「円卓の騎士の中で、聖杯探索で活躍したのがパーシヴァル卿です。パーシヴァル卿、ガラハッド卿、ボールス卿の三人で、最終的に聖杯を見つけたんですね」
「聖杯を見つけたとは、すごいですね。アーサー王物語の中では英雄じゃないですか」
「パーシヴァルは、最初から騎士で活躍する、とは期待されてなかったそうです。聖杯探索ではそれなりに活躍はしますが、しくじってしまいますし、歴史上のパーシヴァルは悲しい結末なのです」
「へえっ、それはどういうことですか?」
騎士とは離れた生活をしたパーシヴァル
「パーシヴァルはペリノア王の息子で、まだ幼いころ、父は殺されてしまったんだ」
「やったやられたの復讐が始まってしまう。生命の危険にさらされる騎士の世界には、入って欲しくなかったのかもしれない。パーシヴァルの母はパーシヴァルと弟をウェールズの森で育てたんだ」
「じゃあ、パーシヴァルはずっと森の中の生活だったのです?」
「森の中に住んでたとはいえ、アーサー王や円卓の騎士を目撃することは何度もあったようだ。成人するにつれて、パーシヴァルに流れる騎士の血が、目覚め始めたのかも知れないな。次第に騎士にあこがれを持つようになったんだ」
「パーシヴァルは、アーサー王の宮殿に行きたい、騎士になりたいと思い、とうとう森を抜けてアーサー王の宮殿に行こうと決心したんだ」
「母親は、せっかく騎士にならないように育てたのに、がっかりしたかもしれませんね」
「カーライルにあるアーサー王の宮廷に着いてみると、グウィネヴィア王妃が赤い騎士にワインをかけられ、その騎士が急いで立ち去っていくのを見かけたんだ。パーシヴァルはその悪態をついた騎士を追い、やっつけたんだ」
「更にパーシヴァルは騎士道も学び、円卓の騎士の一員として認められ、聖杯探索に出かけることになったんだ」
聖杯探索でしくじり
「聖杯探索に出かけるきっかけは何だったんでしょうか」
「ある時パーシヴァルは、母親に会いに行く道中で漁師に会い、古い家系の人々が住むカーボニック城に行きなさい、と言われたんだ」
「その城で、パーシヴァルは年老いたペラム王と会ったんだ」
「しかし、パーシヴァルが次の朝起きてみると、ペラム王が持っていた剣は壊れ城は荒廃していた。そしてパーシヴァルは辛うじて脱出することが出来たそうだ」
「ペラム王は癒えることのない傷を足や股に負ってしまい、自分の足で歩くことが出来ないほど虚弱になったんだ。ペラム王は国を治めることもできず、王国もペラム王と同じように病んでしまい、肥沃な国土は荒れ野へと変わってしまったんだ」
※ペラム王は、傷ついた王(wounded king)や、釣りしかできないフィッシャーキングとも呼ばれた。
※聖杯は病気の治癒などの奇跡をもたらすと言われている
「このためペラム王を癒して国を立て直そうと、ガラハッド卿、ボールス卿とパーシヴァル卿の三人の円卓の騎士が中心となって聖杯探索に行ったんだ」
「へえ、そんな伝説があるんですね。それで聖杯は見つけられたんですか? パーシヴァルはどんな役を担ったのですか?」
「何年かの旅を続けて、ようやく聖杯をカルボニック城で見つけたんだ。最初は聖杯の場所をパーシヴァルが見つけたらしいけど、聖杯に何の問いかけもせず、手ぶらで戻ってきてしまい、失敗に終わったんだ」
「バーシヴァルはダメじゃないですか?」
「次に、ランスロットが登場するんだ。しかし、アーサー王の王妃グイネヴィアとの不倫をしており、それが原因で聖杯を見ようとした瞬間卒倒したんだ」
「そしてついに、ガラハッドがようやく聖杯を手にすることができたんだ」
「パーシヴァルにはこんな説もあるんだよ。ペラム王の癒えない傷は、ペラム王の兄弟を殺した刀の破片で傷ついていたことが分かったんだ。聖杯を手にしたにもかかわらず、フィッシャー王の傷は、殺人者が罰せられない限り癒えなかった。パーシヴァルはその悪党を見つけて殺したところ、王は復活したそうだ」
「なるほど。とりあえずパーシヴァルも活躍したんですね」
※聖杯探索で最も活躍したガラハッド
実在人物のパーシヴァル
「パーシヴァルは実在人物だったのですか?」
「そうだな。アーサー王物語よりも後の時代になるんだけど、エブラウク国の王であるエリファーの息子で、鉄の腕を持つペレディル(Peredyr)と呼ばれ、後に双子の兄弟グワルギと共に国を治めた人物なんだ」
※西暦510年生まれ、580年没とされています
「へえ、パーシヴァルもモデルとなる実在人物がいて、やっぱり王だったんですね」
「ウェールズの伝説によると、彼らの父エリファーは、ペレディルが幼いころに殺され、母は二人の息子を連れて育てた、と言われているんだ」
「その生い立ちは、パーシヴァルと似てますね」
「アーサー王物語では、叔父のペラム王を助けるために聖杯探索に出かけて悪者を倒すんだけど、実際はかたき討ちの戦いなんだ」
「こちらも、なんとなく似ている感じですね」
「ペレディルの場合は、人生の中の多くの時間を、父親殺しの復讐のために費やしたようだ。父親殺しの相手は、ケル・ウェドレウ国(Caer-Gwenddoleu)を治めるグウェンドレウ王だったんだ」
「ペレディル兄弟は、ストラスクライドのリデルヒ・ハエル王(Riderch Hael)、ドゥナウティング国のドゥナウト王(Dunaut Bwr)と同盟を結び、グウェンドレウ王と戦ったんだ」
「ペレディル王、リデルヒ王、ドナウト王の三人が、聖杯探索のパーシヴァル卿、ガラハッド卿、ボールス卿みたいですね」
「573年にカーライル付近でArfderyddの戦いが起こり、ペレディルの連合軍はグウェンドレウ王に勝利したんだ。グウェンドレウ王は戦死し、ついに父親の仇を取ったわけだ」
「573年というと、510年生まれのペレディル王は63才ですよね。本当に仇を取るために長い年月を要したんですね。復讐が終わり、これで平和に暮らしたのですか?」
「いや、新たな強敵が出現するんだ。当時のブリタニアはアングロサクソン族が勢力を広げて、ペレディル達のケルト系ブリトン人を脅かしていたんだ」
「エブラウク国の北部にはベルナシア国、南部にはデイラ国が出来て、侵略の圧力が増していたんだ」
「ペレディルと弟はベルナシア国と戦うために北部へ進軍したけれども、兄弟はベルナシアのアッダ王に敗れれ戦死したんだ。さらに、デイラ国のアエラ王もエブラウク国を攻めてきて、ペレディルの息子は国から追い出されてしまったんだ」
「アングロサクソン族たちに、ペレディルは国を奪われてしまったわけですね。結末は悲しいですね」
Battle of Arfderydd - Wikipedia
おまけ
「ここで、一つ興味深い話があるんだ。ペレディルがかたき討ちをしたグウェンドレウには、マーリンと呼ばれる吟遊詩人が仕えていたんだ」
「マーリン? 魔法使いのマーリンですか?」
「そうだ。魔法使いのマーリンは、ここに登場するマーリン( Myrddinまたは Merlin)がモデルになっているといわれているんだよ」
「マーリンは、数少ない生き残りであったが、気が狂い(現在のスコットランド)の森へ逃げ込んだそうだよ」
最後まで読んでくださり有難うございました。