青林堂事件から考える労働者の<パワハラ>対処法

ブログ「『ガロ』で有名な『青林堂』のパワハラ不当労働行為事件」より

青林堂パワハラ事件とは

青林堂パワハラ事件とは、同社の社員が労働組合に加入したところ、青林堂が彼を解雇。解雇理由について青林堂はいろいろと並べたのですが、東京地裁の仮処分手続で解雇は無効と判断され、社員側が勝利。そして、職場復帰したところ、壮絶なパワハラに遭って精神疾患となってしまい、その社員が慰謝料等を求めて提訴した事件のことです。

報道も複数あります。

「バカ」「左翼」「スパイ」老舗出版社の従業員が浴びた罵詈雑言の数々 その衝撃的な音声データの中身は…

外出禁止なのに自費出版の営業命令…出版社「青林堂」従業員、パワハラ訴え提訴

などなど。

先日、産経新聞系ネットメディアのiRONNAというサイトに、青林堂パワハラ事件の件で寄稿の依頼がありましたので、書いて寄稿しました。

以下が記事です。

青林堂社長にこれだけは言いたい 「パワハラに右も左も関係ない」 (佐々木亮)

せっかくの機会ですので、この事件を題材にパワハラ事件では、どういう証拠を集めておけばいいかについて説明していきます。

社会問題化するパワハラ

厚生労働省が平成28年6月に公表した「平成27年度個別労働紛争解決制度の施行状況」のプレスリリースでは、「総合労働相談は8年連続100万件超、内容は「いじめ・嫌がらせ」が3年連続トップ」との見出しとなっています。

具体的には、平成24年度は5万1670件、平成25年度は5万9197件、平成26年度は6万2191件、平成27年度は6万6566件です。

見て分かるとおり相談件数自体が上昇傾向といえます。

特に平成27年度は、2位の相談が「解雇」でだったのですが、その件数は3万7787件であり、約3万件の相談件数の差をつけ、圧倒的1位となっています。

こうしてみると、青林堂のパワハラだけが特異というわけでなく、残念ながら、我が国ではパワハラが蔓延(はびこ)っているということにります。

パワハラに遭ったらどう対応するか?

メモ

まずは、メモをとりましょう。

メモを取らないと、「いつ・どこで・誰が・何を」というところが時の経過とともに曖昧になってしまいます。

人間の記憶は、どうしても薄れていきますので、やられたことをメモしておく、というのは大事です。

この場合、手書きの方が、後で改変したなどと言われにくくなります。

また、スケジュール手帳などに書くと、「いつ」のところがカバーされやすくなります。

録音

次に、客観的な証拠を確保しましょう。

メモは証拠になりますが、ただ証拠の価値としては、客観的なものより劣ってしまいます。

やはり、証拠は客観的なものの方が価値が高いのです。

そこで、暴言系のパワハラに対しては、録音するのがベストということになります。

この点は、次の記事にも書いていますので、ご参照ください。

上司との交渉や職場での会話の録音~バレたら解雇?

ちなみに青林堂事件では録音記録がたくさんあるためにメディアから多く注目されたという背景があります。

録音の内容については、以下の記事で聴くことができます。

青林堂の社員「パワハラで適応障害・休職」と提訴 経営者から「バカ」「スパイ」と連日罵声

写真

他にも、いじめられたことが分かる証拠物を写真に撮るなども客観的な証拠になります。

国際信販事件(東京地裁平成14年7月9日判決)では、ホワイトボードに「永久に欠勤」と書かれたという事実がありました。

こうした場合は、これを写真に撮るということが考えられます。

青林堂事件では、社員がストライキをしている、と会社が勝手に決めつけて、給料を半分にし、その上、タイムカードに「スト中」などと書き込むという嫌がらせをしています。

社員は、そのタイムカードの写真を撮り、裁判で証拠として提出しています。

暴力系の場合は

また、暴力系のパワハラを受けた場合は、傷や痣の写真を撮ることと、その日のうちに病院へ行って診断を受けることも必要です。

もちろん、暴力は犯罪ですので、別途告訴して刑事事件にすることも考えられます。

青林堂事件では両側から押すパワハラ

さすがに青林堂事件では、暴力はありませんでしたが、社員を両側から挟んで押すということはありました。

なお、この様子は録音されています。

訴状では、次の通り記載されています。

平成28年1月26日、被告社長と被告専務は、原告が座っている椅子に自らが座っている椅子を近づけてきた。原告から見て右から被告専務、左から被告社長が、原告の椅子と両者の椅子がぶつかるほどの距離に接近させ、被告専務は自らの左肩から左肘にかけての上腕部分を、被告社長は自らの右肩から右肘にかけての上腕部分を、原告のそれぞれの上腕部分に押しつけてきた。原告が困惑して

や、そこ。いやいや。

いや、ちょっと待ってください、ちょっと待ってください。だって。

違います、違います。

めっちゃ近いです。

と述べているにもかかわらず、被告専務は「ううん、ううん、近くないよ。近くないよ。近くないよ。」などと述べ、左上腕を押しつける行為を止めなかった。被告社長も同調して行為を継続した。

たまらず、原告が立ち上がると、被告専務は、「あ、業務命令です、座ってください。」と述べ、さらに行為を継続しようとした。原告が「僕、ここにいますんで。ここにいますんで。」と述べたところ、被告社長は「業務命令で座れ。」と述べ、やはり座るように要求した。

出典:青林堂事件・訴状より(読みやすいように改行してある)

何やってんだよ!(笑)

と言いたくなる場面ですが、原告本人にとってはショックの大きかったシーンです。

最後に「業務命令」を振りかざすところは、ザ・パワハラという感じです。

会社作成文書

他にパワハラ事件での証拠としては、指示命令文書やメールなど使用者作成文書も有力な証拠になります。

さらに、当時の状況を証するものとして、机の配置図、組織図なども役に立つことがあります。

証言など

また、職場の同僚(元同僚も含む)で協力してくれる者がいればその陳述書、証言記録も有力な証拠となります。

ただ、こうした人がいる場合はほとんどありません。

仮にパワハラを目撃していたとしても、在職中の人が労働者側に協力してくれることはほぼありません。

ですので、「〇〇さんが見ていたから大丈夫」と思っていても、それは証拠とならないばかりか、パワハラはなかったと逆のことを言うこともあります。

ですので、やはり客観的な証拠を集めることが大事なことになります。

精神疾患の場合

精神疾患になってしまった場合は、因果関係の立証がポイントとなります。

この場合は、医療記録(カルテ等)によって、当時から客観的事実に沿う訴えを医師に向けてしていれば、有力な証拠になります。

また、発症時期がポイントになることが多いので、当時の被害者の様子がわかる証拠(健康診断記録、ストレスチェックの記録、カルテ、同僚などの証言、家族の証言など)を収集することも必要です。

一人で抱えないこと

いずれにしても、パワハラに遭うということは非常に辛いことです。

こうした問題を一人で抱えると大変です。

青林堂事件では、労働組合(東京管理職ユニオン)があったおかげで、常に相談相手はいましたので、その点は良かったのかもしれません。

パワハラから身を守るために

青林堂事件は、数多くあるパワハラ事件の1つです。

しかし、同事件がここまで注目されたのは、客観的な証拠があったからでしょう。

第三者に事実を認めてもらうということは、実は非常に大変なことなのです。

その意味で、パワハラに遭った場合の対処法を身につけるのは、今の時代では大事なことだと思います。

もっとも、本来はパワハラ自体をなくしていくことが必要です。

その点の施策については、また別に書ければと思います。