<本記事の目次>
- 1.はじめに
- 2.「立命館pixiv」案件について~とある「文章のフィルタリング研究」案件のこと~
- 3.情報学の研究に文化人類学的な調査手続きは必要か~むすび~
- 4.追記:まとめ②のタイトル修正および内容に関する補足(2017.5.27_0031更新)
1.はじめに
本記事では、pixiv内の(公開範囲が制限されていたと思われる)作品が、著者に対して事前の許可なく研究に使われ、その研究結果についてweb上にPDF文書の形で公開された問題について、扱います。今回の案件について、自分なりに調べ、大雑把に言うと、PDFの執筆者が、異文化に対して気づけないことが多かったことが、根っこにあったのではないか、と考えました。
先にお断り致しますが、本記事は、学術論文への引用に関する著作権のことには、タッチしません。なぜなら、私は法律の専門家でないことに加え、学術の分野によって、著作権に関する法律の解釈が難しかった経験を、度々、学会や研究室でしたからです。境界分野をやっていたこともあって、そのあたり、論文を書いていて、査読のリジェクトを食らい続け、現在もよく分かっていません。加えて、自分で調べていて、問題の論点は、著作権とば別のところにあると認識しております。
前置きが長くなりましたが、そろそろ、本題の第2項に進みましょう。
2.「立命館pixiv」案件について~とある「文章のフィルタリング研究」案件のこと~
2-1.事の発端と背景について(5月25日の日中まで)
事の発端は、人工知能学会の全国大会(第31回)のサイト内にて、学会員外の一般の人でも見られる形で、発表報告のレジュメ=梗概と思われるPDFファイル「ドメインにより意味が変化する単語に着目した猥褻な表現のフィルタリング」でした。
この発表の研究は、イラストや漫画、文章作品の投稿を中心とするSNSサービスpixivに公開された、BLを含む二次創作の小説でR-18指定ものについて、「青少年にとって有害な情報,特に猥褻な意味を持つ言葉は直接記述されず暗喩により表現」を含む文章を、ドメインごとに機械学習させ、「表現の分類器を作り」、フィルタリングする手法の提案だったようです*2。この研究発表は、立命館大学の情報理工学部および大学院情報理工学研究科の学生と大学教員によって行われたとのことでした。
問題とされたのは、二次創作の小説について、その著者に説明や許諾がなく、研究にサンプルとして小説が使われた「らしい」ことに関する、研究倫理的な点だと思われます。さらに、無断で行った研究内容をPDF文書の形で、小説作品のURLやアカウント名等を含む情報をpixiv外に公開してしまい*3、著者にとって仲間の外には知られたくなかった自分の作品の存在を、外部の人にも知らされてしまったことが、大きな問題として指摘されているようでした。
一時期、同人活動に関わっていた私は、pixivを使っていたことがありました。そういうわけで、少しだけ、自分の視点から見た問題の背景を説明させてください。
二次創作の書き手・描き手にとって、同じ作品ジャンルや趣味の仲間内で二次創作の活動を行い、密かに楽しんでいる人たちが大勢、います。そういった人たちにとって、密かに楽しんでいることに対して、外部の人に知られたくない、外の人たちからすれば「タブー」だったり、一種の踏み込んでほしくない「聖域」だったりするのが、二次創作の作品を含むこうした活動でしょう。
pixivは本来、イラストや漫画といった画像作品の投稿から始まったSNSでした。検索結果の表示について、ユーザーごとにの好まない作品のサムネイル画像が出てこないよう、ユーザーたちから要望が出され、それに開発者がシステムを変えていき、対応していった経緯があったようです。全体公開を選ぶと、pixivにアカウントを持たない人にも見えるため、他のSNSと同じように公開範囲を何段階かに指定できる機能がついていたよいに思います。R-18指定の作品は、まず、pixiv外から見えないようにシステム上、なっているはずです。おそらく、後から追加された文章作品の投稿システムについても、同じように外部には見えないようになっていたと思いますが、しばらく使っていないため、詳しいことは不明です。ごめんなさい。
