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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた 作者:坂東太郎

『第十三章 エルフ護送隊長ユージは引き続きエルフ護送隊を率いる』

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第二話 ユージ、王都の冒険者ギルドに行く

「さあユージさん、今日は冒険者ギルドに行きましょうか!」

 ユージたちに提供されている客間の扉がバンッ! と開かれ、入ってきたケビンが叫ぶ。
 これまでユージが見たことがないほどハイテンションである。

 呆れたようにわふわふっと鳴くコタロー。まだそうちょうよ、と言いたいようだ。
 起きていたのはコタローのみ。まあケビンの気配でサロモンとドニが起き出し、ケビンの大声で残るユージやアリス、リーゼ、シャルルも目が覚めたようだが。

「……おはようございます、ケビンさん」

「はい、おはようございます! ほらほらみなさん、早く支度して!」

 ケビンのテンションは高い。はた迷惑である。

「ちょっと待ってくださいねー」

 寝ぼけ眼のユージがケビンに告げる。
 コタローとサロモン、ドニはしゃっきりと目を覚ましたが、ほかの面々はのそのそと動き出す。仕方あるまい。まだ陽が昇ったばかりの時間なのだ。

 待たされているケビンはふんふーんとご機嫌で鼻歌を歌っている。どうやら昨夜、そうとう良いことがあったようだ。
 理由を聞くまでもない。
 どうやらケビンのプロポーズはうまくいったようだ。
 本番は親である『血塗れゲガス』が帰ってきてからだが。


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


「おお! なんかこう、外国の街って感じですね! 道も広いし、プルミエの街とはずいぶん雰囲気が違うんだなー」

 ゲガス商会からギルドまで馬車で王都を進む一行。
 ユージは荷台から御者席側に顔を出し、手には黒い外装を装着したカメラを構えて撮影している。

 ユージの言葉通り、プルミエの街と違って道は広い。広い道の中央は馬車が通っていた。上りと下り、二台がすれ違える広さである。左右はどうやら徒歩の人々が歩く道のようだ。特に区切られていないため、なんとなくのようだが。

 御者席に座って馬車を操作するのはケビン。
 荷台から身を乗り出すユージの左右にはアリスとリーゼがいる。二人の少女は目を輝かせ、アリスはふわー! と時おり声をあげていた。
 同行しているのはケビンの専属護衛の二人と、エルフの少女・リーゼの護衛役・サロモンであった。

 針子のユルシェルは、持ち込んだドレスのお直しのためにゲガス商会で作業中。
 シャルルとドニは大事をとってゲガス商会で留守番。
 昨日、冒険者ギルドに到着を告げにいったエンゾはゲガス商会には戻らず、冒険者ギルドで合流することになっていた。昨晩どこに行っていたかは不明である。きっと斥候らしく情報収集していたのだろう。いかがわしいエリアに消えたわけではあるまい。彼にはイヴォンヌちゃんがいるのだ。

 馬車を走らせること十数分。
 どうやら王都の冒険者ギルドは、ゲガス商会よりも外門に近いエリアにあるようだ。

「おーい、ケビンさん!」

「あ、エンゾさん! お待たせしました!」

 冒険者ギルドの前には開拓地から同行してきた元3級冒険者・エンゾの姿があった。どうやら無事に合流できたようだ。携帯もポケベルも駅の伝言板もない世界では、待ち合わせは大変なのである。

 建物の前にケビンが馬車を止めて、ぞろぞろと馬車から降りる一行。
 ケビンは冒険者ギルドの横にあるスペースから走り出てきた少年に馬車の操作を任せる。どうやら馬車を置く場所があるようだ。

 冒険者ギルドの前に立ってキョロキョロとあたりを見まわすユージ。もちろん撮影中である。
 石造りの重厚な建物は、窓の位置を見ると三階建てのようだ。建物の左右には空間があり、冒険者や依頼人が馬車を止めるスペースとなっている。
 表から見ているユージは知らないが、建物の裏手には木造の室内訓練場と、それより広い屋外訓練場がある。

 王都の冒険者ギルド。
 ついにユージ一行は、旅の目的地にたどり着いたようだ。
 もっとも目的はエルフの冒険者に会うことであり、ここで旅が終わるわけではないのだが。

 物珍し気にキョロキョロあたりを見るユージ、アリス、リーゼ。
 目を輝かせる三人を、微笑みながら見守るのはケビンと専属護衛の二人、エンゾの四人である。
 そして、プルミエの街の冒険者ギルドマスター・サロモンがユージたちに声をかける。

