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仕組みとアイディアで「やさしいものづくり」を実現する!3Dayプリンターが描く3Dプリントの未来は?

 

クリスアンダーソンのMAKERSという本がある。21世紀のもの作りのムーブメントについて語られているものだ。そこに、こんな一節がある。

 

現代のもの作りに「場所」はますます無関係になりつつある

—場所よりも、アイデアが重要なのだ。

 

 

3Dプリンターと呼ばれる機器が登場した1980年代以降、技術革新は着実に進み、2000年代には、企業だけでなく個人でも3Dプリンターを導入するムーブメントが起きた。

3Dプリンターやレーザーカッターを始めとするデジタルファブリケーションの価格が下がったことにより、もの作りにおける障壁は取り払われつつある。

 

しかしながら、現在、まだまだ一般的に3Dプリンターが社会に溶け込んでいる状態であるは言い切れず、3Dデータの作成や機材の使い方などのハードルが残っている。

 

通常の2D印刷機であれば、紙面に文字や画像を印刷しようが、大きな手間はかからない。一方、3Dプリンターは物理的な制約が多く、造形方法や素材によって適切な3Dプリントデータを用意しなければならい。2D印刷とは、使用目的もルールも大きく異なる。

 

そんな中、写真を送るだけで3Dプリンターによって造形されたモデルが届くというサービスが存在する。「3Dayプリンター」では短納期で3Dプリントを提供し、かつ専門知識不要で利用できる。初心者にとって身近なサービスを目指している。

 

「3Dayプリンター」とは

3Dayプリンター」は、X人の株式会社が提供する3Dプリントサービスである。3Dプリントを利用したいユーザーは専用のソフトやデータを用意せずとも、写真やイラストから実際のモデルをカタチにしてくれる。

サービス名の通り、データ入稿から最短で3日ほどで届くところが最大の特徴だが、それを実現している方法が非常にユニークだ。3Dayプリンターは自社で機材を保有しておらず、企業・団体が所有する産業用3Dプリンター機材の空き稼働時を利用して3Dプリントを届ける。

通常、3Dプリントするには長い時間を要するため、案件数が増えるほどコストと納期を保つのが難しい。しかし本サービスでは、この問題をシェアリングエコノミーの発想で解決している。

3Dプリントの工程の作業に時間を掛けない分、顧客とのディレクションや製品企画に力を入れることができる。

他にも、ダジャレ交じりの3Dプリントのサンプル品を提供したり、ARを使って3Dモデルを確認するサービスなども展開。顧客と3Dプリント事業者の間にある障壁を”仕組み”と”テクノロジー”で取り除くことをミッションとしている。

 

X人の株式会社の共同創業者の内野 博之氏と、WEBデザイナーの東 信俉氏は今後のサービスの展望について以下のように語られている。

 

取締役副社長 内野博之(Uchino Hiroyuki)

1991年大阪府生まれ。2013年大阪府立大学農学部卒。前職では中小企業の営業コンサルを担当。100人中3位というギリギリ自慢できる営業成績を残した後に退社。その後、代表濱中とX人の株式会社を設立。

 

内野 サービスを手がける上で大切にしていることは大きく2つです。

・「初心者に優しいものづくり」を提供すること

・多くのアイデアを形にし「クリエイターにとっての武器商人」という存在になること

ここ近年、あらゆるものづくりの機械が身近に使えるようになりました。しかし、アイデアを形にするプロセスで、どの機材を使ってそれを作るのが最適なのかを考えることが、ユーザーにとって大きな負担になっていると感じます。できるだけクリエイターは企画とアイディアに専念してほしいなと考えています。

3Dデータを作成する無料ソフトもありますが、やっぱりイチから使いこなすのは難しいですね。3Dデータ作成は、”ギターで言うFコード”のような厄介な存在だと思います。ギター触ったことないんですけどね。

また、”3Dデータがないと3Dプリントができない”ことを知らない人もいます。そこで、入り口をわかりやすくするために、「写真から3Dプリント」、「イラストから3Dプリント」といった専門用語を極力減らすなど、言葉使いを徹底的に気をつけるような施策も行なっています。

あと、どこの会社よりも制作事例が多く費用感も分かりやすく出しています。

 

− 写真やイラストでの発注を受けてから、サービスとしてデータ作成と3Dプリントしている訳ですが、データ作成の部分はどのように行われているのでしょうか?

