)「友達と遊んだり、しぃ連れて公園行ったり動物園行ったり遊園地行ったり幼稚園の遊具で遊ばせたり……
あとは姉者に頼まれて、兄者君を植物園に連れていって理科の宿題手伝ったり」
ξ゚?゚)ξ「あらゆる園を巡ってきたのは分かったわ……」
(,,゚Д゚)「お前は? 友達と遊んだ?」
ξ゚?゚)ξ「と思うじゃない?」
(,,゚Д゚)「おう」
ξ゚?゚)ξ「びっくりしたんだけど、私友達いない」
(,,゚Д゚)「知ってる」
ξ゚?゚)ξ「じゃあ訊くなや」
(-@∀@)「僕と楽しく遊んだじゃありませンか、オジョーサン」
ξ;゚?゚)ξ「うわあビビった! 学校に付いてくんな眼鏡! あとあれ遊んだって言わない!!」
(-@∀@)「楽しかったナア、僕が呪いをかけてオジョーサンが解除してまた僕が呪いを……」
ξ;゚?゚)ξ「地獄のいたちごっこだな!!」
(;,゚Д゚)「お、おい……端から見てると壮絶な独り言だから……。後ろで姉者が泡吹いてるから……」
- 803 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:29:44 ID:RLrLNr6AO
-
【中学時代・道端にて】
ξ゚?゚)ξ「あ」(゚Д゚,,)(゚ー゚*) バッタリ
ξ゚?゚)ξ「奇遇ねーギ子ちゃん。それが例のしぃちゃん?」
(*゚ー゚)「だれー?」
(,,゚Д゚)「友達。ツンっていうんだ」
(*゚ー゚)「しぃです! よろしくおねがいします!」
ξ*^?^)ξ「よろしくねー。小っちゃくて可愛いわー。幼稚園児ですっけ」
(*゚ー゚)「ツンしゃ、ツンさんもかわいいです!
おにんぎょうさんみたい」
ξ*^?^)ξ「おぅっふほほほ、ちびっこって本当に素直で参っちゃうわ。飴あげる」
(*゚ー゚)「わーい」
*****
- 804 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:30:13 ID:RLrLNr6AO
-
ξ;?;)ξ「──って、昔はあんなに素直で可愛かったのに……どうしてこうなっちゃったのかしら……」
(#゚ー゚)「そんな昔のことは覚えていない」
(,,゚Д゚)「しぃとツンが会ったの、片手で数えるくらいだしねえ」
ξ;?;)ξ「せめて内藤君みたいに初めからクソガキだったなら、こんな悲しみも生まれないのに……」
( ^ω^)「僕だって小さい頃は素直で純粋で可愛らしかったですお」
ξ;?;)ξ「自分で言う時点で信用ならない……」
( ^ω^)「あんたに言われたくない」
- 805 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:32:25 ID:RLrLNr6AO
-
【中学時代・スーパーにて】
(´<_`*)(4歳)「にーんじん、じゃがーいも、たまねーぎ、ぶたにく」
∬*´_ゝ`)「ちゃんとおつかい出来て偉いねえ弟者。
さ、早く帰って母者にカレー作ってもらおうか。
袋ちょうだい、お姉ちゃんが持ってあげる」
(´<_`*)「持てる」
∬*´_ゝ`)「かっこいいぞー」
ξ゚?゚)ξ「姉弟仲良くお買い物?」ヌッ
∬;´_ゝ`)「あっ」ビクッ
ξ゚ -゚)ξ「何よ、そんなに怯えられると傷付くわ」
∬;´_ゝ`)「わ、あ、ごめんなさいごめんなさいっ、違うの、急だったから。
……ツンちゃんもお買い物に来たの?」
ξ゚?゚)ξ「まあ、そんなとこ……」チラッ
::∬;_ゝ;)::「あひぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
ξ;゚?゚)ξ「!!?」
∬;_ゝ;)「あっ、あっぁあああ!!」
ξ;゚?゚)ξ「やめてよ! 私が何も無い空間に意味ありげに視線を送っただけで泣くのやめてよ!」
(;<_; )「ツンちゃん姉者いじめるのやめろよー!」
ξ;゚?゚)ξ「私今日はまだ何もしてないじゃないの!!
ああっ見ないで! 通りすがりの人達こっちを見ないで! やだ私いま傍目には超悪者!!」
壁|,,゚Д゚)(どうしよう……出ていって事態を収束させるの最高に面倒臭い……)
- 806 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:33:05 ID:RLrLNr6AO
-
──こんな感じのことを繰り返し、3年後・スーパーにて──
ξ゚∀゚)ξ「あら弟者君こんにちはー。1人で買い物かしら?
しっかりしてるのねえ」
(´<_` )「すいませんが」
ξ゚∀゚)ξ「?」
(´<_` )「寄らないでください」
ξ゚∀゚)ξ
*****
ξ;?;)ξ「もう私のまわりクソガキだらけだわ……みんな成長しなければ良かった……。
あんな冷たい目する小学生見たことない……」サメザメ
(´<_` )「少なくともあんたに対する俺の態度に関しては、あんたの自業自得だろ」
ξ;?;)ξ「あなたのお姉さんが勝手に私に怯えてただけじゃないのよう……酷いわ酷いわ」
(´<_` )「姉者に怖い話を聞かせてるのを見たことあるが。
あと『乳おばけ』とか『脳髄はみ出た女』とかいう話もしてくれたらしいな」
ξ;?;)ξ「おっぱい大きいんだもん妬ましいんだもん」クスンクスン
( ^ω^)「ああ自業自得」
(´<_` )「な」
( ^ω^)「でも弟者がツンさん嫌いなのって、姉者さんがどうこうって理由だけじゃないおね。
弟者もツンさん恐いんだおね。幽霊見えるから」
(´<_`;)「ばばばばば馬鹿言うなよそんなもんぜぜぜぜ全然恐くねえし余裕だし」
ξ;?;)ξ「脳髄はみ出た女は本当にいたし……」
(´<_`;)「やーめーろーよー!!」
- 807 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:33:50 ID:RLrLNr6AO
-
【何処か】
ξ゚?゚)ξ「みんな私に辛くあたりすぎだと思うの。優しくしてくれてもいいと思うの」
( ^ω^)「はあ」
ξ゚?゚)ξ「嘘でもいいから愛が欲しい……」
( ^ω^)「嘘でもいいなら……」ゴホン
(*^ω^)「ツンさん、最近暑いから気を付けてくださいお。
倒れたりしないよう、小まめに水分とるようにしましょうね!
何か飲みたいものがあれば言ってください、ツンさんのためならすぐに買ってくるお!」
(*^ω^)「それと、いつも黒い服着てるから余計暑そうですお。
たまにはお洒落で可愛い服も着てみてほしいお。
ツンさん綺麗だから、きっと何でも似合うおね」
ξ;゚?゚)ξ「気持ッち悪ッ……!」オェップ
( ^ω^)「貴様」
*****
- 808 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:35:29 ID:RLrLNr6AO
-
ξ゚?゚)ξ「やっぱナチュラルな愛が欲しいわけよ」
( ^ω^)(わがままな……)
ξ゚З゚)ξ「さりげない優しさとかそういうの」
(*,゚Д゚)「ツンーツンー! クッキー作ったんだけど食べない?」バタバタ
ξ;゚?゚)ξ「く、クッキーてお前……私より女子力上げんのやめろよ……
家庭科の成績であんたに勝ったことないの地味にコンプレックスだったんだけど……」
(*,゚Д゚)「犬とか猫型のクッキーもあるわよう。
こういうの時間忘れるわね」キャッキャ
( ^ω^)「すごいですお。美味しいし」シャクシャク
(*,゚Д゚)「でしょー?
ほら見て見て、ツンの顔に似せたのもあるのよ。可愛いでしょ」
ξ゚?゚)ξ「あ……」
(*,゚Д゚)「あんた最近ちゃんと休んでないでしょ。
クッキーでも食べてゆっくりしなさいよ」
ξ゚?゚)ξ
ξ;?;)ξ「……ギコー! 結婚してぇえ! 私の身の回りの世話をしてよぉお!!」
(,,゚Д゚)「えー。女同士だし戸籍的に無理よ」
ξ゚?゚)ξ「いや戸籍的には問題ないだろ」
( ^ω^)「むしろ問題ないのは戸籍だけですお」
おわり
- 809 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:37:02 ID:RLrLNr6AO
-
最後に、予告になってない次回(case5)予告
http://imepic.jp/20130520/761470
- 810 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:38:04 ID:RLrLNr6AO
- 以上です
失礼いたしました
- 811 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:38:52 ID:2z.IxIg.O
- 乙乙
投下は自分のペースでやればいいよ
ただ時折生存報告してくれたら嬉しいなぁー(チラッ
- 812 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:40:24 ID:45Nv9PLA0
- 乙
キャラの掛け合いがおもしろい。
- 813 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:48:37 ID:Psy6Rbf.0
- 乙!!!
キャラが立ってて好きな作品
- 814 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 21:59:16 ID:AIjFmZis0
- 乙
子ども時代のしぃがものすごくかわいいな
そして、ギコさんの女子力の高さにびびったw
- 815 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 22:12:56 ID:4Y6lXbXQ0
- 些細な投下でも生存確認でも、それが作者の言葉なことには変わらん。
好きな作品の作者の言葉は、俺の喜びだ。
あと相変わらず字と絵うますぎワロタ
- 816 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 23:05:10 ID:BCwgwJGkO
- 作者さん、時計の国も全裸で舞ってるから
- 817 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 23:10:21 ID:FNWH6xZY0
- おつ!
すごい面白い!なんでよんでなかったかわからん!
絵も上手いとかハイスペックだな
- 818 :名も無きAAのようです:2013/05/20(月) 23:49:05 ID:a9eUQdqE0
- 大爆笑
- 819 :名も無きAAのようです:2013/05/22(水) 17:48:43 ID:Odvq25JEO
- ツン可愛い!
- 820 :名も無きAAのようです:2013/05/23(木) 17:44:15 ID:DW9pu9qw0
- ギコがいいやつかつ仕事も出来て家庭的とまじハイスペックな件
- 821 :名も無きAAのようです:2013/05/23(木) 20:32:41 ID:0pou6vok0
- カマじゃなかったら男にも女にも惚れられただろうな
- 822 :名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 22:34:24 ID:3Fs7u89o0
- その上イケメンだしな
- 823 :名も無きAAのようです:2013/06/23(日) 13:04:22 ID:U5uJfl/E0
- 待機
- 824 :名も無きAAのようです:2013/06/24(月) 10:34:17 ID:/pDK95Bk0
- わくわくそわそわ
- 825 :名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 22:56:08 ID:p0jc8nA60
- 暑中お見舞い申し上げます〜
- 826 :名も無きAAのようです:2013/08/01(木) 22:09:29 ID:e17sSytkO
-
アンビリバボーの久々の心霊特集wktkしてたけど既出多めで悔しかったので近々5話目前編投下する
ここ最近は○月以内とか○週間内とか具体的に予告しても
結局予告通りに来れないのが続いてるので、近々投下とだけ言う
書き溜めは終わってるから、あとは時間がとれさえすれば大丈夫
ただし相変わらず長い。ので、投下できる時間が確保しづらいです
気長に待っててもらえるとありがたいです
ここから下は完全に個人的な話だけど、ホラーの夏なので
おすすめのホラー映画とか投稿心霊映像系DVDがあったら教えてください
ある程度見てしまったので新規開拓したい
以下は自分のおすすめですが
・『本当にあった 投稿闇映像』シリーズ
ナレーション淡々としてて聞きやすいし映像も落ち着いたのが多い。と思う
余計なインタビュー・検証が少ない一作目が特におすすめ。最初の廃墟のやつ超怖い
2作目以降はちょっと微妙
似たようなタイトルの別物『闇動画』シリーズがあるので注意
・『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズ
ホラーをギャグとして楽しめる人におすすめ。そうでない人にはおすすめ出来ない
フィクション嫌いって人にも合わないと思う
グロっぽいの混じるので注意。モザイク入るので然程ひどくはない
3作目までしか見てないけど3作目が最高に下らない。笑った。とある登場人物が腹立つ
怖いの好きだけど苦手、怖いのも笑えるのも見たい、いかにもヤラセくさいのは嫌 という人には↓
・『怪談新耳袋 殴り込み!』シリーズ
別のスレでも紹介したので詳細は割愛
心霊スポットでふざけ倒しつつ、時に真面目に検証するシリーズ
全編通して中学生みたいなノリのオッサン達が笑えるけど、たまにガチっぽい映像や音が撮れるのがいい
見終わった後に特典のオーディオコメンタリーも聞いてみてほしい
全て自分の好みと偏見で選んでるので、いざ観てみて「面白くねえよ」ってなっても責任はとらない
興味ない人にはとことんどうでもいい話ですみませんでした
みんなも怖いDVD観て怖い話書いて百物語に参加しよう!
- 827 :名も無きAAのようです:2013/08/01(木) 23:01:51 ID:pn5jfvPg0
- 乙!待ってるぜ
- 828 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:01:38 ID:hbcbtFpAO
- 途中で止まるかもしれないけど5話前編投下する
- 829 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:02:51 ID:hbcbtFpAO
-
( ФωФ)(ゆうれいさいばん……)
久しぶりに戻ってきた町。
昔は「おばけ法」などというものも僅かにしか浸透していなかったのに。
いつの間にやら、すっかり町中のおばけに知れ渡っていた。
先日、ある裁判を覗いてみた。
古い、恐らく学校とかいう場所で行われたもの。
眼鏡をかけた男が、呪いがどうこうという罪に問われていたが──何が何だか、よく分からなかった。
ただ、裁判が終わった後。
女と少年の会話に、気になる名前があった。
- 830 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:03:33 ID:hbcbtFpAO
-
( ФωФ)(……みせり)
あれは。あの名前は。
自分が殺し損なった女の名前だ。
そして彼らは、「みせり」のもとに現れた男についても話していた。
恐らくは自分のこと。
自身の危険な立場は承知している。
しかし、まだ目的を果たしていない。この町は、まだ離れられない。
──もっと知る必要があるようだ。
幽霊裁判と、おばけ法。
*****
- 831 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:04:20 ID:hbcbtFpAO
-
(´・ω・`)「では、こちらを……」
禰宜は、静々と一枚の札を差し出した。
細長い紙に、黒と朱色の墨で何やら書かれている。
(´・ω・`)「お部屋の窓と向かい合う位置にお貼りください。
窓が複数あるならば、一番大きな窓の向かいに」
( ゚∋゚)「一枚でいいんですか?」
(´・ω・`)「まずはこちらで様子を見ましょう」
にこりと微笑み、禰宜は首を僅かに傾けた。
どことなく、しょぼくれた顔付き。
頼りなさを覚えた。
- 832 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:05:00 ID:hbcbtFpAO
-
(´・ω・`)「お札と言いましても万能ではありませんから……
また何かありましたら、どうぞお越しください。
出来ましたら、息子さんもご一緒に」
( ゚∋゚)「……ありがとうございました。
それでは失礼します」
禰宜に見送られ、神社を後にした。
角を曲がる。
手に持った札を見下ろした。
やはり、この程度の神社では不安だ。
もっと名の知れた──信用のあるところへ行かなければ。
*****
- 833 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:06:17 ID:hbcbtFpAO
-
( ゚д゚ )
電気を消し、ベッドに潜り込む。
眠くはない。
頭は冴えている。
目をきつく閉じて、布団を頭まで被った。
すると、徐々に意識が揺らぎ始めた。
胸は高鳴っていく。それでも眠気が勝った。
きっと今夜も、彼女がやって来る。
〈──……ミルナ〉
間際、どこか懐かしさを覚える声に呼ばれた気がした。
女の声。しかし「彼女」の声ではない。
温かな手に優しく腕を引かれるような感覚。
その手を振り払う。
自分は「彼女」のもとへ行きたいのだ。行かねばならない。
手が遠ざかる。
- 834 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:07:14 ID:hbcbtFpAO
-
また、名前を呼ばれたような。
先程とは違う。耳を焼くような、甘ったるい、「彼女」の声だ。
これが欲しかった。
どろりと纏わりつく熱の発生源へ、手を伸ばす。
早く。温めてほしい。
そうして、すとんと、思考も何もかもが落ちていった。
- 835 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:08:18 ID:hbcbtFpAO
-
case5:誘惑罪/前編
.
