上司が部下に指示を出す時、「なるべく」というのは便利な言葉です。
例えば書類の作成を指示するとき、「なるべくいいものを」「なるべく早く提出して」といえば、指示したような体裁は取れてしまいます。
本来「なるべく」というのは、無理であればできる範囲でいいよ、という意味も含みますから、むしろ部下の都合に配慮しているようにも見えて、無理でも何でもやれ、という指示よりも、むしろ部下思いのように見えます。
しかし、実際には、この言葉を多用していると、かえって部下の非効率な業務を増やし、往々にして長時間労働を招いてしまいます。
その言葉をかけた結果出来上がってきた書類が必要とするクオリティに達していなければ、当然、注意の上、やり直しを命じるよりありません。
部下の立場からすると、誰でも怒られたり評価が下がったりするのは嫌ですから、次からは、「なるべくいいものを」といわれたら、結局、無理してでも完璧なものを、なるべく早く作成しようとするしかありません。そのため、結局、本来どうでもいいところまで気を配って時間をかけて、結局長時間労働を招くことになってしまいます。
ところが、そうやって時間をかけていると、今度は、「なるべく早く」といっていたのに、想定しているよりも時間がかかっているので、催促せざるを得なくなってしまいます。
その結果、結局部下としては、残業してでも早く仕事を完了させなければならず、労働時間の長時間化を招いてしまいます。
しかも、このことに、上司は通常気づいていません。
むしろ、最初に「なるべく」といって、そこまで無理しなくていいといっているのに、なぜ残業してまでやるんだろう、と不思議に思いますし、それが続くと、自分の指示の問題には気づかない今ま仕事が遅い、無駄な残業が多いと叱責することになります。
この状況が悪化すると、サービス残業や仕事の持ち帰りといったブラック企業化が始まってしまいます。
そうはいいつつも、実際に部下に指示を出す側になってみると、わかりやすい指示を出すというのは難しいもので、私自身も、色々と試行錯誤をしながらやっているところです。
そんなことで悩んでいる時に、ふと、2年ほど前に読んだ本が、Amazonの読み放題サービスに入っていたのを見つけたので、読み返してみました。
以前に読んだ時にはあまり気にしなかったのですが、この本、単なるコンサルタント向けの知的生産術、という以外にも、このようなマネジメントで悩む人にとっても、非常に有用な内容が多く含まれています。
特に、上で書いたような、「なるべく」という指示について、「ダメな指示の典型」、「もっとも避けなければならないのが、『なる早で』という指示」などとした上で、「指示は『行動』でなく『問い』で出す」というポイントを提示してくれます。
私も早速試してみましたが、これを実践しようと思うと、自分自身がよくよく考えなければいけない。何が問題なのか、ということがわかっていなければ、適切な問いを投げかけることもできません。
逆に言えば、それまで、自分自身よくわかっていないまま指示を出していたということでもあるわけで、反省しなければならない、と改めて感じさせられました。
そういえば、この本には、こんな一節がありました。
しかし残念ながら、こういう指示を出す管理職やリーダーが少なくない。おそらく本人自身がそういうブルドーザーのような非効率な仕事をやってきたのでしょう、典型的な「頑張っているのに評価されない」とグチをこぼすタイプです。こういう人は自分そういうつらい経験をしてきたので、同僚や部下にも同じことを強いるというとても困った傾向があります。
実に耳の痛い言葉ですが、改めて、自分の頭で考える、ということの重要性を実感させられる本でした。
自分はコンサルではないから関係ない、と思っていた管理職の方などにも役立つ内容が含まれていますので、ぜひご一読されることをお勧めいたします。
※前回記事は多くの方に読んでいただき、ありがとうございました。この記事も、気に入っていただけましたら、是非シェアをよろしくお願いいたします。