室谷克実という人が書いた『悪韓論』という本を読んでみました。室谷氏は慶応法学部卒で時事通信社のソウル特派員を務めていた人物です。経歴も確かだし、アマゾンのレビューも高かったので期待して読んでみたのですが、結論から言うと、残念ながらその他大勢の嫌韓本と同じく自分に都合のいい情報をコラージュしただけのつまらない内容だったと言わざるを得ません。

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これまでこのサイトではほとんどネット記事やツイートなどを取り上げて、「愛国カルト」のデマやその手法を学ぶことで免疫をつけることを目的としてきましたが、今回はブックレビューをしてみたいと思います。

この本は初版が2013年4月。私が持っているのが2013年8月の第11刷。わずか4か月の間に増刷を10回も繰り返したことになります。このような低レベルな本が売れている状況を見ると、呆れと不安を感じますが、前書きの「はじめに」から順に内容を見ていくことにしましょう。

室谷氏の勝手な結論の導き方は、既に前書きから始まっています。引用しましょう。
 俗にいう韓流ブームを通じて、韓国に関する知識が増えたと思っている日本人が多いようだが、私は疑っている。なぜなら、韓流ブームそのものが、韓国政府の補助金によりドラマを安価で輸出するシステムに基づく。つまり、国営の対外PRの一手段なのだ。
 何のために、そんなことをするのか。彼らの好きな言葉で言えば「韓国のブランド価値を高めるため」となる。
 噛み砕いて言えば、「韓国とは、大変に素晴らしい国だ」「韓国人とは、とても優れた民族だ」という”彼らなりの事実”を世界中に認めさせるためだ。
 韓国のブランド価値が高まれば、韓国製品は飛ぶように売れ、韓国人はどこの国に行っても韓国人であるという事だけで歓待され……と彼らの夢想は続く。
 こうした意味でのブランド志向と夢想の底流で脈打つものは、韓民族優越思想だ。そして、これと表裏一体をなすのが他民族に対する差別意識である。 (3-4頁)
なんと、韓流ブームは差別意識が根底にあると言うのです。うーん、ヒッチコックもびっくりの思いがけない凄い展開です。

韓国に民族的な優越思想があるというのは私もそれなりに同意はするのですが(日本にも同様の意識を持ってる人は大勢いるけどね)、まさか韓流ブームと差別意識を結びつけるとは思いませんでした。

室谷氏は韓流が「国営の対外PR」であり、それは「韓国のブランド価値を高めるため」であり、それは「韓国が優れていることを世界に認めさせるため」であり、そこには「差別意識」が底流にあるとする、まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」ような段階を経た論理展開をしょっぱなから見せつけてくれているのですが、この論理で行くと、自国を海外にアピールすると、その底流には自己優越思想と差別意識があることになってしまいますね。

日本にも首相官邸にコンテンツ・日本ブランド専門調査会というものがあり、「日本ブランド」の創造と発信を海外に向けて行っていくことを目的としています。関係省庁の連絡会議のHPには、その目的として「我が国の魅力や強みを『日本ブランド』として効果的に発信していく」と書かれています。室谷氏の論理で行くと、国の主導で「日本ブランド」を世界に発信しようというのは、底流に差別意識があることになってしまうはずなのですが、室谷氏はどうお考えなのでしょうね?
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内閣官房HP

なお、私個人の意見ではありますが、国外的に自国をアピールすることにはあんまり自民族優越思想は感じません。なぜなら、そんな自民族優越観を国外向けにアピールして受け入れられるはずがないからです。例えば日本のマンガは世界的に人気ですが、そこに別に日本優越思想みたいなものはないですよね。もしそんな自国優越思想的なものや、他民族に対する差別的な意識があるのであれば、日本のマンガも韓国のドラマも外国で受け入れられるわけがなく、自国コンテンツを国外にアピールすることには私は危険性は感じません。むしろ、自国向けに「我が国はこんなに優秀なんだ」と宣伝する方がよっぽど危ない。最近テレビで「世界がべた褒めする日本」みたいな番組が妙に多いことには少々危うさを感じています。

