体重が200トンもあると、体をわずかに動かすだけでも多くのエネルギーを必要とする。地球上で最も大きな動物シロナガスクジラが、餌の選り好みをするのはそのためだ。(参考記事:「【動画】授乳中と思われるシロナガスクジラの親子」)
ドローンで新たに撮影された美しい映像は、この巨大な哺乳動物が最も栄養分の多いオキアミの群れだけを狙って捕食する様子をはっきりとらえており、この選択がどのようになされるのか理解する手がかりを与えてくれる。
食べる時にはブレーキをかける
撮影したのは、米オレゴン州立大学海洋哺乳類研究所のリー・トーレス氏が率いる研究チーム。トーレス氏はナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもある。ニュージーランドに近い南極海で撮影したこの映像は、クジラがオキアミの群れを見つけ、体力を使うだけの価値があるかどうかを品定めしている瞬間を見せてくれる。オキアミは体長約5センチのエビに似た甲殻類で、その群れは海面下にある色の薄いぼんやりとした塊のように見える。
映像の中で、シロナガスクジラは、群れに近づくと横向きになって口をわずかに開く。それから尾を上下に動かして、オキアミの群れに向かって口から突進する。(参考記事:「【動画】ザトウクジラが桟橋前で大口開け食事」)
科学者らによれば、このクジラが群れに近づくスピードは時速約10.8キロ。その後大きな口を開くのに多くのエネルギーを使ったため、時速約1.8キロに減速した。(参考記事:「【動画】クジラが集団大移動するレア映像を撮影」)
「車の運転中、100メートルごとにブレーキを踏み、またアクセルを踏むようなものです」と、トーレス氏はプレスリリースで説明している。「クジラは、いつブレーキをかけてオキアミの群れを食べるか、選択的にならざるを得ません」
巡航速度に戻るには多大なエネルギーを必要とするため、シロナガスクジラは狙う群れを慎重に選ぶ。
続くドローン映像には、クジラが体力を使う価値がないと判断したオキアミの群れを通り過ぎる様子が写っている。小さめの群れに近づいたシロナガスクジラは、口をわずかに開いた後、うつぶせになり、食べようとはせずに群れを横切って泳いでいく。
トーレス氏は、このような摂食行動から、シロナガスクジラが計算の上で判断を行っていることがわかるという。この判断過程を理解できれば、どのような環境条件でオキアミの群れがシロナガスクジラにとって魅力の乏しいものになるかがわかる。ひいては、絶滅が危ぶまれるこのクジラの健康と生息数にどのような影響を及ぼすかを解明する助けになるだろう。(参考記事:「パタゴニアでクジラが謎の大量死」)
オキアミの密集度合が判断の分かれ目?
「オキアミがクジラの餌になり得るかどうかは、人間の活動に影響を受ける可能性があります」とトーレス氏は電話で説明してくれた。「海にオキアミがいるだけでは、クジラにとって良い生息環境にはならないことがほぼわかっています。密度の高い群れでいることが重要なのです」
オキアミ漁と水中の汚染物質は、どちらもオキアミが群れを作りやすいか否かに影響を及ぼす可能性がある。(参考記事:「シロナガスクジラが漁具にからまる、救助難航」)
シロナガスクジラは国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧種に指定され、国際捕鯨委員会(IWC)により保護されている。一時は絶滅寸前に追い込まれ、1960年代にIWCはこのクジラの捕獲を禁止した。(参考記事:「絶滅危惧種のナガスクジラ漁岐路に、アイスランド」)
飛行機やヘリコプターを使って野生のクジラを観察する従来の方法は、効果が乏しく、環境を破壊する可能性も高かった。一方、ドローンの登場により、研究者らはクジラの行動や習性を、より近くから環境を傷つけることなく観察できるようになった。ただし、動物から安全な距離を保ってドローンを飛ばすのが重要であることに変わりはないと、トーレス氏は語る。(参考記事:「中型クジラ82頭が集団座礁で大量死、米国」)
トーレス氏の研究チームは、次は米オレゴン州沖でコククジラの行動を観察する予定だ。(参考記事:「商業捕鯨再開へ首相意欲、海外の反応は」)