- 836 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:09:32 ID:hbcbtFpAO
-
(#・∀・)「彼女欲しいィイ──────!!!!!」
マイク越しの絶叫はなかなかに強烈だった。
全員が耳を押さえ、のけぞる。
余韻が消えた頃、内藤ホライゾンは、ソファの上に立つ浦等モララーの足をメニュー表で叩いた。
(;^ω^)「うるさいお! 何なんだお急に!」
(#・∀・)「彼女欲しい! 男4人でカラオケ来るより女の子と2人で来たい!
密室でいちゃつきながらラブソング歌い合いたい! ちょっといやらしいことしたい!!!!!」
(´<_`#)「んなこと叫ぶな! 歌わないならマイク離せ馬鹿!」
(;-_-)「モララー、この間からずっとこんな調子だよ」
流石弟者がおしぼりを投げつけ、小森ヒッキーは溜め息をつく。
- 837 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:12:22 ID:hbcbtFpAO
-
──とあるカラオケ店。
その一室に、4人の姿はあった。
むなしく流れ続ける曲を止め、モララーは横たわる。
画面に映る「採点できません」の文字。
内藤の足に、モララーの足が乗っかった。
( ・∀・)「飽きたー」
(;^ω^)「モララーがカラオケ来たいって言ったんじゃないかお……足どけてくれお」
(´<_` )「そいつは、ここのフライドポテトが食べたかっただけだろ」
次の曲のイントロが流れ、弟者がマイクを手に取った。
モララーはテーブルに手を伸ばし、大皿に残った数本のフライドポテトを鷲掴みにする。
( ・∀・)「音痴の出番だな」
(´<_` )「そう言うなら耳ふさいどけ」
( ・∀・)「最低点数叩き出せー」
内藤の前には、ペーパーナプキンが一枚。
4人がこれまでに歌った曲の点数が書かれている。
平均点の一番低い者がフライドポテトの料金を払う、というルールがモララーによって設けられたのだ。
現在の最下位候補は弟者、その次がモララー。
弟者は初めから諦めているようだった。
ちなみにヒッキーは高得点しか出していない。トップを独走中だ。
- 838 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:13:50 ID:hbcbtFpAO
-
( -∀-)「彼女欲しい。もう彼女じゃなくてもいい。いちゃいちゃしたい」
(;^ω^)「うるさいなあもう」
(-_-)「どうしたのさ、モララー」
ヒッキーの呆れ気味の声に、モララーはぼんやりと天井を見つめながら、答えた。
( ・∀・)「エロい夢見た」
ヒッキーがジュースを吹き出し、弟者の歌声が揺れた。
何とか歌は続けられたものの、こちらに向けられる目は冷たい。
(*・∀・)「もう2週間は前なんだけどさあー、もうさあ、もう、あれは、もう」
うふふと笑ってモララーが身悶えする。
そこから、夢の内容が事細かに説明され始めた。
いやに生々しい。
いつの間にか弟者の声も止まり、呆れているんだか照れているんだか、よく分からない表情をしている。
内藤は空のグラスを持ち、腰を上げた。
- 839 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:15:18 ID:hbcbtFpAO
-
(;*^ω^)「の、飲み物入れてくるお……。ヒッキーのも持ってくるかお?」
(;*-_-)「え? は、あ、う、うん、うん、何か適当にお願い」
モララーが話し始めてから、ヒッキーのジュースが物凄い勢いで減っていた。
空っぽのグラスの空気をひたすらストローで吸っていたヒッキーは、
こくこくと頷きながら内藤にグラスを手渡した。
部屋を出る。
内藤は溜め息をつき、表情を平常通りに戻した。
( ^ω^)(友達の『そういう』話は想像したくもないお)
内藤も14歳だ。猥談は嫌いではない。
が、まだまだ純なところも当然ある。
身近な人間が当事者である話は、何だか困る。
- 840 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:18:25 ID:hbcbtFpAO
-
──ドリンクバーのコーナーは、店のカウンターの斜交いにあった。
ヒッキーのグラスを氷とオレンジジュースで満たす。
それから自分のグラスにコーラを入れた。氷もたっぷり。
( ^ω^)(ソフトクリーム乗せようか……)
「──ミルナの馬鹿!!」
突然聞こえた大声に肩を跳ねさせた。
モララーの絶叫に勝るとも劣らない。
内藤は、声のした方を振り返った。
- 841 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:19:44 ID:hbcbtFpAO
-
('、`#川「馬鹿! 馬鹿! お前なんかもう知んない!!」
ある個室のドアが開いていた。
そこに──高校生くらいだろうか、少女が立ち、室内に向けて怒鳴っている。
背中の真ん中ほどまで伸びた黒髪が印象的だ。
少女は立ち去ろうとする素振りを見せて、数秒後、また怒鳴った。
('、`#川「止めろよ馬鹿!!」
何なのだ、一体。
カウンターに出てきた店員が、訝しげに少女を見遣る。
- 842 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:21:41 ID:hbcbtFpAO
-
('、`#川「ばかっ、ばかっ、ばか! 私、私はなあ、ミルナのこと心配してんのに──
もう!! どうしてそんなことゆーんだよ!
ミルナのそーゆーとこ嫌いだ!!」
実際の年齢──何歳かは知らないが──より、いくぶん幼い口調に感じた。
はっきり言うと馬鹿っぽい。
少女が俯く。
一度顔を上げて室内を睨むと、彼女は今度こそ、その場から走り去った。
内藤が立つドリンクバーの横を過ぎ──かけたが、
運悪く、ストローやガムシロップの入ったケースに腕をぶつけてしまった。
('、`;川「あっ!」
いくつかのケースが台から落ちた。
響き渡る破壊音。陶器製だったようで、ケースが砕け散る。
少女がしゃがみ、破片へ手を伸ばした。
( ^ω^)「あ、──待った!」
びくり、少女の動きが止まる。
ほぼ無意識にあげた声。
すぐに内藤の頭が動き出した。不安げな声を「作る」。
- 843 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:23:09 ID:hbcbtFpAO
-
(;^ω^)「さ、触ったら危ないですお」
('、`;川「そっ、そっか、うん。……あっ、怪我してないか? 大丈夫?」
(;^ω^)「僕は大丈夫ですお。お姉さんは?」
掃除道具を抱えた店員が駆け寄ってくる。
危ないので離れてください、という指示を受け、2人は後ろへ下がった。
('、`;川「悪い──あ、いや、すんません……じゃなくて、えっと、えっと、ご、ごめんなさい」
少女は泣きそうな声で店員に謝った。
頭を下げる度、さらさらと髪が揺れる。
綺麗な髪だ。
恐縮するあまり不安になっているのか何なのか、
なぜか彼女は内藤の服を片手で掴んでいた。
出来れば離してほしい。
そこへ、新たな足音が近付いてきた。
- 844 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:24:17 ID:hbcbtFpAO
-
ξ;゚?゚)ξ「ペニサスさん、どうしたの? 大丈夫──」
( ^ω^)
ξ;゚?゚)ξ「あ」
こんなことがあって堪るか。
内藤は踵を返して部屋に帰りたくなった。
が、少女に服を掴まれているため敵わない。
ξ;゚?゚)ξ「内藤君」
( ^ω^)「……どうも」
仕方なしに会釈する。
出連ツンは、相変わらず黒ずくめだった。
- 845 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:25:52 ID:hbcbtFpAO
-
('、`*川「おばさんの知り合い?」
ξ#゚∀゚)ξ「おばっ……」
お姉さんって言ってもらえる?
怒りを抑えた声で呟き、ツンは頬を引き攣らせる。
あらかた片付けた店員が、「お部屋に戻って結構ですよ」と内藤達に言い、
カウンターの向こうに引っ込んでいった。
ようやく少女の手が内藤から離れる。
( ^ω^)「じゃあ僕は戻りますお、おばさん」
('、`*川「おばさん……私、帰るね」
ξ#゚∀゚)ξ「オラァ!! ガキどもオラァ!!」
ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとする少女を、
ツンは内藤の頬を抓りながら引き止めた。
- 846 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:27:37 ID:hbcbtFpAO
-
ξ;゚?゚)ξ「──待ってペニサスさん!
ミルナ君のこと、心配してくれてるんでしょう?」
('、`*川「……そりゃあ」
ξ゚?゚)ξ「見ての通り、ミルナ君はあの調子だし……あなたがいてくれた方がいいの」
〈 ^ω^〉(ほっぺた痛い)
('、`*川「……でもミルナ、放っといてくれってゆった……」
ξ゚?゚)ξ「あなたは、放っといていいと思う?」
('、`*川「……んーん」
ツンが手を下ろす。
その隙に、彼女の間合いから離れた。
友人が待つ部屋に戻るため、踵を返す。
直後、殊更ゆっくりと放たれたツンの声が、内藤の背と耳にへばりついた。
ξ゚?゚)ξ「……ペニサスさん。裁判に、来てくれるわよね?」
*****
- 847 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:29:10 ID:hbcbtFpAO
-
(*・∀・)「またなー」
(-_-)「ばいばい」
カラオケ店の前。
モララーとヒッキーの2人と別れ、内藤は弟者を見た。
特に意味はない。弟者も内藤を見て、苦笑する。
(´<_` )「何だよ」
( ^ω^)「案の定、弟者が最下位だったおね」
やかましい、と弟者の手に小突かれた。
それから2人は赤みの滲んだ空を見上げ、モララー達とは違う方向へ足をやった。
じわりと夏の気温に包まれる。
今まで涼しい場所にいた分、まるで温度が形を持っているかのように感じられた。
- 848 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:30:44 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「夕飯の時間に間に合わなそうだお……。今夜は何だろうかお」
(´<_` )「今日は姉者の帰りも遅いし、兄者と妹者が作ると思う。
冷蔵庫の中身からして、多分チャーハンだな」
ξ゚?゚)ξ「いいわねえチャーハン。家庭によって味も具も全く違うから面白いわよね。
お姉さんもご一緒していいかしら?」
(´<_` )「残飯で良ければ分けてやってもいい」
ξ゚З゚)ξ「弟者君の意地悪」
(´<_` )「あんたに情けをかける必要があるのか?」
ξ^?^)ξ「言うわねー。ところで私『イタ飯』のことを『炒飯』と勘違いしてた時期があるわ」
(´<_` )
ξ^?^)ξ
(´<_`;)「いつの間に!!?」
ξ゚?゚)ξ「反応遅すぎてお姉さんちょっと震え上がったわよ」
( ^ω^)「お約束ですおね」
気付くと、ツンが弟者の横に並んでいた。
内藤と目が合うなり、にんまり笑う。
- 849 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:32:33 ID:hbcbtFpAO
-
ξ^?^)ξ「こんにちは内藤君。お友達とカラオケ? 仲良くやってるようね」
( ^ω^)「ええ。ツンさんはカラオケに一緒に行くような友達はいますかお? いませんおね」
ξ゚?゚)ξ「うっせバーカ。内藤君って歌上手い? どういうの歌うの?」
( ^ω^)「普通じゃないですかね、全体的に」
ξ゚?゚)ξ「聴いてみたいわねえ。特に内藤君が歌わなそうなの。
あれ何だっけ。あの……あれ。
美味しいパスタ作ってマジギレするやつ」
( ^ω^)「何だその情緒不安定」
立ち止まった弟者を置いて、内藤とツンは進んでいく。
ようやく我に返ったのか、弟者が駆けてきて2人の間に割り込んだ。
- 850 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:33:36 ID:8k.yUM8U0
- 待ってたわ
- 851 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:35:15 ID:hbcbtFpAO
-
(´<_`;)「何であんたがいるんだ!? ブーンのストーカーか!」
( ^ω^)「えっ、ストーカーなんですかお? 引く」
ξ#゚?゚)ξ「こんなガキなんぞ興味ないっつうの!!」
ツンが弟者の頬を抓る。
こっちも願い下げだが、そうもはっきり言われると、少々傷付く。
内藤は周囲に人がいないのを確認すると、道の端に寄って足を止めた。
頬を引っ張り合っていた2人も内藤の傍で立ち止まる。
( ^ω^)「僕に何の御用ですお」
ξ*゚∀゚)ξ「いいわよー内藤君。物分かりいいわ」
( ^ω^)「くだらない話なら帰りますけど」
(´<_`#)「こいつが口にするのは全部くだらない話だろ」
ξ゚?゚)ξ「弟者君は本当に私が嫌いなのねえ」
ツンが腰に手を当て、半身をぐいと反らした。胸を張るような姿勢だが張るほどの胸がない。
「座りっぱなしだったから疲れたわ」。聞いてもいない独り言を零す。
そのまま心地よさげな吐息を漏らし、体を元に戻した。
- 852 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:36:21 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「……あの子、君たちの友達よね? 格好いい子。さっきの──黄色いシャツの」
(´<_` )「モララーか?」
( ^ω^)「格好いいのは顔だけですお」
ξ゚?゚)ξ「あの子と、ちょっと話してみたいことがあるんだけど……」
(´<_`#)「ブーンと俺だけに飽きたらず、他の奴にまで迷惑かける気か!?」
ξ゚З゚)ξ「ま、弟者君が許さないわよね」
顔を横向けた内藤は、頭痛を堪えるように眉間に皺を寄せた。
「話してみたいこと」の内容はまだ分からないが、どういったものであるかは明らかだ。
( ^ω^)「モララーを幽霊裁判に呼びたいんですかお?」
ξ゚?゚)ξ「ご明察。半分だけね」
弟者から怒気が消える。
ツンとの距離をとり、内藤の後ろへ回った。
- 853 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:38:12 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「半分って?」
ξ゚ -゚)ξ「見た感じ、あの子が幽霊裁判のこと知ったら、周りに言い触らしそうなんだもの。
だから、裁判に呼びたいわけではないの。
ただ──たぶん『被害者』の1人ではあるから、話は聞いておきたくて」
(´<_`;)「被害者?」
ξ゚?゚)ξ「ええ……」
ツンが指先で唇に触れ、考えるような仕草を見せる。
その体勢で宙を見つめるツンの顔は──顔だけは、やはり綺麗だ。
恋人が欲しいと喚いていたモララーなら、ツンがにこりと微笑むだけで落ちそうな気がする。
( ^ω^)(この人は恋人っていうか変人だけど)
使い古されたような下らぬ洒落に、こっそり溜め息。
それと同時に、ツンは腕を組んだ。
ξ゚?゚)ξ「あの子から、変な夢見たっていう話、聞いてない?」
*****
- 854 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:39:02 ID:8BaWKEdwO
- やっは面白いなー
- 855 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:40:40 ID:hbcbtFpAO
-
(´<_` )「──……で。その……。
……急に嫌な予感がして、女の手を払いのけたところで目が覚めたって……」
ξ゚?゚)ξ「最後までしてないのね?」
(´<_` )「……らしい」
ξ゚?゚)ξ「その夢を見たのは一度だけ?」
(´<_` )「『続きが見たい』って言ってたから、たぶん一回だけじゃないか」
道端で卑猥な夢の話をさせられる中学2年生。
真剣な顔で聞く20代の顔だけ美人。
一部の人種には羨ましがられそうな状況だが、当の弟者は困り果てている様子だった。
話し始めてから汗をかき出したので、恐らく恥ずかしく思っているのだろう。
( ^ω^)(モララーの話聞かずにいて良かった)
- 856 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:41:39 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「なるほどね……。……裁判で使えるほどの証言でもなさそうだわ」
(´<_` )「モララーの夢がどう関係あるんだよ」
ξ゚?゚)ξ「その夢に出てきた女、おばけなのよ」
若干赤みがかっていた弟者の顔が、一気に青ざめた。
猥談だと思っていたら怪談だったとは。
ああ、また下らない洒落。
(´<_`;)「お、おば、おば、おばっ」
ξ゚ -゚)ξ「とはいえ、モララー君は見限られたみたいね。
良かったというか何というか」
弟者の手が内藤の腕を掴む。
内藤を半ば引きずる勢いで歩き出した。
( ^ω^)「弟者」
(´<_`;)「つっ、つつつっ、付き合ってられるか!!