さて、『悪韓論』に戻りましょう。室谷氏はこう続けます
 国営PRの一環としてもたらされた薄っぺらな情報は、どれほど脳内に蓄積したところで、隣国の動向を見定めるためのインテリジェンスにはなり得ない。(5頁)
そりゃドラマやポップスを「隣国の動向を見定めるためのインテリジェンス」に用いる奴はいないだろ…。室谷氏は「韓流ドラマを見て、韓国をわかったつもりになるな。あれはいいところだけ見せてる虚構の姿だ」と言いたいようなのですが、室谷氏は一体韓流ドラマを何だと思っているのだろう…。どうも、彼は韓流ドラマを「工作員によるプロパガンダ映像」か何かと勘違いしているらしいです。ドラマを作ってる側も、見ている側も、そんなつもりのやつはおらんだろ…。それを言ったら日本のマンガもアメリカ映画もプロパガンダ映像になってしまう…。

そして、室谷氏はこう言い放ちます。
 結論を言ってしまえば、現実の韓国とは、文明の終わりを思わすような悪辣な思想と行動、風習、風俗が闊歩する社会だ。それなのにピカピカの国であるかのように虚言を重ね、ドラマや製品ばかりでなく、悪辣な思考と行動、風習、風俗を内容する韓国型生活様式、いわばコリアン・ウェイ・オブ・ライフそのものを海外に輸出し、海外で増殖させようとしている。これも韓民族優越思想、換言すれば小児病的な小中華思想に発する行動だ。
 既に頭から湯気を立てて怒っている親韓派もいるだろうが、私が言っていることは、決して偏見に基づくものでも独断でもない。 (5頁)
私は「親韓派」ではないので「湯気を立てて」怒ってはいませんが、これは偏見と独断にしか見えません。「韓国型生活様式を海外に輸出し増殖させようとしている」の意味は全く不明ですし、それが「韓民族優越思想」で「小中華思想」だというのも何を言いたいのか意味不明です。

特に「文明の終わり」とまでいう言葉を使っているところを見ると、「悪辣な思想と行動」を行っているのは室谷氏だとしか思えません。この本を読み進めても、室谷氏が何を持って「文明の終わり」などと言っているのかは理解不能です。

室谷氏の論は、韓国は「悪辣は思考と行動、風習、風俗が闊歩する社会だ」という結論に持っていくために、自分の独断と偏見に基づく解釈を重ねているだけにすぎません。そしてそのために使う論理展開は、韓流ブームが小中華思想になってしまうような、「風が吹けば桶屋が儲かる」方式というトンデモぶりです。

室谷氏はこの本を書いた理由や彼のスタンスについてをこう述べます。
「とんでもない。日本は、そんな国になってはいけない」という思いから真の韓国事情を伝えることが、この本の一貫したテーマだ(5頁)
 「事実は事実だ。事実を書くのに遠慮してはいけない」というスタンスを貫いた。(7頁)
しかし、始まってわずか5ページしかたっていないのに、このスタンスは崩れているように私には思えます。自国ブランドを世界にアピールしようなどというのは日本もやっていることなのに、それを韓国がやると「自民族優越主義」と「差別意識」が底流にあるなどと罵倒するのは、「事実」を書いているとは言い難いです。

そして、室谷氏の最大の問題点は次の点にあります。
 付け加えるべきは、「私の独断ではない」ことを示すために、韓国の公式統計や韓国の「権威ある」マスコミ報道を、主たる典拠にした点だ。(7頁)
一見すると、これは至極まっとうなことです。公式統計や権威あるマスコミ報道を主たる典拠にするのは当たり前というか、正しい姿勢であることは言うまでもありません。私もamazonの紹介文などを見た時には、「新聞を用いているのだから、ネット情報に騙されるような『愛国カルト』とは違ってまともな本かも」と期待していました。

