自民党のホームページをご覧になったことはありますか。
同党のホームページには、2012年に決定された、同党の憲法改正草案が載っています。
現在の自民党が、どのような方向性を目指しているのかを知るのには最適なテキストのひとつだと思います。
読みました。いろいろなことを思いました。
この記事では、前文を取り上げて、今の自民党が、どのような国家を目指しているのか、その一端を垣間見てみようと思います。
前文は5つの文から成り立ちます。
かっこ<>内は私の考えです。
第1文
日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国
民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、
国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分
立に基づいて統治される。
<「固有の文化」という表現が気になります。日本文化を、権力を持つ人間たちが規定したいのではないかという思いがにじみます。また、日本が「天皇を戴く国家」であることの是非について、激しい対立があるように思います>
第2文
我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災
害を乗り越えて発展し、今や国際社会において
重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外
国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に
貢献する。
<「乗り越えて発展し」…。東北や各地の被災者の方々に、ご感想をうかがいたいものです。また「国際社会において重要な地位を占めて」いると自称するとは、なかなか大胆だと思います。安保理の常任理事国か何かなのでしょうか。「重要な地位を占めて」いる安保理の常任理事国の「世界の平和と繁栄」への貢献ぶりを再評価する必要があると思います>
第3文
日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って
自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和
を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国
家を形成する。
<「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」。勇ましい。まあ、おいときましょう。国や郷土に誇りを持つことに反対しませんが、国や郷土を批判的な視点から捉えることが、国や郷土の発展につながることもあることを忘れてはならないと思います。国や郷土を批判する言論の萎縮につながらなければよいと思います。「和」「家族」、このキーワードのもとに苦しんでいる人たちがたくさんいます>
第4文
我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と
自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、
活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
<「規律」の掛け声のもとに「多様性」を、「活力ある経済活動」の掛け声のもとに「経済活動に寄与したくてもできない人、しない人」を抑圧することになるのではないのかと考え込んでしまいます。非常に気になる表現です>
第5文
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く
子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定
する。
<「良き伝統」を継承する。時代に合った変化こそが社会の繁栄の要だと思います>
改めて第1文から最後までを振り返ると、以下のようになります。
〔前文〕
日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国
民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、
国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分
立に基づいて統治される。
我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災
害を乗り越えて発展し、今や国際社会において
重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外
国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に
貢献する。
日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って
自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和
を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国
家を形成する。
我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と
自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、
活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く
子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定
する。
以下、現行の日本国憲法の前文です。
やや表現が難しいのですが、自民党の前文と比べ、個や多様性を抑圧していないことが読み取れます。
〔前文〕
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。