何がおばけだ! 何が夢だ!!」
- 857 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:42:52 ID:hbcbtFpAO
-
ξ;゚?゚)ξ「待ってよ弟者君! それとは別に、内藤君に話があるんだけど!」
(´<_`#)「黙れ! うちにもブーンにも二度と関わるな!!」
ξ;゚?゚)ξ「な、内藤君、明日! 明日の正午に、市立図書館近くのファミレスに来てね!」
行くつもりじゃないだろうな、と弟者が呟く。
内藤は頷きはせず、黙ったままついていく。
行くわけがない──と、即答出来なかった。
*****
- 858 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:44:36 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「『夢に現れ誘惑する』」
翌日。ファミリーレストラン。
スプーンを口の端にくわえながら、頬杖をついたツンはファイルを見下ろした。
喋る度にスプーンが揺れる。
ξ゚?゚)ξ「『長い黒髪』『豊満な乳房』『白い肌』『濡れた声』」
ξ゚?゚)ξ「超、絶、テク、ニッ、ク。っと」
結局来てしまった。
弟者には「絶対に行くな」と再三釘を刺されたが、どうにも気になって仕方がなかったのだ。
もしも弟者が部活のために朝から学校へ行っていなければ、多分、内藤は外出すら許されなかっただろう。
やれやれと首を振り、ツンがファイルをこちらに投げて寄越した。
内藤はバニラアイスをつつきながらそのファイルを開いてみる。
インターネット上の電子掲示板をプリントした紙が、数十枚も挟まっている。
「まちのうわさ」。トップには、掲示板の名前があった。
- 859 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:46:42 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「何の掲示板なんですかお」
ξ゚?゚)ξ「オカルト系。都市伝説が話題の中心みたい。
結構賑わってんのよ」
ローカルルールの説明欄。
その下にスレッドタイトルがずらりと並んでいる。
全国から人が集まっているのだろう、様々な地名が散見される。
( ^ω^)「『【A県ヴィップ市】黒服の金髪女』……」
ξ゚?゚)ξ「やめて読み上げないで。それ見て泣きそうになったからやめて」
( ^ω^)「ツンさんついに都市伝説扱いされてきましたかお」
ξ゚?゚)ξ「最終的には『死神だと言い張りながら子供を追いかけ捕まえて殺す精神異常者』になってたわ。
泣きそうっていうか泣いたわよ今だって自分で言いながら声震えてるわよ」
ξ゚д゚)ξ「っていうか問題はそれじゃないの!」
涙声で怒鳴り、ツンはパフェにスプーンを突っ込んだ。
改めて目を落とす。あるタイトルが赤丸で囲まれていた。
紙をめくってみると、そのスレッドの中身だった。
- 860 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:47:42 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「『長髪の女の夢を知りませんか?』」
そんなタイトルに始まり、長髪の女とやらの特徴が本文に並べられている。
先程ツンが読み上げたものだ。
いわく、その女と──あれこれ致してしまう夢を何度も見る、と。
この世のものとは思えぬほどの快楽で、友人に話してみたところ、
その友人からも同じ夢を見たことがあると聞かされたらしい。
それに寄せられる、ただの夢だろうという反応の数々。
時折、「同じ夢を見た」との声が混じる。
そういった書き込みが増える度、これはただごとではないぞという空気が湧く。
さらにそこへ、夢の中だけではない共通点が見付かり、住人達は色めきだった。
- 861 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:49:30 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「……焦げ跡」
ξ゚?゚)ξ「面白い展開よね」
夢を見たと報告した人物たちの部屋の壁、あるいは私物に、
覚えのない焦げ跡があるのだという。
多くの報告者は煙草を吸わないようで、火元になるものが全く無い、と言い切る者もいた。
その焦げ跡の画像を載せる書き込みが混じる。
場所も大きさも様々。
スレッドはオカルト色を増していた。
女の正体についての議論が交わされる。色情霊。妖怪。サキュバス。
ふと、気になる言葉があった。
( ^ω^)(『えんしょうじょ』?)
1人が、その7文字だけをぽつりと書き込んでいた。
それに対する返信も一つ二つあるが、「えんしょうじょ」の説明は皆無だし、
やがて別の流れに飲まれて以降は、再び出てくることはなかった。
掘り返されないということは、然程重要なものではないのだろうと判断し、
ツンに訊かないまま読み進めた。
- 862 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:50:35 ID:hbcbtFpAO
-
正体がはっきりしないまま、都市伝説としての骨格だけが固まっていく。
「友達も見たって言った」「いわゆる夢魔の類」「話を聞いた奴のところに来る」
「自分自身を燃やされる」「呪いだ」「この夢を見たら近い内に死ぬ」──
( ^ω^)「死ぬって、何の根拠も無しに」
ξ゚?゚)ξ「不気味な噂って、行き着くところは大体決まってるわよね。
とにかく人が死なないと気が済まないのかしら。
……まあ、でも──」
シャーベットと生クリームを掬い上げ、ツンが口に運ぶ。
唇に付いたクリームを舐めて、また頬杖をついた。
ξ゚ -゚)ξ「実は、あながち間違ってもないのよね」
( ^ω^)「……死ぬんですかお?」
ξ゚?゚)ξ「たとえば、300番あたりから書き込んでる人がいるでしょ?
名前欄にたくさん記号使ってる人」
( ^ω^)「はあ」
言われた場所まで戻る。
ある特定の人物が何度も書き込んでいた。
初めは「ついに俺の夢にも女が出た」と。それから数日置きに報告している。
- 863 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:52:09 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「この人、例の夢を何度も見てますお。
焦げ跡の写真もアップして──
……あ、半年前からいなくなってる」
ξ゚?゚)ξ「その人は半年前に亡くなったわ」
ざくり。
ツンの持つスプーンが、ムースの下のコーンフレークを砕いた。
ξ゚?゚)ξ「警察のおばけ課の捜査によると……
この男性は一年前──初めて書き込んだ頃ね。その頃から日に日に窶れていってはいたものの、
同じ大学に通う友人が言うには、体調自体はそう悪くなかったらしいの」
ξ゚?゚)ξ「けれど、だんだん自宅に篭るようになっていって。
ある日、病院で不眠症だと偽って睡眠薬を手に入れ、
そして薬の過剰摂取で──」
( ^ω^)「……死んだ、と」
ξ゚?゚)ξ「正確には、薬で意識が朦朧とした状態で階段から落ちたのが死因らしいわ。
何にせよ睡眠薬まで使うなんて、よほど眠りたかったんでしょうね」
( ^ω^)「夢を見るために?」
ξ-?-)ξ「かもね」
それともう1人、と人差し指に見立ててスプーンを上に向ける。
その拍子にチョコレートソースがテーブルに落ちたので、内藤が拭いた。
- 864 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:53:25 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「それとは別の、平仮名ばっかなハンドルネームの人」
( ^ω^)「さっきの人より先に夢を見てた人ですかお」
ξ゚?゚)ξ「その人は死んじゃいないけど、
夢に依存するあまり、仕事に失敗して、今は引きこもってるとか」
ξ゚ -゚)ξ「他にも、継続して夢を見た人は何らかの不幸に遭ってるわ」
( ^ω^)「……モララーは」
ξ゚?゚)ξ「一度しか見てないんなら大丈夫だと思う。
そのスレ、12枚目は読んだ? 見てごらん。
夢に女が現れても、途中で拒否した人は、それ以降は何も起こらなかったってさ」
ほっとした。
アイスクリームの最後の一欠片を口に収める。
( ^ω^)「で。その女ってのは捕まったんですおね?
裁判の準備してるってことは」
ξ゚?゚)ξ「ええ」
- 865 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:55:17 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「ツンさんには有罪か無罪か分かってるんですかお?」
ツンは片眉を上げただけで、これといった答えは示さなかった。
無言でパフェを口に運んでいく。
( ^ω^)「分かってない。か、もしくは僕に教える気がないわけですおね」
ξ゚ー゚)ξ「あら当たり。ご褒美あげる」
( ^ω^)「あぐ」
不意打ち。
口にスプーンを突っ込まれた。
ヨーグルトムースの酸味、クリームの甘み。それらの滑らかさとコーンフレークの食感が混ざる。
- 866 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:56:28 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「内藤君にバラしたら、いざ裁判が始まったときに
内藤君が口滑らしちゃうかもしれないでしょ」
( ^ω^)「え?」
ξ゚?゚)ξ「うん?」
( ^ω^)「『裁判が始まったとき』って。まず行きませんお」
ξ゚?゚)ξ「来ないの?」
( ^ω^)「逆に何で行くと思ったの?」
ξ゚?゚)ξ「ここまで来たら最後まで付き合ってくれるパターンでしょうよ」
( ^ω^)「馬鹿じゃねえの」
そもそも内藤は、昨日の「それとは別の話がある」という言葉を聞いて来たのであって。
夢だの女だの裁判だのいう話は内藤に無関係であり、ツンがいきなりべらべら喋りだしただけだ。
ξ゚ -゚)ξ「……内藤君の和風ハンバーグとアイスとドリンクバーの料金は私が払ってあげるつもりなんだけどなあ。
バイト代と思ってくれない?」
( ^ω^)「自分の分は自分で払いますお」
首を傾け、ツンは窓の外を見た。
左手で頭を掻き、息を吐き出す。
- 867 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 17:59:20 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「まあ、しょうがないか。
じゃあ本題に移りましょう」
さっさとそうしていただきたい。
内藤はツンの方へファイルを滑らせた。
ξ゚?゚)ξ「ミセリさんのことよ」
( ^ω^)「……トソンさんの友達の?」
前回の裁判後に聞いた話。
都村トソンの友人、三森ミセリの病室に見知らぬ男がいた──という内容だったか。
男はトソンを見て逃げ出したとか。
ξ゚?゚)ξ「一応、病室を警備してるらしいんだけどね……今のところ、その男は現れてないわ」
( ^ω^)「警備って、その、おばけ課? とかいう、警察の人がやってるんですかお?」
ξ゚?゚)ξ「そうね。それと、ちょっと信用出来るおばけとかも」
( ^ω^)「……はあ。おばけが」
ξ゚?゚)ξ「今日はドクオさんだったかしらね」
( ^ω^)「欠片も信用ならないじゃありませんかお」
- 868 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:01:34 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「そもそも警察と交流があって、なおかつ大して力の強くない幽霊、
っていう条件に当てはまる奴が少ないのよね……」
( ^ω^)「警備なら強い方がいいんじゃ……」
ξ゚?゚)ξ「あんまり強いと、警察側が持て余しちゃうから」
( ^ω^)「なるほど」
*****
その頃。
('A`)「ぶゎっくしょい!!」
(;,゚Д゚)「えっ!? 幽霊もくしゃみするの!?」
*****
ξ゚?゚)ξ「まあ、それはともかく。
……警察がミセリさんの病室を調べてみたところ、
猫の毛が落ちてたそうよ」
( ^ω^)「……猫?」
それがどうしたというのだ。
内藤は小首を傾げる。
- 869 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:04:32 ID:hbcbtFpAO
-
ξ-?-)ξ「ミセリさんが以前住んでいたアパート、それと実家も調べさせてもらったところ──
同様の毛が見付かったわ。
彼女は猫なんか飼ったことないのにね」
ξ゚?゚)ξ「それと、その猫の毛。
普通の猫とはどこか違うらしいの」
( ^ω^)「おばけですかお?」
ξ゚?゚)ξ「恐らくね」
化け猫、猫又、動物霊。
それがどの括りに入るかは分からないが、
その「猫」がミセリの周囲をうろついていることに変わりはない。
( ^ω^)「……トソンさんの言うように、そいつが真犯人なんでしょうか」
ξ゚?゚)ξ「前も言ったけど、分かんないわ。
まだ何とも」
ツンは、一旦黙った。
パフェの残りを一気に腹に収め、満足げに微笑みながら紙ナプキンで口を拭く。
最後にアイスコーヒーを呷る。
氷が溶けて、随分と薄くなっているように見えた。
- 870 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:06:22 ID:hbcbtFpAO
-
ξ*´?`)ξ「ごちそうさまー」
( ^ω^)「はあ」
ξ*´ -`)ξ「久々にパフェ食べたわあ。美味しかった」
( ^ω^)「それは何よりで」
ξ*´ -`)ξ「うん」
( ^ω^)
ξ*´ -`)ξ
( ^ω^)「で?」
ξ*゚?゚)ξ「え?」
- 871 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:08:19 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「話の続きは?」
ξ*゚?゚)ξ「あれで終わりだけど?」
( ^ω^)「は?」
ξ*゚?゚)ξ「え?」
( ^ω^)「あれだけ?」
ξ*゚?゚)ξ「うん」
( ^ω^)「あ?」
ξ*゚?゚)ξ「え?」
内藤は迷った。
迷った末、持ち前の慈悲深さを発揮して、ツンの右足を思いきり踏みつけた。
- 872 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:09:51 ID:hbcbtFpAO
-
ξ;゚?゚)ξ「いったあい!!」
( ^ω^)「あんな、どうでもいい、たった、あれだけの、情報を、聞かせる、ため、だけに、僕を呼んだんですかあんた馬鹿か」
ξ;゚?゚)ξ「ぐりぐりしないで! ぐりぐりしないで!
