省エネ断熱投資「健康増進効果」で回収がはやまる!?

賃貸住宅の質向上こそトラブル防止の近道 ~ 健康に影響を及ぼす住宅の環境 ~

省エネルギー住宅は、カビやダニ発生や構造材の腐朽の原因となったりする結露も少なく、さらに、部屋の間の温度差も少なくなるので、ヒートショックによる健康被害も防止できる。つまり、「省エネ住宅」=「健康的な住宅」でもある。〔資源エネルギー庁〕

「健康増進効果」で投資の回収がはやまる!?

この問題解決のキーワードが「ノンエナジーベネフィット」(NEB)である。中でも有力なのが「健康」というキーワードである。

ただ単に「断熱で省エネ」といっても、あまり説得力はない。環境・創エネリフォームをする意思決定をするのは、多くの場合高齢者である。その「便益」つまりメリットをはっきり認識できないと決断をしない。

高齢者用の住宅は機能的にかなり向上している。向上した機能による恩恵、言い換えると「便益」を既築住宅に導入する工夫が必要だ。

断熱性能の向上による有病率の改善

健康長寿を妨げる要因は、生活習慣50%、遺伝要因20%、医原性(ウイルス等)10% そして生活環境20% だといわれている。省エネにつながる躯体性能(=コスト)から得られる健康的な室内環境(=ベネフィット)、この 「健康増進」の価値観を広めることが再生可能エネルギーを普及させる説得力を持つと考える。

「断熱性能の向上による有病率の改善」(全国地球温暖化防止活動推進センター)によると、断熱化するとさまざまな病気の有病率、つまり病気にかかる割合が減る、というデータがある。

1万人以上を対象にアンケート調査をした結果、断熱性能の低い家から高い家に転居した場合、心疾患をはじめ気管支喘息、アトピー性皮膚炎などの病気が、いずれも大幅に改善したことがわかった。

JCCCA:全国地球温暖化防止活動推進センター
断熱性能の向上による有病率の改善」より

改善した理由は、室内気温が上昇したことに加え、結露が発生しなくなったためにクロカビやダニが減少したこと、換気がよくなり室内の空気がきれいになったことが考えられる。

年間で1世帯あたり2.7万円の便益

断熱向上がもたらす便益を計算すると、年間で1世帯あたり2.7万円という数字が日本建築学会から出ている。

年間2.7万円の節約を、「健康維持増進効果」を「ノンエナジーベネフィット」(NEB)とし、断熱改修費用を100万円とした場合、断熱投資の回収年数は光熱費削減のEBのみを考慮した場合は投資回収には29年が必要だが、健康維持増進効果も合わせて考慮すると投資回収年数は16年に短縮される。

断熱を推進する上で、NEBという便益を導入することは非常に意味があることである。医療費の国庫負担分を考慮すれば、便益はさらに大きい。

医療や介護、教育、防災、これらマルチベネフィットの価値観の普及

スマート化(最適な設備環境)は、情報化を基盤にしているという意味では、「脱物質化」の1つの方向性である。

物質文明を信奉していた今までのライフスタイルを見直し、今までに築いた技術文明の恩恵を生かしながら、全く新しい「脱物質」型の文明を作り出す。日本の住宅や都市がその方向に進んでいくための、「スマート化」が必要だ。その価値観の転換には強い動機付けが必要だ。そのためには、従来のライフスタイルの「非物質的」な側面に光を当てる必要がある。その側面の1つとして、住宅の断熱改修における「健康増進」など、新しい価値観を広める必要がある。

省エネ、創エネ、蓄エネといったエネルギーの管理に関するサービス技術だけではなく、IT・クラウド技術の活用による医療や介護、教育、防災といった機能充実、つまりマルチベネフィットの価値観の普及こそ、スマートハウスや環境・創エネリフォームへの説得力を増すものと考える。

賃貸住宅の質向上こそトラブル防止の近道

退去時にトラブルが発生するのは、いわば住宅不満に対する賃借人のしっぺ返しだ。

さらに言えば、持ち家と賃貸に対する住宅政策の偏りの問題もある。どう考えても、わが国の住宅政策は持ち家偏重だ。老後も安心して住み続けられる賃貸住宅政策が取られない限り、〝借りるより買ったほうが得〟と消費者が考えるのは当然だろう。

質の高い賃貸住宅を建設することが賃貸人の賃貸経営にとって有利であることを認識するべきだ。

出典)「健康維持がもたらす間接的便益を考慮した住宅断熱の投資評価
日本建築学会環境系論文集第76巻 第666号 735-740 2011年8月
※断熱性能の低い家から高い家に転居した人を対象に調査