問題なのは、それさえ用いれば、自分の独断ではないことを示せると室谷氏が考えていることです。

はっきり言ってしまえば、室谷氏がやっているのは、結論ありきで、自分の論に都合のいい新聞記事を切り貼りすることで、自分の独断ではないように「見せかけている」だけです。この手法を使えば、誰でも簡単に、どんな国でも最低最悪の国家に仕立て上げることができます。例えば

債務は1000兆円を超え世界でも突出
人事部まで嫌がらせするマタハラの国
女性国会議員比率が先進国で最低
教育への公的支出がOECD加盟国中最低
食糧自給率はカロリーベースで40%未満
国政選挙の投票率がわずか52.6%しかない
『幼稚園児の声がうるさい』と脅迫や訴訟が起きる国
血液型で人格を判断して差別に発展する国

などなど、日本のおかしな点や問題点もいくらでも、日本の公式統計や権威あるマスメディアのソース付きで挙げることができます。この手法なら『悪日論』でも『悪米論』でも『悪仏論』でも簡単に書けます。室谷氏がやっているのは単にこれだけのことで都合のいい情報の切り貼りに過ぎないのですが、自覚がない分たちが悪いです。

そして、肝心の結論は筆者室谷氏の想像や思い込みで書かれています。例えば先ほどの韓流の例でいえば、韓国には大統領直属の「国家ブランド委員会」というのがあり、韓流が韓国のブランド力を高める一環として行われているのは事実ですが、それが「自民族優越主義」や差別意識が底流にあるというのは室谷氏の独断にすぎません。

結局結論ありきで自分に都合のいい情報を都合のいいように切り貼りして都合のいいように解釈して都合のいい結論に持っていっているだけであり、やっていることはネットの2ちゃんねるまとめサイトと大差ないのです。

そして、室谷氏の考え方が、私がこのブログで批判してきた「愛国カルト」達と同様のものである点は、前書きの最後の一言にも表れています。
 本書の内容に異議があるという御方には、私の典拠より高い水準のソースを基にして「良韓論」あるいは「善韓論」を執筆されるよう、お勧めする。
私がこれまで出会ってきた愛国カルトの方々は、彼らの論を批判すると、私が「親韓派」や「韓国大好き」であると決めてかかってきました。

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↑私は人格ではなく国籍や出自を根拠に他者を判断することを批判しているのに、私が朝鮮人を「好き」なのだと理解した人たちの例。


私は彼らの論理展開や差別発言がデタラメだから批判しているのであり、彼らの批判対象である韓国や在日韓国人が好きだから行動しているのではありません。私は韓国は政治的には大嫌いですし、韓国国民や在日韓国朝鮮人については、人種や民族で好きになったり嫌いになったりすること自体を批判しています。黒人差別をする人を批判したら、黒人大好きということになりますか? なりませんよね。

ところが、彼らは頭が単純なようでして、「こっち側」か「あっち側」かの2通りしか考えません。自分に反対するのは「あっち側」だと思い込み、「こっちでもあっちでもない」ポジションなんて想像もしません。発想が0か1かの1ビットしかないのです。

最近私が感心したツイートにこんなものがありました。

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「日本と韓国が戦争になったらどっちにつくの?」なんて質問ができるのは、まさに考え方が1ビットだからでしょう。「どちらでもありませんがあなたは敵でいいです」というのも同意できます。その通り、私は愛国カルト(ネトウヨ)を敵視していますが、彼らの敵である韓国や朝鮮、在日韓国人の味方をしているわけではありません。

しかし、室谷氏は自分に反論するなら「良韓論」や「善韓論」を書けと言います。つまり、「自分に反対する者」=「韓国の味方」と決めつけているわけで、これは私がこれまで見てきた愛国カルトさんたちの特徴に合致します。

室谷氏の『悪韓論』は、2ちゃんねるまとめサイトに毛が生えた程度の内容しかありません。本1冊の内容を細かく見ていくのは大変ではありますが、これから数回かけてその内容の幼稚性と問題点を見ていきたいと思います。

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