続報あれば教えてあげるって前に言ったじゃない!」
( ^ω^)「解決したわけでもなし。何か明確に進展したわけでもなし。
んな状態で話持ってこられて僕はどうすりゃいいんですかお。
言っちゃえば僕なんてほとんど無関係なんですお」
ξ;゚?゚)ξ「進展らしい進展があれば聞く価値あるってこと?
無関係ではあるけど無関心ではないのね?」
( ^ω^)「……。帰りますお。自分が食べた分は払います」
ξ;゚?゚)ξ「いたた……あ、もう待ってよう」
腰を上げる。
ツンも席を立つと、伝票を手に取った。
2人でカウンターへ向かう。
- 873 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:11:44 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「僕は800円くらいですおね」
ξ゚?゚)ξ「ええ。あれ、細かいのあったかしら……」
ツンが黄色の長財布を取り出し、小銭を確認した。
直後、カウンターに辿り着く。
内藤も財布を出した──
と、同時。
ξ゚∀゚)ξ「騙されたな馬鹿め!!
おら料金2人分だ、お釣りはいらないわよレジのお姉さん!!」
(#^ω^)「あっ、くそっこの都市伝説女!!」
ツンがカウンターに伝票と金を叩きつけ、すぐさま内藤を引っ張って外に連れ出した。
我に返った店員の、ありがとうございましたという戸惑い気味の声が遠ざかる。
引きずられながらも、内藤はしっかり見てしまった。
ツンがしっかりきっちり伝票ぴったりの金額を出していたことを。
なるほど、たしかに釣りはいらない。
*****
- 874 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:13:56 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「結局、また僕を裁判に付き合わせるのが目的だったわけですね」
ξ;゚?゚)ξ「裁判っていうか……まあちょっとお手伝いをお願いしたくて……」
( ^ω^)「はいはい、お手伝いお手伝い」
見知らぬ住宅街。
ツンの後を歩きながら、内藤は辺りを見渡した。
( ^ω^)(……あつ……)
8月の日差しと蝉の鳴き声が、じりじりと肌や耳に落ちてくる。
遠くから子供の遊ぶ声がする。
公園でもあるのかもしれない。
ξ;゚?゚)ξ「あっづーい。焼け死ぬー」
( ^ω^)「……焼けるといえば、ツンさんって日焼けとかしないんですかお。
都市伝説になるくらい出歩いてる割に、やたら白いですけど」
ξ;゚?゚)ξ「しないわねえ……赤くはなるしひりひりして痛いけど……。
まあ『色の白いは七難隠す』って言うわよね」
( ^ω^)「隠れてませんお。七難が全然隠れてませんお」
- 875 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:16:30 ID:hbcbtFpAO
-
ξ;゚?゚)ξ「そもそも私に欠点なんて無いもん。
……あつーい、暑いぃいい」
( ^ω^)「そのいかにも暑苦しい服を何とかしたらどうですか」
ξ;゚?゚)ξ「え? 脱げって? いやらしい! いやらしいわ! この中2! 思春期!」
( ^ω^)「頭ッから白いペンキぶっかけてやってもいいんですお」
ξ;゚?゚)ξ「ちょっとした冗談なのにい……。
……黒い服の方が、幽霊さんたちの警戒心とか緊張とか和らぐのよ。
あくまで気休め程度だけど」
ξ;゚?゚)ξ「あと、意識がぼんやりしがちな幽霊さんにも、
黒とか濃い色なら認識してもらいやすいからね」
要するに霊が寄ってきやすいのだ。
今後は黒色の服を着るのは控えることにしよう。
こっそり決意して、内藤は1人頷いた。
- 876 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:18:43 ID:hbcbtFpAO
-
「──帰ってくれ!」
突如響く、鋭い声。
ツンが立ち止まる。
視線の先には平屋がある。
その家へ駆けていき、ツンは塀の陰に隠れた。
内藤も続く。
(#゚∋゚)「ミルナにはもう関わるな!
お前のせいであいつがおかしくなったんだ!!」
('、`;川「ちが、わ、私のせいじゃないよ!」
玄関先で言い合う男女。
女の方は──昨日カラオケで会った少女だ。
- 877 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:22:03 ID:hbcbtFpAO
-
('、`;川「あっ……待って! 痛っ……!」
(#゚∋゚)「うちには二度と来ないでくれ!!」
男の怒声は、昨日の弟者を彷彿とさせた。
少女が肩を突かれ、後方へよろける。
それから、ドアが派手な音を立てて閉められた。
今にも壊れそうな勢いだ。
1人残された少女はしばらくドアを見つめ、俯き、門の方へと向かってきた。
塀の前で、少女とツンがぶつかりかける。
('、`*川「……あ」
ξ゚?゚)ξ「大丈夫? ペニサスさん」
*****
- 878 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:24:07 ID:hbcbtFpAO
-
伊藤ペニサス。
少女はそう名乗った。
高校3年生だという。
('、`*川「あんた、昨日の」
( ^ω^)「内藤ですお」
どうせ裁判関係だ。演技をせず、内藤も自己紹介をした。
('、`*川「内藤な。
──そうだ、ごめんな、おば……べんごしさん。
ミルナには会えたけど、すぐ追い出されちゃった」
住宅街の一角、小さな公園。
3人は並んでベンチに腰掛けていた。
木の板を大雑把に組み合わせたようなベンチは、真夏の熱と砂のざらつきを服越しに伝えてくる。
遊具や砂場では小さな子供たちが遊び回り、
別のベンチに座っている保護者たちは、こちらを物珍しげに見ていた。
- 879 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:28:00 ID:hbcbtFpAO
-
ξ; ? )ξ「さっきの方は河内さん? ……ああもう、暑ーい暑ーい」
('、`*川「うん、ミルナの親父さん」
真昼の気温は一層上がり、ツンが、内藤とペニサスの間でぐったりしている。
──ミルナというのは、今回の「夢の女」事件の被害者らしい。
ペニサスの幼馴染みだとか。
ξ;゚?-)ξ「噂で聞いた通り、なかなか恐い方のようね」
('、`*川「うん……。
すげー真面目なんだ」
言いにくそうなペニサスの様子に、内藤は何となく納得した。
相性は良くないだろうな、という感じはする。
ピアスやペンダントにブレスレット。露出が多く、派手な色合いの服。
それだけならともかくとして、彼女の場合はそこに粗野な口調が加わるものだから、
堅物な人間とは合わなさそうだ。
ただ、服装に反して、化粧は薄いし顔付きも地味な方なので
取っつきにくい印象はなかった。
綺麗な黒髪も理由にあったかもしれない。
- 880 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:29:06 ID:hbcbtFpAO
-
ξ; ? )ξ「……例のものは?」
('、`*川「一応持ってこれたけど。何に使うのさ」
ξ; ? )ξ「それは追々……ん、ありがと……」
ツンがペニサスから何かを受け取った。
それをすぐにポケットにしまう。暑さのせいか、言葉の端々が曖昧な発音に終わっている。
ペニサスが黙り込む。
内藤は一旦ベンチを離れ、水飲み場でハンカチを濡らした。
絞ろうとしたが、何となく癪だったのでそのままにしておく。
そしてベンチに戻り、天を仰ぐツンの顔に濡れたハンカチを落とした。
ξ*゚?゚)ξ「あふっ、あっ、冷たい! 涼しい!」
( ^ω^)「横で暑い暑い言われるのも鬱陶しいので」
ξ*゚?゚)ξ「ありがとう内藤君、何だかんだ言って優しぎゃああああああああ!!!!!」
ツンが首元にハンカチをぎゅっと押し付け、たっぷり流れ出た水に悲鳴をあげた。
それを眺めて悦に入り、内藤はペニサスに視線を移した。
- 881 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:31:35 ID:hbcbtFpAO
-
一連の流れに、ペニサスがくすりと笑う。
膝の上で手を組んで、再び話し出した。
('、`*川「……7歳の頃にミルナがこの町に引っ越してきて、仲良くなった。
家に遊びに行ったり、一緒におつかいしたり。
ミルナんちって離婚したらしくてさ、親父さんが仕事で遅いときとかは、うちでミルナ預かったりして……」
('、`*川「ミルナはおとなしい方だったけど、私は馬鹿で乱暴で。
よく私の親に、『お前らは男兄弟みたいだ』って笑われた。
中学になってもだよ? そーゆーのすごい傷付くじゃんか。だから私、髪伸ばしたんだ」
口を尖らせ、ペニサスは自身の髪を指先でいじった。
黒くて真っ直ぐ。金色で癖毛のツンとは正反対だ。
こういうのを緑の黒髪と呼ぶのだろう。
('、`*川「高校で別々になってからは、たまにしか会わなかったなあ。
私はミルナとたくさん遊んだり話したりしたかったんだけど、
ミルナ、頭いい学校に行ったから。勉強で忙しくって、私なんかの相手してらんないんだ」
- 882 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:32:32 ID:hbcbtFpAO
-
ミルナの父がペニサスに冷たくなり始めたのは、その頃からだという。
ξ゚?゚)ξ「さっきみたいな扱いをされたの?」
('、`*川「んーん。
前は、ちょっとよそよそしいかなってぐらいだった。……でも──」
──去年の12月。
期末試験を口実に、ペニサスは勉強を教えてもらうためミルナの家を訪れた。
('、`*川「ほんとは久々に会いたかっただけなんだけど」
2人きり。
テスト範囲の復習をある程度済ませ、休憩していたとき──
「ヘンな空気」になったそうだ。
- 883 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:35:22 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「ヘン?」
('、`*川「色々話してて、恋愛の話になったら……
だんだん、セックスがどうこうって」
ξ゚?゚)ξ「……ああ、うん。なるほどね」
随分とはっきり言うものだ。
水で濡れた襟を抓んでひらひらと揺らしながら、ツンは内藤を一瞥した。
席を外すべきだろうか。ツンに小声で訊ねると、首を横に振られた。
('、`*川「私もミルナも、したことなくて……。
……それで……」
先に言い出したのは自分だ、とペニサスが慌てて付け足す。
ミルナは父親に似て真面目なのだ、とも。
ξ゚?゚)ξ「嫌だったら答えなくていいけど。
あなたは相手がミルナ君じゃなくても、そういう空気になれば流される?」
('、`*川「ミルナじゃなきゃ嫌だったと思うけど──」
- 884 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:37:41 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「ミルナ君が好き?」
('、`*川「……たぶん違う。好きだけど、友達ってゆーか、んっと、……わかんない。
付き合いたいとか結婚したいって感じじゃない。
でもミルナなら、たとえ気持ち良くなれなくてもいいかって思った」
ξ゚?゚)ξ「……まあ、そこら辺の感覚は人それぞれだし、私がとやかく言うことじゃないわね」
ペニサスの周りで最も彼女に近しく、信頼出来る他人がミルナだったのだろう。
内藤はこれといって貞操観念を定めていないので、ツン同様、口出しする気はない。
自分のことなら慎重にもなるが、他人が誰とどうなろうと知ったことではない。
とはいえ現状、居心地は悪い。
単純に恥ずかしかった。
明け透けに話すペニサスと、ぐいぐい突っ込むツン。どちらも内藤には無理だ。
- 885 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:39:05 ID:hbcbtFpAO
-
('、`*川「ミルナのベッドに座って、キスして、ミルナが私の服脱がせて……
そしたら、親父さんが帰ってきた」
('、`*川「仕事の書類、忘れてたんだって。それ取りに戻ってきたみたい」
ξ゚?゚)ξ「タイミングが悪かったわね」
('、`*川「うん……。そのとき玄関にあった私の靴見たんだろうね。
部屋の前で、『ペニサスが来てるのか』って──
それでミルナが慌てて『開けるな』って怒鳴っちゃったから」
ξ゚?゚)ξ「怪しんだお父さんがドアを開けてしまった?」
('、`*川「……服着るの間に合わなかった。
いっぱい怒られた。
ミルナをたぶらかしたとかって。あんまり間違ってないよな。私が誘ったようなもんだし」
('、`*川「ミルナは庇ってくれたけど、親父さんますます怒ってたなあ」
その日から、ミルナに会わせてもらえなくなったそうだ。
たまにこっそり会って話すことはあったが、後でそれがバレると、しこたま怒られたとか。
年が明けると、受験まで一年を切ったこともあり、父の監視がますます厳しくなった。
そして、
- 886 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:40:11 ID:hbcbtFpAO
-
('、`*川「3学期が始まった辺りから、ミルナがおかしくなった」
( ^ω^)「……どんな風に?」
('、`*川「ミルナと同じ学校に行ってる友達から聞いたんだけどな、
毎日ぼうっとして、テストの成績がめちゃくちゃ下がって、
顔色悪くて、体育の授業とかで倒れるようになったって」
そこで内藤は、ツンに見せられたファイルのことを思い出した。
多分、ミルナは被害者の1人。
「おかしくなった」原因は例の夢だろう。
('、`*川「そのまま学年上がって、5月からは、もう学校にも滅多に顔出さなくなったって……」
ペニサスの声が震える。
不安や悲哀とは違う色があった。
怯えている?
('、`*川「それで私、」
ξ゚?゚)ξ「ミルナ君の家に行ったのよね?」
ツンがペニサスの背中を摩る。
幾分か楽になったのか、ペニサスは頷いた。
- 887 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:42:14 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「昨日も聞いたけれど、良ければもう一度話してくれる?
内藤君は私の助手だから、彼にも聞かせてほしいの」
( ^ω^)(誰が助手だ)
('、`*川「5月の、二十……何日だったかな。チャイム鳴らしても出なかった。
だから、ほら、ミルナんちって一階建てだろ?