「よし。ユージ殿、ようこそ! ここが王都の冒険者ギルドだ!」


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


 アリスとリーゼ、フードをかぶった二人の少女を連れたユージだったが、特に絡まれることもなく別室に案内されていた。
 まあユージたちを先導したのは強面のサロモンであり、横にはケビンの専属護衛の二人とエンゾがいたのだ。当然といえば当然である。
 ちなみにケビンと専属護衛の二人はえび茶色のマントをつけていない。街中で血の雨を降らせる予定はないようだ。

「サロモンさん、カウンターで何を話してたんですか?」

「うん? ああ、ユージ殿は冒険者ギルドがある街を移動するのは初めてだったな。冒険者はな、ギルドがある街を出る時と着いてから、ギルドに報告する義務があるのよ。冒険者ギルドがない宿場町なんかはその必要もないが」

「え? 俺、プルミエの街を出る時に何もしてませんよ?」

「ああ、そりゃ俺が手続きしといたからな」

「あ、そうだったんですね。ありがとうございます。でも、なんで言う必要があるんですか?」

「ユージ殿……。冒険者ギルドが自分のとこの戦力がどれくらいか把握しとかないとマズいだろ? 強大なモンスターや群れが出た時にどうすんだ?」

「あ、確かに」

「それから、領主への報告義務もある。まあ何級が何人程度のおおまかなものだが。王都で言うと治めているのは領主じゃなく国王様になるわけだし、役人あたりに報告するだけだがな」

「そうして領主様は街にいる戦力を把握するのです。4級から特級あたりの冒険者になると、移動の制限がかかることもありますね。出て行かれた街は戦力不足になることもありますし。それに、冒険者を不穏分子とみなして4級以上が入ってくるのをイヤがる貴族もいますからねえ」

「そうなんですね……あれ? サロモンさんは大丈夫だったんですか? 元1級で、プルミエの街で最強クラスなんですよね? それにエンゾさんも」

「ああ、俺もエンゾも、もう引退してるからな」

 サロモンの言葉にワンワンッと噛み付くコタロー。しゅうらくのとうばつも、りーぜのごえいもしてるじゃない、と言いたいようだ。

「引退さえ認められちまえば、あとは自由よ」

 そう言って胸を張るサロモン。
 ふたたびワンワンッと吠えるコタロー。ぎるどますたーのしごとはどうしたの、と言いたいようだ。もっともである。プルミエの街の冒険者ギルドの職員のおっさんが聞いたら、きっと血涙を流すことだろう。

 ちなみに冒険者ギルドがある街を移動する際に報告しなければならないということは、登録の際に教えられる。もし忘れていても、出る時にも入る時にも街の門番に告げられるため、通常はそこで気づくのだ。
 ユージは門番への対処をケビンに任せていたために気づかなかったようだ。もちろんケビンはサロモンに確認済みである。護送隊長とはなんなのか。

 そんな会話を交わしていると、扉がノックされる。
 どうやら王都の冒険者ギルドでユージたちに応対する人物が到着したようだ。

 木製の扉を開けて入ってきたのは、老人だった。

「ひさしぶりじゃなサロモン。また妙なことに首を突っ込みおって。引退したんじゃなかったのか?」

 後ろに撫で付けた髪は白髪。手には顎まで届くほどの杖を持ち、長いひげも白い。その身にはローブをまとっていた。

「う、うわあ……魔法使い、いや、ガンダル」

 何か言いかけたユージの言葉をワンワン! と吠え立てて遮るコタロー。それいじょういっちゃだめ、いえ、もうまずいかも、と言いたいようだ。あいかわらずツッコミ不在なパーティである。

「じいさん、まだ生きてたのかよ」

 呆れたような口ぶりながら、どこかうれしさを隠せないサロモン。どうやら昔からの知り合いのようだ。口調がすっかり変わっている。

「ふん、まだまだ死ねんわ。それで、エルフじゃと?」

 ジロリと一行を見渡す老人。と、フードをかぶっていたリーゼに目を向ける。

「そうだ。それで、ここにエルフの冒険者がいることを思い出してな。どこか行っていたらしいが、もう帰ってきてるか?」

「いや、まだじゃ。気まぐれなヤツゆえにな。いつも通りだとそろそろ帰ってくるはずじゃが……」

 エルフの少女・リーゼを保護した時に、プルミエの街の冒険者ギルドマスター・サロモンが手紙を送ったのはこの老人に宛ててであった。この老人はユージたちが王都に向かう前から事情を把握していたのだ。到着したと聞いたのはエンゾからだが。

 老人の言葉を聞いて残念そうな表情を見せるユージ。危険がないことを事前に教えられていたため、ユージはリーゼに通訳する。
 老人の言葉を理解したアリスとリーゼは目を輝かせていた。

 王都のエルフは、まだ帰ってきていない。
 つまり、リーゼはまだみんなと一緒にいられる。
 大人たちの心配をさておき、二人の少女はもうしばらく一緒にいられることを喜んでいるようだった。

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