2016年12月01日
労働委員会事務局
〔別紙〕
命令書詳細
1 当事者の概要
- 申立人組合は、いわゆる合同労組で、東京都豊島区に事務所を有し、本件申立時の組合員数は約250名である。
- 被申立人会社は、東京都千代田区に本社を置き、海上運送事業を営む株式会社で、本件申立時の従業員数は約220名である。
2 事件の概要
被申立人会社の従業員X1は、平成20年4月28日から休暇取得と欠勤を繰り返した後、10月9日から休職に入り、21年4月20日に復職したが、9月28日から再度休職した。
23年11月10日、会社は、X1に対し、会社指定医師の復職可能の診断が出ない限り、就業規則に従い、12月16日の休職期間の満了をもって退職とする旨通知した。
X1は、11月25日、申立人組合に加入し、組合と会社との間で、X1の「解雇問題」について、12月7日に第1回団体交渉が行われ、X1の復職を組合が要求すると、会社は、会社指定医師の診断が必要と述べた。
X1が会社指定医師の診断を受けた後の12月15日に第2回団体交渉が行われ、会社が診断結果により同月16日にX1が退職となる旨を述べると、組合は、合意解約の余地があるとして解決案を提案したが、同月21日、会社は、組合の解決案を拒否した。なお、会社は、同月16日にX1を退職扱いとした。
24年7月13日、第3回団体交渉が行われ、組合は、23年12月の解決案を撤回し、新たな解決案を示す旨述べ、同月20日に新たな解決案を提案したが、8月20日、会社は、組合の提案を拒否した。
本件は、3回の団体交渉における会社の対応が、団体交渉拒否又は支配介入に当たるか否かが争われた事案である。
3 主文の要旨
本件申立てを棄却する。
4 判断の要旨
- 第1回及び第2回の団体交渉経過をみると、まず、(ア)第1回の団体交渉で、X1がY1医師の診断を受けることが合意され、(イ)X1が会社指定の医師であるY1医師と面談した結果、Y1医師は、12月16日の復職は困難であるとの診断を行い、(ウ)この診断に基づいて、会社は、第2回の団体交渉において、X1を12月16日付けで退職とする旨を述べた。これに対して、組合は、解決金として年収5年分相当額の支払を提案したが、会社は、12月21日に、組合の解決案は受け入れられない旨を回答した。
ここまでの経緯をみると、会社は、労使合意に基づいて、X1をY1医師に受診させ、その結果を踏まえて同人を退職とする旨を述べたのであって、結果として、組合の提出した主治医による診断を採用しなかったものではあるが、その対応に問題があるとまではいえない。
- そして、第3回の団体交渉では、組合が、12月16日付で解雇とする旨の会社の判断は早すぎたのではないか、X1の病気の原因は会社にあると考えているので一言謝罪してほしい、訴訟も準備しているなどと述べたのに対して、会社は、X1の病気は、気の毒であるが、その原因が会社にあるとは考えていないなどと述べ、組合は、23年12月の解決金5年分の要求は撤回し、近く円満解決に向けた具体案を示す旨を述べた。組合は、7月20日、(ア)X1の21年度年収を基準として、解決金3か年相当分、(イ)19年の仕事納め社内懇親会における元社長の暴言について、解決合意書中に謝罪の意を盛りこむことを解決案として提案したが、会社は、8月20日、いずれも拒否する旨を回答した。
以上の経過をみれば、組合は、X1の病気の原因は会社にあると考えている旨の主張をしたものの、これを否定する会社の回答に具体的な反論を行うことなく解決案の提案を行い、これを会社が拒否したのであるから、会社の対応が不誠実であったということはできない。
- 組合は、会社が、(ア)パワーハラスメントや職場における嫌がらせをきちんと調査せず、働く環境を正常にするという、使用者として当然のことを行わなかった、(イ)X1の職場環境改善の求めを無視し、かつその事情を説明しなかったと主張するが、交渉経過に照らすと、組合が、これらのことについて、明確に説明を要求したものとはみられないから、このことをもって、会社の団体交渉における対応が不誠実であったということはできない。
また、組合は、会社が、最初に結論を決め、交渉においては何らの譲歩をしようともしなかったとも主張するが、後記5)のとおり、会社が、当初からX1の排除の意思を固めていたとみることはできないのであるから、組合の主張は採用することができない。
なお、組合は、Y1医師が団体交渉において産業医と紹介されていたことを問題としているが、そのことに問題がないとはいえないものの、そのことをもって、会社の団体交渉における対応全体が不誠実であったとまでいうことはできない。
- 以上のとおり、3回の団体交渉における会社の対応が不誠実であるとはいえず、会社は、交渉を打ち切る姿勢を示しているわけでもないのであるから、会社の対応が、団体交渉拒否に当たるということはできない。
- 組合は、Y1医師の診断以前に、会社がX1を排除する意思を固めており、それを既定路線として、根拠を欠いたY1医師の診断を使ってX1を「解雇」した上で交渉に臨んでいたとも主張するので、以下、この点について検討する。
