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ブルーバックス
『ブラタモリ』が僕らの「知的興奮」をくすぐる理由
絶滅の危機に瀕した「地学」を救え!

私と共著者の久保は多くの方の協力を得て今年の1月中旬に『日本列島100万年史』を上梓した。講談社ブルーバックスの2000番という記念すべきときにこの本を出していただいたことに大変感謝している。

おかげで、売れ行きも好調で5万部を突破し、今も増刷が重ねられている。けれど、著者である私自身、正直この本がこんなに売れる、つまり多くの方に興味を持っていただけるとは思っていなかったのだ。

この本は、◯◯年前にどこで何が起きたというような日本列島の地史を経時的に述べたものではない。現在人々が日常目にする地表の凸凹、つまり地形が、どのような要因で、そして、どのような歴史を経て形成されてきたのかを、各地のトピックとして述べたものである。

これは学問の分野では地理学と地質学の中間に当たる地形学の中の地形発達史と呼ばれるもので、日本でこれを仕事としている人の数は極めて少ない地味な分野だ。

 

ブラタモリで「地」を感じる

しかし、この分野にも人々が関心を持ちそうな予兆はあった。それは、NHKで土曜日の夜のゴールデンタイムに放送されている「ブラタモリ」である。

多くの方がご存知だと思うが、この番組は単なる旅番組ではない。地形好き、地学好きのタモリさんが、全国各地をブラブラ歩きながらその地域の成り立ちや特徴を、地形やそれに関連する自然現象あるいは人文現象と関連させて解明していく、視聴者の知的好奇心を満足させる教養娯楽番組である。

2008年から断続的に始まり、その後、2015年からレギュラー番組となった。視聴率は最初8%台だったがレギュラー化以降は10%以上を稼ぎ、最近は15%に達することもあると聞く。

競合番組がしのぎを削る時間帯にあって、紀行番組がこのような高視聴率を保っている理由は一体何だろうか。一つはタモリさんのキャラクターにあることは間違いない。もう一つはこの番組が、我々の身近にあるのに普段は全く意識しない地形や、それに関連する自然現象の意味や役割、互いの関連を判りやすく説明していることである。そこに、多くの人が興味と面白さを感じているのであろう。

人々は地上に住み生活しているが、そこには普段は気が付かない多くの謎や疑問がある。それについて、地形を鍵として、アカデミックなふりをせずに、視聴者目線で見事に解き明かしてくれることが人気の秘密ではないだろうか。

また、同時にその謎や疑問は他の現象と思いもかけない形で関連していることも明らかにしてくれる。そこに視聴者が「ああそうだったのか」とうなずいて納得するのである。

我々は大学で地形発達史の授業や研究を行い、細かい分析を重ねて地形形成のメカニズムや歴史を調べてきた。これはこれでやっていてなかなか面白いのだが、狭い範囲に対象を絞っているがゆえにマニアックになってしまうこともまた事実である。

同じ地形を扱っているのにブラタモリが人々を引きつける理由は何であろうか。