ノルウェーよりさらに北、北極に浮かぶスヴァールバル諸島には、地球上に存在するありとあらゆる植物の種子を保存する為の施設、スヴァールバル世界種子貯蔵庫がある。
これは、2007年、ビル・ゲイツ主導のもと、今後予想される大規模で深刻な気候変動や自然災害や核戦争などに備えて農作物種の絶滅を防ぐとともに、地域的絶滅があった場合、栽培再開の機会を提供することを目的としてつくられたものだ。内部では、大量の種子が北極海の氷に冷やされて眠っている。
この貯蔵庫が活用されるのは、遠い未来になる予定だった。
ところが既にこの貯蔵庫が使われる事態となっていたようなのだ。
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シリア内戦により研究用の種子が不足
貯蔵庫に眠っていた種子が取り出されたのは2015年のことだ。豆類、穀類、まぐさなどの種子サンプルが、国際乾燥地農業研究センター(ICARDA)に送付された。
imege credit: ICARDA
ICARDAは、砂漠などの乾燥した土地における農業生産性の向上と、貧困の軽減に取り組んでいる研究機関で、鳥取大学と学術交流協定を結んでいる。
種子貯蔵庫の設置時には、ICARDAからも多様な種子サンプルが預けられた。遠い未来における地球の大変動に備えてのことだった。
しかし、2012年、シリア内戦の激化により、種子を回収することが不可能になったのである。
imege credit: ICARDA
このような事情により、2015年9月、ICARDAはスヴァールバルに貯蔵した種子の貸し出しを依頼した。ベイルートでの研究に必要となったのである。
それから17ヶ月の間に、研究者たちはその種子を2倍に増やし、同一のサンプルセットを作成した。こうして、今年の2月、再びスヴァーバルの貯蔵庫に種子を預けたのである。そのサンプル数は15,420種にのぼる。
テストケースとしての意義
もちろん、設置からわずか7年で貯蔵庫のドアを開ける必要に迫られたのは、望ましいことではない。
「こんなに早く回収することになるとは予想していなかった」と語るのは、トラストのスポークスマン、レイノフ氏。しかし、見方を変えれば、今回の「貸し出し」は貯蔵庫運用の良いテストケースになったともいえる。
imege credit: NordGen/Dag Terje Filip Endresen/Wikimedia Commons
ICARDAの Aly Abousabaa 所長は、「不都合な状況によってではあるが、遺伝子貯蔵庫が信頼に足ることが証明された。我々は、食物の心配のない世界に一歩近づくことができる」と語った。
農作物の未来が北極海の氷の中に封じられているのなら、それがキチンと機能するということを知っているのも悪くないだろう。
via: Atlas Obscura・translated by K.Y.K. / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
日本でも、種子法によって国内の種子を大切に保存し、日本の農業を守る上で重要な役割を果たしてきた。しかし、種子法は廃止された。
今後は、モンサントが参入し、遺伝子組み換え種子が普及するだろう。収穫のたびにモンサントから種子を購入しなければ農業ができなくなる。そして、モンサントから肥料を買わなければ農業ができなくなる。完全なモンサント支配が成立する。インドや南米の二の舞い。
2. 匿名処理班
日本の様な天然シードバンク天国状態だったら、放っておいても勝手に草が生えて木が茂り、絶滅したと思われていた草木までもがひょっこりと顔を出して学者を驚かす事があるけど、世界の大半の場所はそうじゃないもんね…。
3. 匿名処理班
研究用の種子に頼らなきゃならないほど困窮してたの?
シリアってひどいとこだな、国とか政府とかなんで存在してるのかわからないな
4. 匿名処理班
凄いな。
考えることのスケールが違う。
5. 匿名処理班
シリアは、去年の国境なき医師団やユニセフの報告では餓死者が出ていた
家畜のエサを食べて生き延びていた所もあった
かつての豊かなシリアの食生活を支えていた植物の種子を再び人々の糧としてほしい
6.
7. 匿名処理班
短期組、長期組、超長期組
とか作って再生能力の比較を取らないと死蔵することにならないかな
それとも保存だけで手一杯なんだろうか