そういった経緯もあって、私の邪推ですが、二次創作を含む同人活動の文化を知るユーザーと、それになじみのないユーザ―は、pixiv内ですみ分けをしており、交流がなかったと思われます。ある種のゾーニングが機能していた結果、同人活動の二次創作の文化を知らなかったことが、一因かもしれません。
(それはそれで、ゾーニングの目的を果たしているため、適切ではあります)
文化を知らない人による研究発表は、pixivの外部に触れてほしくない「タブー」の存在を知られてしまったと感じ、著者たちが強烈な嫌悪感やパニックにおそわれたとしても、不思議ではありません。それ以上に、著者たちは「自分の作品は有害である(とられかねない)という話の流れで」外部の人たちに知らされたということに、ショックを受けられいているようです*4。
そもそも、pixivによって公開範囲を制限され、他既にフィルタリングされているはずの作品について、研究で扱うには、メンバーの誰かがpixivの会員になっているわけで、利用規約に加え、ユーザーの倫理上、いろいろと問題があるでしょう。
今回の問題は、Twitterを通じて、上記のPDFファイルへのリンクのあるページの載った、次のtogetterまとめ①が回ってきて、私は知ることとなりました。下のツイートに含む、まとめ①のコメントにもありますが、上記の二次創作の活動の「文化」や関わる人たちの心情に関するバックグラウンドを踏まえると、今回、問題となった研究テーマは、情報学と文化人類学や社会学に通じるテーマであり、文系分野的な研究視点も必要であったと、私は認識しました。以上のような考えに基づき、次のようなツイートをしています。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
(立命館大学の)産業社会学部、法学部、文学部等の先生方に、相談しなかったのかな?:
立命館大学の論文がBLを含むpixivのR-18小説を無許可で有害な情報のサンプルとして晒し上げてして炎上 - Togetterまとめ
↑まとめ①:立命館大学の論文がBLを含むpixivのR-18小説を無許可で有害な情報のサンプルとして晒し上げてして炎上 - Togetterまとめ
2017年5月24日の13~14時くらいにした上のツイートの続きです。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
(まとめ①に付けられた)コメントで指摘がありますが、調査対象をサンプルとして扱う際、きちんと著書に許可を取らず、学会の報告や論文として発表しても、それは、学術的に信頼が置けるとは言えない。というのは、(仲見満月が自身の進学した)大学院入ってからの授業で酸っぱく言われました。問題は、理工学部の情報学系のでそういう指導があったか?
「学術的に信頼が置けるとは言えない」というのは、倫理的な観点において、信頼性が欠けるという意味合いです。なお、大学院の授業は、立命館大学の先生によるものではなく、当時、通っていた国公立大学院の文化人類学の先生が、授業で仰っていた内容です。
引き続き、ツイートです。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
立命の先の文系学部は、そのあたり、調査対象の著者に許諾を取る規範はきちんと授業でやるか、二次創作がいろいろとデリケートな分野だと、分かっている人たちは、いると思うんですよ(ここの知り合いの人たちと話した印象の)。あと、映像学部も10年くらい前、できましたし。
このツイート内の言葉は、それぞれ、「ここ」=立命館大学、「話した印象の」=「研究や学術的な話をしていて、きちんと授業で、調査対象の著者に許諾を取るルールの教育はされているという印象を受けた」という意味です。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
少くとも、立命の文系学部や映像学部には、創作に関わるコースもあるので、きちんと学部段階で、著作に関わるルールを教えるべき(だと思うし、きちんと授業で習っているはず)。一方、問題の理工学部の段階から、授業できちんと、研究倫理を教えられているか?そのあたり、共著者になった大学教員は厳しくチェックできていたのか?気になります。