 

内野 データ作成は、難しくないものであれば、基本、弊社内で行なっています。機械系では、国内の設計デザイナーなどに依頼をしています。

CGやアニメーション系に関しては海外のデザイナーにアウトソーシングしています。国内の3Dデザインの単価は1つのモデルで数十万円になる場合もありますが、一方、北欧や東南アジアあたりの3Dデザイナーは、CG技術が比較的高いのにも関わらず、日本での単価を大きく下回るケースが多々あります。デザイナーの得意分野に合わせて、適したデザイナーに案件を依頼していますね。

最近ですと、モデリーという3Dデータ作成専門の事業もリリースしました。こちらは、3Dデータ作成における相談を気軽にチャットで行えるようにしています。

 

− 3Dプリントの部分はどのように行われているのでしょうか?

 

内野 サービスの仕組みとしては、全国にある非稼働時の機材を使っています。本来、素早い試作製造の手段として使われる3Dプリンターですが、1つのモデルの造形に半日は平気でかかってしまいます。

順次配送ですと案件が増えると1週間待ちとかになってしまいますが、私たちのサービスでモデルの特徴上、比較的スムーズに3Dプリントを提供できるのです。3Dayプリンターには、全国で約150社のパートナーがいて、300台以上のプリンターを把握しているので、どこかしら絶対空いているといった状況です。納期と案件数の水準を、クラウドによる仕組みで担保しています。

また、3Dプリンター本体も進行形で進化しており、特許が切れた関係から機種や素材も急速でアップデートされるようになりました。こういった背景から、自社内で機材を構えない方針にしました。

サービスの主な仕事内容としましては、ユーザーから受けた案件を、1番最適な形で納品することを心がけています。一般的な買い物と違い、そもそもユーザー自身が3Dプリントという商品を知らないケースが多いです。

作りたいもの・納期・コストについてヒアリングし、自社内で貯めている独自のナレッジを元にベースに1番適した工場に振り分けるようにしています。3Dプリント品だけですと、同一素材のものしか作れませんので、守備範囲を広げるために、後加工やアッセンブリ(組み立て)などの前後の工程に力を入れています。最近ですと、マイコンを使って動いたり反応するモノを小ロットで作れないかと考えています。

 現時点では、一般的なクラウドソーシングとは違って、ディレクション面で弊社スタッフが間に入るようにしています。それは、複数の工場や海外デザイナーとのディレクションになると、顧客と工場のみで完結型するマッチングは難しいかなと感じたからです。

 

−「 3Dayプリンター」を運営するX人の株式会社として、どのような方針で事業を取り組まれているのか、教えてください。

 

内野 個人的に、写真やラフスケッチを送るだけで実際のモデルがカタチになるというところに魅力を感じています。私たちは、その工程をスムーズにし、ものづくりにおけるインターフェースをキレイにしたいと思っております。

その一環として、AR確認サービスというものも始めました。今まで3Dプリントをする際に、3DデータはPCでしか確認できず、サイズ感や場の雰囲気が分からないという問題がありました。

それを解決すべく、ARのアプリを活用してスマートフォンのカメラ越しにARマーカーの印刷された用紙を見てもらい、実寸大で把握してもらいます。このように、既存の他テクノロジーを組み合わせることによって、3Dプリントの依頼をキレイに流れるように行い、不安を払拭しました。

※AR確認サービスについて詳細はこちらから

 

 

 

WEBデザイナー 東 信伍(Azuma Shingo)

※1991年広島県生まれ。2014年広島大学経済学部卒業後、(株)ネクスト(現・株式会社LIFULL)にWEBデザイナーとして従事。その後、X人の株式会社に転職。主に、WEBサービスのデザイン・開発・運用を担当している。火に弱い。

主な作品:
「引っ越し祝いに大きめのエジプト神像を送り付けられたのでラズパイを仕込んで喋れるようにした
http://qiita.com/sngazm/items/c27b7745fb68139213c2
「バーチャルろくろシステム”Roquro”」
(https://www.youtube.com/watch?v=Ol2KRbkios)
個人のポートフォリオサイト(http://sngazm.info/)

 

− X人の株式会社としては、どのようなフェーズにあるとお考えですか?

