エリー運河は1817年に構想されたインフラストラクチャ・プロジェクトです。

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アメリカは欧州からの移民により発展した国ですが、それらの移民はボストン、ニューヨーク、フィラデルフィアなど東部の沿岸部に先ず入植しました。

これらのアメリカ東部の都市はアパラチア山脈によって中西部と分断されていました。アメリカは「西へ、西へ」と開拓を進めるわけですが、アパラチア山脈が邪魔して東部と西部は経済的に分断されていたのです。

ニューヨークのハドソン川は北のアルバニーに伸びています。そこから西へ向かう経路だけが、アパラチア山脈に邪魔されない、平坦なルートでした。だからそこへ運河を掘る計画が持ち上がりました。アルバニーから、五大湖のひとつであるエリー湖に面するバッファローまで、延長584キロの運河が構想されたのです。

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エリー湖とハドソン川は172メートルの水位差があります。そこで幾つもの水門を設け、水位差を克服する工夫がなされました。

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この運河は1826年に開通しました。

この運河の開通は、アメリカの経済を大きく変えました。

まず東部ですが、運河開通前のニューヨークは、後背地に乏しく、市場へのアクセスが不十分でした。だからライバルのフィラデルフィアの後塵を拝していたのです。しかしエリー運河の開通でシカゴなど中西部の都市とのつながりが出来ると、ニューヨークが表玄関になりました。

それまで1トン当たり100ドルかかっていた輸送コストは、運河の開通で1トン当たり8ドルに下がりました。このため運河はすぐに大繁盛しました。ニューヨーク州の予算の3分の2が運河の通航料で賄われました。

中西部からニューヨークへ、小麦などの穀物、材木などがもたらされました。逆にニューヨークからは衣料品、家具、その他の製品が中西部に運ばれました。

こうして商業が大いに発展したのです。

エリー運河沿いにはロチェスターのような新しい都市が生まれました。またシカゴが穀物の集積地として栄え、新しい富が生まれました。

中西部の産物がニューヨークに届き、逆にニューヨークの物品が中西部に届けられるようになると、これまで消費者が目にした事の無いそれらの商品を宣伝するため広告ブームが起きました。

その一方で運河が出来たことで「時代の変化のペースが激し過ぎる」という批判が出ました。それまでの、ゆっくりした「生き方」が脅かされたのです。

また新しい裕福層が生まれ、格差社会が助長されたと感じた市民も居ました。彼らは「牧歌的なユートピアが破壊された」と不満を表明しました。

実際、エリー運河が開通して数年も経たないうちに運河はボートで埋め尽くされ、交通渋滞になりました。そこで拡張工事により運河の幅を二倍にすることが計画されました。しかし拡張工事が終わったすぐ後に、また直ぐ運河はボートで混雑し、さらに拡張する必要が出ました。

1890年代になると鉄道網が整備され、運河は時代遅れになりました。

インフラストラクチャが出来たことでボートを曳くロバとそれを操る御者が必要になったほか、水門を操作するエンジニア、ボートがもたらす旅行者に対しモノを売る業者、運河の労働者を相手にする酒場や女郎屋などが出来ました。

運河を軸として発想を転換することが出来た人は裕福層の仲間入りをしました。


中西部の農家は穀物をニューヨークへ出荷できるようになり、有利な値段で作物を売れるようになりました。

ニューヨークでは中西部の消費市場向けに洋服、革製品、機械などを作るマニュファクチャリングが盛んになりました。商取引の決済、金融業も盛んになりました。

ニューヨークが商業の中心の座を獲得し、フィラデルフィアの影は薄くなりました。

このようにインフラストラクチャが整備されたことで新しいビジネス・チャンスが生まれ、初期投資は何倍ものリターンを生んだし、新しい生き方、社会変革が起きたのです。

ひるがえってこんにちの状況を見ると、インターネットの登場は、しばしば運河や鉄道と比較されます。インターネット・インフラストラクチャの整備が、新しいビジネス・チャンスやライフスタイル、さらに社会変革をもたらしているのです。

インターネット・インフラストラクチャを軸として、「それを自分の収入にどう生かす?」ということを考えた人が勝ち組になるのです。

たとえばグーグルやアマゾンは、我々にとってコモン(共有)インフラストラクチャと化しています。毎月、グーグルやアマゾンからあなたのところへ入金がありますか?

もしこれらのネット企業からあなたが売上高を得ていなければ、あなたは折角のインフラストラクチャを受動的な消費者として使っているだけで、能動的にマネタイズしていないことになります。

能動的にマネタイズしようとしている例は、我々の回りに、ごろごろ転がっています。

たとえば、これなんかもその一例ではないでしょうか?



新しい生き方に関する本もいろいろ出始めています。



これなども、その例かもしれません。



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