コンピューターサイエンスを含む、院生時代の情報学の同期、院に行っていたプログラマ等の周囲の人の話では、工学部はガチっと専門カリキュラムが組まれているそうです。そのため、文化人類学を含む文系の一般教養科目の学習には、カリキュラム上、しっかり腰を据えて、教育をする時間がとれない現状があるとのこと。そういう事情を分かった上で、私は他の文系学部の専門家の先生、あるいは別学科の先生に詳しい方にお力を借りてもよかったかと、考えました。
今回の案件について、まとめ①に対する反応として、はてなブックマークを読んでいたところ、次のコメントがありました。元pixivユーザーとしての後述する考え、およびpixivのマストドンのサーバーPawoo(パウー)をめぐる状況*5を踏まえて、私は当コメントを引用して、次のようなツイートをしました。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
はてブコメントの" pixiv と共同でゾーニングされるべきものがされてないものを検出するシステムの 研究開発としてやれば燃えなかったろうに。"には、同意。mastodonのpixivが立ち上げたパウーのサーバーでも応用できる技術。
ここまでが、5月25日の日中のツイートです。
2-2.この案件に関する各web上の反応やニュース記事および仲見のコメント(5月25日の夕方以降)
引き続き、断続的に目を配っていたところ、25日の夕方ごろ、次のニュース記事を見つけました:
まとめ①に続き、togetterのほうでもいくつか、まとめたページができていたことに、気づきました。
まとめ②:立命館Pixiv事件、学問の自由が抑圧されるのを憂慮する意見 - Togetterまとめ
まとめ③:「話題になってるpixiv論文の件に関して研究倫理問題に少しだけ詳しい人たちによるまとめ」
まとめ④:【2017.05.25】立命館大学がpixivの公開制限R18作品を「猥褻な文」として無許可で公表した論文について(随時更新) - Togetterまとめ
まとめ⑤:人工知能学会「pixiv論文」 炎上問題まとめのまとめ - Togetterまとめ
調べていたら、「ますだ」の記事にも、今回の案件に関する文章が出ていました:
この案件は現在進行形で進んでいるようです。経過については、まとめ④・⑤をおご覧いただけたらと思います。メディアの「おたぽる」によると、件のPDF文書の執筆者に直撃したそうですが、「問題があったか?」の問いに、「どうなんでしょうね」 人工知能学会大会発表論文の執筆者を直撃! pixiv上のR-18小説に猥褻・有害の「レッテル貼り」で騒動に|おたぽるを読むと、はっきりした答えを得られず、執筆者や学会側からの回答を待っている様子です。
時系列としては前後しますが、ここから各ニュース記事、togetterまとめ、ますだ記事を取り上げつつ、自分のコメントも交えて、今回のことについて、書いていきます。
2-1で、今回の研究テーマは、 情報学と文化人類学や社会学に通じるテーマであり、文系分野的な研究視点も必要であったと、私は認識していたことは既に示しました。
基本的な私のスタンスは、上記のバズフィードのニュース記事、および、まとめ③「話題になってるpixiv論文の件に関して研究倫理問題に少しだけ詳しい人たちによるまとめにある、金田淳子氏のツイートに同意する立場です。その中でも、「文化人類学的な参与観察について相応の配慮が必要だとされているような意味で、同人誌やインターネット上の私人の言動については慎重であるべきだと私は考えます」の一文に尽きると考えました。
加えて、今回、人文科学や社会科学という文系分野の大きなカテゴリーの研究倫理としなかったのは、研究対象や資料を用いる手法、スタンスやアプローチ方法が、細かな分野である文学や歴史学、民俗学、心理学や経済学等によって、はたまた、研究テ-マによって、大きく異なってくるからです。そのあたりの背景や事情は、「ますだ」の記事の二次創作小説を研究目的で引用することは研究倫理に反するかに、調査や研究のプロセスに関する手続きが詳しく書かれていますので、ここでは取り上げません。
