【ワシントン=川合智之】米下院は4日の本会議で、医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案を217対213の僅差で可決した。上院でも可決されれば、前政権の看板政策を見直すトランプ大統領の最重要公約が実現する。トランプ氏は4日、ホワイトハウスに共和党議員を集めて祝賀式典を開き「上院も通過するだろう」と自信をみせたが、審議は難航するとの見方もある。
トランプ氏は「(保険料は)下がり始めるだろう」と成果を強調した。集まったライアン下院議長ら共和党議員の努力に謝意を示し、「我々が勝った」と誇った。法案成立前にこうした式典を開くのは異例だが、公約実現に前進したことを支持者にアピールした。5日にはツイッターに「我々は真に偉大な医療保険制度を持つことになるだろう」と投稿した。
オバマケアはすべての国民が保険に加入できることを目指し、2014年から国民に保険加入を義務づけた。保険プランに政府補助金を出して購入しやすくし、2千万人以上が新たに保険を得た。米統計局によると、米国人の医療保険未加入率は完全施行前の13年は14.5%だったが、15年は9.4%まで減った。
ただこれまで保険に入りたくても入れなかった人たちが大量に保険加入したため、予想を超えて保険会社の負担が増え、保険料の引き上げや保険販売の撤退が相次いだ。既に保険を持っていた人たちは保険料引き上げに不満を持ち、政府補助金による負担増を嫌う共和党がオバマケア見直しを主導した経緯がある。
こうした中で共和党が打ち出した代替法案は、オバマケアから保険加入義務を撤廃し、低所得者向け保険への政府支援を縮小する内容だった。だが、共和党内で代替法案に異論が続出。無保険者の増加を懸念する穏健派議員と、さらに政府補助金を減らすべきだと主張する保守派議員がともに代替法案に反対した。
共和指導部は3月に予定していた採決を見送り、病歴のある加入希望者に保険会社が割増保険料を請求することを認める一方、既往症のある人に保険料補助を出すなど、保守派、穏健派双方の議員に配慮して法案を修正。可決に必要な過半数を何とか確保した。それでも共和議員20人が反対に回る薄氷の可決だ。
上院ではさらに党内調整が難航しそうだ。下院を通過した法案を修正しなければ同意しないとする議員は多く、コーカー上院外交委員長(共和)は4日、法案修正されない可能性は「ゼロ」と言い切った。民主党も徹底抗戦の構えで、上院通過は見通せない。
4日の下院本会議では、採決直後に野党・民主党議員が「さようなら!」と共和議員に声をかけた。法案に賛成した議員は18年の中間選挙で敗れ、議席を失うという趣旨だ。代替法案が成立して保険を失うのは、トランプ氏を支持した労働者層が中心とみられている。中高年層の保険料が上がるとみる専門家もおり、共和党への失望が高まれば再び制度の見直しを迫られる可能性もある。