1) 会社は、Y1医師の診断以前にX1を排除する意思を固めていたとの点について
交渉経過に照らせば、会社は、労使合意に基づいて、X1をY1医師に受診させ、その結果を踏まえて同人を退職とする旨を決定したものといえる。
そして、後記イのとおり、Y1医師の診断が根拠を欠いているということはできないのであるから、会社が、Y1医師の診断結果を受けてX1が復職不能と判断したとの事実の流れが、不自然であるということはできない。
組合は、X1が会社に提出した6月12日付文書に記載されていたパワーハラスメントの事実を会社が無視するために、X1の排除を決めていたとも主張するようである。確かに、会社は、Y1医師の助言に従って、上記文書に回答をしなかったが、会社は、これらに対する調査を行っており、会社の調査の結果では、パワーハラスメントの事実は、確認できなかったものであるから、パワーハラスメントの事実がなかったと断定はできないとしても、会社が、パワーハラスメントの事実をあえて無視しようとしていたとまでいうことはできない。
また、組合は、Y1医師が、X1を診断する3か月前にZ医師に接触し、「産業医」と「偽って」X1の病状を聞いていたことを問題とする。Y1医師が会社の「産業医」であると名乗ったとすれば、問題であるといえるが、Y1医師が産業医と名乗ったかどうかまでは、明らかではない。そして、Y1医師は、休職中のX1の取扱いについて会社から相談を受けたことからZ医師に連絡したものであって、それは、主としてX1の病状を確認するためのものであったとみるのが自然であるから、Y1医師が、X1を排除する意図をもって、X1に不利な材料を集めるためにZ医師に連絡したとまでいうことはできない。
さらに、組合が主張するとおり、Y2総務部長がX1にY1医師と面談するよう要請した際に、休職期間満了日をX1に告知しなかったのは事実であるが、会社は、休職期間満了日を明記した文書を直ちに送付している。そして、組合が主張するとおり、会社は、X1に対し、23年11月29日付けで退職金支払手続に関する書類を送付しているが、これは、退職金支払手続を委託している生命保険会社との関係で手続が間に合わなくなるおそれがあったためであったとみられる。
したがって、会社が、Y1医師の診断以前にX1を排除する意思を固めていたということはできない。
なお、組合は、例年10月に送られてくる年末税務申告の書類が、23年10月には送られなかったことを問題視する。会社は、この点について何ら反論をしておらず、その理由は明らかでないが、この事実をもって、会社が、X1を排除する意思を固めていた証左であるとまでいうことはできない。
2) Y1医師の診断が根拠を欠いているとの点について
Y1医師の診断は、主治医であるZ医師の診断と異なる点を除いて、それが根拠を欠くとまでみられる事実は認められない。
そして、Z医師の診断については、組合の団体交渉の発言等からみて、Z医師の診断が、Y1医師の診断を覆すに足りる根拠をもつということはできない。
したがって、Y1医師の診断が根拠を欠いているということはできない。
3) 会社が、X1に退職金の受取を促すことによって、同人が退職を承認したという事実を作り出そうとしているとの点について
確かに、会社が、X1に退職金の受取を求めた事実は認められるが、24年7月13日に行われた第3回団体交渉の席上、X2副委員長が、退職金の受取について、「・・・それはもらったから離職を納得したんだというふうなことでもないしという意味です。だから、受け取ってもよいしどうでもいいと言ったの、僕は。」などと述べ、Y3弁護士が、「・・・(退職金を)受け取ったからといって解雇を認めるなんて私が思うなんてことは。」と応じて、結局、退職金の受取について、組合から近日中に返答することとなったのであるから、会社が、X1に退職金の受取を促すことによって、X1が退職を承認したという事実を作り出そうとしたものとみることはできない。
- 上記のとおり、Y1医師の診断以前に、会社がX1の「解雇」の意思を固めており、それを既定路線として、交渉に臨んでいたものとみることはできないから、この点からも、会社の対応が不誠実であったということはできない。
- また、組合は、一切の譲歩意思を示さない会社の態度は、組合の運営に対する支配介入に当たるとも主張するが、会社は、2度にわたる組合の解決提案について、これを受け入れることはできない旨を回答したにすぎず、その後も、団体交渉以外にも、非公式の事務折衝が行われ、合意を模索していることをみれば、会社が、あえて組合の提案を受け入れないことによって、組合の影響力を削ぐ意図を持っていたものということはできない。
したがって、組合の主張は、採用することができない。
5 命令交付の経過
- 申立年月日
平成24年11月5日
- 公益委員会議の合議
平成28年11月1日
- 命令交付日
平成28年12月1日