[PR]

 契約に関するルールを定めた民法の規定(債権法)の改正案が成立した。社会の変化に対応するとともに、裁判を重ねて確立した考えを明記し、分かりやすくするのがねらいだ。

 実に120年ぶりの大幅見直しで、市民一人ひとりの生活や企業経営に大きな影響が及ぶ。このため法律が施行されるのは「公布から3年以内」と余裕をもって定められた。

 国や自治体はこの期間を有効に使って広報活動にとり組むとともに、消費生活センターなどで市民の支援にあたる職員の研修に努め、混乱を招かないよう万全を期してほしい。

 改正点は多岐にわたる。

 ▽当事者間で利息についての合意がないときに適用する「法定利率」を年5%から3%に引き下げ、さらに市中金利の動向をみて3年ごとに見直す。

 ▽取引形態によって違う借金返済の時効を5年に統一する。

 ▽経営者以外の人が事業用融資の保証人になる際、公証人が面談して意思を確認する。

 ▽しばしば争いの原因となる保険や通販などの定型約款について、利用者の利益を一方的に害する条項は無効とする――。

 全体に評価できる内容で、成立を歓迎したい。だが国会では問題点もいくつか浮上した。

 例えば、人間関係からやむなく保証人になるケースも多い。公証人による意思確認だけで、そうした人たちの保護につながるか疑問で、より踏みこんだ措置が必要だといった指摘だ。

 法案修正の話も持ちあがったが折りあわず、「施行後、必要に応じ対応を検討する」という付帯決議にとどまった。

 同じ法務委員会に付託された「共謀罪」法案が微妙な影を落とした。今国会での成立をめざす与党が、「民法についてもっと議論を」という声を退け、審議の終結に走る。野党側も昨年来の独自の修正案にこだわり続ける。法案をどう良いものにするかよりも、国会戦術や思惑が先に立つ場面が見られた。

 そもそも民法改正案は、2年以上前に国会に提出されながら、安保法制の採決強行による混乱などから、長くたなざらしにされた経緯がある。

 法案審議をめぐる与野党のかけひきはつきものとはいえ、取引社会を支える基本的なインフラである民法が、政治の波に翻弄(ほんろう)され続けたのは残念というほかない。利用者である市民や企業の存在は、議員たちの視野にどこまで入っていたか。

 国会の役割は何か。「熟議」をなり立たせるために何が必要か。あらためて問われている。

こんなニュースも