確かに、まとめ②「立命館Pixiv事件、学問の自由が抑圧されるのを憂慮する意見」の立場も、そうと言われれば、そういう部分もあります。
ただ、今回の案件について考えると、
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
この増田ダイアリーにあるように、今回の二次創作小説をサンプルに使った研究は、金田淳子氏の言う文化人類学の手法で喩えると、pixiv国の小説県の二次創作村にやって来た研究者が、その特殊な村のしきたりを尊重しなかったケースと言えるかも。村の文化を尊重せず、「炎上」してしまったという。二次創作小説を研究目的で引用することは研究倫理に反するか
特殊なしきたりのある村の研究をするなら、そのしきたりを把握・遵守して敬意を払わないと研究者という存在が嫌われてその村で二度と研究ができなくなる(他の研究を阻害する)って意味で倫理に反すると思う
2017/05/25 20:14
ということが言えるでしょう。以下、仲見満月の連続ツイートをまとめます。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
”特殊なしきたりのある村の研究をするなら、そのしきたりを把握・遵守して敬意を払わないと研究者という存在が嫌われてその村で二度と研究ができなくなる(他の研究を阻害する)"(後略):下手すると、心労と言う意味の現代版「呪い」がかかり、大学に戻ってから重い病に倒れるケースもある模様。
私が学部時代に受講した授業の実例あり。沖縄のある村へ調査に行った民俗学研究者は、よそ者が入ってはいけない宗教的儀礼に、宗教的権威の人の許可なく入って観察。研究者を嫌ったユタによって「呪われ」たのか、調査後、大学に戻ってから熱を出して病気になり、亡くなった話があります。たぶん、この民俗学者は、慣れない沖縄の村へ行き、身体の抵抗力がか弱まったところへ、ユタに「呪い」の儀礼をされて、それを見たか、聞いたかで、精神的なストレスもあって、体調が悪化したのだと解釈できます。
そういう意味では、今回の「炎上」は、現代版の「呪い」が発現した形のひとつと解釈できそうです。タブーをおかし、二次創作村へ分け入ってしまい、宗教的権威者や有力者=二次創作小説の著者に許可なく、作品を研究サンプルに使ってしまい、その結果、「炎上」してしまった、と。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
これって、近い分野で研究をしている私にとっても、他人事ではないし、ブーメラン案件なんですよね。先行研究の扱いひとつとっても、相当、気を使うんです。非常に慎重にならなければ、と改めて認識いたしました。
この記事を書いている時点で、投げたブーメランが頭に刺さっているかもしれません。そのくらい、注意すべきことは、意識していますが、難しさも感じております。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
突き詰めると、創作とはアイデンィティや感情が複雑に絡み、「信仰」になっていく。もっと言うと、突き詰められると「宗教」になるかと。「研究や学問に聖域はあってはならない」という意見も分かる。けれど、「よその人間」が土足で踏み込んではいけない「聖域」って、あると思う。そこに土足でなく、説明をして許しを得る。
そういうことが、最低限の手続きとして、必要だったかと。なお、このツイートは、今回の案件に関して、『悪魔の詩』をめぐる一連の出来事を取り上げてされた「「学問の自由」も「表現の自由」と同様、命がけで戦わないと守れない場合もある、というのは本来は学者の人も覚悟しておくべきことだとは思う」というツイートが、念頭にあります。他の学問もそうですが、新しいものを持ち込んだり、「村の人たち」の「文化」を尊重しなかったりすると、研究者のほうにダメージが来て、衰退することだってあります。次からのツイートには、そういった意味が実際の人類学の本で読み、ドキュメンタリーで見た作品に重ねてあります。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