一番奥、ミルナの部屋の方に回って、窓から声かけようと思ったんだ」
('、`*川「でも昼間なのにカーテン閉まっててさ、駄目元で窓開けようとしたら……」
鍵がかかっていなかったようで、窓が開いてしまった。
すると中から、呻き声のようなものが漏れてきた。
まさか体調を悪くしたのかと思い、窓の隙間からカーテンをめくると。
('、`;川「……ミルナがベッドに寝てて、唸って……
その上にもやもやした影みたいなのがあって……」
- 888 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:43:09 ID:hbcbtFpAO
-
影は徐々にくっきりとした形を取り始めた。
やがて女の姿となり──
('、`;川「こっち見て、何か言うみたいに口動かした……」
そうして、消えた。
ツンが再び背中を撫でる。
青ざめていたペニサスは組んだ手を口元に持っていき、沈黙した。
その後はすぐに逃げたのよね、というツンの言葉に首肯する。
ξ゚?゚)ξ「怖かったでしょう」
('、`;川「……うん」
ξ゚?゚)ξ「──と、まあ、こんなことがあって。
つい先日、その女と思われる霊が捕まったのよ。
私は弁護士として、有利な証拠や証人が欲しい。分かるわね内藤君?」
( ^ω^)「……はあ」
ペニサスは幽霊裁判のことを承知しているようだ。
彼女が口の堅い人かどうかは内藤には分からないが、
少なくともツンは、ペニサスを無闇に言い触らす人間ではないと判断したのだ。
- 889 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:46:07 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「もう時間がないの。とりあえずペニサスさんは証人として確保したけど、
まだ証拠が足りないわ。
ミルナ君の家にあるであろう証拠なんだけどね」
ξ゚?゚)ξ「あのお父様から私が信用されるのは難しいだろうし、
かといってお父様の留守を狙って侵入して証拠持ってきたら泥棒だし、
幽霊雇って証拠盗ませてくると、その幽霊が裁かれかねないし……」
──生きている人間で、かつ、あの父親に受け入れられ、堂々と家に上がり込める者が必要だ。
それも今すぐに。
ツンが言いたいことは、要するにそれである。
( ^ω^)「僕は嫌ですお」
ξ^?^)ξ「察しがいいわねえー。ありがと内藤君!」
( ^ω^)「話聞けお」
ツンが勢いよく何かを差し出した。
咄嗟に受け取ってしまったそれを眼前に持ち上げる。
高校の生徒手帳と、薄手の青いハンカチ。
【( ゚д゚ )】
生徒手帳を引っくり返す。
こちらを睨むような目付きではあるが、そこそこ整った顔の少年の写真が貼ってある。
その横に「河内ミルナ」の名前とクラス、生年月日、住所等が記されていた。
- 890 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:48:37 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「これがミルナさんですかお」
ξ゚?゚)ξ「昨日、ペニサスさんに頼み込んでカラオケに連れ出してもらってね……。
少しだけでも事件の話を聞きたかったんだけど、私に対して、すごく非協力的だったの。
それでペニサスさんが怒って部屋を飛び出したのは──内藤君も見たところね」
ξ゚?゚)ξ「とにかく、ミルナ君は幽霊のことは信じてるみたいだけど、
別に解決しなくていいっていうスタンスなわけ。
……本人はそう言っても、こっちとしてはそうも行かないわよね」
だから奥の手を使うことにしたわ、とツン。
( ^ω^)「奥の手?」
ξ゚?゚)ξ「この生徒手帳は、さっきペニサスさんにこっそり持ってこさせたもの。
ハンカチは私が昨日ミルナ君のポケットから抜き取ったもの。
素敵よね、ちゃんとハンカチ持ち歩く男の子って。清潔で」
( ^ω^)「しっかり泥棒してるじゃないですかお。
というか、こんなもん何に使──」
ツンが内藤に顔を近付ける。
それだけで言葉を噤んでしまう程ぎくりとする自分が情けない。
しばらくそのままの状態で固まった。
やがてツンが内藤のハンカチを口に当て、ふふ、と笑った。
- 891 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:50:21 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚ー゚)ξ「ハンカチを持ち歩く素敵な内藤君にお願いがあるの。
バイト代はさっきのファミレス代。ね?」
( ^ω^)「……面倒なのは嫌ですお」
ξ゚ー゚)ξ「大丈夫。君の『特技』だから呼吸するより楽よ」
*****
- 892 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:52:01 ID:hbcbtFpAO
-
(*^ω^)「ありがとうございますお! 生き返った気分ですお」
内藤はにこにこ笑いながら、溌剌とした声で礼を言った。
暑いですおねー、と明るく言って、オレンジジュースを一口飲む。
(*´ω`)「美味しい……」
顔を緩ませると、向かいに座っている男──ミルナの父親が笑った。
( ゚∋゚)「そうか。もう具合は大丈夫か?」
(*^ω^)「はい、お陰様で!」
父親は微笑みながらテーブルの上の菓子折りを持ち上げた。
彼がそれを眺めている内に、内藤はこっそりと室内を見渡した。
ごくごく普通のリビング。
男の2人暮らしだからか、はたまた彼らの好みか、物はそれほど多くない。
それからテーブルに目を落とす。
そこに置かれた生徒手帳とハンカチを見ていると、せっかく作った笑顔が崩れそうな心持ちになった。
- 893 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:53:16 ID:hbcbtFpAO
-
──「数日前、街中で転んで膝を擦りむいたところにミルナが通りかかり、
ハンカチが汚れるのも構わず手当てをしてくれて、すぐに立ち去っていかれたが、
そのときに彼が落としたであろう生徒手帳を見付けたので、お礼を言うために手帳を頼りにやって来たものの
この暑さにやられて倒れかけた少年(とてもいい子)」。
ツンが内藤に与えた設定である。
見事に騙されてくれた父親は内藤を家に運び、
冷たい飲み物まで出してくれた。
この父親を間抜けだと思うなかれ。
内藤の演技力が異常なのだ。
- 894 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:54:58 ID:hbcbtFpAO
-
( ゚∋゚)「しかし何だか申し訳ないな。
ハンカチくらいのために、こんなものまで」
(;^ω^)「あっ……でも、大したものじゃないんですお! 僕のお小遣いで買ったやつだし……」
菓子折りもわざわざツンが用意したものだった。
値段など知らないが、とりあえず恐縮する演技をしておいた。
半透明なプラスチックのコップを取り、オレンジジュースを飲みながら
目線だけをきょろきょろ動かす。
壁際の棚に、写真が飾ってあるのを発見した。
( ^ω^)「それで──ミルナさんは」
( ゚∋゚)「……ああ。あいつには俺から伝えておく」
( ^ω^)「そんなの駄目ですお! 直接会ってお礼を言わないと!」
父親は困ったような顔をして口ごもった。
──ミルナが不在というわけではないのだ。
内藤はあからさまに落ち込んだ様子で、コップに両手を添えた。
- 895 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:57:04 ID:hbcbtFpAO
-
( ´ω`)「……ごめんなさいお。
ちゃんとお礼しないと気が済まなくて……
僕のわがままでしたおね」
(;゚∋゚)「いや、……いや、すまない。
あいつは俺を嫌っているから、俺に呼ばれて素直に部屋から出るかどうか……」
嫌われているとは初耳だ。
父親は気まずそうに内藤を見た。
それでいい。
「別の話題に変えたい」と少しでも思わせられれば。
( ^ω^)「……そういえば──」
ツンから聞き出せと言われていた話題を思い起こし、
それに漕ぎ着けるための最初の一手を口にした。
*****
- 896 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:58:23 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「──そろそろ、帰りますお。
長居してごめんなさい」
( ゚∋゚)「……ん、ああ、こっちこそ悪かった。長々と。
1人で帰れるか? また倒れたりするなよ」
(*^ω^)「もう平気ですお。ジュースご馳走様でした。
話も聞けて良かったですお!」
内藤は壁掛け時計を見遣り、腰を上げた。
父親がテーブルの上、開かれた数冊のアルバムを寄せる。
( ^ω^)「っと……その前に、トイレ貸してもらってもいいですかお?」
( ゚∋゚)「トイレなら、廊下を進んで左側のドアだ」
( ^ω^)「ありがとうございますお!」
- 897 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 18:59:34 ID:hbcbtFpAO
-
言われた通りにリビングから出て、廊下を進む。
左側のドア。
その前を素通りした。
('、`*川『一番奥、ミルナの部屋の方に回って、窓から声かけようと思ったんだ』
一番奥にあるドアの前に立つ。
大きな音は立てないよう、力を込めずにノックした。
二度。三度。
ドアの向こうで物音。出てこない。ノックを繰り返す。
少しして、ドアが内側に向けて細く開いた。
ノブを掴み、強く押す。うわ、という軽い悲鳴と、倒れ込む音がした。
部屋の中を覗き込む。
座り込んでいる少年──河内ミルナと、目が合った。
- 898 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:00:37 ID:hbcbtFpAO
-
(;^ω^)「ああっ、ごめんなさいお! トイレと勘違いして……!」
(;゚д゚ )「は……だ、誰だ、君……」
(*^ω^)「あ、ミルナさん! お久しぶりですお! 以前助けていただいた内藤ですお」
(;゚д゚ )「はあ?」
生徒手帳で見た写真より、顔色が悪い。
室内へ視線を移した。
息を呑む。
お札らしきものが、あちこちにべたべた貼られていた。
部屋の中から、不快な冷たい空気が漏れてくる。エアコンとは違う。
カーテンがきっちりと閉められ、昼なのに薄暗い。
目を凝らす。
内藤の真横の壁をよじ上る、親指程度のサイズの黒い人影。
部屋の隅にはおぼろげな子供。
天井にへばりつく泥のような何か。
他にもたくさんの霊や化け物が部屋中にいた。
それらが特に集中している場所を見比べてみると、
どうやら何枚も貼られた護符が原因のようだった。
- 899 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:02:31 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「失礼しますお」
(;゚д゚ )「ちょ──」
部屋に上がり込み、護符を剥がしていった。
椅子を踏み台にして、高い位置に貼られたものもしっかり剥がす。
ドアの横に貼られた一枚だけは残した。
不思議と、ミルナは止めようとしない。
( ^ω^)(……あ)
途中、ベッドのヘッドボードに焼け焦げた跡を見付けた。
数本、指ほどの細さの跡が並んでいる。
燃える手で掴んだような。
やはりミルナも被害者の1人なのだ。
ベッドを離れ、カーテンと窓を開ける。
室内が明るくなり、暑気が入り込んだ。
化け物たちが逃げるように消えていく。
内藤は眩しげに顔を顰めるミルナの横を過ぎ、廊下へ出た。
- 900 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:03:54 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「換気、小まめにやるといいらしいですお」
(;゚д゚ )「か、換気?」
ドアを閉め、折り畳んだ護符の束をポケットに突っ込む。
そして内藤は首を傾げた。
──ミルナの左腕、肘の上辺り。
そこが変色しているのが、一瞬見えた。
あまり大きくないが小さくもない。
痣だろうか。火傷の痕?
「被害者」の身の回りに焦げ跡があるとは聞いていた。
しかし被害者自身にまで残されるのだろうか。
事件とは無関係かもしれないし、そもそも見間違いかもしれない。
内藤は一度ドアを見てから、リビングへ戻っていった。
- 901 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:05:04 ID:hbcbtFpAO
-
リビングに顔を出す。
アルバムを片付けていた父親が内藤に気付き、腰を上げた。
(*^ω^)「助かりましたお。
……それじゃ、ミルナさんによろしく伝えておいてください」
( ゚∋゚)「ああ。帰り道は分かるか?」
(*^ω^)「はいお」
そうして玄関まで見送られ、内藤は河内家を後にしたのであった。
.
- 902 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:06:13 ID:hbcbtFpAO
-
公園に着くと、ツンに迎えられた。
ペニサスはいない。
ξ*゚?゚)ξ「おかえりー」
( ^ω^)「ペニサスさんは?」
ξ*゚?゚)ξ「この暑い中、ずっと引き留めとくのも悪いから一旦帰らせたわ。
で? 収穫は?」
( ^ω^)「ツンさんが求めてるものが何なのか、具体的には知らされてなかったので
僕が得た情報がツンさんにとって有意義かは分からないですけど」
とりあえず、手に入れたネタをツンに披露する。
ツンは内藤のハンカチを首に当てつつ、真剣に話を聞いていた。
ξ゚?゚)ξ「……満足ってわけでもないけど、不足でもないわ。
すごいわよ内藤君」
そう言う割に、声はどこか暗い。
相も変わらず彼女の考えは内藤に知らされない。
それに対して不満はある。口にしたところで、教えてはもらえないだろうが。
- 903 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:08:58 ID:hbcbtFpAO
-
( ^ω^)「ミルナさんの腕、火傷みたいなのありましたお。
あれは事件に何か関係あるんですかお?」
ξ゚?゚)ξ「まあ。……うん。別に」
何だそれは。
ぐりぐり、頭を乱暴に撫でられる。誤魔化された気がしてならない。
その手を振り払い、内藤はツンから一歩離れた。
ξ゚З゚)ξ「つれないのね。
……お札はあったの?」
( ^ω^)「ありましたお。言われた通り、剥がしてきました。
何でかミルナさんが無抵抗でしたけど」
ポケットからお札を取り出し、ツンに渡す。
ツンはそれを一枚ずつ眺めながら、呆れたように溜め息をついた。
- 904 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:12:05 ID:hbcbtFpAO
-
ξ゚?゚)ξ「あらら、こんなに……。
作った神社もばらばら。どんな風に貼られてた? 無作為?
