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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた 作者:坂東太郎

『第十二章 エルフ護送隊長ユージは王都に向けて旅をする』

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第十二話 ユージ、最後の宿場町に着いて夜を過ごす

 旅の六日目、ようやく峠を越えて宿場町にたどり着いたユージたち。
 目の前に見える宿場町は100軒ほどの建物が並んでいた。
 峠に差し掛かる前、四番目の宿場町・ヤギリニヨンよりは小さいものの、その他の宿場町よりは大きいようだ。馬を使えば王都への往来が一日で可能という立地ゆえだろう。

 いま、一行は門兵への報告のため足止めされていた。
 町へ入ることはあっさり許可されたが、峠で遭遇した盗賊とそのアジト、そして殲滅について報告していたのだ。

「ではアイアス、それを持って王都へと走ってください。この方が同行してくださるそうです」

「わかりました」

 門兵に主に対処していたのはケビンである。そのケビンが、専属護衛の一人・アイアスに指示を出す。どうやらこれから王都へと早駆けして報告してくるらしい。門兵の一人も同行するため、馬を引き出してきていた。

「ではみなさま、くれぐれも悟られぬようお願いします」

 最後にそう言い残して、ケビンは馬車を進める。
 多少の時間はかかったものの、ユージたちは最後の宿場町へと足を踏み入れるのだった。


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


「ケビンさん、さっきのは何だったんですか?」

 ケビンが手配した宿の一室。
 今日はあえて大きな部屋を取り、10人と一匹が全員同室に泊まるようだ。護衛役が一人不在なため、アリスの兄・シャルルと狼人族のドニの心身が不安定なための選択である。

 まだ9才のアリスと12才のエルフの少女・リーゼはともかく、針子のユルシェルは成人女性だ。
 だが、同じ部屋でいいんですか? と気にしたのはユージのみ。ほかの男たちも、それどころかユルシェル本人もなぜユージがそんなことを言い出すのかわからないようであった。貴族であればともかく、田舎育ちのユルシェルにとって、大人数が同じ部屋で寝泊まりするのは当たり前のことなのだ。むしろ広い部屋で喜んでいるぐらいである。
 それにしてもユージ、ちょっとデリカシーを身につけたようだ。進歩である。

 ユージの質問を受けたケビンは扉に目をやり、続いてエンゾを見る。
 問題ない、とばかりに頷くエンゾ。
 そしてワンッと一声鳴くコタロー。だれもいないわ、と言いたいようだ。
 そのリアクションを見て、ようやくケビンが説明をはじめる。

「ユージさん。盗賊はどうやって狙いをつけると思いますか?」

「え? それはこう、あの時みたいに、先に発見して襲うかどうか決めるんじゃないですか?」

「ええ、その方法もあるかもしれませんね。では、ドニさんはあのアジトを使いはじめてから間もないと言っていましたが、あんなに人里離れた場所に潜めるのはなぜだと思いますか?」

「食べ物は……えっと、狩りとか? あとは襲った荷物から……」

 自信なさげに答えるユージ。
 ワンワンッとコタローが吠える。そうつごうよくいくわけないわ、と言うかのように。

「運が良ければそれでいけるかもしれませんね。ですが、いずれ討伐隊は編成されます。その情報を入手するためにも……ユージさん、盗賊には協力者がいるものです。積極的に協力して報酬を得るため、あるいは脅されてという場合もありますが」

「え?」

「門兵に協力者の情報を伝えました。この町と王都にもいたようです。そのための早駆けですよ」

「は、はあ……あれ? いつの間にそんな情報を? ドニさんはあれから眠り続けてますし、シャルルくんも……」

 そう言って首を傾げるユージ。

「馬車で居残っていたアイアスと、それからユージさんたちがアジトに突入している間に、私と専属護衛が盗賊とお話していましたから」

 にっこりと微笑みを浮かべたケビンの目が光る。
 どうやら誰も見ていないタイミング、誰も見ていない場所でケビンたちは盗賊とオハナシしたらしい。ケビンは後始末は任せてください、と言っていたが、これも後始末の一環なのだろう。やるなら根こそぎ。『戦う行商人』は、二つ名以上に物騒なようだ。


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


「……どうでしょうか?」

「シャルルくんは問題ないでしょう。ドニさんは……エンゾさん、サロモンさん、どう思いますか?」

「呼吸は安定していて熱もない。血を流しすぎただけだろ。薬を飲ませて、目覚めたら肉でも食わせときゃ治るって」

 一度目覚めたものの、再び眠りについたシャルル。盗賊のアジトで気を失って以来、いまだに目を覚まさないドニ。
 容態を心配するユージとアリスを安心させるようにケビンとエンゾが答える。プルミエの街の冒険者ギルドマスター・サロモンも二人に同意するように頷いていた。

「そうですか……ケビンさん、どうしますか? しばらくこの町に泊まって二人が回復するのを待ちますか?」

「アイアスが戻ってきたら、王都へ出発しようと思います。薬は手に入りましたが、この町に薬師はいないようで……急病人は王都へ連れていってるそうなんですよ」

「はあ……大丈夫ですかね?」

「…………俺のことなら気にすんな。行ってくれ」

 かすれた声がユージの耳に届く。

「ドニおじさん! ドニおじさん!」

 目を覚ましたドニの下に誰より速く向かったのはアリスだった。その勢いのままベッドに横になっているドニに飛びつく。

「アリス、大きくなって……。すまねえアリス。二人とバジルは……」

 アリスの肩を抱き、顔を歪めるドニ。

「シャルル兄から聞いたの」

 ドニの毛皮に顔を埋めるように、アリスはぐりぐりと頭を押し付ける。強い子である。いや、この世界の価値観がこうなのかもしれないが。

「ドニさん、この薬を飲んでください。いけそうなら食事にしましょう。盗賊は殲滅しましたし、協力者も手配済み、シャルルくんは助け出しました。詳しい話はもう少し体力が戻ってから聞かせてください」

「ずいぶん手回しがいい……そうか、ゲガス商会あがりだったか。すまねえ」

 ケビンから手渡された薬を飲み込むドニ。ゆっくりと目を閉じて、再度口に出す。

「馬車で運んでくれたんだろ? 行けるなら王都まで行ってくれ。俺はともかく、シャルルは早く医者か薬師に見せてやりたい」

「ドニおじさん! アリス、シャルル兄とおしゃべりしたんだよ! シャルル兄、大丈夫だったよ!」

「そうか、よかった……あの日々は無駄じゃなかったんだな……」

 横たわるドニの目からは、涙がこぼれていた。

「ユージさん、では今日はこのまま泊まって、明日朝、アイアスが戻り次第出発しましょう」

「わかりました。『リーゼ、明日は王都に出発するってさ』」

『うん……』

 わずかにうつむき、小さな声で答えるリーゼ。
 王都に着いて、エルフの冒険者に会えばそこで旅が終わるかもしれないのだ。寂しさを感じているのか、そこに出発時ほどの元気はない。
 そんなリーゼに、近づいたコタローが後脚で立ち上がり、前脚をリーゼにかける。さびしいけどさいごまでわらってなさい、と励ましているかのようだ。優しい女である。犬だが。そして前脚の爪がリーゼの服に引っかかり、服に小さな穴が空いていたが。

 旅の六日目。
 王都へ向かう最後の夜、大部屋にあったベッドをくっつけて、アリスはシャルルとリーゼの手を握って眠る。
 リーゼの横にはコタローとユージ。
 サロモンとエンゾ、ケビンの専属護衛が交代で見張りを立てつつ、六日目の夜は更けていくのであった。

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