人類学の話に戻るけど、土足で入れば、よその人間が持ち込んだ病原菌やウイルス、文明の利器で、そこの村の伝統社会が崩壊するのは、聞く話。村人たちが新しいものに適応できず、飢餓感に陥ったり、拒絶反応でパニックになったり、するのは実際にあると思う。適応できなかった村人たちは、新しいものを持ち込んだ人たちに対し、襲いかかることだって、あるかもしれないし、実際にあったとも聞く。
研究するってことは、新しい視点を特殊な村に持ち込み、新たな知見を見出すっていう意味もある。研究は公表されるのを前提とすれば、いずれ特殊な村の人たちも、自分たちがどういった観点から分析され、別の社会に広く研究サンプルとして知らされたのか、情報を得ることはあるでしょう。見方によっては、村人からすると不快に思う人もいるのではないかと。
科学の(繁栄する今の)世界ではあるけれど、倫理とは人間の情緒、信仰から発していることもあるこの現代社会には、やっぱり、宗教的・信仰的な人間の精神的な部分にかかわる「タブー」って、存在すると考えられる。だからこそ、二次創作小説を研究サンプルに使った件では、金田淳子氏が言うように、文化人類学的な手法で、著者に事前の説明や許可の手続きをするべきだったかと。
「炎上」という名の現代版「呪い」が発現することは、文系研究者、それから、このあたりの二次創作のセンシティブなところに詳しい情報学やメディア分野の研究者に確認してもらっていたら、ここまでダメージなかったかな、と見ています。
ここからは、今回の研究が記されたPDF文書がweb上に公開された事情について、および会員数の多い学会に見られる、発表報告の概要文書を共有するシステムの話です。
今回の件は、二次創作小説の著者にコンタクトをとり、その時点で「許可できません」と言われたら、それ以上、学会発表の研究として進めてはいけなかったと思いました。
たとえ、それが査読のつかない、学会大会の発表レジュメ、つまり梗概PDFという学会員には「軽い」ものであったとしても、です。
会員の多い学会の場合、発表内容の要旨やレジュメについて、梗概PDFとしてweb上で共有するケースが増えています。学会のサイトシステム内に梗概PDFを後悔し、IDとパスワードを付与された会員だけがログインして、学会大会の要旨やレジュメのPDFを閲覧する。そういうシステムだったら、web上での秘匿性は、保たれていたかもしれません。
が、最近はPDFの中身は見られなくても、学会大会で行われた発表報告のタイトルや概要が、Ciniiをはじめ、webに広く公開され、研究の情報が共有される方向にあります。
今回の研究の発表内容がどんな形で公開されようと、調査の初期段階で、やっぱり、二次創作小説の著者に然るべき説明と許可の手続きをし、許可が下りなければ、研究を中止すべきだったのでは、ないでしょうか。
特に、同人活動の二次創作界隈のセンシティブさは、あの世界にいないと非常に分かりにくい感覚だと思います。一応、近い場所にいたので私は「タブー」や、おかしてはならない領域は、何となく、察知してました。
そういう意味では、pixivの開発元に連絡を入れ、共同研究としてセンシティブなところも含め、詰めに詰めた打ち合わせをする、と。そういて、例えば、pixivの「成人向け作品」の検索よけや、そういった作品の他のジャンルのユーザーにサムネイルが見えないようにする検索結果の表示システムの効率化など、そういった検索システムの開発方向に関して、腰を据えたプロジェクトにしたほうが、建設的だったのではないか、と思いました。一応、pixivの元ユーザーとしての意見です。
ネット上で大きく騒がれたのは、もひとつ、研究業界と一般の人たちとの間にある、文化の差ではないかと思いました。