あーあー、これなんか方角も決められてるのに……」
( ^ω^)「僕には何が何やら。……それじゃ、僕はこれで」
ξ^?^)ξ「ん。そうね。一旦さようなら。
あとは保険も兼ねて、内藤君が今夜の裁判に来てくれたら完璧ね」
冗談ではない。
断ろうとした内藤だったが──
どうせ無駄であろうことは分かっていた。
ここまで来たら、最後まで付き合ってやるパターンだ。
*****
- 905 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:19:20 ID:hbcbtFpAO
-
そうして迎えた午後8時。
とある廃ビル。
(*゚ー゚)「……検察側、準備完了しております」
ξ゚?゚)ξ「弁護側もオッケーです」
検察席の猫田しぃに、埴谷ギコ。相変わらずの2人組。
一方の弁護席には、張り切って拳を前後に出したり引っ込めたりするツンと棒立ちの内藤。
やはり──何というか、しっくりくる。前回は検察席に立った内藤だが、こちらの方が馴染む。
( ^ω^)(……いや、馴染んじゃ駄目だろう)
(,,゚Д゚)「今回もブーンちゃん参加するのねえ。もう常連さんね」
(*゚ー゚)「弁護席っていうところが哀れだけどね」
しぃはいつも通りだ。
この間のアサピーの審理。最後の頃には随分と冠を曲げていたようだったが。
- 906 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:20:55 ID:hbcbtFpAO
-
【+ 】ゞ゚)「それでは開廷と行くか。証人も大丈夫だな?」
川 ゚ 々゚)「だいじょぶだなー」
ぴったりと寄り添うオサムとくるうが、こちらを一瞥する。
内藤の腕に掴まる証人──ペニサスの手が、小さく震えた。
('、`;川「……う、うん……」
恐怖からだろう、視線は机に落とされている。
昼間とは服装が違うが、系統は同じだ。
せめて制服でも着させてくれば、真面目な印象を与えられたかもしれないのに。
('、`;川「……お、おばけ、なんだよな……」
( ^ω^)「じきに慣れますお」
適当に励まし、内藤はペニサスから被告人へと目を移した。
- 907 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:23:30 ID:hbcbtFpAO
-
川;д川「……」
被告人。内藤はまだ名前を聞いていない。
彼女もまた怯えているのか、すっかり縮こまってしまっている。
腰まで覆う黒髪。
ペニサスより長く、質も引けを取らない。時折くるうが羨ましげに眺めていた。
服装は白い半袖のブラウスに、ロングスカート。
胸の膨らみは、ツンとは雲泥の差。
顔の大体は長髪に隠されていたが、顕になっている口元からは若さを感じられた。
( ^ω^)(『長い黒髪』『豊満な乳房』『白い肌』……)
昼間、ツンがファイルを見ながら言っていたのと一致している。
「濡れた声」やテクニックとやらは、どうだか分からない。
とにかく容疑が掛かったのも納得はいく。
果たして彼女は本当に犯人なのだろうか。
ツンは教えてくれない。
( ^ω^)(……まあ、審理が進めば分かるか)
ツンの思い通りに事が運べば、であるが。
- 908 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:24:47 ID:hbcbtFpAO
-
【+ 】ゞ゚)「それでは、開廷」
木槌の音に、ペニサスと被告人がびくりと肩を跳ねさせた。
被告人は右頬へ手を当て、目元──前髪で隠れているが、恐らくその辺だろう──を薬指で撫でた。
【+ 】ゞ゚)「まずは被告人、名前と──」
('、`;川「……ひこくにんって何?」
オサムの声が途切れる。
ペニサスはきょとんとして、オサムやツンを順繰りに見ていった。
(*゚ー゚)「……ツンさん。必要最低限の知識すら与えずに連れてきましたか」
ξ;゚?゚)ξ「べっ、別に単語の意味知ってるか知らないかなんて証言には関係ないでしょ!」
- 909 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:26:18 ID:hbcbtFpAO
-
(,,゚Д゚)「被告人は、逮捕されて、訴えられた人のことよ。
簡単に言えばね」
('、`*川「え……。じゃあ、この人、犯人ってこと?」
それすら分かっていないのか。
しぃが顰めっ面で呟いた。ペニサスが申し訳なさそうに眉尻を下げる。
対照的にギコは微笑みを浮かべて、優しく説明を続けた。
(,,゚Д゚)「その疑いをかけられてるところよ。
本人は否認──やってないって言い張ってるから、これから裁判で真実を明らかにしていくわけ。
あたし達は被告人を犯人だと思ってる側、あなた達はそれに反対してる側」
知能の程を察したのか、まるで子供に言い聞かせるようだった。
それでいくらか安堵したようで、へえ、とペニサスが気の抜けた声で返した。
(,,゚Д゚)「分かった?」
('、`*川「うん」
良かった良かった、そう言いながらギコが笑みを深める。
どことなく和やかな雰囲気が漂う。
しぃは腕を組み、白けた様子で口を歪めた。
- 910 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:26:59 ID:hbcbtFpAO
-
それから一瞬の間の後。
オサムが仕切り直すよりも早く、ペニサスは被告人を指差し、言った。
('、`*川「なら、このひと犯人じゃないよ。私が見たのと全然違う人だもん」
川;д川「……へ」
.
- 911 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:28:22 ID:hbcbtFpAO
-
唐突だ。あまりにも。
誰もすぐに反応しないのを不審に思ったか、ペニサスはもう一度繰り返した。
そこでようやくギコが苦笑する。
(,,゚Д゚)「それは後で証言してもらうから──」
(*゚−゚)「監視官」
川 ゚ 々゚)「んぇ?」
(*゚−゚)「においは?」
川 ゚ 々゚)「におい……あ、今の?」
くるうが匂いを嗅ぐ仕草をしてみせる。
不快に感じた様子は微塵もなく、彼女は小さく微笑んだ。
川 ゚ 々゚)「くさくないよ。むしろ、あの子いい匂いがする」
ペニサスは嘘をついていない。
しぃの顔色が変わった。
そんなわけないだろう、と怒鳴り、その声にくるうが怯え、くるうを庇ってオサムがしぃを睨む。
- 912 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:29:36 ID:hbcbtFpAO
-
(;,゚Д゚)「怒らないの! まだ詳しく聞いてもいないんだから」
('、`;川「わ、私、何か悪いことした?」
(#゚ー゚)「した!」
(;,゚Д゚)「してないしてない。
でもね、えっと、ペニサスちゃん? よね? ペニサスちゃん、裁判には順番があってね、」
【+ 】ゞ゚)「この証言だけで終わらせられるなら俺としては非常に楽だぞ」
(#゚ー゚)「証言の信憑性に欠ける!!」
('、`;川「ど、どーしよ、内藤、あの人すげー怒っちゃった……」
( ^ω^)「あの検事さんは怒るのが仕事みたいなとこありますんで、お気になさらず」
まさか本当にこれだけで終わらせるわけはないだろうが──
少なくとも、オサムの心証には変化があった筈だ。
思ったより早く終わるのではないか。
内藤はツンに顔を向けて、
- 913 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:30:38 ID:hbcbtFpAO
-
ξ;゚ v゚)ξ
悟った。
早速、彼女の思惑から大きく外れてしまったことを。
case5:続く
- 914 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:35:29 ID:8BaWKEdwO
- 相変わらず面白いな、乙ん!
- 915 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:36:11 ID:RCtsnGp6O
- 乙
- 916 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:42:14 ID:hbcbtFpAO
- 今回は以上です
長くて3つに分けたので、次回は後編じゃなく中編になります
読んでくださった方、まとめてくれてるRomanさん、いつもありがとうございます
case2/前編 >>149 後編 >>286
case3 >>409
case4 >>602
case5/前編 >>829
>>826にも書きましたが、もしおすすめのホラー映画とかそういうのあったら是非教えてください
あるいは、ホラー短編あるいは長編を書いてブーン系をホラーで満たしてください夏だからほら夏だからホラー増えろ
百物語早く来い
- 917 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 19:45:41 ID:/IgnHKBw0
- おつ
相変わらずwktkさせてくれる
- 918 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 20:10:25 ID:FGAX5IL20
- 乙!
- 919 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 20:29:42 ID:wTYqTrYA0
- 乙です
続き楽しみにしてる!
- 920 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 21:26:58 ID:EPrzznuw0
- 来てた!
乙乙
- 921 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 21:43:01 ID:ogn0Z4w60
- くっそ面白いー
続き楽しみだー
- 922 :名も無きAAのようです:2013/08/03(土) 22:52:00 ID:3BYyiQZ20
- いいねー続き楽しみなんだぜー
- 923 :名も無きAAのようです:2013/08/04(日) 01:52:48 ID:o4Kc1Mew0
- あふーんいいところで終わりやがるぜ
次回を楽しみにしてるからな!
- 924 :名も無きAAのようです:2013/08/04(日) 02:16:56 ID:KDK7D4lYO
- おすすめのホラーでゾンゲリアを……。ちょっと毛色の変わったゾンビ映画で、怖さほどほど切なさありーな感じ。
さて読むぜ!
- 925 :名も無きAAのようです:2013/08/04(日) 02:50:25 ID:KDK7D4lYO
- 読んだー!
相変わらずつるつる読める文章で一気に読んだ
裏表ある内藤のキャラ、好きだなー。クックルに対しての演技すごすぎて笑った
展開予想付かなくて次回が楽しみ
ξ;゚ v゚)ξのツンの顔好き
乙です!
- 926 :名も無きAAのようです:2013/08/04(日) 07:16:19 ID:.hYmbWAMO
- 来てたのか、今から読む
先に乙乙
- 927 :名も無きAAのようです:2013/08/04(日) 07:57:33 ID:052.EyugO
- 乙!
毎度毎度窮地に陥るのはツンが悪いのか証人被告人が悪いのかww
ホラー映画なんて有名どころ以外は死霊の盆踊りくらいしか知らないや
- 928 :名も無きAAのようです:2013/08/04(日) 11:36:26 ID:qEkcUldMO
- >>924
ゾンゲリア! ありがとうございます!
探しに行ってくる
>>927
あれはwwwww
本編の9割方を裸の女が踊るシーンが占めるというのはたしかにホラー
真夜中の設定なのにカメラが引いたら昼間だったり役者ががっつりカンペ読んでたりしててある意味面白いですねほんとある意味
- 929 :名も無きAAのようです:2013/08/04(日) 22:40:41 ID:vQttyPy60
- 海外ドラマだけど、こないだ観たウォーキングオブザデッドは結構楽しかった
ホラー小説は屍鬼が一番好き
あとは古くてメジャーなのしか知らないっす
シャイニングとか……
- 930 :名も無きAAのようです:2013/08/04(日) 23:11:26 ID:D8m1pU5AO
- タイトル忘れたけど黒木瞳が最後に貯水槽に入っていくやつ
海外のやつならキャリーのラストは戦慄だった、いまだにこれを超えるのはない
- 931 :名も無きAAのようです:2013/08/04(日) 23:25:28 ID:ejWqwUYs0
- 灰暗い水のここからだっけ?
- 932 :930:2013/08/04(日) 23:47:54 ID:D8m1pU5AO
- >>931
サンクス、たしかそんなタイトルだった
- 933 :名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 00:02:13 ID:MUvCaZKI0
- 仄暗い水の底から
- 934 :名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 06:44:01 ID:SXxHlgpA0
- 仄暗い水の底からなら、原作がお薦めです
霊も化け物も出て来ないのにとても怖い
- 935 :名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 17:47:04 ID:UTCD4NkQO
- 色々おすすめしていただきありがとうございますマジで
ウォーキングオブザデッドは時間が取れたときに一気に観てみます
キャリーも有名作品なのに観たことなかった。豚の血しか知らない。よし借りてくる
>>930-934
すごく好きです
初めて観たのが確か小学生のときだったんで、それはもう思わず顔を背けるぐらい怖かったけど、
それ以上に「親が目の前で他所の子の親になる」ってのが、子供の視点ではあまりに悲しくて夜寝られなかった思い出
今では見方が変わって登場人物達に苛々できる。風呂場と貯水槽のシーン未だにビビる
原作の短編だとだいぶ違いますね
不気味さで言えば映画より原作の方がどろっとしていると思う
母親何か歪んでる
- 936 :名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 18:10:01 ID:UTCD4NkQO
- しまったがっつりネタバレしてしまってた
仄暗い水の底から観る予定のあった人いたらごめんなさい本当ごめんなさい
>>924の『ゾンゲリア』早速観ました
ゾンビ物としてはたしかに異色でした。邦題で損している。何だゾンゲリアて。
ゾンビがぐちゃぐちゃしてない。人間はフルボッコされる
「ホラーというよりサスペンスミステリー」という感想をどこかのブログで見かけたけど、本当そんな感じ
眼球に注射器ブスーッと顔面に酸ブシューッのシーンが恐い嫌こわい
ブーン系も幽霊裁判も関係ない感想レスですみません。面白かったです
ホラー観るとモチベーション上がって書き溜め推敲捗る
5話目中編は残りレス数に収まるか怪しいので、投下するときに新しくスレ立てます
投下は近々
- 937 :名も無きAAのようです:2013/08/07(水) 06:26:22 ID:9E4xtnmAO
- ゾンゲリアを勧めたものだけど観てもらって感想まで書いてもらって嬉しい
ゾンビ映画は変な邦題付けられる宿命なのかね…
自分も眼球に注射ぶっさしがひいってなった
続き楽しみにしてますよー
- 938 :名も無きAAのようです:2013/08/08(木) 04:11:11 ID:BXPGb1/sO
- 新しくスレ立てました。投下しました
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1375892848/
このスレは適当に短い話か何か書いて埋める予定です
- 939 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:10:12 ID:3WILUf/2O
- スレ埋めてからログ送り依頼したいけど、
残りレス数が半端に多くて、どう埋めたものか
とりあえず漫画もどきを何枚か
一度別の場所に上げたものがほとんどです
※Romanさんへお願い
ただのスレ埋めなんで、まとめないでいただけるとありがたいです
- 940 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:11:20 ID:3WILUf/2O
- ( ^ω^)(´<_` )∬´_ゝ`)(,,゚Д゚)
http://imepic.jp/20130912/690840
- 941 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:12:01 ID:3WILUf/2O
- (´<_` )l从・∀・ノ!リ人
http://imepic.jp/20130912/691090
- 942 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:12:55 ID:3WILUf/2O
- ( ´_ゝ`)(´<_` )l从・∀・ノ!リ人
http://imepic.jp/20130912/691440
- 943 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:13:48 ID:3WILUf/2O
- ( ´_ゝ`)( ^ω^)∬´_ゝ`)
http://imepic.jp/20130912/691750
- 944 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:14:35 ID:3WILUf/2O
- ( ^ω^)ξ゚?゚)ξ
http://imepic.jp/20130912/692120
- 945 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:15:33 ID:3WILUf/2O
- ξ゚?゚)ξ(*゚ー゚)
http://imepic.jp/20130912/821860
- 946 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:16:22 ID:3WILUf/2O
- ξ゚?゚)ξ(,,゚Д゚)
http://imepic.jp/20130912/821690
- 947 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:20:12 ID:3WILUf/2O
- 以上です
前回投下から間があいてしまったけれど、五話後編は明日か明後日に投下します
長いです
たぶんVIPでの投下になると思います
- 948 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:29:49 ID:3WILUf/2O
- あ、>>930の『キャリー』観ました。もう半月前だけど
こいつら死なねえかな……酷い目に遭わないかな……と思ってた奴らが大体その通りに
そして家が舞台の終盤に見入って、終わりの終わり、手のシーンでびくってなった
観て良かった、面白かったです。勧めてくれてありがとうございました
血のシーンって前半にあるのかと思い込んでたけど、だいぶ後半の方だった
- 949 :名も無きAAのようです:2013/09/12(木) 23:44:51 ID:YvK8cI3g0
- 乙です
絵もうまいし話も面白いしほんと流石です
- 950 :名も無きAAのようです:2013/09/13(金) 02:56:51 ID:NVioHyGQO
- やったー!見られた
まとめに載らないとなるとタイミング外したら見られないし見られてラッキー
姉者さん素敵だ
ツンとギコの組み合わせは和むなあ
笑った
- 951 :名も無きAAのようです:2013/09/13(金) 08:52:00 ID:261dQ8k20
- まとめられないとか即刻保存した
- 952 :名も無きAAのようです:2013/09/13(金) 17:54:49 ID:BnSKwCQ.O
- とりあえず今からVIPで投下します
投下しきれなかったら多分こっちでやり直します
- 953 :名も無きAAのようです:2013/09/13(金) 21:02:39 ID:b7toC5Cs0
- もうね最高です!!
- 954 :名も無きAAのようです:2013/09/13(金) 23:33:52 ID:ic4LSweM0
- うんわぁ…見れなかった…乙…
- 955 :名も無きAAのようです:2013/09/13(金) 23:49:33 ID:G7qe78YQ0
- おもしろかったよ!!
乙でした!