 

 3Dプリントのマーケット全体としてシステム化といったエンジニアリングの部分が重要だと思うのですが、私たちとしては3Dプリンターの価値を再構築しているところです。

近年、製造分野とは関係のない企業が3Dプリンター市場に参入していますが、弊社としてはそもそも3Dプリンターにはどんなニーズや可能性があるのかを日々考えています。

自社で受けた案件の数が増えるたびに、肌感覚として市場の動向を掴みつつあります。そして、可能性のあると感じた分野に対してどこよりも早く新規サービスを世に出すようにしています。

また、ユーザーからアイディアをもらったり提案されたりして共同事業として始まるケースもあります。

我々の会社は、他の業界の人を巻き込んで大きく成長していくフェーズだと思います。漫画のキングダムで言うと17巻あたりですね。キングダムを読んだことはないのですが。

 

− 今のところ、3Dプリントを依頼する人の反応はいかがでしょうか?

 

 作り手の熱量によって、出来上がるもののクオリティは違ってくるように感じます。こだわりは、最終成果物のクオリティに比例すると感じます。

例えば、知り合いに「俺はコスプレが大好きなんだ。このコスプレの小道具を3Dプリントでハイクオリティで作って売りたい!あと女性のコスプレイヤーと仲良くなりたい!」と連呼している30代の男性がいます。彼の商品は、製品の品質、販売用の写真、説明文章、パッケージ面にまでこだわり、実際に製品として売れているそうです。

こうした事例を見ると、今後は大企業が出すマス向けの製品でなく、個人が出す狂気的な製品が作りやすくなるのではないでしょうか?

そういった様々な「作りたい」に「3Dayプリンター」で応えて行く中で、多くのクリエイターから相談が集めやすくなっています。ものづくりにおける”こだわり”という部分を軽視しないことが、3Dプリント事業において大事な要素なのではないでしょうか?

 

 

 


余談:猫の手レンタルサービス


3Dプリンターというまだまだハードルが高いものを、独自の切り口でオープンにしていくX人の株式会社。

運営しているサービスの中に、こんなサービスがある。猫の手も借りたい人のために猫の手を貸すというサービスだ。

 

 

猫の手も借りたいアナタに。「3Dキャット」

※詳細はこちらから

 

 

− 業界初の猫の手レンタルサービス。こちらはどのようなサービスでしょうか?

 

内野 3Dプリントした猫の手をレンタルできる、「猫の手も借りたい」という人向けのくだらないサービスです(笑)弊社代表の思いつきと趣味でやっています。

 

 ビジネスとしての合理性は一切ないですけどね。

 

内野 尖ったレンタルサービスが出たということで、日経MJに取り上げられました。新聞に掲載されたにも関わらず、お問い合わせはゼロ件。猫の手を借りたい人はいないようです。

ただ、このように市場がないものや合理的でないものを、リアルの製品として簡単に出せるというところは3Dプリンターの魅力かなと思います。世の中、何が当たるか分かりませんし。

 

 

X人の株式会社

HP:http://xnin-group.com/

サービスサイト:

「3Dayプリンター」https://3day-printer.com/

「モデリー」https://3d-modely.com/

「作る、造る、創る」
わたしたちは、3Dプリンターを通じて、世の中のメイカーがコンテンツやプロダクトをつくることを支援する会社です。3Dとインターネットを使って、新しいモノづくりにチャレンジしています。
今よりも、もっと便利に面白い社会の実現へ!デジタルファブリケーションを活用した新しいサービスを展開していきます。

by
芝浦工業大学卒。在学中は建築学専攻。 在学中には大学広報冊子の編集長を勤めながら、インターンでWeb系の新規事業に携わり、その中でスタートアップ・ベンチャーの魅力を知る。 より多くの人にその魅力を発信するために、取材活動に取り組んでいる。
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