PDF文書で発表内容をレジュメとして、アップする学会側の慣習も、文化的に一般の人たちと乖離していて、大きな騒ぎに発展したんじゃないでしょうか。私は、PDFの公開されていたページ、および人工知能学会のサイトの構成より、学会発表でしか使わないと思われるレジュメじゃないのか、と察知しました。実際の詳しいところはわかりません。しかし、あの文書は研究業界(特に理系や一部の社会学系)のコンテクストの分かる人でないと、査読つきの信頼性の高い学術論文の一部に見えてしまっても、しょうがないです。
以前、私が学会発表で使ったレジュメが学会を通じてweb上に公開されていた時、親に発見されて、勘違いされたことがありましたから…。同じ業界にいた親族は、「これ、大学のゼミで使うレジュメと同じ種類で、学会発表向けのものだよ」と分かっていたようですが、親に説明するのは面倒でした。
そういった文化の差もあって、二次創作の著者の方々や、一般の人たちには、「立派な論文に、勝手に取り上げられてしまった」と、深刻にとらえた人もいたのではないでしょうか。
3.情報学の研究に文化人類学的な調査手続きは必要か~むすび~
今回の「立命館pixiv」案件は、全体的に見ると、お互いに文化を知らなかったことが、「炎上」の遠因だと、私は考えました。具体的には、
- (pixiv内の)二次創作を含む同人活動の文化の人と、そうでない文化の人
- 大きな学会大会で使うPDF文書を含む発表レジュメの「軽さ」を知る人と、それが分からない一般の人
ということです。
加えて、私の周りの情報学やっている人やプログラマの人たちには、「情報は(なるべく)公開し、自由にアクセスされるようにしたほうがいい」という考えの人が多いと聞いたことがあります。たしかに、オープンソースという言葉は私も耳にしますし、『文系女子だけど新卒でSEやってます』のしま子氏も、公開されたライブラリを使って、仕事をしようとした場面がありました。
この「情報は(なるべく)オープンにされるべき」という考えは、同人活動の文化圏を特殊な村に例えてお話しましたように、「タブ―」や「聖域」があって、外部の人に土足で踏み込まれたくない部分を持つ人達にとっては、相反するところが存在することになります。だからこそ、タイトルに書きましたように、情報学の研究はテーマによって、文化人類学的な調査の手続きが事前にが必要になってくると、私は考えました。そのあたりのツイートを最後に、まとめておきます。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
ときどき、情報学やコンピューターサイエンスの大学院にいた同期、先に就職したプログラマなどの周りに聞くのが、プログラミングやコンピューターのシステム構築には、どれにもに哲学や思想があるんだそうです。どの範囲で、情報公開をしておくとか、アーカイブをどの日付の更新まで遡って保存するか、とか、開発者は意識的、無意識的に何かしらの考えを持って、システムを作っているというお話です。今回の案件に引きつけて言えることは、pixivをはじめとして、そのシステムを使うユーザーがどういった考えを持ち、どんなことを目的としてそのシステムを使うのか、このあたりが重要そうです。
仲見満月 👻経歴「真っ白」博士 @naka3_3dsuki
そういうわけで、できたら情報学やコンピューターサイエンスの研究者や、開発者の方々で、今回の案件に近いお仕事をされている方々について、個人的に一言:できたら、文化人類学や民俗学、近代史の研究者の人たちの書いた本を読んで頂けたら、幸いです。システムをつくる上で、ヒントになるかと。あと、国会図書館や専門図書館、企業や団体の近代にまつわる資料が含まれているデータベースや、アーカイブのお仕事をされている方には、ぜひ、お読みいただきたいです。
このあたりで、一旦、この案件については区切ります。長々と連続ツイート、失礼いたしました。
調査の手続き上、研究対象の人たちに失礼にならないよう、「マナー」に気を付けるといったら、いいんでしょうか。研究で別の文化圏に踏み入るときは、入れさせてほしい文化圏の人たちに、きちんと説明をした上で、許しをもらうこと。実際に調査でお邪魔する時には、相手の習慣や信仰を遵守し、不快な気持ちにさせないようにして、尊重することが大切だと、先の「ますだ記事」のコメントや、文化人類学の授業で習ったことを復唱させていただきます。
