“同和奨学金”全額返還命じる
経済的に困窮する被差別部落の子どもたちのため、大阪市が実質的に返還を免除していた奨学金を一転して返すよう求めたことが妥当かどうかが争われた裁判で、大阪地方裁判所は、「当時の条例に返還免除の規定はなかった」として、市が請求した奨学金全額の返還を命じました。
大阪市は、長年、同和対策事業の一環として、高校や大学の進学者向けの奨学金制度を設け、実質的に返還を免除し、差別の解消を目的とする国の特別法が平成13年度末で期限切れになった後も、独自の施策として制度を続けてきましたが、「返還の免除には根拠法令がない」などとして、平成22年になってから奨学金を返すよう求めました。
対象は186人で、300万円近くを請求された人もいて、このうち17人は、「返す必要がないと思っていたのにあとになって返せというのは納得できない」として応じず、市が、裁判を起こしていました
26日の判決で、大阪地方裁判所の柴田義明裁判長は、「当時の条例には、奨学金の返還を免除するという規定はない。当時の市の職員がそのような説明をした可能性はあるが、職員は市を代表するものではない」として、市が請求した全額、1人あたり最大で300万円近くを市に返すよう命じました。
市から訴えられていた37歳の男性は、判決のあと記者会見し、「判決を聞いて言葉を失った。この奨学金のおかげで自分の将来が広がったことは間違いないが、後で決めた条件で返還を求めるのはおかしい。あまりにも理不尽だ」と述べました。
また、訴えられていた女性は、「当時は返さなくていいと言ったのに、今になって何百万円も求められても払えない。家庭でも職場でも被差別部落の出身と明かしていないのに、巨額の返済を求められたら、差別が残る中で何を言われるか分からないという恐怖感もある」と述べました。
代理人の弁護士によりますと、17人は、全員が控訴する考えだということです。
一方、大阪市の吉村市長は、記者団に対し、「返還を免除するのはどうなのかという監査の指摘を受けて作った条例に基づき返還請求している。市の主張が認められた妥当な判断だ」と述べました。