「ヒデオ」と「ウィル子」ができるまで。
- 2017/05/26
- 14:05
そういえば作品解説なんてカテゴリを作ったのでした。
じゃあ何を解説するかという話なのですが・・・。
あんにゅ4巻でめでたくヒデオとウィル子が再登場したことでもありますし、いま明かそう二人の制作秘話を!(解説ではない)
全ての始まりはSIMPLEシリーズの『THE 推理』に登場したウイルス的なマスコットキャラクターに影響を受け、そのような話を考えたことでした。
人格を持ったウィルスの女の子が、マスコットなアンチウィルスソフトから逃げ回りながらドタバタするような構想だったように思われますが、例のごとくかっちりとしたプロットがないのでそんな感じ。
以下残ってた10余年前のテキストから抜粋。
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『電脳封印ウィル子』
全てのケーブルは全てに通じる。――あるハッカーの言葉
現代よりやや未来。
電話やテレビなどの通信と呼べる全てが、インフラ整備のおかげで総合端末(シンサシス・ターミナル)と呼ばれる高性能パソコンでまかなわれるようになった日本。
また電子教育法により義務教育現場にも一人一台の電子端末が用意され、SSSという国家資格も生まれている。
*登場人物
主人公(村川ヒデオ)
激萌えハァハァ画像を集めて自殺(萌え死)するためにハッカーを志すアレな青年だが、全財産をつぎ込んで買ってきたPCがすでにウィル子に感染していたというお粗末君。
ウィル子21(Will.Co21)
超愉快型(自分が)超絶極悪感染ウィルス。超ワガママ。電脳で生き、画面の中で人間のように振舞う。
増殖はしないのだが、生活空間確保の名目でとにかくハードディスク容量を食う。
住み飽きたり住み心地が悪いと通信回線を通って別なパソコンに引越し(感染)する。
住んでいた痕跡は残さず、消したデータも戻ってこないあたりが極悪かつオカルト。
アンダーグラウンド世界では封印された姫(シールドプリンセス)の符号で、電子オカルトの一種として時々話題に上がっている。通称「姫」。
(対電霊用に開発されたウイルス。ネット世界から漏れ出した電霊を一般世界のウイルスと呼ぶなら、ウィル子はそれを食べるウイルス。吸血鬼を食べる吸血鬼のような感じ)
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いま見ると完全にパイロット版ですね。(ニッコリ
ヒデオの名字が微妙に違ったり、自殺を志してはいるけど動機がアレな辺りなんか、特にそれを感じます。電子オカルトのくだりなどはレイセンで使おうとしていたように思いますが、今これを見るまでとんと忘れていました。
これは歴代のどの担当にも見せていないような制作資料というかアイデア書き、要は厨二ノートですが、こういうものは結構あります。ほとんどは黒歴史のまま日の目を見ないのですが、お金にならずともこういうものを書き溜めておくと何かの拍子にキャラクターや設定なんかが、ひょっこり何かの作品に使用できるわけです。いわゆる「引き出し」というやつです。
京子先生が言ってたような気がしますが、作家になりたい人はなんでもいいから書きましょう。なんでもいいのです。黒歴史でも設定集でも冒頭だけでも場面だけでも、いつか役に立ちます。そして何を書いたか以上に、「頭の中のものを言葉としてまとめる」という行程自体が重要なので、とりあえず思い付いた端から書いてみてください。
あとプロットを作れないとか作りたくない人は、上のメモくらいあればもう書き始めてオッケーです。実際マスラヲの開始は突貫だったので資料として残っているのはこれくらいのもので、あとは書きながら設定を詰めていきました。
話を戻しまして。
この「電脳封印ウィル子」自体は私自身パソコンやネットにそんな詳しいわけでもなく(カーネルとかダンプとか本職の友だちに聞いてみたけどよくわからない)、その後詳しいエピソードも思いつかなかったのですが、オリガミが終わって本誌連載の枠を取ってもらったという段になって『闘神都市』をモデルにした舞台で、こうした戦いようのないキャラを主人公にしたああいう物語になっていきました。
以下はヒデオとウィル子の実際の余話とか雑感です。
川村ヒデオ:
川村ヒデオという名前は、どこにでもいそうなオーソドックな名前ながら実在の人にかぶらないように、ということと、その上で「ヒデオ」という字面が『荒くれNIGHT』のヒデオ(野口英男)というキャラが好きで、目に馴染んでいたのでそうしました。
「トモアキ」という名前がゲームの名前入力でよく使っていて自分で違和感がなかったような感じです。
前述の設定もあり、大会に参加する動機付けとして、もう後がない崖っぷちのヒキコモリとなりました。また、その理由として目付きが悪い、という後に武器にもなる個性が付与されることになります。
そのことについて、私は担当に「ゴルゴ13が『……』のセリフの裏で『死のう……』とか思ってたら面白いでしょ?」と熱心に説明したのですがいまいち理解してもらえず、なので上田さんのイラストも当初のラフなんかは割と表情豊かな感じでした。
等身大のキャラクターとして、コミュ力の低さや引っ込み思案な良くない部分は自分の悪い部分を大袈裟に面白おかしく、良い部分は理想とする人間性をそのまま付与しました。自著では初の男主人公だったこともあり、そうして清濁とも無理なく描けたのが良かったのかなと振り返ってみて思います。
あんにゅでもちらほら登場してきましたが、やはりヒデオの視点になると抜群に書きやすいです。長い付き合いなので書き慣れている部分もあるかとは思いますが。
ウィル子:
Will.CO21で、Coがどちらも大文字に変更される。理由は・・・忘れました。
フォントの高さが揃っている方が見た目がいいとかそんな感じかもしれません。
名前はそのままウィルス→ウィル子(うぃるす)。茄子(なす)。
セーラーヴィーナスの愛野美奈子(愛のビーナス)と同じような感じです。
名前に関連してはもう一つ、おでこのマークは上田さんがウィル子→ウィルコムから着想された由が本誌の特集だったか何だったかで触れられていたと思って今探したのですが記事が見つけられませんでした。
あれー・・・?(行方不明の号がちらほらある)
まあともかくそんなようなお話だったはずです。確か。
本人は極悪と悪ぶっていたものの、蓋を開けてみれば拙著の中でもトップクラスの素直な良い子に。
完全にヒデオの影響ですね。
01分解能力のおかげで設定上はかなりの万能チートキャラのはずなのですが、ヒデオがブレーキ役になっているのと、もっと局所的に尖った無茶苦茶なキャラ(なんでも見える、なんでも食べられる、存在を操作する、闇そのもの、etc等他)がたくさんいるので能力的にはあまり目立たない感じです。
妹のように見ているヒデオの視点もあり、実は作中で一番色気のない女の子キャラだと個人的に思っているのですが、どうでしょう。
そんな二人が今後、あんにゅでどのように活躍していくのか?
それを一番知りたいのは・・・私なのかもしれません。(いつものこと)