以上、長々と書きましたが、やはり、今回の案件は私にとってブーメランです。何度も登場した情報学やってる人やプログラマの周囲の人たちに、「よく知りもしない領域のことを、知った風に言うな!」と、ときどき、私を叱ります…。事実なので、以後、慎重になろうと思いました。pixivのゾーニングの話ではないですが、すみ分けをして、むやみに違う文化圏に土足で入っていかないことが、衝突を避ける方法の一つでしょう。
最後の最後に、実際のPDF文書をお読みになった方が、業界の人の視点で、今回の件を分析されているツイートについて、togetterまとめができていました。情報学の専門家と思われる方のお話ということで、リンクを貼らせて頂きます。
まとめ⑥:「立命館の「猥褻文フィルタリング論文」問題について思うこと」
最後まで、お読みくださり、ありがとうございました。
4.追記:まとめ②のタイトル修正および内容に関する補足(2017.5.27_0031更新)
読者の方からご連絡を頂き、まとめ②のタイトルを修正させて頂きました。それと、他のまとめを含め、本記事に関する補足をさせて下さい。
まず、著作権のことについて、冒頭でノータッチにすると申し上げました。二度目になりますが、よく分かりません。学会大会のPDF文書に使われた二次創作の小説については、まとめ①冒頭の画像での使用法を見て、サンプルとして分析に使われたものだと推測いたしましたが、現物のPDF文書全体を見たわけではありません。それゆえ、これ以上は判断材料がなく、言うことはできないかと。
今回の案件の決着については、答えを出せませんでした。かわりに、今後、情報学の研究について、近い事例が出てきた時のことを考え、その研究に取り組むであろう人たちに向けて、コメントをまとるに留めました。
どうして、案件の決着について、答えが出せないかというと、私は法律の専門家ではないからです。というのは、法律文章が苦手で、なかなか理解できない。本記ブログで取り上げる大学でのハラスメントや、研究職の内定通知・取り消しといった問題についても、自分にとって分かりやすい事例集の本を読んで、地道に問題を考えていこうとしております。各まとめで様々な方がツイートやコメントをされていらっしゃるように、関係する方々や機関、企業が決着をするには、最終的には法律が必要でしょう。しかし、私は法律関係についてのコメントは、素人なので、コメントは控えます。
言えることは、研究内容に関する責任は、実際に研究を行ったメンバーにあり、大学側、細かく言えば事務側には責任がないように思います。まとめ②の冒頭に挙がっていたツイートで、大学の事務側の決定だけで、今後一切の研究に関する文書を公開しないという回答を、大学の事務長がしたという情報がありました。現時点で学会側が、その会員の作成したPDF文書を一時的に非公開にしているのは、問題が決着するまでの措置として、学会全体の研究水準を考えれば、適切だと思います。しかし、大学の構成員の研究内容に問題が発生したからといって、その内容に関する文書を審議の段階を踏まず、大学の事務側の一存で公開・非公開しないというのは、不適切でないのではないでしょうか。
今後の研究内容を含んだPDF文書については、学会および大学のそれぞれで、委員会を組織して審議を行ったうえで、関係者や企業等と話し合い、処置をどうするか、決定すべきだと思われます。
*1:また、今回は二次創作の著作権に関する作問題にも、タッチしません。
*2:jsai2017:2M2-OS-34a-1 ドメインにより意味が変化する単語に着目した猥褻な表現のフィルタリング
*3:現在、PDFは非公開、おおよその内容は、後述のまとめ①冒頭の画像で一部、確認可能な模様。
*4:【2017.05.25】立命館大学がpixivの公開制限R18作品を「猥褻な文」として無許可で公表した論文について(随時更新) - Togetterまとめをご参照のこと
*5:詳しくは、Pixivのマストドン「Pawoo」、立ち上げて一日ちょっとで電子的に国交を断絶される伝説 - Togetterまとめ、Mastodon開発者とpixivのPawoo、ロリ絵対策について議論する - ITmedia NEWSをご参照のこと。