- 956 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 00:52:16 ID:2grDMmxg0
- 支援してたが最後の最後だけ読めなかったぜ
- 957 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 03:40:29 ID:wNGjLwTM0
- なんでこっちで投下しないわけ?
- 958 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 06:14:05 ID:wWXZi7.M0
- こっちは読者様の民度が低い上に人数も少ないから旨味が足りないんだろう
ブーンはやっぱりVIPのものなんだよ 納得しなさい
- 959 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 07:09:42 ID:GHLLPck.0
- ログ速で見てくる。
- 960 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 08:18:33 ID:HuLVi7QUO
- 読んできた!
今回も面白かったです!
- 961 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 09:24:26 ID:GHLLPck.0
- 面白かったけど…貞子…
- 962 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 10:27:33 ID:FXqTq/zEO
- >>957
単純に、VIPで投下したい気分だったからです
- 963 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 10:28:49 ID:FXqTq/zEO
- ツン誕生日なので、スレ埋めも兼ねて
ξ゚?゚)ξ【+ 】ゞ゚)川 ゚ 々゚)
http://imepic.jp/20130914/373950
- 964 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 10:29:01 ID:zo2mIaekO
- 読んできた
感想語りたいけどこれから読む人の為にネタバレしたくないジレンマ
物語が二転三転して面白かった!
ペニサスミルナいいキャラだし今後が気になるのでまた出番あるといいな
あとどうでもいいところかもしれないけど映写機にワクワクソワソワするオサムが可愛かった
- 965 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 10:29:34 ID:FXqTq/zEO
-
ξ゚?゚)ξ(,,゚Д゚)(*゚ー゚)
http://imepic.jp/20130914/374110
- 966 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 10:30:13 ID:FXqTq/zEO
-
ξ゚?゚)ξ( ^ω^)
http://imepic.jp/20130914/374260
- 967 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 10:31:47 ID:zo2mIaekO
- >>963
あのくるうが黙っちゃうとはツンさんぱねえ…
ツンの表情が何とも言えないwwww
- 968 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 10:32:38 ID:FXqTq/zEO
- おっふ、感想レスと被ってた、すいませんそしてありがとうございます
誕生日ネタは以上です
ツンおめでとう
- 969 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 10:39:16 ID:zo2mIaekO
- うおお投下途中にレス挟んじゃってごめんなさい
二個目の漫画にほっこりして3個目の漫画に笑った
乙です
そしてツン誕生日おめでとう
しぃぺろぺろしたい
上げて落とす内藤くんマジドS
- 970 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 10:43:43 ID:FXqTq/zEO
- あ、Romanさん、この誕生日ネタもまとめ無しでお願いします
- 971 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 11:12:27 ID:HuLVi7QUO
- 乙です!保存した!!
不器用なしぃ可愛い
- 972 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 12:59:32 ID:7R6kkpMI0
- 敵に恵まれて味方に恵まれないツンさんじゅうごさい
- 973 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 13:28:06 ID:HocYe6iA0
- 女の子は多少性格破綻してるほうが可愛い
- 974 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 13:44:50 ID:TndnJTlo0
- しぃかわいい…
ツンさんじゅうごさいがツボった
- 975 :名も無きAAのようです:2013/09/14(土) 20:26:45 ID:L08Qj2E20
- 最新話はおねショタ好き歓喜だったね(ニッコリ
- 976 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:43:22 ID:PcertRlgO
- >>929
遅ればせながら、ウォーキングデッド観ました。まだ一巻だけですが
すっっげえ面白かった。もっと早く観ときゃ良かった
しっとりした気分になるシーンもはらはらするシーンもあって楽しい
アトランタに入ってからの展開どきどきした。それ以前のところも、何だか静かな感じで雰囲気が最高にいい
しかし主人公の嫁と友人がいい感じになってて今後の主人公を思うと胃が痛い
早く続き見よう。勧めてくれてありがとうございました!
- 977 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:44:22 ID:PcertRlgO
- スレ埋め投下
正直、残りレス数に収まるか不安
まとめ無しでお願いします
- 978 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:45:07 ID:PcertRlgO
-
番外編:民事
リハ*;ー;リ「セクハラで訴えてやるぅううう!!」
ξ;-?-)ξ「……」
叫ぶ少女に、出連ツンは頭を押さえた。
相手の肩を叩き、「落ち着いて」と一言。
リハ*;ー;リ「落ち着いていられますか! 私は汚されました! もうお嫁に行けない!」
(-@∀@)「式神はお嫁サンに行くもんじゃないデスよ?」
ξ;゚?-)ξ「アサピー、あんた、また変な子を連れてきてくれたもんね……」
(-@∀@)「堂々とセンセイに会いに行くための口実作るのには必死なんですよ、僕」
ツンは、少女の隣、足を組んで座っている白衣の男──アサピーを睨んだ。
相も変わらず白衣の下に黒いタートルネックを着込み、下半身には細身のジーンズ。
左足に乗せた右足の先で、革のブーツを揺らしている。
──ここはツンの家である。
平屋の小ぢんまりとした一軒家。持ち家ではなく借家だ。
家賃は格安。霊が住み着いたために曰く付きとなっていた家であった。(引っ越した初日に霊は追い出した)
一番広い部屋に応接セットや机、資料用の棚を置き、「出連おばけ法事務所」としていた。
事務所のお客様は大抵おばけなので、出入りは窓からお願いしている。
勿論、ツンの許可無しでは出入り不可能なように結界は張ってあるので防犯面は充分。
まあ、おばけ法に精通した人間の家に不法侵入するような輩もなかなかいないが。
ソファの背もたれから背中を離し、ツンは少女の名を呼んだ。
- 979 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:45:38 ID:PcertRlgO
-
ξ;゚?゚)ξ「ええっと……清水……さん?」
リハ*;ー;リ「アイシスと呼んでください……」
ξ;゚?゚)ξ「アイシスさん。私、まだ話がよく見えないんだけど」
清水アイシス。
一時間ほど前に、「法律相談したい人がいる」とアサピーが連れてきた少女だ。
ダークブラウンのシャツに同色のロングスカート。
髪、首、両手首、両足首にそれぞれ赤いリボンを結んでいる。
アサピーの呪術師仲間が使役している式神だそうで──
どうも、その呪術師と何かあったそうなのだが、
アイシスは泣き喚くばかりで、一向に具体的な話をしてくれない。
セクハラセクハラと繰り返しているので、そのことに関する相談なのだろうけども。
相談内容に絡んだ「記憶」の一つでも見えやしないかと意識を集中させてはいるのだが、
やはりそこは式神、普通の霊とは違って僅かな隙すら覗かせない。
ξ;゚?゚)ξ「話してくれないことには、私も手の出しようがないわ。
ゆっくりでいいから、何があったのか、初めから説明してくれない?」
リハ*;ー;リ「……は、はい……」
おばけ法は、おばけのための法律。
人間の法と同じく、「刑事裁判」があれば「民事裁判」もある。
アイシスが自分の主人を訴えたいというのなら、今回は民事の方だ。
ツンが出したお茶を一気に飲み干して涙を拭い、アイシスは訥々と語った。
- 980 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:46:13 ID:PcertRlgO
-
リハ*゚ー゚リ「私の御主人様は……それはそれは高名な呪術師でございます。
私を生み出してくれたのも御主人様。……そこは感謝しています」
ξ゚?゚)ξ「御主人様って?」
(-@∀@)「荒巻御大。人間ですが、半分妖怪なンじゃないかと噂されるほど凄い方でしてネェ。
僕ら呪術師に、荒巻御大を知らない奴ァいませんよ」
ξ゚?゚)ξ「高名な呪術師、ね」
(-@∀@)「おばけ法が制定されてからは目立たないようにしているみたいですが、
それ以前は……マァ、それはそれは大暴れ──もとい、大活躍されていたモンですな」
リハ;゚ー゚リ「あ──御主人様は、何の罪もない人を呪うようなことはしません!
いわば呪いの『代行』と言いますか……依頼を受けて、極悪非道な行いで恨みを買った者のみを呪うんです」
(-@∀@)「『今は』、ね。昔はえげつないこともやりたい放題でしたが」
ξ゚?゚)ξ「捕まらないもんなの?」
(-@∀@)「あの方は証拠残すような間抜けじゃーありませんよう」
ξ゚?゚)ξ「そりゃまた恐いわね。──それで、その御主人様はあなたに何を?」
リハ*゚ー゚リ「……いつも、私に触れてくるんです」
ξ゚?゚)ξ「触れる? どんな風に……ああ、言いづらいでしょうけど、聞かないことにはどうしようも……。
アサピー、あんた出ていきなさい。そしてそのまま二度と私の前に現れないで」
(-@∀@)「センセイのお願いはなるべく聞いてあげたいンですけど、一番最後のはちょっと……」
リハ*゚ー゚リ「いいんです、先生と2人きりだと、逆に緊張してしまいそうですから……」
アサピーは、そうでしょうそうでしょうと頷き、殊更深く座り直した。
この男、何か理由をつけてはツンのところに来て長居する。鬱陶しいったらない。
- 981 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:46:43 ID:PcertRlgO
-
リハ*゚ー゚リ「……御主人様は……いつも、私の身体中を撫でて……」
ξ゚?゚)ξ「撫でて?」
リハ*゚ー゚リ「そして──い、入れてくるんです……」
ξ゚?゚)ξ「……」
ξ゚?゚)ξ「何を?」
アイシスの顔が真っ赤になる。
ツンも子供ではないので、全く意味が分からないこともないが、流すわけにもいかない。
リハ;*゚ー゚リ「な、何って……ご、御主人様の……その……あの……」
ξ゚?゚)ξ「えーっと……棒状の」
(-@∀@)「センセイ、なんだか逆に下品です」
アイシスは頷き、目を潤ませた。
俯いて、涙声で訴える。
リハ;* ー リ「私が……やめてくださいって言っても、
御主人様は──『このためにお前を作ったんだ』と仰って、いつも、無理矢理……」
ξ;゚?゚)ξ「あの……そこまでいったら、セクハラどころじゃないわよ?」
リハ;゚ー゚リ「いっ、いえ、私、御主人様が逮捕されるのは嫌です!
ただ──せ、責任を、とってほしくて……!」
ξ;゚?゚)ξ「あなたが式神で、主人に逆らえないのをいいことに手を出してくるんでしょう?
合意でもなしに。駄目よ、そんなの」
- 982 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:47:43 ID:PcertRlgO
-
リハ*;ー;リ「……そうですよ! あの方は勝手です!! 許せません! 訴えてやる!!」
ξ;゚?゚)ξ「そこまで怒ってるなら……幽霊裁判は人間も刑事訴訟の対象になり得るし、何なら今から通報──」
リハ*;ー;リ「! や、やめてください! 私は本当に、御主人様に反省していただいて、責任をとってもらえれば、それで……」
ξ;゚?゚)ξ「……責任をとるって、どうやって?」
リハ*;ー;リ「私を……大切に扱ってくだされば嬉しいです」
式神ゆえか、あるいは別の理由か。
荒巻とかいう呪術師への忠義は健在のようだ。
納得いかないながらもツンは腕を組み、今後の予定を立てていった。
民事訴訟となると、まずツンがオサムに話を通さねばならない。
しかし──
ξ゚?゚)ξ「……今の段階では、まだまだ準備が整っていないわ。
今すぐに訴訟、とはいかない」
リハ;゚ー゚リ「え……」
ξ゚?゚)ξ「民事裁判は通常、何度か行うものだけど──
あなたの場合は一日でけりをつけなければならないわ」
原告──訴える側となるアイシスは式神で、訴えられる側、被告の荒巻はアイシスの主人だ。
式神が自分を訴えたということが分かれば、当然荒巻は何かしらの仕置きをアイシスに下すであろう。
最悪の場合は、「主人に歯向かった」という理由で──アイシスが消されかねない。
故に、訴訟してすぐに裁判を行い、オサム達の前で荒巻に勝ち、
その場でアイシスが望む通りの解決を見せて、
尚且つ裁判後にも荒巻がアイシスに危害を加えないように手を回す必要がある。
簡単なことではない。
- 983 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:48:41 ID:PcertRlgO
-
ξ゚?゚)ξ「暴行の事実は──相手が人間だし、くるうさんの鼻があれば証明出来るかもしれない。
ただ、それも不確定だわ。相手もただ者ではないし。
──あなたが荒巻から受けた暴行の証拠はある?」
リハ;゚ー゚リ「……いいえ」
ξ゚?゚)ξ「まずは、そこから固めなきゃね……。
少し時間がいるわ。その間、どうやってあなたを守ろうかしら」
リハ*゚ー゚リ「あ、御主人様は今日からしばらく休暇をとりますので、ご心配なさらず……」
ξ゚?゚)ξ「? 休暇の間は手を出してこないの?」
リハ*゚ー゚リ「はい」
ξ゚?゚)ξ「どうして?」
リハ*゚ー゚リ「休暇だからでしょう」
ξ;゚?゚)ξ「???」
「そんなことヨリ」。アサピーが会話に潜り込んでくる。
(-@∀@)「今夜、お隣の県で呪術師の会合があります。
荒巻御大も来る筈デス。センセイ、僕とイッショに行きませんか」
ξ゚?゚)ξ「何それ王道展開にも程があるわ。……いいわね、行ったろーじゃないの」
まずは敵を知らねばなるまい。
ツンは立ち上がり、志気を高めるためにストレッチをした。
にやつきながらアサピーが近付いてくる。
そして──ツンの耳元で、一言。
(-@∀@)「そんな張り切ンなくッたって、今夜解決しますよおう、センセイ」
ξ゚?゚)ξ「──は?」
*****
- 984 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:49:19 ID:PcertRlgO
-
ξ゚?゚)ξ「これみんな呪術師なわけね」
夜、とあるホテルの宴会場。
いつも通りの黒いブラウスに上着を重ねた格好で、ツンはきょろきょろと周囲を見回した。
人間、おばけ、老若男女が入り乱れて食事と会話を楽しんでいる。
聞こえてくる話題が不穏極まりないことを除けば、とても和やかな雰囲気に包まれていた。
(-@∀@)「情報交換が主な目的ですネ。
特に昔ながらの呪術師は、おばけ法の話題に敏感です。
おまんまの食い上げだッて恨んでる人もいますし」
答えるアサピーも、いつも通りの服装である。
会場内を見れば、礼装の者から部屋着としか思えないラフな格好の者まで様々だ。
ξ゚?゚)ξ「呪詛罪は呪術師には致命的でしょうね」
(-@∀@)「だからこそ法の穴を探すのが楽しいのでゴザイましょう」
ξ゚?゚)ξ「あんた弁護士の前でよくそういうこと言えるわ」
(-@∀@)「シツレイ」
近くのテーブルにあったローストビーフを貪りつつ、ツンはシャンデリアを見上げた。
宴会場の予約には、聞いたこともない会社の名前が使われていた。
表向きは、その会社の創立50周年パーティーということになっているらしい。
このホテルの経営者もまた呪術に関係のある人間なのだとアサピーから聞かされた。
- 985 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:49:41 ID:PcertRlgO
-
ξ゚?゚)ξ「……さて、荒巻はどこかしら。この私の色香で惑わして近付いてやるわ」
(-@∀@)「アッハッハ、ご冗談を」
ξ゚?゚)ξ「問題は、荒巻が私に対して本気で欲望を露にしてしまった場合だわ。
相手は呪術のプロ……下手すりゃ私にまで何らかの被害が来かねない」
(-@∀@)「センセイほんと面白いです。僕腹筋壊れそう。
……マァ、誰かが下心を持ってセンセイに触れたときに限り、相手が失神するっていう呪いをセンセイにかけておきましたから、
万が一の事態になってもダイジョーブかと」
ξ;゚?゚)ξ「何そのピンポイントな呪い」
(-@∀@)「僕の大事なセンセイを守るために頑張りました」
ξ;゚?゚)ξ「言ってるのがあんたじゃなければ……そして棒読みでなければ、恋に落ちていたかもしれない……」
(-@∀@)「ヤアヤア、それは惜しいことを。──ア、センセイ、あれあれ。荒巻御大」
アサピーが前方を指差す。
窓際のテーブルの前で、椅子に腰掛けた老人が1人、食事をしていた。
- 986 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:50:04 ID:PcertRlgO
-
/ ,' 3
和服を身につけた老人のもとに、時おり呪術師達が寄っていっては
一言二言交わして去っていき、また老人がテーブルに1人になる。
その繰り返し。
まるでこの世の全てに無関心であるかのような無表情。
そこに、たしかに貫禄は感じる。
ξ゚?゚)ξ「よーし、あれね。いっちょ色仕掛けてくるわ」
(-@∀@)「え? どの部分使う気で?」
──そのとき。
場内が、微かにどよめいた。
アサピーも身を乗り出させ、荒巻──の後方、床から天井までの高さがある窓を見遣る。
ついていけてないのはツンだけだ。
直後、ツンとアサピーの間を、
リハ;゚ー゚リ「御主人様!!」
どこから現れたのか、アイシスが駆け抜けていった。
- 987 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:51:22 ID:PcertRlgO
-
ξ;゚?゚)ξ「アイシスさん!?」
事務所で待つように言っていたのに。
ついてきていたのか。
アイシスが荒巻の真後ろに立つと同時に、窓をすり抜けて、何かが会場に入り込んできた。
小さな獣のような形をした黒い靄。
真っ直ぐ荒巻へ向かうそれを──アイシスが、両手で掴んだ。
即座に、口に捩じ込む。
ξ;゚?゚)ξ「食っ、」
リハ;゚〜゚リ" モグモグモグモグ
リハ;゚ -゚リ ゴックン
嚥下。
一連の流れが終わると、皆、何事もなかったかのように会話へ戻った。
アサピーも特に変わった様子はない。
- 988 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:52:33 ID:PcertRlgO
-
ξ;゚?゚)ξ「え……何、何……」
(-@∀@)「呪詛返しですネェ。
荒巻御大の仕事のターゲットの仕業でしょう。御大の呪詛を返すとは恐れ入る」
狼狽えつつも、ツンは一応アイシス達へと歩み寄る。
食事を続けていた荒巻が、フォークとナイフを置き、立ち上がった。
/ ,' 3「遅い」
リハ;゚ー゚リ「申し訳ありません……」ゲプッ
/ ,' 3「とりあえず休暇は取り止めだな。帰ろう、相手を甘く見ていた」
リハ;゚ー゚リ「はっ! ──! あっ!!」
不意に、アイシスは跳ぶようにして荒巻から離れた。
ツンの後ろに隠れる。
- 989 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:53:01 ID:PcertRlgO
-
ξ;゚?゚)ξ「えっ、」
リハ;゚ー゚リ「か、帰りません! また──私に、あ、あれをするつもりでしょう!」
/ ,' 3「……誰だ?」
リハ;゚ー゚リ「出連先生です!! おばけ法専門の弁護士さんですよ!
