一般社会でも目にする機会が増えたロボットの中でも、『アトム』のように、人間に類似したロボットを「アンドロイド」と呼ぶ。鋼の肉体をシリコン製の皮膚で覆ったその姿は、まるでSF世界の登場人物だ。
このアンドロイドの開発者として知られるのが、大阪大学の石黒浩教授だ。'14年には、世界的権威のある科学雑誌『Science』の表紙を本人と「イシグロイド」のツーショットで飾り話題となった。表紙に顔写真が使用されることが少ない同誌では異例のことである。
石黒は小学校教師の父、幼稚園教諭の母の間に生まれた。小学生の頃、周りの大人に「人の気持ちを考えろ」と言われ、逆に人の気持ちがわかるものなのかと驚いた。気持ちとは? 意識とは? その問いが今のアンドロイド研究につながる。
「対話を通じて、相手の『気持ち』を理解できるアンドロイドを目指して開発しました。そのためには、まず話しかけたくなる見た目をしたアンドロイドであることが重要です。
めっちゃ怖いおっさんと、かわいい女性、どちらに話しかけたいですか? 答えは明らかですよね」
23歳の日本人女性という設定のアンドロイドの「エリカ」は、実在の三十数人の美女をモデルとし、美容整形の知見も取り入れ、CG合成で造形された。
「かわいいですね」と声をかけると、エリカは頬を緩め、相づちを打ちながら「お世辞だとわかっていても、嬉しいです」と返してくれる。こちらの言葉を音声認識し、的確に答えることができるのだ。
ただし、エリカとの対話は人間とまったく同じように進むわけではない。彼女の話を途中で遮らないように注意しなければいけないし、対話のテーマも限定される。
しかし、ロボットであっても、コミュニケーションにはルールが必要だというのが石黒の考えだ。
「人間だって来たことない場所で、会ったこともない人の前で『さあ、しゃべれ』と言われたらできませんよね。
ところが、そんな無茶なことがロボットには要求されがちです。人間の会話がそうであるように、ロボットだって状況を限定すれば、現在の技術でも人間とリアルな対話をすることは可能です」
一方、意思疎通を手助けするロボットの研究にも石黒は取り組んでいる。卓上サイズのCommU(コミュー)だ。このロボットは、自閉症の子どもたちが通う発達障害専門の病院で活躍しているという。
「緘黙といって、言語能力には問題がなくてもまったく話さないか、特定の場面でしか話さない症状を持つ子にキーボードを渡して、コミューを通じて話せるようにすると、ニコニコしてキーボードを打ちます。
人の表情の変化に不安を感じる子もロボットが相手なら気にならないし、自分の代わりにロボットが話してくれれば、言葉を発するプレッシャーも感じないで済む」