──私、ご、御主人様を訴えますから!!」
ξ;゚∀゚)ξ「えっ、ばっ、ちょっと待って待って待って何で言うの!!?」
一瞬、会場から話し声が消えた。
全ての目がツンへと向けられる。
確実に、敵意を含んだものがいくつかあった。
其処此処から、ひそひそと囁き合う声があがり始める。
「──弁護士だってよ……」
「おばけ法に携わる人間が何でここに……」
ξ;゚∀゚)ξ(あ、ピンチだこれ)
- 990 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:53:27 ID:PcertRlgO
-
/ ,' 3「昼に妙な結界の中に入っていく感覚があったが、何だ、弁護士の事務所にいたのか。
儂の何を訴えるつもりだ?」
リハ;゚ー゚リ「白々しい! ……こ、事あるごとに私を撫で回して──
あれを、ご、御主人様の、あれを、私の中に……!」
リハ;゚ー゚リ「しかも、いつもいつも違う人の相手をさせるじゃありませんか!!
私の体はぼろぼろです!!」
ξ;゚∀゚)ξ(新事実発覚! しかし私ピンチ!)
/ ,' 3「それがお前の役目だろうが。
──この間から、急にそんなわけの分からんことを言い出すようになりおって。
何ぞ誰かに吹き込まれたか」
リハ;゚ー゚リ「そ、それは……」
ξ;゚?゚)ξ「っ! アサピー、録音! ボイスレコーダー!!」
(-@∀@)「会場入った瞬間に壊れましたよそんなの」
ξ#゚?゚)ξ「言えやクソボケ!!!!!」
(-@∀@)「その顔が見たくて黙ってたに決まってるじゃァないですかァ……」ウットリ
- 991 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:54:02 ID:PcertRlgO
-
リハ;゚ー゚リ「とにかく──絶対に訴えます!! こちらの出連先生は凄腕の弁護士なんです!!
特に呪術師というものを心の底から憎んでいて、呪術師相手の訴訟にはフルパワーで臨むんですよ!
何なら、大して悪いことしてない呪術師でも全力で罪をでっち上げて再起不能に追い込む人です!!
アサピーさんが言ってました!!」
< ザワ…ザワ…
< アノオンナ…ヤベェ…ケシチマオウゼ…ソウダナ…
ξ;?;)ξ「やめてよぉおおおおおお!! こんなとこで死にたくないよぉおおおおおお!!
あとアサピー死ねよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
/ ,' 3「……ふむ……」
ξ;?;)ξ「ひいっ!! 違います、私そんな悪徳弁護士じゃないですう!!
アサピーが、あの眼鏡ブーツが勝手にいっ!」
一歩進む荒巻、一歩下がるツン。
しかし後ろのアイシスに肩をがっちり掴まれ、退けなくなってしまった。
荒巻が近付く。
- 992 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:54:31 ID:PcertRlgO
-
/ ,' 3「出連弁護士。儂の行いは何の罪に当たる?
呪詛罪という下らんもの以外に、だ」
正確な年齢は分からないが、顔の皺や、覗く手首のか細さからして、かなりの歳になるだろう。
おばけ法の制定前から活躍していたという話から、それなりに歳がいっているだろうとは思っていたが、
それにしたって──予想以上に高齢だ。
これほどの老人に、女を抱くような「元気」があるだろうか。
そんな疑問が首を擡げる。
しかし、それ以上に、どこかツンを小馬鹿にしたような目が癪に障った。
簡単に逃げ切ってやるぞと今にも言いそうな、目が。
ξ゚?゚)ξ「──アイシスさんへの暴行は、強姦罪、あるいはそれに類する罪に当たります」
苛立ちを声と瞳に込めて。
ツンは答える。
ξ゚?゚)ξ「先程の発言からしても、彼女が拒絶──少なくとも嫌がる素振りをしていたことは認識していたんですよね。
それでいて行為を強要して……罪に当たらないとお思いですか?」
/ ,' 3「そうか、そうか、なるほどなるほど……」
ふむふむと唸りながら荒巻が頷く。
何も応えた様子のない態度が、また鼻につく。
- 993 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:54:54 ID:PcertRlgO
-
ξ#゚?゚)ξ「ともかくこうなったら──」
/ ,' 3「出連弁護士、もう一つお訊ねしたい」
ξ#゚?゚)ξ「何です?」
オサムの手が懐に入れられる。
何を出す気だ──身構えたツンの眼前に、「それ」は掲げられた。
/ ,' 3「自分が作った藁人形に釘を打ち付けるのは、強姦に当たるんかいの」
藁人形。
頭や腕や脚の部分は、赤い紐で形を整えられている。
ξ゚?゚)ξ
ξ゚?゚)ξ
ξ゚?゚)ξ
ξ゚?゚)ξ「えっと」
ξ゚?゚)ξ「ちょっとお待ちください」
- 994 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:55:20 ID:PcertRlgO
-
ツンは眉間を抓みながら俯いた。
藁人形。藁人形だ。うん。
釘を打ち込む。うむ。棒状である。
棒状のものが、たしかに藁人形の中に入ることになる。
いや。これは。
ない。
これはない。そんな。そんなことがあるか。
ξ゚?゚)ξ「か。彼女って藁人形なんですか」
/ ,' 3「そうだの。本体が、この藁人形ということになる」
ξ゚?゚)ξ「身体中撫でたっていうのは」
/ ,' 3「大事な商売道具だ、藁人形のメンテナンスをするのは当然だろうが」
ξ゚?゚)ξ「代わる代わる、違う人の相手を」
/ ,' 3「呪う対象のことだろう。
基本的に藁人形は一体につき1人を呪うものだが、アイシスはそこらの藁人形とは違う。
ターゲットの変更がきく。無論、釘を打ってもアイシスに苦痛はない」
へえ、そうなんですね。
ツンの返事は死にかけだった。
呆然とするツンの後ろで、アイシスの涙声がする。
- 995 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:56:13 ID:PcertRlgO
-
リハ*;ー;リ「聞いたんです……御主人様の行為はセクハラだって……。
私、そんなこと知らなくて、ショックで……。
でも、それだけだったら問題ありませんでした。私は御主人様のものですから……」
リハ*;ー;リ「だけど! 何度も釘を打っては抜いて、また打って──
そんなことを繰り返せば、いつか私の本体が壊れて、捨てられてしまうと
アサピーさんが言ったんです!!」
ξ゚?゚)ξ「またお前かよ本当お願いだから消えてよもう」
(-@∀@)「嫌ですようセンセイ、後者はたしかに間違いなく僕の言葉ですが、
セクハラ云々は『体の隅々までチェックされるなんてちょっとイヤラシイですね』と言っただけです」
ξ゚?゚)ξ「鬱陶しいし気持ち悪いしどうなってんだよお前」
リハ*;ー;リ「捨てられることだけは、どうしても許せないんです!!
捨てるくらいなら大切にしてほしい、ぼろぼろにするならせめて傍にいさせてほしい!
……私を生み出し、御主人様の式神にした以上、その責任をとっていただきたいんです!」
だから、訴えてやる──
わあわあと泣きじゃくり、アイシスはへたり込んだ。
観衆の中には、目に涙を浮かべる者もいた。
何だろう、これは。
ξ゚?゚)ξ「……アイシスさん、まずね、荒巻さんのやってることはセクハラじゃないわ。
ただのお仕事よ」
リハ*;ー;リ「えっ!? そうなんですか!? いやらしくないんですか!?」
/ ,' 3「いやらしいことあるか」
溜め息をついた荒巻が手を伸ばし──
ツンの胸を、鷲掴みにした。
- 996 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:57:05 ID:PcertRlgO
-
ξ゚?゚)ξ
(-@∀@)「アレ、掴めるほどあったんですネ? センセイの胸」
/ ,' 3「ぎりぎり」
ξ゚?゚)ξ「ぶっ殺……あれ、おいアサピー、このひと失神しないんだけど」
(-@∀@)「下心ないんデショウ」
/ ,' 3「儂ゃ、もう、こんなもんに興味持つほどの歳じゃないわ」
手を離した荒巻の顔は、ひどくつまらないものを前にしたような表情だった。
諸々へのショックから、ツンには既にリアクションを残す元気も余裕も無い。
立ち尽くすだけのツンを荒巻が軽く突き飛ばし、嬉々とした様子のアサピーが受け止める。
そして、枯れた老人はアイシスの前に立った。
/ ,' 3「お前が簡単に壊れるわけなかろうが。
儂が丹精こめて作ったんだ」
リハ*;ー;リ「……御主人様……」
/ ,' 3「そういう余計なことを考えとるから呪詛返しに遭う。
お前こそ、儂の式神なら仕事に責任を持て」
「帰るぞ」。
荒巻は、そのまますたすたと歩いていった。
アイシスが慌てて追いかける。
会場を出る間際、アイシスは振り返り──
リハ*゚ー゚リ「ありがとうございました、出連先生!」
うるせえ早く帰れ!!
辛うじてツンが返せた言葉は、それだけだった。
*****
- 997 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:58:11 ID:PcertRlgO
-
(-@∀@)「メデタシメデタシですね、センセイ?」
ξ゚?゚)ξ「そうね……おめでたいわね……
アイシスさんと荒巻さんのどうでもいい茶番のおかげで空気が緩んで、
なんとか反おばけ法の呪術師さん達から見逃してもらえたしね……おめでとう私……」
一週間分の疲労が一気に来たような気分だ。
あまりに重すぎる足を引きずりながら、ツンはパーティー会場とは別のホテルを探していた。
家に帰るのすら億劫だった。
このままどこかに泊まって、明日朝イチで帰ろう。
ξ゚?゚)ξ「……あんたさあ」
(-@∀@)「はい?」
ξ゚?゚)ξ「昼間、言ったわよね。『今夜解決する』って。……ぜーんぶ、計画通りだった?」
(-@∀@)「さすがに全部は無理ですよう。マァ概ね満足出来ました」
ξ゚?゚)ξ「言ったな。ある程度は計画してたことを白状したな。
行こう! 明日オサム様のところに自首しよう! 刑事裁判! 罪状は検事が適切なの決めてくれる!
そして消滅処分にしてもらおう!!」
(-@∀@)「それは困りますのでサヨウナラー」
ξ#゚?゚)ξ「待て!! こら! あんた、何でこんなことしたのよ!!」
- 998 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:59:16 ID:PcertRlgO
-
ふわりと浮かんでいくアサピー。
白衣を翻した彼は、
(-@∀@)「初めに言いましたでござんしょ?
僕、センセイに会う口実作るのに必死なんですよ」
笑い声を残して消えた。
余韻すら感じさせない夜空を見上げ、ツンは拳を握り締める。
ξ゚?゚)ξ(ああ……──)
- 999 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 19:59:51 ID:PcertRlgO
-
ξ゚?゚)ξ(あいつ……次会ったら絶対に訴えてやろう……)
それは、アサピーと出会ってから、実に57回目の決意であった。
番外編:終わり
- 1000 :名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 20:01:54 ID:PcertRlgO
- 1000
荒巻本編でも登場させるかは未定
ではでは、ありがとうございました
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